艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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タイトルはエースコンバット・ZEROのOPのモノをイメージしてます。

本編をどうぞ。


第四一話 変化する運命・変われない世界

霧の向こうから突然聞こえて来た爆発音に夕張、衣笠、蒼月、深雪は目を剥いた。

「なに今の爆発音は⁉」

「衣笠、落ち着け。愛鷹ー! 生きてるかーっ!?」

引き攣った表情を浮かべる衣笠を宥めながら、深雪は霧の向こうにいる筈の愛鷹に呼びかける。

返事が返ってこない。もう一回深雪は呼びかけるが返事が無い。

四人が「まさか……」と思った時、霧の中から青葉を曳航索で曳航する愛鷹が咳き込みながら姿を現した。

「大丈夫か愛鷹」

「大丈夫、防護機能の展開が間に合って助かりました」

時々咳き込みながら答える愛鷹は大した傷もない様子だ。

曳航索で愛鷹に曳航されている青葉は意識が無いのか、糸が切れた操り人形のように力なく固定されている。

衣笠が呼びかけると唸りながら身じろぎした。

「青葉さんは気を失っただけですよ衣笠さん。

軽くガスを吸った可能性があるので、帰ったら医療検査を受けて貰いますが」

「良かった……」

ホッと胸をなでおろす衣笠に入れ替わる様に夕張が愛鷹に問いかける。

「何があったんですか?」

「説明は後回しです。今ので私達が出張って来ている事を深海棲艦が聞きつけているかもしれません。

一旦帰投します」

海域の離脱を宣言した愛鷹に深雪が慌てた様に制止する。

「おい、磯波の捜索は⁉」

「手がかりが無かったので、ここには磯波さんに関する情報は無いと見ます」

「けど、磯波を探さないと」

「今は無理です。ミイラ取りがミイラになっては元も子もありません!」

「でも!」

「死にたいのですか!? 死んだら磯波さんを探す事は不可能ですよ!」

食い下がる深雪に、珍しく焦りを滲ませた表情の愛鷹が一喝した。

「畜生!」

罵声を吐きながらも深雪はそれ以上食い下がらず、唇を噛みながら身を引いた。

その時、愛鷹の艤装に曳航索で繋がれた青葉が呻きながら身じろぎする。

「青葉、起きてよ。ねえ、起きなさいってば」

業を煮やした様に衣笠が青葉の両頬にビンタを食らわせると、青葉の目が開いた。

覗き込んで来る妹の姿を見て、惚けた様な青葉の顔が瞬時に目を覚ました顔に変わる。

「お、生きてる!」

「何よ、今まで死んでたって言うの?」

しっかりしなさいよと呆れ顔になる衣笠に苦笑を返しながら、青葉は愛鷹に礼を言いながら曳航索を外す。

体はぴんぴんしている青葉の姿に安堵を覚えながらも、確認するように体に異常はないか尋ねる。

「動けますか?」

「体はぴんぴんしてますから大丈夫です。艤装も無傷です」

その言葉に安堵のため息を吐くと全員に単従陣を組むよう指示する。

「単従陣を形成、第一戦速で海域を離脱します」

「了解」

五人が唱和する返事を返すと、先導する形で愛鷹は加速をかけた。

 

第一戦速で聴音による警戒を行いながら航行していると、霧が晴れ始めた。

視界が少しずつ良くなり始める一方、雲が出て来て日の光が乏しくなった。

おまけに日没時間が迫って来ていて余計に視界が悪い。

「拙いかもしれない……」

今会敵しても流石に視界が悪くて愛鷹も射撃を当てられるか少しばかり不安が出た。

HUDの視覚表示をサーマルモードに切り替えればある程度は霧の中でも見通せるが、探知範囲がそれほど広くはない為出会い頭の接触を防ぐ程度しか効果は期待できない。

そもそもサーマルモード表示は射撃時に使う表示機能だ。索敵に用いる事は想定していない。

それでも出会い頭の交戦になるよりはマシと割り切り、サーマル表示のHUDで周囲警戒を行う。

「愛鷹さん、基地に一報は?」

続航する青葉の問いに愛鷹は首を横に振る。

「ネガティブ、電波発信源を逆探されて逆に深海棲艦に位置を教える羽目になります。

電波管制レベル2を維持」

「了解です」

青葉が周囲警戒に戻る一方、愛鷹は爆発した複合艇の「爆発時に見えたモノ」を頭に思い浮かべていた。

 

防護機能を展開して自分と青葉を護った際に、一瞬だけ見えた複合艇が爆発する時の閃光に戦慄するモノを覚えていた。

爆発する際に見えた閃光はオレンジ色がかっていた。深海棲艦が使用する炸薬、爆薬のいずれの特徴に当てはまらない。

しかし、愛鷹は見た事がある爆発だった。

 

「RDX、可塑性爆薬……」

 

爆発時にオレンジ色の閃光を発するプラスチック爆薬ともC4とも呼ばれる爆薬だ。

軍だけでなく民間でも解体作業などで広く使われる、中々ポピュラーな爆薬である。

爆発の威力に優れるだけでなく、火に投げ込んでも燃えるだけであり、衝撃で暴発する事もまずない。

火に投げ込んでも爆発しないと言う特徴から、固形燃料として使う事も出来、舐めると甘い。

ただ爆薬の主成分であるRDXにはトリメチレントリニトロアミンと言う人体に有毒なモノが含まれており、これを吸い込むと大変なことになる。

水には溶けないから体には吸収しにくいものの、加熱・気化したエアゾルを吸い込めば急性中毒を起こしてしまう。

その為、固形燃料として使う時はガスを吸わない様に使う必要があるし、甘いからと言って食べたり舐めたりすれば当然病院送りになる。

複合艇を跡形もなく爆砕する程の爆発だった所からして、相当量のC4を積んでいたことは間違いない。

何故複合艇があんなところで艦娘の救難信号を発信し、自分が近づいたら爆発した理由が分からない。

何処かのテロリストか非合法活動家が仕掛けたモノにしては、かなり手慣れている感じがあった。

何より海軍の保有する最新鋭の通信機器を載せていた。反社会的勢力への流出を防ぐ措置が幾重にも取られている装備品だから、横流しされたモノとは思えない。

 

敵は身内である海軍内にいる。

 

その結論が出るまで長い時間は必要なかった。

そしてその身内が、日本艦隊基地で自分を抹殺しにかかっている勢力の事を意味する事に思い至るまで、さほど時間は必要なかった。

(どこまで追ってくる気……)

静かな怒りを覚えた。自分だけならまだしも危うく青葉まで巻き添えを食らうところだった。

(関係ない人間まで巻き込むなんて……天龍さん、木曽さん、皐月さんまで危うく死ぬところだった)

 

誰かに報告しておきたかったが、一体どこに自分を殺す勢力が潜んでいるかさっぱりだ。

こんな状態では磯波の捜索もままならない。早く見つけ出して連れて帰らないと磯波の体力が持たない。

艦娘として軍事訓練を受けている海軍兵士とは言え、艤装を外せば普通の人間。

焦りが愛鷹の胸の内に湧き出していた。

 

