艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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自粛期間中、体調不良で半分モスボール状態で生きています……。

本編をどうぞ……。


第三七話 狂気の白刃

「瑞鳳を三航戦に戻す、ですか?」

呆気にとられた様に返す瑞鳳に愛鷹は頷いた。

「第三三戦隊の編成自体から完全に外すと言う訳ではありません。

瑞鳳さんの力が必要な状況になった際は、三航戦からまた第三三戦隊に編入すると言うところです。

隊の防空能力は私の搭載機と青葉さんの搭載機で充分補えますし、対潜哨戒も私自身でも担当出来ます」

「そうですか……でもちょっと寂しい気持ちがしますね」

少し不満の混じる残念そうな表情を瑞鳳は浮かべた。

「もう関係はありません、の様な縁切りではありませんし、暇な時はいつでも遊びに来ても大丈夫ですよ」

「そうですね」

心配しないでと言う様に微笑を浮かべる愛鷹に頷きながら、ふと気になった事を尋ねる。

「改装の過程はどうです?」

「座学は終わりました。マニュアルは頭に入っていますよ。

新型艤装の方は今工廠で明石さん主導にて組み上げ中です」

「出来上がったら、私も見に行っていいですか?」

「ええ、構いませんよ」

その言葉にワクワクするものが込み上げて来る。

航空機運用の水上艦艇艦娘でも愛鷹は結構珍しい分類の艦種だ。

艤装のコンセプト自体は伊勢型の二人と似ているが、愛鷹の航空艤装は防空と対潜哨戒、早期警戒に特化しており敵艦隊への航空攻撃能力は無い。

 

航空巡洋戦艦。新型艦種なだけに中々興味が尽きないモノだ。

愛鷹曰く「超弩級巡洋艦の域は脱し切れていない」とは言うモノの、戦艦相手には火力不足だった三一センチ砲から四一センチ砲に主砲がパワーアップするだけに、苦戦を強いられる戦艦とも対等に渡り合える。

折れた刀の再生も完了し、更に愛鷹の追加発注でもう一本取り寄せており、航空巡洋戦艦として出撃する時には二本帯刀で行くことにもしているそうだ。

青葉の甲改二、愛鷹の航空巡洋戦艦化、つまり愛鷹改と色々な面で第三三戦隊の不足がちな攻撃力が向上している。

攻撃力と言っても第三三戦隊の本来の役割は偵察部隊なので、交戦はおまけ程度なのだがここ最近は普通に最前線投入も増えているし、何かとス級と遭遇するようになってから水上戦闘の回数も増えている。

あらゆる状況に対応する汎用さが必要になっていた。

 

 

「寂しい所ね、こんなところが基地にあったなんて知らなかったわ」

周りの倉庫を眺める衣笠に、青葉はキュロットのポケットから手帳を出しながら応える。

「国連海軍基地になる以前の物資保管庫地帯で、色々な装備品がここには眠っているんだって」

「例えば?」

「軍艦に使う艤装品や予備品。今じゃ生き残っているほとんどの水上戦闘艦艇がモスボール保管状態だから、また引っ張り出す時までここも騒がしくなる事は無いよ」

解説する青葉にふーん、と頷く衣笠の脇で青葉は自分が倒れているのが発見された場所と、愛鷹が狙撃された場所を確認した。

狙撃された位置は、愛鷹自身がうろ覚えになっているので一部憶測も混じっている。

手帳を見て参考になりそうな外観を探す。

一人で来るのもありだったが、また気絶させられたら青葉として困るので、足の骨折の治療を終えた衣笠を護衛兼助手として連れて来た。

「霊感とかあるのか、強いのか、とか分からないけど、静かすぎて不気味ね」

少し不安を浮かべている妹に、人気が本当に感じられない故に来る不気味さは青葉も感じていた。

こんな場所にわざわざ喫煙の為に来る若葉もまた凄いが。

空いている倉庫や封じられている倉庫を片っ端から調べていく。

自分が倒れていた場所にまた来て、色々物色するが特に証拠らしいものはやはりなかった。

あの時から既に五日程が経過してしまったのですでに回収されてしまったのかもしれないが。

「宝探しの宝は無さそう?」

「そうみたい……じゃ、愛鷹さんを狙撃した場所に行くか」

「どこだかわかるの?」

「愛鷹さんの断片的記憶情報が頼りになるね」

 

いきなり長距離から正確な狙撃を受けたら、誰だって慌てるだろう。

砲撃を受けるのとはまた別だ。所詮艤装が無ければ艦娘も人間。

対人兵器は充分有効だ。

しかし、一体どうやって暗殺者が忍び込んだのか。

基地のセキュリティシステムは万全であり、ハッキングを受けた形跡も無いと言う。

という事は内部関係者、つまり海軍内の者によると言っていい。

味方の中に敵が潜んでいる、という事は正直深海棲艦以上に厄介だ。

 

「ここかな」

青葉が足を止めた倉庫は他の倉庫と比べて日中でもあまり日が入らない場所だ。

中に衣笠と共に入って見ると殺風景ながら、どことなく何かが出てきそうな雰囲気もある。

周囲を見回しながらそこそこ広い倉庫内を見て回っていると、ローファーが何かを踏んだ。

何か踏んだ、と足元を見ると葉巻が落ちていた。愛鷹が吸っていたものだろう。

一応証拠品として持ってきた袋に入れて回収する。

少し離れた所には熱源デコイ役として愛鷹が投げた葉巻も落ちていた。

二つの葉巻が落ちていた場所から、愛鷹が隠れるのに使ったと思える錆びた発電機の傍に行くとき、地面にえぐり取られたような跡が残っていた。

外れた弾丸が穿ったモノだ。とすれば近くに銃弾が落ちているかもしれない。

不安げな表情で周囲を見回す衣笠を置いて探し回るが、そう簡単には銃弾は見つからない。

すでに回収済みの可能性だってある。

放置されている備品ケースに衣笠が腰掛けるのを尻目に、探し続けていると、壁に弾痕が見つかった。

陰になっている所だったので、すぐには分からない場所だ。

壁にめり込んでいる銃弾をスマートフォンのカメラで証拠写真として撮る。この銃弾はちょっと証拠品として回収するのは無理があった。

跳弾になってめり込んだのだとしたら、と着弾し弾かれた跡から辿ってみると狙撃に使えそうなスポットが見えた。

小さい窓から見える先には倉庫がいくつかあるが、音より先に銃弾が来たのだとしたら、近い所にある倉庫は考える必要がない。

 

「あそこか」

ケースに腰掛けて足をぶらぶらとさせていた衣笠を呼び、辺りを付けた場所へと向かう。

「証拠は、結構出た感じ?」

「そんなにってところじゃないけどね」

そう返しながら青葉は当たりを付けた倉庫に向かう。

 

