艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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予告タイトルと変わってしまいました……。

本編をどうぞ。


第三四話 目標指示

試験結果は満点合格だった。

念願と言うモノは特に無かったが、自身の努力の結果の証としては良いモノだ、と青葉は肩章を見ながら思った。

一方で、昨日の出来事がどうにも頭に引っ掛かる。

なぜ、あまり使用されていない倉庫群で自分は倒れていたのか。

生憎防犯カメラの類が無い場所だから、第一発見者の若葉以外あの事を知っている者はない。

綺麗に頭の中から切り取られた感じだ。

私的制裁でも喰らって、脳に傷でもついたのか?

しかし、特に殴られたと思しき頭意外に暴行を受けた痕は無かった。

一応江良の元へ行って検査してもらったが、脳には何の傷は無いと返された。

腑に落ちないモノを感じながら青葉は新しい甲改二化された自分の艤装確認の為、工廠へと向かった。

 

工廠では明石、三原、桃取の三人が工廠妖精と一緒に様々な艤装の整備にいそしんでいた。

「どもー青葉です」

「あ、青葉、丁度いい所に来たわね」

青葉の艤装のチェックに勤しんでいた明石が顔を上げて手招きする。

何だろう、と明石のところに行く。

真新しい自分の艤装に目をとられながら明石に寄ると、分厚いファイルを明石は手渡した。

「はい、艤装の取説」

「マニュアルですか、使い方なら頭に入ってますよ」

「細かい補正を入れた改訂版だから持っておいて損はないわ」

受け取ったマニュアルは意外にも重い。全部読むだけで一日が過ぎてしまいそうだ。

だが新しい自分になるのなら、読んでおいて損はない。今の青葉は第三三戦隊メンバーとは離れ離れ状態だ。

第三三戦隊仲間が日本に帰って来た時、自分の新しい姿を見せてみたかった。

確か今トラック基地にいる筈。

「皆元気かなあ」

「元気にやってるんじゃないの? 青葉の自慢の妹がいるんだから」

「ガサはですねえ、割とメンタルが脆かったりするんですよ」

「へえ、妹想いね」

微笑を浮かべる明石に青葉も笑みを返した。

血は繋がっていないし、多分家系的にもつながりはないが、終身軍人である艦娘には姉妹艦は家族も同然だ。

 

ただ、愛鷹さんは……ね……。

 

笑みを浮かべる顔とは裏腹に、壮絶な生い立ちの愛鷹の事を考えたら悲しい気分にもなるし、心配でもある。

 

今頃どうしているのだろうか。元気にやっていると良いが……。

遠いトラック基地にいる仲間たちの事を想うと、今の自分に焦れる思いがした。

 

「そう言えば、昇任試験どうだったの?」

「合格です。少佐になりましたよ」

「良いわねえ、佐官なんて。まあお給料がちょっと上がる程度だけどね」

「ある程度のやりたい放題も出来るんじゃいないっすか?」

脇から軽口をたたく桃取に青葉は苦笑を浮かべた。

「調子に乗り過ぎたら、青葉は降格処分になりますよ」

「大丈夫かなー? 大体青葉のせいなトラブルあるし」

「それは偏見ですよ」

「案外そうじゃないかもしれないわよ? 衣笠型重巡青葉って呼ばれるくらい衣笠の方がしっかりしてる時あるし」

「明石さん……青葉に喧嘩売ってますか?」

衣笠型青葉と言う呼び方は、流石に青葉も姉としてのプライドに傷付くだけに、柄にもなく右手が拳を作る。

見事に地雷を踏み抜いてしまった事に気が付き、明石は「ご、ごめん青葉。冗談が過ぎたわね」と謝った。

滅多なことで青葉は怒らない、と言うよりもよく怒られる側だから、目つきと声でかなり怒っているのは明石にも分かる。

謝ると青葉はすぐに許してくれたが、明石は「ブチギレた青葉って、結構怖いオーラ出すんだ」と内心恐怖に似たモノを感じた。

 

 

日が暮れたトラック基地で艦娘達は戦闘配食のエネルギーバーとビスケットと言う味気ない夕食を摂っていた。

ス級elite級の存在は脅威以外の何物でもなかった。

空母棲姫を含む艦隊はマジックのレーダー探知可能範囲から離脱したが、ス級を含む艦隊には軽空母ヌ級flagship一隻を含む増援艦隊六隻が展開していた。

伊勢と日向は砲撃戦でのダメージ回復に少々時間がかかる見通しだ。

更に翔鶴の主機の破損が思ったよりも酷く、ル級四隻の取り巻きを撃退した矢矧たちも艤装や体に傷を負っており、艦娘達は皆消耗していた。

チョコレート味のエネルギーバーを食べ終えた愛鷹は、衛生兵の手で医療処置を施され、負担をかけない様に三角巾で吊るした左腕を見た。

今の自分には出来る事は無い。

疑似戦艦として使用した大和改艤装の四六センチ主砲弾はル級相手に消耗しており、更なる砲戦を行うには余りにも心細い。

補充できる弾薬も無く、完全に戦力外だ。

 

皆黙っていた。

ス級、それもelite級の存在がかなり響いていた。

それもそうだろう、と愛鷹は全員が抱く心境に同情を覚えていた。

ス級に対して、銀河陸攻とP51で編成された攻撃隊がことごとく撃退されて手が出せなかったのだ。

沖ノ鳥島海域でのス級は航空攻撃に脆かったが、elite級になるや防空任務に当たる事が多いツ級以上の対空砲火を撃ち上げて来たのだ。

三分の一の銀河がス級一隻に撃墜され、残りもツ級の弾幕に阻まれて近づけず、駆逐艦一隻に中破と言える損傷を負わせるにとどまった。

第二波も同様の損害を被り、航空攻撃による撃沈は損害ばかりを出すだけと判断された。

橘花改なら、と第五特別混成艦隊の伊吹から八機の橘花改がス級への爆撃を敢行したが、結果はツ級一隻大破、橘花改二機撃墜に終わった。

どうやってあのス級を沈めればいいのだ、と艦娘達を含むトラック基地の兵士たちは考えるが、解決策は出ない。

こちらの航空攻撃が効かないとなると、水上部隊をぶつけるのが早い話だが、現状ス級と渡り合える火力がない。

夜戦でなら分があるかもしれないとは言え、ヌ級一隻が加わったおかげで夜間でも深海側からの航空攻撃を受けるのは目に見えている。

何か手はないのか、と思っても思いつくものはない。

幸いス級の展開位置は変わっていないし、特に動きも無い。

超射程の主砲でも流石に射程外なのか、撃って来ない。

事実上の睨み合いだ。

 

 

長い夜になりそうね、愛鷹は溜息を吐きながらドック作業員の差し入れの缶コーヒーに口を付けた。

それにしても展開こそしているが、動きがないス級に疑問が出る。

何故何のアクションも起こさないのか。

水平線の向こう側にいる為、基地の水上監視レーダーでは羅針盤障害による探知範囲減退もあって、マジックからのデータリンク情報だけが頼りだ。

どうしたものか、と考えると近接戦闘、つまり自分が刀で艤装を破壊する、と言うやり方しか思いつかないが、elite級となるとこれまでのセオリーが通用するとは限らない。

下手すれば返り討ちに合って死ぬ可能性もある。

返り討ちにされるのは勿論御免だ。無謀に過ぎる。

幸い立石はその危険性は分かってくれている様で、愛鷹を軸とした決死隊編成は自分から「認めない」と言った。

じゃあ、どうすればいいのか。

考えても始まらないばかりだ。

 

 

息が詰まりそうな程沈んだドックから出て、灯りの隠せる場所で葉巻を吸って気を紛らわせる事にした。

膠着状態、待つのは……まあ、苦手ではないけど……。

ふと夜空を見上げる。

灯火管制を敷いている為、かなり星が見える。

 

綺麗だ、と煙を吐きながら思った時、その夜空に一二個の赤い火球が現れた。

 

「え」

葉巻が口から零れ落ちた時、火球が基地施設に着弾し、地響きと大爆発の轟音、閃光が走った。

敵襲を知らせる警報が基地一杯に響きわたりだす。

何が起きている⁉ と一瞬理解できずにいると再び一二個の火球が夜空から基地施設に降り注いだ。

ス級の艦砲射撃だ、とようやく理解したがス級は水平線の向こうにいるし、距離的に散布界はかなり広くなる。

だが砲弾はかなりまとまって基地施設に落ちてきている。

この命中精度は……elite級になればここまで集弾性が高い超長距離砲撃を出来るのか?