その時深雪の叫び声が焦りで頭の回転が鈍っていた愛鷹の耳に入った。

「警戒! 敵艦隊視認、リ級が三隻にロ級三隻! くそ、リ級はflagshipだ。

方位三-一-〇、敵速は恐らく第三戦速」

気が付くのがやや遅れたモノの、愛鷹はすぐに動いた。

「対水上戦闘用意! 左砲戦、雷撃戦準備!」

旗艦からの指示に五人が即座に主砲を構えた時、リ級三隻の砲撃が六人の周囲に着弾した。

散布界は広い。牽制射撃程度と言えるから慌てる事は無い。

「夕張さん、深雪さん、蒼月さんは駆逐艦、私と青葉さん、衣笠さんはリ級を相手にします。

ウェポンズフリー!」

指示を出した後、HUDでリ級に照準を合わせる。

風向、風速、湿度、温度と射撃時に関わる数値が表示される。距離はかなり近い。

お互い出会い頭と言う訳ではないようだ。強いて言えば思わぬ遭遇程度だ。

「結構便利ね……第一、第二主砲、弾種徹甲弾。

対水上戦闘、指標一番のリ級。主砲、撃ちー方始めー! 発砲、てぇーっ!」

艤装の射撃管制スティックのトリガーを引くと、四一センチ連装主砲二基から四発の徹甲弾が轟音と共に撃ち出される。

陸奥の艤装から移植する際、明石が機転を利かして強制冷却装置を仕込んだお陰で、砲口から冷却水が流れ出し発砲時に過熱した砲身を冷却する。

流石に、慣れないと体に来るな、と四一センチ主砲の発砲時の衝撃に体に来るものを感じる。

しかし、衝撃には慣れが必要だが、照準を含めた射撃の慣れは早かった。

愛鷹へ砲撃を行うリ級を包み隠す様な四つの水柱が突き立ち、リ級がその中に隠される。

「第一射で挟叉か。なら次は当たる」

砲身冷却完了のブザーと再装填完了のブザーの二種類が鳴る。装填速度はやはり以前の三一センチよりは遅めだ。

第二射を放つと、二発はリ級の手前に着弾して水柱を高々と上げたが、二発はリ級を直撃していた。

艤装が一瞬で吹き飛び、誘爆したらしい弾薬類の火炎がリ級を包み込む。

「侮りがたいflagshipとは言え、四一センチはオーバーキルかな……」

轟沈するリ級を見て、やり過ぎた感を覚える。

 

HUD表示と素の射撃の腕、そして経験が「今だ!」と頭に告げた時、反射的に青葉は主砲の射撃ボタンを押していた。

二〇・三センチ連装主砲二基の砲身が砲炎を吐き出し、砲身が後退する。

撃ち出された砲弾が青葉を狙っていたリ級を打ち据え、砲塔一基をもぎ取る。

火力が低下し、本体にもダメージを受けたリ級の動きが鈍ったところへ、再装填が済んだ青葉の二〇・三センチ砲弾が直撃する。

さらに四発の直撃を受け、悲鳴を上げて炎に身を包まれるリ級を青葉は冷めた目で見つめる。

焔に包まれながらもがくリ級に対し、照準を合わせて射撃ボタンを押すと主砲が砲弾を砲炎と共に砲口からたたき出した。

止めの三射目を撃ち込まれたリ級は爆発炎上しながら海上に倒れ、そのまま海面下へと沈んだ。

同様に相手をしていたリ級を沈めたばかりの衣笠は、姉の砲撃を見て「容赦無さ過ぎ……」といつもと少し違う青葉の姿を見た気がした。

同時に以前よりリ級flagshipをあっさりと沈めてみせた姉の技量に感嘆した。

そんな妹の驚きの視線を送られる当の青葉は、左腰に左手を当て、冷めた目で沈んだ海上に浮かぶリ級の艤装の残骸が上げる黒煙を見つめていた。

 

あれが青葉の沈めた敵の墓標……。

 

甲改二によって強力になった自分の艤装火力に満足する一方、この艤装で始めて沈めた敵だと青葉は消え始めるリ級の残骸が上げる黒煙を見つめた。

 

愛鷹、青葉、衣笠がリ級を片す一方、夕張、深雪、蒼月らもロ級を片し終えていた。

「これで全部かな」

軽く溜息を吐く夕張が周囲を見回すと、ヘッドセットから愛鷹が集合をかけた。

ロ級三隻がややばらけて戦うので、夕張達もそれぞれ各個撃破でロ級を沈めたが、互いの距離がかなり開いてしまっていた。

やや相互援助しにくい状態になってしまったと後悔が夕張の脳裏をよぎった時、ソナーコンタクトの電子音が羅針盤から発せられた。

咄嗟に身構え、海面を凝視する。羅針盤表示を対潜警戒に切り替えて、ソナースクリーンモードにする。

自分のより高性能ソナーを備えている愛鷹も気が付いたらしく、「対潜警戒警報」を第三三戦隊のメンバーに出した。

他のメンバーも対潜警戒警報を聞くや、海面を凝視し、各々のソナーで海中を探る。

最初に気が付いた夕張の脳裏に、夜間の潜水艦の不意打ちで戦死した浦風の最期がよぎる。

あの時、もっと自分が気をつけていれば……と言う悔しみが夕張の胸にこみ上げて来る。

 

一方パッシブソナーで聴音を行う愛鷹はソナーから聞こえる音に怪訝な表情を浮かべていた。

聞いたことも無い推進音だ。水切り音も何かおかしい。

(この流体雑音(水切り音)……なにかしら)

深度そのものは比較的浅い。

厄介なことにさっきの戦闘による雑音が精密な聴音を難しくしていた。海上にはまだ撃沈した深海棲艦の艤装の残骸の一部が炎上しながら浮かんでいる。

ただ、正体不明の海中の物体のいる大まかな方角は分かった。

少しばかり考えた後、ある手を使う事にした。

「青葉さん、衣笠さん、私のすぐそばに集まって下さい」

「はい」

唱和する返事を返す青葉と衣笠が自分の傍に集まるのを見ながら、夕張にも指示を出す。

「夕張さん、ソナーのパッシブ感度を最大にして、私が向かう方の海中の聴音をお願いします」

「了解」

青葉と衣笠が傍に寄って来ると、手招きしてもっと近寄る様に指示する。

「密集してどうするんですか?」

そう尋ねる衣笠に、愛鷹は考えついた方法を教える。

「海中の不明体の周囲に航跡静波(こうせきせいは)を形成します。

水上艦であれば確かなのが作れますが、私の様な艦娘、人サイズのだけではこの艤装でもうまく形成できないかもしれない。

三人で密集して円状に航跡静波を作るのです」

「なるほど、外洋の音は航跡静波によって遮られ、形成された円の内側は静寂に包まれる」

良いアイデアだ、と青葉が感心したような顔になる。

 

青葉と衣笠と手がつなげる位の間隔で密集して大きく円を描く形で航跡静波を形成すると、夕張が愛鷹達の作った航跡静波の円の内側の海中の聴音を試みる。

深雪と蒼月は傍で警戒にあたる。

「ソナーコンタクト、聞き取りやすくなったわ……方位二-三-七、深度一二メートル、速力二一ノット」

そこまで告げた時、夕張は海中の物体から何かの音を聞きつけた。

何かの塊の内側から叩く様な音……。

「何か聞こえます! 叩く音が」

「叩く音……?」

夕張の報告にどういう事だと愛鷹もソナーで聴音を始める。

 