他の倉庫と比べて一回り大きい倉庫への入り口はどれも鍵がかかっていて、中には入れなかった。

しかし、一個だけ最近使用した形跡があるドアがあった。

持って来たピッキング装備でドアの鍵の開錠作業にかかる。

「よくそんなものまで持ってたわね」

少し呆れたように作業を見る衣笠に、作業する手を止めずに青葉は答えた。

「ジャーナリストは真実の為なら手段を択ばない」

「それって、マスコミがマスゴミと呼ばれる理由と同じじゃない?」

「失敬だなぁ、ガサは」

溜息を吐きながら鍵を開錠した。

青葉ってやっぱヤバいわ、と色々な意味で時にとんでもない行動力を発揮する青葉に少し引くものを感じながら、ドアのノブに指紋取りシールを貼ってはがした姉に続いて衣笠も中に入る。

大型の精密機械を収容したコンテナがいくつもある倉庫だが、それらには目もくれずに青葉は高い場所を探す。

大きな倉庫なだけか、渡り廊下も複数ある。

ひとまずそこへの階段を上がり、愛鷹が撃たれた倉庫が見える場所、狙撃に適した場所を探す。

「どこに形跡があるのか分かるの?」

「自分だったらこうする、ってイメージしながら絞り込んでいくの」

そう返しながら狙撃に適した場所となる壁側の渡り廊下を、窓の外を見ながら歩いて見て回る。

下手なスナイパーだとは思えないから撃った弾の薬莢を残していくとは思えない。

しかし陣取った場所は何かしらの形で残っている筈。

 

「ここかな」

足を止めて、しゃがんでみると床にほんの僅かだが人がいた形跡がある。

広さ的に恐らく伏せた状態で撃ったはずだ。

バイポッドで銃身を固定し、愛鷹のいた倉庫に銃弾を撃ち込む。

針の穴に糸を通す様な技だ。

ひとまず現場写真をスマートフォンで撮影すると、他にも何かないか物色して回るが、流石に何もなかった。

見つけられるものはすべて見つけたと判断し、青葉は衣笠に「帰ろう」と告げた。

「何か見つかった?」

「伏せ撃ち姿勢、二脚で銃身を固定、そんな感じで撃った形跡はあったよ」

「良く分かるわね」

感嘆する衣笠に青葉は少し得意気な顔を返すと、二人は寮へ帰った。

 

 

一息入れようと自動販売機で缶コーヒーを購入し、外のベンチで飲もうと廊下を歩いていると封書を持った大淀が角を曲がって表れた。

仁淀が重傷を負って以来、塞ぎ込みがちだと聞く通り、目に鋭さが無い。

すれ違い様に軽く会釈をした時、大淀に呼び止められた。

「愛鷹さん」

「はい?」

振り返った愛鷹に大淀は何かを思い出したような顔を向ける。

「愛鷹さんあてにメッセージが来ていました。書留はダメ、口頭でと言われたので」

「私に? なんでしょうか」

尋ねる愛鷹に大淀は答えた。

「『揺り篭が動きだした』って、何かの合言葉みたいな物でした」

「『揺り篭が動きだした』?」

首をかしげる愛鷹に大淀は伝える事はそれだけです、と告げて愛鷹に踵を返した。

 

「『揺り篭が動き出した』ねぇ……」

缶コーヒーをベンチに座って飲みながら反芻する。

合言葉じみているが、ピンと来るものが思いつかない。

謎かけにも聞こえるが、どういう謎かけかもわからない。

何かの暗号か……。

「動き出した……過去形だからもう動いているって事よね……」

何だろう、と首をかしげる。

 

「どうした、難しそうな顔をして」

急に声をかけられ、少しビックリしながら声の主に振り返る。

天龍だ。

 

「ちょっと考え事をしてただけです、大丈夫ですよ」

「そうか。なんか結構難しいこと考えてそうに見えたから、ちょっと気になったんだが。

あれだぞ、悩み事って一人で抱え込むとめんどくせえ事にしかならないからな」

「ご配慮感謝です」

軽く一礼する愛鷹に天龍は愛鷹に顔を近づけて尋ねた。

「お前さ、戦闘で刀使うって聞いたんだけど」

「ええ、防護機能への負担軽減と深海棲艦の艤装破壊を兼ねて」

「弾弾き出来るんだな、スゲエじゃねえか」

「恐縮です」

「その言い方、どっかで聞いたセリフだな」

「青葉さんの真似ではないですよ」

そう返す愛鷹に、まあそうだな、と天龍は苦笑を浮かべる。

苦笑を浮かべている天龍を見返しながら、何かほかにも要件があるなと思っていると案の定天龍が本題を明かした。

「今日、夜空いてるか?」

「はい、今は半分非番状態ですが」

「今夜さ、ちょっと腕試させてもらってもいいか?」

「腕試し?」

何の腕試しだ、と疑念に思う愛鷹に天龍は上着のポケットからメモ用紙を一枚出して愛鷹に渡した。

受け取る愛鷹にじゃあな、と手を振って天龍は行ってしまった。

何だろうとメモ用紙を見ると、余計困惑する表情を愛鷹は浮かべた。

「刀持参で夜一〇時に四番倉庫群の『No444倉庫』で会おう」

何だか厄介な事になりそうだ、と言う悪い予感しかしない。

周囲を見回しても、天龍の姿はもうない。

溜息を吐きながら、無視する訳にもいかない、と夜一〇時に指定された倉庫に取り敢えず行ってみる事にした。

気が付けば冷めているコーヒーを飲み干すと、ゴミ箱に捨てる為ベンチから立ちあがった。

 

 

ホームに停車する客車に機関車が再連結される作業が行われる間、私物を入れた荷物を抱える艦娘が客車へと乗り込む。

種子島基地防衛の戦力増強のために派遣される、増援部隊第二陣だ。派遣戦力は第二戦隊の戦艦長門、陸奥と第一八駆逐隊の陽炎、不知火、黒潮、親潮の六人から成っている。

「では提督、行ってまいります」

先に乗り込んだ五人を代表する形で、前線へ派遣の為と日本艦隊戦艦部隊の戦力強化の面で秘書艦職から解かれた長門が武本に敬礼し、暫しの別れを告げる。

「皆を頼んだ。全員で帰って来るんだよ」

「ご期待に添えられるよう、努力します」

絶対出来る約束ではないのが長門には歯痒いが、出来ない約束を武本は求めないので「努力する」と言う言葉だけでも充分の様だ。

 

種子島への深海棲艦の攻勢の兆候はかなり高まっていた。連日偵察機が飛来して国連軍の守りや発射基地を偵察して来る。

偵察機へのスクランブル発進の回数も激増する一方だ。

強力な火力を有する長門型しか今の所送れる戦艦戦力はない状況だ。

トラックから帰還した第一戦隊の大和は、武蔵と信濃が別戦線に派遣中で部隊編成に組み込めない。

それに大和を派遣したら、ロシニョール病の手術を受けたばかりで絶対安静状態が続いている比叡が戦線離脱を余儀なくされた為、基地防衛戦力として必要最低限の戦艦戦力が金剛のみの状況だ。

頼りにしたい在日北米艦隊の戦艦艦娘のアラバマは、再建された父島基地に姉妹艦インディアナと共に派遣している為いない。

先の大規模艦隊戦(現在は「第四次沖ノ鳥島沖海戦」と名付けられた)で撃滅に失敗した沖ノ鳥島海域の深海棲艦の拠点は、その後海兵隊戦略航空軍団所属のB21爆撃機や一航戦による複数回の空爆作戦で被害を与えているものの、完全撃滅には至らず何とか小康状態維持をしているのが現状だ。

