艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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前回の投稿以来モチベーションの回復で思ったより早く投稿しお届けする事が出来ました。

本編をどうぞ。


第三〇話 虎口からの強行突破

はっきり言って、にわかには信じられない事実だった。

しかし、提示された様々な情報を照らし合わせてみると大淀にも納得がいく話だった。

「愛鷹は人類の禁忌であるヒト型クローン技術で生み出されたもう一人の大和であり、その存在は国連軍の信頼を揺るがすモノ。

言わば歩く重要機密。

この事実が世間に明るみになった時、国連軍内部で必ず混乱が起き、関係者はその非人道性を追求され人としての全てが終わるだろう。

艦娘自体にも軍への不信感、疑念、混乱が起き、現在の戦況に響く可能性がある。

 

愛鷹と言うパンドラの箱的存在を野放しにしておくわけにはいかない。

 

奴を、愛鷹を関わりの深い艦娘諸共抹殺しろ。それが大淀の任務だ」

 

 

自分はなんてモノにすがってしまったのだろう。

今の大淀の胸中には激しい葛藤が渦巻いていた。

同じ艦娘を間接的に殺さないといけないない事になるとは思ってもみなかった。

出来るなら止めたい、こんな犯罪行為はおかしい、止めるべきだ。

だが、出来なかった。

何故なら「愛鷹抹殺」を指示した者たちは昏睡状態にある大淀のたった一人の妹、仁淀の命を必ず救う、と言う約束をしてくれた。

自分が与えられた「愛鷹抹殺」の任務を反故にすれば、仁淀の命がどうなるか……。

考えるまでも無かった。

やるしかない。血の繋がりは無ければ、義理の姉妹でもない。

敢えて言えば仁淀とは姉妹関係と言う書類上での関係に過ぎない。

しかし、生まれてすぐに家族を失い、海軍に入っても姉妹艦の無い「ワンアンドオンリー」だった日々。

腹の底から笑う事もあれば、泣くことも、怒る事もあり、嬉しい気持ちになる充実した海軍での生活。

それでもどこか胸の内では満たされないモノがある中、自分に初めてできた「妹」なのだ。

かけがえのない存在なのだ、替えなどないこの世界にたった一人しかいない大切な妹なのだ。

妹を救うのなら、自分の良心を殺してでも、愛鷹を殺す。

やってみせる……なんだってやってみせる。妹を救えるのなら、この背中に十字架を背負ってもいい。

 

「私は……闇に落ちてでも、仁淀を助ける……」

そう呟きながら大淀は机の上に置かれた愛鷹の個人ファイルに目を移した。

無表情を顔に張り付けた愛鷹の顔写真を、冷酷さを浮かべた大淀の目が無言で見つめていた。

 

 

偵察哨戒中の彩雲から敵潜水艦探知の報告が入った。

(イーグレット1-3は引き続き、更なる潜水艦捜索を行う。オーバー)

「了解、敵CAPに注意しつつ予定の飛行を継続されたし。アウト」

通信を切った愛鷹はパッド端末に送られてきた位置と潜水艦の情報を書き込んだ。

見つけた機雷敷設潜水艦のマークにフォネティックコードのホテルを意味する「H」を添える。

「展開する潜水艦はこれで八隻目か……まだ、いるわね」

「まだいるんですか?」

驚く蒼月に愛鷹は頷いた。

「トラック諸島を機雷源で包囲するには、補給と整備のローテーションを考えるとあと三隻はいると踏んでいいでしょう。

これまでに判別したヨ級機雷敷設型が一度に展開できる機雷の数は三〇基。

その機雷で向こうはこちらの重要箇所を無駄なくピンポイントで狙っています」

「そんで、機雷敷設型潜水艦の数を数えてお終いじゃねぇだろ。

補給部隊を探して叩き潰さないとな」

「勿論です」

口を挟んできた深雪に愛鷹は心得ていると返した。

「恐らく、これだけの機雷敷設潜水艦と護衛につくはずの潜水艦の数から推計すれば、ワ級の数は一〇隻以上います。

護衛を含めればどうしても二〇隻は超えます。

それだけの規模となれば、機動力も制限がかかります。

機雷敷設潜水艦が見つかった場所から算出できる補給部隊の展開海域も大分絞れて来ていますから、もう少し探りを入れておきたいところです」

「そう言う計算は得意じゃないかもなあ……」

トーンを落とした声で言う衣笠に愛鷹は微笑を浮かべた。

「計算式を覚え、コンパスを読み、ディバイダーと定規を使い、そろばんが弾ければそんなに難しくはないですよ」

「さらっと簡単そうに言うけど……愛鷹さんのスキルは……」

「帰ったら教えてあげますよ。割と簡単です」

さらりと言う愛鷹に衣笠は引き攣った笑みを返す事しかできなかった。

その背後で夕張が蒼月に耳打ちした。

「衣笠って数学はあんまり得意じゃないのよ」

「そうなんですか」

「ちょ、聞こえてるわよ! そんなことないって」

頬を膨らませる衣笠の反応が言うまでもない答えだった。

その四人の後ろから瑞鳳がため息交じりにツッコミを入れた。

「はいはい、仕事に戻る戻る」

 

 

彩雲偵察機による偵察飛行は午前中の内に機雷敷設潜水艦を更に一隻発見し、護衛と思しき潜水艦も一隻発見した。

「読みが当たって来たか……」

タッチペンで顎を突きながらパッド端末の情報を眺める。

絞り込める補給部隊の展開海域は狭められてはいる。

だが、まだ重点的に索敵を行うには判断材料となる情報がもう少し必要だった。

絞り込んでいる海域は潮流が複雑化しているらしく、SOSUS探知は難しいと聞かされていた。

愛鷹達がここ二日間のうちに集めたデータを共有して、SOSUS監視活動も行われているが、その捜索能力にも限界があるから第三三戦隊の力で探す方が確実性は高かった。

深海棲艦の方は無線封止を行っているのか、通信波の逆探知は無く、さらに羅針盤障害すら起きない。

どう言う手で羅針盤障害をかき消しているのかは分からないが、機雷敷設潜水艦を展開し続けるようならいずれ見つけ出すことは可能だろう。

「それが終われば、ゆっくりできる筈……」

独語するように愛鷹は呟いた。

 

すると第三三戦隊の頭上で監視に付いているAEW彩雲、コールサイン・スカイキーパーが警報を発した。

(スカイキーパーより第三三戦隊旗艦へ。レーダーコンタクト!

深海棲艦の艦隊六隻をレーダーで捕捉。参照点より方位一-三-〇、距離は約二万メートル、現在のそちらの進路と交差するコースを航行中。

軽巡洋艦四隻と駆逐艦二隻の巡洋艦戦隊と見られる)

「了解、艦種は?」

そう尋ねた愛鷹に若干間をおいてスカイキーパーは答えた。

(軽巡ヘ級flagshipと……ハ級後期型eliteの模様)

「手強い相手ね」

聞いていた夕張が軽く唸りながら返す。

ヘ級flagshipとハ級後期型eliteは水上戦闘に強い艦だ。索敵中心装備の今の第三三戦隊には荷が重いかもしれない。

「距離を取りましょう。取り舵六〇度、新針路を〇-四-五へ変更。

同時に合戦準備部署を発令。水上警戒を厳に」

「了解」

「主砲がもう一基あれば……」

舌打ち交じりの言葉を夕張が口にする。

するとスカイキーパーが更に通信を入れて来た。

(レーダーコンタクト、更なる敵艦隊を捕捉。敵はネ級改一、ハ級後期型五。すべてelite。

参照点より方位〇-五-〇、再度の進路変更を進言する)

「仕方が無いですね、スカイキーパーは偵察隊全隊にこちらの状況を通達。合流ポイントはおって連絡すると。

それとトラック基地へ航空支援を要請」

(了解)

 

スカイキーパーとの通信を切りながら、二個艦隊がこちらに接近中か……偶然にしては出来過ぎている、と疑念を愛鷹は感じた。

もしかしてこちらの動きを読んで、哨戒艦隊を出していた?

