艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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 PC新調やらリアルで色々ありながら何とか2021年内に最新話投稿です。
 本編をどうぞ。


第五三話 迫り来る巨艦 前編

 キース島の避難民と負傷兵の乗船が行われる中、一時の休みを取っていた第三三戦隊とグレイハウンド隊の全員にブリーフィングルームへの召集がかけられた。

 支援艦「ズムウォルト」のブリーフィングルームに集まった一三人の前に現れたレイノルズとドイルはスクリーンを起動させると、欧州総軍司令部から入ったと言う作戦指示書を一同に説明した。

 その内容は第三三戦隊の戦力を持ってキース島近海にス級を誘引し、それを増援部隊としてキース島に揚陸されたばかりのフィンランド方面軍砲兵隊による遠距離射撃で撃沈する、と言う作戦だった。

「第三三戦隊の戦力だけでス級を誘引、ですか。しかし、ス級を誘引するとなればもっと何か確かな撒き餌が必要だと思うのですが」

 そう聞く愛鷹にレイノルズは心配ないと言う様に彼女を見返した。

「大丈夫だ。欧州総軍司令部がス級を誘引の触媒は既にあると言っている」

「どういう事です?」

 怪訝な表情になる愛鷹にレイノルズは愛鷹を見据えて告げた。

「君自身が触媒だ。欧州総軍司令部が言うには君がいればス級は必ず寄って来ると言っている。現に過去のス級との交戦データの記録でも、ス級のいる所に愛鷹ありだ。

 過去の戦訓から君がいればス級は必ずキース島の近海に現れると判断したって訳だ」

「……は?」

 流石に意味が分からない、とはっきり困惑する表情になる愛鷹を他の艦娘達が見つめる。

「理由が単純すぎませんかね? 根拠としても不正確ですよ、単に愛鷹さんがいるからス級が来る、と言うのは偶然の一致だっただけかも知れない。

 何をもってそこまで自信をもって愛鷹さんがいるからス級が来る、と言えるんですか」

 眉間に皺を寄せ、やや険しい表情で青葉が尋ねると、ドイルは肩をすくめて首を軽く傾げた。

「司令部には何か判断を決定づける根拠があるみたい。それが何なのか前線のこちらには教えてくれないのだけど。

 艦長も疑問に思って一応聞いたんだけど軍機を盾に教えられない、の一点張り」

「何か臭くないか……怪しいぞ」

 腕を組んで訝しむ深雪の言葉に艦娘達、特に第三三戦隊のメンバーが頷く。

 軍機を盾に教えて来ないと言うのは不自然さが拭えない。怪しい雰囲気が強く匂う回答だ。

 これまでに愛鷹の命を狙った暗殺行為は何度か行われて来ただけに、欧州総軍司令部内に深海棲艦との戦闘を利用して愛鷹を抹殺しようとしている動きがあるのではないか、と言う疑念が第三三戦隊のメンバーにあった。

 一方、そう言った事情を知らないグレイハウンド隊の面々は触媒とされる愛鷹の事を物珍し気に見ていた。

 どうも嫌な予感が、いや嫌な背景を感じる、と思いながらも現場レベルで訴えても決定が覆る事は無いのも愛鷹は分かっていた。

 こうとなれば現場レベルで何とかするしかない。自分を抹殺する為に敢えて高難易度ミッションを押し付けて自分を消そうとしているのなら、逆に達成してその目論見をひっくり返すだけだ。

 あとで「お前は活躍し過ぎた」と刺客が来たら、その時は正当防衛の名において返り討ちにしてやるまでだ。

 今は目の前の課題に集中するとしよう。ス級はどの道排除しなければならない脅威だ。C8S海域での制海権確保だけでなく、北海全体の制海権の安定化にもつながると考えれば、やりがいのある作戦とも考えられなくもない。