北米艦隊は北方海域戦線とパナマ戦線、欧州総軍への増援展開で余力がない。

 

連結が完了し、諸々の準備作業が終わると長門たちを載せた列車は出発した。

列車が見えなくなるまで敬礼で送ると、司令部施設へと戻るハンヴィーに向かった。

助手席に乗り込むと、運転席に座る三笠がハンヴィーを出した。

「秘書艦職、頂きますよ」

「仕事中の飲酒はここでは許さんよ?」

「はいはい、了解です」

流石に三笠も飲酒運転する程の馬鹿はしないだけに車内は酒臭くなかった。

舞鶴基地司令職を解かれ、秘書艦職を解かれた長門の後任として三笠が送られてきたのは一時間ほど前。

今しがた、長門たちを種子島基地に送る列車に乗ってやって来た三笠は、長門と共に秘書艦職を解かれた陸奥の後任となる鳳翔とペアを組んで武本の新しい秘書艦になった。

「最近、眠れてなさそうな顔ですね」

こちらに顔を向けることなく言う三笠に、武本は「ああ」と返した。

「三カ月以内に二人を喪い、一人が重病入院。精神的ストレスはかなり来ていると見た」

「提督としてその身を捧げる事を誓ったんだ、途中で辞める訳にはいかないよ」

「作られし艦娘の提案者。

その贖罪として、日本艦隊を預かる提督の職務を死ぬまで続けると言う一種のエゴイズムに染まり、事実上の独裁行為に走った、違いますか?」

そこそこ辛辣な言葉選びと、実際その通りである事、何より愛鷹との関係を言い当てた三笠に武本は驚いた。

驚きを浮かべた視線を送る武本に三笠は、フッと笑みを浮かべた。

「友人の死の真相を有川さんに教えて貰った時、彼女の事も一緒に知ったので。

心配しないでください、私は誰にも言いませんから」

「酒の約束は平気で破るが、人との約束は絶対に護る、それが君の取柄でもあったな」

「嫌味にしては軽度ですね、もっと酷い事を言ってもらえると思ったのに」

「アル中女と言えと? 悪い口を叩くのは昔から柄じゃないんだ」

アル中と言う言葉に三笠はクスリと笑った。まったくもってその通りである。

日中から酒を飲んでいるのは自分の事だから、良く分かっている。

同じ艦娘のネルソンも飲みすぎだと止めに入る事もあった。

完全に依存症だが、そうでもなければ気分を晴らせない時もある。

自分もかつては艦娘の黎明期と言える頃、前線配備されたし戦闘に参加した。

 

敷島型戦艦四番艦だった三笠は三人の姉妹艦の末っ子であった。艦娘としての経歴は三笠自身が一番早かった。

そして今では唯一の生き残りだ。

敷島、朝日、初瀬はとうの昔に戦死してしまった。自分だけ生き残ってしまった。

「護るほどの価値があったとは思えない」と今でも思う提督の護衛任務中だった。

重度のPTSDに苦しみ、再発を恐れた海軍上層部から一階級昇進の後、陸上勤務に移された。

リベルテもといアメリの手厚い看護を受けていた頃の話でもある。

 

「墓参りにはいつ行くんだ? すぐに忙しくなるぞ」

「今日中に行きます。あの子達を先に逝かせてしまった罪は私にもありますから」

「あれは私でも理不尽だと思うよ? いや誰だってそう思うだろう」

そう返す武本に三笠は頭を振った。

「それでも任務失敗と年下だったとはいえ、姉三人を喪った。

助けたかった、でも……助けられなかった。腕の中でするりと零れ落ちたぬくもり……。

任務失敗を責めないのは有難いですが、三人喪った事に変わりはないです」

「死んだ人間は帰って来ないからな」

「その通りですね」

 

 

天龍がNo444とプレートが書かれた倉庫に戻ると、広い倉庫につくられた「セット」のチェックを龍田、木曽、皐月が行っていた。

戻って来た天龍に気が付いた龍田が「どうだった?」と尋ねて来たので、天龍は親指を立てた。

「やるとなったらアイツは来るよ」

「刀の腕使い、どれほどのモノか確かめさせてもらおうか」

セットの調子を見てにやける木曽に皐月も頷く。

「ボクも見てみたいね。それで助かって来たって言う腕前、どんなものか見て見たいよ」

「やるとなったら、本気でやらないとな。実際指示書にはそうあるし」

「けどよ、この指示書。誰が作ったんだ? 大淀も知らないって言ってたけど」

そう言いながら天龍は封書から出した「帯刀艦娘近接戦闘演習(極秘)」を見て首をかしげる。

「海軍の上の人間だろうさ。俺達の知らないところで決められた事だろうよ」

深く考えても始まらんと割り切る木曽に、その通りだな、と頷くと天龍は倉庫内の「セット」を見て、今晩いいモノが見れそうだ、と多少心が躍るのを感じていた。

帯刀艦娘でも相当の腕利き、と聞く愛鷹だ。これくらいのセットならまあ楽だろう。

腕試しには持って来いの筈だ。

 

 

部屋に戻ると、止まり木でハイタカが寝ていた。

ここで共同生活を始めてからこっち、このハイタカは完全に愛鷹の部屋を自分の寝床として利用していた。

やれやれと頭を掻きながらも、共同生活している間にこのハイタカといても別に気が散る事も無いし、少しばかり安心感も出るので悪いことづくめとも言えない。

愛鷹としては、ちゃんとハイタカにはつがいを作り、ハイタカ達の世界で生きていて欲しいと思うのだが、この雄のハイタカは愛鷹と暮らしている事に満足を覚えている感があった。

 

猛禽類とは言うものの、妙に愛嬌を感じるこの子……なんなんだか……。

 

軽く溜息を吐きながらも、邪険に出て行けと言う気持ちが起きないだけに、自分もこのハイタカには心を許している感が強かった。

名前でも付けようか、と思ったが、それだと逆に好感が沸いて懐いてきそうな気がしたので、やめておいた方が無難だろう。

何度目か分からない溜息をまた吐くと、オーディオ再生器につないでいるヘッドフォンを被り、好きなジャズを選曲して聞き始める。

ジャズを聴きながら新型艤装のマニュアルを開き、色々細かいところに目を通した。

サイドスティック型艤装操作桿は射撃管制と航空艤装操作の二つがあり、主砲を含む火器を管制する操作槓は右手で、航空艤装の操作桿は航空艤装用なので左手で操作する。

航空艤装の操作槓はカタパルト射出、着艦誘導灯のオンオフ、着艦ワイヤーの再セット、とシンプルだが、射撃管制の場合は新装備のHUDを併用して全火器を使うだけにボタンやスイッチの数は多い。

