艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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第三三戦隊の初の実戦出撃になります。
同時に非常にショッキングな描写がこの話からこれから先出てきます……。


第五話 沖ノ鳥島海域偵察出撃

第三三戦隊の実戦配備許可が下りたその日の夜、人気のない食堂で夕食を一人摂った愛鷹はいつもの様に埠頭に行っていた。

葉巻を吹かしながら薄雲越しに差す月明かりに照らされる海を飽くことなく眺めていた。

眺めている夜の海から聞こえるのは静かな波と穏やかな海風の音がするだけだが、愛鷹にはとても心地の良い物だった。

一日の出来事がここで静かに海を見ているだけですっきりと頭の中で整理整頓されるので、寝つきがとてもよかった。

一方で早々に青葉にバレたとはいえ、他人からすれば夜の静かな海の音とは正反対の、騒々しい先が読めないような複雑なテンポのジャズを聞くのは、その先の曲の流れを想像することが楽しいからだった。

複数の楽器が息の合った奏者たちの手でメロディを演奏するのは、オーケストラなどに通じる。

しかし複雑で速いテンポを、トランペットやサックスなどの肺活量が大量に必要な管楽器が絶妙なタイミングで合わせる事は、愛鷹からしたらオーケストラよりも難しく聞こえた。

ジャズが好きなのはオーケストラを聞いていると眠くなるからでもあるのだが。

 

「何か見えるのか?」

ふと、背後からパイプの臭いと共に先日知り合ったロシア戦艦艦娘のガングートが声をかけて来た。

「ニェット(いいえ)」

「日本語で構わんよ。日本語は得意だ」

上着のポケットに手を入れたまま横に並んだガングートが、初めて会った時と変わらない達者な日本語で言う。

「ただ、眺めているのが好きなだけです……」

「奇遇だな。私も頭を空っぽにしたい時は、こうして海を見ている時が一番いいんだ」

うっすらと笑みを浮かべたガングートが愛鷹と同じことをしていたことを明かしてきた。

ロシア人が好きそうなクセのある香りをパイプから燻らせるガングートを横目で見ながら、何か私に用なのかな? と愛鷹は思った。

するとそれを見こしたようにガングートは顔を向けて、

「パイプを吸いに来ただけさ。貴様が先客だっただけだよ」

「……」

何も言わなかった愛鷹だが、「無言は『はい』と言う意味」だと分かっているガングートは変な顔をすることもなく、愛鷹と同じ方向の海を眺めた。

月灯りが増してきた。雲が晴れてきたようだ。黒い夜の海が月光で昼とは違う奇麗な輝きを見せ始める。

波は静かだが。細かく揺れている様な海が月灯りを反射する。

「故郷の海とは……やはり違うな……」

どこか、遠い目でガングートが言うのを聞いた愛鷹は、彼女が元々はバルト海艦隊に所属していたことを思い出した。

日本より緯度がずっと高い位置にあるバルト海沿岸部出身だと聞いていた。きっとサンクトペテルブルクからの夜景も見たことがあるだろう。

「サンクトペテルブルクからの夜景はどうでしたか?」

「ああ、明るかったよ。鬱陶しいぐらいに、な」

返してきたガングートの言い方に、愛鷹は少し違和感を覚えた。口ぶりからいい感情だとは言えない。

「嫌いだったのですか?」

「いや、あそこから見える夜景より、祖国の故郷で見る夜景の方が切れだったのさ」

「祖国?」

愛鷹に少し訝しまれる声で聞かれたガングートは、やや間をおいてから少し真顔で語った。

「私の祖国はな、本当はロシアではないのだ。

私はエストニアの民だよ。ロシア国籍を持っているから今はロシア人だがな」

 

初耳だった。艦娘については大体知っているつもりだったのだが。

もっとも海外の艦娘については資料には一部削除されていたところもあったので、ガングートが本当はエストニア生まれのエストニア人だと言う事は「個人情報」として削除されていたのかもしれない。

 

「小さいころはエストニアのバルト海沿いの小さな街で育ってな。

小さな街だったから夜になるととてもきれいな夜景が海辺いっぱいに広がっていた。

冬はとても寒かったが、夜空を眺める事とは別に関係なかった」

「……見られるなら、もう一度見たいですか?」

思わず問いかけた愛鷹はガングートの表情が曇るのを見て、しまったと後悔した。

なにか辛いことがあったのは見ればわかる。

しかし、こちらが謝罪して、「思い出さなくていい」と言う前に、ガングートは小さく言った。

「故郷はもうない……。

海軍に入ったから帰郷できない事もあるが、何より戦火で焼けた……」

普段は豪放磊落で強気の彼女が見える少し寂し気な顔と声だった。

すでに何度か会っているガングートの普段の顔を知っているだけに、この普段の顔との差に少し衝撃を感じていた。

故郷を戦火で焼かれたと語るが、それは深海棲艦との戦いでなのか、それとも「人間同士での紛争」によるものだったのか。

それを聞くのは愛鷹には出来ないししたくなかった。他人の古傷をひっかくような行為は一番嫌う事だった。

「今日の演習、とても良い成績だったそうだな」

話題を変えたガングートに聞かれて愛鷹頷いた。

「三一センチ主砲、か。私の主砲とほぼ同じ口径だから戦える相手には限界があるかもしれんが。

耳に挟んだぞ、貴様の機動性を生かした戦い。

私も一度やってみたものだ」

「自分で言うのもなんですが、かなり体力を消耗しますよ」

「聞いている。

疲労で倒れたと聞いているが、すぐに回復できたのはよかったな」

倒れたと言う話はどうやら知られたらしい。

しかし、吐血したことまでは知られていないようだ。

そこに少し安心した。

口に加えていたパイプを手に持つと、ガングートはため息とともに煙を吐いた。

パイプを咥えたガングートが真顔を向けて来た。

「気を張り過ぎるなよ。貴様は旗艦だ、リーダーだ、隊長だ。

部下を率いる立場の者が戦場で倒れれば、部下が死ぬ確率は格段に上がってしまう。

指揮の乱れが戦場に敗北を招いてきているのは、戦史を読めば明らかだからな。

体は大切にしろ」

「忠告に感謝します、艦隊旗艦」

先輩としてのアドバイスをしてくれているガングートに、愛鷹は礼を言うとガングートはにっこりと笑った。

「貴様なら上手くやっていけそうだな」

 

 

翌日の朝。

何時ものように武本は起床時間である午前六時半にベッドから起きると、洗面所で顔を洗い、髭をそる。

そして若いころ「甲板掃除」と言う名で起床直後にやらされた清掃の習慣から、モップで部屋の床を軽く清掃し、窓ふきで窓を掃除する。

これをしたところを艦娘達に見られたときは随分と不思議な顔をされた。

将官クラスが自分で掃除をするところを彼女たちは見たことが無かったからだ。

大抵は学校の日直のように自分たちがやっていたことだった。

単に武本自身が「自分の部屋掃除は自分でやる」タイプであるだけだ。

基地要員の作った朝食を摂る。

メニューは特別感の無い庶民的な内容。

白米、みそ汁、焼き魚、野菜料理、鶏肉など。

飲み物は牛乳だ。

食事は一週間に一回、応募した艦娘がくじ引きで作る。

作戦が立て込むと艦娘が作る朝食などは無いが、かえってそれが良い結果に繋がったこともあった。

特に戦艦艦娘の比叡や駆逐艦娘の磯風は料理の腕がまるでダメだったので、提督からは随分と恐れられていた。

口が悪い有川は「生物兵器」などと発言して武本に殴られたことがある。

この二人の場合は仲間の艦娘らからも敬遠されている。

何しろ失敗する原因が自分では分からないのだからタチが悪い。

ただ武本が着任後確認した所では、腕が悪いのではなく、「具材選びさえ出来ていれば問題は無かった」ので、「一人でやらせない」ことを条件に許可している。

「一人でやらせない」という方針転換後は比叡の料理はかなり改善しており、美食家揃いのフランス艦隊に振舞った時は高評価を得られた。

磯風も「最悪」から「普通」に代わった程度だがこれはこれでかなり良くなっている。代わりに同僚の浦風らはかなり骨を折る羽目になっていた。

この二人以外は基本的に艦娘の料理の腕はいい。

たた何故か以前長門が作った時、一度だけ食中毒が起きると言う事件が発生した。

武本自身は実家がレストランを営んでおり、幼少期から両親から仕込まれていたので料理は得意だ。

一時期有川と小さなアパートで共同生活していた時は、有川が家事を全くしなかったので、武本が家事を担当すると言う苦労も経験している。

 