確かに何か叩く音が聞こえる。水切り音より聞き取りやすい。

「……み……わ……」

自然と聞こえてくる音がモースル信号のそれだった。慎重に聞き取る。

 

「……れ……い……そ……な……み……わ……」

 

自然と呟きあげた時、パズルのピースがはまったような音が聞こえた気がした。

「ワレ磯波! ワレ磯波、磯波さんのシグナル!」

「磯波だって⁉」

頓狂な声を上げる深雪に警戒を続けるように指示を出すと、愛鷹はアクティブソナーを一回打った。

ソナー表示にしたHUDにソナーのエコーが跳ね返り、表示された。

「な、なに、これ……」

思わず地が出た声で目を見開く。大きな物体、小型潜水艇程はあろう物体が何かを曳航している。

曳航されているのはワ級並みのサイズだ。

「ワレ磯波」はそこから聞こえた。

アクティブソナーで「ワレ、アシタカ」と打つと、叩く音が返された。

 

「……助けて……」

 

パッシブソナーで聞き取った青葉が返された音を呟いた時、愛鷹がいきなり猛ダッシュで海中の物体へと加速をかけた。

「あ、愛鷹さん!」

加速時に派手にたてられた波を被った青葉が少し咽ながら飛び出した愛鷹を見ていると、愛鷹は左腰から刀を抜いて柄を咥えると艤装を外して海中に飛び込んだ。

 

 

見つけた!

海中を泳ぐ愛鷹の目に巨大な物体が目に入った。

胸像程度の女性の形をした部分が自分を見るや、慌てて回頭する。

(深海棲艦の新型艦⁉)

驚きながらも回頭した物体が引くワ級サイズの物体に愛鷹は泳いだ。

加速をかける物体に逃げられる前に、咥えていた刀を左手に持ち、曳航索を切った。

そして物体に切れ目を入れると、刀をまた咥えて両手で切れ目をこじ開けにかかる。

しかし、開かない。それどころか曳航索が切れたせいか、切れ目からの浸水も相まってか沈み始めてしまう。

(くっそ! このままじゃ……)

切れ目に込める力を精一杯入れている時、推進音が聞こえ、真下で爆発した。

愛鷹と物体にふわりと浮く程度の爆発の衝撃波が押し寄せる。

さらに二つの推進音と真下での爆発音で物体と共に愛鷹は海上ギリギリまで浮き上がった。

見上げると青葉と衣笠の足裏が海上に見えた。

(もうちょっと……!)

苦しくなり始める息の中、これでどうだと咥えていた刀をてこにする形で切れ目をこじ開けると、簡易OBA(小型循環式潜水呼吸器)を付けた磯波が飛び出してきた。

かなり消耗している様ではあるモノの元気な目の磯波が自分を見返す。

(良かった……)

なぜか海中で熱く滲み始める視界の中で安堵した時、磯波が細い腕を伸ばしてきた。

その白く細い磯波の腕を、愛鷹の手がしっかりと掴んだ。

 

 

モニター越しのデーン元帥の言葉に武本は驚愕の表情を浮かべた。

「それは、本部長の決断ですか?」

(私ではない。海軍、海兵隊、それに国連の主要閣僚で決定した話だ)

「再考……は出来ませんか?」

(これは国連軍最高指令だ。君抜きと言う形になってしまった事に関しては、謝罪する。

だが、これ以上はひたすらの消耗戦になる。違うかね?)

その通りだと分かりつつも、武本は承服し難いモノを覚えていた。

 

沖ノ鳥島海域の深海棲艦の拠点への航空攻撃は結局、いくら行っても完全破壊に至る事が出来ず、逆に潜水艦隊に被害が出始めていた。

先日など爆撃に向かった一航戦の赤城が中破、加賀大破と言う損害を負わされ、返り討ちされる羽目になった。

B21爆撃機も三機が撃墜されてしまっており、少なくとも艦隊泊地としての機能を完成させることは防げてはいるモノの、対空防衛陣地として沖ノ鳥島海域の深海棲艦の拠点は事実上要塞化されていると言ってよかった。

これ以上の損害は日本艦隊への負担を考慮すると厳しいものがあった。

在日北米艦隊も小笠原防衛で手一杯になりつつあり、戦線をこれ以上延ばしてしまうとどこかでほころびが出来てしまう。

そこを突かれれば、こちらが更なる大損害を被りかねない。

代わり等ない艦娘が戦死する事態にもなりかねない。

 

そこで国連軍の総司令部が出した最終作戦が実行される事になった。

 

中国の遼寧省瀋陽基地に配備されているDF21 MRBM、つまり準中距離弾道ミサイルによる沖ノ鳥島海域への戦術核弾頭弾による核攻撃だ。

弾頭は国連軍結成後に中国で開発された純粋水爆。破壊力は一キロトン。

放射能による周囲への汚染を極力落としたいわゆる「綺麗な水爆」。

 

国連軍結成以来から深海棲艦の一大拠点への核攻撃は何度も主張されて来た方法だ。

結成前でも戦術核による報復は行われかけた事があったが、全て核兵器禁止条約が発射を検討した国々を思い止まらせてきた。

そもそも国連軍が結成されるまで、衛星通信網の遮断による各国の迅速な意思疎通が困難な状況下で、もし一発でも弾道ミサイルを撃ったらそれを自国への核攻撃と誤認して報復の核ミサイル攻撃が行われた場合、最悪全世界規模での核ミサイル攻撃が行われるところだった。

各国間の情報共有の困難さは結果として戦略兵器の使用を思いとどまらせることが出来たが、国連軍結成後は情報共有ルートが確立できたことで、深海棲艦の一大拠点があると思しき場所、あるいはある場所への戦術核兵器による即時殲滅戦が強硬に主張されていた。

特に地中海ではマルタ島、太平洋ではハワイ諸島が深海棲艦の一大拠点となっている事が判明しているだけに、戦争の早期終結にもと核兵器による戦争終結を叫ぶ軍首脳は少なくなかった。

勿論核兵器の安易な使用に慎重論を唱える、反対する軍首脳の声から国連軍結成後も核兵器の使用は一度として行われなかったが……。

「ここで核を使えば、有効な対応策と言う認識が広まって、世界各地の深海棲艦の拠点に対する戦術核兵器使用への躊躇いが失われかねません。

核兵器は我が国に一世紀以上前に落とされた時より遥かに進化している。破壊の力は我が国の二都市を焼き払ったものよりさらに強力なモノになってしまった。

無制限核使用の前例となりかねません。

 

元帥の力で何とか撤回を」

 

そう説得を試みる武本にデーンは感情を消した顔で返した。

(残念だが、既にDF21の発射準備許可が出された。今頃瀋陽基地ではミサイルの発射準備が行われているだろう)

「取り消す事は出来ないのですか」

(君と言う高官なら分かる筈だ。我々は引き返せない線を越えたのだと、な)

 

核を使えば、核で全てにケリが付く、その認識が広まってしまう……。

 

防ぎようにももはや防げない。

国連軍の中国方面軍に友人はいるが、弾道ミサイルを管轄する中国方面軍の部隊にはいないし、コンタクトを取るのも無理だ。

ロケット軍は今では当の中国共産党政府の手から離れ、新設の国連軍直轄戦略攻撃軍団指揮下に組み込まれている。

 

独自のアポで防ぐ手立てはない。

デーンとの通信を終えた武本は無力感に苛まれた。

 

 