おかしい話ではないだろう。

索敵部隊は自分たちだけだから存在が知れ渡っていたとしても、何ら不思議ではないしその脅威も向こうは承知しているはずだ。

「こっちの動きを読んでいるの?」

「ならその先を行くまでよ」

冷や汗を流す瑞鳳に主砲を構え直す衣笠が意気込んだように返す。

それを見て深雪は静止するように首を振った。

「今のあたしらじゃ、交戦は厳しいだろ。夕張はピケット艦装備だし、瑞鳳は当てに出来ねえし。

ここはすたこらさっさが最良だろ、なあ愛鷹?」

「その通りです。交戦は避けて離脱を優先です。

……とは言え、最悪な時は私が盾になります。旗艦として皆さんを逃がす義務があります」

「カッコつけやがって……ま、愛鷹は絶対帰る気だからそう言うんだよな。

けどな……みんなそう言って死んでった……」

顔を俯ける深雪の言葉に一同に重い空気が立ち込めた。

彼女の言う「みんな」は捨て艦として殿軍となって沈み、戦死した駆逐艦の事だった。

「そうならない様に、動きましょう」

深雪を励ますように愛鷹は言うと、どこに逃げるかの策を考え始めた。

全員で帰るのだから。

 

 

離陸していく銀河陸攻や雷電の戦爆連合のエンジン音に気が付き、窓の外を見た大和は第三三戦隊が航空支援を要請したことを悟った。

「仲間と一緒に、無事に帰って来て……愛鷹」

願いを託す思いで大和は飛び立っていく攻撃隊の機影を見送った。

 

 

(AWACSマジックから攻撃隊全機へ。前線展開中のAEWスカイキーパーからの情報では、敵艦隊にCAPは認められない。

警戒しつつ狩りを行え。アスク隊、エギル隊、イリオス隊、レフィル隊交戦を許可する)

了解、の返答が四隊から返される。

アスク、エギルはそれぞれ銀河八機からなる攻撃隊、イリオス、レフィルはそれぞれ雷電八機からなる護衛部隊だ。

富嶽AWACSマジックの指示を受け、アスク隊、イリオス隊は重巡を含む深海棲艦艦隊、エギル隊、レフィル隊は軽巡主体の深海棲艦艦隊へと向かう。

雲が一部出てはいるが、雲の中から奇襲を受ける可能性があるほどの雲量ではない。

奇襲攻撃は陸攻隊の方はあまり気にしなくても大丈夫だろう。

艦娘よりも速度が速い二つの航空隊は、洋上を進む艦娘なら数十分はかかる距離を数分、数時間はかかる距離を数十分で飛び抜ける。

最初に会敵したのはアスク隊だった。

単従陣を組む艦影を航空妖精さんが目視で確認すると、深海棲艦艦隊は輪形陣に陣形を変えて対空戦闘の構えをとった。

「アスク1からアスク隊各機、敵艦隊へ魚雷攻撃を開始。

全機エンゲージ、我に続け。イリオス隊、上は任せるぞ」

(ウィルコ)

イリオス隊の雷電がバンクして了解の意を示すのを見ると、八機の銀河は四機ずつ二手に分かれ、八隻の艦隊を左右から挟撃にかかった。

対空射撃の射程内に入った深海棲艦艦隊から曳光弾と対空砲弾が撃ち上げられてくる。

超低空に舞い降りるアスク隊は針路と攻撃軸線を維持し、魚雷の必中射程圏内へとフルスロットルで迫った。

海面を叩く対空砲火の水柱が周囲に突き上がり、近接信管の爆発で飛んでくる破片が機体を叩く。

じりじりと機体が損傷していく中でもアスク隊八機は輪形陣への吶喊を止めず、射程圏内に迫った。

攻撃タイミングが近づくや爆弾倉のハッチが開けられ、搭載する魚雷が姿を現す。

不気味な飛翔音を立てて飛来する機銃弾に妖精さん達も緊張を浮かべながら、攻撃タイミングを待った。

六隻の深海棲艦艦隊が狂ったように撃ち出す対空砲火が距離を詰めるにつれて密度と正確さが上がる。

そしてそれに絡めとられた一機がついに黒煙を吐いて姿勢を崩すと、そのまま海へと突っ込んでバラバラになった。

 

「アスク3、ロスト!」

「構うな、魚雷投下用意!」

「投下時機近づく」

 

そして七機に数を減らした銀河は投下ポイントに到達すると、同時に魚雷を投下した。

七本の魚雷に囲まれた六隻は回避にかかるが、銀河は手が届きそうなほどの至近距離で投下していたから、回避しきるのは困難だった。

魚雷直撃の轟音が四回、海上に轟き、衝撃波を空中にも広めた。

「駆逐艦三、重巡に直撃を確認! 駆逐艦は二隻撃沈確実、一隻大破の模様。重巡は大破確実」

「アスク3の分も喰らって沈みやがれ」

「アスク1よりマジック、敵駆逐艦二隻撃沈を確認。

駆逐艦一隻と重巡は大破。戦闘不能の模様」

(了解、アスク隊、イリオス隊はRTB)

「エギル隊はどうだ?」

(三機ロストだが巡洋艦三隻を仕留めた。深海棲艦艦隊は針路かえて離脱している。

エギル隊とレフィル隊はすでに基地へ帰投中だ)

「了解した、アウト。アスク隊各機、帰投する」

 

 

二個艦隊は航空攻撃で壊滅し撤退中。

その報告が愛鷹の元にもスカイキーパー経由で届けられた。

「ひとまずは大丈夫そうですね」

胸をなでおろす夕張に愛鷹は「ええ」とどこか釈然としない声で返した。

どうにも愛鷹には簡単に進み過ぎている気がしていた。

もう一個、艦隊が潜んでいるのではないか? そんな気がしていた。

しかし、海のど真ん中なので隠れられる場所などない。岩礁も周囲にはないから身を隠す場所も無い。

スカイキーパーと目の良いマジックのレーダー、夕張の電探にも反応が無いと言うところからして、問題は無いはずだ。

ソナーにも潜水艦の反応は無い。

問題は無いはずだ、ではなぜこの胸騒ぎがするのか。

先を読んだ艦隊の展開配置、それによってこちらが針路を変更するのを予見しているとしたら……。

 

 

……罠に誘導されている?