朝食後、制服を着て仕事場の司令官に出勤した。

司令官室で長門、陸奥、日本に駐屯する北米艦隊のデズモンド・コルター・マイノット少将とアラバマ、日本派遣艦隊ドイツ艦隊司令官エリヴィラ・ブラウベルト少将とシュペー、サー・テレンス・パールマン中将、ガングートらと朝のミーティングを行う。

ミーティング内容は日本近海や前線での戦況確認、派遣艦隊からの報告と本国から来た通達の報告、出撃予定の艦隊の打ち合わせ、更には艦娘同士の不和、不仲、いじめなどがないかの確認も行っている。

不和不仲対策はかなり重要だ。

作戦中にこれが原因で作戦失敗や戦死者を出したことがある。

 

解散後は司令官室のデスクにあるラップトップを立ち上げ、遠征、出撃、演習を行った艦娘からの報告書、補給物資、予算、江良からの入院中の艦娘の容体報告書などの書類仕事に手を付けた。

艦隊司令官と言っても、作戦指揮を執る事だけが武本の仕事ではない。

基地の管理も仕事の一つだ。

谷田川や長門、陸奥、日本派遣艦隊司令官らと顔を合わせての基地運用の会議もある。

日本艦隊の最高指揮官であるだけに、預かる仕事内容も多く、重要度も大きい。

それだけに、エリート中のエリートのみが就任する事が出来る職場だった。

そもそも中将にまで昇進できる海軍軍人は多くない。

因みに武本がかつて所属していた自衛隊で言うと海軍中将に相当するのは二等海将である(自衛隊が国連軍に編入される数年前、階級の細分化から誕生した将官階級だった)。

 

「しおいくんの入院は……あと三日か。

軽傷でよかったな。……朝霧くんはまだか……」

報告書に目を通していると、内線電話が鳴った。

通信室からだ。

受話器を取り、通話ボタンを押す。

「私だ」

(おはようございます、提督)

当直の大淀だ。

「おはよう。要件はなんだい?」

(国際統合作戦本部からです。

機密指令コードで指令書が来ました)

「了解、送ってくれ」

(はい)

作戦本部からの機密指令か……。何か大事が来るようだな。

大事と考えた時、大淀が当直を担当するときに決まって「大事」な指令や報告があがってくることを思い出した。

その大淀がデスクのコンピューターに送って来た指令書を、指定された機密指令コードを通して解読し開く。

中身に目を通し、五分と立たずに読み終えた武本は溜息を吐きながら顎をもんだ。

「……予想はしていたが、やはり調べてみる必要があるな。

航空偵察にもやはり限界があるか……」

そう呟いた時、昔は監視衛星と言う便利なものがあったがな、と今は使えない情報収集手段を思い出した。

 

昔の軍民問わず、人工衛星を介した高度で便利なネットワーク社会の存在。

そして深海棲艦との遭遇後に起きたそれらの崩壊と混乱……。

深海棲艦との戦いが勃発してから間もなくに衛星機能もダウンし、軍事衛星を介した通信から偵察のレベルが大幅に後退した結果が、深海棲艦との初戦の敗退の要因でもあった。

情報がない事で起きる敗因や、精密誘導兵器の誘導手段が狂わされたことによる誤爆。

今は通信衛星を介さない長距離通信が確約されたので通信網は復旧したが、偵察衛星とのデータリンクは今に至るも復旧していない。

高度なネットワーク社会、その崩壊に伴う混乱は深海棲艦と人間だけでなく、混乱から起きた人間同士の軍事的衝突のきっかけにもなってもいた。

情報が無いと言う事が、あれほど現代にとって脆い話だとは武本自身思ってもみなかった。

 

今は軍の長距離偵察と言えば、航空機によるものか、艦娘の艦隊によるものが当たり前だ。

艦娘の偵察艦隊では北米艦隊の長距離戦略偵察群(LRSRG・愛称は「渡り鳥」)と言う有名なものがある。

分類上は索敵攻撃部隊(SAU・Search Atack Unit)で第三三戦隊のモデル部隊である。

今回送られてきた指令書は、艦娘艦隊による沖ノ鳥島方面への偵察指令だった。

先日消息を絶った第九二・五任務部隊の捜索と、攻撃した謎の深海棲艦の新型艦についての情報収集が指示されている。

派遣部隊の指定もあった。

指定される部隊名は予想出来ていた。

「第三三戦隊を出せ、か……。よし」

 

 

食堂で朝食を取りに行った愛鷹は、トレイを持って席を探している時に見つけた売店で、初めて「艦隊新聞」の冊子を目にした。

青葉が執筆している新聞だ。

少し興味がわき、一部購入し朝食を食べながら読んでみる事にした。

トレイの上にあるのはサンドイッチ四個とサラダ、ウィンナーを持った小皿だけだ。

愛鷹は生れつき小食タイプだった。

その為艦娘なら誰でも気にするダイエットとは無縁でもある。

食事トレイを持って席を探しに行こうと思った時、食堂の掲示板に貼られていたポスターが目に入った。

提督に料理を振舞う艦娘の応募ポスターだ。

提督への愛情や女子力のためと応募する艦娘は多い。

実は愛鷹はいろいろなことを教え込まれてきてはいたが、料理経験がほとんどない。

サンドイッチやホットドッグ程度なら作れるが、所詮その程度だ。

簡単なサンドイッチ程度じゃなあ、と自分の料理の腕の無さに苦笑した。

隅とは言えないが、人気は少なめの席を見つけてトレイを置き、席に座って食事を始める。

量が少ないだけにすぐにトレイの上の朝食は姿を消していき、サンドイッチの三個目を食し終えた時にはもうサラダやウィンナーは無くなっていた。

そこでいったん食事の手を止めて「艦隊新聞」を開いて読む事にした。

 

