艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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いよいよ、第三三戦隊の実戦が始まります。
偵察が主任務の部隊ですが、果たしてどのような展開になるかは読んでご確認を。


第六話 初陣 沖ノ鳥島海域偵察作戦 前編

葬送曲が演奏される中、墓地にエクセターの亡骸を収めた棺が埋葬された。

英国国旗がかけられた棺が墓穴に降ろされる間、咽び泣く声が英国、日本艦隊問わず漏れる。

パールマン中将と牧師、ユリシーズら英国艦隊の面々、武本、陸奥など少数の日本艦娘らが葬儀に出席し、遠い異国の地で命を落とした少女の墓前で冥福を祈った。

「捧げー筒、てぇーっ!」

敬礼を送る出席者の近くで、号令が発せられると六四式小銃の弔銃の銃声が三回響いた。

「これで、何人目だろうな……」

「英国艦隊に限れば七人目になります」

ぽつりとつぶやいた武本に陸奥が返した。

英国艦隊に限れば……。

武本は墓地に立つ白い十字架を見たがとてもすべてを数える気分にはなれなかった。

 

ここに埋葬された海外の艦娘は英国やアメリカ、オーストラリアなどの他にドイツやフランスなどの国もある。

戦死だけでなく病死した艦娘もここに埋葬されている。

日本艦隊統合基地から少し離れた丘に作られた軍の墓地には深海棲艦との戦いで戦死した海軍兵士、旧自衛隊、そして艦娘の共同墓地が立てられている。

開戦後一万人近い将兵がこの地に埋葬された。

武本がかつて海上自衛隊が国連軍に編入されて間もないころに乗り込み、撃沈されたミサイル護衛艦「あきつかぜ」の仲間もここに眠っている。

葬儀が終わった後、基地の司令官室に帰った武本は父島の鮎島大佐から第三三戦隊が作戦行動に入ったことを伝えられた。

「了解しました。健闘を祈りましょう」

(愛鷹くんの技量次第ですが、私は成功する方に賭けさせてもらいますよ)

「私もです。

ところであれは……見せたのですか?」

(は、愛鷹くんには見せました……)

「……分かりました。六人を頼みます」

(承知しました)

鮎島との通信を終えた武本は「生きて帰って来いよ……」と呟いた時、誰かが部屋のドアをノックした。

「入れ」

「失礼します」

部屋に入って来た人物を見て武本は少し意外な気持ちにはなったが、あまり表情を変えずに「彼女も戦いに身を投じたよ」と語った。

相手は「そうですか」とだけ答え、少し心配そうな表情を浮かべた。

武本が「心配なのか?」と問いかけたが、相手は答えなかった。

そしてそのまま無言で武本の部屋を出ていった。

 

 

彩雲六機が発艦し、偵察に出撃したと瑞鳳が暗号通信で知らせて来た。

了解と返した愛鷹は蒼月と夕張と共に自身が見当を付けている海域の一つへと進出していた。

愛鷹がとった偵察方法は自身と夕張、蒼月の分艦隊による水上偵察と、瑞鳳と青葉、深雪の三人の分艦隊による後方からの航空偵察だった。

敵に位置を教える訳にはいかないので、電探ではなく逆探を主に使用し、ソナーもパッシブモードだ。

また暗号通信も通信が発信されたことで深海棲艦に位置を特定されるのは拙い為、無線封鎖に努め緊急時の連絡手段は瑞鳳の彩雲と愛鷹の瑞雲にて行う事とした。

分散行動は戦力低下になるのであまり得策とは言えないが、第三三戦隊の任務は交戦ではなく偵察だ。

六人で広い沖ノ鳥島海域を偵察するには分艦隊に別れての偵察が効率よく出来ると愛鷹は判断した。

それに交戦目的で行動するわけでない。

ただ万が一に備えてあらかじめ海域の複数個所に集結ポイントを設定しておき、何かあれば伝書鳩役の彩雲と瑞雲で連絡を入れて、すぐにそこへ合流することにしていた。

何かあった時のための伝書鳩役に瑞鳳は彩雲を、愛鷹は搭載する瑞雲にて連絡を行うこととした。

三人の艤装、肩、頭の上には妖精さんが双眼鏡を持って監視している。

事前に見当を付けた場所はいずれも海底火山によって陸地が確認された場所だ。

どれも無人島で深海棲艦との戦いが始まって以降はどのような状態なのかは全く分かっていない。

火山活動がまだ続いているのか、陸地面性がさらに広がっているのかさえ不明だ。

規模が大きければ敵は大規模泊地として作り替えやすくなっているはずだ。

愛鷹の作戦計画では火山活動がまだ続いていると思われる場所には航空偵察、すでに止まっていると踏んだ場所には水上偵察を振り向けた。

火山活動が続いているとしたら有毒ガスが噴出している可能性もあるし、深海棲艦が進出している可能性がやや低くなる。

止まっているとしたら観測された時よりは陸地面積も広がっており、泊地としての規模は大きいだろう。

対空防御網も強化されているはずだ。

そうだとしたらいくら高速の彩雲でも撃墜される可能性がある。

航空偵察、水上偵察の対象はそれぞれ五箇所だ。

 