主砲の口径が大きくなった分、やはり再装填速度は三一センチ砲より遅くなっている。陸奥の艤装の流用品だから仕方なしと言えば、仕方なしだ。

近接防空火器は噴進砲が備えられたので、前より多少充実している一方で、長一〇センチ高角砲は重量面でバランスが悪くなるため撤去された。

電測系は大きくは変わらないが、一部の射撃管制レーダーには手直しがかかっていた。

搭載する航空機は烈風改二を一六機、対潜哨戒の天山四機、AEW版天山二機。

艦隊防空担当の烈風改二は四機で一個小隊を編成する。コールサインは未定だ。

防空特化型艤装なので攻撃機を載せるのは出来ても、それを駆使した航空攻撃は出来ない。

主砲は慣れが必要になりそうだ。三一センチ以外に五一センチ砲を使った事はあるが、四一センチは使ったことがない。

明日辺り実際に艤装を付けて確認作業だ。

せっかくの新型艤装だ、青葉に記念写真撮っておいてもらうのも悪くはないかも知れない。

 

マニュアルのページをめくっている時、ふと一〇時に天龍に呼び出されていたのを思い出した。

面倒くさいなあ、と思いながらも黙ってすっぽかしてしまう訳にも行かない。

刀を持って来いと言っていたが、まさかチャンバラするとでも言うのだろうか。

それなら竹刀の方がいいと思うのだが。

夕食は早めに食べておいた方が良いかも知れない。食べた後では胃に悪い。

半分非番の様なものだとは言え、付き合わされる身にもなって見ろ、と愚痴をこぼしたかった。

 

ジャズを聴きながらマニュアルを読んでいると、ハイタカが目を覚ました。

「お目覚め?」

ハイタカの方を見ずに言うと、ハイタカは自分の肩に飛び移って来て、何か言いたげに髪の毛を引っ張った。

マニュアルを閉じてハイタカを見ると、窓と自分を交互にハイタカは見ていた。

お散歩って事か……何となく理解すると窓に近寄り、防弾仕様に改装してある窓を開けた。

するとハイタカは開けた窓から外へと飛び出していった。

窓を閉めながら「早めに帰って来なさいよ」と、飛び去るハイタカの後ろ姿に向かって愛鷹は静かに呟いていた。

 

 

右舷側の主砲取り付け作業が完了すると、後は細かい所の微調整だけとなった。

「よし、作業工程は九〇パーセント消化ってところかしら」

満足げにつなぎの腰に手を当てて明石は頷く。

三原と桃取は作業疲れから部屋で休んでいるので、明石と作業員、工廠妖精だけで愛鷹改の艤装の改装作業を行っていた。

ボロボロの半分スクラップ状態だった愛鷹の艤装はほぼ別の姿となって、修復された。

艤装の外観的共通点は背中側以外殆どない。

 

「お疲れ」

微調整中の明石たちの元に夕張が訪れてきた。

「どーも、良い感じに仕上がったわ。航空巡洋戦艦愛鷹改の艤装よ」

「へえ、中々インパクトがあるわね。超甲巡の艤装がこんなにまで変われるなんて」

「背中の艦橋型部分とか、まあ割かし残ってはいるわよ。でも武装はがらりと変わったし、戦闘機の発着艦も出来る」

ほお、と顎をさすりながら夕張は愛鷹改の艤装を見つめる。

超甲巡時代の面影は一部残ってはいるが、それでも改装規模は大きい。

元を言えば夕張が設計図の線を引いた艤装だ。その設計図を基に組み上げられた艤装は、実際に見ると中々いい感じに仕上がっている。

「第三三戦隊も改装ラッシュね。青葉と言い愛鷹さんと言い」

「私も正規ルートで改装されたら、どうなるかな」

「夕張は好きな時に好きな感じで艤装勝手にごちゃごちゃ組み替えてるから、別に改二化とかはいらないんじゃない?」

「自分で好き勝手にやれる範囲にも限界があるのよ」

そう返す夕張に明石はふーん、とだけ返した。

それにしても、やはり長門型の主砲二基の存在感は大きい。

これなら愛鷹さんも戦艦相手には苦労せずに済みそうだ。

 

ただス級を除けば……。

 

「何か、ス級対策の装備って開発されてないのかしら」

ふと呟いた夕張の言葉に明石は頭を振った。

「何の音沙汰も無し。上の方じゃ、大艦巨砲に対抗するには大艦巨砲で挑み返すべきか、航空攻撃で潰すべきかで悩んでるのかも」

「elite級だと対空戦闘能力はかなりのモノだったわよ。おまけに深海棲艦の方から誘導兵器を出してきたし」

「長距離誘導砲弾の話ね。どういう理論でやっているのは分からないけど、着弾予測位置を出せるし、精度も悪い方なら今のところは気にしすぎなくても何とかなるでしょ」

「そう言って失敗しないと良いけど」

実際にス級との交戦やその艦影を見ているだけに、夕張の言葉は重い。

「縁起を担ぐようになったの?」

「心配になって来ているだけよ」

「まあ、そうなるわね」

戦闘なんて全く想定していない工作艦なだけに、ス級の恐ろしさはイマイチ感じにくいが、知らなくてもいい事もある物だと割り切っておくべきところかもしれない。

話を変えようと思ったのか、夕張は青葉の新艤装について聞いて来る。

「青葉甲改二の艤装は、完全に新規に製造した奴なの?」

「工場から出荷したての新品よ。前の艤装からの変更点を抑えられる所は抑える一方で、変える所はがらりと一新。

これで青葉も結構仕事がしやすくなっている筈よ」

「私のいる第三三戦隊、結構パワーアップした部隊になれているかもしれないわね」

「火力と航空戦力で言えば、随分パワーアップしているわよ」

真顔で言う明石に頼もしい話だ、と夕張は口元に笑みを浮かべる。

後で愛鷹さんに感想聞いてみよう、と思いながら愛鷹改の艤装を見つめた。

ペンキを塗り直せば結構、良い感じに改装した艤装の感じになり得るだろう。

この艤装の使い手が、来年にはもういないのだと思うと、少しばかり胸が痛んだ。

 

 