開いてみた「艦隊新聞」は字面や構成などは一般的な新聞紙とほとんど同じだ。

検閲入りではあるが青葉の取材のパイプが広いのか、日本に限らず海外の艦隊の話も掲載している。

文章の書き方は基本的に論調だが、所々に青葉の地が出た部分もある。

話は聞いていたが、まじめな記事から、ゴシップ誌のような内容まで盛り込まれている。

ちなみに「艦隊新聞」は青葉が執筆の時間を確保できていれば、一週間に一回発刊できている新聞だ。

学校のクラス内で発刊されている様な学級新聞とは違う本格的さがある。

変なジャーナリスト魂を見せたりするところはあるものの、青葉の真相究明と言うところ姿勢には変わりない。

写真もあり彼女が撮影しているものと、風景写真として磯波が投稿したと言う写真が載せられている。

カメラ趣味の磯波が投稿する風景写真はアマチュアとしては上出来すぎる写真だ。

かなり入れ込んでいる趣味だと分かる。

他に秋雲が投稿した四コマ漫画まである。

青葉さん、艦娘になる前の職業は新聞社の社員だったのかな……と、愛鷹は冗談抜きに思った。

コーヒーを飲みながら新聞を読んでいると、新聞の端を誰かが叩いた。

誰だろう、と叩いた誰かを見ると、暁型駆逐艦娘の暁が腰に手を当てて立っている。

「お行儀悪いわよ」

「ああ、失礼」

コーヒーカップを置き、新聞を畳んでテーブルの上に置いていると、見慣れない自分だと気が付いた暁が尋ねて来た。

「あなた、新しい艦娘? あたしは暁型駆逐艦の暁よ」

「超甲型巡洋艦の愛鷹です」

「愛鷹さんね。よろしくね」

いくら一人前のレディを自称しようと、垢ぬけなさ、幼さがそのままの暁型の長女の暁だが、それでも暁型四人姉妹の中でも最初に改二へとパワーアップしているだけに努力と経験は豊富だ。

艦娘の発育が止まってしまう謎の現象は、年齢層が広く、大型艦艇艦娘程大人で小型艦艇艦娘程幼くなる傾向がある。

ただ軽空母である瑞鳳や、既に戦死してしまってはいるが陽炎型駆逐艦の夏潮など必ずしもそうとは言えないケースも少なくはない。

精神的な成長も停滞することもあるようで、暁型などは一番「幼女」さが続いている。

 

「愛鷹さんって、どこの艦隊に所属しているの?」

「第三三戦隊です。威力偵察が主任務の部隊ですよ」

暁の問いに愛鷹が返すと、暁が少し不思議そうな顔をした。

「誰かに似ているわね。でも誰だっけ……」

それを聞いて愛鷹は拙い、と身を固くした。

自分よりも遥かに背丈が下の暁なら、制帽で顔を隠しても下から見上げる形だからある程度は見えてしまう。

どうしようと思った時、

「あ、暁。いたいた、こんなとこにいたのね」

トコトコと暁に駆けて来たのは暁型の三女雷だ。

後ろから四女電と次女響がついて来る。

「そろそろ遠征部隊が出るって。

天龍さんと龍田さんが待ってるわ、行くわよ」

「分かってるって。

じゃあ、またね愛鷹さん」

ぺこりとお辞儀をした暁は妹三人と共に食堂の入口へ走っていった。

半歩遅れ動きの響が愛鷹に視線を送ったが何も言わずに三人の後を追っていった。

バレずに済んだのでホッと溜息を吐きくとコーヒーカップのコーヒーを飲み、残っていたサンドイッチを口に入れた。

「バレずに済んだわね」

急に抑揚のない声が掛けられて、愛鷹はサンドイッチをのどに詰まらせかけた。

何とか呑み込んでから背後を振り返ると、不知火が立っていた。

一瞬、なぜ気づけなかった? と思ったが靴型ソナーは常に使っているわけではないし、人が大勢いる食堂では注意していないと聞き分けきれない。

しかし、何故不知火が「バレずに済んだ」と言ったのか? そこが一番気になる。

自分の正体を知っているのか?

しかし、愛鷹が知る限りでは自身と不知火とは関係が無かったはずだ。

「私の事を知っているのですか?」

真顔で聞く愛鷹に言われた不知火は表情をあまり変えずに「いえ」と返してきた。

「初めて話す関係です。

何かお困りの様でしたので雷に天龍と龍田が待っていると嘘を言ってみました。

遠征に出るのは事実ですし、暁は詮索好きなところがあるので。

バレずに済んだ、は顔を見れば何となくわかったので」

そこまで言ってから「申し遅れました、陽炎型二番艦不知火です」と敬礼して名乗って来たので、「超甲型巡洋艦愛鷹です」と答礼する。

長女陽炎と比べ勘が鋭い冷静沈着、時にそれを通り越した冷酷な性格だから愛鷹の動揺を瞬時に読み取ったのだろう。

機転の良さも聞いていた通り。

「貴女が何者かは不知火には興味が無く、貴女の秘密に青葉の様にしつこく迫るつもりもないので。

失礼します」

軽く会釈して不知火は愛鷹に背を向けて去っていった。

 

彼女の背を見ながらサンドイッチの最後のかけらを食べ、飲み下してから愛鷹は小さく呟いた。

「貴女みたいな勘のいい艦娘は、正直苦手です……」

個性豊かな陽炎型の中でも飛び抜けて恐ろしいと言う不知火は、青葉よりも厄介なところを持っている様だった。

ナプキンで手と口を拭いていると、食堂の天井の随所に設置されているスピーカーから電子音が流された。

食堂にいた艦娘達がお喋りや食事の手を止めて上を見る。

(第三三戦隊旗艦愛鷹、次席旗艦青葉、夕張、深雪、蒼月、瑞鳳は、〇八:〇〇までに司令官室脇作戦会議室へ出頭してください)

そう大淀の声でアナウンスされた後、食堂内で「第三三戦隊?」「初めて聞いた」「新しい艦隊みたいだけど、あし……誰?」と聞きなれない部隊名と愛鷹の名前に不思議そうな声が上がった。

出番が来たか、と愛鷹は新聞を畳むとトレイと空の食器を片付け、食堂を出た。

 

 

作戦会議室に集まったのは第三三戦隊の面々の他に武本、長門、それに北米艦隊日本駐屯艦隊司令官デズモンド・コルター・マイノット少将がいた。

何故マイノット少将がいるのだ、と思いながら第三三戦隊の面々は出撃司令のブリーフィングを受けた。

沖ノ鳥島海域の海図を広げた武本は長門が持ってきていた資料を基に作戦司令の伝達を始めた。

「今回、第三三戦隊の諸君らには沖ノ鳥島方面への水上、艦上機による航空偵察を行ってもらう事になった。

今回の作戦は君たちの初仕事としては初っ端からの高難易度作戦と言えるかもしれない」

「いつの出撃に難易度なんてないよ」

深雪が苦笑交じりに言う。夕張のブーツが深雪の短靴を踏みつけた。

「先日、この海域を哨戒任務中の北米艦隊第九二・五任務部隊が深海棲艦の艦隊の攻撃を受けて消息を絶った。

同艦隊所属の重巡スプリングフィールドのキングフィンシャー水上偵察機が持ち帰った情報から、全滅した可能性もある。

ただ、上はまだ望みを捨てていない。

今回の作戦では彼女達の捜索と第九二・五任務部隊を襲った深海棲艦の未確認艦の情報収集だ」

「未確認艦ですか?」

愛鷹が武本に軽い驚きを込めた目で見る。

「水偵が持ち帰った映像から、ル級改、ル級後期型でもない相当な火力の戦艦だと言う事が示唆されている。

艦影もこれまでの識別データに合致するものはない。

映像のみの情報だが二〇インチを超える主砲を搭載している可能性すらある」

二〇インチ(約五〇センチ)以上と聞いて蒼月が体をこわばらせ、他の面々も表情を険しくする。

未確認艦の主砲が二〇インチ以上となると大和型戦艦改二の火力で対抗できるかすら怪しい。

「誤報ではないのですね?」

念を押すように愛鷹に問われた武本は分からないと頭を振る。

「ただ分析できる限りでは弾着時の水柱、発砲時の閃光と砲炎が明らかにこれまでと異なっている。

悪い情報として、水偵が持ち帰った情報から推測するに未確認艦は三隻確認されている。

第九二・五任務部隊はこの三隻とル級三、駆逐艦六隻に襲われている」

「未確認艦の情報は他にないのですか?」

青葉の問いに、長門が持っていた封筒を武本は渡してもらうと、中に入れていた不鮮明写真を六人に見せた。

「水偵が持ち帰った映像をプリントしたものだ。

不鮮明だがこれ以上の画像クリーニングは出来なかった」

 

