秋刀魚イベント後段作戦前に何とか書き上げました。
本編をどうぞ。
AEW任務に当たる愛鷹搭載機の天山、コールサイン・ギャラクシーがカタパルトで打ち出される乾いた音が鳴った。
エンジン音を立てながら上昇していくギャラクシーの機影を見送ると愛鷹は対水上警戒監視に付く。
ブロッケードランナー作戦及びブラックピット作戦開始からすでに一時間。深海棲艦の海域優勢下に入っている。
いつ深海棲艦が襲って来てもおかしくない状況だ。
対水上レーダーは最大出力で捜査、ソナーも感度最大で聴音。
幸い天候は晴れ、波の高さも砲撃戦を行うにはそれほど支障は出ない。
作戦期間は五日。一日一日が長く感じられそうになる作戦期間だ。
遊撃部隊として警戒監視に当たる第三三戦隊は「ズムウォルト」と「オーシャン・ホライゾン」の二隻とグレイハウンド隊の周囲を猟犬の様にぐるぐると回る哨戒コースを描き、いつ襲って来るか分からない深海棲艦に備えていた。
片道二日。休みはほぼなし。キース島で一日休めるとは言え、その間に誰かが戦列を離れる事態が起きれば、残る艦娘にかかる負担が増える。
気の抜けない九六時間になりそうだった。
こちらが偵察活動を行えない間、深海棲艦が増援部隊を展開して来ていないと言う保証は無いだけに愛鷹はいつにも増して無口になっていた。
水上艦はともかく、潜水艦隊が展開していたら、と思うと不安が膨れ上がる。
なるたけ潜水艦の展開し辛い海域を選んだ航路とは言え、全く潜水艦がいないと言う訳ではない。
深海棲艦の潜水艦でもflagship級ともなれば、その航洋性、機動性も高くなるだけにキース島一帯の潜水艦の航海の難所をうまく切り抜けるかも知れない。
いないに越した事は無いとは言え、もし事前情報以上の数の潜水艦が展開していたら厄介だ。
青葉からは対潜哨戒に当たる瑞雲が発艦して航空対潜哨戒網を敷いているので、比較的広域対潜哨戒が出来るのは有難かった。
グレイハウンド隊もキーリング、ジェームス、ヴィクトール、ダッジの四人はASW(対潜任務)に関してはプロの域だから、潜水艦が出たら彼女達に一任すると言う手はある。
(潜水艦はグレイハウンド隊でも何とかなるとして、問題は水上艦……)
脳裏を離れないレ級flagship級の存在。推定されるレ級flagship級の航空戦力は軽空母ヌ級数隻分だ。
こちらは自分と瑞鳳、ヴィクトリアスの航空戦力のみ。練度は充分だが、それでも愛鷹の不安を払拭できてはいない。
不安なのか、心配なのか、自分でも分からなくなる愛鷹は神経質にギャラクシーに敵影が無いかの確認を入れていた。
「ちょっと落ち着けよ愛鷹。深雪様たちもいるんだからいつもみたいに大船に乗った気分になれって」
見かねた深雪が宥める様に愛鷹に声をかける。
詫びの一言を返しながら、深雪の言う通りちょっと落ち着かないと、と自分を制する。
とは言え、レ級flagship級の存在とス級の存在はどうしても愛鷹から落ち着かない気持ちを植え付けていた。
ベルゲン出港から六時間あまり。「ズムウォルト」から出撃して四時間余りになって青葉の瑞雲がMAD反応報告を入れて来た。
(アオバンド3より旗艦愛鷹へ。MADにて磁気反応感あり。数は二、いや三)
「了解、アオバンド4、5はアオバンド3の支援に回り、磁気反応の正体を正確に特定されたし」
(ラジャー)
二機の瑞雲を支援に回す指示を出しながら、アオバンド3が磁気反応を検知した海域をHUDで確認する。
海底鉱脈があるとされるエリアだ。MADは海底にある金属になら何でも反応するし、報告のあったエリアには昔の海難事故によって沈んだ沈没船の情報もある。
反応が沈没船であった可能性も否定できない。
HUDの表示を対空レーダーに切り替えていると、艤装内のCIC妖精から緊迫した報告が上げられてきた。
(ソナーコンタクト! 方位〇-〇-一、距離三〇〇〇。ソ級flagship級機関音探知。数二)
「ソ級が二隻も? 確かですか?」
(間違いありません。ソ級独特の身軽な音紋です)
事前の情報とは違う深海棲艦の潜水艦出現に愛鷹は唇を噛んだ。
やはり、増援が来ていたか。水上艦は監視出来ても、潜水艦の動向調査には限界があったこちらの隙を突いて別海域から潜水艦を回して来ていたか。
潜水艦なら荒天の影響は受けにくいし、ソ級は確かに身軽と形容される程機動性が良いからキース島近海の潜水艦の行動制限条件もある程度は耐えられるのかも知れない。
青葉の瑞雲の対潜哨戒の網をくぐって来たか、或いはずっとここに機関停止して鎮座して待ち伏せていたか。
ヘッドセットの通知スイッチを押すと、第三三戦隊とグレイハウンド隊に警報と戦闘配置を命じる。
「ホワイトハウンド0-0より全艦、ソナーコンタクト。方位〇-〇-一、距離三〇〇〇に潜水艦ソ級flagship級二隻。
全艦、対潜戦闘用意」
(こちらディッキー。イーグルと共に潜水艦迎撃の許可を願う)
(グレイハウンドよりディッキー。許可する、ソ級を水底へ送ってやれ)
(了解。Let’s go the hunt!)