「まもなく、見当をつけた一箇所目の島周辺の海域に着きます」

海図を見ていた愛鷹が言った。

「今のところ、何もないわね。

ソナーには反応なし。

蒼月ちゃんの目には何か見える?」

夕張に尋ねられた蒼月は首を横に振る。

島の方へと双眼鏡を向ける。

「火山の煙はやはり見えないか……天気も異常なし」

「前に聞いた話では敵は泊地を形成すると周辺の気象条件がおかしくなるはずだって聞きました。

でも異常が見えないってことは……」

首を傾げる蒼月の言う事は確かだ。

 

深海棲艦の泊地などの重要拠点は何かしらの異常気象が起きていることが分かっている。

その多くは晴天が訪れず、分厚い雲に覆われていることが多い。

以前鉄底海峡海戦と呼ばれた戦いが起きる少し前には、周辺の海が赤く変色するだけでなく海洋生物が軒並み死滅し、艦娘の艤装が原因不明のまま破壊されてしまう「変色海域」と言う物が観測されている。

「変色海域」の詳しい事は閲覧データのアクセス制限がかかっており、関係者には箝口令が敷かれており判然としていない。

「変色海域」に似た異様な現象の様なものに「精神汚染海域」と言う物がある。

これは特定の艦娘のみに起きるものでその海域に入った艦娘の精神が突然おかしくなり一時的、長期間の作戦行動が出来なくなる。

主な事例として発狂や一時的な鬱状態、強い罪悪感、克服したはずのPTSD(心的外傷後ストレス障害)の再発、更には突然の難病発症まで確認されている。

「精神汚染海域」での例として第三一駆逐隊の朝霜が沖縄方面へと航行中に突如発狂し始めたため、艦隊を緊急寄港させて精神病院で検査を受けた事。

第七駆逐隊の曙が船団護衛後に一時的な抑鬱状態になり戦線離脱を余儀なくされる。

北米艦隊の空母ワスプが南太平洋を航行中に熱病を発症し、同行していた駆逐艦ハムマン、戦艦ノースカロライナも激しい頭痛やめまいに襲われる。

重巡プリンツ・オイゲンがマーシャル諸島海域で幻覚を見た後、白血病を発症するなどだ。

いずれの例も適切な治療のお陰で大事には至っていない。

今のところこの海域では何の異常は見られない。

愛鷹のソナーでも海洋生物の泳ぐ水切り音も確認できた。

ただ、過去のデータだけをもとに行動する気は愛鷹にはなかった。

自分の目で確認するまでは判断することはしない。

 

「目で確認するまでは白とは判別しません。

機関第一戦速、増速黒」

「了解」

三人が島の方へと加速する。

逆探は敵のレーダー波をまだ検出しない。

通信の傍受もない。

「島から距離一〇キロ維持したまま一周します。

対潜対空対水上警戒は引き続き厳に。

浅瀬が近くに複数存在しますので機雷にも警戒を」

最近の深海棲艦は浅瀬に機雷を敷設するようになったので厄介さが増えた。

水上部隊による重要地襲撃に前には駆逐艦らによる前路警戒が欠かせない。

十数分後、島が見えると三人は一〇キロまで接近してからその周りを一周した。

火山活動は落ち着いている様で、草が生えているのが見えた。

地形の起伏は緩めだが数か所で白煙が細いながら出ている。

双眼鏡で確認すると怪しいところは無い。

偽装している形跡も確認できない。

何より気配が全くなかった。

白とみて問題はなさそうが念の為、島を一周して確認する。

結局何もなかった。

愛鷹は海図を出して最初の島のところに×印を書き込む。

「次に展開します」

 

 

瑞鳳の彩雲四機もなにも掴んでいない。

「……了解、引き続きお願い。

今のところは何もないみたいね」

ヘッドセットから送られてくる報告を聞いた瑞鳳が二人に告げる。

それを聞いた深雪は「うーん」とうなって頭の後ろに手を組んだ。

「火山ガスは検知されねーの? 風を考えたら分かりそうな気がするけど?」

「ガスが出ていなけりゃ検知は出来ないわよ」

「まあ、そうなるな」

「愛鷹さんの方でもなにも掴んでないみたいですね」

通信が入らなければ、手掛かりはまだないと言う意味だと愛鷹に言われた青葉が言う。

「まあいきなりヒット、ってのはそう起きるものじゃないよな……」

それでもなんだか暇だぜと言いたげな深雪が欠伸を漏らした直後、彼女の目に何かが映った。

「……一七六度、距離二〇〇〇。海面になんかあるぞ」

「潜望鏡ですか? 瑞鳳さん回避運動用意」

「うーん、あれは……砲塔じゃない?」

「え?」

二人が少し間抜けた声を上げる。

砲塔なんてものがなんでこんな海を? そう三人が疑問に思った時、青葉の頭にある可能性が浮かんだ。

消息を絶った第九二・五任務部隊……。

彼女たちが襲われた海域はこのあたりだから、その漂流物の可能性がある。

「……もしかして、行方不明の方たちのものでは?」

それに瑞鳳と深雪が「あ」と声を上げた。

「そうかも。回収しとく?」

「……確認してからにしときましょう」

三人は漂流物を確認するために移動した。

するといきなり先頭を進む青葉が後ろの二人に止まれと合図をすると、自分だけ漂流物に向かった。

「青葉、あんたには対潜装備がないだろ、あぶねーよ」

深雪が静止の声を上げるが青葉はそのまま先行し、漂流物に近づいた。

すると、二人のヘッドセットに青葉の呻く声が聞こえた。

「青葉?」

「どした青葉?」

(だ、大丈夫です。ただお二人は見ない方が……いいと思いますよ。

砲塔とか……主機が確認できます。ば、番号は……)