写真には深海棲艦の主力駆逐艦イ級後期型、戦艦ル級(黄色い眼光からflag ship級)の奥に不鮮明な三つの大きな影が映っている。

大きい。

戦艦棲鬼並みのサイズだが、戦艦棲鬼は拠点防衛タイプで沖ノ鳥島の様な勢力圏から遠く離れた所にまで出向くことがない。

深海棲艦の戦艦には棲鬼クラスや航空、雷撃、更には対潜攻撃まで出来るレ級など強力なものが確認されている反面、それらが侵攻作戦に参加したことはなく基本重要拠点の防衛についていることが多い。

空母だと棲鬼級が侵攻部隊中核として何度も出現しており、二年前には空母棲鬼級六隻からなる大機動部隊がその圧倒的航空戦力を持って、奪還されたアリューシャン列島からウラジオストックにかけての各基地を空爆し大きな損害を出している。。

考えられることとして深海棲艦側が戦略や運用を変え、棲鬼級を外洋作戦に投入したと言う可能性が出た可能性があると言う事だ。

または拠点防衛の棲鬼級に匹敵する大火力戦艦を新たに登場させた、と言う可能性がある。

 

「とんでもなく強力そうですね」

声を震わせながら瑞鳳が言う。

「私の手練れの部下六人を蹂躙した相手だ。

君らには、出来たらでいい。

彼女たちの……遺品になるモノでもいい。持って帰ってきてくれたら嬉しい……」

初めてマイノットが口を開いた。

第九二・五任務部隊の上官はマイノットだ。

マイノットはかつて在日アメリカ海軍第七艦隊の幕僚だった人物だ。

佐世保出身のアメリカ人で彼の日本語には訛りがない。

「私としては情報も欲しいが、彼女たちの安否が分かるだけでも正直嬉しい。

くだらない私情かもしれないが……」

「そんなことはないですよ少将。

私も上司としてあなたの気持ちはわかる」

重い口調のマイノットに武本が慰めるように言う。

「かたじけないです、中将」

 

マイノットは武本とは日本、北米と所属こそ違うが、同じ国連軍の軍人だ。

運用にはやや変則的なところもあるが、国連軍内では海外の駐屯、派遣艦隊は現地の艦隊司令官の指揮下にはいる事が基本だ。

その為マイノットは日本艦隊所属ではないが事実上は武本の指揮下に入り部下になる。最上級指揮系統は勿論国連軍にある。

 

「司令部は当該海域内で三日以内に任務を終え、帰路に就くよう指示してきている。

つまり三日以内に終わらなければ手ぶらでも帰ってきても構わないと言う事になる。

勿論、情報を掴んだら欲を張らずに即撤退も問題ない。

偵察と捜索の二つの目標があるが、主目標は偵察だ。

予報では作戦期間中の海域の気象条件は快晴だ。雲が多少出るらしいが、大したことは無いと見積もられている。

第九二・五任務部隊の面々の消息については……最悪二の次にするように」

「情報が集まるめどが立たなかったら、捜索任務にシフトします。

どこかで救援を待っているかもしれませんからね」

愛鷹の言葉にマイノットが微笑を浮かべた。

「ありがとう愛鷹くん。

だが、彼女たちが辿った同じ悲劇を繰り返さない為には情報収集を優先してほしい。さっきのは私情だから気にしなくていいよ」

「了解」

武本提督に通じるところを感じる、とマイノットの顔を見た愛鷹は胸中で呟いた。

部下思いのところは武本並だろう。

「君たちの任務の性質上戦闘は避けていきたいが、交戦に備えて越したことはない。

対水上目標は勿論、対空、対潜の装備と弾薬類を揃えるように。燃料も満載だ。

それと勿論各自の水と食糧も忘れない様に。

父島の警戒基地を前線基地とした。基地司令には既に通知済みだから安心してくれ」

「いざという時の援護とかはあるのですか?」

あまり考えたくない事ではあるが念の為に、という形で青葉が聞いてきた。

「君達が作戦海域に展開している間、第五航空戦隊の翔鶴、瑞鶴率いる第二機動艦隊が後方に展開してくれる。

編成は五航戦と戦艦金剛、比叡、軽巡長良、名取、第二水雷戦隊の矢矧と磯風、浦風、雪風、黒潮、陽炎だ。

ただ、三日以上はとどまれない。

別の作戦に五航戦を投入する予定があるから、彼女たちにもあまり負担がかけられない。

つまり五航戦からの航空支援が受けられるのは三日だけだ。

君たちから五日経っても連絡が来なかったら、一航戦を出す予定だが、赤城、加賀は一か月前のパラオでの航空戦の際に航空団に損害を受けて補充と再編中だから、出撃可能機数が足りない状態での出撃になる可能性が高い。

それは出来れば避けたい」

「なるほど」

「作戦内容は以上だ。装備リストはあとで工廠にて桃取から貰う様に。

出撃は一三:〇〇。私からは以上だ。

質問は?」

誰も手を上げなかった。

「よし、じゃあ解散だ。出撃に備えてくれ」

 

 