警報音と基地要員の怒鳴り声、火災消火の消防車の走る音が聞こえてくる。

一方的に撃たれているトラック基地は、このままでは全員嬲り殺しだ。

 

 

「航空基地より連絡、燃料タンクが引火爆発。延焼が酷く消火不能!」

「レーダーサイトにも被害」

「どうやってこれほどの精密砲撃をしているんだ」

一気に慌ただしくなった指揮所で飛び交う被害報告に、立石は唇をかんだ。

マジックからはス級の位置は未だ変わらず、と報告が入っている。

つまりス級は水平線の向こうから精密な艦砲射撃を行っている。

なぜ、ここまで精度の高いアウトレンジ砲撃が……。

そこへ艦娘達がいるドックから連絡が入った。

受話器を取ったカーペンターが一言二言話して、立石に振り向く。

「司令官、駆逐艦深雪が直接話したいと」

そうやって渡された受話器に耳を当てる。

「私だ、話は何だ」

(司令官、基地の近くで怪しい無線か何かが出ていないか確認してくれないか)

上官に聞いていい口とは言い難いが、今それはどうでもいい。深雪はこのアウトレンジ砲撃の原因が分かっているようだ。

「どう言う意味だ?」

(ス級の位置は変わってないのに、ここまで精密な砲撃が出来ているって事は、どっかで弾着観測をしている奴がいるって事だよ)

そう返す深雪の言葉に立石は成る程、と思いつつ問う。

「可能性はあるが、そうだと考えられる根拠はあるのか?」

(勿論さ、父島から撤退中の時に似た事を経験済みだからな。弾着観測をやる深海の艦を潰したら射撃が止んだ)

そう言えば、と立石は第三三戦隊が父島から撤退する揚陸艦護衛中にス級を含む艦隊の襲撃を受けた、と言う話を思い出した。

実際に経験した事があるからこその根拠だ。

「実体験か、成る程。よし電波発信源の特定してみる。貴官らは夜間合戦準備部署で待機」

受話器を置くと立石はマジックや手空きの者に基地周辺海域からの電波発信源特定の指示を出した。

その間にも砲撃が着弾し、被害報告が続々と入って来る。

(こちらマジック、電波発信源を特定。ただしレーダー反射が極めて微弱です)

半潜水状態の駆逐艦か、それとも……潜水艦か。

「座標を寄こしてくれ。ドックに連絡、夜間対潜戦闘準備だ」

 

 

「夜間の対潜戦闘とは、随分難しい話ね」

渋い表情を浮かべる由良だが対潜装備をチェックする手は止めない。

夜間の対潜攻撃は危険度が高い為、艦娘では夜間対潜攻撃は専門課程を修了しておく必要があった。

自身の艤装に爆雷を積み込む夕張が、渋い表情の由良に返す。

「けど、目を潰せば艦砲射撃が止むわ」

「まあねぇ、でも課程修了済みメンバーが私と夕張、浦風だけって言うのが」

「心配ないけえ、うちは結構場数は踏んどる」

心配なし、と返す浦風に磯風が「油断するなよ」と念を押すように言う。

それに朗らかな顔で彼女は返した。

「大丈夫じゃけえ、心配ないよ。ウチは必ず帰るから」

 

程なく準備を終えた三人が出撃ドックに立つと注水が行われ、夜間の対潜戦闘に出撃した。

全員が出撃する三人を見送る間にも、艦砲射撃は続いていた……。

 

 

事前に伝達されていた電波発信源の元へ向かう間、基地での大火災が海上を進む三人を照らしていた。

照らし出されていると、潜水艦には潜望鏡でこちらを確認しやすいのでかなり危険なのだが、遮蔽物も無く、回り道をしている暇が無い。

最大戦速で電波発信源の近くまで近づくと、ソナーによる聴音がやりやすい前進強速へと減速した。

電波発信源はこの辺りね、と夕張が思った時、トラック基地から通信が入った。

(電波発信源がジャミングで特定不能になった。ジャミング元は不明だが、恐らくブイの様なものだ。

電探で海上を走査してジャマーを確認次第、スポッターをしている深海棲艦を撃沈しろ)

「事前に複数のジャミングブイを敷設してた……こっちの動きを読まれている」

冷や汗が夕張の額に流れる中、由良と浦風が電探で海上を捜索する。

「電探による感あり。ジャマーは……多分五個ね」

「邪魔やなあ……手間じゃけど一つ一つ潰すしかないの」

羅針盤の電探捜査結果を確認する由良に、主砲を構えた浦風が溜息を吐く。

最初のジャマー破壊を破壊しに三人は進路を変更した。

逆探でジャミングブイの位置を確認した三人が、夜目を聞かせて海上を見つめる。

ブイだけではない。潜水艦からの不意打ちにも備えなければならない。

水上部隊は確認されていないので、海面監視と対潜警戒だけで大丈夫だ。

周囲を見回していると夕張の目に触発機雷の様なものが目に入った。逆探の反応もあそこから強く発生している。

「ジャミングブイ発見! 私が破壊するわ、二人は援護と警戒を」

「了解」

二人の唱和した返事を聞きながら夕張は一四センチ連装砲の砲撃を撃ち込んだ。

夜空に夕張の放った砲弾が赤く光りながら飛んでいく。

それほど距離は離れていないからすぐに着弾し、初弾命中にもなった。

海上に閃光が走り、当たった、と夕張が思った直後轟音と共に水柱が突き上がった。

「え、なに? 凄い爆発が起きたんだけど」

驚く夕張に浦風が舌打ちをした。

「あのジャミングブイは破壊したらソナーの聴音が出来なくなるんや。ソナーが残響で何にも聞こえん」

「残り四つを破壊したとしても、すぐには聴音で居場所を探れないって訳ね……厄介だわ」

考えたものだと夕張は感心すらしていた。

とにかく残る四基のジャミングブイを破壊するしかない。

逆探でジャミングブイの位置を探し、海上を目で見てブイを探す。

どれも深海棲艦が敷設する機雷に形状がそっくりだ。それも対船舶用の大型の触発機雷。

艦娘には反応しないが、爆発すれば大型船ですら大きなダメージを受けるから、所詮は人間である艦娘にとって爆発に巻き込まれるのは「死」と同じだ。

破壊するたびに海中は轟音に包まれ、パッシブソナーがまるで役に立たない。

アクティブソナーを使えば、エコーの反響で特定はできるが夜間の対潜戦闘でアクティブソナーを発振するのは自殺行為だ。

パッシブと比べたら潜水艦の位置を特定しやすいが、同時に自分の位置もばらす事になる。

四基目を由良が撃破してジャミングがかなり静まる。しかし、残り一基になっても妨害電波は強くトラック基地側からの電波発信源特定が出来ない。

とにかくあと一つ、と三人が残るジャミングブイへと向かう。

艦砲射撃は続いているが、艦娘のドックへの被害は無いのが幸いだ。

「見えた、あそこじゃ!」

海面を見ていた浦風が指さす方向にジャミングブイらしき黒いモノが浮かんでいた。

「浦風、破壊して、私と夕張で海面警戒するから」

「了解」

二人が海面監視を行う中、浦風の一二・七センチ主砲がブイに向かって砲弾を撃ち放つ。

着弾の閃光が走り、爆発音と共に水柱が突き立つ。

「最後のを仕留めたよ」

少し得意気に浦風は由良と夕張に振り返って告げると、由良は頷きトラック基地に報告を入れた。

「よし、トラック基地、ジャミングブイの全基破壊に成功。再度特定を」

(今やっている、待機してくれ)

