艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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イベントを終え、随分疲弊しました。
青葉との進水日カッコカリはかないませんでした。

本編をどうぞ


第二七話 胎動する闇

真夜中のショートランド島の南西、ラルゴムビーチと名付けられた浜辺には揚陸艦「ディエップ」から先遣隊の隊員を載せて発進した複合艇六隻が着岸し、海兵隊員が次々にビーチに降り立つ。

四方にM8ライフルを持った海兵隊員が展開し、警戒に当たると程なく全員が「クリア」と報告し合う。

上陸地点を確保した海兵隊員は、主力部隊に上陸してよしの信号を「ディエップ」に送った。

信号を受け取った「ディエップ」から海兵隊員を満載したMV22Dオスプレイが飛行甲板から発艦した。

更にウェルドックのハッチが開くと水陸両用の装甲戦闘車EFV(遠征戦闘車)や、ハンヴィー、トラックなどの車輛を載せたLCAC(エアクッション揚陸艇)二隻も発進する。

EFV四両が砂浜の上で停車すると、後部ハッチから海兵隊員が次々に降り、ビーチングしたLCACから車輛が誘導員に誘導されながら降ろされる。

海兵隊が橋頭保を築きあげるのはすぐに終わった。

 

 

「上陸部隊より入電、『我、LZ(上陸地点)を確保。これより基地施設制圧に出る』です」

海兵隊の上陸成功の一報は「アルバトロス」にも届いた。

戦闘配食を食べたFICの要員は既に仕事に戻っており、上陸成功の一方に安堵の息を吐いていた。

報告を聞いていた磯口も軽くため息を吐いて、上陸自体はとりあえず成功だが、制圧するまでがこの上陸作戦の完了だ、と自分に言い聞かせた。

「基地施設の方は彼らに任せ、我々はこの海域の警戒監視だ。

警戒部隊の状況は?」

磯口に尋ねられた作戦参謀はタブレット端末を手に、上げられている状況を答える。

「現在の所、敵艦影無しで、ガード・ドックの広域レーダーにも反応なしとの事です。

ただし、ガード・ドック曰く羅針盤障害がまだ強い為、深海の増援に注意せよと言う通告が来ています。

警戒監視の第二陣となる第三三戦隊は蒼月が戦闘不能の為、臨時に川内、夕立を編入して警戒監視に当たらせます」

「了解した、連中の出撃時刻は?」

「マルヒトサンゴー(〇一:三五)を予定しています」

それを聞いて腕時計を見る。

「あと三〇分か」

「現在、ウェルドックで出撃準備中との事です」

「ちゃんと飯は食ってるだろうな?」

「それなのですが、愛鷹がなかなか食べようとしないと」

その言葉に磯口は怪訝な表情を浮かべた。

 

アイツの頭の中はちょいちょい変わってると思っていたが、飯も食わないとはどこまで変わってるんだ?

散々ボコボコにしてくれたス級を近接攻撃で単独で撃沈してしまうあたり、よほど訳の分からん奴にも見えなくはないが。

 

 

ふとウェルドックから愛鷹の姿が見えなくなってしまったので、探しに出た夕張は腕時計を見て出撃まであと三〇分も無い事に気が付いた。

「こんな時にどこに行ったって言うのよ」

困った上官だ、と思いながらふと外を探していないと思い至った。

ラッタルと呼ばれる急な階段を上り、ハッチから「アルバトロス」の飛行甲板に出る。

広い甲板を見渡すと、艦尾から細い煙が上がっているのが見えた。

「あそこか」

姿が見えないが、おそらくキャットウォークにいるのだろう。

艦尾へと走っていき、キャットウォークへ降りる階段を降り、角を曲がると海を眺めながら葉巻を吸っている愛鷹がいた。

「愛鷹さん、ここにいましたか。

随分探したんですよ、急にいなくなっちゃうから。

葉巻吸うなら吸いに行くって言ってくださいよ」

「すいません」

こちらを見返さず、海を見つめながら愛鷹は謝った。

その言葉はどこか重く、海を見る目もどこかもっと遠いものを見ている目だ。

何より、いつもと比べて何故かひどく疲れている様にも見えた。

どうしてそう見えるのか、自分でも説明が付かないが、人間、疲れるものだからな、と自分を納得させる。

「ウェルドックに戻り」

「夕張さん、あなたはある日突然、勝手に涙が溢れた事はありますか?」

「え?」

こちらを見ずに尋ねて来る愛鷹に、どうしたのと返したくなるも腕を組み、軽く考え込む。

「状況を絞り込む条件は?」

「……そうですね、戦闘中にです」

そう返されて、考えてみるがそんな記憶はない。

泣いたことがあるかなんて、いちいち覚えている暇が無かったからかもしれないが、覚えている範囲では無い。

「無いと思います」

「そう、ですか」

やはりこちらを見返さないまま愛鷹は短く返した。

どうしたんだろうと夕張はさっきの考えを思い返した。

「どうかしたんですか?」

「いえ、何でもありません。

先に行ってて下さい……もう少し、一人でいたいです……」

こちらを振り向かずに告げる愛鷹の言葉通り、夕張は戻る事にした。

「五分前行動は忘れないでくださいね」

そう言って夕張はウェルドックに戻った。

 

 