 

しかし、ソナーやレーダーにも……いや……。

 

罠の仕掛けは仕掛けの方から動く必要は無い。

追い込まれた獲物を待ち構え、捕らえる。

 

それが罠だ。

 

 

 

「まさか……アクティブソナーの探信音打ちます、ピンガーに注意」

「ど、どうしたのです?」

いきなり鋭い声で告げた愛鷹に蒼月が困惑しながら問うが、愛鷹は構わず靴先から探信音を放った。

そしてヘッドセットから聞こえてきた反応に慄然とし、冷や汗が流れた。

「全艦機関停止、機関停止!」

その指示にすぐさま主機を止めた衣笠、夕張、深雪、蒼月、瑞鳳は前方で大きな水柱が突き上がるのを見て目を剥いた。

慌てて五人は周囲を見回し、空にも目をやるが、機影一つ、艦影一つ見えない。

「アウトレンジ射撃?」

緊張を滲ませた声で瑞鳳が呻くと、また一つ前方に大きな水柱が上がった。

それを見た夕張が瑞鳳に顔を向ける。

「長距離砲撃にしては数が少ないし、飛翔音もしない」

「機雷源です……連中の罠にまんまと誘い込まれました」

苦々しさを含ませた口調で愛鷹が返した。

「あの二個艦隊は私達を追い込むための囮!?」

生唾を呑み込みながら呻く衣笠の言葉をかき消すように、今度は右手で水柱が突き上がる。

「どう言う信管で爆発してるってんだ?」

水柱をひきつった表情を浮かべて見る深雪に、愛鷹が答えた。

「磁気信管と音響信管でしょう、こちらの主機の音を聞きたててます。

それに爆発が少しずつ近づいている……もしかしたら一発が爆発したら周りの機雷の固定が解除されて、浮遊状態になるのかもしれません。

下手に動けば漂ってきた機雷で足を吹き飛ばされます。狼の群れの中に入り込んでしまった訳ですよ」

「ソナーで確認は取れないの?」

もどかしそうに聞く衣笠に夕張が頭を振った。

「無理ね衣笠、さっきの爆発でソナーが聞こえにくくなってるわ」

「これじゃ逃げ場がねえ!」

周囲を見回しながら深雪が焦りを見せる。

焦る一同に愛鷹が冷静さのある声で指示を出した。

「全員主機への動力供給をカット、舵のみ作動状態にして静粛態勢。音響機雷の脅威からまず身を隠します」

「了解」

即座に全員の主機への動力供給が停止され、足裏が静かになった。

六人は漂流状態になった。

「次はどうするんです?」

不安な表情を浮かべる蒼月に、愛鷹は顎をつまんで考え込んだ。

 

音を消したから音響機雷の方は暫く問題無いが、磁気信管の機雷は主機や足裏の舵の磁気に反応して爆発するだろう。

もう一回愛鷹が爪先のバウソナーからアクティブソナーの探信音を放つと、多数の機雷が自分たちを包囲するように浮かんでいた。

拙い事にここは潮流の変化が深海棲艦の出現以来、複雑かつ速くなっている場所だ。

浮遊状態になった機雷はそれによってランダムに動きを変えているから、先を読むのが難しい。

下手をしたら誰かが触雷して大破・重傷を負うことになる。

「厄介なことになった……」

しかし、じっとしている訳にも行かない。

機雷掃海のヘリを派遣してもらうよう連絡を送るべきだろう。

「スカイキーパー、こちら愛鷹。トラック基地へ中継求む。

我が隊は敵の機雷源に誘引され、現在離脱困難な状況。掃海ヘリの派遣を要請する」

するとスカイキーパーから先の良くない返事が返る。

(こちらスカイキーパー。

ネガティブ、現在トラック基地との通信はジャミングの発生によりコンタクト不能! またその海域にて羅針盤障害が増大中)

「ジャミングに羅針盤障害が……? 夕張さんレーダーに反応は?」

「……ピクチャーはクリア。ノイズは一つもないです……あの、状況は?」

「ジャミングの影響で基地への救援要請は頼めません。またスカイキーパーから羅針盤障害が増大中と」

「つまり深海棲艦の艦隊が近づいているって事⁉」

裏返った声を瑞鳳が上げる。

「もしかして探していた補給部隊?」

「いやあ、瑞鳳。向こうからお出でなすったって事は無いだろ。偶然にも出くわしたって感じじゃねえか?」

それは流石に無いと深雪が頭を振る。

「偶然にせよなんにせよ、今の私達には手が余るわよ」

ため息交じりに衣笠が返した時、夕張が身を固くした。

「愛鷹さん、対水上電探に感、いや羅針盤障害のノイズが……」

「こちらでも捉えました。障害レベルからして……そこそこ数のある艦隊ですね」

自身の羅針盤のレーダー表示を見ながら愛鷹は頷いた。

身動きが取れない状況で深海棲艦の艦隊の接近。

基地からの支援は通信妨害で呼ぶことが出来ない。

この場にいる自分たちで切り抜けるしかない。

「対空レーダーには反応なし。障害による探知範囲の減退はあれど……航空攻撃は無しと見るべきか……」

だとしたら、来るのは水上部隊。レーダーの表示から向こうから近づいてきている。

こちらは盛んにレーダーを発信している事から考えて、逆探知しているであろう深海棲艦が身を隠す必要のある補給部隊を連れてわざわざ接近しているとは考えにくい。

おそらく分派した、または増援として送られた水上打撃部隊だろう。

「どうするんだ愛鷹?」

深雪の問いに愛鷹はすぐには答えず、何かを天秤にかけているように考え込んでいた。

その間にも周りの機雷は潮流によってさらに複雑かつ広範囲に拡散していた。

旨い具合に配置しているものだ、と愛鷹は舌を巻いた。

計算尽くした配置だ。拡散してはいるが拡散し過ぎず、それなりの密度を維持しているからこちらの動きをしっかり封じ込んでいる。

潮流を乱している深海だから、どう拡散するかを考慮して配置したのかもしれない。

速度を原速で維持していれば、何とか切り抜けられるかもしれないが、それでは追手が来る前に離脱するのは困難だ。

速度を上げられないし、左右を機雷に囲まれているから回避運動もままならない。

かと言ってこのままじっとしていれば結局攻撃されて全滅だ。

 

だが、あることに愛鷹は気が付いた。

 

拡散した機雷源の半径は、深海の戦艦でも命中率が落ちる距離だ。

つまり、向こうが巡洋艦であれば射程外であるし、戦艦でも少しこちらが動くだけで砲弾の弾着を躱すことが出来る。

この機雷展開を想定した上で配置し、そこへ敵を追い込み、水上部隊で攻撃するのだとしたら……。

「機雷源に艦隊が通れる道が開く時が来る……」

「何の事ですか?」

不安な表情を浮かべたままの蒼月が聞き返すと、愛鷹は一同に振り返って自分の立てた作戦を説明した。

「敵は機雷源をうまい具合に展開して、こちらの動きを封じましたが、機雷源の半径はル級やタ級の射程だとしても、必中は望めない距離です。

こちらを水上部隊で叩く気があるとしたら、こちらを射程内に捉えておく必要がある。

機雷源に自分達の通れる場所が出来るタイミングを待っているはずです。

その瞬間が、こちらの脱出のチャンスです」

「そうか! 敵が通れる道が出来たら、逆にそれを使って敵中を強行突破って事ですね」

手を叩いて答えを言った衣笠が顔を明るくするが愛鷹は暗い表情だった。

「強行突破しか現状ないでしょう。

しかし、強行突破となる以上は誰かが被弾する事を覚悟しなければなりません」

「それは仕方が無いでしょうね」

覚悟を決めた顔で夕張が呟くと、流石に恐怖感を露わにした蒼月が生唾を呑んだ。

少し重い空気が立ち込める。

だが、今はそれしかこの場所から逃れる手は無かった。

「必ず皆さんを連れて帰りますよ。約束します」

「なら深雪様もガツンとやるぜ」

「衣笠さんも、青葉に自慢できる話もっと作っとかないと」

「動きは悪いけど、スピードは出るし、そう簡単に瑞鳳だってやらません」

「私も……頑張ります」

「やりましょう愛鷹さん」

メンバーの腹を決めた言葉が自分に向けられてくると、愛鷹も不安を断ち切った顔になった。

「生き延びましょう」

 