第三三戦隊出撃となり、六人は工廠にいくと各々の艤装、装備のチェックに向かった。

工廠ではすでに妖精さんたちがチフちゃん監督の元、弾薬類の積み込み、燃料注入、艤装の最終点検が行われていた。

装備、点検リストを手に愛鷹、青葉、夕張、深雪、蒼月、瑞鳳はそれぞれの艤装、装備の状態を自分でチェックしていく。

青葉、夕張、深雪、瑞鳳は慣れているが、蒼月は外洋作戦経験が乏しいだけにかなり張り詰めた顔でチェックしている。

そんな蒼月を外洋作戦経験豊富な先輩として深雪がチェック作業を手伝った。

蒼月の長一〇センチ高角砲の予備砲身が珍しい深雪が少しふざけて砲身でペン回しをすると、チフちゃんが飛んできてハンマーで深雪の頭を殴った。

頭を抱えて転がりまわる深雪と、説教するチフちゃんに緊張が少しは解けたらしく蒼月は笑顔を浮かべた。

青葉が自分の二〇・三センチ連装主砲の砲弾搭載状況を確認している時、愛鷹の第一主砲が故障を知らせる電子音を立てたのを聞いた。

動作チェック中に揚弾機がエラーを起こしたらしい。ため息交じりに愛鷹が工具を手に第一主砲の故障個所を修理する。

愛鷹の第一主砲は、故障が起きた愛鷹の艤装でも特に問題児だ。

演習中に故障を起こした愛鷹の艤装の九割以上が第一主砲だ。

最初の射撃演習の時に故障したのも第一主砲でもある。

肝心の主砲塔一基に起きる故障は愛鷹の大きな悩みの種となっていた。

そこで明石らが愛鷹の艤装の故障個所に関して、内部部品を丸ごと入れ替える整備を予定していたが、要請した予備部品のストックがまだなかった。

その為発注していたが速達でも届くのは明日になっていた。

仮に今部品が届いても、丸ごと入れ替える整備をすると最低でも半日以上はかかってしまう。

当然出撃時刻には間に合わない。

故障修理のために桃取が手伝いに行くが、予備部品無しでは全面的な解決が望めない。

ならば重量軽減のために第一主砲を下ろしていくと言う手もあった。

そうすると艤装にかかる燃料消費も減り、火力こそ低下するが第一主砲が抜けた分軽くなるので機動性が少しだけ上がる。

しかし、愛鷹には第一主砲を下ろしていくのは気が進まないらしく、使用できない砲門の揚弾機の機能をカットしていくことを桃取が提案した。

愛鷹からそう言う機能が無いと言われた桃取は「蹴りを一発入れれば、三割の確率で動くっすよ」とため息交じりに返した。

流石に愛鷹も苦笑するしかなかった。

何か助けにはならないかと思った青葉は、チェックリストを近くの作業机に置くと愛鷹に聞いた。

「代用部品とかは無いのですか?」

「代用になる部品ですか。残念ながらないですね。

私のは事実上ワンオフに近いので」

「ガングートさんの部品って使えないんですか? 同じ口径ですし」

その問いには桃取が答えた。

「そーれは無理っすねえ。

弾薬は規格統一が出来ましたが、艤装部品の規格統一がまだ出来てないんすよ。

てか、あちらさんの部品ストックもそろそろ少ないので、回せないんす」

となると外していくのが賢明と言う事なのか、と青葉が思った時、愛鷹が「いや、もしかしたら……」と何か思いついたらしく、近くのコンピューター端末に向かった。

データベースに登録された自身の艤装と、別の艤装の設計図を呼び出し、タッチパネルに触れて内部機構を調べていく。

「また故障かよ」

青葉の隣に来た深雪が聞いて来る。

青葉が頷くと深雪は舌打ちした。

「性能が良くても、信頼性がこれじゃあなあ……」

「まあ、ガサも改二になった時、二〇・三センチ(三号)連装主砲の初期故障にはよく泣いていましたけどねぇ……」

 

改二になったばかりの時の衣笠の苦労話を語る青葉の脳裏に、油にまみれながら自分の主砲修理に躍起になっていた衣笠の姿を思い出した。

姉より先に改二になった時は随分自慢して来たが、主砲故障が続くと姉の青葉に泣きつき、青葉も明石型の三人と一緒に修理作業を手伝わされた事がある。

今は艤装慣れしたこともあって故障は全く起きない。

自分も改二になったら初期故障に悩むことになるのかと思うと少し気が重くなった。

 

改二は艦娘の艤装の大幅なチューンアップが行われるから、改二になったばかりの時は不慣れから来る初期故障に泣かされることもある。

慣れれば全く問題は起きないのだが。

その時、愛鷹が小さく「これなら行けるかもしれない」と呟く声がした。

そして直ぐに桃取を呼ぶと予備部品庫に向かった。

数十分後、木箱数個を台車に載せて運んできた二人は妖精さんと共に第一主砲の故障個所の緊急オペを行った。

何のパーツを使うのかと青葉が木箱に書かれている文字を見て、思わず「え?」と声が出た。

愛鷹が代用品として選んだ部品は意外な代物だった。

 

 

碧海に爆発音と砲声が轟いていた。

「おのれ、許さんぞ!」

爆発炎上し、赤い炎と黒煙を上げる貨物船を見た英国艦隊日本派遣艦隊旗艦の軽巡洋艦ユリシーズは、砲撃してきた深海棲艦の巨大艦に向って吼えた。

仇だ、と三連装魚雷発射管を構えて巨大艦を見据えると海面を蹴った。

僚艦であるヨーク級重巡モントローズが静止の声を上げるが、「エクセターとジュピター、船団を頼む」と返して吶喊した。

遠くで僚艦ジャーヴィス、ケリーがイ級後期型と交戦している砲声が聞こえてくる。

 

東南アジアから日本へ向けて、ユリシーズが仲間の重巡モントローズ、エクセター、駆逐艦ジャーヴィス、ケリー、ジュピターと共に一八隻の貨物船からなる輸送船団を護衛していた時、深海棲艦の水上部隊が強襲を仕掛けて来た。

軽巡ホ級四隻、重巡リ級二隻の深海棲艦巡洋艦艦隊はユリシーズ、モントローズ、エクセターの三人のレーダー射撃で近寄ることが出来ず、ホ級一隻が沈み、二隻が大破、リ級一隻も中破し巡洋艦艦隊は退いた。

しかし、その後イ級やホ級、軽巡ト級、リ級からなる小規模艦隊の波状攻撃が行われると、船団を護衛する仲間の体には疲労がたまり始めた。

特に、太平洋での戦いがまだ少ないジュビターの疲労は大きく、エクセターが寄り添っていく羽目になった。

「護衛艦が護衛されるってどういう事よ」と苦笑を浮かべながらも、世話好きのエクセターはジュピターを支えて進んだ。

次第に疲労で動きが鈍くなる仲間に代わりユリシーズだけ五・二五インチ連装主砲を振り回し、奮戦した。

仲間が不甲斐ないと思った事は無かった。

誰にでも初めての時は醜態をさらしてしまうこともある。

次から次へと押し寄せて来る深海棲艦は六割方がユリシーズ単艦で沈んでいった。

絶対に、もうだれ一人失わない。

もう二度と誰も死なせない。

その義務感と闘志、そして誓いが彼女を戦わせた。

 

かつて英国本土、クライド湾(当時のユリシーズの所属基地があった)へ向かう一八隻の輸送船をユリシーズは同じマンチェスター出身で仲が良かったシアリーズ級巡洋艦スターリング、W級駆逐艦ヴェクトラ、V級駆逐艦ヴァイキング、S級駆逐艦サイラス、護衛空母ディフェンダーと共にFR77と名付けられた輸送船一八隻の船団を護衛した。

しかし、厳冬に加え観測史上最大級の大暴風雨にさらされた船団と護衛部隊は極度の疲労で集中力、注意力が低下し、さらにディフェンダーが時化で戦闘不能になったため途中戦列を離脱する事態が起きた。

それからがまさに地獄だった。

深海棲艦は艦隊、潜水艦、攻撃機を繰り出して執拗な攻撃を行い、一八隻の輸送船団は四隻と見る影もなくなってしまった。

そしてスターリング、ヴェクトラ、ヴァイキングは激しい爆撃、雷撃、そして負傷した傷に倒れ帰らぬ人となった。

ユリシーズも故郷まであと一息のところで重巡ネ級の砲撃が右足を直撃した時、右足が千切れかけるほどの重傷を負って人事不省になり、サイラスも追い詰められたが間一髪のところで本国艦隊のキング・ジョージV世級のキング・ジョージV世とデューク・オブ・カンバーランド率いる救援艦隊に助けられた。

救援艦隊に救助されたユリシーズは搬送された病院で肉片状態の右足を切断したが、再生治療により一年半で元通りにはなった。

だが足は元通りになっても心の傷の治療には二年近くの時間がかかった。

二年後に戦列に復帰した時には助けてくれたデューク・オブ・カンバーランドは撃沈され戦死していた。

同郷の友人三人、恩人一人、更に自身の右足まで奪った深海棲艦にユリシーズは凄まじい憎しみを感じ、それからユリシーズは戦い方から人格に至るまで変わった。

あの時、三人の友と右足を失う戦いを経験していなければ今のユリシーズの人格は無いだろう。

戦列復帰後に二度と守るものも仲間も誰一人失わない、深海棲艦を滅ぼして平和な海を取り戻すと三人の友と恩人の墓前で誓った。

 