これでどうだ? とばかりにフラッシュの手札を見せ得意気な顔になる衣笠に対し、愛鷹も自分の手札を見せた。

テーブルの上に出されたトランプカードの手札を見て、青葉が仰天した声を上げる。

「フルハウスですか⁉」

「うっそぉ……」

がっくりとうな垂れる衣笠に「どんまい」と肩を叩きながら、青葉は自分のストレートの手札を見てフォローにもならないか、と苦笑を浮かべた。

腕を組む愛鷹は少しばかり口元に得意気な笑みを浮かべていた。

「愛鷹、お前滅茶苦茶ポーカー強いんだな……」

観戦していた摩耶の言葉に、隣の鳥海がメガネをかけなおしながら頷く。

巡洋艦寮の談話室で開かれたポーカー対決は今の所、愛鷹がトップを独り占めしていた。

異様に強い愛鷹に他に参加している高雄と愛宕、足柄、鬼怒、アトランタも「何者なんだこいつ」と驚嘆する視線を送る。

制帽を目深にかぶっている上に、うっすらと口元に笑みを浮かべている以外はっきりと感情を出さない愛鷹は、周りからミステリアスなポーカー強者として見られていた。

「ここまで徹底的に負けたのは初めてね……まあ、スリー・オブ・ア・カインドだから当然でしょうけど」

テーブルの上に両肘で頬杖を突くアトランタが大きなため息を吐く。

「トーナメント対決はこれでお終いだね……くっそー、愛鷹さん強すぎてマジぱない!」

悔しそうに頭を抱える鬼怒に、自身もぼろ負けの足柄が「お金巻き上げられていないだけいいじゃない」と突っ込む。

「ポーカー運だけは生れつき恵まれているもので」

本当に自分でも驚くくらいポーカー運はあるよ、と胸中で呟いた時、巡洋艦寮の談話室のドアが開いた。

「こんにちわー、三笠ですー」

「み、三笠司令⁉」

試合を観戦するにとどめていた那智が入って来た三笠に驚く。

彼女の登場にその場にいたもの全員が驚きの目を向けた。

「舞鶴基地司令職から秘書艦職に転職しましたー、皆さんこれから宜しくね。特に那智ちゃん」

「ちゃん付けは止めてくれと……まあ、酒ならいつでも付き合うぞ」

「司令官の任務解かれていたんですか」

そう尋ねる高雄に三笠は頷く。

「青葉ちゃんの艦隊新聞とかに出てなかった?」

「青葉さんがまだ最新刊出してないので……」

そう返す高雄に三笠は意外そうな顔で青葉を見る。

自分としたことが、と最近甲改二化されてから急に増えたデスクワークで新聞執筆の時間が取れていなかった事に、青葉は頭を掻きながら三笠に応えた。

「す、すいません、青葉最近忙しくて新聞の取材捗らないモノで」

「少佐に昇進、甲改二化、結構ハードスケジュールだったしね。同時に二つやってのけるだけでもすごいけど」

しょうがないよ、と青葉をフォローする衣笠に確かに、と愛鷹も頷いていると三笠が初めて見る愛鷹の姿に興味深そうな顔になる。

「あら、貴方、もしかして噂の?」

噂って、何の噂が流れてるの? と聞きたくなりながら愛鷹は立ち上がって敬礼して名乗る。

「三か月ほど前に着任した超甲型巡洋艦愛鷹です」

「あらー、新人さんね。敷島型戦艦四番艦の三笠よ。これから宜しくね」

「はい、三笠さん」

散々な目に遭いながらス級を何隻か倒してきただけに、自分の名前もある程度は艦娘の間で知られているだろうが、三笠は艦娘とは言えある意味別格の艦娘提督だ。

もっと自分のことについて聞いているかと思ったが、それほどでもなかったか。

自分より小さい三笠が興味深そうな目で見て来るのが、地味に気になる。

「初対面なわけだし、ちょっとあなたとお話でもしたいわね。夕食までちょっとお話しない?」

「え、ええ、構いませんよ」

何の話をするのだろう、と疑問を持ちながらも愛鷹は三笠の元へ歩き出す。

途中、足柄とすれ違おうとした時、足柄に肩を掴まれた。

「次はフォー・オブ・ア・カインドで私が絶対勝つから覚えておきなさいよ」

ぼろ負けからの軽い恨みからか、少し棘のある彼女の言葉に頷く。

もう少し手加減してあげればよかったかな、と鋭い視線を送って来ていた足柄に何だか申し訳ない気持ちになりながら、先に談話室を出た三笠の後を追った。

 

 

何も言わないまま先を歩く三笠について行くと、彼女の自室に連れてこられた。

あがって、と告げる三笠に礼を言いながら、彼女が引っ越してきたばかりの部屋に上がる。

上物のウイスキーのボトルが部屋にあるのは、彼女らしいと言えば彼女らしい。

すすめられた椅子に座っていると、三笠はボトルを一つ開けてコップに注ぎながら、自分にも勧めて来る。

体質的に酒は飲めないので丁重に断る。

「まあ、そうよね。遺伝子構造上でもダメらしいし」

少し残念そうに言う三笠の言葉に、愛鷹の頭の中で一気に警戒度が上がった。

すると警戒心を抱いているのを見抜いているかの様に、三笠は微笑を浮かべながら愛鷹に向き直る。

「貴方が警戒する様な変な輩じゃないわよ。貴方の事、他の人よりは知っているってだけ」

それでも警戒心を解いた様子はない愛鷹に、三笠は脱いだ制帽を机に放って自分の椅子に腰かけるとコップに口を付ける。

平静を装っている様で、かなり自分に警戒している愛鷹になんでそんなにがちがちになってるのだろう、と不思議になって来た。

「どうかしたの?」

「三笠秘書艦、あなたは『自分たちにとって、不都合な存在がある』時、人間ってどうするか知っています?」

そう語る愛鷹に三笠は目を細めた。

酒が程よい感じで頭を回してくれる。

「その『自分たちにとって、不都合な存在がある』の言葉をあてはめられる世界次第になるわね。

そうね、常に命のやり取りをするギャングや私達のいる軍隊とかなら、『不都合』なら殺すわね。

口封じ、って言うところかしら」

細めた目で自分を見る三笠に、愛鷹は腕を組んで溜息を吐いた。

「何で今なんでしょうね。殺したければ、出来損ないはとうの昔に処分できたはずなのに」

「……教えて貰えるかしら? 何があったのか」

真顔で問う三笠の目を愛鷹は見据えた。信じても大丈夫な目であるかを確かめる様に。

暫しの間をおいて、三笠の目に満足した愛鷹は制帽を脱ぐと答えた。

 

「消されかけました、この間」

 

人の命、運命を扱えるのは神のみ許される所業。

その神の領域に手を出した結果、生まれたのが愛鷹。

神の領域に手を出す事は、人として禁忌の行為。当然手を出したものはどこからも、誰からもいい顔をされないだろう。

歩く軍事機密の愛鷹は確かに、その口から自身の出生をバラされたら困る輩は海軍内に一定数存在するはずだ。

「抹殺されかけたって訳ね。どうやって?」

「五日前の夜、葉巻を吸いに出たら長距離狙撃で」

「狙撃か……提督には……言う訳ないわよね。貴方を作り出すことを提唱した本人だし」

「三笠秘書艦はどの程度まで私の事を?」

「大体の事を有川中将から聞いたわ……私の親友の死の原因が貴方にもあった縁で、たまたま知ったの」

ウイスキーを注いだコップをまた口の中へ傾けた時、軽い音を立てて床に愛鷹の制帽が落ちた。

目を剥き愕然とした表情を愛鷹は浮かべていた。

初めて見る感情をはっきりと露わにした愛鷹は、震える口で言った。

「私の……せい……で……⁉ 三笠秘書艦の……」

「三笠でいいわよ。さん付けでもちゃん付けでも、好きなように呼んでいいわよ」

ちょっとキツイ話になるかも、と思いつつ三笠は飲んだウイスキーの溜息を深々と吐き、両手で抱えるコップの底を見ながら語った。

 

「まだ右も左も分からない貴方の教育を担当したアメリ・ロシニョールはね、私の古くからの親友だったの。

 

あの子が死んだのはあなたも知っていると思うわ。

でもね、私は彼女の死の原因が全然納得出来なくてね、ずーっと調べてたの。

艦娘時代、戦艦リベルテとして確かな戦果を上げていた彼女が、そんな死に方をするとは思えなかったから。

 