ウェルドックでは川内、深雪、夕立が自分たちの艤装の最終点検を済ませ、手近なモノに座って談笑していた。

そこへ作業員に呼ばれてドックを離れていた衣笠が戻って来た。

「ただいま」

「おかえり衣笠、何の用事だったの?」

「さっきラバウルから連絡があってさ、青葉、日本に帰っちゃったって」

「は、青葉だけ先に? 何で」

「日本で治療を受けるんじゃないかしら。

詳しく教えてくれなかったのよ」

「なんだそれ、妹にも教えずに帰っちまったのかよ」

眉間にしわを寄せる深雪だが、川内はそうではないだろうと思った。

「多分、教えられない事情があるんだよ。

妹思いのあいつが無断で帰ったりはしないよ。

落ち込むことじゃないさ、衣笠」

「お、落ち込んでなんかないわよ。

ちょっと心配になっただけ」

頬を膨らませて衣笠は川内に返す。

強気のくせに、青葉のことになると急に弱くなったりする。

青葉にとっては世話が焼ける妹だろうな、と深雪は胸中で苦笑を浮かべた。

「ところで愛鷹さん、まだっぽい?」

ふと思い出したように夕立が尋ねる。

ウェルドックで準備中に、気が付けばいないので夕張が探しに行ったが、まだ戻って来ない。

深雪が腕時計を見ると出撃まであと一五分程度だ。

アイツの事だからもう来るだろう、と思っているとウェルドックに入るハッチが開いた。

来たか、と思いハッチを見るが入って来たのは夕張だけで、愛鷹の姿は無い。

「あれ、愛鷹とは一緒じゃないの?」

不思議そうに聞く川内に夕張は上を指さした。

「艦尾のキャットウォークで一服中」

「一服って何してるの」

葉巻をよく吸っている愛鷹の事は、あまり知らない夕立が首をかしげる。

「あいつ、葉巻吸うのが好きなんだ。

葉巻吸って一休み中、ってとこだろ」

「深雪の言う通りよ……ちょっと、一人になりたいんだって」

「どうかしたのかな」

不思議そうな顔になる衣笠だが、以前愛鷹から聞かされた過去の話を思い出すと、そんな気分になりたくなるのもおかしくないか、と納得させた。

「疲れてるんでしょ、きっと」

そう答える夕張に川内が腕を組んで頷く。

「夜戦には休みも必要だよ。

一息つけば、夜戦に集中できるって」

「夜戦馬鹿だねえ、川内って」

毎度のことだとは言え呆れ半分に衣笠が苦笑を浮かべる。

とは言え、夜戦に川内がめっぽう強いのは確かだ。

馬鹿は馬鹿でも性格まで馬鹿でもない。

怒らせるとこの上なく恐ろしいが、面倒見がいいから慕う駆逐艦はかなりいる。

頼れる姉御肌だ。

かつて深雪も川内に雷撃の指導をしてもらった事があるだけに、縁も深かった。

自分の魚雷発射管を見た深雪は、補充された魚雷と並んで装填されている魚雷を軽く撫でた。

今日、川内から貰った魚雷だ。

「いざという時の、御守りだ」

 

暫くしてウェルドックに愛鷹が戻って来た。

口数が少なくなった彼女に夕立が「どうしたっぽい?」と尋ねるが、大丈夫です、と愛鷹は曖昧に返しただけだった。

 

艤装を装備した臨時編成の第三三戦隊が「アルバトロス」から出撃した時、ショートランド島から砲声が聞こえた。

機銃を連射する音も聞こえる。

「何?」

身を強張らせて警戒心を強める夕張に、愛鷹が答えた。

「海兵隊が基地施設にいた砲台小鬼二体と交戦中の模様です」

「勝てるのか?」

「海兵隊の装備でも砲台くらいは制圧できますよ。

私達は水上警戒に集中しましょう」

深雪に返した愛鷹は機関部に増速をかけた。

 

 

「撃って来た、二時方向!」

「こちら2-2、足止めされたままだ。このままでは進めない!」

砲台小鬼からの攻撃を受けた海兵隊の先遣隊の報告を受け、M1A3エイブラムス戦車四両の戦車小隊を伴った海兵隊一個中隊が駆けつける。

四両の戦車が夜間照準装置で砲台小鬼一基に照準を合わせる。

一戸建ての家並みのサイズが砲台小鬼だが、動きは意外と素早い。

森の陰に隠れることがあるが、熱源探知装置(サーマルスコープ)で追跡は可能だ。

(ブラック6-1より各車、小隊データリンク。

射撃管制をこちらに任せろ)

(ガンナー、二時方向、弾種HEAT弾(成形炸薬弾)装填!)

(装填よし)

(撃てーっ!)

海兵隊のM1戦車四両からの砲撃に砲台小鬼が横にステップして回避する。

しかし、回避した先にEFVが三〇ミリ機関砲を五点バースト射撃で撃ち込み、海兵隊員も小銃や軽機関銃で銃弾を撃ち込む。

激しい攻撃をかわした砲台小鬼が砲弾を一発放つ。

「砲撃が来ます!」

海兵隊員の一人が叫んだ時、ハンヴィー二台と周りにいた海兵隊員の傍に砲弾が着弾して吹き飛ばす。

「くそ、シエラ2がやられた」

負傷し、呻く仲間を引きづって海兵隊員の一部が後退する。

「サーモバリックのロケット弾を見舞ってやれ!」

燃料気化弾頭のロケット弾が砲台小鬼二基に撃ち込まれると、派手な爆発が起きて動きが鈍る。

「よし、化け物の動きが鈍った、行けるぞ」

「ブラック6、お見舞いしろ」

(了解、攻撃する)

動きが鈍った砲台小鬼に戦車が砲撃を浴びせると、砲台小鬼は動きを止めた。

「今だ、GO、GO、GO!」

「撃てぇーっ!」

ハンヴィーやEFV、戦車が機関銃や主砲を撃ちながら砲台小鬼に迫る。

激しい攻撃を受ける砲台小鬼には成す術がない。

「突っ込め、化け物を踏み潰せ!」

激しい砲撃の雨を受けていた砲台小鬼が突如、激しく燃え上がった。

「後退、後退!

野郎、自分を火葬しやがった」

「撃ち方止め、化け物どもはこれでくたばったか?」

「ドローンの偵察結果じゃ、これだけです」

「よし、マリーンズ(海兵隊)、基地を制圧するぞ。

動くものは撃て」

「Oohrah (ウーラ)!」

 

 