 ただ……と愛鷹はキース島一帯の状況をモニターしたスクリーンを見て考え込む。ス級だけでなくこのキース島近海に展開する深海棲艦には新種のレ級flagship級や、イ級やロ級と比べ物にならない性能を誇る駆逐艦ナ級等の強力な艦艇が進出してきているからス級以外の艦艇も脅威である。

「司令部は今回の作戦の帰還率とか弾き出しているのですか?」

 尋ねる愛鷹にドイルがノートPDAを操作して、スクリーンに欧州総軍司令部が送って来た結果を表示した。

 

『Survival Rate 40%』

 

 帰還率四〇パーセント……第三三戦隊のメンバー七人中、六人で出撃したら大半は帰って来られない可能性あり……。

 

「みすみすこんな数字を許す必要はない。現場レベルでの裁量を認められている。そこで、『現場レベル』での裁量判断でグレイハウンド隊のヴィクトリアスの航空団による第三三戦隊への艦隊航空支援を実施する」

「あら、ここで私の出番なのね。了解したわ」

 椅子に座って話を聞いていたヴィクトリアスが手を打ち合わせて頷く。

「幸い、ヴィクトリアスの空母航空団は損耗率が皆無だ。彼女の航空団を用いて第三三戦隊が誘引するス級の随伴艦隊を攻撃する。

 敵艦隊の頭数を一隻でも減らせられれば、第三三戦隊の負担も軽くなり、尚且つ帰還率も上がる筈だ」

「帰還率ねえ……」

 説明するレイノルズの帰還率と言う言葉を聞いて、嫌な言葉だ、と言いたげな表情を深雪が浮かべる。

「また今作戦よりグレイハウンド隊のヴィクトリアスにはコールサインが新規に当てられる。ヴィクトリアス、君のコールサインはロビンだ」

「グレイハウンド隊のヴィクトリアスもといロビンね。了解よ」

「私にはコールサインなし?」

 不思議そうに尋ねるワシントンにレイノルズはそうだと頷く。

 そのワシントンを一瞥しながら愛鷹は出撃に当たっての編成を考えた。

 水上戦闘が中心となる遊撃戦になるのは想像に難くない。その場合、水上戦闘に不向きな瑞鳳は「ズムウォルト」で艦隊支援に徹させるのが一番だろう。

 だが、第三三戦隊の戦力と火力だけでは流石に心許ない気もする。もう少しでも頭数と火力が欲しい。

 下手に数を増やす訳にもいかないし、艦隊運動の経験も少ないがグレイハウンド隊のメンバーから共同作戦要員を一人抜き出して七隻編成で挑むのが良いだろう。

 その場合、キーリング、ダッジ、ヴィクトール、ジェームスはブロッケードランナー作戦の為にも温存する必要があった。消去法で考えてワシントンしかない。

「メンバーはどうします愛鷹さん?」

 第三三戦隊のナンバー2の青葉の質問に愛鷹は自分のノートPDAを手早く操作して、出撃部隊の編成表をスクリーンに出した。

「私、青葉さん、衣笠さん、夕張さん、深雪さん、蒼月さん、それにグレイハウンド隊のワシントンさんをホワイトハウンド4として現場裁量で臨時編入。七隻の遊撃部隊編成で挑みます」

「あら、私も一緒に戦列に並ばせてもらうのね。光栄だわ。でも大丈夫かしら、あなたとは艦隊運動練習した事は無いわよ」

「私の方から合わせに行きますよ。ワシントンさんの経歴的に蒼月さんと深雪さん以外の第三三戦隊のメンバーとの艦隊運動経験は問題ないでしょうし」

 ノートPDAに表示される彼女の経歴を見て愛鷹は言う。ワシントンは実際、青葉と衣笠、夕張とは自分が愛鷹として着任する以前の段階で、ソロモン戦線で共闘経験があった。

 昔の経験がまだ生きていれば問題ないし、この三人は物覚えも良いし艦娘としての技量も高い。

 一方、演習中の事故で戦線離脱が長期化して結果正規艦隊籍を外された結果、ワシントンと共同作戦経験がない深雪と、そもそも第三三戦隊のメンバーとして抜擢前は本土防衛艦隊に事実上の引き籠りだった蒼月はその場合わせでの艦隊運動になる。ここに関しては留意が必要だった。