最悪、私が盾になります……少しでも長く生きたいけど、一緒に生きていたい人たちが目の前にいるのだから……。

 

 

強いジャミングの発生源は深海棲艦の空母艦載の電子戦機が発生源らしかった。

トラック基地の東部海域一帯を通信妨害しているせいで、その海域に展開中の第三三戦隊とは通信不能になってしまっていた。

基地の中央指揮所のモニターを見る立石は電子戦機の展開数に驚いていた。

一機二機と言うモノではない。六機の電子戦機が展開している。

第三三戦隊相手に六機もの電子戦機を投入しているとは。単に通信を妨害させているとは思えない。

恐らく、こちらに支援要請を送らせない為の妨害だ。

そうとなれば電子戦機を撃墜して、第三三戦隊に増援を送るべきだが電子戦機の妨害範囲は広く、一帯のどこに第三三戦隊がその下に隠されているのか判別が付けづらい状況だ。

全ての電子戦機を撃墜するしかなかった。

「すぐに上がれる戦闘機隊は何機だ?」

航空参謀に問うと、即座に「一六機」と言う返事が返る。

「一〇分、いや七分頂ければ更に八機は上げられます」

「出せる機体を出して、電子戦機を撃墜しろ。それと対艦攻撃装備の攻撃隊を編成して待機させておけ。

第三三戦隊に航空支援が必要になるだろう……いや、あいつを使うか」

「あいつ?」

副官の一人が聞き返すと立石はにやっと笑った。

「第五の伊吹だ。あいつの艦載機は足が速い」

「了解しました、直ちに出撃準備を出します」

 

 

(レーダーコンタクト、深海棲艦の艦隊を捕捉した。

艦影は六、艦種はネ級二、リ級一、ヘ級二、ハ級一、いずれもelite級と見られる。

参照点より方位一-三-〇、速度は二七ノット。距離約二万メートル)

スカイキーパーから敵艦隊発見の報告が入るや、愛鷹は作戦開始だ、と閉じていた目を開けた。

「合戦準備、合戦準備、総員対水上戦闘用意。砲戦、雷撃戦準備」

「了解」

「前衛は私が務めます。夕張さん、瑞鳳さん、深雪さん、蒼月さん、衣笠さんの順に単従陣で敵艦隊に突入します。

敵艦隊は一個とは限りません、必ずもう二群、三郡がいます。気を抜かないで」

全員が真剣な眼差しで頷いた。

ヘッドセットに手を当ててスカイキーパーとの通信を再び開く。

「スカイキーパー、敵艦の位置は」

(機雷源の展開予想範囲に速度を維持したまま進んでいる、もしかしたら道が開口済みかもしれない)

「了解、追跡を継続して下さい。護衛機はスカイキーパーの護衛に専念。

敵機がこちらに来た場合はこちらで何とかします」

(ストライダー1了解)

(サイクロプス1ウィルコ)

護衛機は腕利きの航空妖精さんパイロットからなる八機の烈風改だ。

彼らだけでスカイキーパーを護ってもらうしかない。現状瑞鳳に搭載されている烈風改はそれだけだ。

索敵に出している彩雲はまだまだ飛行時間には余裕があるからしばらくは大丈夫だ。

今は自分たちの心配が最優先だ。

再び爪先のバウソナーから探信音を放つ。

機雷源に十分な間隔があいていた。動くなら今がチャンスだ。

 

「全艦機関始動! 強行突破を開始します、第三戦速!」

愛鷹の号令と共に、第三三戦隊メンバーは一糸乱れぬ単従陣を組んで第三戦速へと加速した。

白波を立てて高速航行する中、愛鷹は刀を鞘から引き抜き右手に構え、左手で全主砲の射撃管制を行えるようセットする。

自身の三一センチ主砲で道をこじ開け、飛来する砲弾は自分だけでなく仲間に向かうモノも可能な限り切り落とすか弾き飛ばす。

すれ違い様に届く範囲の敵の艤装を破壊できれば、後の脅威も減らせるだろう。

(スカイキーパーから愛鷹、間もなく視認射程内だ。まあ見えているだろうが)

「ええ」

前方に複縦陣を組んだ深海棲艦の巡洋艦戦隊がいた。

突っ込んでくるこちらに驚きながらも主砲を構え、射撃体勢をとっていた。

「敵からの攻撃来ます」

自分と続航する仲間の両方に告げると、主砲の安全装置を解除し、引き金に指をかける。

 

弾種徹甲弾、冷却装置異常なし、速射準備よし。

 