第三三戦隊がウェルドックから出て「アルバトロス」の右舷に出た時、深雪の視界に何かが映った。

一瞬だが、海面に白い物が見えたのだ。

警戒しろと伝えようとした時、白い航跡が二つ見え、ソナーに高速で航行するスクリューの音も聞こえた。

「右舷に雷跡! 方位一-八-〇。

射線上に愛鷹!」

叫んだ時には遅かった。

すでに愛鷹の五メートル手前に魚雷は迫っていた。

「ダメだ間に合わない!」

続航する衣笠が叫び、目を瞑ったが爆発は起きなかった。

大丈夫だった? と目を開けた時、愛鷹の艤装が目の前に迫っていた。

「危ない」

今度こそ目を瞑った直後、愛鷹の艤装に衣笠は衝突した。

尻餅をついた衣笠の視線の先で仰向けに倒れた愛鷹が起き上がっていた。

「ごめん愛鷹さん」

「いえ、衣笠さんこそ。

今の攻撃はどこから……潜水艦か」

「電探で水上警戒を探しましょう」

電探での警戒を提案する衣笠に愛鷹は首を横に振った。

「いえ、もし敵艦がいたらこちらの位置を知られます。

川内さん、夕張さん、夕立さん、深雪さん、対潜警戒を厳に」

「了解」

「衣笠さん、ソナーの調子は」

「問題なし」

「二人で敵潜を探りましょう」

「了解」

二人がパッシブソナーを起動させて海中の深海棲艦の探査を始めた時、愛鷹のソナーに魚雷を発射する音が聞こえた。

「突発音、魚雷発射音探知。

方位一-七-五、敵針二-〇-七、敵速四七ノット、数二」

「川内に向かってる!」

「回避するよ!」

「全員、夜間のため視界不良です、衝突に注意」

雲が多く、視界があまりよくない。

寄りにもよってこんな時に雲が出て来るとは。雨になる予報ではないのが救いか。

「潜水艦がこの海域に?」

「敵拠点の防衛に何隻かはいるでしょうね」

顔を強張らせる衣笠に返しつつ、ソナーで探知を行っていると、推進音が聞こえた。

「ソナーに感あり、数は……二。

方位一-七-〇、速力五ノット、敵針二-九-三、深度約二五メートル」

「了解、そっちに行くぜ」

攻撃に向かう深雪からの返事に頷きかけた時、別の推進音が聞こえた。

新たな潜水艦、と思ったがヘッドセットから聞こえてくる推進音は潜水艦のモノではなかった。

「巡洋艦、ツ級三隻、駆逐艦ロ級三隻、ソナーにて探知。

拙い、深雪さん今すぐ離脱を!」

叫ぶようにヘッドセットに吹き込んだ時、深雪のいる方で爆発音が轟いた。

ぎょっとして視線をそちらに向けると、夕張の焦りを滲ませた声が上がった。

「深雪被弾! 状況不明!」

「深雪さん! 状況報告、単に喋るだけでいいですから応答を」

ヘッドセットからは空電ノイズだけが返って来る。

傍らの衣笠が息を呑むのが聞こえた。

「どうしました?」

「電探から深雪の反応が……」

直ぐに自分のレーダー表示を見て愛鷹は慄然とした。

画面には深雪のシグナルが映っていない。

「夕張さんと夕立さんは深雪さんの状況確認を。

川内さん、衣笠さんは私と一緒に敵艦隊迎撃。

総員、夜間対水上戦闘用意。ウェポンズフリー」

「了解」

 

増速をかけた四人が行動を起こし一方で、「アルバトロス」艦内では総員戦闘配置のアラームが鳴り響き、乗員が部署へと駆けだしていた。

 

夜間のため視界が不明瞭なので目視照準はやり辛い。

射撃レーダー連動射撃で深海棲艦の艦隊を迎撃するしかない。

レーダー表示を確認し射撃の構えをとる。

「敵艦隊コンタクト、方位一-九-五、敵速二七ノット。

軽巡三隻、駆逐艦三隻」

「ガード・ドックにもっといるか聞いてみましょうよ」

装提案する衣笠に愛鷹は首を振った。

川内が変わって応えた。

「ビンゴ・ヒューエル(燃料切れ)で、ガード・ドックは帰投済みだよ、衣笠」

「あ、そうだった」

「私達でやるしかありません」

離れたところで砲撃の音が聞こえて来た。夕立の一二・七センチ主砲の砲声だ。

その砲声をバックにヘッドセットから夕張の報告が入る。

(深雪発見、中破して航行不能。意識はあります。

夕立が現在牽制攻撃で敵艦隊を抑えています)

「了解、援護しますので二人は深雪さんを連れて緊急離脱して下さい」

(こちら夕立、お客さんが来たっぽい)

口を挟んできた夕立の言葉通り、レーダーに新たな反応が出る。

「増援か、こんな時に」

レーダー画面を見た川内が悪態じみた口調になる。

敵はリ級三隻と駆逐艦三隻。深雪を奇襲した艦隊と同方位から出てきている。

恐らくショートランド防衛部隊の残党だろう。

数で押されてしまう。

こちらも応援を呼ぶしかない。

「『アルバトロス』、こちら愛鷹。敵艦一二隻を捕捉、我が方深雪一隻が被弾戦闘不能。

深雪の受け入れと増援を要請します」

ヘッドセットに吹き込むと「アルバトロス」から信じられない返事が返る。

(ダメだ、増援は出せない。本艦はこれより同海域を一時離脱し『ディエップ』防衛に当たる。

そちらは深雪を防衛しつつ遅滞戦闘を展開せよ)

「怪我人を抱えたまま戦えと⁉」

(本艦がやられたらそちらはおろか、『ディエップ』も危ない。

本艦が安全圏に離脱次第、可能な限りの増援を送る、以上)