咽込みながら返す青葉の口調から察する事の出来る漂流物の状態は、見るに堪えないものであることは明らかだ。

(CA26、ノーザンプトンですね……遺体の回収は無理です。

遺品になりそうなものを回収して、手動で艤装の自沈システムを作動させます)

「……大丈夫なのかい青葉」

心配そうに深雪が尋ねたが青葉は答えなかった。

 

程なくノーザンプトンの亡骸は自沈システム(自爆装置)が作動した艤装と共に、海底深くへと沈んでいった。

遺体の様子をカメラに収めた青葉だったが、瑞鳳と深雪にその画像は見せなかった。

ノーザンプトンの制服のスカーフ(焦げて赤い染みが滲んでいた)が彼女の遺品だった。

「遺品かあ……」

「マイノットになんて言えばいいんだか」

遺品を持って帰ることになり落胆した声を上げる二人に青葉は返す言葉がない。

「まだ、五人の行方は不明ですから。探しましょう」

「……まあ、まずは敵の情報収集ね」

「だな」

二人が頷く。

と、青葉と深雪の足裏のソナーから微弱な推進音が聞こえ、二人は身を固くした。

二人の表情の変化に気が付いた瑞鳳は無言で回避行動準備に入る。

「推進音は……カ級じゃない、ヨ級か……いやヨ級改二?」

深雪が聴音モードにしたヘッドセットに耳を当てて呟く。

「対潜哨戒機からは何も言ってないわよ……」

「潮流に乗せてドンブラして来たか……?」

「変温層(海中内で温度が異なるところ。潜水艦がソナー探知から逃れる際には重宝する)に隠れてたとか……」

二人が話している中、青葉が「違いますねえ」と小さく言った。

「……カ級の……機雷敷設型です。

雷撃能力は低めですが、機雷敷設による奇襲攻撃が得意な潜水艦。

ソロモンで随分やられました」

「機雷敷設型? まさか、な……」

引き攣った笑みを浮かべた深雪だが、青葉の顔は真剣そのものだった。

普段は見られない「ソロモンの狼」と呼ばれている時の顔だ。

「まさか、私たちの周りに機雷が敷設されているかもしれないって?」

「いや、この辺りの深度は深いから機雷を敷設するには向いてない。

可能性としたら……潮流に乗せてここへ……」

「二人とも海面の機雷に警戒!」

いつになく鋭い声を発した青葉に瑞鳳と深雪は「了解!」と返した。

 

今ここで魚雷攻撃を受けて、下手に回避運動をしたら触雷してしまう……。

青葉の脳裏にソロモンでの苦い経験が蘇る。

ラエへの輸送船団護衛中に輸送船二隻が機雷に接触して大破し、混乱した船団と護衛部隊が回避行動をとった際に村雨と夏雲が雷撃を受けた。

幸い村雨は咄嗟の機転(主砲で海面を撃って軌道を少しずらし、爆発時に主機兼ローファーを丸ごと防御に使う荒業)と運で航行不能程度に済んだが、夏雲は直撃を受けて即死した。

さらに大破した輸送船二隻もとどめを刺されるだけでなく、三隻がさらに攻撃を受けて一隻が中破、二隻は自沈処分にされた。

この時の護衛部隊指揮官が青葉だった。

輸送船団を送り届けた後、前線基地の提督から輸送船四隻喪失の責任を糾弾されるだけでなく、第六戦隊旗艦解任、営倉入り一週間まで言い渡された(幸い当時の日本艦隊司令官の配慮で営倉入りだけ免除された)。

あの時の攻撃方法と今の自分たちの状況はよく似ている。あの時と同じ敵がいるのだろうか。

 

「瑞鳳、対潜哨戒機は?」

「今呼び戻してる」

「迂闊には動けねえぞ。ちっ……」

「愛鷹さんたちに知らせるべきかしら」

「いえ、敵はもしかしたらどこかで通信傍受をしているかもしれません。

今はやり過ごしましょう」

「了解」

瑞鳳が頷いたその時だった。

「くそぉ、来たぞ! 

雷跡六、方位二一二に視認! 的針二四、敵速推定四五ノット。

続いて第二波、同じく雷跡は六、同方位からだ! 

散界斉射来るぞ! 回避、回避!」

「弾数六発が二回⁉ ヨ級機雷敷設型にできる攻撃能力じゃありません! 

潜水艦がさらに二隻は最低でもいます! 