グレイハウンド隊のダッジとヴィクトールの二人が戦列から離れて、潜水艦が探知された方へと向かう。
「潜水艦狩りは彼女達に任せ、こちらは対水上対空警戒に専念させて貰いましょうかね」
独語する様に呟く愛鷹が見つめる中、小柄なディッキーことダッジと少し背の高いヴィクトールの二人がソ級のいる方向へと向かっていく。
波間の向こうに小さくなっていく二人の姿をレーダーでも追跡していると、ヴィクトールとダッジが砲撃を開始した。
(こちらディッキー。敵潜潜望鏡二つを視認。現在砲撃中)
潜望鏡深度にいる潜水艦であれば、水上からの砲撃の水中弾でダメージを入れる事も可能である。爆雷を用いる方が効果的なのは確かだが、爆雷は投射位置に付くまでに敵潜に逃げられる可能性もある。
ダッジとヴィクトールの二人の主砲と機関砲の砲撃音が海上に響く中、爆雷投射ポイントへとダッジがダッシュを駆ける。
主砲と機関砲で牽制射撃を続けるヴィクトールの支援が行われる中、小柄なダッジがソ級の直上に到達すると艤装の爆雷投射器から爆雷を海中へと投げ込み始める。
(グレイハウンド、こちらディッキー。現在爆雷攻撃中)
乾いた投射音がダッジの艤装から発せられ、四発の爆雷が海中に沈む。数秒後海中に投じられた爆雷が爆発し、海上に爆発の水柱を突き上げた。
四発の爆雷が爆発すると愛鷹のCIC妖精が爆雷の爆発による聴音能力低下を報告して来た。
ソナー感度回復まで待っているとアオバンド3の支援に向かった4、5から敵潜探知の連絡が入る。
(ソノブイ聴音によりソ級elite級と判定。数は三、方位〇-六-五よりそちらへ進撃中)
「潜水艦の待ち伏せか……いやelite級の方は寄って来ただけかも知れないわね」
また一人独語しているとダッジがソ級flagship級一隻を沈めた事を知らせて来た。
(ディッキーより全艦。ソ級flagship級一隻撃沈を確認。残る一隻を現在追跡中)
(グレイハウンドよりディッキー。早めに仕留めて隊列に戻れ)
(了解)
一任しておいて正解、と思えるくらいダッジは上手い事ソ級flagship級を仕留めていた。
暫くして愛鷹のソナーの感度が戻ると、ダッジの直ぐ傍にソ級flagship級がいるのが聞こえた。
危ない、と警報を出そうと思った時同様に探知していたらしいヴィクトールが無線でダッジの援護に入る事を告げて来る。
(こちらイーグル。ディッキーの背後に敵潜探知。最大戦速で向かい援護する)
(ディッキー了解。こちらも取舵一杯で敵潜攻撃態勢に入る)
バディを組むヴィクトールが加速をかけ爆雷を投射し始めると、ソナーがまた爆雷の爆発で聴音困難になる。
ダッジとヴィクトールの二人が対潜攻撃の仕上げにかかるのを見守りながら、愛鷹は青葉に発見したソ級elite級への攻撃に瑞雲を増派するよう指示する。
「対潜攻撃役の瑞雲を出して探知したelite級を攻撃して下さい。船団に近づかせる前に仕留める様に」
「了解です」
背後からカタパルトの連続射出音が響き、四機の瑞雲が対潜攻撃に出撃していった。
遠くなっていく四機の機影を見送り、水上警戒に戻っているとダッジが仰天した声を上げた。
(ソ級浮上! やつは砲戦でもしようと言うの?)
(よし、袋叩きにするぞディッキー)
爆雷攻撃で潜航不能になったらしいソ級が浮上して来たのを見たヴィクトールは一二センチ連装主砲をソ級へ向けると砲撃の火蓋を切る。遅れてダッジの一〇・二センチ単装砲の砲声が轟く。
浮上せざるを得ないソ級flagship級は生憎水上戦闘が出来る兵装を持ち合わせていないだけに、出来る事は逃げるか一方的に殴られるだけだった。
程なくソ級の艤装に直撃弾の爆破閃光が走るとソ級は動きを鈍らせた。
ダッジが単装砲の砲弾を撃ち込み、四〇ミリボフォース機関砲の砲弾まで雨あられと浴びせながら接近するとソ級は必死に逃走にかかる。
しかし五〇メートルと行かずにダッジが追い付いた。逃がさんと彼女の足がソ級を踏み押さえつけ、四〇ミリボフォース機関砲弾を徹底的に撃ち込む。
仕上げに単装砲の徹甲弾を一発撃ち込み被弾したソ級の艤装から漏れたオイルに塗れた足を離すと、ソ級flagship級は波間の下へと静かに消えて行った。
オイル塗れになっているダッジの主機を見てヴィクトールがたまげた様に口笛を吹く。
「靴が敵潜の油まみれだよディッキー」
「走ってればこんな汚れ勝手に落ちるわよ。さ、戻ろっか」
隊列に戻るダッジとヴィクトールを確認しながら瑞雲四機による対潜攻撃の方に愛鷹は意識を向けていた。
ETA(到着時刻)は五分後、とレーダー表示で確認しているとギャラクシーから対空警戒警報が飛んだ。
(こちらギャラクシー。レーダーコンタクト。方位〇-二-〇より敵機多数飛来を確認)
その報告に愛鷹は眉間に皺を寄せた。飛来する方向がノルウェーの陸上部からである。
(どういう事……空母機動部隊がそっちに展開しているという事?)
C8S海域に展開する深海棲艦側の航空支援だろうか。しかし、仮に飛来する方向に艦隊が展開していたとしたらいつ展開していたのか?
「もしかして……地上型深海棲艦の基地航空隊?」
そう考えるのが妥当かも知れない。飛行場姫あたりがこっそりノルウェーのどこかに基地を築いているのかも知れない。
「CIC、敵編隊をトレース。飛行場姫がいる可能性がある。飛行場姫の位置を割り出して」
(了解、解析します)
CICからの返答を聞いた後、対空戦闘用意を発令する。
「ホワイトハウンド0-0より全艦、対空戦闘用意! 戦闘機隊は直ちに発進」
愛鷹の左舷の航空艤装が展開され、エレベーターで上げられてきた烈風改二の戦闘機隊が続々と発艦を始める。
カタパルトの射出音と烈風改二のエンジン音が響き渡る中、ギャラクシーから接近する敵編隊の続報が入る。
(敵編隊は深海空要塞二〇、深海猫艦戦改二〇、計四〇)
深海空要塞……深海棲艦の陸上機だ。護衛は白タコヤキもとい深海猫艦戦改。手強い相手だ、空要塞の空爆能力はカテゴリー上で言うと重爆撃機に匹敵するだけに極めて高い。
陸上機がいるという事はノルウェーのどこかに飛行場姫が基地を築いているのは間違いない。深海棲艦の空母では空要塞は運用されていない事が確認されている。
空要塞に匹敵する爆撃能力も持っているのが重攻撃機こと深海重攻撃機だが、あちらと違って空要塞は爆弾による爆撃しかしない。
第二波に備えて瑞鳳の戦闘機隊もスタンバイするように指示を入れる。
五分程で愛鷹の艦載する烈風改二の三個小隊一二機が発艦した。事前準備を入念に行っていた事もあって故障機は無かった。