そう告げると「アルバトロス」の通信員は通信を切ってしまった。

「あ、待って! 切られた」

「どうするんですか」

尋ねて来る衣笠に川内は当然のごとく返した。

「夜戦だよ、夜戦。

時間を稼げと言うなら、稼ぐしかないよ」

「仕方が無い。深雪さんを防衛しつつ深海棲艦の足止めを行います。

夕張さん、夕立さんは深雪さんと共に私と衣笠さん、川内さんの後ろに」

「了解」

暗闇から発砲炎と閃光が何回も瞬く。

それをバックに左腕と頭から血を流す深雪を抱えた夕張と夕立が現れ、愛鷹とすれ違った。

「深雪さんの容態は?」

尋ねてきた愛鷹に、深雪がいたそうでありながらぎこちない笑みを浮かべて親指を立てた。

ホッとしたのも束の間、砲撃の雨が愛鷹達の周りに落ちて水柱を上げ始めた。

暗闇にうっすらと深海棲艦のシルエットが見え、そこから発砲の閃光が幾度も瞬く。

「衣笠さん、川内さん、続いてください」

「了解」

敵艦隊の位置はこちらの左手

軽巡三隻と駆逐艦三隻の艦隊は砲撃を行いながら、こちらの頭を抑えにかかっている。

頭を抑えられる前に抑え返すだ。

先頭の軽巡を叩けば進撃を遅らせられる。

「左砲戦、軽巡三隻を含む艦隊を先に排除します。

まず先頭の旗艦を潰し、敵の進行を送らせた後、軽巡は私が相手しますから二人は駆逐艦を」

「了解」

そう指示すると主砲の射撃トリガーを掴み、射撃管制をレーダー連動に切り替える。

「方位一-七-二、敵針、的速変わらず。

第二、 第三主砲、左対水上戦闘、弾種徹甲弾、撃ちー方始め。

てぇーっ!」

三連装三一センチ主砲が夜陰にまばゆい閃光と砲炎を走らせる。

撃ち出された主砲弾が暗闇の中赤く光りながら敵軽巡の元へと飛翔し、一〇秒と立たずに着弾した。

初弾命中とは行かないが相当な至近弾となっており、軽巡は姿勢を崩しながらなんとか航行を続ける。

そこへ衣笠と川内からの砲撃が浴びせられ、複数の水柱が軽巡の周囲に立ち上がる。

発砲炎から愛鷹達の位置を割り出した深海棲艦艦隊は、三人に集中砲火を浴びせる。

軽巡ツ級三隻の砲撃が愛鷹達に容赦なく降り注ぐが、先に直撃弾を出したのは愛鷹だった。

第二主砲から放たれた徹甲弾が狙った通り先頭のツ級を直撃すると、爆発の閃光と共に艤装が爆砕され破片や部品が飛び散り、本体も炎に包まれ果てる。

旗艦の轟沈に僚艦の五隻が動揺を浮かべつつも砲撃を続けるが、轟沈した旗艦を避けるために進路を変更した際に愛鷹達に丁字を描かれてしまっていた。

「敵艦捕捉、全艦主砲砲撃はじめ。

撃ちー方始め、てぇーっ!」

砲撃指示を出す愛鷹の三一センチ主砲に続き、衣笠の二〇・三センチ、川内の一四センチ主砲が一斉に砲撃を開始する。

速攻で三一センチ主砲弾の直撃を受けたツ級一隻が一瞬で撃破、轟沈する一方、川内の砲撃が駆逐艦一隻を捉える。

間断なく撃ち込まれる砲弾を数発受けた駆逐艦が炎上し始めてもがくが、懸命に主砲を撃ち返し川内の周囲に着弾の水柱を突き立てる。

だが被弾が響いて狙いが悪い。

川内は特にかわす軌道を取ることもなく駆逐艦に止めを刺した。

ツ級と交戦していた衣笠の砲撃が三斉射でツ級を捉えると、ツ級の主砲塔一基が粉砕される。

火力の低下したツ級は残る主砲で衣笠に反撃の砲撃を浴びせるが、回避運動をとる衣笠には当たらない。

そこへ愛鷹からの牽制射撃が横槍を入れ、ツ級の気が逸れる。

「隙あり!」

貰ったと衣笠が発射トリガーを引き主砲を撃つと砲弾がツ級を捉え、爆発炎上の炎を上げる。

暗闇の中松明と化したツ級に偶然愛鷹が照らし出されると、後続のリ級三隻が愛鷹に集中砲火を浴びせた。

刀を引き抜きつつ回避機動を取りながらリ級の一隻に狙いをつけて第一主砲を撃つ。

三発の三一センチ主砲弾が着弾の水柱をリ級の左舷側に突き上げて、リ級の姿勢を崩す。

態勢を立て直したリ級が反撃の砲火を愛鷹に浴びせるが、冷静に弾道を見極めながら回避をし、第二主砲で攻撃する。

第二主砲の砲弾がリ級を挟叉し、狙いが付いたことを悟ったリ級が回避運動を取ろうとした直前、第一主砲の第二弾が直撃していた。

轟音と共に吹き飛び、火達磨になるリ級を尻目に残る二隻が愛鷹に砲火を浴びせ続ける。

一方三隻の駆逐艦は軽巡艦隊の駆逐艦を相手にする川内と衣笠に向かい、すでに交戦する仲間へ援護射撃を始める。

二人の周囲に狙いの確かな砲撃が着弾し始める。

回避機動を取りながら川内は四連装魚雷発射管二基を構えると、駆逐艦に八本の魚雷を全弾発射した。

魚雷接近を見た駆逐艦が回避運動を取り始めるが、二隻が直撃を受けて撃沈される。

残る三隻は魚雷を躱すと反撃にそれぞれ二発ずつの魚雷を発射した。

「敵駆逐艦魚雷発射……誰を狙ってるの?」

駆逐艦三隻が発射した魚雷六発の狙いが一瞬分からず衣笠が呟いた時、川内が警告を発した。

「愛鷹さん、警戒! 魚雷六発が向かってるよ」

「了解」

全弾が愛鷹に向けられていた。

 

深海棲艦が愛鷹さんを最大の脅威と見ている?

 

魚雷を放った後転進する駆逐艦に砲撃を行いながら衣笠が思った時、愛鷹が被弾した。

 

 

間一髪で防護機能の展開が間に合ったとはいえ、衝撃で姿勢が崩れた。

リ級は砲撃が弾かれたものの、体制が崩れたのを見るとさらに砲撃の密度を高めた。

刀で弾き飛ばしながら反撃の砲撃を行いたいものの、撃ってもリ級はやすやすと躱していく。

かなりの手練れの様だ、flagship級だろう。

「悪くない」

そう呟きながらリ級に照準を合わせた時、つま先のソナーが接近する魚雷の航走音を聞きつた。

舌打ち交じりに射撃の構えをいったん解き、迫る魚雷を躱す。

海面とリ級の両方に目を配りながら、被弾しないよう回避運動を取る。

「さらにもう少し、食いつかせて……」

魚雷を躱し、主砲を構えると砲撃しながら高速で迫るリ級に照準を合わせる。

その時、かわしていなかった魚雷一発が、愛鷹から三メートルと離れていない所で爆発した。

爆発の衝撃を受けて今度こそ、姿勢を大きく崩す。

片足に破片が当たって痛みが走り、思わず片膝をついた時、リ級一隻が目の前にいた。

主砲を持つ腕で愛鷹の顔を殴りつける。

目から火花が散ったが二撃目はどうにか刀で受け止められた。

重巡とは思えない怪力で押しにかかるが、愛鷹の方こそ見た目に似合わず怪力なのをリ級は知らない。

態勢を立て直した愛鷹がリ級を押し返し、距離を取ると弱装薬の主砲弾を至近距離で撃ち込んだ。

爆発四散するリ級の向こうで形勢不利を悟ったリ級が後退し始めるが、そこへ駆逐艦を始末した衣笠と川内の砲撃が行われた。

離脱を図るリ級だったが程なく直撃弾数発を受けて撃沈された。

「これで全部かしら」

足の傷口に応急処置をしながら愛鷹が呟いた時、レーダーが敵艦捕捉の電子音を立てる。

戦艦ル級二隻と駆逐艦四隻だ、流石にこれは分が悪い。

ヘッドセットのマイクを掴んで後退を指示しようとした時、別の通信が入って来た。

 

(こちら戦艦USSサウスダコタ、愛鷹聞こえるか?