海面は比較的穏やかだが、海中はジャミングブイ破壊時の轟音で聴音がほぼ出来ない。

耳ではなく目で確認するしかない。

(よし、位置を再特定した。そこから西に二キロ離れている。破壊を急げ。

基地の損害が流石に拙いレベルに入りつつある)

「了解、行きましょう」

相当な数の砲弾を撃ち込んできているから、ス級の弾薬ももうじき切れるのでは? と思いながら夕張は由良の後に続いた。

海面を警戒する由良と夕張とは違い、パッシブソナーの聴音を続ける浦風だが、残響が思った以上に残っており、しばらく静かになりそうになかった。

「パッシブは無理じゃの。潜水艦探すにはアクティブじゃないと無理かもしれん」

「アクティブだと確実性はあるけど、潜んでいるかもしれない別の潜水艦の襲撃を受けかねないわね」

真顔で返す由良の言う通りだ。

かなりの潜水艦が展開していたこの海域は、潜水艦の脅威もまだ残っている。

電波発信源に近づくにつれ、基地への砲撃の弾着音が遠ざかって来た。

静かになって来た海に不気味さすら感じていると、夕張の目に何か光るものが一瞬見えた。

目を凝らしてみると、潜望鏡だった。深海棲艦の潜水艦だ。

「コンタクト! 潜望鏡視認!」

「私も視認したわ。対潜爆雷投射用意」

三人が爆雷を準備していると、潜望鏡が海面下に沈み始めた。

こちらの存在に気が付いたようだ。

逃げられた、と三人が苦い顔を浮かべてソナーでの聴音をはかる。

残響は静まって来ているので、潜望鏡を出していた深海棲艦はすぐに位置が分かった。

位置が分かれば問題はない。

「爆雷攻撃はじめ!」

由良、夕張、浦風が爆雷を海中に投下すると、海中内で爆発する爆雷の轟音が響き渡る。

ジャミングブイを破壊した時よりは静かな方だが、パッシブソナーの聴音能力が落ちるのは変わりない。

海中内での轟音が続く中、夕張は爆発音とは違う音が聞こえたのに気が付いた。

ごぼごぼと言う泡が弾ける様な音だ。

何の音、と首を傾げた時、金属的な破損音が爆発音と共にソナーに入り込んだ。

潜水艦が撃沈される音だ。もろに直撃を受けたらしく、爆発音が大きい。

「潜水艦の撃沈を確認!」

ガッツポーズをとる浦風に由良もこれで大丈夫ね、と安堵の息を吐いた。

潜水艦を攻撃している間に、艦砲射撃の着弾音も聞こえなくなっていた。

基地の損害は少なくないが、当面心配は無いだろう。

「ひとまずは助かったわね」

ほっと夕張も胸をなでおろす気分になった。

由良がトラック基地へ弾着観測を行っていた潜水艦撃沈の報告を入れる。

「こちら由良、弾着観測役の敵潜水艦は撃沈しました。基地の方は大丈夫ですか?」

(無視できる損害ではないが、何とかなる。よくやってくれた、三人とも素晴らしい戦果だ。

ドックへ帰投せよ)

「了解です」

早い所、みんなのいるドックに返ろうと三人は単従陣を組んで、基地への帰路に就いた。

ス級自体の脅威はまだあるが、弾着観測していた潜水艦が沈み、弾薬も消耗しているだろうから、一息は入れられそうだ。

一息入れながら対策を検討しよう、と思ったその時、浦風の叫び声が夕張の耳に飛び込んだ。

 

「魚雷、魚雷じゃ! 間に合わない!」

 

直後、浦風が爆発の轟音と水柱の中に消えた。

二人が何も出来ない間の事だった。

 

「う、浦風……⁉」

 

水柱が消えた後、俯せになって倒れる浦風の元へ二人は慌てて寄って抱き起した。

全身血まみれの浦風はピクリとも動かない。主機は跡形もなくなり、足はくっついているが出血が酷い。

動脈をやられている可能性が高かった。

「浦風、聞こえる? しっかりして」

セーラー帽が吹き飛んでいる彼女の顔を見て夕張が呼びかける。

ゆっくりと浦風が夕張に目を向け、口から血を溢れさせながら掠れそうな声で言った。

 

「磯風に……戻れなくて……ごめ……ん……て……みんな……に……後は……まかせ」

 

がくりと浦風の首がうなだれ、動かなくなった。

震える手で動かぬ浦風の首筋を探った由良は、ライトで浦風の目に光を片方ずつ当てる。

「そんな……」

「え?」

愕然とした様に呟く由良に、夕張が顔を向けると、非情な現実を由良は告げた。

 

「脈がない……瞳孔も無反応よ……浦風は……」

 

由良はそれ以上続けることが出来なかった。涙が溢れだして何もいう事が出来なかった。

泣き出す由良に夕張は構わず、止血処置を施し、動かない浦風をしょい込む。

「夕張……もう」

「諦められる訳ないでしょ!? 勝手に浦風が駄目とか言わないでよ。

絶対死なせない、対潜警戒で援護して!」

分かってはいるが、諦められなかった。蘇生措置で助かるかもしれない。

凄まじい剣幕で自分を叱責する夕張に頷き、ソナーで聴音をしてみると、潜航する潜水艦の音が聞こえた。

爆雷を構えかけて、やめた。もう爆雷を投じても潜水艦は逃げ切れるところにいた。

 

 

中々戻らない由良、夕張、浦風の無事を祈りながらもこっちも何か手を打たなければ、と考えていた愛鷹はある考えを思いついた。

指揮所と連絡できる受話器を取ると、立石の元へつないだ。

「司令官、この基地にレーザー誘導爆弾は何発残ってますか?」

(レーザー誘導爆弾? 何に使うんだ?)

「ス級を沈める解決策があるかもしれないので。すぐに出撃可能なF35戦闘機の数も」

(待っていろ、すぐに確認……なんだ……)

急に割り込んできた報告に立石が応じるのが分かった。

何を言っているのかちょっと聞き取れなかったが、HH60Kをすぐに出せ、と言う言葉は聞こえた。

HH60Kは戦闘救難ヘリ……。

 

「まさか……」

 

何かに気が付いた愛鷹が茫然とした様に呟いた時、(いいからやれ!) と初めて聞く怒鳴り声を上げる立石が受話器越しに聞こえた。

「司令官?」

(お前の作戦は後で聞く。そこで待機していろ)

そう残して立石は一方的に連絡を切った。

 

 

HH60Kの機内で由良と夕張は救急救命士二人が行うAED蘇生と心臓マッサージを見つめた。

AEDが行われるたびに華奢な浦風の体が跳ね、心臓マッサージを繰り返すが結果は同じだった。

諦めきれない二人の蘇生措置を瀬々笑うかのように、心拍、血圧無しを示すモニターが非情な電子音が発していた。

 

奮闘する救命救急士がモニターを見て、心臓マッサージをする腕を離し、うなだれた。

「……もう、駄目だ。諦めるしかない……」

悲痛な表情を浮かべるもう一人が、由良と夕張に頭を下げた。

「由良大尉、夕張大尉……。浦風大尉は……申し訳ありません」

沈痛な面持ちの二人の言葉に由良と夕張は何も言わず、浦風の遺体を見つめた。

救急救命士が浦風の首からドッグタグを一枚外した。

 