そして知ったのよ、アメリが死んだ原因を。

 

彼女、自分が見つけた艦娘特有の難病、ロシニョール病のワクチン開発をしてたの。

で、臨床実験をやる時ロシニョール病に罹っていた艦娘からウイルスを摂取した上で、自ら作ったワクチンを試した。

 

結果は、ウイルスが勝ち、アメリは死んだ。

親友が艦娘達の恐怖の的になる難病のワクチン開発に当たって、自分にウイルスを放ち、ワクチンを試すのはアメリ自身が元艦娘だったからできた事。

他の艦娘に上手く行くか分からない臨床実験台になって貰う気なんて、鼻から思いつかないあの子の、自分の命をかけた実験。

ロシニョール病のウイルス、その摂取元がまだ自覚症状が現れていなかった貴方だった」

 

ガタン、と椅子が倒れる音とよろめく愛鷹の足音が部屋に響いた。

 

「それって……私が……殺したも……」

私が殺したも同然だ、と言い終える事は出来なかったものの、頭の中で愛鷹は言い結んでいた。

自覚症状がない段階……施設にいた頃、血液検査は日常茶飯事だったからロシニョール病を発症した、と言う事は自分の知らない内に周囲は知っていたという事か。

だが、何より愛鷹にとって心を打ちのめしたのは、自分の体を蝕もうとするウイルスを使ってロシニョール博士が自分を実験台にしてワクチン開発のテストをしたという事だった。

自分の意思でロシニョール博士を手にかけたという訳でなはい。

だが、自分の体に取り付いた不治の病をワクチン開発の臨床実験の為に自分に移したばかりに、作ったワクチンが効かないままロシニョール博士は命を落とした。

 

博士の死の原因は……私のせいだ……私が博士を殺してしまった……私の体に現れた病を自分に移したばかりに博士は死んでしまった。

 

私のせいだ……私が殺してしまったんだ……私のせいだ……私が殺してしまったんだ……。

 

「同然? いいえ、違うわ。貴方は……」

俯け、頭を抱えこんでいる愛鷹に三笠は静かに否定するが、愛鷹は制帽を拾うと何も言わずに部屋を飛び出してしまった。

「ちょっと待って、待ちなさい!」

慌てて三笠は後を追うが、愛鷹は止まらずそのまま走り去ってしまった。

思っている以上にデリケートなところがあるとは思ってもみなかった。

責めるつもりも無く、ただ単に知って欲しかっただけだったのに。伝え方、いや説明の仕方に問題があったか……。

 

「何をやっているのよ、私は……」

自分への怒りで唇をかみしめ、壁を殴りつけた。

 

 

部屋に戻った愛鷹はベッドの枕元に顔をうずめて嗚咽を漏らした。

自分の体に現れた病魔を使って、自らのワクチン開発の臨床実験の被検体となったロシニョール博士。

勿論、愛鷹が直接手にかけた訳ではない。

しかし、愛鷹からすれば自分のせいでロシニョール博士が死んだのも同然だった。

「博士……ごめんなさい……」

 

ふと脳裏に施設時代の思い出がよみがえった。

他の教官たちがモノを見る目で自分たちに知識や技術を叩き込む中、学校の女性教師の様に自分たちに色々な事を教えてくれたロシニョール博士。

まだ幼さが残る自分達にとって、「先生」の様な存在だった。

自分達にとっては灯台の明かりの様な存在だった。

生きる事の素晴らしさを説いてくれた博士。

まるで我が子の様にクローンである自分たちを可愛がり、育ててくれた。

 

「選別試験」の後の転落人生の間、何度自殺を考えた事だろう。

それを思い留められたのも、博士の説いた「生きる事への素晴らしさ」だった。

その博士が命を落とした間接的原因が自分だったなんて、恩を仇で返した気分だ。

「博士……」

溢れ出続ける涙が枕に大きな染みを作った。

 

 

久しぶりの休暇状態とは言え、特にやる事が思いつかず、気分転換にと深雪は銃器の射撃場に訪れていた。

銃器保管庫で自分の手のサイズ的にあう拳銃を探していると、射撃場から銃声が響いた。

「誰かやってるのかな」

グロック19を選び、マガジン二個を手に射撃場に出る。

奥のレンジに一人、ヘッドセットを付けてレンジに向かって銃を撃つ者がいた。

大淀だ。

「あいつもここ来るんだ」

少し意外な気分だった。大淀と言えばデスクワークタイプだからあまり射撃場と縁があるような気がしなかった。

レンジの距離を設定し、ヘッドセットを被ると深雪はマガジンを挿入したグロック19を構えて、引き金を引いた。

いつも使っている一二・七センチ連装主砲とはまた別の反動を両手で抑え込みながら、的の中央を狙って撃つ。

久しぶりに拳銃を撃つだけに、そう思ったようには当たらない。

「当たんねぇな」

引き金を引き、撃ち出された銃弾がレンジに作る弾痕を見て、眉間にしわを寄せた。

マガジン全弾を撃ち尽くして、評価を見る。良くない。

一発はど真ん中の少し上に当たっているが、他は褒められない位置だ。

艤装の主砲と拳銃、反動制御が違うと、拳銃の時はこうも酷くなるのか。

大淀はどうなんだろう、と気になった深雪が見に行くと、丁度大淀も射撃を終えていた。

ヘッドセットを外して一息吐く大淀に、射撃の評価を尋ねた。

「よお、大淀。どうだい、評価は」

「み、深雪さん」

少し驚いた顔になる大淀だが、すぐに自分の評価を見せた。

「私のは、こちらに」

見せて貰った射撃評価はどれも高得点ばかりだった。

一発で全て仕留めている。点数で言えば百点満点だ。

「おお、スゲーじゃん。デスクワーク系艦娘とは思えない腕前」

「きょ、教育隊では射撃はトップクラスでしたよ。誰も聞いてくれないから知らないでしょう」

「マジか」

そんな隠れた特技があったとは。

これを生かせば、大淀の砲撃戦演習の命中率も上がるのでは? と随分前に見た大淀の砲撃戦演習結果を思い出す。

大淀の手にはP320拳銃、テーブルにあるマガジンの弾薬は、対人向けには威力が強い.45ACP弾だ。

随分威力ある弾使ってんな、と深雪は興味深そうに見ると大淀はマガジンを取り換えて新しいレンジを設定し始めた。

これ以上は大淀の集中力の邪魔になるな、と思い自分の使っているレンジの元へ戻った。

 

まさか、愛鷹と一番絡みの多い深雪に見られるとは。

教育隊での射撃成績など嘘だ。実際の自分の銃器射撃の精度は壊滅的にダメだった。

対人戦を考慮されていない艦娘なので、それほど問題にはならなかったが。

 