二人とも散開、青葉がアクティブピン(アクティブソナーの単振音)を打ちますから深雪さんは対潜戦闘、爆雷戦準備」

「アクティブピンを打つ⁉ 位置を特定されるわよ!?」

「でも、パッシブで探すよりは手っ取り早い。

オーケー、魚雷をやり過ごしたら打ってくれ!」

三人が深雪の警告した方位から来た魚雷をかわすべく、回避運動に入る。

六本の雷跡は角度からして一隻から放たれたとみて間違いない。

それが二回だからヨ級かカ級が二隻は最低いるはずだ。

恐らく対水上攻撃力の低い機雷敷設型の護衛だろう。

幸い、深雪の警告が速かったのと距離が少しあったおかげで三人の足に魚雷が当たることは無かった。

ただ回避行動を行った結果、海中内の聴音が少し難しくなった。

しかし青葉がアクティブピンを打つと二隻の潜水艦が見つかった。

「いたぜ、深度三二、やべえな反応は四隻。こいつはヨ級だ。爆雷投射!

ソナーミュートしとけ、鼓膜が破れるぞ!」

深雪が深度調節をした爆雷を数個潜水艦ヨ級のいる方へと放る。

やがて海面が複数個所で白くなったかと思うと、炸裂した爆雷の爆圧から来た水柱が海面に突き出した。

深雪はさらに追加で二回爆雷を投射する。

海中で鈍い音が何度も響き、その直後に水柱が海面と海中を攪拌しながら白い水柱をいくつも突き立てた。

海中内の聴音はこれでほぼ不可能。

しかし、それは敵にとっても同じことだ。

そこへ対潜哨戒任務に就く彩雲が到着し、すぐさま瑞鳳の指示で機上の磁気探知機(MAD)でヨ級の位置を探した。

 

「シャーク4-6、MADにてヨ級を確認! 

一つ反応が無いわ、残りに爆雷を投下。やっちゃって」

「瑞鳳さん、シャーク4-6の探知した敵潜の位置情報を深雪さんに」

「了解」

直ぐに彩雲からMADで探知した敵潜水艦の位置が深雪に伝達された。

「よーし、サンキューな」

「調子に乗り過ぎて機雷に触雷しない様に」

潜水艦攻撃に向かう深雪に青葉の忠告が飛ぶ。

「逃がさないぞ、喰らえー!」

爆雷が海面に投げ込まれ、また海中内でくぐもった爆発音が轟く。

「破壊音二確認、潜水艦二隻撃沈確実ですね。

一隻は手負いのようです。離脱していきます」

「やったあ」

「よーし」

青葉の言葉に瑞鳳と深雪が笑みを浮かべる。

ふと青葉の目に深雪の近くにいくつかの影が見えた。

泡の様なものがぷかぷかと浮かんでおり深雪の方へと漂っていく。

何かと思って目を凝らして青葉はぎょっとした。

「深雪さん、機雷です!」

そう叫びながら青葉は自分の第一、第二の二〇・三センチ連装主砲を構えると深雪の近くの海面に狙いを定めて発砲した。

警告を聞いた深雪が急加速で離脱した直後に、砲弾が機雷の漂う海面に突っ込んで遅延信管を起爆させると機雷が誘爆を起こし大きな水柱が海面に噴出した。

「うわっぶ⁉」

水柱の海水をもろに浴びた深雪が水圧に負けて吹っ飛ぶ。

水柱の海水が青葉や瑞鳳にも降り注いだ。

「おい、一体どういう爆薬を仕込んでいるんだよ!? 

無駄に威力が強すぎるだろ」

びしょ濡れになり、咽込みながらも深雪が機雷の爆発力に驚く。

「皆さんご無事で?」

「あたしは無事だよ。

手も足もくっついてる」

「びちょびちょだけど私も無事」

それは良かった、と青葉が溜息を吐きかけた時、魚雷の航跡が見えた。

数は二本。

機雷敷設型の放ったものか。

瑞鳳に突っ込んでいく。

魚雷に気が付いた深雪がぎょっとした顔で叫んだ。

「瑞鳳、左だ! 魚雷二発! 回避しろ!」

「だめ、間に合わない!」

見かけによらず機動性が高くない瑞鳳には躱すには難しい距離だった。

青葉は主砲砲撃で軌道をずらそうかと考えたが、距離が近すぎて砲撃で逆に瑞鳳を傷つけかねない。

瑞鳳の首根っこを掴んで強引に引っ張って躱すか。

いや艤装を付けると艦娘は重量が大幅に重くなるから青葉の腕力では瑞鳳を強引に引っ張るのは難しい。

いきなり瑞鳳さんが? と思った時上空直掩の烈風改二機が戻って来たかと思うと「デンジャークロース(至近弾警報)」を発して魚雷に向かって機銃掃射を開始した。

魚雷一発が掃射で爆発するが、もう一発が中々仕留められない。

二機の烈風改の機銃は射撃を続けるが、撃破できない。

そして瑞鳳を誤射しかねない距離になった時、烈風改が魚雷に向けて急降下した。

やめろ! と制止の声を三人が発する前に、腹を決めた妖精さんの操縦する烈風改が海面に突っ込んで魚雷と衝突した。

烈風改の体当たりで魚雷は爆発したが、瑞鳳に被害が及ぶことは無かった。

しかしコックピットから妖精さんが脱出した形跡はなかった。

「あっぶなかった。瑞鳳大丈夫?」

「うん。烈風改のお陰で助かった。

パイロットは……残念……」

肩を落とす瑞鳳に駆け付けた深雪が、慰めるようにその肩に手を置く。

青葉も痛まれない気分になったがソナーの拾った音を聞いて舌打ちした。

「……おい、青葉。まさか……」

「ええ、まだいるみたいですね……」

「増援?」

「そのようですよ……。

大仕事になりそうですね」

 