距離がつまり、深海棲艦が砲撃を開始しようとした時、愛鷹の砲門が火ぶたを切った。

「正面対水上戦闘、第一主砲は指標一番の重巡ネ級、第二主砲は指標二番の敵重巡ネ級。

主砲撃ちー方始め、てぇーっ!」

第一、第二主砲が引かれた引き金の合図を受けて、六門の砲口から火炎を迸らせ、砲身を反動で後退させた。

火炎に代わって噴き出す黒煙を突き破り、六発の徹甲弾がネ級二隻に向かって飛翔していく。

先手を打たれながらも深海棲艦の艦隊も発砲を開始した。

砲撃の密度は濃いが、愛鷹の目と勘は当たらないと告げていた。

案の定、六人のすぐそばに次々に弾着の水柱が突き上がるが、直撃を受けた者はいなかった。

一方、愛鷹に狙われていたネ級はそれぞれ三発全弾を食らった。

直撃の爆炎に包まれ、破壊された艤装の破片が周囲に飛び散った。

燃える松明と化して停止するネ級を避ける為、後続のリ級、ヘ級、ハ級が左翼にリ級、ハ級、右翼にヘ級二隻に別れる。

挟撃を図るつもりだろう。

しかし、道を開けてくれた形だから寧ろ好都合だ。

「全艦最大戦速、一気に突破します!」

「了解!」

五人の返事が唱和する形で返される。

主砲は再装填が間に合わないが、長一〇センチ高角砲は撃てる。

牽制射撃として左右に別れた艦隊に速射で弾幕を展開した。

殿の衣笠がリ級に主砲を向けるのが分かったが、愛鷹は「まだです」と抑えた。

連射される長一〇センチの砲弾が付きたてる水柱が両翼の深海棲艦に壁となるように林立し、照準を合わせるタイミングを与えない。

主砲の再装填が完了するや、愛鷹は沈みゆくネ級の左手の方へ舵を切ると、第二、第三主砲を左翼のリ級とハ級へ指向した。

角度がやや悪いが、一発でも当たればいい。

「衣笠さん、夕張さん、蒼月さんは右舷を警戒し射撃に備えて下さい。深雪さんは左舷を。

第二主砲、目標ハ級。

第三主砲、目標リ級。

撃ちー方始め、てぇーっ!」

再び二基の主砲が砲炎を撃ち放ち、六発の徹甲弾が放たれる。

砲煙が後方へ吹き流れる中、距離が近かった事もありすぐに狙った先に着弾した三一センチ主砲弾はリ級、ハ級に一発ずつ命中した。

ほぼ同時に直撃を受けた二隻から爆発の炎と艤装が粉砕される破壊音が響き、黒煙の中へと姿を隠した。

「今です、衣笠さん、夕張さん、蒼月さん、右対水上戦闘右主砲戦。

旗艦指示の目標、主砲撃ちー方始め!」

三人の主砲が発砲する砲声が海上に轟き、ヘ級二隻に三人からの砲撃の雨が浴びせられる。

右翼のヘ級はまだ狙いが定まっていなかったが、デタラメに主砲を撃つ。

ヘ級の砲撃は虚しく海面をえぐって水柱を突き立てた一方、第三三戦隊からの砲撃はヘ級を捉えていた。

衣笠の二〇・三センチ砲弾が命中したヘ級が主砲を潰され大破炎上する一方、夕張と蒼月からの砲撃を受けたヘ級は回避運動で致命的な損害は免れるも損傷で射撃困難に陥った。

損傷したヘ級に愛鷹はとどめを指示することなく、仲間に速度を維持させて深海棲艦の艦隊を突破した。

後には撃沈されたネ級二隻、リ級一隻、ハ級一隻、損傷したヘ級の上げる黒煙が海上に立ち上っていた。

 

 

出撃していく伊吹、愛宕、鳥海、天霧、初雪、白雪からなる第五特別混成艦隊を基地施設から「頼んだぞ」と呟きながら見送っていると、「何かあったのですか」と問いかけてくる声が後ろから発せられた。

大和だった。

振り返ることなく立石は答えた。

「第三三戦隊が敵電子戦機によって妨害電波範囲に隠された。

なんらかの敵の作戦行動、おそらく第三三戦隊への攻撃作戦行動の一巻だろう。

四個小隊の雷電を上げて電子戦機を撃墜させに向かわせた。数分後にはP51八機が上がれる。

彼女達は万が一の事態に備え、第三三戦隊への航空支援を行わせるために出した。

連中に任せれば、問題は無い」

「……大丈夫でしょうか」

物凄く憂う様な大和の声に立石は振り返った。

胸に片手を当てて視線を落とす大和に、どうしたのだ? と立石は不思議そうな顔になる。

艦隊が襲われている、襲われている可能性があるという事で、いちいち心配症のような姿になる艦娘ではなかったはずだが……。

いやただの心配とは少し性格が違う。

何か大切な誰かの安否を気にしているような。

仲間の無事を気遣う、心配するは別におかしなことではないか、と気にしない事にした。深く突っ込んではいけない大和なりの事情もあるのかしれない。

女性の知られたくない事に下手に探りを入れるのは、男としてはしたなかった。

そっとしておこう、彼女にはそれが一番だ。

 

 

再び敵艦隊発見の報告がスカイキーパーから届けられた。

今度は軽巡ヘ級、ト級、駆逐艦イ級後期型が二隻ずつの艦隊とリ級二隻、ハ級四隻の艦隊、ヘ級一隻、イ級後期型五隻の艦隊の三個艦隊だ。

三方から攻撃してくる気だ。

「三個をすべて相手にするわけにはいかない……機雷源の制約は無いから機動力は問題なし。

ただこちらは彩雲を収容しなければならないからおのずと針路は限定されてくる……」

叩くとなると軽巡四隻を含む艦隊とリ級二隻を含む艦隊の間を突破しなければいけない。

遠回りをすると、彩雲がガス欠で収容不能になってしまう。

万が一に備えて彩雲との合流ポイントは予備を二つ入れた三か所を設定したが、予備の二つ目まで使い切る事態になると彩雲の燃料もギリギリだ。

向こうはそれを読んで艦隊を配置している可能性もある。

読まれっぱなしなのが癪だが、こちらの動きを読まれているなら読んでいた展開を思わぬ方向へ切り返すまでだ。

リ級二隻を含む艦隊を「A」とし、軽巡洋艦四隻を含む艦隊を「B」、ヘ級一隻以外は駆逐艦五隻の艦隊を「C」と呼称することにし、与し易いと捉えた「A」の艦隊へ針路をとった。

「重巡の相手は頼みますよ、愛鷹さん」

自身では水上攻撃が出来ない瑞鳳の頼みに、愛鷹は「承知していますよ」と返す。

「普通ならヤバい相手の重巡が二隻もいる艦隊が与し易いになるんだから、愛鷹はスゲエよ」

感心する深雪に蒼月がその通りだと頷いた。

その言葉に二隻を相手にすることは可能でも、重巡六隻同時に相手しろと言われたら流石に愛鷹も自信が無かった。

相手が動ない的なら対処できるが、動く上に明確な殺意を持って向かって来る敵は対処する数にも限界がある。

だから愛鷹としても、共に戦う仲間は必要だった。

「A艦隊を突破したら第一回収地点に展開します。瑞鳳さんは突破したら直ぐに収容作業の準備に入って下さい」

「はい」

 

最近は故障しなくなった三一センチ主砲の状態を念の為再チェックし、以上が無い事を確認する。

土壇場で故障となったら全く笑えない。

そのままA艦隊に向かって進んでいるとスカイキーパーがA艦隊の進路変更を知らせて来た。

(敵艦隊針路を変更、そちらへ向かって行く。やる気だ)

「丁字を描けたら良いけど、それだと瑞鳳さんが無防備になる……。さっきと同じ反航戦で行きます。

対水上戦闘、右主砲戦用意。

針路〇-二-〇、最大戦速、ヨーソロー」

瑞鳳以外の全員が右主砲戦に備える。

羅針盤の対水上レーダー表示を見つめていると六隻の深海棲艦の艦隊が表示された。

単従陣を組んでいる。先頭と二番目にリ級がいるようだ。

「スカイキーパー、リ級のクラスは?」

(今特定中スタンバイ……。flagship級とelite級がそれぞれ一隻ずつ。駆逐艦は全艦elite級)