だが、今巨大艦三隻を含む深海棲艦の戦艦六隻、駆逐艦六隻の攻撃で四隻が破壊され既に二隻の貨物船が沈んだ。

二隻はまだ浮かんでいるが一隻は恐らく助からないだろう。

退船命令が出たらしく乗員が海に飛び込み、僚船が救助に当たっている。

そしてエクセター、ジュピターも避ける間もなく被弾し血まみれになって倒れている。特にエクセターはモントローズが応急処置をしているが意識は無く、脈も弱っているとのことだった。

屈辱以外の何物でもなかった。

同時に共の墓前での誓いを破ってしまった事への悔しさ。

怒りに燃えるユリシーズは巨大艦の前に立ちふさがったル級に向かって「どけえぇぇぇっ!」と喚きながら主砲を撃った。

ル級も一六インチ砲を撃ち放つ。

海上に響き渡る巨砲の砲声と共に三隻から放たれた大口径砲弾が降り注ぐ。

怒りに燃えるユリシーズだが、頭は冷静だった。

軽巡ならではのユリシーズの高い機動性、そして経験がル級の砲撃から彼女を守った。

砲撃の弾着予想を経験から予想して避け、高速かつ複雑でランダムな回避運動を取りながら牽制射撃を繰り返し、三隻のル級に肉薄する。

「そこを、どけぇっ!」

吼えながらル級三隻の至近距離に潜り込むと、一隻の頭に主砲を早撃ちする。

ル級のモノと比べたらはるかに小口径であるユリシーズの主砲だが、強装薬で至近距離から撃ち出された徹甲弾の威力には小口径故の火力の低さと言う物が当てハマりにくくなる。

連装主砲が打ち出した徹甲弾はル級の頭に命中し、致命傷を与えるには至らなかったが一時的な戦闘不能には追い込めた。

身動きが取れないル級は他のル級の射撃の邪魔となり、そのすきにユリシーズは他の二隻の頭に主砲を撃ち放った。

小口径でも勇ましい発砲音と共に砲口からたたき出された徹甲弾は、ル級の頭のバリアに当たってほとんどの威力を失うが、残る威力がル級の顔面にダメージを与える。

呻き声を上げて動けなくなった戦艦にすぐにはとどめを刺さず、過去の経験から覚えたル級のバイタルパート(主装甲区域)外に主砲の砲撃を浴びせ続ける。

「軽巡だからと甘く見るな!」

滅多打ち、嬲り殺しにしているかのような砲撃だが、狙いは砲撃でル級三隻を沈黙させることではなかった。

目ざとくバイタルパート以外のところに損傷区画を見つけると主砲を一斉射撃する。

凄まじい火花がル級の艤装から走る。

バイタルパート以外ならユリシーズの主砲でも損傷区画を大きくしていくことは可能だ。

反撃してくる副砲に五・二五インチ砲弾を撃ち込んで沈黙させる。

主砲より攻撃力の大きい魚雷は巨大艦を撃つ為に温存するつもりだし、ル級程度に魚雷を撃つ気自体が無かった。

悲鳴を上げるル級に情け容赦のない猛砲撃ひとしきり撃ち込むと、ユリシーズは残弾二〇発の爆雷の内の数発を損傷区画に投げ込んだ。勿論信管は起動済みだ。

そして直ぐに距離をとるとル級の損傷区画に投げ込んだ爆雷に照準を合わせた。

「沈めぇっ!」

連装主砲がユリシーズの咆哮と共に砲弾を撃ち出すと、ル級三隻の損傷区画に飛び込み、爆雷とともに爆発した。

目もくらむような閃光と共にル級が炎に包まれ、艤装が爆散する。

断末魔の叫びと共に爆沈する戦艦三隻を後目に巨大艦へと突撃を敢行する。

ル級が一隻の軽巡に成す術もなく倒されたことに脅威を感じたらしい巨大艦は回頭し、離脱を開始した。

「逃がさん」

ユリシーズは機関部と主機に壊れるまで出力を出すように鞭を打った。

英国艦隊でも足自慢の主機が傲然と海を掻き、軽巡洋艦が艦とは思えないような速度で巨大艦を追いかける。

だが相手は巨大な割に思いのほか速い。

距離がなかなか縮まらない。

この距離だとさすがに砲撃を行っても当たらないし、魚雷も当たらない。

「逃げるか! 臆病者、戦わないか! 私を殺してみろ、主砲で私と戦え!」

ユリシーズの言葉に深海棲艦の巨大艦は答えない。

相手にする気が無いと言うのか? 丸腰の船を撃つ卑怯者め。 

(ユリシーズ、いい加減になさい! 船団を守るのを優先しなさい!)

本気で怒ったモントローズの声がヘッドセットから飛び込んでくる。

それでもユリシーズは巨大艦三隻を追おうとしたが、機関部と主機がオーバーヒート警報の悲鳴を上げて出力が低下してしまったので諦めるしかなくなった。

機銃弾一発も当てられることなく取り逃がすことになった。

「おのれ……!」

ぎりりと歯を噛み締めながらユリシーズは船団と護衛部隊に集合をかけた。

まだ船団は目的地についていない。

重傷を負ったエクセター、ジュピターがいない分の護衛の負担を負わなければならない。

ユリシーズは船団の船団長が乗る貨物船の近くで護衛部隊の面々を集まらせた。

 

船団長の貨物船に近づいた時、ケリーが泣き叫ぶ声がするのに気が付いたユリシーズはぞっと背筋が冷えるのを感じ、最悪の結末でない事を神に祈った。

「ケリー、泣くな……」

呟く様に言う言葉は祈りの言葉に近かった。

誰かを失うのは御免だ。

もう二度と誰も失わないと三人の友とカンバーランドの墓前での誓いを反故にしたくなかった。

だが船団長の貨物船から降ろされた小型艇の中でケリーが黒い袋に縋り付いて号泣しているのを見て、祈りが粉みじんに打ち砕かれた。

小型艇の脇にはエクセターの血で汚れたモントローズが力なくたっている。

「モントローズ!」

ユリシーズに呼ばれたモントローズは悲しみに顔をゆがめて涙を流していた。

「ユリシーズ……。ごめんなさい、手は尽くしたのだけれど。本当に……ごめんなさい……」

「……」

血が滲むほど唇を噛み、爪が手に食い込むほど拳を握ったユリシーズだったが涙は出なかった。

泣きじゃくるモントローズをそっと抱きしめる。

抱かれたモントローズはユリシーズの胸に顔をうずめて泣いた。

「神の元に召されたのか……あの子も。悲しいな」

自分の胸の中に頭をうずめて体を震わせるモントローズの肩をやさしく叩く。

彼女の肩を叩きながら、私が失った友と仲間はこれで何人目だと言うのだろうか、まだこれからも失うことになるのか? と思うと深海棲艦への憎悪と共に自身への不甲斐なさが湧き出た。

船団長の船からジャーヴィスが下りて来たので、ユリシーズはモントローズと一緒にジャーヴィスの元に向かった。

ジャーヴィスも制服がところどころ破れ、艤装も痛めつけられているが、応急処置でならまだ戦えるようだ。

小型艇の中のケリーと遺体袋を見たジャーヴィスの顔はやはり涙に濡れていた。

「エクセター、逝っちゃったんだね……ごめんねユリシーズ……ジャーヴィスが」

「言わなくていい、ジュピターは?」

「エクセターのお陰……一命はとりとめるかもしれないって船のお医者さんが言ってた……最善を尽くすって」

「そうか……」

 