 

「クレイドル1から報告。浦風の死亡を確認、K.I.Aです……」

「畜生」

絞り出すような立石の言葉の元に、航空参謀がタブレット端末を持って近づいてきた。

「司令官。航空基地から連絡がありました」

艦娘の戦死と言う現実に黙る立石は、何も言わずに先を促した。

「航空機弾薬庫が艦砲射撃で破壊された他、駐機中のF35の大半が破壊されました。

ですが、レーザー誘導JDAM四発とF35四機が使える状態です。ただしGPS等の誘導システム不良が起きるのは確実の為、レーザー誘導役がどうしても必要です」

「了解した。ス級をそいつで沈める。すぐに出撃準備に入れ」

「は」

航空参謀が去った後、立石はドックと繋ぐ受話器を取った。

直ぐに出て来た愛鷹に立石は航空参謀からの報告を伝えた。

(四発ですか)

「そうだ」

それと心苦しい話が、と言いかけて止めた。

一旦受話器を置くと立石はドックへと向かった。

 

 

今トラックに展開している艦娘の火力では太刀打ちできないし、航空攻撃もまず効果は望めない。

しかし、艦娘がレーザー目標指示装置でレーザー照射を行い、そこへス級の対空攻撃が届かない高高度からF35戦闘機がレーザー誘導爆弾を投下すれば、ス級撃沈が望めるのではないか? いくら深海棲艦相手には誘導兵器の誘導機能が効かないと言っても、レーザー誘導なら行けるかもしれない。

勿論、ス級からの反撃はあるだろうが、こちらはレーザー照射をし続けるだけでいいのだ。

リスクはあるがこれしか道はない。

愛鷹の立てたス級撃沈策がこれだった。

艦砲射撃を行っていたからス級は今弾薬を消耗しているはずだ。四機のF35と四発のJDAMに望みをかけるしかない。

問題は誰が行うかだが……。

考え込んでいたところへ立石がドックに入って来た。

普段見せない悲しさを目に浮かべる立石に愛鷹は嫌な予感が的中しているのを悟った。

入って来た立石に気が付いた艦娘一人一人の顔を見て、立石は告げた。

 

「敵潜水艦の不意打ちを食らって、浦風が……戦死した。

蘇生措置を行ったが……残念だ」

 

 

ドックにいる艦娘全員の顔が凍り付いた。

立石が言った「浦風の戦死」が頭の中で理解するのを拒否しているかのようだった。

さっきまで普通に話していたのに、あの朗らかな広島弁の浦風が、死んだ。

「ほ、ホントなのですか……司令官」

声を震わせて尋ねる浜風に立石は無言で頷いた。

その時磯風が壁を思いっきり殴りつけた。今の自分が抱えるやり場のない怒り。

顔を俯ける谷風がすすり泣き、その肩に矢矧が手を置いた。

「苦しまなかったのだな、司令官」

拳を握りしめながら磯風が問う。

「あいつは、苦しむ事なく逝ったんだろうな?」

「……分からん」

「潜水艦は?」

「取り逃がしたそうだ……」

 

人の命は何て軽いモノなのだろう……先のラバウルで戦死した霞、そしてここでも浦風が戦死した。

こみ上げてくる激情を抑えながら、浦風の死を無駄にしない「かたき討ち」をしなければ。

 

 

「司令官、やりましょう。浦風さんの死を無駄にしない為に」

そう進言する愛鷹に立石が振り向く。

「潜水艦が徘徊する海域を突破して、奴に近づくのか」

「こちらが撃つ必要はありません。照射し続ければいいんです」

「危険に過ぎる。それより誰を出すと言うのだ?」

「ですが、他に手立てはないでしょう」

二人のやり取りに艦娘達が顔を向ける。

目を合わせている愛鷹と立石の間に深雪が入り込んだ。

「なあ、何の話をしているんだ?」

「F35四機にLJDAMを投下させて、ス級を沈めるんです」

「LJDAM?」

「誘導爆弾です。目標にレーザーを照射し、その照射されたレーザーを頼りに誘導し当てる爆弾」

説明する愛鷹に深雪が察した顔になる。

「一人では行かせないぜ」

「そう来ると思いましたよ」

他の艦娘達にも愛鷹のス級撃沈方法は聞こえていた。

「私がレーザー照射役として行きましょう」

挙手した大和が志願する。

この出しゃばりが、と愛鷹は大和を睨みつける。

その視線を大和は感じつつも、決意した表情で立石を見つめる。

「いえ、行くのは私です」

頭を振る愛鷹に大和は何か言おうとしたが、言えなかった。

「でも、愛鷹さんが使っていた大和改艤装はもう弾薬が」

言いかける衣笠に「戦闘をする必要はありません。回避とレーザー照射に専念するだけです」と遮るように答える。

「ス級には駆逐艦三隻と軽巡が一隻、それに増援のヌ級とリ級二隻、駆逐艦三隻が随伴しているんですよ。

回避に専念すると言っても、戦力差が大きすぎます」

念を押すように言う衣笠だが、愛鷹には止める気が無いのは分かっている。

なら夜目が効く自分が随伴艦として付いて行くまでだ。

「本作戦ではF35から投下可能な誘導爆弾は四発だ。それ以上に賭けられる余裕はない。

よって夜目が効く者、小破以下の者五名の志願者で愛鷹の随伴艦を募る。

志願する者は挙手しろ」

立石の言葉に深雪、蒼月、衣笠、磯風、浜風、谷風、大和など続々と手を上げる。

そうなるだろうと予測済みの立石は志願者の中から五人の艦娘の名を指定した。

「大和、衣笠、鳥海、蒼月、深雪の随伴を許可する。それ以外は待機だ」

「司令官、待ってくれ。私が行く。手数が多い方が」

抗弁するように磯風が名乗り出るが立石は取り合わなかった。

「同僚の仇を打ちたい気持ちはわかるが、その意思が敵を射る目に曇りを作る。その面で言うと一七駆は認めん」

「だが」

「反論は許さん」

言葉通りの許さない、と言う口調の立石に磯風は引き下がるしかなかった。

 

 

程なく愛鷹、大和、衣笠、鳥海、蒼月、深雪の六人の準備が行われた。

艤装に燃料を補給するだけでいい愛鷹に、作業員が片手持ち型のレーザー誘導指示装置を渡す。

「見た目は懐中電灯みたいな頼りないやつですが、照射ボタンを押し爆弾の直撃まで緑のレーザーを目標に照射し続ければ爆弾は当たります。

ただ、深海がいる場所では誘導システムにエラーが起きやすいという事に留意して下さい」

「F35の展開高度は?」

「ス級とツ級の対空射撃が届かない高高度で待機します。誘導システムがその間不良を起こさないかは祈るだけです」

受け取ったレーダー誘導指示装置を握りしめる。

艦砲射撃が止んで三〇分程が経過している。

行くなら今しかない。

「愛鷹、全員スタンバったぜ。行こう」

連装砲を手に深雪が呼びかけて来る。

初めて共同で艦隊を組む鳥海が愛鷹に一礼して来た。

「初めての共同作戦行動ですが、よろしくお願いします」

「こちらこそです」

 

準備が出来た六人はドックに入り、注水が完了すると愛鷹を先頭にした単従陣を組み、夜の海へ出撃した。

 

 

応急修理が終わった滑走路へF35AライトニングⅡ戦闘機四機がタキシングしていく。

各機のウェポンベイには一発ずつレーザー誘導型の誘導爆弾JDAMが搭載されていた。

それ以外の武装は固定武装の二五ミリガトリング機関砲だけだ。

(タワーよりアークライト1-1、1-2、1-3、1-4。二機ずつのフォーメーションテイクオフを許可する。

ランウェイクリア、風向に問題なし。クリアード・フォア・テイクオフ)