 

見当をつけた島の三か所目が空振りになり、四か所目に移った時愛鷹の逆探が反応を示した。

「逆探に感あり。反応は微弱」

「お出迎えかしら?」

「対空、水上どちらですか、愛鷹さん?」

蒼月の問いに愛鷹は首から下げているペンダント型端末の機能を切り替えた。

 

艦娘がペンダントの様に首から下げるように使う端末は羅針盤表示しかできないが、愛鷹のはレーダー、ソナー、逆探の反応を表示できるようにした最新版だ。

逆探の反応は微弱なので断定はできないが水上とみられた。

 

「波長は深海棲艦のモノと思います。

はっきりとは言えませんが水上電探かもしれません。

陸上のレーダーサイトの可能性もありますが」

「島まではあと三〇キロ。あり得るわね」

 

人類側、新海側同じく電探(レーダー)は水上艦搭載型、陸上設置型、航空機搭載型とバリエーションがある。

最近の深海棲艦は拠点防衛に電探基地(レーダーサイト)を設置して早期警戒網を構築することが多くなっていた。

島が近いとなると、四か所目の島に深海棲艦の拠点があるのか。

だが哨戒中のピケット艦の可能性もある。

いずれにしろ敵が近くにいると見ていい。

 

「合戦準備配置発令。増速黒、第三戦速へ」

夕張と蒼月の二人が了解、と返す。

艤装からエンジンテレグラフの変更音が鳴り、主機が前進強速から一気に第三戦速へと加速した。

逆探反応の方向を見極めながら進む。

接近しすぎるとこちらの存在が相手にはっきりと分かってしまうし、距離があると特定しにくい。

「警戒を厳に。

何か見えたらすぐに言ってください」

再び二人が了解と返してくる。

逆探の反応が増えた。

表示機の波長から深海棲艦のモノの可能性が高い。

反応の度合いから水上艦搭載型でピケット艦並のやや低出力タイプ。

「敵が警戒網を敷いているみたいです。

逆探反応からピケット艦かもしれません」

「てことは敵の拠点が近くにあると言う事ね」

「ええ。仲間が他の海域に展開しているかもしれません。

取り舵三〇度、新針路〇-八-九。

距離をとって他のピケット艦がいるかを確認します」

 

三人が針路を変更してから一時間程して、別の対水上電探が出た。

「敵の警戒網がこの辺りにあると言う事は判明しましたね」

「ってことはこの島になんですか?」

緊張した表情で蒼月が聞いて来るが、愛鷹はすぐには答えなかった。

まだ確認された反応は二つだ。

判断するには情報が全く足りない。

「この島周辺の探りを入れます。

ピケット艦の展開状況を確認し、五箇所目の確認に移ります。

後で青葉さん達と合流して航空偵察状況と照らし合わせたうえで、捜索対象の絞り込みを行います。

青葉さんとの再会合は一七:〇〇頃ですからそれまで情報を可能な限り探しましょう」

「分かったわ」

「分かりました」

 

それからまた一時間ほどしてピケット艦らしい反応を愛鷹の逆探が探知する。

一隻目、二隻目の位置からすると島には北、東、南に展開しているようだ。

と言う事は島の西側にもピケット艦がいる可能性がある。

ピケット艦の配置を逆探していく愛鷹の艤装の活躍を見る夕張と蒼月は驚かされる事ばかりだ。

特に自分の艤装にはないその高性能に夕張は感心すると同時にどのようなメカニズムなのか、急に興味が湧いてきた。

メカニズムを知れば今の自分の艤装の強化だけでなく、明石と共に希望があれば行う艦娘の艤装の小規模改修時の参考にすることも可能だ。

実質愛鷹の艤装性能のフィードバックのような形だ。

技術的課題さえクリアできれば自分にはできる自信があった。

その為にも自分がしっかりサポートしておかねば、と夕張は気を引き締める。

 

島の西側に向かうと、やはりピケット艦が展開しており東西南北を護るようにピケット艦が配置されていることが分かったが、愛鷹はある疑問が浮かんだ。

ピケット艦が守っているとしたら、この島は黒に近いがそれなら何故羅針盤障害が起きないのか?