(こちらヴィクトリアス。コルセアを八機発艦させてBARCAPに当たらせる)
(こちらホワイトハウンド3-1瑞鳳です。烈風改二、二個小隊を上げました)
「ホワイトハウンド0-0、愛鷹了解。戦闘機隊は発艦後空中警戒機ギャラクシーの管制下に入れ」
航空妖精二八人から了解の返事が返る。
発艦したのは愛鷹のグリフィス、ハーン、ヒットマンの三個小隊と、瑞鳳のメイジ、ゴーレムの二個小隊、ヴィクトリアスのコールサイン・シェパードで呼ばれるコルセア戦闘機二個小隊。
全部で二八機の防空隊だ。
高度を上げて行く戦闘機隊を見送ると、愛鷹は第三三戦隊に陣形を輪形陣へ移行するよう指示する。
左舷艤装に増設された高角砲や艤装各部の機銃、噴進砲が仰角を取り、対空迎撃態勢を取る。
愛鷹を中心とした輪形陣を組んだ第三三戦隊が敵編隊と「オーシャン・ホライゾン」との間に位置する場所に布陣していると、戦闘機隊が交戦を告げた。
(ギャラクシーより防空隊各隊。敵編隊方位〇-二-〇、高度エンゼル・スリー。機数は四〇。艦隊に向けて急速接近中。
全機ウェポンズフリー、交戦を許可する)
(ヒットマン1よりギャラクシー、ターゲットマージ。エンゲージ)
(グリフィス1エンゲージ)
(ハーン1エンゲージ)
(ハーン5エンゲージ)
(シェパード2-1エンゲージ)
(シェパード1-1エンゲージ)
(メイジ1エンゲージ)
(メイジ3エンゲージ)
(ゴーレム1エンゲージ)
二八機の戦闘機がフルスロットルのエンジン音を立てながらタコヤキと空要塞計四〇機の編隊へと挑みかかる。
高度では防空隊が下だったが、タコヤキは空要塞から離れず盾になるかの様に防空隊と護衛対象との間に自分達を入れていた。
先手を切ったのは防空隊の烈風改二だった。機関砲の射撃音が轟き、空要塞へと火箭を伸ばす。
その間に入る様にタコヤキがバンクして軌道を変更し、二機ずつの編隊に分れて防空隊に対して応戦を試みる。
タコヤキ側も射撃の火ぶたを切り、双方の銃撃の銃声が空に響き渡り、それに被弾した機体が立てる悲鳴が混じる。
盾になる事を意識しているのか、回避機動を取らなかったタコヤキ数機が瞬く間に撃破され、黒煙を吐きながら高度を墜とし、火達磨になって空から転がり落ちて行く。
数では上の防空隊の攻勢に空要塞の護衛のタコヤキも猛然と応戦する。背後を取りに来る烈風改二やコルセアに対して、編隊を維持しながらブレイクしてやり過ごす。防空隊は深追いせず、空要塞へと迫る。
空要塞へと迫る烈風改二二機にタコヤキ一個小隊四機が囲い込む様に襲い掛かると、二機は揃ってローリングしながら銃撃を交わし一時離脱する。
(こちらハーン3、囲まれている、援護を頼む)
(こちらハーン1。3、4は方位二-八-五に飛べ。タコヤキ四機を挟み撃つぞ)
(3ウィルコ。4付いて来い)
遅れて二機の烈風改二二機が到着し、回避機動を取りながらリーダー機の指示する方向へ飛んでいた僚機二機の援護に入る。
ハーン1と2が牽制射撃を行っている間に3,4は体勢を立て直す為にインメルマンターンで高度を上げながら反転する。
3、4の二機が反転して挟撃態勢に移ると、ハーン1と2もタコヤキを追い込みにかかる。
烈風改二が二手に分かれて追い込みにかかって来ている事に気が付いたタコヤキ四機が高度を下げ、離脱を図るがハーン隊の四機はエンジン音を高々と鳴らしながら追撃に入る。
性能向上のチューンが施された第一一八特別航空団仕様の烈風改二の轟々たるエンジン音が四つ空に響き、それに割り込む様に機関砲の射撃音が鳴り響く。
被弾したタコヤキが黒煙を吹き始め、一機は錐もみ状態になりながら高度を落とし、二機が動きを鈍らせる。被弾を免れた一機はブレイクして離脱を図るが、先を読んでいたハーン1、2の十字砲火を浴びて爆散する。
(スプラッシュワン)
(やるじゃないか)
四機のタコヤキが戦列外になる中、残るタコヤキは一二機に減っていた。数で劣勢ながらも粘り強く応戦する。
タコヤキの戦術は防空隊を撃墜するより、空要塞を攻撃しようとした瞬間に銃撃を加えて妨害するのを重視している為もあって、明確に落としにかかって来るより嫌らしい動き方をしてくる。
空要塞への射点に付いたと思ったところへ銃撃の火箭がすぐそばを飛び抜け、コルセア二機が危うく被弾しかける。すぐさま僚機二機が援護に入るとタコヤキはフルスロットルで離脱していく。
一撃離脱、ヒットアンドウェイで妨害を繰り返すタコヤキだが烈風改二二機が空要塞一機に銃撃の火箭を撃ち込む。被弾した空要塞が黒煙を吐きながら高度を落としていく。
(ヒットマン1、敵機撃墜)
(ヒットマン2、ガンズ・ガンズ・ガンズ)
空要塞側も自己防衛の機銃で弾幕を張るが、ヒットマン1、2はやすやすと火箭を躱して空要塞二機目を共同で撃墜する。
そこへタコヤキ二機が空要塞防衛の為に駆け付けるとヒットマン1、2は攻撃を止めて回避に移る。
ヒットマン1、2が離脱すると、今度はゴーレム隊の四機が空要塞に襲い掛かりあっという間に四機を撃墜して一機を損傷させる。
護衛のタコヤキは六機へと数を減らしていたが、空要塞はまだ半分以上健在だった。
懸命に防戦に当たるタコヤキに容赦なく攻撃の手を加えて防衛線を突破した烈風改二やコルセアが空要塞に迫る。
(シェパード1-1、Fox3!)
(こちらギャラクシー。敵重爆の約半分を撃墜。いいぞ、その調子だ、もっとやってくれ)
警戒機の励ましに答えるかのように烈風改二、コルセアの銃撃音が唸り声をあげ、空要塞がまた一機、また一機と撃墜されていく。
残存するタコヤキが尚も妨害に入るが八機の烈風改二が相手取ると空要塞の護衛どころでは無くなる。
(捕まえろ、もう一度右だ)
(くそ、こちらシェパード1-3、被弾した! 空要塞の反撃を食らった。左翼の油圧低下)
(1-3離脱しろ。1-4、1-3のエスコートを頼む)
(ラジャー)
(空要塞の対空防御に気を付けろ。気を抜いたら撃ち抜かれるぞ)
(上方へ回り込め、対空火器が少ない)
(グリフィス1、一機撃墜)
(やるな)
烈風改二からの集中砲火を浴びる空要塞が見る影もない程数を減らした時、被弾した一機が大爆発を起こした。
(うおぉ、大当たり! 敵の爆弾倉の爆弾を吹っ飛ばしたぞ)
(デカい花火が上がったな。この機体からも見る事が出来ていたらな。空要塞の残りは一機だ……ん、ちょっと待ってくれ)
上機嫌そうなギャラクシーの声が一転して緊張したモノに代わる。
(どうしたギャラクシー?)