手練れ揃い……か。

「リ級一隻がflagship級、それ以外は全部elite級だとの事です」

「それはいい話ですね」

ため息交じりに夕張が返す。敵艦が揃いも揃って強敵なのだからため息も出る。

ましてや今の夕張は水上戦闘が「一応可能」な状態である。

艤装のレーダー類が破壊されたら夕張は役に立てなくなってしまう。

瑞鳳に次いで援護対象だった。

それだけにこの時の夕張の心の中では「軽巡なのに守られ役なんて」、と言う悔しさが渦巻いていた。

「砲戦用意、皆さんは駆逐艦を頼みます」

そう一同に告げるとトリガーグリップを握り第一、第二主砲の射界、仰角を調整した。

徹甲弾装填よし、のブザーが鳴り安全装置が解除される。

前方に深海棲艦の艦隊が見えると、主砲の砲口を先頭と二番目の艦に向け、照準を合わせる。

読み通り先頭と二番目はリ級。flagship級を先頭にしている。

耐久性と火力でリ級では一番優れているタイプだ。

だが同じ重巡クラスの艦娘の砲撃に耐えられても、愛鷹の三一センチ主砲にはとても耐えられないだろう。

重巡二隻を一度に仕留めるチャンスは一回しかない。

後続の駆逐艦五隻への撃退に時間をかける余裕もない。

主砲の射界確保に左へ五度進路を変更し、トリガーグリップの引き金に指をかけた。

「右対水上戦闘。

第一主砲、指標一番のリ級flagship、第二主砲指標二番のリ級elite級へ指向。

撃ちー方始め! てぇーっ!」

六門の三一センチ主砲の砲口から炎が吹き出した。

炎は黒煙へと姿を変え、その中から徹甲弾六発が飛び出して二隻のリ級に向かって空気との摩擦で赤く光りながら飛んでいった。

すると深海棲艦の艦隊が思わぬ行動に出た。

リ級二隻と駆逐艦一隻が速度を落とすと、後続の三隻の駆逐艦が前に出たのだ。

当然だが三隻の駆逐艦に三一センチ主砲の砲弾が命中し、三隻は大爆発を起こして轟沈する。

しかも直撃を受ける直前に三隻の駆逐艦はそれぞれ三発の魚雷を第三三戦隊に放っていた。

「何ッ!」

その自ら盾になる光景に驚愕しながらも回避を命じる。

「自分から弾を受けるなんて!」

「とんでもないことしやがる!」

信じられないと夕張と深雪が表情を凍り付かせながら喚いた。

迫る九本の白い殺人者の線を六人は躱すと、再び単従陣に組みなおした。

崩れた体制を立て直しに愛鷹は第四戦速への減速を命じると、主砲の再装填が真に似合わない事を考え、左手に第三主砲を直接構えた。

自身に照準を合わせて砲撃を開始したリ級flagshipに狙いを定めると即座に発砲する。

三本の砲身が勢い良く後退し、砲身から勢いよく砲弾と砲炎が吐き出される。

砲炎が風に流されて消える一方、撃ち出された三発の砲弾は今度こそリ級を捉えた。

二発の主砲弾を受けて吹き飛ぶリ級だが、直前に放った砲弾二発は愛鷹への直撃コースに乗っていた。

(拙い!)

弾道を見て愛鷹は自分に飛んでくる二発の内、一発は弾き飛ばした場合後ろの仲間に被害が出る事に気が付いた。

防護機能で直防ぎするしかない。

右手持ちの刀で砲弾一発を切り裂くと、第三主砲の天蓋に防護機能を展開させて直に受け止めた。

戦功と轟音を立てて左手に激しい衝撃が走るが、何とか耐え抜いた。

「愛鷹さん」

上ずった声で自分を呼ぶ蒼月に右手を上げて大丈夫だと告げる。

じんと左腕が痛んだが、大丈夫だ。

「旗艦指示の目標、残りのリ級とハ級へ全艦随意射撃!」

「カウンターパンチだ、やるぞ!」

そう言うなり深雪が連装砲を構えるとハ級へ一二・七センチ主砲弾を二発浴びせ、蒼月がバックアップに長一〇センチ砲弾を撃ち込む。

リ級に衣笠が砲撃を行い、夕張が援護の射撃を放った。

ハ級とリ級も砲弾を撃ち返すが二対一からの砲撃の差が大きすぎた。

それでも瀕死のハ級が放った砲撃の一発が深雪の頬を掠めた。

短時間に複数の砲弾を撃ち込まれたリ級が炎上しながら動き止めて海上に崩れ落ち、ハ級が原型をとどめないほどに損傷して沈没を始めた。

「敵艦全艦沈黙……皆さん、怪我は?」

「ってぇ……ハ級の奴の弾がほっぺた掠めたんだけど、くっそいてぇ」

頬に手を当てて顔をしかめる深雪に蒼月が寄ると、手を離させて様子を見る。

「あー、血が出てます深雪さん」

「マジかよ? って涙声になるなって蒼月。かすり傷だ、唾つけとけば治る」

痛みを堪えながら深雪がぎこちなく笑う。

そう言われても心配です、と言う顔の蒼月は救急キットから絆創膏を出して深雪の頬に貼った。

「ありがとな、蒼月」

「深雪ってさ、絆創膏をほっぺに貼るとガキンチョっぽくなるよね」

頬に絆創膏を貼った深雪を見た瑞鳳がクスクスと笑いを堪えながら言うと、衣笠もその通りだと相槌を打ちながら頷いた。

「ガキンチョって、深雪様はもう一八だぜ?」

「充分若いわよ、ってか深雪って私より八歳下だったんだ」

「へえ衣笠は二六か、四捨五入したら三〇だな」

「はっ倒すわよ?」

眉間にしわを寄せて低い声で言う衣笠に夕張が「若いわねえ」と苦笑いした。

「歳の差話は後です。早くここから離れましょう」

制帽を一旦脱いで頭に風を通しながら愛鷹が五人に言った。

自分に謝りながら集まる五人を見て、被りなおした制帽の鍔を摘まんだまま空を軽く仰ぎ見てふと思った。

 

もし普通の人間として自分が生まれていたら、今の私は何歳になるのだろう、と……。

 

 

「マジックより入電です。戦闘機隊は敵電子戦機一機目を撃墜。

現在二機目と三機目を捜索中」

通信士官の報告に立石は腕を組んだまま尋ねた。

「第三三戦隊との連絡は?」

「まだです」

「くそ……どこに隠されてしまったんだか……。

まああいつらの方も、こっちに帰る為に悪戦苦闘中だろうな」

生きて帰れよ、と心の中で祈る。

この指揮所内から見守り、祈るだけの自分にもどかしさを感じなくもない。

お前らの帰りを待ってるやつらがいるからな……悲しませるなよ。生きて帰る事も……。

「司令、マジックから緊急入電です!」

通信士官の一人が自分に振り返って緊張した顔を向けて来た。

無言で先を勧めると通信士官はマジックからの報告を読んだ。

「ヒットマン7-1が戦艦二隻を含む六隻の艦隊を発見しました。

艦種はル級elite級二隻、イ級四隻です」

「戦艦二隻だと? くそ、敵の水上打撃部隊か。こっちへ向かっているのか?」

「いえ発見位置から北北東へ向かっています」

「ただの哨戒部隊か? いや、奴らの先に第三三戦隊アリだな。

後を追わせろ、電子戦機は他の連中に任させろ。

第五特別混成艦隊にはトレースした戦艦二隻の艦隊の位置を送って、直ちに攻撃隊を出撃させるよう指示を伝えろ」

「了解」

 

 

立石の指示は直ちに第五特別混成艦隊の伊吹に届けられた。

「了解、八機の橘花改を上げるのに一〇分、いえ八分下さい」

(五分は無理か)

「無理な注文には無理とお答えします」

(了解した)

通信を切り、即座にアングルドデッキを展開すると橘花改八機の発艦準備を開始する。

エレベーターで八機の橘花改が甲板に上げられ、カタパルトに向かう。

「間に合いますかね」

少し不安そうに聞く鳥海を一瞥して、伊吹は答えた。

「航空機、殊にジェット機となるとこれでもかなり早い方です。

カタパルトの射出圧力チャージにはどうしても時間がかかりますから」

「凄い轟音ね、耳が痛くなりそう」

輪形陣の殿を務める愛宕が慣れないジェットエンジンの轟音に表情を歪める。

「目が覚めるよ、この音は」

ぼそぼそと言う声ながら言葉通りの目つきで初雪が言う。

文句ばっかり、と溜息を吐きながらも、まあ慣れは誰にでも必要だと割り切った。

程なく、二機の橘花改がカタパルトに接続された。

「カタパルト圧力上昇、八〇、九〇、ポイント一五、三二、グリーンゾーン確認」

「射出用意よし」

飛行甲板上の妖精さんが親指を立てると、伊吹は発艦許可を出した。

「ジェスター2-1、発艦シーケンスに移行。発艦を許可する。2-2は続けて発艦せよ」

航空妖精さんが乗る橘花改がエンジン音をさらに高め、機尾側に上げられたジェットブラストデフレクターに噴射の熱を吹き付ける。

直後カタパルトが橘花改を打ち出した。

「ジェスター2-1の発艦を確認」

(2-1、グッドショット。異常なし)