とは言え万が一の時代に備えて、ここを使う様になってから随分腕が上がった。

百点満点の成績は、正直今になって出せるようになった感じだ。

相手は、対人戦の訓練も受けた事がある艦娘だ。自分の手で撃って始末しなければならない段階に至った時は余り想定したくないが、備えておいて損はない。

取り越し苦労は、何も準備していなかった、よりずっとマシだ。

.45ACP弾は愛鷹に確かなダメージを入れられるから、と言う理由で選ばれた。

実際、戦闘中に愛鷹が被弾した後の行動記録などを見ても、彼女の肉体的撃たれ強さは分かる。

急所を確実に撃つ、それしか大淀自身の手で愛鷹を殺害する時の方法は無かった。

今日中に射撃訓練はやれるだけやっておきたかった。

明日、種子島基地で防衛艦隊の管制を担当する為に派遣されるからだ。

種子島基地、上手く行けばそこで片が付くかもしれない。

 

そう、上手く行けば……。

 

 

夜が訪れた日本艦隊基地だが、一部の施設では灯りが煌々と点いている。

艦娘の寮は消灯前とあってか随分静かだ。

そんな時間帯の中、愛鷹は天龍に言われた通りの倉庫へと向かっていた。

正直、今は全く付き合う気分になれないのだが、天龍がどこにいるのか分からないので今の自分の気持ちを伝えらない。

夕食も食べる気分に慣れず、結局抜いてしまっている。それくらい気分は塞ぎ込んでいた。

指定通りの倉庫はこの間狙撃された場所と違い、街灯が近くにあり何より使用感のある倉庫が他にもいくつかあるのが幸いだった。

予定時刻の五分前に付いたNo444倉庫の傍で、気持ちを和らげようと先日買ったばかりの葉巻を出し、火をつけた。

思い出せばこの葉巻、買ってからずっと吸っていなかった。

少しは気分が変わるだろう……葉巻を吸いながらそう考える。

一応、言われた通り作り直された左腰の刀を見やりながら煙を吸っていると、急に胸がざわつき出した。

嫌な予感と言うよりは、何か本能的なモノだ。

何だろうと思った時、軽く咽込む。煙を吸い込みすぎたか?

時計を見て時間だ、と思った時、愛鷹の体に発作のモノとは別の衝動が走り、咥えていた葉巻が口から零れ落ちた。

 

 

倉庫内で天龍と木曽、皐月が待っているとコツコツと足音が聞こえて来た。

腕時計を見た木曽が「時間通りだな、いやぴったりと言うところかな」と感嘆するように言う。

生真面目な奴じゃん、と天龍は口元を緩めて思うと、扉の向こうにいるであろう愛鷹に呼びかけた。

「おーい、愛鷹。待ってたぞー。入って来いよ」

言われた通り、愛鷹が無言で入って来る。腰には約束通り刀が一本持たれている。

入って来た愛鷹に天龍と木曽、皐月が歩み寄って挨拶するが、愛鷹は無言だ。

 

どうしたんだ、黙ってばかりだが……木曽が怪訝な表情を浮かべるが、天龍は構わずここへ呼んだ理由を説明する。

「特別実習って形で、帯刀艦娘の斬撃演習をやる事になったんだ。

俺と木曽と皐月で作った的全てを三分以内に全部刀で破壊する、っていうミニゲーム的な演習だ。

三分以内に終わればいいし、噂で聞くお前の腕なら一分で終わるだろうさ。

腕試しってのはこういう事。簡単だろ?」

 

愛鷹は尚無言だ。

「ねえ、愛鷹、聞こえてる?」

流石に変だなと思った皐月が尋ねるが、答えはない。

ガン無視か? 流石に何か言って欲しいなあ、と思った天龍は軽き溜息を吐く。

「黙ってないで、何か言ってくれよ。

 

内容は簡単だ、相手を斬り捨てりゃいいんだ」

 

「内容、斬り捨て……目標排除……了解……」

初めて口を開いた愛鷹だが、どこかロボットの命令復唱の様にも聞こえる。

なんかさっきから変だぞコイツ、と天龍が思った時、愛鷹が刀を抜き、三人に斬りかかった。

「おおい、馬鹿、待て! 俺たちにじゃなくて的を」

眼帯に覆われていないもう片方の目を見開いた木曽が言いかけた時、彼女の腹に愛鷹が繰り出した刀が貫通した。

小さな喘ぎ声を残して、刀を引き抜かれた木曽が崩れ落ちる。

「何やってんだ馬鹿野郎! 木曽を殺す気か!」

血の海に倒れる木曽と愛鷹を交互に見ながら天龍が怒鳴り、皐月が木曽の元へ駆け寄る。

白刃が暗闇で再び振られ、斬り裂かれる音と、皐月が倒れる音が響く。

 

やばい……。

 

何が何だか全く分からないが、愛鷹が今昼間見かけた時とは明らかに違う状態なのは明らかだ。

「愛鷹、怒っているなら謝る。でも、木曽と皐月を斬っちまうなんてお前査問会どころか軍法会議に」

そう言いかけた時、愛鷹が刀を構えて自分にも襲い掛かって来た。

危ない所で躱した天龍に、すかさず追撃の白刃が襲い掛かる。

自衛の為なら止むを得ない、と天龍が右腰の刀を抜いて愛鷹の斬撃を受け止めるが、受け流しても直ぐに態勢を立て直して愛鷹は襲い掛かって来る。

次々に繰り出される白い斬撃は紙一重の差で躱すか、受け止めるかだが愛鷹の素の体力は相当なモノであり斬撃を受け止める、受け流す腕がじんと痺れて来る。

 

一瞬、天龍と愛鷹の目があった。

 

愛鷹の瞳には、冷酷さ、明確な殺意、そして狂気が宿っており、見た者を視線だけで震え上がらせる凄味があった。

 

ビビってる場合どころか、暇すらないぞこれ……天龍の眉間に冷や汗が流れた。

激しい攻撃をして来ている様で、自身の斬撃の受け止めをどこか観察している様にも見えた。

 

こちらの動きを敢えて手加減した攻撃を繰り出すことで観察して、行動パターンや癖を読み取っているのか?

 

もしそうだとしたら、自分の動き方を完全に見終えた愛鷹が一気に総攻撃を仕掛けて来るのは時間の問題だろう。

この場をとにかく凌ぐには、と天龍が考える間にも、激しい斬撃が何度も自分を「殺し」にかかって来た。

「止めるんだ、愛鷹!」

とにかく愛鷹の行動を止めさせないと、本当に愛鷹が軍法会議にかけられるかもしれない。

自分のやらかし行為で仲間である艦娘を軍法会議に送る様な事になるのは冗談では無い。

しかし、天龍の言葉は一切届いていない様だ。斬撃は明らかに自分を傷付け、殺しにかかっている。

自分を切り殺したら、次は動けなくされた木曽と皐月だ。

誰かに知らせないと、自分はおろか二人が失血で死んでしまう。

だがどうやったら……。

防戦に手一杯の頭はそれ以上の余裕を与えてはくれなかった。

 

 