 

(まあ、深雪さんも蒼月さんも艦娘としての技量に問題自体は無いだろうから、深刻な問題としてとらえる事は無いかな)

 

「戦艦ワシントンが万が一大破したらグレイハウンド隊の戦力が低下する事になるが大丈夫だろうな?」

 やや心配そうにレイノルズが尋ねて来る。彼に向き直った愛鷹は「同じですよ」と答える。

「オッズをケチれば結果はワンペアのブタ。賭け倍率を読み違えていたとしても結果はワンペアのブタ。その二つの結末にならない様、努力するだけです。

引く手札はワンペアの豚かストレート勝ちの二つに一つ」

「お前にはポーカーの癖があるのか?」

「カードゲームなら負け所無しです。あくまでカードゲームではですけど」

 少しだけ胸を張って応える愛鷹に、レイノルズはそうかとやんわりとほほ笑む。

 そこで瑞鳳が挙手して質問を求めて来た。

「瑞鳳さん何か?」

「今回の私の役割は? まさかここの留守番で終わりですか?」

「いいえ、瑞鳳さんにも航空支援を行って貰いますよ。戦闘機隊による防空支援と天山による広域索敵網の構築です。

 早期警戒網を構築してス級を早期に探知してしまえば、後はこちらが勝ちに行くだけです」

「勝ちに行くと言っても、これまでに何隻もの艦娘を大破させて来た巨大艦だぞ。楽観的に見積もって手痛い目に遭ったら目も当てられないぜ?

 今回、連中にはレ級flagship級だっているんだからな」

 重要な事を忘れるなよ、と釘を刺す様に深雪が愛鷹を見て言う。

「今回はあくまで誘引ですから。ス級を仕留めるのはキース島の砲兵隊です。一番留意しておくべきは随伴艦になる可能性があるレ級flagship級とナ級他の深海棲艦と見るべきでしょう。勿論ス級も相応に視野に入れておくべきです」

「作戦は誘引、となれば、予め砲兵隊の効力射のエリアを設けて、そこへ誘い込むのが最善では? 行き当たりばったりな誘引作戦は失敗を招きますよ。

 誘引するとなれば先のキース島近海偵察作戦で用いたN、E、W、Sの四フィールドグリッドを流用した誘引エリアを設けるべきだと思います。

 青葉としてはキース島近海の島々が比較的多いNフィールドに誘引して、砲兵隊に座標指示をするのが良いかと考えます。

 Nフィールド側は無人島がそこそこ多い分、こちらの機動性を制限しますが、その制限は当然深海棲艦とて同じです。殊にス級は機動性が異常に高い。

 巨大艦ス級の機動力を制限する意味でもNフィールドへの誘因がベストかと」

 スクリーンを見ながら青葉が自身の考えた作戦を進言する。それに対し、地理的に不利な要素がリスキーだと衣笠が指摘する。

「私達日本の艦娘には慣れない海で、かつ機動力が一部制限されるNフィールドで戦うとなると、相応のリスクはかかるわよ青葉。帰還率40%が現実になるかもしれないわ」

「そうはならないよ。天候は予報では良いから風に流される可能性は低いし、潮流は深海棲艦出現後も変化していないから海図通りの環境をこちらは想定出来る。

 土壇場で潮流や風の吹き変わりが深海棲艦の手で起こされたとしても、Nフィールドの地形である程度はチャラに出来る筈」

「『筈』と言うのが付くのが上官としては懸念事項ですが、Nフィールドへ誘引しての攻撃作戦自体には私としては賛成です。砲兵隊側としても陣を構えている向きがぴったりです。