管制塔からの離陸許可を得たコールサイン・アークライトの四機のF35から「コピー」の返答が返り、アークライト1-1と1-2が同時に滑走路から離陸した。

二機が離陸すると1-3、1-4が同時に離陸していく。

夜の空にジェットエンジンの轟音を轟かせるF35四機は程無く高空へと舞い上がっていき、暗闇の中へと消えていった。

 

 

偵察機が見つけたス級含む艦隊の元へ愛鷹以下混成部隊は、暗闇の中で互いの位置を夜目と航跡で確認しながら進んだ。

誰も何も言わずに夜目を効かせて警戒監視をする。気を抜いたら不意を突かれて命を落とした浦風の後を追いかねない。

深雪と蒼月が爆雷を構えて、対潜警戒に念を入れる。

ソナーがある程度の探知範囲を維持できる第一戦速を保ちながら、二人は五感を澄ます。

愛鷹、大和、鳥海、衣笠の肩や艤装に見張り妖精も出て水上監視を行う。

月は出ているが、雲量もそれなりにあるので月光による見通しの良さも微妙な所だ。

双眼鏡を構えて警戒監視をする愛鷹のヘッドセットにマジックからの連絡が入る。

(マジックから愛鷹隊へ、作戦予定海域に入った。これより無線を封鎖する。

こちらからの伝達は行うが、貴隊からの返答は禁止だ。また電探の使用も禁止する)

了解、と愛鷹は胸中で応答し艤装の電探の電源を切った。

 

基地を出て一時間程が経つと、月灯りが少し良くなって来た。

海面監視はしやすくなるが、それは深海棲艦も同じだ。

目が良い深海棲艦が先にこちらを見つけたら、ス級がどう反応するか。

(こちらマジック。ス級に輸送艦ワ級flagship一隻と護衛と思しき駆逐艦二隻が合流するのを確認した。

主砲弾の補給を行う動きと思われる。このチャンスを逃す手はないぞ)

補給作業中ならス級は行動が制限されるはず。そうとなれば留意すべき脅威も取り巻きの艦艇だけに絞れそうだ。

潜水艦が不意打ちを仕掛けなければ、案外ス級撃沈のこの作戦は容易ではなくても高難易度ではないかもしれない。

(そう思って、失敗しないと良いけど……)

油断は禁物だ、と自分に言い聞かせながら愛鷹は腕時計と月灯りを照らし合わせて進路を確認する。

コンパスは障害が酷く使えないが、時計の針と月灯りで進路を探る原始的なこのやり方までは無効化されない。

予定しているコースからは外れていない。今のところは順調に進めている。

タブレットを口に入れて呑み下しながら、スカートのポケットに入れていたレーザーポインターを取り出す。

うっかり落とさない様にしっかりストラップを腕に巻いた。

そこへ再びマジックから連絡が入った。

(警戒、ス級の艦隊から重巡リ級flagship二隻、駆逐艦イ級後期型とロ級各二隻の艦隊がそちらへ向かっている。

おそらく向こうもそちらを捕捉したのだろう。電探及び無線封鎖を解除、交戦に備えろ)

「愛鷹、了解。全艦へ通達。敵艦隊から重巡二隻と駆逐艦四隻の艦隊が分かれこちらへ向かってきています。

電探及び無線封鎖解除、夜間対水上戦闘用意!」

了解、と五人から唱和した返事が返る。

「向こうからお出でなすったか。重巡二隻は確かヌ級の随伴艦だったよな」

「ええ。flagship級よ。ちょっと厄介な相手」

確認するように聞いて来る深雪に衣笠が返す。

リ級flagship級なら私の艤装で一蹴出来るのに……。

本来の自分の艤装なら造作もない相手だが、生憎今の自分には刀以外の武装がない。

自分がやられたらこの作戦は失敗だ。

「全艦へ達します。こんな言葉を使うのは本心ではありませんが、敢えて言わせて貰います」

言葉通りの苦みを噛み締めながら愛鷹は告げた。

 

「私の盾になって下さい」

 

「任せてください。砲弾の一発、当てない様私もカバーに入ります」

自信ある声で鳥海が返して来る。

「愛鷹さんは回避に専念して下さい。指一本触れさせませんよ」

「盾艦なんて仕事は好きじゃないけど、今回だけ深雪様はそいつを前言撤回させてもらうぜ」

意気込む蒼月と深雪の言葉に愛鷹は「頼みますよ」と応えた。

大和は無言のままだが、主砲を動かす音が聞こえるからそれを了解の意思だと受け取った。

 

そこへマジックから緊急通達が入る。

(警告、ヌ級より艦載機が発艦した。数は一二機、夜間攻撃機と思われる。

そちらへの到達予定時間は深海棲艦迎撃艦隊とほぼ同時だ。対空警戒も厳に)

空と海上からの同時攻撃、厄介だ。

これに潜水艦が割り込んで来たら対応しきれるか。

冷や汗が愛鷹の眉間を流れた。

 

やがて愛鷹の目に六隻の艦影が映った。

「コンタクト、進行方向に敵艦隊を確認。全艦両舷前進全速。

鳥海さん、衣笠さん、蒼月さん、深雪さんは前へ。前衛をお願いします。

大和は後衛、四人への火力支援及び対空対水上警戒監視」

「りょぉっかい! 前へ出るぜ、蒼月遅れるなよ」

深雪が真っ先に愛鷹の前へ出て、蒼月と鳥海、衣笠が主砲を構えて後に続いた。

四人の主砲が深海棲艦へと向けられる。

それに気が付いたリ級以下の艦隊も射撃の構えを取った。

「夜間正面対水上戦闘、主砲、撃ちー方始めー。

発砲! てぇーっ!」

有効射程に捉えた鳥海の号令と共に四人の主砲が砲口から砲炎を瞬かせた。

一瞬周囲が明るくなる発砲の閃光が海上に走り、徹甲弾が深海棲艦艦隊に放たれる。

初弾が着弾する前に、リ級がそれぞれイ級後期型とロ級二隻を引き連れて別れると四人を挟み撃ちにかかる。

主砲を深海棲艦に向け直した四人は衣笠と蒼月、鳥海と深雪と同様に二手に分かれて迎え撃つ。

リ級とそれぞれ従えているイ級後期型とロ級も砲撃を始め、砲炎を海上に迸らせる。

回避運動を取り、着弾する砲弾が付きたてる水柱を掻い潜って四人は射撃を行う。

蒼月の長一〇センチ砲が速射でロ級一隻に直撃弾を出すと、その連射速度と高い命中率で一気に追い込んでいく。

右手持ちの二〇・三センチ主砲から衣笠が砲弾を放ち、リ級flagshipの周囲に水柱を突き立てる。

リ級がそれを回避した所へ、左手持ちの主砲が砲口から火を噴いて二発の砲弾を叩き出し、直撃弾を与えた。

直撃を受けたリ級が姿勢を崩したところへ、ロ級が被弾したリ級の援護射撃を撃ち、衣笠に砲弾を浴びせる。

鳥海と深雪はイ級後期型からの砲撃を躱しながら、脅威度の高いリ級に集中砲火を浴びせる。

回避で手一杯になるリ級の援護にイ級後期型二隻が割って入ろうとした時、深雪の右足の魚雷発射管から三発の魚雷が発射された。

一発がイ級後期型の先頭を過り、頭を抑えた所へ残る二発がイ級後期型二隻を同時に仕留めた。

「全弾命中、轟沈確認! 参ったか深雪様の深雪スペシャル」

ガッツポーズを取りながら深雪が口元に笑みを浮かべるが、すぐにリ級と撃ち合う鳥海援護に回る。

鳥海の二〇・三センチ主砲弾はリ級を中々捉えられない。流石にflagship級となると動きがかなりいい。

有効弾を出せず、焦りを浮かべる鳥海に、深雪が「焦るな鳥海」とさりげなくフォローしながら一二・七センチ主砲の砲弾を撃つ。

 

その時、大和から警告が発せられた。

「対空電探に感あり。深海棲艦の夜間攻撃機一二機、低空から接近中!