「2-2の発艦を許可する。2-3、2-4は射出準備」

間もなくジェスター2-2が発艦し、一分に一機の間隔で伊吹は橘花改を射出し続けた。

 

 

どうにか最後の彩雲と合流を果たした第三三戦隊は輪形陣を組むと収容作業中の瑞鳳を護った。

最後の彩雲を収容すると単従陣に隊列を組みなおし、トラック基地へ針路をとった。

幸い収容作業中に電探に艦影が映る事も、ソナーで推進音が聞き取れる事も無く、多少メンバーは安心していた。

とは言え、最後の最後で気を緩めたら終わりなのは知っているので、あと少しだと気を引き締めなおし警戒に当たった。

空にある太陽の位置と航海道具、海図を確認し現在位置を計算した愛鷹はトラック基地まであと一時間の所まで来ているのが分かると、少し気が楽になる思いがした。

このままなら何事も無く帰投できそうだ。

「あと一時間でトラック基地です。もう少しです皆さん」

「このまま何事も無く帰られれば、なんですが」

緊張した表情の蒼月が周囲を見回しながら呟いた。

「これだけ基地の近くに来たんだから、もう大丈夫だろ。そろそろ無線も回復するだろうし」

楽観的に見ている深雪の言葉に蒼月はそうですね、と少し表情を明るくした。

だと良いんですが、とレーダー表示を見ながら愛鷹が思っていると対空レーダー表示に何かが映った。

「何かしら」

直後激しいノイズが画面に吹き荒れた。

「電波妨害? 電子戦機か」

「愛鷹さん、電探がノイズまみれで使えません!」

艤装に装備された電探が軒並みジャミングのノイズで使い物にならなくなった夕張の言葉に、愛鷹は嫌な予感がした。

 

自分のレーダーですら表示が不安定になっているという事は、電子戦機がかなり近くにいるという事だ。

深海棲艦の電子戦機はジャミング能力が極めて高く、人類側のレーダー類にとっては目の上のたん瘤以上のモノだった。

ダメもとでスカイキーパーを呼び出すが、ヘッドセットからはジャミングのノイズによる雑音しか聞こえない。

周波数を変えても同じだ。

そして、この表示不安定は自分と夕張のレーダーによる広域警戒監視能力を大きく削いでいる。

スカイキーパーを介した索敵も出来ない今、敵からの攻撃を事前察知しにくくなった状況だ。

これは拙い事が起きる前兆と言って過言ではないだろう。

 

「対水上、対空警戒を厳に。レーダーは使い物になりませんから各自目視で警戒を」

了解と返事が返され、全員が周囲警戒を始めるがすぐに深雪が水平線上に見える艦影を見つけていた。

青い海と空の境目に大きな黒い影と小さい影が二種類、複縦陣を組んでこちらに向かってきている。

「早速お出でなすったな。

方位一-八-〇に敵艦影発見、デカいのが二隻見える……ありゃル級だ」

「戦艦二隻!?」

ぎょっとした目で瑞鳳は深雪が見つけた方角の海に目を向ける。

機動性が低く、対水上戦闘能力が無きに等しい自分には全く相手にならない敵だ。

悪い事に交戦は避けられそうになかった。

仕方が無い、と愛鷹はル級とやり合う事にした。

牽制か、時間稼ぎ程度なら何とかできるだろう。相手は戦艦二隻以外比較的与し易い駆逐艦だけ。

「対水上戦闘用意、蒼月さんと夕張さんは瑞鳳さんを連れて北方へ避退。

衣笠さん、深雪さんは私と一緒に敵艦隊を迎撃します」

その言葉に衣笠が目を丸くした。本気か?

「砲撃が通用する相手じゃありませんよ!?」

「深雪様の魚雷がある、大丈夫さ」

にやりと笑って深雪は左太ももの魚雷発射管を叩いた。

まだ何か言いたげな顔をする衣笠だったが、深雪が目で心配するなと言うので言わない事にした。

どう相手するか、愛鷹は既に考え済みだった。

「私がル級の気を引きますから二人は駆逐艦の相手を。

数では圧倒的にこちらが不利ですから、お二人はヒットアンドウェイでお願いします」

「了解です」

「まかしとけ」

頷く二人に頼もしさを感じる一方で、ル級二隻はス級よりは楽かもしれないが、と自分が相手にする深海棲艦には不安を募らせていた。

しかし、やるしかない。どの道交戦は避けられそうにないからここは打って出るしかない。

「行きましょう、合戦準備、対水上戦闘用意。砲戦、雷撃戦準備。

最大戦速一-七-〇度ヨーソロー」

三人は愛鷹、衣笠、深雪と言う順の単従陣を組むと深海棲艦艦隊へ針路をとった。

深海棲艦艦隊の陣形は前衛に四隻の駆逐艦イ級後期型、後衛にル級二隻の複縦陣を組んでいる。

射程距離を生かし、戦艦が後方から射撃し駆逐艦がその支援を受けて前に出る……。

 

セオリー通りなら、この手で出るだろうが果たして相手がその通りに動くかどうか。

 

最大戦速で進む三人に深海棲艦側も増速をかけるのが分かった。

戦艦が射撃のために左右の艤装の主砲の砲身の仰角を取っているのが、太陽光を反射する砲身から分かった。

ル級の主砲射程内に入るが、ル級二隻は撃たないまま駆逐艦と共にこちらへと距離を詰めて来る。

この分だと反航戦となるだろう。

自分がル級二隻を引き付けている間に衣笠、深雪がイ級後期型を攻撃。

数の差における不利は明らかだが、こっちは場数を踏んだメンバー揃いだ。

自分も随分死線をくぐって来た、やれる、やってみせる。

ル級が主砲の照準をこちらに合わせ終わるのが分かったが、撃って来ない。

「もう砲戦距離だろ? あいつら撃たないのか」

「引き付けてから撃つんじゃないの?」

二人の会話に愛鷹は何かが違うと感じていた。

引き付けてから撃つ、と言うのは正解かもしれないが、別の狙いも入っている可能性がある。

正解はこちらから確認してみるか、と決めるとトリガーグリップを握りル級の内一隻に主砲の照準を合わせた。

「右対水上戦闘、指標二番の戦艦ル級。第一、第二主砲撃ちー方始め!