 あとは砲兵隊との密接な通信網の構築が重要です。そこでハブとして瑞鳳さんの天山が重要な訳です」

「なる程です」

 納得したと言う表情を浮かべる瑞鳳が頷く。

 瑞鳳の顔を見てノートPDAに作戦内容をまとめたレイノルズはスクリーンに表示し、艦娘達と共有するとスクリーンの前に立って最終確認を始めた。

「よし、作戦の内容を整理、再確認する。よく聞け。

 

 我々の任務はキース島Nフィールドにス級を含む深海棲艦の艦隊を誘引する事だ。

 まず第一段階。瑞鳳の天山でキース島近海のN、E、W、Sの全域に広域捜索網を形成。ス級を捜索する。

 第二段階、そこから得た情報を基にス級の座標を特定し、臨時遊撃部隊編成の第三三戦隊がNフィールドのス級に近い位置に展開。誘引を開始する。

 天山部隊の捜索網は戦術データリンクで第三三戦隊と共有される。ス級の移動速度は相当なモノだ。すぐに追い駆けて来るだろう。

 最終段階は愛鷹を餌に誘引して来たス級を味方砲兵隊が一斉射撃で撃沈だ。

 なお砲兵隊への座標指示は愛鷹以外の艦娘に任せる。ス級は過去の戦訓からして何らかの形で愛鷹を優先的に攻撃する可能性がある。故に愛鷹が座標指示を行うのは無理がある。

 青葉、衣笠、夕張、深雪、蒼月、それにワシントンの誰か一人でもいいからス級の現在位置を砲兵隊に送るんだ。今作戦に当たり本艦の技術部が作戦参加艦娘全員分のHUDを用意する事が出来た。

 これを装着する事で迅速かつ確実な砲兵隊への座標送信が可能になる。HUDには海図とレーダーを合わせて表示する事が可能だ。三人からの共同観測が一番確率が上がるが、ス級が引き連れているであろう随伴艦の事を考えれば無理は出来ない。

 一人でもいいからス級の現在位置を砲兵隊に送れ。そうすれば後は砲兵隊がケリをつけてくれる」

「もし、砲兵隊が砲撃を外した場合は?」

 万が一の時の事を聞く夕張に、愛鷹が答える。

「K9自走砲の毎分射撃速度は最大で八発です。最低でも七秒は待たないと次弾装填が間に合いません」

「二度目以降のチャンスが皆無と言う訳ではないという事ですね」

「そう言う事です。二回目以降が直ぐに来ると言う訳ではありませんが、一回勝負ではない事は確実です」

「Nフィールドで展開可能な海域でも、砲兵隊の射程から出てしまったら話にならない。島からの距離は最大でも四〇キロまでだという事を頭に入れておくように」

「K9自走砲の最大有効射程は?」

 ふと思い出した様に尋ねる蒼月にレイノルズはスクリーンにK9自走砲のスペックを表示した。

「ロケットアシスト砲弾のRAP弾で最大五三キロだ。衛星が使えたら最大一〇〇キロまで砲弾を飛ばせる」

「M107榴弾で射程は一八キロですか」

 艦娘の艦砲では到底届かない距離まで砲弾を飛ばす能力に蒼月が軽く唸る。

「そもそも口径が違いますからね。艦娘の砲熕兵装より多くの装薬を使える一五五ミリ砲。弾頭に装填される炸薬の量も桁違いです」

 スペック表を見て解説する愛鷹に一同が頷く。艦娘の主砲より物理的に大口径な分、装薬や弾頭の炸薬は艦娘が撃つ砲弾のモノより多い。

 艦娘の砲弾には新開発の超高性能小型炸薬と、新開発の弾芯が用いられているとは言え、単純な破壊力ではやはり自走砲には劣っている。

「作戦開始は一二時間後だ。それまでに各自艤装の点検をしっかりと行っておけ」

「一二時間後……ですか」

 腕時計を見た愛鷹は作戦開始時刻と天候を頭の中で勘定する。予報だと明日は晴天。視界は良好だ。

 同様に腕時計を見る深雪がカレンダーも見ながら呟く。

「半日後の明日か」

「そうだ、分かったら全員その重いケツを椅子から引っぺがせ」

 