対空戦闘用意!」

五一センチ連装主砲が夜間攻撃機に向けられ、砲身に対空弾が装填される。

「全主砲、三式装填。右対空戦闘、主砲撃ちー方始めー。

発砲、てぇーっ!」

際立つ大口径主砲の発砲炎が海上に走り、六発の砲弾が夜間攻撃機の鼻先へと放たれる。

三式弾改二の散弾の雨を浴びた三機が姿勢を崩して海面に突っ込み、バラバラになるが残る九機は編隊を組みなおして愛鷹と大和を攻撃するコースに乗った。

「弾幕を張れ! 近づかせるな!」

珍しく、いや相手が大和だからだったのか普段とは違う口調で愛鷹が大和に命令する。

言われずとも大和は主砲に三式弾を再装填しながら、高角砲と機銃の射界を確保し、射程内に捉えるや激しい対空射撃を始めた。

濃密な弾幕が展開されるが夜間攻撃機である黒いタコヤキは怯まず突っ込んで来る。

更に三機が大和の対空射撃に撃ち取られるが、残る六機は三機ずつの編隊に別れて、愛鷹と大和への爆撃コースに入った。

再装填が終わった三式弾を愛鷹援護に放とうと大和は、主砲を向けるが今撃つと愛鷹をも巻き込みかねない程既に攻撃機は接近していた。

 

あの子の回避運動能力に賭けるしかない……と護れない悔しさと、超甲巡とは違い機動性が低い大和改の艤装でどこまで避けられるかの不安を募らせながら、自分を狙うタコヤキに対空砲火を撃ち上げた。

 

思ったより舵を切る時のタイムラグが長い大和改の艤装に舌打ちしながらも、接近する三機のタコヤキの攻撃に備える。

先を読んで舵を切れば、反応は悪いモノの大和改の艤装の機動性自体は悪くない。

今だ、と面舵を切り、更に体と艤装自体を右側へと倒す。

爆弾が投下される音を聞き、耳を澄ます。

鳥海、衣笠、蒼月、深雪、大和の砲声が轟く中、かすかに聞こえた直撃コースの爆弾を耳で感じ取ると、刀を引き抜き、本能的に薙ぐ。

切り裂かれた爆弾が海面に突っ込み、外れた二発がすぐそばに着弾して水柱を突き立てた。

「愛鷹さん、無事!?」

水柱に隠れた自分を案じた大和の叫ぶような声に、水柱の中から姿を見せて親指を立てる。

ほっとした様に安堵のため息を吐く大和に何も言わず愛鷹は刀を鞘に収めた。

 

鳥海と共同でリ級を仕留めた深雪が軽くため息を吐いた時、衣笠と蒼月が相手をしていたリ級が海上に派手な爆発を起こして轟沈する音に振り返った。

「二人とも生きてるか」

「勿論」

「大丈夫です」

元気な声が返されると、傍らの鳥海もほっとしたように溜息を吐いた。

迎撃艦隊を仕留めた四人は愛鷹と大和と合流すると、艦隊を組みなおしてス級の元へと向かった。

 

 

残る深海棲艦の艦隊はス級一、ヌ級一隻、ツ級一、駆逐艦ロ級二隻、種別不明駆逐艦二隻、ワ級一隻。

それと大破しており戦力外のツ級一隻。

「残るは八隻」

航行しながら残存するス級の艦隊の数をカウントしていると、マジックから警告が飛んできた。

(警告、飛翔体が急速接近中!)

「飛翔体?」

何だそれと言う顔になる深雪が呟いた時、続報が入る。

(飛翔体の弾着予想地点特定。君らの目の前だ! 回避、回避!)

「全艦最大戦速、一斉回頭、取り舵一杯!」

機関停止して後進をかけても、随伴している大和と今自分が使っている大和改の艤装性能から間に合わない。

速度を上げてタイムラグ承知で舵を切れば、急旋回出来る。咄嗟の判断だった。

 

全員が愛鷹に続いて一斉回頭した時、一二発の赤い火球が夜空から降って来るのが愛鷹の目に映った。

「対ショック姿勢、全艦衝撃に備え!」

叫ぶように愛鷹が命じた直後、右手で昼間を思わせる大爆発が炸裂した。

凄まじい衝撃波と高波に全員が踏ん張って堪える。

「全員、無事⁉」

「大丈夫だ!」

「これはどういう事……」

「何が起きたの⁉」

流石に動揺を浮かべる愛鷹の確認する言葉に、五人から無事と何が起きたと言う動揺の言葉が返される。

「対空電探に感あり、深海棲艦の弾着観測機です」

対空電探表示のコンパスを見る大和の言葉に愛鷹は攻撃の正体を見抜いた。

接近する自分たちに対し、補給を中断したス級が弾着観測機を送って艦砲射撃を行ってきたのだ。

「大和、対空射撃で観測機を」

すると大和が頭を振った。

「仰角が足りない、撃墜は無理です」

「後ろにひっくり返って仰角を稼げねえか?」

思い切った仰角稼ぎを深雪が提案するが、同様に対空電探表示のコンパスを見る鳥海が悔し気に返す。

「観測機の動きが速すぎます。大和さんの五一センチで追尾しきれません」

「私の長一〇センチでは射程外のため無理ですね」

対空射撃に秀でる蒼月の長一〇センチ砲ですら射程外の高高度で、高速で動きながら弾着観測を行う深海棲艦の機体。

もしかすると新型機体ではないか? と推測を立てていた愛鷹のヘッドセットにマジックが再び警告を入れた。

(また来るぞ、飛翔体を確認。何だ軌道が変わっていくぞ……観測機が終末誘導をしているのか。

くそ、全員着弾予想地点を送る、離れろ)

全員が再び回避運動を行った直後、凄まじい爆発が海上に吹き荒れ、かなりの衝撃波が六人に吹き付け、高波が六人を翻弄する。

ス級までもう少しなのに、精密誘導砲撃を仕掛けて来たか……歯がゆさを感じながらも愛鷹は前進を指示する。

「くそ、全艦最大戦速を維持、ジグザク航行で砲弾を躱しながらス級へ吶喊します」

(こちらからは予想弾着地点を随時送る。ス級まで後少しだ、頑張れ!)

「畜生、砲弾と追いかけっこだぜ」

六人が最大速度を維持しながらス級に向かうと、二〇秒ほどの間隔でス級の砲撃が飛んで来た。

「回避に集中! 補給を切り上げているからそう長くは続きませんよ」

「そうだと良いですね!」

体に堪える衝撃波で疲れたような声で衣笠が返す。

いつまでも続くとは思えない、補給を切り上げている筈だからその内止む。

砲撃が終わるか、その前にス級にたどり着けるかだ。

かなりぎりぎりの範囲で着弾する砲撃は、直撃こそせずとも衝撃波が凄まじく、耳が聞こえなくなりそうだ。

「手の届かない所から撃ちやがって!」

腹立たしそうに深雪が喚く。

「弾着地点からこれだけ離れてもこの威力だなんて」

髪を抑えながら衣笠が呻く。

先頭の愛鷹が舵を切って、不規則な回避運動コースを取り、それに五人は衝撃波による微ダメージを堪えながら懸命に続いた。

二〇秒に一回降り注ぐ艦砲射撃は、誘導はされてはいるが精密誘導と言う訳ではないので、マジックから送られる着弾予想地点に注意しながら進めばダメージは抑えられる。

 

爆発の衝撃波と高波に激しく揺さぶられる体に、持ちこたえて、と願いながら愛鷹はマジックにス級との距離を聞いた。

「マジック、敵艦隊との距離は⁉」

(もうじき、そちらでも目視できるはずだ。いや、レーダーコンタクト。ス級艦隊のヌ級から夜間攻撃機複数発艦を確認)

「機数は?」

(さっきと同じ一二機を探知、対空戦闘に備え)

「了解。全艦に通知、ヌ級より一二機の攻撃機発艦を確認。対空戦闘用意。

大和は長距離対空射撃始め」

「はい」

三式弾を装填したままだった大和の五一センチ主砲が攻撃機の飛来する方向へと向けられる。

射線を確保する為、愛鷹は大和の前から左にずれる。

「対空戦闘、全主砲、旗艦指示の目標へ指向。撃ちー方始めー!