(新たな敵機を探知。方位一-五-〇、高度五〇〇、機数四〇。速い、速いぞ。こいつは艦載機だ)
「新たな敵機? 方位的にレ級flagship級の航空隊か」
来たか、と敵機の来る方向へ目を向ける。
(ホワイトハウンド3-1、瑞鳳です。防空隊三個小隊を上げます)
「了解。各艦、防空隊が防ぎ切れない可能性もあります。対空迎撃用意」
(了解)
(Roger)
グレイハウンド隊の分も含めて英語で通知する愛鷹に日本語と英語の二種類の言語で返事が返る。
「ズムウォルト」のヘリ甲板から防空隊を発艦させる瑞鳳の弓の音が微かに聞こえて来る。
空要塞の方は問題ない、と判断した愛鷹は第三三戦隊を新たな敵編隊の来る方向へと転身させ、「オーシャン・ホライゾン」との間に割り込ませる。
ストライダー、サイクロプス、ガーゴイルの三個小隊が迎撃に向かう中、愛鷹は烈風改二の防空隊が交戦する前に主砲による長距離対空射撃を試みる事にした。
「全機射線上より退避。高度八〇〇メートル以上へ上昇」
HUDで《ALLY》表示の味方機一二機が指示通りの高度に到達して射線を確保すると、愛鷹は射撃スティックを握り四一センチ主砲の照準を定める。
「CIC対空目標の軌道を正確に解析して下さい。諸元解析完了次第、撃ち方始め」
(今やっています、お待ちを)
CIC妖精が答える間に五門の主砲に三式弾改二を装填し射撃準備を整える。
(こちらCIC敵機の予測軌道算出。主砲諸元入力よし)
「目標情報確認。射線方向クリア、主砲対空戦闘、攻撃始め」
HUDに《AIR to AIR TAREGET CUNFIRMED》と表示され、《AIR to AIR ENGAGE》と代わる。
「CIC指示の目標。エアキルトラック1022から1027まで主砲撃ちー方始めー、発砲! てぇーっ!」
四一センチ三連装主砲と連装主砲が発砲の轟音を上げ、反動で砲身を勢い良く後退させた。後退する砲身とは逆に砲口から撃ち出され飛翔していく砲弾が橙色に光りながら空を駆けて行く。
次弾装填は間に合わないと判断して、弾着までの時間を腕時計で測る。
長距離射撃なだけに、着弾まで時間がかかる。発砲を検知して編隊を分散させられたら、三式弾改二の対空散弾もどの程度効果が出るか。
「着弾まで一〇秒……スタンバイ、マークインターセプト」
HUDにカウントが表示され「0」になった時、《Kill》の表示が多数表示された。
五つの対空目標を起点に主砲の対空弾を送り込んでいる為、そこから更に複数の敵機を対空散弾が捕捉して撃破していた。
HUDにて一一機を撃墜した事を確認し、まあまあ長距離砲撃にしては上出来と納得する。
残りは四九機。一二機の戦闘機でどれ程削れるだろうか。
HUDで《ALLY》一二機が五〇機近い敵機に挑んでいくのが表示される。
ギャラクシーの情報から艦載機はレ級flagship級のモノだろう。キース島への空爆時にとられた事前情報からタコヤキと重攻撃機の二種類が確認されている。
「深海猫艦戦と地獄艦爆、それと重攻撃機全部で六〇。空要塞より危ないかも知れないわね」
一二機の防空隊の迎撃を受け、一部がドッグファイトに入るのをHUDで確認しながら独語していると、ギャラクシーから更に別の警報が入る。
(全艦よく聞け。方位一-八-七より敵艦隊接近中。リ級flagship級二、ロ級四。距離三万。船団へ急速接近中)
来たか、敵水上艦隊。
来ると分かっていても少しばかり緊張するモノを感じながら愛鷹は主砲に徹甲弾を装填させ、待機に入る。まだ敵の攻撃編隊は健在だ。
「ギャラクシー、空要塞を迎撃した防空隊を新たな敵機迎撃にも向かわせて下さい。ただし残弾が少ない機体は戦闘空域を離脱し着艦可能になるまで待機」
(了解した)
先に空要塞を迎撃した防空隊にも迎撃を手伝わせるように指示を出していると、今度は哨戒中の瑞雲から敵潜発見の報告が入る。
「この忙しい時に」
「敵艦隊の待ち伏せ海域に入り込んだのかも知れませんね」
悪態をつく愛鷹に青菜が主砲を担ぎ直しながら言う。
相槌を打ちながら敵潜を発見した瑞雲、アオバンド1に敵潜の正確な情報を聞き出す。
(敵潜水艦、ソ級elite級。数三。船団との距離八〇〇〇)
「八〇〇〇? 近い近すぎる」
思い出せばアオバンド1は燃料切れで帰投中の機体だった。帰投中に敵潜を探知したと言うところか。
「グレイハウンド、キーリングさん迎撃を頼みます」
(了解した。ディッキー、我に続け。ワシントン、次席指揮を一任する。ホワイトハウンドの対水上戦闘を援護せよ)
(ディッキー了解)
(ワシントン了解したわ)
キーリングとダッジの二人が船団から離れて敵潜迎撃に向かう一方、ワシントンを中心にグレイハウンド隊の残りが隊列を組みなおして第三三戦隊の支援態勢に移る。
(ヴィクトリアスから愛鷹へ。今からなら攻撃隊を発艦させて敵艦隊を撃滅する事も可能だけど、どうする?)
「ヴィクトリアスさんの航空隊は対艦装備で五分発艦待機。別働隊出現に備えて下さい」
(了解)
意外な事にヴィクトリアスは日本語が堪能だったので彼女とは時に英語、時に日本語で交信を交わしていた。愛鷹としてはヴィクトリアスの話し易いであろう英語を重視しての会話にしていたが、ヴィクトリアスの方から日本語で話しかけて来た時は日本語で話していた。
彼女と同じ英国海軍艦娘ジェームスと英語の発音の僅かな違いから、ヴィクトリアスはイングランド出身である事が伺えた。因みにそのジェームスからはウェールズ訛りが感じられる辺り彼女は英国のウェールズ出身だろう。
深海棲艦艦隊との戦闘間にタブレットを数錠飲んでおく。錠剤を呑み下しケースを艤装にしまい込むと深呼吸して気持ちを整える。
これで準備よしだ。
(敵艦隊、船団攻撃可能範囲到達まで約一〇分)
「猶予は一〇分」
噛み締める様に呟いていると、防空隊の一機から苦みを露わにした声で通信が入る。
(こちらサイクロプス1。すまない、取り逃がした敵機八機がそちらに向かった! 重攻撃機六機、艦爆タコヤキ二機だ)
「了解。対空射撃で対応します」
敵機残り八機。自分と蒼月の対空射撃で何とかなるかもしれない。ただ波がやや高めなので蒼月の射撃の安定性に不安があった。
HUDで確認しながらこちらへと迫る八機の攻撃機に高角砲の照準を合わせる。左腕と艤装の機銃も射撃準備よしだ。
重攻撃機は蒼月に任せ、自分は艦爆タコヤキを先に狙うとしよう、と決めるとHUDで射撃目標配分を行う。ギャラクシーからのデータリンクで敵機の識別は既に済んでいる。