配置からすればこの島の警備警戒についていると見ていい。

深海棲艦にはピケット艦を配置して護る、隠すための何かが島にあるはずだ。

だが隠すか護るのなら羅針盤障害で侵入してくるだろう艦娘の目つぶしをして来てもいい気がする。

それをしていないのが腑に落ちない。

あえて羅針盤障害を起こさず重要地でないと誤魔化しているのか。

今の段階ではまだ何もいないのが愛鷹の感想だった。

島の周囲を航行中愛鷹のソナーに時々機雷の反応が出たのも気になる所だった。

ピケット艦配置に加え機雷の敷設状況にも探りを入れる。

機雷を敷設すると言う事は島への接近を阻むことは明らかだ。

探れば人類側と同じく浅瀬付近に敷設している。

機雷の敷設場所がいくつか不自然に途切れているのは敷設途中の形跡なのかもしれない。

機雷の敷設場所を考えると重要地としては日が浅い可能性があった。

勿論断定するには情報が足りない。

まだ何とも言えないが、手掛かりはつかめた。

 

五箇所目に移る為三人は南へと針路を変えた。

「夕張さん、四箇所目の怪しさってどれくらいでしょうか?」

「六、七割くらいじゃないかしら。

最近の深海棲艦は意外と手の込んだ偽装をやるようにもなって来てはいるから、私にはまだはっきりとは分からないな」

「はあ……」

「五箇所目で何か見つかるかで状況が変わるでしょう。

四箇所目をデコイとして五箇所目が本丸と言う可能性もありま……」

そこまで言いかけて愛鷹は靴型ソナーが潜水艦の推進音を捉えたのを聞いた。

「注意、潜水艦推進音探知。

対潜警戒厳に。減速赤、機関前進強速へ」

「来たわね」

「……」

 

潜水艦の展開は想定済みだったから驚きはなかったが、心配なのはこの潜水艦がこの海域にいる本隊に連絡して迎撃部隊を展開しないかだ。

こちらは六隻しかいない。

やはり分散は拙かったか? と考えながら聴音を続ける。

潜水艦は恐らくヨ級改。

低速で航行中だ。

「たまたま通りかかった潜水艦なのか、ここを防衛している艦なのか」

聴音中の夕張が呟く。

「こちらに気が付いているかもしれませんし、気が付いていないかもしれませんが……」

ヨ級の航行速度、深度は変わらない。

海中から何らかの方法で通信を行っている形跡も三人が知っている限りでは確認できない。

向こうもこちらの出方を窺っているのか、それとも気が付いていないのか。

少し睨めっこのような状態になる。

 

そこで愛鷹は簡単なフェイントをかける事にした。

機関前進微速へとゆっくり減速しながら、潜水艦から離れる針路をとって離脱したかのように装ったのだ。

簡単なフェイントに見えて実際に行う事は簡単ではないから慎重に行う必要があった。

針路を変更し、微速から再微速へとこちらの推進音を低くさせていく。

しゃべる事すら躊躇われる程静かに。

距離をわざととるからソナーでの探知能力は落ちる。

それだけに聞き落とさないよう注意が必要だ。

 

結果は程なくして現れた。

ヨ級が浮上をかけたのだ。

即座に愛鷹は最大戦速に増速し浮上ポイントへと急行した。

ヨ級が浮上をかけたのは敵情報を得ていた、つまり愛鷹達に気が付いており撤退したのを見計らって友軍に一報を入れるつもりだったのだろう。

浮上する前、または浮上直後なら直ぐに通信するのは出来ないか難しい。

通信が行われる前にヨ級を撃沈する必要があった。

接近する音を聞きつけて一気に潜航されたら、夕張と蒼月の対潜攻撃が出来なくなる。

案の定もうじき浮上と言うところで異変に気が付いたらしく、急速潜航を始める。

「敵潜、急速潜航開始。

ベント弁を開放してバラストタンクに注水しています。

夕張さん、蒼月さん対潜爆雷投射用意」

「あと少し距離を詰めないと届かないわ!」

夕張が必死に追いかけてきながら返す。

射程内に入り次第二人は愛鷹の指示で深度を設定して爆雷を投射した。

海中内でくぐもった爆発音が何度も響き渡り、海面に爆発の水柱が噴き出す。

二人が六発ずつ爆雷を投射すると一旦攻撃をやめて敵潜の状況をソナーで確認する。

海中は爆発で騒音だらけだが撃沈していれば、騒音の中でも敵潜が沈む音は聞こえる。

一二発の爆雷の爆発で海中は非常に騒々しいが数分でなんとか聴音可能な程度にまで回復した。

「やっつけたのかな……?」

ヘッドセットに手を当てて蒼月が呟いた時、夕張がにやっと笑った。

「やったわ、艤装が破壊されて沈んでいく音が聞こえる! 

一回の攻撃で決まるなんて珍しいわね」

程なく海面に破壊されたヨ級の艤装の一部が浮かび上がって来た。

撃沈とみて間違いはないだろう。

ほっと三人は溜息を吐いた。

敵にこちらがどこにいるのかを知られては、任務上の大きな支障になることに間違いはない。

と、蒼月の視界に何かが入った。

一つ単独で空を飛んでいる何かがある。

目を凝らしてみる。

蒼月の勘では敵機には見えなかった。

もし敵機なら太陽を背にするなどして雲が少ないときなりの対応策がある。

一機だけなら偵察機かもしれないしもしそうだとしたら尚更敵にはバレないよう飛行する必要がある。

「方位三-四-五に未確認機一機見えます。

高度はおよそ一〇〇〇メートル」

そう告げながら双眼鏡で未確認機を見る。

「機種は……彩雲、彩雲です、愛鷹さん!」

彩雲と聞き愛鷹は即座に双眼鏡で彩雲のいる方を見る。

ほぼ同じころにフルスロットルの彩雲のエンジン音も聞こえてきた。

この辺りには味方の空母は展開していないから彩雲は瑞鳳の艦上機であることは間違いない。

そして彩雲が飛んできたと言う事は青葉たちに悪い事が起きたと言う証拠だ。

こちらを確認したらしい彩雲から発光信号が送られてきた。

 