支援艦「あきもと」に帰着した第三三戦隊のメンバーと、ずぶ濡れの愛鷹が曳航して連れて帰る事に成功した磯波の姿に、帰りを待っていた長門と陸奥、それに留守番役の瑞鳳は歓喜の笑みを浮かべた

既に待機していた医療班のストレッチャーに磯波は載せられ、陸奥が付き添った。

疲労の色を浮かべて、両ひざに両手をついて大きなため息を吐く愛鷹に歩み寄った長門は、びっしょりと濡れている愛鷹の制服の肩に手を置いた。

「よくやってくれた……詳しい話はあとで聞かせてくれ。司令には私から後で報告を上げる事を伝達しておく」

「ご配慮感謝します」

身を起こして敬礼をする愛鷹に答礼して、長門は持って来た毛布で体を包んであげた。

深海棲艦の潜水艦の曳航する輸送コンテナの様なモノをこじ開けて、磯波を海中から連れ帰した、と言う簡単な報告の通り愛鷹は全身びっしょり濡れていた。

濡れていないのは潜る時に脱いだと言う制帽程度だ。

「まずは体を休めろ。暖かい食べ物と休息を取れ」

「はい……久しぶりに水中で動き回っただけに、疲れました」

「ああ。よく磯波を連れて帰ってくれた。感謝する」

労う長門に目深に被る制帽からも見える愛鷹の疲労困憊の目が感謝の視線を送った。

 

 

シャワー室で冷えた体を温め、軽く汗も流すと替えの制服を着込み、「あきもと」の艦娘居住区にあてがわれた自室に入った。

ベッドに腰掛けると大きなため息を吐き、タブレット数錠を口に入れ、水ボトルの水で流し込む。

飲み終えてから、あの複合艇の事と、初めて見た深海棲艦の潜水艦を思い返した。

あの巨大潜水艦、ただの潜水艦には見えなかった。

海中で視界不明瞭と言う事もあり全型を見たわけでは無かったが、あの巨大潜水艦は一体何だったのだろうと言う疑問が勃然と湧いて来る。

部屋のパソコンを開いて報告書を作成しようとして、あの複合艇の事も書くべきか、と一瞬だが迷いが出た。

いったいどこに自分の命を狙う輩が出るか分からない中、この報告書をモニターされていたら……。

いや、どの道自分が帰投した以上はあの複合艇の事は報告されると分かる筈だ。

一抹の不安は残ったが、愛鷹は今回の出撃に関する報告書と深海棲艦の新型潜水艦に関する報告書を書いた。

 

「あの潜水艦……あれを隠す為にSOSUS網を破壊して回っていたのかしら……」

 

ふと呟いた自分の考えに対し、そうだとして破壊する分一体どんな能力を持っているのだろうか、と言う疑問が湧いて来る。

磯波を入れていた輸送コンテナの様なモノを曳航できていた辺り、かなりの機関出力を持ち、さらに静粛性にも優れていた。

後でソナーが拾った音紋を詳しく解析する必要がありそうだ。

あの輸送コンテナの様なもので磯波を運んでいたのは……磯波を捕虜または拿捕していたからか。

そのあたりの詳しい話はあとで本人から聞くしかない。

ふう、と溜息を吐きながら愛鷹はパソコンのキーボードに指を走らせ続けた。

 

 

支援艦「あきもと」艦内の大食堂では夕食の時間帯になった事もあり、夕食を摂りに来た艦娘達でにぎわっていた。

出撃から帰投した青葉と衣笠は、先にこの種子島に派遣されていた古鷹と加古と一緒に夕食を囲んだ。

初装備での出撃で青葉がリ級flagshipをあっさりと撃沈してのけた事を話すと、古鷹と加古は目を輝かせて喜んでくれた。

喜んでくれる二人に感謝すると、その戦いを見ていた衣笠が横からその時の様子を語る。

「結構容赦が無かったわよ。精度の高い砲撃で半分死体になっているリ級に砲弾をどかどかと当ててたわ。

それも全弾命中の勢いで」

「青葉って時々戦闘中容赦ないよな……あたしもちょっとビビることがある」

そう言う加古に当の青葉はそうかなあと言うように首を傾げた。

「もともとから青葉って射撃の技量は高いからそう見えるだけじゃないの?」

「いやあ、時々妙に殺意が高いのを見た事があるんだよ」

気のせいじゃないかと言う様な顔の古鷹に、加古は頭を振る。

そう言う風に見られていることに、青葉は少し意外な気持ちになる。殺意とかは特に意識した事は無いのだが。

単にみんなで生きて帰る。それが目的なだけだ。

「青葉だって、そりゃ一方的にやられたり、不利な状況の時は本気で立ち回りますよ。そうしないと生きて帰れませんからね」

「そう言う時に限って急に艦隊の皆も頑張り始めるから被弾率が下がるし、それ以上ヤバいことにならずに済むのよねえ」

実際に姉と窮地を何度も経験しているだけに語る事が出来る衣笠に、おだてられているのか、とすら思ってしまう。

 

射撃の腕と言えば、今日の出撃で深雪の行った雷撃は一種の神業だった。

 

浮上出来ない愛鷹と輸送コンテナの様なモノの状況を知るや、三発の魚雷を一発ずつ、愛鷹の真下かつ致命的なダメージが出ない絶妙な深度で爆発する様セットして発射し、魚雷の爆発する衝撃波で愛鷹を支援してのけたのだ。

深度が深すぎると衝撃波は充分な勢いを出せないし、浅いと愛鷹の体に大きなダメージを与えてしまう。

大和のクローン人間としてだけでなく、遺伝子にある程度手を加えた結果常人よりタフな造りになっている愛鷹も、結局は人間だから海中での爆発の衝撃波で負うダメージは等しくかかって来る。

そこを勘定して発射した魚雷のお陰で、何とか愛鷹と磯波を救出する事が出来た。

 