ワシントン、フレッチャー、ジョンストンと共に愛鷹隊援護に入る)

サウスダコタ……「ディエップ」の護衛についていた北米艦隊第六七任務部隊の戦艦艦娘だ。

「USSサウスダコタ、ディス・イズ・愛鷹。貴隊の援護に感謝します」

(ノー・サンキュー)

(なにワシントンが返事してるのよ)

(私が返事して悪いとでもいうの)

別の声が返事をするとサウスダコタが口をとがらせた。

相手は仲の悪いワシントンの様だ。

こんな時に喧嘩しないで、と思ったが(喧嘩は後にしましょう)と育ちの良さそうな声が仲裁に入って来た。

フレッチャー級駆逐艦娘のフレッチャーだろう。

彼女の仲裁の後、二人の砲撃がル級に向かって行われ始めたので、愛鷹はほっと溜息を吐いた。

衣笠と川内に合流し、第六七任務部隊に続くとサウスダコタ、ワシントンの二人の手でル級は早くも中破に追い込まれて劣勢に追い込まれていた。

時々互いを睨みながら、サウスダコタとワシントンは一六インチ三連装主砲のレーダー射撃でル級へ有効弾を送り込み続ける。

ル級も主砲を撃ち返すが、先手を取られた上に正確な射撃が直撃し続けているだけに、上手く応戦できない。

一撃で戦闘不能にまで追い込まれないのはル級の戦艦ならではだが、戦闘能力は確実にそがれる。

それでも損壊を免れた主砲でサウスダコタ、ワシントンに撃ち返す。

二人は余裕顔でル級の砲撃を躱すと、数倍返しの砲撃をル級に叩きつけた。

そのル級を庇う様に駆逐艦ロ級四隻が前に出るが、フレッチャーとジョンストンが前に出て相手をした。

「行きますよ、ジョンストン」

「任せて、フレッチャー」

二人は魚雷発射管を構えるとロ級四隻からの砲撃を、最大戦速を維持して回避運動で躱し、ロ級に肉薄する。

「Torpedo Salvo!」

フレッチャーの号令を合図に、二人は五連装魚雷発射管から魚雷を放ち、一気に離脱を図る。

一〇発の魚雷を接近に駆逐艦が慌てて回避運動を取るが、濃密かつ正確な魚雷攻撃に三隻が瞬く間に被雷する。

直撃を受けて炎上し始める僚艦をおいて残る一隻が逃走するが、二人は主砲で攻撃しながら追撃する。

「逃がさないわよ」

ジョンストンが五インチ単装主砲を連射し、フレッチャーも同じく五インチ砲の速射を浴びせる。

周囲に次々に突き立てられる水柱から必死に逃れようとするロ級だったが、逃げ切れずフレッチャー、ジョンストンからの直撃弾数発で撃沈された。

「仕事が早くて何より」

安堵のため息を吐きながら呟くと、深雪の元へ向かった。

 

絆創膏をべたべた貼った状態の深雪は怪我で消耗している様だが、意識はしっかりしていた。

心配顔で寄ってきた愛鷹に、血の滲む絆創膏を貼りつけた頭を向けた深雪は手を上げて、にっと笑った。

「わりい、前に出すぎたぜ。深雪様としたことがなあ」

「傷が深くなさそうで何よりです」

「結構痛いけどな。

まあ、痛みを感じられているのは生きてるって意味になるから、悪くないよ」

心の痛みにも、そう言えますか? そう尋ねたくなる気持ちを抑え愛鷹は今度こそ、「アルバトロス」への収容を要請した。

許可が出て、ほっと溜息を吐いていると衣笠が良かったですね、という様に肩を叩いた。

「夜戦、もう終わりかあ」

「良いパーティだったっぽい?」

「まだ消化不良かな」

まだ戦い足りなさそうな顔の川内と夕立だが、愛鷹は冗談じゃない、と思った。

「深雪さんが負傷した状態で、これ以上戦闘継続するわけにはいかないです」

「分かってるよ、油断慢心傲慢は危ないからね」

思わず強めの口調になる愛鷹に、苦笑を浮かべて川内は頷いた。

まだ喧嘩をするサウスダコタ、ワシントンと間に入るフレッチャー、ジョンストンらと共に合流すると一同は「アルバトロス」に戻った。

 

艤装を返却し、諸々の後片付けを済ませると医務室に行って、足のけがの手当てを受ける。

痛みの割には大したけがではなく、三〇分程度の治療で医務室から解放された。

自室に戻ると制帽を脱ぎ、ネクタイを外し、上着を脱いでベッドに腰掛けると、疲れがどっと溢れて来た。

「疲れた……」

深い溜息を吐きながら靴を脱ぎ、そのままベッドに横になる。

大型艦なだけに揺れが少なく、静かな居住区の寝心地はとてもいい。

「次は……どこへ行くのかな……」

目を閉じながら呟く。

残された自分の余命は一年余り。

その余命の中、自分は生き続けるのだ。

自分の為に、自分を見放した者たちに自分が生きていることを見せつける「復讐」をする為に

ふと、大和の事が気になった。

あれだけ憎悪しておきながら気になるとは、自分でも信じられないくらい不思議だ。

「やはり……赦しなのかな」

それは生まれてから自分には受け入れがたいものだったはず。

しかし、それを望み始めている自分がいるような気がした。

私は、一体何をあいつに望んでいると言うの? あいつの死? あいつからの贖罪? あいつからの……。

「愛……?」

口に出しながら愛と言う言葉にどうかしていると考え、馬鹿馬鹿しくなって来た。

「寝よう」

制服のまま毛布にくるまって愛鷹は深い眠りに落ちた。

 

 

ショートランド島ではかつての基地施設を調べる海兵隊員たちがあちこちで「クリア」と一声を上げていた。

空爆や深海棲艦の基地化の影響で随分荒れてしまったが、工兵隊を投入すればすぐに再建できるだろう。

「化け物ども、いつものごとく何も残さず消えやがったな」

指揮所を置くEFVで制圧完了の報告がすべて入ると、上陸部隊の指揮官は安堵のため息を吐いた。

銃声が一発も響くことなく、基地設備の奪還は完了した。

砲台小鬼との戦闘で一七名の海兵隊員が戦死し、六名が負傷したがそれ以上の犠牲者は出る事は無かった。

「『ディエップ』に伝えろ。化け物どもは消えた、ショートランドはこっちのモンになったってな」

「アイ・サー」

「ついでに土産になるモンはいつものごとく何もねえ、だ」

 

 