ユリシーズは知らなかったが、疲労で動きが鈍かったジュピターに向けられた攻撃からエクセターは盾となった。

ジュピターも瀕死の重傷を負ったが、エクセターが自身の機関部や弾薬庫が誘爆する中でも固く抱きしめていなければジュピターも戦死していたかもしれなかった。

小型艇が船団長の船に収容され、ユリシーズも船団長の船に乗り込むとエクセターの遺体を霊安室に運んだ。

「こんな女の子に、身を守ることをゆだねる事しかできないとは。

男として情けない限りです」

霊安室に「船団と仲間を守るために殉職した艦娘に礼を言いたい」とやって来た船団長は、綺麗にされた状態で遺体袋に入れられたエクセターの顔を見て目を赤くした。

「この子が守ったジュピター嬢は私たちが責任を持て介抱します」

「よろしくお願いしたします。

エクセターは日本に着き次第、日本艦隊統合基地で葬儀を行います。

それまでどうか彼女をお願いします」

「分かりました……その、無理を承知でお聞きしたいことがあるのですが」

「何か?」

「この子の本当の名前は何と言うのでしょうか? 守秘義務は存じ上げております。

私も昔は海軍にいたので」

「……申し訳ありません。

私も知らないのです」

「……分かりました。亡くなられたエクセター嬢に心から哀悼の意をささげます」

深々と頭を下げ、声を詰まらせながら船団長はそう言うと霊安室を出ていった。

一人になったユリシーズはエクセターの前で神に祈りをささげた。

 

「主よ、我が大切な友を、このような形であなたの元へ送ることをどうかお許しください。

我が大切な友、エクセターは友護るべくその身が戦いの炎に焼かれる中自らの命と引き換えに護り抜きました。

護るべきものの為、友の命を護る為にその使命を果たし殉じた彼女にどうか慈悲を。

そして彼女の家族の元へこの魂が還り、天国で永遠の安らぎが得られんことを、アーメン」

敬虔なカトリック信者のユリシーズは十字を切ると、物言わぬエクセターの額にそっとキスをした。

「ありがとう、エクセター。

お前のお陰でジュピターは助かった。

安らかに眠れ」

最後に敬礼を送ると、遺体袋のチャックを静かに締めた。

 

 

第三三戦隊が沖ノ鳥島方面へ出撃したのは、貨物船の霊安室内でユリシーズが祈りをささげる三〇分前の事だった。

改二になった為、余剰化していた大和型戦艦の三連装主砲の部品を代用品とする荒治療で愛鷹の第一主砲を復旧させ、定刻通りに六人は統合基地を抜錨した。

わざわざ埠頭でチフちゃんが出港ラッパまで吹き、埠頭に来た妖精さんたちが整列して敬礼をして送り出してくれた。

愛鷹以外のメンバーの艤装に乗り込んでいる整備妖精さんたちと一緒に敬礼を返す。

基地を発った後、対潜対空警戒序列を組んだ第三三戦隊はその日のうちに八丈島の警戒基地に入港して一夜を過ごすと、翌日補給を行い父島へと向かった。

 

まさか大和型戦艦の主砲から代用部品を探し出して組み込むなんて……後ろを進む愛鷹の主砲修理の方法を重い明日青葉は、思いがけない部品の共通性に今でも驚きが隠せなかった。

確かに初めから三連装主砲として設計されているとは言え、主砲の口径や使用する弾薬の規格も違う四六センチ主砲と三一センチ主砲である。

三一センチ主砲には四六センチ主砲にはない自動冷却装置もあるから分解するにも一苦労だ。

そんな中限られた時間で互換部品に故障部分の部品をすべて交換、動作確認を行って出撃に間に合わせたのだ。

青葉にしてみれば僥倖、奇跡に見えたし同時に互換部品を探し当てる愛鷹の技術力にも舌を巻いた。

あの後、明石らから工作艦に転職しないかと愛鷹は随分と勧誘されたものだった。

勿論できる訳がないのだが。

空に聞きなれた航空エンジンの音が聞こえてきた。

戦闘空中哨戒に上がっていた瑞鳳の搭載機烈風改だ。

交替部隊に任務を引き継がせて戻ってきたようだ。

「戻って来た、お帰りー」

「異常なしですね。

瑞鳳さんは哨戒部隊の収容作業を開始してください」

「はーい」

愛鷹の指示通り、瑞鳳は烈風改の収容作業を開始した。

飛行甲板に着艦していく烈風改に瑞鳳は一機ずつお帰りと声をかけていた。

瑞鳳の空母航空団(航空隊)は烈風改三個飛行隊三六機、対潜哨戒・偵察任務の彩雲一二機、電探搭載の早期警戒型彩雲五機、補用機の烈風改二機、彩雲二機を艦載していた。

愛鷹は生まれて初めての大洋に顔には出さなかったが、内心では心が躍っていた。

この世に生を授かってから今に至るまで、陸地から遠い海にまで乗り出したことは一度もなかった。

 

靴先のソナーからは海洋生物の鳴き声や泳ぐ音が聞こえてくる。

深海棲艦との戦いで海洋生物にも大きな影響が出ていると言うが、それでも海で強く生きている生命の鼓動は非常に勇気づけられるものがあった。

昼頃に交代で食事を摂っていると、近くでイルカが何頭もジャンプするのを見た愛鷹がとても楽しそうな笑顔を浮かべた時に青葉、夕張、深雪、蒼月、瑞鳳は初めて愛鷹から一人の人間、一人の女性であるところを見た。

普段は物静かで感情の起伏が大きいとは言えない愛鷹の反応は、第三三戦隊の面々からするととても新鮮だった。

イルカたちは愛鷹と言う新しい艦娘に興味があるのか、しばらくじゃれついて来た。

青葉らからすればここまでイルカについてこられたのはあまり例がなかった。

遊びできているわけではないのは愛鷹も承知しているが、イルカが何頭も一緒に並走し、時折ジャンプするのを見る彼女の顔はとても楽しげで嬉しそうだった。

その姿を青葉は持っていたプライベート用のカメラで何枚かフィルムに収めた。

とても貴重なシーンに見えたのは青葉の長年の経験からだ。

日暮れが近づくとイルカたちは別れていった。

「楽しかったですか?」

あまり外洋には出ないだけに、イルカが一緒に泳いでくるのを見たことがない蒼月が愛鷹に尋ねた。

「初めての経験でした。いい思い出です」

そう返す愛鷹の口調はとても満足げだった。

 

日が暮れて来た時に愛鷹の指示で瑞鳳は上げていた航空隊をすべて帰艦させた。

夜は各自の艤装の一部に灯されている航行灯と航海電探(レーダー)、天測と海図計算を交えた航路修正を行い、時々小休止を交えながら航行する。

艦娘は訓練で鍛えているとは言え、やはり人間なので長時間の航行で疲労は溜まっていくし、空腹にもなる。

艤装の燃料補給も必要だ。

その為、南太平洋方面、中部太平洋方面などへの長距離航海時は交代で休息が行える外洋型の小型支援船を引き連れていく。

第三三戦隊は今回日本近海での活動なので支援船はついていない。

夜の海を航行し、やはり外洋に出るのが初めての愛鷹が感動するほど綺麗な日の出を眺め、昼頃に父島の警戒基地航空隊の防空圏に到達する。

父島の警戒基地所属の紫電改戦闘機の編隊を早期警戒型彩雲が探知すると、直掩航空部隊は父島警戒基地航空隊に任務を引き継がせて瑞鳳に収容された。

 