いろんな海域での戦闘で青葉は場数をかなり踏んできたが、あれほどの雷撃の腕は見た事が無かった。いやそもそも前例自体聞いたことが無い。

あんな技、一体どうやって取得したのか、と思っていると「ちーっす」と四人に鈴谷の声がかけられた。

夕食を盛ったトレイを持つ鈴谷と熊野が四人の座る長テーブルの隣にいた。

「隣いい?」

「どうぞどうぞ」

「ありがと」

テーブルに着く鈴谷と熊野の食器の内容は豪勢だ。

「結構食うなあ、二人とも」

感嘆する加古に熊野が微笑を浮かべて応える。

「霧が晴れて来たので、明日から五航戦の方々と哨戒任務ですの。

ですから食べられるうちに食べて、力を蓄えなくては」

「腹が減っては戦が出来ぬ、だよ」

「確かにそうだね」

そう返す古鷹は自分のトレイを見て少し思案顔になる。

小食気味なのでもう少し食べておいた方がいいか、と考えているようだ。

食堂の食事はバイキング形式だから、おかわりは自由。好きな量を艦娘がそれぞれトレイに盛る。

「太るとか思わないで、食べられるうちに食べておくべきよ古鷹」

そうアドバイスする衣笠に、古鷹は頷いた。

「全部食べたら、ご飯を納豆付きでおかわりして来るよ」

「納豆に含まれる納豆菌は体に良いから、美容と健康にうってつけ」

そう添える青葉に鈴谷が苦笑を浮かべた。

「ねばねばし過ぎるのが悩みどころだけどねえ」

「それは食べ方の方が悪いのではなくて?」

相棒の熊野からの絶妙なツッコミに鈴谷は降参だ、と軽く頭を垂れる。

話題でも変えようかと青葉は二人に明日の出撃編成を訪ねた。

「明日はどう言う編成で行くの?」

「さっき話した通りの翔鶴さん、瑞鶴さん、それと第二駆逐隊の村雨、五月雨とで。

私と鈴谷は航巡艤装にて出撃です」

そう説明する熊野に、ふと思い出したように衣笠が聞く。

「霧が晴れて来たって事は航空機を飛ばせる状況になったと?」

「そういう事。てかそうでなきゃ翔鶴さん達空母って言うのは出撃出来ないよ」

自身も改装では軽空母になれる鈴谷が答えると、青葉が考え込む顔になった。

「つまり、深海棲艦も航空攻撃を本格的に仕掛けて来るかもしれないって事か」

「まあ、そうなるよね。明日からの出撃、衣笠さんはお留守番になるのかな……」

「そこをどうするかは愛鷹さんと話して決めないと何とも言えないよ」

肩をすくめて返す青葉に鈴谷が顔を向けて来る。

「愛鷹さんって、そう言えば青葉たちがこっちに来てからまだ見てないね」

「戦隊旗艦なだけに報告書作成とかで忙しいんですよ」

「青葉って、第三三戦隊のサブリーダーでしょ? 手伝ってあげないとダメじゃん」

「デスクワークの類は大体自分で直ぐに片付けちゃうから、必要なければあんまり青葉は呼んで貰えないんですよね」

そこの所には不満がある様に青葉は顔をしかめた。何でもかんでも自分でやってしまいがちな愛鷹は、仕事が毎度毎度早くて自分が手伝いに入る隙も無い。

楽ではあるが、もう少し自分達を頼って欲しいし、自分達と一緒にいて欲しい。

だって、来年にはこの世を去る事が決まってしまっているのだから……。

 

少し儚い表情になる青葉に鈴谷は何か良からぬものを感じたが、それがどう言うモノかは分からない。

ただ青葉の見せるこういう顔は相当悲しい話ではあるという事程度は推し量れた。

 

 

報告書を書きあげ、司令部宛にメールで送付し終えると、一息入れる様にぐっと伸びをした。

そう言えば夕食はまだだった事を思い出し、制帽を被ると愛鷹は自室を出た。

流石に時間も時間帯なだけに夜勤になる艦娘や支援艦の乗員以外いない寂しい食堂で、券売機からチャーシュー麵とシーフードサンドイッチの食券を買う。

明日からまた忙しくなる。それも命のやり取りとなる激しいものが。

それに備えて少しは食べておかなければ。腹が減っては判断力が鈍ってしまう。

チャーシュー麵は長門から温かい食事を摂れ、と言われていたし、何より麺類は施設時代以外あまり食べたことが無かったから一編は食べておこうと思った。

サンドイッチを頬張り、チャーシュー麵の面をすする。

暖かい麺とつゆが疲労を訴える体を温めてくれた。

「美味しい……」

何気ない普通のチャーシュー麵の筈なのに、妙に愛鷹には美味しく感じられた。

自然と頬が緩み珍しく微笑を浮かべながら愛鷹はチャーシュー麵を食べた。

ネギ一つ、残さず食し、サンドイッチの最後の欠片を呑み下すと、軽く溜息を吐いて「ごちそうさまでした」と手を合わせた。

食器を返すと、食堂を出て艦内通路をなるべく静かに歩き、支援艦の艦尾のキャットウォークに上がる。

腰掛けても問題ないかつ、どこかから撃たれても大丈夫な物陰でポケットから葉巻を一本出し、ジッポで火を点ける。

細い煙を吹きながら一息入れる。ちょっとした愛鷹の至福の時だ。

ストレス軽減に喫煙は切りづらい縁がある。

ヘビースモーカー一歩手前なのは自覚済み。体質的に酒が飲めない分、酒とタバコ両方をやる人間よりは体に負担をかけ過ぎてはいないはず。

葉巻を吸いながら、かなり霧が晴れて来た種子島の夜景を眺めるが、特に何か綺麗なモノが見えると言う訳でもなく、真っ暗闇だけが目の前に広がっていた。

特に何もない暗い海を見る。それだけでも充分疲れた頭を空っぽにしてリラックスする事が出来た。

 

何気ないこの一人でいる時間も自分には貴重な時間でもあった。

独りぼっちの施設時代と比べて、自分の事を好意的に見てくれる艦娘が大勢いる日本艦隊の仲間達。

青葉ら第三三戦隊のメンバーは自身の良き理解者だ。

ただの仲間とは言えないモノも少し感じつつあった。

 

「おや、先客がいたか」

ぼんやりと葉巻を吸っている愛鷹に長門の声がかけられる。

となりの用具入れに腰掛ける長門に愛鷹が一瞥すると、長門は特に何かをすると言う訳でもなく夜の海を眺めていた。

「長門さんは非喫煙者で?」

「昔は吸ってたこともあったが、今は止めたよ。

愛鷹は葉巻好きだな」

「特に高級品でもないですけど、多少銘柄にはこだわりがあります。吸うのはストレス軽減って意味でも、自分の趣味って意味でもです」

「タバコは?」

「葉巻を切らした時程度ですね。自分でもヘビースモーカーの一歩手前という事くらいは自覚してますよ」

そう語る愛鷹に長門は無言で見る。

「愛鷹も、変わったな。着任した時と比べたら」

「自分でも結構角が取れた、って思うことがありますよ」

そう返して来る愛鷹に長門はやはり着任時とはずいぶん変わって来た彼女の姿に感心するモノを覚えた。

自分でも昔と変わった気がすると語れるし、何より今自分と話す時の口調自体、初めて会った時より柔らかくなっている。

仲間の力のお陰と言うべきか。

「長門さんも、ここで海を?」

ふと尋ねて来た愛鷹に、長門は軽く頷いた。

「ただ海を眺めているだけで色々な事で頭が一杯一杯な時、頭の整理が付くんだ」

「私も同じです」

艦娘は海を眺めるだけで、気持ちの整理が付く、と言う共通点でも存在するのだろうか。

そんな疑問が頭に浮かんだ時、静かな声で長門が愛鷹に問うた。

 

「義務ではないのだが、経歴に謎が多すぎる愛鷹の昔が私は少し気になるんだが、もしよければ話してもらえないか?