「『ディエップ』より入電。上陸部隊はショートランド制圧に成功す」

通信士官の弾んだ声の報告にFICでは歓喜の声がはじけた。

ハイタッチする者、ガッツポーズをとる者、安堵の息を深々と吐く者。

磯口も終わったな、と溜息を吐くとFICの要員に聞こえる声で告げた。

「作戦の終了を宣言する。全員よくやった、ショートランドは我が手に戻った」

そして俺の軍人生活も、これでお終いだ。

部下の命を消耗するのがオレの仕事のようだった自分が自らに課す、新しい世代を育てる余生だった。

「日本に帰る前に霞の慰霊碑に花を手向けなくてはな……戦争が終わったら、アイツを引きとってやりたかったが」

深海棲艦の陸上部への攻撃で家族を失っていた霞に、その事を結局伝える事は出来なかった。

死んだ娘と重ねすぎていたのだろう。

「疲れたな……俺も歳だ」

 

 

翌日「アルバトロス」はラバウルへの帰路へ着いた。

入れ替えに北米艦隊とオセアニア連合方面隊からなる艦隊や、基地再整備の増援部隊がショートランドに進出し、拠点としての再建が始まった。

 

 

ショートランドが奪還されたニュースは日本にも届いた。

基地中がそのニュースに沸く中、大淀は一人沈んでいた。

先の対潜警戒中に負った傷は仁淀を何度もあの世に送りかけており、大淀はすっかり憔悴しきっていた。

特に大淀を打ちのめしたのは、仁淀がロシニョール病を発症した事だった。

レベル1の段階なので抑制剤を取与することで重症化は防げるが、いつ悪化して行ってもおかしくはない難病だ。

比叡の再発は既に知れ渡っており、金剛がまだ入院中で戻っておらず、頼りの姉妹もいない為、彼女の抱えるストレスもかなりのモノだった。

武本は気持ちの整理をつかせる為と、病気の悪化を防ぐために比叡に特別休暇を与えたが、部屋にいてもすることが無いと比叡は首を横に振っていた。

今は仁淀の事で頭がいっぱいの大淀の仕事を代行していた。

廊下で比叡とすれ違う度、大淀は謝り続け、比叡に止められた。

互いに姉妹を持つ者同士だが、異なるのは比叡が妹で、大淀が姉と言う立場だ。

意見の食い違いも存在したが、比叡は自身の持病を気にした様子も無く、自分の相談や話し相手になってくれた。

しかし、大淀には比叡の顔が病に侵されたものになりつつあるのが分かっていた。

痛まれない気持ちになる日々が、続いていた。

もし、仁淀が死んじゃったら、私はまた独りぼっち……。

 

「大淀よ、お主加減は?」

ふと自分を呼ぶ声に気が付き顔を上げると、心配そうに利根が自分の顔を覗き込んでいた。

知らない内に病院の食堂のテーブルで寝込んでいた。

「利根さん、すいません。どうかされたんですか」

「筑摩がしくじりおってな、被弾して今手当を受け取る。

何心配はいらん、駆逐艦の弾が当たったくらいだ」

こちらに気を使ってなのか、妹の筑摩のけがは大したものではないと語る利根に「それは、良かったです」と力無く返した。

「仁淀とは面会できたのか?」

そう尋ねて来た利根に大淀はゆっくりと頭を振った。

「そうか……辛いの。お主も最近、休めておらんようだな」

自分の顔を見つめる利根の言葉が胸に来る。実際その通りである。

「非力じゃが、相談があればいつでも乗るぞ」

「ありがとうございます。

少し部屋に戻って休んできます」

「仁淀が退院した時、お主がやつれきっていてはあやつは悲しくなる。

絶望はまだ早い」

「はい」

 

利根はああいってくれたが、それでも自分の中に立ち込める重い空気は晴れない。

難病に罹ってしまったら、今の段階では完治は不可能だ。

なぜこんなことになったんだろう。

重い足取りで宿舎に向かう。

「大淀少佐でありますか?」

急に背後から声をかけられ、振り返ると准尉の階級章をつけた男性が立っていた。

「はい、そうですが」

「自分は国連海軍直轄艦隊付きの土屋丞(つちや・たすく)准尉であります。

貴方にご紹介したい方がいます」

「私に?」

以外であると同時に、国連海軍直轄艦隊と言うかかわりを持ったことの無い部隊の隊員から急に「紹介したい方」と言われると、警戒心が沸いてきた。

若干、訝しむ表情を浮かべる大淀に土屋は微笑みを浮かべた。

「貴方の辛さを無くしてくれる方がお待ちです」

何の話だ、と理解が追い付かない大淀に土屋は続けた。

「不治の病に侵された妹君を病から解放してくれる方です」

「仁淀を治療してもらえる……?」

聞き返す大淀に土屋は頷いた。

一筋の救いの光が、刺し込んできた気がした。

不治の病、ロシニョール病を直す方法はまだ見つかってないはずだが、もしや目途が立ったのか?

もしそうだとしたら、仁淀は全快できる。

不治の病に潜在的に脅かされる日々を過ごす必要がない。

拒否する理由は無かった。

「会わせて下さい、その方に」

「了解です、こちらへ」

案内する土屋に大淀は付いて行った。

 

 