《TATEGET IN RANGE》の表示が出ると対空レーダーと連動している高角砲が正確に敵機に向けて砲口を指向する。
「旗艦愛鷹より蒼月、対空戦闘用意。旗艦指示の目標、攻撃始め!」
号令を発令するとデータリンクで配分されていた目標に対して蒼月の長一〇センチ砲が砲撃を開始する。僅かに遅れて愛鷹の一〇センチ連装高角砲改二基も砲撃を開始した。
近接信管が起爆した対空弾が敵機の周囲で爆炎の炎と黒煙を瞬かせ、散弾を叩き付ける。小気味いい砲声が連続して響く中八機の攻撃機隊は怯む事無く艦爆タコヤキは反跳爆撃に、重攻撃機は雷撃の為の投下コースに乗る。
やらせるか、と愛鷹と蒼月が猛然と砲撃を行い、第三三戦隊の他の艦娘も対空射撃を開始して支援に回る。
濃密な対空砲火が八機のを取り囲み、重攻撃機一機が爆散する。
二機目、三機目と蒼月の対空射撃で重攻撃機が撃墜され海に突っ込んでバラバラになると、重攻撃機の残りは蒼月に針路を向けて魚雷をやや遠いところから投下した。
それに合わせて艦爆タコヤキも蒼月に目がけて爆弾を投じ、反転離脱を試みる。
「蒼月さん、回避!」
集中砲火を受ける形になった蒼月に向かって愛鷹が叫ぶ間に蒼月は最大戦速で回避運動に入る。
「援護するぞ」
主砲を海面に向けて構えた深雪が蒼月に向かって伸びて行く魚雷の航跡へ砲撃を開始する。
水中弾となって海中で爆発する深雪の主砲砲撃によって魚雷一発の軌道が逸らされ、一発が誤爆して果てる。
残る一発を蒼月は回避すると、飛来して来た爆弾二発も何とかギリギリのところで体をのけ逸らせる形で躱す。
肝を冷やした表情を浮かべながらも無傷の蒼月が愛鷹に向かって親指を立てて無事を知らせて来る。
「全員無事ですか?」
念の為蒼月以外に被害がないか確認を取ると四人から「被害なし」の報告が返される。
攻撃が蒼月に集中された結果、愛鷹を含む他の艦娘や「ズムウォルト」「オーシャン・ホライゾン」に被害が出なかった形だった。
対空防衛網潰し……DEAD(敵防空網破壊)系の攻撃をされたらこちらとしては辛いものである。
「よし、次行きますよ。対水上戦闘用意。第三三戦隊全艦、面舵一杯」
「おもーかーじ一杯、ヨーソロー」
号令と共に舵を切る愛鷹に復唱しながら青葉が続いて右へと舵を切る。
深海棲艦艦隊迎撃に向かう第三三戦隊を横目にキーリングもダッジと共に対潜迎撃を開始する。
ソナーで捉えた敵潜水艦の方へと全速力で向かっていると、先行するダッジが潜望鏡発見の報を上げる。
「潜望鏡発見。数一、方位〇-〇-八、距離一五〇〇」
「ディッキー、随意射撃を許可する。敵潜水艦に潜らせるな」
「了解」
ダッジの主砲砲撃が始まり、ソ級の潜望鏡の周囲に着弾の水柱を突き立てる。
潜望鏡は一つだが、ソナーで探知するとその周囲に僚艦二隻がいる。
「ディッキー、砲撃を継続しつつ方位三-〇-〇へ転針しろ。挟み撃つぞ」
「ディッキー了解」
取り舵に転舵するダッジとは逆にキーリングは面舵に舵を切る。キーリングも潜望鏡を確認するとMk30改五インチ単装主砲で砲撃を開始した。
愛鷹の四一センチ主砲やワシントンの一六インチ主砲よりは豆鉄砲ながら、高い初速と確かな精度を誇る五インチ砲が連射して潜望鏡の周囲に白い水柱を林立させる。
射程に収めた四〇ミリ機関砲までもが射撃を開始した時、キーリングのソナーが水中での爆発音を捉えた。
撃沈とは異なる爆発音。自分かダッジの砲撃が直撃したのだろう。
ソナーで聴音を続けていると損傷したらしいソ級がメインタンクブローをかけて浮上するのが分かった。
「ディッキー、注意しろ。ソ級が浮上する。奴は浮上砲撃戦を挑むかも知れない」
「了解した。殴り合いなら望むところよ」
拳を突き合わせてにやけるダッジの前方にソ級が浮上して来る。
他にもいる潜水艦に対処する為にキーリングは増速してまず一隻目の上へと向かう。
すると彼女の視界に二本の雷跡が見えた。ソ級からの反撃の一撃だろうか、牽制の一撃だろうか。
回避行動を取って二本の魚雷を躱していると、見張り員妖精が「雷跡視認! 方位〇-〇-〇」と叫ぶ。
咄嗟に新たな魚雷の来る方向へ顔を向け、唇を噛む。嫌らしい事に二発の魚雷が間をおいて更に接近して来る。だが今転舵すればせっかく切った先の二発の魚雷の射線に戻ってしまう。
(ギリギリまで引き付けてから一気にブレイクして躱すしかない)
まず二本の魚雷をやり過ごす為に針路を維持する。四発の魚雷の位置を交互に確認して舵を切るタイミングを見計らう。
最初の二発を何とか躱すと第二波の回避にかかる。
「面舵一杯! 右舷機関前進一杯、左舷機関後進一杯!」
左右の足の主機にそれぞれ逆の推進をかけて旋回半径を狭くする。自分のスクリューノイズが増してやや聴音が難しくなるがやむを得ない。
白い航跡を引きながら迫る二発の魚雷を凝視しながらひたすら舵を切る。心臓の鼓動が早まるのが分かった。
「総員対ショック姿勢、衝撃に備え!」
万が一の時に備え、装備妖精に被弾時の衝撃に備えるよう叫ぶ。
キーリングが見つめる中魚雷二発のうち一発が彼女の直ぐ傍を通り過ぎ、もう一発が主機の靴底を擦りながら掠める。
近接信管が作動しなかったことにホッとしつつ、キーリングは舵を切ってダッジの支援に向かう。
浮上したソ級と砲撃戦を行っているダッジへと最大戦速で向かっていると、彼女からもう一隻をロストしたと言う報告が入る。
「了解、留意する」
ソ級の単装高角砲とダッジの一〇・二センチ単装砲、四〇ミリ機関砲を駆使した砲撃戦は並と互いの背の高さも相まって中々決着がつかない。
ロストしたと言うもう一隻は後にして、まずは浮上しているソ級を片付けるのを先にする。
「ディッキー、変針しろ。射線に君がいて撃てない」
「ディッキー了解。面舵に転舵し射線を開ける」
小柄なダッジが右に舵を切ってキーリングの砲撃の射線を確保する。
射線が完全にクリアになるまでキーリングは主砲と機関砲の全てをソ級へと指向する。
波がやや高くなっているせいで小柄なダッジの動きが鈍い。転舵して加速をかけるのが見えるが波のせいで素早くは動けない様だ。
そもそもフラワー級の機関自体あまり突発的な加速に優れていないから止むを得ない。
面舵に舵を切ったダッジがキーリングの砲撃の射線から退避するとキーリングは双眼鏡を覗き込みながら砲撃の照準を合わせる。
「全砲門撃ち方」
ソ級を睨みながら砲撃はじめ、と言おうとした時突然ソ級の高角砲が火を噴いた。