いつも目深に被り続ける制帽で隠さなければならない素顔の理由も」

「かつての秘書艦として気になると?」

「いや、これは私個人の興味とでも言うべきかな。愛鷹と言う艦娘の事を知りたい、理解したいと言う興味と言ったところだ」

そう答えると、葉巻を手に取った愛鷹は煙ではなく、深い溜息を吐いた。

いつかは長門にも話すべきかもしれないと思ってはいた。

ただ、今の状況、自分の命を狙う輩が一体どこに潜んでいるか分からない中、これ以上秘密を明かして回る必要があるか。

長門が命を狙う勢力と通じていないとも限らない。

全く関係が無かったとしても、長門まで自分の命を狙う勢力からのやり方の巻き添えになる事もあり得る。

関係のない人間まで巻き添えになっていくのは、正直嫌だ。

しかし、長門の言い方には純粋に理解したいと言う彼女の本心が見えたような気がした。

 

「……不必要に口外しない、と言うのならお話しましょう」

「その覚悟無くして尋ねたりはしないさ」

優しい表情を返す長門に、もう一度深い溜息を吐いてから愛鷹は自分の身の上、出自を明かした。

 

全てを話し、今では命を狙われるまで至っている難しい状況の愛鷹の話を、長門は神妙な表情で聞いた。

「そうか……ただ一言で『辛かったな』で終わらせられるものでは無いな。……よく頑張っているな」

「生まれるなら、人間として、自然な母親のお腹の中から生まれたかった……。

例え病弱でも、周りから疎まれる様な存在として生まれたくはなかった。

戦う事でしか、自分の生きる意味を確かめる、感じる事しかできない存在などなりたくはなかった。

そして自分が恩師の死の遠因になっていたなんて……」

低い声で語る愛鷹にその複雑な心境を長門は静かに受け止めた。

「ロシニョール博士は……愛鷹と言う存在によって死んだのではなく、『教え子を護ろうとその身を捧げた』とも解釈できるぞ」

腕を組んで言う長門に沈んだ目を向ける。

「愛鷹は、自分がロシニョール博士を殺してしまったと思っている様だが、博士は病を発症しているお前を助けようと、自らワクチンの実験台となった。

結果は病に倒れ、帰らぬ人となってしまった訳だが、博士はお前が自分の発見した病気から救おうとしていたのではないか?

少なくとも私は、愛鷹のせいだ、とは思わんよ」

確かにそうとも考えられなくもない。クローン達の唯一の味方だったロシニョール博士ならそう考えたかもしれない。

そう考え付くのが寧ろ自然なのかもしれない。

「自分で抱え込みすぎるな愛鷹。私を含む味方はお前を裏切る事は無い。

頼るべき時は、頼れ。艦娘、いや人間は一人では生きていけないからな」

「……そう……ですね」

「第三三戦隊の仲間に、お前は仲間意識とはまた別のモノを感じている、と言ったな」

「はい。ただの仲間意識とは何だか違うような気がするんです」

そう答える愛鷹から長門は一旦視線を外し、顎を摘まんで軽く考えてみる。

少し間をおいて長門は辿り着いた答えを口にした。

 

「……愛鷹が感じているのは、家族意識かもしれんな」

「……家族意識……」

「珍しい話でもない。集団で過ごす内にそれまで孤独を感じていた人間は居場所を見つけたと同時に感じる事だってある。

生死を共にしてきた青葉、衣笠、夕張、深雪、蒼月、瑞鳳。

血の繋がりは無くても、お前にとっては家族の様に大切な存在。違うか?」

「……はい」

「艦娘同士での家族意識は普通にある。ごく普遍的な概念でもある。

出自自体は確かに他の人間とは一線を画しているが、愛鷹もみんなと同じ世界にいる。

愛鷹と言う替わりのない一人の人間として、人間世界の中に存在している。

存在する事を許された人間だ、否定するなどもってのほか。いずれ、お前を排除しようとする者は報いを受ける。

絶望するには早い。愛鷹もこの世に生を授かる事を許された一人の人間だ」

「長門さん……ありがとう」

葉巻をシガーレットケースにしまいながら、愛鷹は長門に「ありがとう」と言う簡単ながら充分意味を成す礼を述べると、腕時計を見た。

「消灯時間ですね。今は何も起きていませんが……休むことが出来る内に私は休ませてもらいます」

「部屋まで送ろう」

消灯時間と言う言葉に自分の腕時計を見た長門は愛鷹と共に、居住区に戻った。

 

 

寝間着に着替えた愛鷹は、ふとカバンの中にしまっていた写真を手に取った。

日本艦隊統合基地を出る前に、青葉のカメラで撮った第三三戦隊メンバーとの写真。

思い思いのポーズを決める仲間達。

 

「私を含む味方はお前を裏切る事は無い」

 

そう言ってくれた長門の言葉に静かな安堵を覚えると、ベッドに横になった。

明日も生きよう。その為に生まれたのだから。

部屋の照明を消して程なく、愛鷹は深い眠りに落ちた。

 

 

デフコン1が発令されている地域とは思えない程の静寂が、霧が晴れた海に囲まれる種子島を包んでいた。

 

 

基地司令官室のベッドで睡眠をとっていた鍋島司令官は、突然自室のドアが開いて副官が飛び込んで来るのを感じると、副官に起こされるまでもなく自分で起き上がった。

「司令官、UNPACCOM経由で国連軍総司令部から緊急通告が入りました!」

「まずは落ち着け」

息を切らせる副官を制しながら上着を掴んで袖を通し、軍用ブーツを履く。

あっという間に身を整えた鍋島が息を整えつつある副官に緊急通告の内容を聞いた。

「何があった?」

「国連軍総司令部特一級暗号コードで、日本全土を含む太平洋西側一帯にタンゴ・ノヴェンバー警報です!」

「何だと! 確かか!?」

「はい、該当地域一帯は一時的な強電磁パルスによるシステムエラーに備えよ、と指示が」

略帽を被りながら鍋島は副官に尋ねた。

「目標は?」

「座標オスカー・アルファ・2・4・エコー・オスカー・2・5です」

「……まさか、あそこに⁉」

驚愕する鍋島は副官と共に直ちに司令部施設へと走った。

 

 

(……28……27……26……25……24……)

 

 

真っ暗闇に包まれたある軍事基地で何かのカウントダウンが始まっていた。

数両の大型車輛と機関銃を備え付けた高機動車輛にIFV(装甲歩兵戦闘車)が周りを警戒する中、カウントダウンは進んだ。

 

 

(……10……9……8……7……6……5……4……)

 

 

突然深いまどろみに落ちていたはずの意識が覚醒し、愛鷹は目を覚ました。

時計を見ると日の出の時間帯だ。起床時間までまだ少し時間がある。

だがそれとは全く別に今まで感じた事の無い、何かを感じていた。

何かが起きる。こんな胸騒ぎは初めてだ。

只ならぬ予感と大きな恐怖が胸に押しかかるようだ。

だが、その原因は一体なんだ……。

もう一度寝る気分にもなれず、そのまま起きて寝間着を脱ぎ、制服に袖を通した。

「何が起きる……」

自室の鏡を見ながら制帽を被り、鏡に映る自分に問いかけた。

鏡に映る真顔の自分から答えは来ない。

 

(3……2……1……発射!)

 

 

夜明けが近づき始めた頃に起床した鈴谷はちょっと朝の空気を吸おうと「あきもと」のフライトデッキに出てみた。

霧が完全に晴れ、久しぶりに見る朝日が水平線に見えた。

「綺麗な朝日。今日も頑張っていけそう」

ようやく自分と熊野に出番が来た感じがしていた。

もっとも今日は五航戦の二人と村雨、五月雨と空母打撃群戦力を組んでの哨戒任務だ。

会敵する可能性はあるだろうが、あまり気負い過ぎてもプレッシャーだけが来る。

何時もの様に少し警戒はしながら気楽に行こう、と思いながらフライトデッキを軽く一周する程度に歩いて回った。

踵が舵になってハイヒールの様になる自分の靴でフライトデッキの上をコツコツ鳴らしながら歩いていると、緊急警報が「あきもと」のスピーカーから流れた。

陸上施設からも同様の警報が流れ、文字通り鈴谷は飛び上がった。

「な、なに、何が⁉ つか、やべー警報じゃんこれ!」

誰ともなく喚く鈴谷に、「あきもと」のFICに詰めている当直要員の張り詰めた声が、スピーカーから流れた。

 

(全部署に緊急警報発令。繰り返す、緊急警報発令。

マルゴーマルマル、国連軍総司令部指令タンゴ・ノヴェンバーが発令。中国遼寧省瀋陽基地よりデルタ・フォックストロット・ツー・ワン一発が発射された!