てぇーっ!」

六門の主砲が愛鷹の判断で命中確実の距離ギリギリから放たれた。

轟音と共に六本の砲身から砲炎が吹き出し、反対に砲身が後退する。

砲口から打ち出された六発の砲弾が確かな弾道を描いてル級へと伸びて行った。

これは確実に当たる。ダメージがどれくらい与えられるかは微妙だが、当たるはずだ。

 

そう思っていた矢先、深海棲艦艦隊が思わぬ動きを見せた。

戦艦の前にいた駆逐艦が一斉にジャンプして海上に姿を現し、その体に三一センチ砲弾を受け止めたのだ。

同じ駆逐艦娘の砲弾でもあまり耐えられない駆逐艦に、愛鷹の三一センチ主砲弾は過剰威力と言えるぐらいだ。

耐えられるはずがなく、全艦が三一センチ主砲弾の直撃で爆散した。

 

「回避運動を取らない……⁉ 盾だ……! 狂ってる!」

 

回避運動を取らず、駆逐艦が迷う素振りも見せずに自分の砲撃からル級の盾になる光景に、愛鷹は深海棲艦相手に初めて戦慄を覚えた。

爆沈していく駆逐艦の上げる黒煙越しにル級が砲撃を開始した。

黒煙が邪魔で正確な狙いをつけるのは難しい。レーダーがあてにならない以上レーダー射撃も難しい。

駆逐艦四隻を立てにするだけでなく、その爆発によって発生した黒煙を煙幕として利用する。

「散開! 砲撃回避後、三人で一隻を集中攻撃します。深雪さん魚雷を全弾当てる勢いでお願いします」

「任せろ!」

飛来した砲弾全弾を回避した三人は再び集まり、愛鷹の狙う左手のル級へ砲門を指向した。

ル級の副砲が三人に向かって砲撃を開始するが、当たるモノを愛鷹の刀が片っ端から切り落としていた。

「これ以上やらせない」

静かながら、胸の内では味方を平気で盾にする深海棲艦への怒りから来る激情を込めた声が出た。

「全艦、右主砲戦。旗艦指示の目標、指標一番の敵戦艦ル級。

撃ちー方始め! てぇーっ!」

再び三一センチ主砲が吼え、それに続く形で二〇・三センチ、一二・七センチ主砲の砲声が続いた。

たちまち六発の三一センチ主砲弾、四発の二〇・三センチ主砲弾、二発の一二・七センチ主砲弾の計一二発に撃たれたル級に着弾の爆炎が瞬き、黒煙がル級を一時的に包み隠す。

「速射、二人は撃ち続けて指標一番のル級に射撃のタイミングを与えさせないで下さい。

二番は私が相手します」

「了解」

二人の返事が返ると二〇・三センチ主砲と一二・七センチ主砲の連続砲撃が開始された。

二隻のル級は回頭して二人を射界に入れに入るが、リミッターを少し解除して猛スピードで吶喊して来た愛鷹に対応する事が出来なかった。

鞘から引き抜かれた白刃がル級の艤装の兵装を切り裂き、無力化していく。

ほんの僅かな間にル級の艤装が破壊され、戦闘不能になったル級が唖然とした表情を浮かべて愛鷹を見た。

僚艦が想定外の攻撃で無力化されたのに驚くル級は、深雪が放った必中の魚雷三発に気が付くのが遅れた。

三回の爆発音が轟き、ル級が黒煙を上げて動きを止め、もう一隻は完全に形勢不利であることを知り逃走に入った。

 

「逃がすか」

深雪がまだ発射していない魚雷発射管の発射口を逃げ出すル級に向けた時、愛鷹が「撃ち方止め」を告げた。

沈めないで逃がすのか、と深雪が愛鷹を見る。

無言の問いに愛鷹は本来の自分たちの作戦の要点を深雪に告げた。

「不要な交戦は避けます。今はトラック基地に帰還する事を優先します」

何処か有無を言わせない口調だったので、抵抗せず深雪は黙って従った。確かにそれを前提にこの行動に出ているのだから。

「瑞鳳さん達と合流しましょう」

「そうだな。早い所ここからずらかるか」

「ええ。逃げるが勝ち……」

その時、胸から全身にかけて強烈な苦しみと痛みが走り、反射的に口元に右手を当てた。

堪え切れなかった鼻をツンと突く赤い液体が口から噴き出すが、当てていた手で吐き出すことは避けられた。

一方で体に駆け巡る苦しみは凄まじく、咽込みながら愛鷹は膝をついた。

「愛鷹⁉ おい、しっかりしろ! 衣笠、発作だ!」

慌てて深雪が崩れ落ちかける愛鷹の体を支えに入る。

以前見た時ほど酷くはないが、苦しみ方が酷い。

呻き声を上げて苦しみと戦っているのが分かった。

震える大きな背中をさすりながら「衣笠、ぼさっとしてないで手伝え!」とどこかにいる衣笠に怒鳴り声を上げた時、衣笠の悲鳴じみた警告が飛んできた。

「別の敵艦隊、戦艦二隻よ! う、撃ってきた!」

「なに⁉」

「……⁉」

その警告に深雪と愛鷹がぎょっとした時、飛翔音が二人の元に迫って来た。

頭上から大きくなってくる砲弾の飛翔音に深雪が上を向いた時、出し抜けに動いた愛鷹が自分を掴むと抱きしめる様に覆いかぶさった。

 

「よせ愛鷹!」

 

体格差を生かし、自身の体で深雪を護ろうとしている愛鷹に深雪が抵抗の声を上げた時、防護機能が展開される瞬間的な音と「衝撃に備えて!」と絞り出すような愛鷹の声が返された。

咄嗟に深雪が身構えた時、二人を「トラック基地の航空隊が見つけた方の戦艦部隊」から放たれたル級の砲弾が包み込んだ。

耳を聾する爆発音と衝撃が走る中、愛鷹の上げる苦悶の声が馬鹿になる直前の深雪の耳に刻み込まれた。

それでも深海棲艦の盾行為に激怒しながら、深雪の為に自ら盾になる愛鷹は抱きしめる力を緩める事は無かった。

 

アイツらとは違う……! 私は守りたい命があるから盾になるんだ!

 

意識が暗転する直前、胸の内でそう愛鷹は叫び声を上げていた。

 

 

「くそ、遅かったか!」

ヘッドセットから入るジェスター隊からの報告に伊吹は罵声を吐いた。

戦艦ル級二隻は八機の橘花改の爆撃で大破し、一隻を撃沈確実に追い込んだが、僅かにその攻撃が間に合っていなかった。

旗艦愛鷹被弾大破、怪我の程度は不明。

爆撃効果を確認した後、被弾した愛鷹の状況を告げるジェスター2-1の言葉に、伊吹は「RTB」とだけ返した。

ヘッドセットから手を離すと、その手をぐっと握りしめ、伊吹は命令を発した。

「全艦、第三三戦隊の救援に向かいます。最大戦速!」

「了解」

五人の僚艦からほぼ同時に返事が返された。

 

 

するりと大和の手からマグカップが零れ落ち、床に落ちて砕け散った。

カップの中の紅茶が床と靴に飛び散る。

「大和さん?」

カップが割れる音に驚いた翔鶴が大和の方を見ると、何かを悟ったような眼を大和は浮かべていた。

「どうしたんですか?」

屈んでカップの破片を拾い始めた翔鶴は大和の呟く言葉に、一瞬手が止まった。

 

「死なないで……もう死なないで……」

 




久しぶりの二万字越えのお話となりました。

一難去ってまた一難の第三三戦隊の苦闘は、今後の戦いにつなげられるのか、仁淀の為に悪に堕ちた大淀はどうなってしまうのか。

今後の展開にご期待ください。
2019年の残すところあと一か月となりました。
今年最後のイベントも始まり、ついにオーストラリア海軍巡洋艦パースが公式に実装されました。
神州丸、USSヒューストン、パース、オランダ海軍巡洋艦デ・ロイテルと新顔が続々と揃う一方、敷波改二は果たして来るのか……(青葉改二の公式実装は……)

新実装艦が出る度にこちらでも登場する事になる艦娘が増えるので、いい意味と悪い意味の両方の悲鳴が出そうです。

ではまた次回のお話でお会いしましょう。

追記:ス級に続く新たなオリジナル深海棲艦の登場をこの場で予告します。
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