体に衝撃と共に鋭い痛みが走り何かが壊れる音が響く。くぐもった悲鳴を上げながらも致命傷ではない、と自分に言い聞かせると「全砲門撃ち方始め!」とソ級を睨みながら攻撃指示を下した。
五インチ単装砲と四〇ミリ機関砲の一斉射撃が始まり、ソ級の周囲に着弾の白い水柱を多数突き立てる。ソ級もまた一発撃ち返して来るが今度は躱してのける。
「沈め!」
主砲と機関砲を撃ち散らしながら短く呟いた時、ソ級の艤装に直撃の閃光が走り、爆発音が海上に轟いた。
止めの一撃を更に撃ち込み続けるとソ級は炎上しながら波間へと水蒸気の白い煙を上げながら沈んでいった。
「よし……。うッ!」
被弾した箇所から痛みが再び走る。撃たれたところは四〇ミリ機関砲の銃座を一つ破壊し、破片が左腕を切り裂いて出血させていた。
破壊された機関砲の砲座から出火して火が左上半身を焼きかけていた。戦闘が一段落したのを見計らって装備妖精が消火ホースを手に消火作業に当たる。
「ディッキー、こちらグレイハウンド。我被弾せり。損害および負傷は軽微なれどダメージコントロールの為一時的に戦線を離脱する。残りのソ級は申し訳ないがそちらだけで頼む」
(ディッキー了解。すぐ終わらせる)
艤装からファーストエイドキットを取り出して包帯と止血剤、痛み止めの注射器を取り出す。
手早く注射器を打ち、左腕に止血包帯をしっかりと巻き付ける。
「まさか潜水艦の砲撃で手傷を負わされるとは……」
潜航不能にされたソ級の窮鼠猫を嚙む一撃にキーリングは舌を巻きながら治療を終わらせるとダッジの支援に向かった。
ソナーで捕捉したらしいソ級へ爆雷を投げ込むダッジが自分の左腕の包帯を見て窺う視線を送って来るが、キーリングは攻撃に専念するよう促す視線を返す。
爆雷の爆発でソナーが一時的に効かなくなる間、感覚が戻った左手で爆雷投射機のトリガーグリップを握る。
海中内の騒音が治まると、ソナー感度をリセットして聴音に当たる。
ヘッドセットから聞こえて来る海中内の音をに耳を澄ませて聞いていると、ソ級の艤装の潜航耐圧殻が破損して浸水している音が聞き取れた。
相変わらずダッジは仕事が早い、と仲間の対潜攻撃の速さに感心しながら止めの爆雷攻撃を二人で同時に放つ。
海上に投射された爆雷の爆発時の水柱が八つ突き立つと、もろに直撃を受けたらしいソ級の艤装が爆発して爆沈する音が騒音塗れのソナー越しに聞こえた。
「クリア!」
そう告げるダッジの前方で爆沈したソ級の艤装の残骸の一部が浮かび上がって来た。
「主砲撃ちー方始めー! 発砲、てぇーっ!」
号令と共に引かれた射撃トリガーの発する信号を受けた愛鷹の四一センチ主砲五門が火を噴く。
轟音を上げて砲弾が撃ち出され、砲口から砲炎を迸らせる。
主砲から撃ち出された白い徹甲弾が愛鷹の狙うリ級へと飛翔していく。
回避行動を取るリ級の間右に着弾するのをHUD越しに確認しながら次弾装填と諸元修正を行う。
後ろから青葉、衣笠、夕張、深雪、蒼月がそれぞれの目標に対して射撃する砲声が聞こえる。青葉と衣笠は共同でもう一隻のリ級を、他の三人はロ級を狙っていた。
第三三戦隊と深海棲艦艦隊六隻は反航戦で交戦を開始していた。既に蒼月の速射でロ級一隻が早々に被弾して戦列から離脱していった為、愛鷹以外のメンバーは狙う目標を絞って戦う事が出来た。
青葉と衣笠の二人から交互に射撃をリ級に浴びせて射撃の隙を与えさせない一方、青葉は衣笠にハンドサインで援護を指示してリ級へと接近する。
左足にマウントしている魚雷発射管をスタンバイして魚雷攻撃で仕留めにかかるが、青葉が戦列から離れて魚雷攻撃態勢に入ったのを見た愛鷹から戦列に戻るよう強い口調で指示された。
「戦列を維持して下さい」
「魚雷攻撃で一気にカタを付けさせてくださいよ」
「魚雷は温存です。命令です、隊列に戻って」
やらせてくれと嘆願する目で見て来る青葉に対し、反論は許さんと言う強い口調と視線を返す愛鷹に青葉は仕方なく従った。
隊列に戻る青葉を見ながら愛鷹は第三三戦隊全員に「魚雷使用は禁止」と命じる。
「え、魚雷使用禁止? なんでだ?」
怪訝な表情を浮かべて尋ねる深雪に答えないまま愛鷹は再装填が終わった主砲を撃ち放つ。
諸元修正を行い、砲口の向け先を微妙に調整した四一センチ主砲の砲口から真っ赤な砲炎が迸り、五発の徹甲弾をリ級へと送り出す。
先に着弾した水柱で愛鷹の主砲の口径とその射撃精度に気が付いていたらしいリ級が射撃に構えを解いて回避行動に入る。
無暗に動かずひたすら面舵に切って全弾を躱すリ級を見据えて、分かっているな、と愛鷹は口に出さず胸中で呟く。
当たったら一撃で轟沈してしまう砲撃を高精度で撃ち込んで来る愛鷹の攻撃は脅威だから、まず回避に専念して後続艦へ狙いが向けられない様にする時間稼ぎに専念するのが今は得策だと考えたのだろう。
リ級でもflagship級なだけに頭が切れ、判断力も早い。少し感心しながら反航戦なら距離を詰めやすい、と判断して左手を右腰の刀の柄にかける。
引き続き主砲はリ級へと再装填した砲弾を撃ち込むが、リ級はギリギリのところで全弾を回避していく。至近弾のダメージは受けている筈だが深刻な訳でもない様だ。
波が高くなって来ているのが双方の射撃に障害になっていた。波間に揺られている間に狙いが大きく上下にブレてしまい撃つタイミングを間違えると明後日の方向へと砲弾が飛んで行ってしまう。蒼月は速射による弾幕でロ級を瞬く間に大破させたとは言え、波で一撃が逸れたところを突かれて逃げられてしまっていた。
波のお陰で深海棲艦の砲撃も第三三戦隊に届かないが、至近弾の水柱は六人とも被っている。
太平洋の波とは一味違う荒れ具合に慣れないモノを感じながら愛鷹は一人、距離よし、と見たところで一人加速をかけリ級に迫った。
単に距離を詰めて必中を期するのとは動きが違う、と察したリ級が慌てて取り舵に転舵するが、愛鷹のダッシュ力と動きが速すぎた。
鞘から引き抜かれた白刃がリ級の主砲を始めとする砲熕艤装を切り裂き、瞬く間にリ級は武装を無力化される。驚愕するリ級に主砲を向けた愛鷹は何も考えないまま発砲トリガーを引いた。
「相変わらず仕事がはえーな。深雪様も負けてられないぜ」
大したもんだと言う口調で深雪がリ級を轟沈させた愛鷹を見ながら呟く。
愛鷹が刀を鞘に収めていると青葉と衣笠の集中砲撃を受けていたリ級が被弾して姿勢を崩す。しかしflagship級なだけあって打たれ強さで辛うじて大破手前まで踏み留まり、反撃の一撃を放つ。