日本を発って約二日で一同は父島に入港した。

第三三戦隊が来たときは父島の警戒基地には艦娘は展開していなかったが、沖ノ鳥島方面への作戦展開時には規模は小さいながらも重要な前線基地となる為多くの艦娘が展開する。

父島警戒基地の司令官の鮎島(あゆしま)大佐は気候が温暖な父島に合わせた半袖の略装姿で出迎えてくれた。

鮎島は灰色と黒が混じった髪とよく焼けた肌、がっしりとした体つきの中年男性だ。

武本より階級は下だが年上である。

第三三戦隊の面々は航海の疲れをとる為、風呂に入って疲労を取り、基地の食堂で携行食ではない暖かい食事を摂った。

宿舎で仲間が休みを取る中、愛鷹は翌日から沖ノ鳥島方面へ進出して行う偵察任務の確認をとる為に小部屋を一つ借りて、海図を見ながら計画の最終的なに詰めを行った。

ディバイダーを手に海図を見ていると部屋のドアがノックされた。

「はい」

「私だ。入ってもいいか?」

鮎島だ。何の様かなとドアを開けると「失礼する」と言って入って来た。

部屋に入る鮎島の顔がやや硬いのに気が付いた愛鷹は何かあると分かった。

「仕事中に済まない。

だが伝えておくべきことが本土から秘匿通信で伝えられてきた」

「秘匿通信で? 何があったのです」

「先日、英国艦隊の護衛する輸送船団が深海棲艦の水上部隊の攻撃を受けた。

輸送船四隻が撃沈され、護衛の駆逐艦ジュピターが大破し重巡エクセターが撃沈された。

エクセターはジュピターを庇って殉職したそうだ。

ジュピターも瀕死の重傷だが、輸送船団の船団長の貨物船の医務室で手当てを受けて一命はとりとめたそうだ。

君たちが気になるであろう話として護衛部隊旗艦ユリシーズの報告だと、水上部隊の中には君たちが偵察に来た新型艦がいたらしい」

「輸送船団が襲われたのは?」

愛鷹に尋ねられた鮎島は海図の端を叩いた。

「このあたりだ。私も新型艦の話は聞いたが、沖ノ鳥島に限らない範囲で動いている可能性も否定できんと言う事らしい」

「……それで新型艦はその後どうなったのです?」

「ユリシーズの報告だと残念がら取り逃がしたそうだ。

ただ奴が離脱した方位は沖ノ鳥島の方だから、武本中将は新型艦が沖ノ鳥島の方面のどこかに拠点を置いているかもしれないと見たよ。

その事を伝えたくて来た」

「なるほど……ありがとうございます。

コーヒーはいかがでしょうか?」

「ああ、頼む」

ポットのコーヒーをカップに淹れて鮎島に渡す。

「第九二・五任務部隊の事は知っている。

可哀そうな話だ。

この基地から救援を出せたらよかったが、銀河陸攻が展開するには基地が小さい」

「……」

「生存者がいるといいな。

君たちの任務のうちの一つだったな」

「主目標は新型艦の偵察ですが、余裕があったら捜索を頼むと申し使っています。

みんな見つけてきますよ、そうでないとマイノット少将が浮かばれない」

それを聞いた鮎島はそうか、と短く言ってコーヒーを飲む。

新人の愛鷹についても武本から聞かされていたようであれこれ聞いて来ることは無かった。

愛鷹もコーヒーを入れて飲んでいると、鮎島が「実はちょっと見ておいてもらいたい物がある」と言った。

「なんですか?」

「中将にも昨晩知らせたばかりの機密事項だ。

ここで話すより見せた方がいいと思うのだ。少しだけ時間をくれないか」

「構いません」

 

コーヒーを飲み欲した愛鷹は、鮎島に基地の中にある倉庫に案内された。

日本艦隊統合基地と比べ、父島警戒基地の規模ははるかに小さく、警備の海兵隊員も少ない。

事前に聞いた話では警備の海兵隊員の数はたったの六〇名程度だと言う。

その小さな基地の中にある倉庫の一つに案内された。

歩哨に立つ海兵隊員に通された倉庫内に保管されているものを見て愛鷹は慄然とした。

保管されていたのは焼け焦げ、ひしゃげた駆逐艦のモノらしい艤装の残骸の一部、制帽、主機片方などだ。

いくつかにはべっとりと黒くなった血糊がついている。

鮎島に説明される必要は無かった。第九二・五任務部隊の艦娘の艤装だ。

 

「昨晩、浜辺に漂着していたものを部下が発見した。

装備品に書かれている『DD482』のナンバーから第九二・五任務部隊所属フレッチャー級駆逐艦ダットワースの艤装だと分かった。

靴片方だけならまだしも、一番肝心な機関部の残骸もあったから、上では彼女の生存は絶望視している」

「……遺体はまだ見つかってはいないのでは?」

「ああ、中将は遺体が確認できていないから戦死ととるのは早計と主張している。

マイノット少将も同じだし私も生きている方にかけている……まあ、私の心では半分諦め始めてはいるがな……」

そう言って鮎島は深々と溜息を吐いた。

「一応、まだMI.I.A認定のままだが、救える命を救わないとK.I.Aになってしまう。

無理は百も承知だが敵の情報を集めると共に、上と私の諦め気味の心を裏切る事実を探してきて欲しい」

そう頼む鮎島の目は真剣そのものだった。

その目の頼みを断るつもりは毛頭ない。

「最善を尽くします」

そう愛鷹は答えると踵を揃えて敬礼した。

 




初めて明確に艦娘(未実装ですが)が戦死する描写は正直書き辛さもありましたが、「『艦これ』を素材にした戦争小説」がこの作品の特徴です。
実はエクセターの実名も考えてはいましたが、割愛させていただきました。
次回から第三三戦隊は硝煙の臭いを嗅ぐことになると思います。

ネタ

LRSRG・長距離戦略偵察群と「渡り鳥」の愛称は私の好きなエースコンバット7に登場する主人公の所属部隊のLRSSG・長距離戦略打撃群と「渡り鳥部隊」から。

「貴女みたいな勘のいい艦娘は、正直苦手です……」(愛鷹)。鋼の錬金術師でのショウ・タッカーのセリフが元ネタです(元は「君のような勘のいいガキは嫌いだよ」)。
因みに愛鷹は純粋に「苦手意識」からこの言葉を使ってますが、元ネタのタッカーは「鋼の錬金術師」作中での禁忌の凶行をしてます。因みに愛鷹の秘密とタッカーの凶行はリンクしていませんのでご安心を。

因みに今回より登場したユリシーズの過去に起きたことと戦死した仲間などネタの多くは原作「女王陛下のユリシーズ号」からきています。
ユリシーズの故郷はマンチェスターとしましたが、原作「女王陛下のユリシーズ号」でユリシーズが建造されたのはスコットランドのクライド湾の造船所です。
またキング・ジョージV級戦艦デューク・オブ・カンバーランドは「女王陛下のユリシーズ号」に出る架空の戦艦です。クラスは不明。

ヨーク級重巡洋艦艦娘モントローズ 架空艦(オリジナル) 第五話執筆中に東京寄港し実際に見に行った英国海軍フリゲートHMS「モントローズ」から。

フレッチャー級駆逐艦ダットワースは架空艦でオリジナルキャラですが、DD482のハルナンバーは建造中止になったフレッチャー級駆逐艦DD482「ワトソン」のモノを使っています。
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