発砲、てぇーっ!」

夜陰に五一センチの発砲の閃光が走り、衝撃波が海面に広がる。

発砲した大和が三式弾を再装填する中、大和を後衛、前衛に蒼月、左側を衣笠、右側を深雪、中央に愛鷹と鳥海と言う輪形陣に六人は隊列を切り替える。

「第一射、だんちゃーく、今」

腕時計を見ていた大和が自分の撃った三式弾の着弾を告げると、マジックが攻撃効果を知らせて来る。

(六機撃墜を確認、流石だ)

「撃ち漏らしは、私に任せて下さい」

そう全員に告げる蒼月に全員が頷いた。

自分に任せろ、と言い放った蒼月の背中を見て、成長しましたね蒼月さん、と愛鷹は心強さと初めて会った時よりも精神的に成長が認められてきた蒼月の姿に嬉しさを感じた。

 

ふと脳裏にラバウルの沖合の海に散った霞の姿が浮かび上がった。

もし霞さんが生きていたら、ここまで精神的に成長している蒼月の姿を見て欲しかった、ともう叶わない願いが湧き上がる。

彼女自身、秋月型には若干劣る程度の高い対空射撃能力の持ち主だったから、もし生きてたらツンデレ性格と蒼月のことを認めようとしなかった姿勢は変えずとも、内心感心していたかもしれない。

 

あの世から見てくれている事を願うしかない。

 

 

何度目かもはや分からないス級からの砲撃を躱した六人が軽く疲労を感じ始めていると、砲撃が止んだ。

ようやくス級が補給を切り上げて装填していた砲弾を撃ち尽くしたのだろう。

そこへ対空電探表示のコンパスに六機の攻撃機の機影が映ったのを確認した鳥海が、敵機接近を告げる。

「方位三-〇-五、高度二〇〇。急速接近中です」

「蒼月さん、射程に入り次第、撃ち方始め。各艦は蒼月さんのサポート」

「了解」

夜目と対空電探の反応を基に、蒼月は長一〇センチ主砲を構えると、射程内に入った攻撃機に対空射撃を始めた。

暗闇の中に対空弾が撃ち出され、近接信管で砲弾が爆発する閃光が複数瞬く。

速射する長一〇センチ砲の砲声と砲弾の爆発音が響くが、撃墜の爆発音は聞こえない。

嫌らしい事に夜間攻撃機の機体色に加えて、月灯りが心もとなくなって来たので夜目が効く六人の目ですら攻撃機を目視し辛い。

それに流石に夜間となると蒼月の対空射撃の精密さが昼間より落ちている。

撃ち出された砲弾の近接信管が作動しているからダメージは与えているはずなのに、攻撃機はしぶとく飛び続けている。

恐らく砲弾は攻撃機の傍で爆発してダメージ自体は出ているものの、撃墜に至る程度の致命傷ではないのかもしれない。

撃墜の爆発炎が確認できない状態が続き、炸裂する砲弾の爆発音だけが敵機の接近を耳でも教えて来ていた。

電探の表示を見て高度を落とし始めているのに気が付いた愛鷹は、このままではらちが明かないと思い、鳥海に照明弾発射を指示した。

「鳥海さん、攻撃機の方角へ照明弾一発発射して下さい」

「了解」

鳥海は頷くと第一主砲から照明弾を発射した。

空中に照明弾の明かりが閃くと、六機の攻撃機が超低空飛行しながら接近してくるのがはっきり見えた。

雷撃にしては高度が中途半端だ。反跳爆撃をする気だ。

「鳥海さん、見えます。ありがとうございます」

礼を言った蒼月の射撃が遂に攻撃機を捉える。

至近距離で爆発した砲弾のダメージを負い、高度を落としていく攻撃機が海面に突っ込んでバラバラになる。

二機目も同様に至近距離で炸裂した砲弾の破片をもろに浴びて砕け散る。

「残り四機……」

「落とし続けて!」

「加勢するぜ!」

主砲を構えた深雪が対空射撃を始めた。

長一〇センチ砲と一二・七センチ主砲の砲声が混じり合い、対空弾炸裂の閃光がきらめく。

更に一機撃墜した時、愛鷹の目にス級と護衛艦艇の姿が映った。

「弾幕を展開し、敵機を牽制し続けて下さい。大和は二人の援護を。

衣笠さん、鳥海さんは私に続航し援護を。レーザーポインター照射を開始します」

「了解!」

深雪、蒼月、大和と別れた愛鷹、衣笠、鳥海にロ級二隻とニ級後期型二隻の四隻が向かってきた。

 

(ニ級後期型二隻か……手練れだ)

 

重巡ですら撃ち負ける前例があるニ級後期型が二隻もいる。

しかしロ級二隻の内一隻は損傷したままだ。全艦が無傷だったら難易度は高いが一隻が手負いのままなら隙はある。

主砲を構えた鳥海が愛鷹に顔を振り向けた。

「行って下さい愛鷹さん。雑魚は任せて下さい」

「ニ級後期型に気をつけて」

それだけ二人に言うと愛鷹は二人と別れ、ス級に向かった。

 

副砲からの砲撃が来るのは予測済みだが、elite級の砲撃がどんなものかは撃たれてみないと分からない。

ヘッドセットの通話スイッチを押した愛鷹はマジックにF35への攻撃要請を出した。

「愛鷹よりマジックへ、F35に爆撃指示を。同時投下ではなく一発ずつで」

(了解した。アークライト1-1、1-2、1-3、1-4へ、こちらマジック。

爆撃用意、海上から目標へレーザーポインターによる誘導を開始する。一斉ではなく単発での爆撃だ)

(アークライト1-1、コピー。マスターアームオン、LJDAM投下用意よし。

爆撃指示を待つ)

本来ならF35自体からもレーザー誘導は可能なのだが、深海棲艦相手だとシステムエラーが起きるので精密爆撃は出来ない。

レーザーポインターの照射スイッチを押して、ス級に緑のレーザーを当てる。

「照射開始、アークライト1-1へ爆撃を開始して下さい」

(ラジャー、照射レーザー確認した。アークライト1-1、爆弾投下、デンジャークロース。

一〇秒後に着弾)

離れたところで衣笠と鳥海が交戦を開始する砲声を聞きながら、一人愛鷹はレーザーポインターをス級に当て続けた。

自分達へ攻撃をしないで単独行動をする愛鷹に、深海棲艦は何をしようとしているのか分かっていないようだ。

当たって、と念じながら照射を続ける愛鷹の目に、爆弾が着弾する爆発の光と水柱が見えた。

(どうだ)

(愛鷹、BDAを)

「ダメです、外れました。照射は出来ていましたが」

やはり深海棲艦相手には誘導システムが微妙に修正を効かせられないのかもしれない。

 

残り三発。

 