「ア・オ・バ・タ・イ・ギ・ヨ・ラ・イ・コ・ウ・ゲ・キ・ウ・ク・シ・キ・ユ・ウ・ダ・イ・ニ・ニ・テ・ゴ・ウ・リ・ユ・ウ・モ・ト・ム」

発光信号を最後まで蒼月が読み上げた直後、三人は青葉達のいる海域へと急行した。

 

 

最初の潜水艦隊が通報したのか、ヨ級がわらわらと集まっては波状攻撃をかけて来た。

群狼戦術だった。

ウルフパックとも呼ばれるこの戦術は簡単に言うと複数の潜水艦で敵艦隊を待ち伏せし、包囲して攻撃すると言う物だ。

青葉、瑞鳳、深雪はソロモン戦線でこの攻撃を何度も経験しており魚雷攻撃を複数回受けてその戦術だと確信した。

三人は青葉がアクティブソナーやパッシブソナーで探りを入れ、瑞鳳艦上機がMADでそれを確認し、対潜哨戒機と深雪の爆雷攻撃で応戦するというスタイルをとった。

青葉には対潜攻撃力が無いが深雪や瑞鳳より強力なソナーを積んでいたので、探知範囲が広かった。

彩雲対潜哨戒機の三分の二が瑞鳳から発艦して、対潜攻撃、長距離対潜哨戒を開始する一方、深雪は青葉の指示で近距離での対潜攻撃を行った。

固有の対潜兵装が無い青葉と瑞鳳には深雪が頼りだ。

 

「対潜哨戒機の反応からして、群狼戦術をとる敵の配置は完全に青葉たちを包囲してますね。

ちょっと拙いです」

「連中、この海域にこれだけの潜水艦を配備してたなんてな。

爆雷の残数がそろそろヤバいぜ」

「極力温存してください」

「分かってるって」

「分散行動が仇になったのかしら?」

そう言った瑞鳳に青葉は少し考えてから返した。

「広範囲索敵のためにはある程度分散しなければなりませんし、全員で分散してしまうと個艦戦闘力、機動力が低い瑞鳳さんが危険ですからこの方針が間違っていたとは一概に言えないと思いますよ。

青葉としてはそう思います」

「それにあたしらは戦うんじゃなくて、こっそり潜入して『見ちゃいました!』をするんだろ?」

状況のわりに少しおどけたように言う深雪に青葉と瑞鳳は思わず苦笑した。

「見ちゃいました!」は青葉固有の言葉と言ってもいい。

 

彩雲対潜哨戒機からMADと目視で二隻発見の報が入る。

「今度は北からかよ」

しつこいなあ、と深雪が苦い顔を浮かべる。

先ほど東側に展開した敵潜を追い払ったばかりだった。

ふと「北」と言う方位に青葉は気が付いた。

この攻撃方法は昔体験したことがある。

「いつもそうとは限りませんけど、ちょっとしたパターンみたいなものがあるみたいですねえ」

「パターン?」

顎をつまんで考えていた青菜の言葉に瑞鳳が首を傾げた。

「昔ソロモン戦線で群狼攻撃を受けた時、敵潜はパターンみたいなものを持って潜水艦を配置していたんです。

南側がやられたら北側から、東側がやられれば西側と言った具合に反対方向に現れてこちらをきりきり舞いさせるんですよ。

もしかしたら北側の敵潜を叩いてそのまま北へと離脱すれば、先に叩いた南側に新たに現れるかもしれない敵潜に背後から撃たれる可能性はあっても、速度を生かして全速離脱すれば潜水艦隊の包囲網から抜け出せるかもしれません」

「確証は?」

「楽観的に言うと七割ですね」

「なら、さっさとやっちまおうぜ。

このままじゃ消耗戦だし爆雷が弾切れになっちまったらギブアップだ。

七割でも賭ける価値があるならそれに賭けた方がいいと思う」

「そうね。青葉ちゃんの言う通り一発やっちゃいましょう」

二人の返事に青葉は頷いた。

「……よーし、北側の敵潜を集中攻撃しましょう。

他の敵は軽く牽制程度にして離脱します。

離脱後は彩雲で送った第二集結位置に向かい愛鷹さんと合流しますよ。

新針路〇-二-〇へ変針、最大戦速!」

二人が了解と答える。

 

対潜攻撃に向かった彩雲の一部を残し、北側へと向かわせられるだけ向かわせて敵潜を集中的に捜索し、見つかり次第爆雷攻撃で撃沈する。

しかし、これほどの物量を投入してくるとは正直三人には驚きだった。

同時にここが深海棲艦にとって如何に重要な海域であると言う事を感じた。

「知られたくない何かがここにはあるみたいですね」

「そうでなきゃ、これだけの潜水艦を投入しないわよね」

「へへ、『潜水艦キラー深雪さま』のご誕生だな。

本当の誕生日に欲しいけど」

深雪の誕生日は彼女が言うには六月二九日だと言う。

まだ先の話だ。

そこへ対潜哨戒機から敵潜二隻を撃沈したという報告が入る。

しかし二隻がまだいる様で、さらに不確実ではあるがもう三隻いる可能性があるとの事だった。

彩雲の増援機がいるかもしれない五隻を探すために急行する。

 