海面に跳弾した一発が青葉の背中の艤装の艦橋部分のレーダーを一部吹き飛ばし、もう一発が直撃でやったと思い込んでいた衣笠の右手の主砲に直撃する。
二人分の悲鳴が同時に上がり、爆発音が響く。
「青葉さん、衣笠さん、被害報告」
慌てずに状況把握に努める愛鷹に二人から直ぐに被害報告が入る。
「青葉です。跳弾が対空電探に直撃。対空電探使用不能」
「衣笠です。第一主砲に直撃。主砲塔全壊使用不能」
「了解、怪我は?」
その問いに二人からは揃って「ありません」と返される。
怪我が無い事に安堵しながらも青葉は対空電探の目を潰され、衣笠は火力を一つ減じられた事に歯噛みする。
二人に被害を与えたリ級に向き直ると主砲を向け、「沈め」と呟きながら発砲する。愛鷹から向けられた巨大な砲口を目にしたリ級に恐怖の表情が浮かぶが慈悲は無かった。
二隻目のリ級が轟沈する爆発音が轟く中、残る三隻のロ級は逃げ腰になっていた。主力艦のリ級flagship級二隻を失って及び腰になったロ級が散発的な砲撃を行いながら回頭を始め、離脱を図る。
撤退するなら深追いしなくてもいいか、と撃ち方止めを出そうと思った愛鷹だが、後の事も考えておくとやはり仕留めておくのが良いだろうと考え直し、追撃を命じる。
「りょぉっかい!」
そうでなくっちゃな、と言う表情で深雪が両手の主砲から徹甲弾をロ級に叩き付け、続く蒼月と夕張も主砲から徹甲弾をロ級に浴びせる。
長一〇センチ高角砲の連射音がロ級の被弾音と重なり始め、それに夕張の一四センチ連装砲改の発砲音と着弾音、破壊音が混じる。
「無駄弾を撃たない様に」
腕を組んで三人の追い込みを見つめながら、これからあと何回敵艦隊が来るのか、と思うと流石の愛鷹も不安を隠しきれない表情になった。
程なく三人から敵艦撃沈の報告が入ると隊列の再編をかけた。
ギャラクシーに尋ねてグレイハウンド隊の状況も確認する。キーリングがソ級の思わぬ反撃で小破していたが深刻な被害では無かった。
海域から深海棲艦の反応はクリアになっていた。今の内に防空隊を収容して補給を行っておいた方がいいだろう。
発艦させていた防空隊全隊に帰還命令を出していると、ギャラクシーから別の報告が入る。
(深海棲艦艦隊を探知方位二-一-七、艦影六。ト級一、ツ級一、イ級四。船団へ向けて進行中)
(こちらヴィクトリアス。私の航空団が相手をするわ)
「相手は対空戦闘能力に優れたト級とツ級ですよ、大丈夫ですか?」
(心配ご無用。そう言う手強い奴らになれている航空妖精ばかりだから)
言葉通り心配するな、と言う口調で告げるヴィクトリアスにお言葉に甘えるか、と決めた愛鷹はヴィクトリアスに深海棲艦艦隊への攻撃を依頼し、自分達は一旦ほんの小休止を挟む事にした。
ベルゲンを出港して大分経つ。栄養補給と水分補給をしておかないと先が持たない。
グレイハウンド隊にも少し小休止すると通知を入れてから第三三戦隊全員で作戦前に支給された新メニューのレーションと、エマージェンシーウォーターレーションと言うパック水を飲む。
タブレットを発作が起きる前に数錠口に入れて、パック水で流し込む。封を切ったパック水は薬品臭が酷く恐ろしく不味い水だった。
飲み干した水の口に残る不味さに流石の愛鷹ももろに表情を歪ませた。どうして軍用のレーション系と言うのはこうも不味いモノが多いのだろうか。
空腹から安易に携行食糧を消費させないために敢えて軍用レーションは不味く味付けしていると聞くが、せめて水くらい何とかならなかったものかと溜息が出た。
「なにこれまっず!」
自分と同じ感想を吐く夕張がパック水のレトルトパックを手に表情をぐにゃりと歪ませる。
他のメンバーも美味しいとは言えないレーションのゼリーとそれに輪をかけた不味さの水に表情が晴れない。一応ゼリーは少し甘いのが幸いであった。
口に残る不味い味に愛鷹が渋い表情を浮かべていると、ヴィクトリアスから敵艦隊撃滅の報が入った。
低高度からの進入で敵の防空探知網を掻い潜り、あっさりと対空砲火を潜り抜けて爆弾と魚雷を叩き付けて殲滅してしまったらしい。
被弾機二機以外撃墜機も無かった。彼女の高い練度の航空団が見せる鮮やかな仕事ぶりだった。
仕事が早くで何より、とゼリーを飲み下しながら出撃後初めて満足げな表情を愛鷹は浮かべた。
美味しくない食事を終えた第三三戦隊が戦列に復帰するまでに新たな深海棲艦が押し寄せる事は無く、その後交戦を経験することの無いまま北の国の夜を迎え、片道二日の航程の一日目が過ぎた。
何事も無いのは良いが、静かすぎるのも逆に不気味だ。
そう思いながらキース島までの行く道を航行する愛鷹は定期的にギャラクシーやアオバンド隊などと密接に連絡を取り合い、警戒態勢を強めた。
ここに味方は自分達しかいないと思へ、その思いでやる愛鷹に青葉が気を張り過ぎ、とフォローする。
フォローされても神経質気味になる愛鷹には慰めにならなかったが、彼女の思惑に反して深海棲艦が襲撃して来る事はそれっきりなく、潜水艦ソ級一隻がグレイハウンド隊の手で探知されて撃沈する一幕があった以外、結局何も起きないまま船団は二日目の夕方キース島の港に入港した。
「……酷い……」
廃墟と化した街並みが並ぶキース島の街並みを見て愛鷹は悲し気に呟いた。
「ズムウォルト」の艦内にあった旅行本では綺麗な街並みが並ぶキース島の風景は、瓦礫と廃墟に変わり果てていた。
キース島に到着した第三三戦隊とグレイハウンド隊は「ズムウォルト」に引き上げて二四時間の休憩を挟む事となった。
その間に港の埠頭に接舷した「オーシャン・ホライゾン」は民間人と負傷兵の搬入作業に取り掛かった。
港の埠頭で廃墟となったキース島の港町を愛鷹が見つめていると、「オーシャン・ホライゾン」からあまり聞きなれないディーゼルエンジンと誘導員のホイッスルが聞こえた。
「オーシャン・ホライゾン」にはキース島への増派部隊が載せられているとレイノルズが言っていたからその部隊だろうか。
視線を向けて見るとK9自走砲とK10弾薬運搬車、軍用トラックが埠頭に「オーシャン・ホライゾン」の車輛ランプから搬出、揚陸されていた。
背後から聞き覚えのある特徴的な足音が聞こえ、「愛鷹さん」と自分を呼ぶ衣笠の声がする。
首を軽く向けると青葉と衣笠が並んで自分の後ろにいた。青葉はカメラを持っているあたりキース島の写真撮影に出向いていたのだろう。
行動が早い青葉さんだ、と思いながら一緒にいる衣笠は差し当たり青葉が我を忘れてカメラを持って暴走しないのを見張る為、と言ったところだろうか。