ラバウルに戻った第三三戦隊に異動命令が出たのは、大淀が土屋に案内を受けていた頃だった。

提督から身を引き、部屋を整理する磯口に呼び出された愛鷹は封緘命令書が入ったUSBを渡され、どこへ転属になるのやらと思いながら自室へと戻った。

部屋に戻るとパソコンを立ち上げ、USBを指して命令書を出す。

命令書を開く作業をしながら「まあ、日本に戻ってからではないでしょうね」と呟く。

自分のIDを入力してファイルを開くと、命令書にはトラックへの異動命令が入っていた。

「トラックへ? 何をしに?」

取り敢えず中身を読んでいくと、深海棲艦の艦隊がトラック諸島近海に多数出没するようになったので、第三三戦隊にトラック防衛の増援に付け、というモノだった。

内は偵察部隊なのに、最近の仕事は本来の任務内容とは全然違うモノばかり。

何の為のSAU(索敵攻撃部隊)だとでも言うのか。

それだけ今手が足りていないのだろうが、偵察部隊としての仕事は初陣となった沖ノ鳥島の時以外殆どない事に、若干幻滅するものを感じる。

溜息を吐きながら命令書のサインに武本の名を確認し、宿舎で休む他のメンバーに知らせるため、部屋を出た。

ミーティングルームに集められて説明を受けた第三三戦隊メンバーは、さほど意外そうな顔をしなかった。

「聞いていた話とは違うぞ、な任務なんてよくある事さ」

「私もトラックに行くのですか?」

頭に包帯を巻いた蒼月が尋ねて来る。

先の海戦での負傷の治療は比較的早く進んでおり、二日もすればまた戦列に戻れると言う話だった。

以外にも蒼月さんの頭は石頭だったんだな、と思いつつ頷いた。

「蒼月さんもです。全員でトラックへ向かいますよ」

「日本に帰るのは暫く先なんですね」

少し寂しそうに瑞鳳が言うと、夕張もその通りだと相槌を打つ。

「トラックでの仕事が終わったら、日本に戻れるでしょうから、もう少しだけ頑張りましょう」

「愛鷹さんがそう言うなら、衣笠さんも頑張ろっと」

「深雪様もまだまだやってけるぜ」

「私もトラックにはまだ行ったことが無いので、任務でもいいので行ってみたいので」

衣笠、深雪、蒼月と続くと夕張と瑞鳳も頷いた。

「しょうがないよね」

「そうね、艦娘なんだもん。戦わなきゃ」

「よし、じゃ、また一仕事いっちょやるか」

両ひざを叩く深雪に頼もしいものを感じる。

「支度をして今日の三時ごろ、飛行場に集合です」

「了解」

「では解散」

「あ、ちょっと待って、帰る前に美味しいご飯をみんなで食べて行かない?

青葉とこの間美味しい店を見つけて、行って来たんだけど凄く美味しかったの」

衣笠の提案に自分以外の全員がすぐに賛成した。

愛鷹さんはどうですと一同からの視線を向けられると、断れない。

まあ、たまにはサンドイッチ以外の食事も悪くないか。

「行きましょうか、お代は私が持ちますよ」

「いぇーい、愛鷹の奢りだ」

「たくさん食べて行きましょう」

喜ぶメンバーに愛鷹もつられて頬を緩めた。

こう言う息抜き、楽しみを分かち合えるのも今の内だ。

 

 

受話器の向こうから話をつけられたと言う武本の連絡に、大和は安堵の息を吐いた。

「そうですか、ありがとうございます」

(実際にトラックでの深海棲艦の艦隊の動きは活発化している。

第三三戦隊は経験を積んで中々の腕利きの部隊へ成長したからな、そちらでの仕事で助けになるはずだ)

「感謝します。あの子とはこちらでよく話をしてみたいと思っています」

(彼女は恐らく、君を拒絶する、それは分かっているね?)

「はい。でも向き合う事であの子の傷を癒す事につながると私は信じます」

そう返した大和の言葉に武本は少し沈黙した後、口を開いた。

(彼女が赦すとは限らない。その事は忘れない様に)

「分かっています、あの子のお姉ちゃんとしての責務を果たします」

(分かった、幸運が君たち二人の上にあらん事を)

その言葉を残して武本は通信を切った。

受話器を置きながら大和は制服のポケットから一枚の写真を出した。

部屋を整理していた時に見つけた愛鷹との唯一のツーショット写真だ。

まだ自分の運命を知る前の愛鷹と撮った写真。

恨まれて当然だろう、自分は恨まれて当然の事をあの子にしてしまう罪を犯した。

自分は死ぬまで愛鷹を巡る罪を背負う。

余命僅かであり、先に逝く事になる愛鷹の最期を見取るのは、辛いものだ。

でも、だからこそ、あの子とは向き合って話をしたかった。

お姉ちゃんとしての責務を果たす為にも。

 

武本と長距離通信をしていた部屋を出た時、ばったりと伊吹と出くわした。

いや、伊吹が待ち構えていたようだった。

「伊吹さん」

「どんな話をしていたんですかね? 素性不明の超甲巡愛鷹と貴方の関係。

何か大きな裏がありそうですねえ、いや闇があると言うべきか」

聞き耳を立てていたとは、なんとも悪い事をと思っていると、伊吹は腕を組んで不敵な笑みを浮かべた。

「風の噂ですが、このワードと愛鷹は関係があるんじゃないですかね。

 

艦娘の損失を抑える先進的な方法、『CFGプラン』って奴に」

 

「貴方は、どこまで知っているのですか?」

目を細め、警戒心を強くする大和に伊吹は態度を崩さないまま答えた。

「あくまでも風の噂、地獄耳が聞き集めた陰謀話ですよ。

もっとも、私が今まで聞き集めて来た陰謀話でも、かなりリアリティのあるお話ですけどね」

「それで、私に何をお望みですか?

愛鷹さんとの関係を明かせと?」

「いえいえ、その口調だと中々面白い闇があるようですから。

闇は闇に、謎は謎に。

下手な探りを入れ過ぎて、どこぞのパパラッチ重巡みたいな目には遭いたくありませんから。

失礼します」

去り際に自分の横で一端伊吹は立ち止った。

「他言無用は承知してますよ」

コツコツと靴音を残して去って行く伊吹の背中を大和は無言で見送った。

「あれは、警告……なのかしら」

 

 

トラックには大和と共に日本から来た艦娘の他に友人の吹雪を含む第一一駆逐隊と第五航空戦隊の翔鶴、瑞鶴、由良、酒匂がいた。

また第四航空戦隊の伊勢と日向も第一七駆逐隊の四人、浦風、磯風、浜風、谷風と共に輸送機で向かっていた。

伊勢と日向はの二人は、深海棲艦の艦隊の出没頻度が多くなっていることから急派された増援だ。

これにラバウルから進出して来る第三三戦隊が加わることになっていた。

トラック諸島は中部太平洋における国連軍の重要拠点だ。

エニウェトク基地もあるが、数日前の空爆で損害を受けていて、復旧作業中であり暫くは当てにできない。

ここで戦力を整えて、出没する深海棲艦を捕捉撃滅するのが、トラックに展開する艦娘達の任務だった。

 