目標沖ノ鳥島海域、座標オスカー・アルファ・2・4・エコー・オスカー・2・5。

全部署は対強電磁パルス障害防御! 

これは訓練ではない。繰り返す、これは訓練ではない!)

 

タンゴ・ノヴェンバー……MRBM……。

性格は軽いノリの女子高生の様な鈴谷だが、彼女も国連海軍の艦娘と言う大尉階級の海軍軍人。

何が何を意味しているかちゃんと理解できる。

「タンゴ・ノヴェンバーにデルタ・フォックストロット・ツー・ワン、中国……戦術核弾頭のDF21 MRBM!

まさか、沖ノ鳥島海域に戦術核攻撃⁉」

この間、自分も攻略に参加した沖ノ鳥島海域へ、準中距離弾道ミサイルによる戦術核ミサイル攻撃が行われた。

タンゴ・ノヴェンバーは即ちTactical Nuclear、戦術核を意味し「戦術」と「核」の頭文字をフォネティックコード読みしたものだ。

腕時計を見ると既に発射から五分過ぎている

「通告が遅い、提督は何やってんのよ……」

思わず武本に恨み節が漏れたが、武本の一存で決められる話ではない事にすぐに気が付き、落ち着けと自分の頭を叩いた。

しかし、鈴谷には許せないモノを感じた。

彼女の先祖は太平洋戦争の時、長崎への原爆投下によって瀕死の重傷を負った。

幼い頃からその話を何回も聞き、核兵器の恐ろしさを学び、中学校では長崎への原爆投下の日に核兵器反対宣言を行う役までやった。

 

先祖を故郷ごと焼き払った核兵器が、一〇三年ぶりに使用された。

 

普段見せる事ない鈴谷の腸が煮えくり返る程の怒りがその表情に現れた。

しかし、今の自分に出来る事などない。

人類は……核兵器を二度と使わないと言う誓いを破った。

それに対する激しい怒りが鈴谷の胸に吹き荒れた。

 

艦橋からフライトデッキに出るハッチが開いたかと思うと、中から愛鷹が飛び出してきて、空を見上げた。

とても見えるとは思えないが、今頃弾道軌道に乗って沖ノ鳥島海域へと向かっているであろうDF21を探している様だった。

怒りに震えている様な背中の愛鷹にそっと歩み寄った時、愛鷹が低く呟くのを聞いた。

 

「愚かな……」

 

その言葉に強い共感を覚えた鈴谷は愛鷹の隣に立つと、自分の思う気持ちを吐いた。

「愚かだよね。私達人間ってさ」

半分吐き捨てる様に言う鈴谷を愛鷹が無言で見返した。

自分より喜怒哀楽をはっきり表す鈴谷が怒りに震えている。

彼女の先祖が長崎で被爆した話は、人事ファイルにもあったから知っているし、中学生時代の話も聞いている。

「提督、じゃないよね。撃つ事を指示したの」

確認するかの様に訪ねて来る鈴谷に愛鷹は頷く。

「一方面軍の司令官レベルで決められる話ではありません。

核ミサイル攻撃を指示出来るのは国連軍でも上級将官中の上級将官と、国連の閣僚のみ。

武本提督、又は同格の海兵隊の将軍が核攻撃を要請しても、核ミサイル攻撃が行われる事はまずありません。

提督すら蚊帳の外に置かれた総司令部の事実上の独断でしょう」

「詳しいんだね……」

妙に指揮系統に詳しい愛鷹に言った時、聞き取り辛いくらいの小さな声で愛鷹が言った。

 

「クローンを作る事を考え付くだけでなく、核ミサイル攻撃を実行するなんて……どこまで人間は愚かなんだ……度し難い……」

愛鷹とは何度も会ったり、よく話したりした深い関係はないが、あまり感情を大きく顔に出さないという事は知っているし、そう言う姿を見た事はある。

だから今の愛鷹の表情に激怒がはっきりと表れているのに、軽い驚きを覚えると同時に、愛鷹さんもやっぱり人間らしい所があるじゃん、と胸の中で呟いた。

それにしても、と鈴谷は制帽の下から見える愛鷹の顔にデジャブを感じていた。

何処かで見た気がする顔だ。肝心な目元以上の部分が分かりづらいから、誰とは言えないが。

 

(ん、待てよ……顎の輪郭、髪型……そして声……)

 

空を睨む愛鷹は鈴谷の視線に気が付いていないのか、見返す事は無い。

そしてその顔を見ていた鈴谷は突然何かが結びつく様なモノを感じた。

 

(まさか! いや、これ以外ありえないよ……もしかしてこのデジャブの正体、大和さん?)

 

制帽の下からしか分からない愛鷹の顔の輪郭と声、そこから鈴谷は愛鷹から感じていたデジャブの正体に気が付いた。

そう、大和だ。日本艦隊の戦艦艦娘として、そして世界最大の火力を持つ戦艦艦娘。

しかし大和は日本艦隊統合基地にいる筈。

では目の前にいる愛鷹は……いったい何者……?

 

その時、スピーカーから沖ノ鳥島海域の目標座標にDF21が着弾した事を告げる報告が流れた。

 

 

着弾観測を行ったのはF/A18Fスーパーホーネット戦闘攻撃機を無人偵察機化させたRQ18F。

三機を高高度にデータリンクリレーする形で配置し、沖ノ鳥島海域上空に進出したRQ18Fが先の艦隊戦で撃滅できず、その後も消耗戦を繰り広げることになった海域から立ち上がる核兵器炸裂の煙を確認した。

 

高精度カメラは着弾地点を中心に対空防衛要塞化されかけていた島の焼けただれた表面を捉えていた。

陸上の深海棲艦の施設は炎上し、ある程度の規模は展開していた停泊艦隊も炎に包まれて次々に沈んでいく。

ある程度離れた深海棲艦の艦艇は爆風で薙ぎ払われ、もがいていた。

戦術核の炸裂で、艦娘スプリングフィールドや爆撃機パイロットなど少なくない犠牲を払った沖ノ鳥島海域の深海棲艦の拠点は一瞬にして焼き払われた。

そして焼けただれる大地に残ったのは、死だった。

 

 

RTB(帰投指示)を受けたRQ18F三機が翼を翻した時、着弾地点に一番近かった機体に奇妙なノイズが入った。

RQ18F自体の飛行に支障はなく無人機はそのまま帰投コースに乗ったが、中継映像を見ていた武本と秘書艦三笠、鳳翔は反応した。

「今のノイズは、一体」

若干困惑顔になる鳳翔に三笠は鋭い目で画像の途切れたモニターを見つめながら答えた。

「……メッセージ……かもしれませんね」

「私もそう思う。だが一体誰が、だけどね……」

腕を組んで考え込む武本としては、何か引っかかるモノを感じるノイズだった。

ただの核爆発によって起きたノイズとは思えない。何かのメッセージ染みたものがある。

しかし一体誰がそのノイズを出したのか。

深海棲艦だとでもいうのだろうか?