「最低でも五隻はいますねえ。

青葉たちは人気者みたいですよ」

そう言う青葉に対し深雪と瑞鳳は、カメラを持ってパパラッチ事をしでかす割には自分が写真にとられる事は嫌だと言う青葉の妙な人物像を思い出して人気者になった気分はどうだったか、後で聞いてみたくなった。

ソナー感度が少し低下するのを承知で速力を上げて離脱する三人の前に敵潜がいるのを青葉のソナーが感知した。

数は二隻。

対潜攻撃のために一旦ソナー感度をさらに上げるために速度を落とすとともに、回避行動をとりやすい様に互いに距離をとる。

感度を上げたソナーで確認した後深雪が前に出て、瑞鳳艦載機がバックアップ。

深雪の爆雷攻撃が始まると敵潜二隻は急速潜航をかける。

ソナーにバラストタンクに注水するごぼごぼと言う音と、ベント弁からの口笛のような音が聞こえる。

しかし相手が駆逐艦一隻と分かるや、一隻が逆に浮上をかけた。

一隻なら応戦してもまだ勝ち目があると踏んでいるのか、仲間を逃がすためなのか。

深雪は深深度に設定した爆雷を投射しており、次弾を発射するには少し時間が必要だった。今からでは再装填して深調整をしてから浮上をかけた敵潜を攻撃するには間に合わない。

もどかしさからくる愚痴をつきながら深雪はなけなしの爆雷の起爆深度の設定をする。

深雪が投射した爆雷が炸裂して、海面に向かってきた爆圧が大きな水柱をいくつも海面に作り出す。

そこへ彩雲が浮上をかけた敵潜めがけて爆雷を投じた。MADで探知した敵潜のいる場所へと爆雷を次々に投下して離脱していく。

潜航した敵潜が海中で炸裂した深雪の爆雷の爆圧にもみくちゃにされ、潰されてバラストタンクなどの艤装を破損し沈み始める。

深雪に勝負かけるべく浮上をかけたもう一隻も予期せぬ空からの攻撃、彩雲の爆雷攻撃で海の藻屑になった。

ソナーから聞こえてくる音が爆発による轟音と攪拌される海中内の海流などの騒音でほとんど聞こえなくなる。

「残りはどこだろ?」

不確実ながらもう三隻いると報告されている潜水艦がまだ見つからないが気になるが、離脱を優先した三人は再び速度を上げた。

 

その時不確実確認の潜水艦が姿を現した。

変温層に身を潜めて待ち伏せをしていたのと、速度を出していたためソナー感度が低下していたことが探知の遅れにつながった。

反応は三隻。悪い事に彩雲はほとんど機体が爆雷切れだ。

「やばっ!」

慌てて深雪が爆雷を投射し、慌てていた割には正確に一隻を呆気なく沈め、さらに投射された爆雷が二隻目に手傷を負わせる。

艤装の何かが破損したらしくソナーに破損による酷い騒音が入って来た。

しかし三隻目がまだ無傷だ。

「深雪さんは無傷の敵潜を狙ってください。

爆雷がある彩雲は二隻目を集中攻撃」

「了解」

深雪が三隻目の敵潜の方へと急いで移動する一方、一番近くの爆雷がまだある彩雲が手負いの二隻目の敵潜への攻撃態勢に入る。

しかし深雪が爆雷攻撃で沈める直前に三隻目から魚雷六発が一斉発射され三人に向かってきた。

「魚雷だ! 青葉、瑞鳳注意しろ!」

 

三人にそれぞれ二発ずつ発射された魚雷は、切羽詰まった状況だった割には諸元が正確で深雪より機動力で劣る青葉と瑞鳳はどうにか直撃を回避した。

しかし青葉の近くを通った魚雷が近接信管を起爆させた。

幸いにも近くとは言え五メートルほど離れていたから爆発で青葉が致命的な傷を受ける事は無かった。

しかし爆圧が主機の舵の利きを少し悪くした。

 

「ありゃ?」

舵の利きがおかしい、と青葉が異常を感じた時、手負いの二隻目が無理をして撃てる状態だった魚雷を全て発射した。

「くそ、まだ撃てる状態だったのかよ!?」

「回避、回避、避けて!」

二人が自分たちに迫ってくる魚雷から逃れようと針路を変え、青葉も回避行動をとるが舵の利きがやや悪い事が気になってしまい魚雷への注意が散漫気味になった。

 

それが失敗だった。

 

「青葉、魚雷!」

「逃げろッ! 魚雷が当たるぞ!」

深雪と瑞鳳が悲鳴のような声で警告してきたのを聞き魚雷の方を見た時には既に遅かった。

「しまった!」

大きな爆発音とともに青葉が炸裂した魚雷の作り出した水柱の中に消えた。




次回へ……。
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