少し散歩でもしようと大和は外に出て、基地の中を適当なルートで歩いた。

港には古びた軍艦が数隻停泊している。

トラックの防衛の際、艦娘の援護、囮、盾になる為に保管されている老朽艦だ。

有事の際は無線操縦で動かされる。

多くがアメリカ海軍の駆逐艦だが、親善交流中に帰国できなくなったオーストラリア海軍のフリゲートも停泊している。

かつての国旗が掲げられていたポールには国連の旗が掲げられていた。

「あれ、大和さん。どうしたんですか」

ふと声かけられて大和が振り返ると、親友である吹雪型駆逐艦一番艦の吹雪がいた。

「こんにちわ吹雪さん。ちょっと散歩していたのですよ」

「散歩ですか。今日はいい散歩日和ですから、分かりますね。

私もちょっとぶらぶら歩いていたんです」

「同じですね」

微笑を浮かべる大和に吹雪も笑みを浮かべる。

「大和さんはこの港にはよく来るんですか?」

そう尋ねる吹雪に大和は「いえ」と返す。

「私は時々来るんです。ここに留め置かれる軍艦を見に。

老朽艦とはいえ、撃沈されても構わないと言う形で出撃させられるのは、同じ艦として心苦しいですね」

艦尾にかかれた艦名一つ一つを見ながら吹雪は言う。

「深海棲艦の前にはこの艦のミサイルは有効ではありませんから。

護るべきモノを護る為に、その身を捧げる……軍艦としては本望な最期だと私は思いますよ。

護るべきものを護れないまま、終わりを迎えるよりは価値ある最期でしょう」

「そうですね」

頷く吹雪はいずれ自分たちの為に海底に沈むことになるかもしれない軍艦の艦名を、目に焼き付けるように見つめた。

彼女達が沈んでも自分たちが忘れない為に。

 

 

 

店を出た第三三戦隊メンバーは宿舎に戻ると事前に纏めていた荷物を持って、輸送機が待つ飛行場へと向かった。

「あー、旨かったな、あの飯。愛鷹ごっつぉさん」

「その前に店を見つけた私に感謝しなさいよ」

笑顔を浮かべて腹を叩く深雪に、衣笠が口を尖らせた。

「お、そうだな。衣笠もサンキューな」

「ん、よろしい」

「機内で吐くなよ?」

余計な一言を付け加えた深雪の頬を夕張がつねった。

「皆さん、随分と食べましたね。結構なお代になったのでちょっと驚きましたよ」

「大体は蒼月ちゃんと深雪のせいですよ」

横目で蒼月と深雪を見て瑞鳳が返した。

ほっそりとした体形の割にはよく食べる蒼月が愛鷹に軽く頭を下げる。

「本当にごちそうになりました、愛鷹さん」

「良いんですよ」

「愛鷹さんは普段は食べないだけで、本当は結構食べる方だったんですね」

ふと思い出したように瑞鳳が言うと、愛鷹はふっと微笑を浮かべた。

「大食いはそんなにしませんが、『食えるうちに食っとけ』ですからね」

「また来たら、堪能出来ますよ。戦争が終わってからでも」

瑞鳳の「また来たら」と言う言葉が胸に刺さった。

自分の余命があるうちに、この地にまた来て美味しい料理を食べる事が出来るのか。

恐らく無理だろう。無理だろうと思ったから今回散財する勢いで外食したのだ。

 

もっと人並みに生きられる体であれば……悔しさが込み上げてくるのをぐっと堪えた。

 

二時間後六人を載せたC2輸送機はラバウルを飛び立った。

小さくなっていくラバウル基地に目を向けた愛鷹は、急に胸に込み上げてきた熱い物を堪えながら、ラバウルでの日々を思いめぐらせた。

険悪な中で始まってしまった霞と満潮との出会い。

その後の戦いでの霞の死。

彼女の死の後から、険の無い付き合いが出来るようになった満潮。

ロシニョール病を再発した苦しい日々。

青葉の悔しさを聞いたあの日。

衣笠に自身の正体と秘密を打ち明けたあの時。

全ての記憶が出来たラバウルの地に、愛鷹はそっと誰にも聞こえない声で別れを告げた。

「さようなら、思い出のラバウル……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その条件を私が呑めば、妹のロシニョール病を完治させてもらえるんですね?」

案内された小さな空き部屋に置かれたテーブルの席に座って待っていた男性軍人、三本線の階級章から中将だ、に改めて問うと、相手は朗らかな笑みを浮かべて頷いた。

「臨床試験は済ませてある。君の妹を救うにはこの手段が一番だ。

医療費など予算も面倒もすべて我々が見る。

命を救うのが我々の仕事だからな」

そう語る中将の話に大淀は少し思案顔になる。

中将に勧められた席に座って説明を受けている時、自分がどこの誰か中将は名乗らなかった。

ただ土屋と同じ国連海軍直轄艦隊に所属していると言う程度は話してくれた。

自分が誰なのか、名乗りもせず条件を呑めば全ての手間を負担の上で仁淀を治療してくれる。

中将の素性は不明でも、人助けの為の手を差し伸べてくれているのだ。

仁淀を不治の病から救ってくれるなら、悪魔とだって契約してやる。

この人達は救いの手を差し伸べてくれている。この手にすがれば仁淀は助かるのだ。

「分かりました、仁淀の治療をお願いします。

それで、私が引き受ける条件とは何か教えていただけますか?」

「それをこれから話す」

そう告げると中将は指を鳴らした。

部屋の外から一人の兵士が入って来るとドアをロックし、土屋が一冊のファイルをテーブルに置いた。

「ファイルを開いてくれ」

「拝読します」

言われた通りにファイルを手に取り、開く。

生硬い表情を浮かべる証明写真を貼られたファイルを目に通した大淀は怪訝な表情を浮かべた。

写真を見た時は大和の人事ファイルの様に見えたが、書き込まれているデータは全て大和のモノではない。

以前目に通した愛鷹のモノだ。自分が閲覧できなかったデータもある。

「これは、愛鷹さんの人事ファイル」

「そうだ、超甲型巡洋艦愛鷹だ」

「この人がこの話とどう関係が?」

困惑顔を浮かべる大淀に中将は一切の感情を消した目で大淀を見つめ返した。

自分が何か大きな物事に、それもただ事では無いモノに足を入れた事が分かると背筋が冷えた。

緊張する大淀を見据え、中将は感情の無い口調で告げた。

 

「仁淀を不治の病から救う条件は一つ。

 

君に愛鷹こと『艦娘796号』……。

 

いや『もう一人の大和』を《殺す》為の手伝いをして貰う事だ」

 




中盤までは戦闘、後半はゆっくり休む間もなく次の舞台へ向かう愛鷹達の物語です。

そして武本に愛鷹に会いたいと言う無理を言った大和の要望を戦力補填名目に召集された第三三戦隊。
トラックで対面を果たす愛鷹と大和。
どの様な展開になるのはお楽しみください。


そして大淀を手先に取り込んだ何者かは、何故愛鷹の命を狙うのか。

これからの愛鷹の物語にご期待ください。
(因みに今回のイベントで最後の最後に念願の大淀ドロップを果たしました)

では、また次のお話でお会いしましょう。
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