その場にいたのは深海棲艦しかいないから当然かもしれない。

つまり、初めて人類に何かのメッセージを送ったという事だろうか?

 

その時、ふと鳳翔が何かを思いついた様な顔になり武本に尋ねた。

「提督、先の程のノイズ。こちらでも一回再生できませんか?」

「偵察機のメモリーから引き出すと言う形になるし、偵察機を運用する航空隊に話を付ける必要があるからすぐと言うわけにはいかないが?」

「つまり出来るという事ですね。お願いします」

頼み込む鳳翔に武本は受話器を取ると必要機関に直接電話を入れた。

 

武本が話を付けて回っている間、三笠は鳳翔に何に気が付いたのか尋ねた。

「気が付いた……と言うよりは直感です」

「直感で何につなげたのです?」

そう問いかける三笠に鳳翔は自分の予測を話した。

「イルカです」

「イルカ?」

少し不思議そうな顔を浮かべる三笠に鳳翔は自分の仮説を話した。

「あのノイズ。イルカの鳴き声とほんの少しですが似ている気がしたんです。

イルカって、人が話しかけると物凄い速さでオウムみたいに返す事が出来るんです。早すぎて常人の耳ではただの鳴き声に聞こえますが、スロー再生で何と言っているかが分かるんですよ」

「深海棲艦が『イルカが人の言葉を返す時の要領でこちらにメッセージを送った』、と?」

「突飛な発想かもしれませんが……」

そう返す鳳翔の仮説に納得いく物があると思った時、武本が二人を呼んだ。

航空基地にデータリンクで先に届けられたノイズが、武本のデスクに転送されてきた。

何の加工処理もされていない生のノイズを武本はパソコンに表示した。

 

一〇秒もしないノイズを聞く。

 

そのまま聞いた分では、ただの無線のノイズにも聞ける。

しかし、目を閉じて聞いていた鳳翔は確信した顔になっていた。

「提督、再生速度を可能な限り落としてください」

鳳翔が武本に再生速度を可能な限り落とす様頼むと、武本はキーボードに指を走らせて設定を変えた。

最低値の再生速度にセットし、もう一度三人でノイズを聞く。

 

すると、電子ノイズではない、男性とも女性ともつかないいうなれば中性的な人の声が流れ出し、三人の表情が凍り付いた。

 

(ユルサナイ……ヨクモ……カクナドヲ……ユルサナイ……コロス……コロス)

 

ヒトの言葉になったのだ。放射能で苦しむ様な物言いだが、その分強い憎しみ、恨みが込められていて三人の肌をざわりと粟立たたせた。

深海棲艦は国連軍の核兵器使用に怒りを示した。

恐らく灼熱地獄と浴びてしまった放射能で苦しみながら、断末魔の恨み節を何らかの形でRQ18Fに送ったのだ。

「どうやら、我々は奴らの怒りを高い値段で買ってしまったようだ……」

「拙い状況、ですね」

そう返した三笠は武本の部屋のドアを性急に叩くノックに、行動が早い、と嫌な予感が走った。

入室許可を受けた谷田川が一枚の電文を手に血相を変えて飛び込んできた。

「提督、種子島からです!」

「何が起きた?」

「哨戒任務に出た五航戦及び第七戦隊の鈴谷、熊野、第二駆逐隊村雨、五月雨が謎の巨大艦からの砲撃を受けました」

「砲撃だと? 巨大艦はス級か?」

「いえ、未確認艦だとことです」

「それで六人は?」

「通信可能な空母翔鶴によると、全艦砲撃により大破。操舵、航行共に不能!」

「単艦で六人を一度に⁉」

驚愕した表情を浮かべる三人に谷田川が更に情報を伝える。

「また種子島基地も敵の空爆を受けました。損害は確認中ですが、トラックで確認された重攻撃機を見たと言う未確認情報も」

「トラックから空母棲姫が転進して来たか」

拙い状況だ、と四人は思ったが、最前線となった種子島は拙いでは済ませない状況になっていた。

 

 

(発、第五航空戦隊旗艦翔鶴。宛、種子島防衛司令部。

我、未知の巨大艦の浮上を艦隊前方に視認! 第二駆逐隊を前面に展開し状況把握……間違いないのね?

未知の巨大艦、移動開始! 方位一-八-〇、速度約五ノット。

展開する艤装と思しき物体に何らかの動きあ)

無線で状況を伝える翔鶴の言葉は砲声と爆発音によってかき消された。

悲鳴すら聞こえる事は無かった。

一方、発艦して艦隊の戦闘空中哨戒(BARCAP)についていた、瑞鶴搭載機の紫電改二の航空妖精からは悲鳴のような報告が入っていた。

 

(巨大艦から艦隊全艦に攻撃! 六門の大型主砲による同時砲撃です!

全艦大破、航行不能! これは……壊滅です)

(村雨の右腕が引き千切られました! 出血が酷い!)

(航巡熊野、呼びかけに応答しません! 意識不明の模様!) 

 

 

文字通り戦闘機隊の悲鳴の様な報告が無線機からガンガンと飛び出して来る。

 

未知の巨大艦……まさか、昨日海中で目撃した?

 

珍しく動揺をはっきりとその顔に浮かべる愛鷹は長門からの呼びかけに気が付くのが送れた。

「鍋島司令から指示が出た。第三三戦隊は直ちに出撃、全滅した空母機動部隊の捜索及び救援部隊本隊到着まで航空優勢と海域優勢確保せよ、だ」

自分と同様焦りを浮かべる長門の指示に愛鷹は頷くと、「あきもと」のFICから飛び出しドックへと走った。

ラッタルを駆け降りる中、艦内放送で第三三戦隊メンバーの緊急出撃指示も下される。

通路を走っていると艦内放送で続報が入った。

全員大破、航行不能と言っても辛うじて直接泳ぐ形で仲間も生死を確認して回る事が出来た五月雨の報告から、全員の息があり生きている事が確認できた。

しかし、予断を許さない状況だった。

「絶対……助ける!」

ドックへの最後のラッタルをほぼ飛び降りた愛鷹は、ドックへと走りながら胸に刻む様に呟いた。

 

 

「予定外の損害発生……でも、結構いいタイミングかも知れないわね」

状況確認の声、全滅状態に追い込まれた五航戦中核の空母機動部隊救援指示と、無人攻撃機の稼働機全機の航空支援準備を指示する声が飛び交う中、大淀は自分のコンソール端末に今朝土屋から受け取ったUSBメモリーをインストールする作業を進めた。

 




次回から種子島を巡る「五航戦という空母戦力無し」での戦いの火ぶたが本格的に切られます。

少しずつ変わって来る愛鷹の姿は、ある意味彼女の「成長」の様なモノです。

核攻撃は国連軍と国連の奥の手としての手段でしたが、結果は凶と出ます。

壊滅状態に追い込まれた五航戦中核の空母機動部隊(同シーンはエースコンバット7 DLCミッション1の揚陸艦パフィン以下の遠征打撃群全滅シーンのセリフを参考にしてます)の救援に赴く愛鷹達と、闇落ちすることになり暗躍する大淀の行動がどう結びつくのか。

書き辛い展開になる事だけは予告できます。

また次回のお話でお会いしましょう。
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