月明かりが美しい夜だった。

夜の月と基地の写真を撮ろうかと、磯波は消灯前に許可を取ってカメラを手にラフな私服に着替えて寮を出た。

この間、シーレーン防衛任務の四年連続勤労章を授与され、ボーナスも出ていたので少し引っ込み思案な磯波も上機嫌さが隠しきれなかった。

磯波自身は余り戦闘での功績は高くはないが、日本の生命線であるシーレーン防衛で確かな護衛実績は積んでいる。

地味で裏方な任務だが、正直護衛任務は一番性に合っている気がしていた。

その性に合う任務で功労章授与されたのだから、冥利に尽きるものを感じる。

軽く鼻歌を歌いながら、許可をもらえた時間中に良い写真が取れそうなスポットを探し回る。

今基地にいる艦娘は殆どが消灯時間の為寮にいるが、基地防衛艦隊のメンバーは決められたローテーション通りに出港して、基地近海の哨戒任務に就いている。

軍隊、それも戦時下の軍隊に昼夜は関係ない。

防衛体制の強化で最近は無くなったが、昔は日本本土の各基地に深海棲艦の空爆が何度も行われていた。

磯波自身も何度か基地防空任務で対空戦闘に従事した事がある。

破壊と再建を繰り返す基地の写真を戦場カメラマンの様に撮って記録に残していると、自分達が戦って守っている風景そのものを記録している気分でもあった。

特に意図して始めた訳ではなく、事実上海軍入隊前からの趣味がカメラ撮影であるだけだったが、磯波の撮る風景写真は良く青葉に提供を求められていたので需要を感じるとカメラを片手に風景写真を撮るのが時に楽しみにもなった。

気が付けばプロのカメラマンも使う高級カメラが手に入り、それで更に様々な写真を撮っていた。

「今日もいい夜景ね」

シャッターを切りながら、カメラのレンズを向ける先の被写体にそのままの感想を呟いた時、遠くで誰かが喚く声と金属が激しくぶつかる音が聞こえた。

ソナーで敵潜水艦の警戒を行う事は駆逐艦艦娘の共通任務であるし、専ら護衛任務担当の自分は対潜警戒でよくソナーマン役もやっているから耳は良い方だ。

地獄耳な気もしたが、耳を澄まして何事か聞いてみる。

 

天龍の声だ、かなり焦りと微かな恐怖を交えており、良い状況とは言い難い、窮地に陥っているらしいのが分かった。

これは誰かに知らせた方がいい。

直ぐに磯波は寮の方へと駆けだした。

 

 

息切れしかける自分をさらに追い込んで来る、もはや殺意以上の狂気が宿る白刃の嵐に、天龍は完全に追い詰められていた。

一方、愛鷹は息切れた様子一つ見せない。

「お前は……何者なんだ……」

恐怖に完全支配されかける天龍の問いかけに愛鷹は応じない。

無言で自分を殺しにかかって来る。狙った獲物は絶対に逃さないハンター、いや捕食者の様に獲物を追い込んで来る。

ただ恐怖に支配されかける天龍に残された思考力は、愛鷹の繰り出す斬撃にどこか必死さを思い起こさせていた。

まるで天龍を殺しておかないと、自分が殺されるとでも言う様な必死さ。

この状況になってどれ位経っているのか分からないが、先に斬られた木曽と皐月への心配が高まるのだけは分かった。

しかし、助けを求める暇が無い。防戦一方の自分には無理だ。

振るわれる白刃は、深海棲艦相手ではなく、明らかに対人戦を考慮した動きでもあった。

自分の様な帯刀艦娘は刀を使った対人戦訓練など受けた事がない。そもそも艦娘が対人戦を行う状況自体がない。

だが同じ艦娘の筈の愛鷹は対人戦を心得ており、しかもかなりの腕前の様だった。

どこでこんな教育を……と天龍が思った時、レアメタル複合材製の自分の刀が愛鷹の斬撃に屈した。

けたたましい音と共に白刃に敗れた愛刀が砕け散り、天龍は自分を護るモノを喪った。

刀が砕けると共に、恐怖に覆われかける自分を踏みとどめる事が出来ていた何かも砕けた。

僅差で斬撃を躱した天龍は悲鳴を上げて倉庫の入り口に向かって駆けだした。

もう木曽にも皐月に構っていられない、自分が殺されてしまう。

 

走る自分に愛鷹は走って追いかけて来なかった。

ドアに取り付いた天龍がドアノブを掴み回す。

しかし、ノブは回るが知らない内に鍵がかかったのかドアが開かない。

「ど、どういう事だよ!?」

焦りながらドアノブの鍵穴を見ると、いつの間にか鍵穴が潰されていた。

入って来た時にあらかじめ鍵を壊したのか?

凝然と破壊されている鍵穴を見ていると、愛鷹の靴音が背中から急速に迫って来た。

振り返った時、腹にかなりの勢いを付けた蹴りが入り、成す術もなく天龍は壁に叩きつけられた。

骨が何本か逝っていそうなほどの痛みにうめき声を上げた時、視界に愛鷹の足が映った。

 

「……や、やめろ……」

 

愛鷹の顔を見上げて命乞いをする天龍を、無言と冷酷な殺意の視線が見つめる。

 

「……やめてくれ」

 

震える天龍に向けて、愛鷹はゆっくりと右手の刀を両手で構える。

 

「お願いだ、殺さないでくれ!」

 

自分の急所、心臓に愛鷹は白刃の狙いを定める。

 

「止めろ、俺はまだ死にたくない! 殺さないでくれ……!」

 

もう見返すことが出来ず、目を閉じた時、愛鷹が一瞬何かに反応したような素振りを見せた。

直ぐにその素振りを消した愛鷹は天龍に向かって白刃を突き刺す力を入れた。

 

 

その時、数発の銃声が倉庫内に響き、愛鷹が苦悶の声を上げた。彼女の手から零れ落ちた刀が地面に転がる。

銃声とほとんど同時に鍵穴を潰されたドアや、別の入り口を蹴破ってM8ライフルを構えたMP(憲兵)が雪崩れ込んできた。

赤い血に染まる右腕を抑える愛鷹に海軍憲兵隊員数名がタックルをかけ、そのまま地面に倒すとまだ動く左腕を含む四肢を取り押さえ、行動の自由を奪った。

「確保ーっ!」

もがく愛鷹を数名がかりで取り押さえた憲兵の一人がそう告げると、冷たい大淀の声がかけられた。

「拘束し、営倉の独房に連行して下さい。抵抗する場合は死なない程度に銃弾を」

「愛鷹さん!」

「愛鷹!」

大淀の指示を遮るかの様に青葉と大和の呼ぶ声が愛鷹にかけられる。

二人の自分を呼ぶ青葉の声に、愛鷹が初めて反応した。

狂気から正気に戻った目が青葉に返され、口が開いて何かを言おうとする。

地面に押さえつけられている愛鷹の傍に屈んだ大淀は冷酷さを込めた目で何かを言おうとする愛鷹に、あの言葉を吐いた。

 

「貴方は……廃棄処分されるかもしれませんね……残念です……」

 

途端に激しい恐怖の表情を浮かべて一切の抵抗が止んだ愛鷹の両手に、頑丈な手錠がかけられる音が暗い倉庫内に響いた。

怪我しているんですよ! と抗議の怒声を張り上げる青葉と、愕然とした目で見る大和の前を、一切の抵抗をする素振りを見せなくなった愛鷹が憲兵に囲まれて連行されていった。

 




次回は愛鷹は営倉で取り調べと、軍法会議にかけられるか否かの調査が行われます。

また次回のお話でお会いしましょう。

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