「照射を継続します。アークライト1-2、爆撃を続行してください」

(1-2了解、投下コースに乗った)

その時、ス級が愛鷹へ向けて副砲を撃ち始めた。

発砲炎が以前交戦した時のス級に比べ小さい一方で、数がえげつない。

咄嗟に爆撃しようとするアークライト1-2に愛鷹は叫ぶように爆撃中止を指示した。

「アークライト1-2、爆撃中止! アボート、アボート! マジックへこちら愛鷹、ス級からの迎撃を受けました。

一時回避運動に専念します」

(了解した、アークライト1-2、照射を一時中断する。爆撃を中断せよ)

ヘッドセットから聞こえる無線に気を取られた時、無数の着弾の水柱が愛鷹を襲った。

直撃は免れたものの濃密かつ副砲からの砲撃の投射量に、愛鷹は思わず悲鳴を上げて腕で顔をガードする。

「これがス級elite級の副砲射撃能力ですか」

歯を食い縛って水柱が途絶えるのを待つと、再び副砲が砲撃する砲声を海上に轟かせた。

「艤装CCS、リミッター解除、機関回転数を壊れない程度にまで上げて下さい」

残念ながら大和改の艤装は超甲巡程の速力と機動力を発揮できない。

リミッター解除で缶への過負荷を度外視した出力を出させて回避に専念しつつ照射するしかない。

距離を取り過ぎると僅かな手振れで照射が外れるし、接近し過ぎると副砲の集中砲撃を食らいかねない。

 

(愛鷹、無事か⁉ 悲鳴が聞こえた気がしたぞ)

ヘッドセットから深雪が自分の安否を聞いて来る。

「副砲の猛攻撃で照射が厳しいです。でも、やります」

(くそ、もうちょい持ちこたえてくれ。敵機は片付けたからそっちに向かう)

「回避に集中し、時間を稼ぎます。衣笠さん、鳥海さん、状況は?」

(ロ級二隻は片付いたけど、ニ級に手間取ってます! でもそれイコールこちらでニ級を引き付けられています)

砲声越しに衣笠が答えた。

何とか私も持ちこたえなければ、と愛鷹が思った時、副砲の砲撃が艤装に直撃した。

「しまった!」

直撃の衝撃に呻き声を上げるが、幸い装甲版で弾くことが出来ていた。

「『戦艦が簡単に沈むか』って事ね。正しくは戦艦艤装か」

さらに飛来する副砲の砲撃を躱し、引き抜いた刀で弾き、切り捨てながら何かで聞いた言葉を口にする。

猛砲撃を掻い潜る中、左足の近くで複数着弾した時、左足の主機が嫌な破損音を立てた。

直ぐに上がって来た艤装CCSからの状況報告に愛鷹はこんな時に、と苦い表情を浮かべた。

(左舷左足主機の減速機とシャフト機能が破損。破損が酷く、ダメージコントロールによる応急修理不能!)

至近弾の爆発の衝撃と海中での爆圧で航行機能が完全に壊れた……夕張の応急修理も流石にこれまでか、いや、良くここまで持ちこたえてくれた、と言うべきか。

「左舷主機動力カット、右舷に余剰出力を回してください」

(それでは右足主機への過負荷が大きくなって右足の主機まで死にます!)

艤装内の装備妖精さんの言葉に軽く舌打ちした時、更に飛来する副砲弾の砲声が聞こえてくる。

辛うじて機能維持できている右足の主機だけで回避運動を取るが、機動性が低下しただけに躱しきれない砲弾が直撃する。

防護機能と大和改艤装の装甲、愛鷹自身の刀での防戦で致命的なダメージは免れるが、レーザーポインター照射が出来ない。

今は回避に専念するしかない。もうじき深雪、蒼月、大和が合流する。

「もう少し、持ちこたえ……」

そこまで言いかけた時、どこかから飛来した砲弾が愛鷹を直撃した。

砲弾が装填されていない高角砲一基が全壊する損傷が出る。

今のは? と振り返った時、ス級の近くにいるツ級flagship級が主砲を撃って来るのが見えた。

「くそ!」

歯ぎしりした時、副砲とツ級の一斉砲撃が行われ、着弾の水柱の中に愛鷹が隠された。

砲弾を刀で弾く愛鷹だったが、突如破断音と共に刀が折れた。

「なに⁉」

驚愕の声を上げた愛鷹にス級とツ級の放った砲弾が直撃する。

左わき腹に直撃の衝撃が走り、激痛が走る。

「被弾しました!」

激痛を堪えながらヘッドセットに叫ぶ声を吹き込んだ。

(マジックより愛鷹、被害状況知らせ)

「左舷主機が……至近弾で減速機とシャフト機能を破損、復旧不能……猛砲撃に刀も耐え切れず折れました……。

左脇腹にも……直撃」

左腕で脇腹を抑えながら絞り出すように答える。

(愛鷹は一時後退し、大和、深雪、蒼月と合流せよ。レーザーポインター照射は一時中断)

するとアークライト隊から悲痛な連絡が入る。

(マジック、アークライト全機の燃料がもうじきビンゴになるぞ。レーザーポインター照射はまだ出来ないのか⁉)

燃料切れか、もうこうなれば強引に行くしかない。

「こちら愛鷹、照射を再開します。アークライト1-2、爆撃を」

痛みを堪え、右舷主機だけで回避運動を取りつつ愛鷹はレーザーポインターを構えてス級に緑のレーザー光を当てた。

ス級とツ級の砲撃を装甲と防護機能、回避運動で懸命にかわしながらレーザーを照射し続ける。

(1-2、コピー。爆撃コースに乗った。LJDAMレディ……ナウ。

デンジャークロース、一〇秒後に着弾する)

「了解」

猛砲撃を懸命にかわし、ス級にレーザーを照射する。

 

「お願い、当たって……!」

 

これ以上は持ちこたえられない……撃沈出来なくてもいいから、お願い……!

 

祈りの言葉を愛鷹が口にし、胸中でも叫んだ時、ス級にLJDAM直撃の閃光と爆発が走った。

 

祈りが通じた!

LJDAMの直撃で副砲の砲撃が一時止む。流石にelite級故かス級は副砲の砲撃が出来なくはなったが、まだ浮かんでいる。

「愛鷹からマジック並びに全艦娘へ通達。爆弾の直撃を確認! 

ス級は以前健在なれど副砲の砲撃が停止!」

 

 

ヘッドセットに入って来た愛鷹の心持弾んだような声に衣笠が「勝った」と口元を緩めた。

愛鷹は負傷しているが、どうにか持ちこたえているし、ス級は大損害を受けている。

こっちがしぶといニ級を沈めれば、もう完勝も同然ね……と思った時だった。

 

「良く見ろぉ! 後ろに敵だぞーッ!」

 

合流してくる深雪の叫ぶような警告に我に返った時、一瞬の隙を突いて回り込んだニ級が放った魚雷一発が、衣笠の背後で近接信管起動で爆発した。

直撃では無かったものの至近距離での爆発で衣笠の体が吹き飛んだ。

 




艦娘の死を描くのは決して容易な気分でやれるものではないです。
この小説は「艦娘は人間である」故に避けようの無い、一瞬の気の緩みから来る「戦死」の描写がこれからも続きます。

安らかに眠れ浦風。

意図せずエースコンバット7DLCミッション2、3の要素が結構入ってしまいました。
狙ったつもりはなかったんですが。

次回でトラックを巡る一連の戦闘に終止符を打つ予定です。
浦風の死を無駄にしない為の愛鷹のトラックでの最後の仕事です。

愛鷹が劇中で言った台詞の一つのネタは、分かる人にはわかる有名なモノです。

衣笠が最後の最後で被弾しましたが……どうなったかは次回までお待ちください。

ではまた次のお話でお会いしましょう。
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