何か用か、と自分から聞こうとした時衣笠が先に口を開いた。
「晩御飯ですよ。今日はカレーですよ」
「衣笠さんの好きなご飯ですね」
「はい。ところで何を見てるんですか?」
そう尋ねる衣笠に愛鷹は無言で揚陸作業が進むK9自走砲部隊を指さす。
「あれって、自走砲ですか?」
「ええ。海兵隊のK9自走砲ですよ」
「K9って韓国の自走砲ですよね? 韓国方面軍も派遣されているんですかね」
「と、言うよりは韓国が昔フィンランド軍に輸出したモノでしょうね。車体にフィンランドの国旗が見えます」
車体にかかれているフィンランドの国旗を、自分を遥かに上回る視力で見つけた愛鷹の目に衣笠は驚嘆した。
フィンランド方面軍の海兵隊の砲兵隊が増援部隊として送り込まれて来た、と言うところだろうか。確かス級の砲撃でキース島の砲兵隊は壊滅していたからそれを補う為だろう。
搬出されてくるK9自走砲とK10弾薬運搬車はそれぞれ一〇両。砲兵中隊は榴弾砲が五門配備されているからつまり二個中隊分だ。
「フィンランド方面軍、まあ実質フィンランド陸軍か、その自走砲部隊がキース島の増援部隊ですか」
「ス級の砲撃でキース島に配備されていたドイツ方面軍の砲兵隊が壊滅しちゃったからね。」
さらっと興味深そうに自走砲部隊を見る妹に青葉が背景を含めた解説を簡単にする。
解説する青葉に顔を向けた愛鷹はカメラと青葉を交互に見ながら尋ねた。
「いい写真は撮れましたか?」
「NOです。キース島はどこもかしこも廃墟の山です。ス級の艦砲射撃の被害は思っていたよりも甚大の様です。市民病院も破壊されて、軍の野戦病院が代わりをやっています」
早速入手して来たらしいキース島の被害状況を教えてくれる青葉に愛鷹は腕を組んで聞く。
「市民の被害は?」
「残留民間人の内死者は三七人、行方不明者はまだ三人いるそうです。負傷者は一〇五人。民間地も無差別に攻撃されたらしく、バンカーへの避難が遅れた民間人に被害が出ていました」
「三人の行方不明者は……望みはあるんでしょうかね」
「正直厳しいです」
はっきりと告げる青葉に愛鷹は深い溜息を返した。
首を垂れる愛鷹に今度は青葉が尋ねる。
「それにしても、何でフィンランド方面軍の自走砲部隊を派遣して来るんでしょうかね。ノルウェー方面軍の方が地理的に近いのに。それかドイツ方面軍から増援部隊を送るのが普通な気がしますけど」
「ドイツ方面軍はイタリア方面へ派遣軍を送っていて余裕はありませんし、ノルウェー方面軍は深海棲艦の自国領への侵攻作戦への防戦で余裕がありませんからね。
フィンランド方面軍は自国に侵攻を受けていない分、地上部隊戦力に余裕があるのでノルウェー方面軍への地上部隊増援はスウェーデン方面軍に任せているのでしょう。他の国々も余裕がないので」
「ノルウェー方面軍の艦隊は……艦娘っていましたっけ?」
そう尋ねる衣笠に愛鷹は組んでいた腕を解いて片手を顎に当てて首を軽く捻り、仕舞い込んでいた脳内の情報を思い出す。
「確か……ああ、欧州総軍スカンジナビア統合艦隊に小規模ながら艦娘艦隊を保有していますね。スカンジナビア半島の三国の艦娘全部を合わせても規模が小さくて沿岸防衛がやっとです」
「スカンジナビア半島の方面軍も艦娘を持っているんですか」
初耳だ、と言う顔の衣笠を見ながらチラッと青葉の方も見る。案の定と言うか青葉はそうでもないと言う表情をしている辺り、やはり情報通な青葉はスカンジナビア統合艦隊の艦娘も知っているのだろう。
「青葉さん、問題です。スカンジナビア統合艦隊旗艦の艦娘の名前は?」
「え、あ、えーっと、スウェーデン艦隊の海防戦艦スヴァリイェ……だった筈。去年の艦娘艦隊人事録情報のなので代わっているかもですが」
「惜しいですね。今年の春からはフィンランド艦隊の海防戦艦イルマリネンが務めています」
「良く知ってますね」
流石だと言う顔で衣笠が褒める。
まあ、会った事も無いんだけど、と胸中で付け加えながら愛鷹は葉巻を出して口に咥えた。
「あの、聞くのもあれかも知れませんけど、肺がんとかの心配は無いんですか?」
案じる表情で聞いて来る青葉に、ジッポで火を点けかけていた愛鷹は手を止めると、素っ気なく答える。
「肺がんになる前に寿命が来ますよ」
それだけ答えるとジッポで葉先に火をつけて、愛鷹は喫煙の煙を燻らせた。
煙を吹きながら葉巻を片手に二人に向き直る。
「二人とも休める時に休んで置いて下さいね。お二人は私とワシントンさんに次いで砲撃戦火力に優れますから。巡洋艦相手には欠かせません。
青葉さんはその雷撃戦能力がス級を仕留めるかもしれない可能性を秘めている。温存して置いて下さい」
「だから昨日魚雷はダメ、って言ったんですね。了解です。デカ物相手に取っておきますね」
「青葉って雷撃戦上手いの?」
そう尋ねて来る衣笠に青葉は少しむくれ面をして返す。
「青葉の魚雷発射管はお飾りじゃないんだよ。ちゃーんと訓練を重ねに重ねてるからね」
自慢げに言う青葉を脇から見て、頼もしい限りだと愛鷹は思った。
青葉、夕張、深雪、何かあった時この三人の雷撃戦能力がカギになるかもしれない。そう考えながら愛鷹は葉巻を口に咥えて煙を吸った。
吸い過ぎて軽く咳が出た。咳が出る程吸うのは今まで経験した事が無かったが。
青葉の指摘通り肺がんの可能性も全くないとは言い切れない。肺がんを発症する前に自分は寿命を迎えそうな気がするが、必ずしもそうとは言い切れない。
「……歳かな」
二人に聞こえない小さな声で愛鷹は込み上げて来た本音を漏らした。
今作におけるネタには航空関連でエースコンバットを盛り込んでいますが、愛鷹のAEWギャラクシー、ヒットマン隊のネーミングはプロジェクト・ウィングマンのAWACSギャラクシーと主人公部隊ヒットマン隊から取っています。
キーリングとダッジの二人でソ級と戦うシーンは映画「グレイハウンド」のワンシーンを基にして描いています。
今作の世界観は西暦2048年の世界ですが、五二話劇中の「韓国方面軍」のワードの通り一応まだ朝鮮半島は南北に分れた状態と言う扱いになっています。
(K9自走砲は現実でもフィンランド、ノルウェーなどに輸出されている装甲車輛です)
次回からはベルゲンへ戻る船団護衛に当たる愛鷹達第三三戦隊とグレイハウンド隊と深海棲艦との戦いがメインになる予定です。
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ではまた次回のお話でお会いしましょう。