 

 

 ブリーフィングルームを出た艦娘達の内、衣笠、夕張、深雪、蒼月、ワシントン、瑞鳳は艦内工場に呼び出され、そこで3Dプリンターで部品を製造して組み立てられた艦娘装備型HUDの扱い方の手ほどきを受けた。

「へえ、こんなのをいつも愛鷹さんや青葉は使ってるんだ。中々便利じゃない」

 左側頭部の方に装着するHUDを付けた衣笠が感心した声で感想を口にする。

「でも結構値段張るんじゃないのこれ?」

 HUDの付け具合を調整する瑞鳳の言葉に、「ズムウォルト」の技術長が頷く。

「海兵隊で試作モデルの運用試験が行われているし、昔開発されていたのと比べりゃ大分安くはなったが、艦娘用に再設計されたので全地形対応軍用四輪バギー一台が買える」

 その回答に深雪がたまげたと言う様に口笛を吹く。

「クッソ高い装備壊したら後で弁償しろ、って事は無いよな?」

「流石にそれは無い」

 苦笑交じりに技術長が首を振って否定すると六人は少し安堵した様にため息を吐いた。

「瑞鳳のHUDには天山とのデータリンクでマップに深海棲艦の展開状況が簡単に表示できるようになっている。航空管制も同時に可能だ。

 マップは各グリッドに区切られ、それを基にして艦載機を誘導する事が出来る」

「ホントお高い金をかけるだけあって便利ですねえ」

 各表示機能を切り替える瑞鳳は一つだけ不満点を述べた。

「横文字ばっかりなのが個人的に不満ですね」

「日本語対応のインターフェイスの用意が間に合わなくてな。まあ、君らの英語力なら読めない事は無いだろう。用意が出来たらすぐに調整しておくよ」

「国際言語な英語なだけまだ良いじゃない。これがロシア語とか他の国の言葉だったらもっと大変よ」

 そう瑞鳳に言う夕張に、瑞鳳が尋ねる。

「ロシア語とかって、ロシア語って結構難しいの?」

「パソコンの自動翻訳なんか宛に出来ないレベルよ。言い回しとかも独特」

「なるほど」

「言語って言い回しが難しいですよね。日本語だってそう言うところありますし」

「それなんだよな」

 HUDを外しながら言う蒼月に技術長が相槌を打った。

 

 

 ヘリ甲板の一角で葉巻を吸って一息入れる愛鷹の背後から青葉の足音がした。

「やっぱりここにいましたか」

「ここ以外に一服できるところがないので」

 葉巻を片手に煙を吹きながら返す愛鷹に、青葉は横に並ぶと真顔で問うた。

「今回の作戦。何か裏で動きがあると思いませんか?」

「作戦難易度自体は確かに高いですが、高すぎるって事も無いのでは?」

「そうじゃなくて、この作戦、愛鷹さんを意図的に沈める為に立案された様なレベルじゃないかって事です」

「……それはあり得ますね。提督に聞けば何か分かるかもですが、まあそんな事したら傍受されるでしょうね」

 さばさばと答える愛鷹を見やって青葉は懸念する口調で続けて聞く。

「いいんですか、こんな調子で」

「他に今のところ打てる手がありません。有川中将ら情報部がある程度対策はしているでしょうし、私を疎む一派の掃滅を窺っているでしょうけどそう簡単に尻尾を出す様な連中でもないでしょう」

 そこまで言ってから、ふと自分を抹殺する一派に取り込まれた結果、自分を銃撃する羽目になり、今は有川の下に引き取られている大淀の事を愛鷹は思った。

 元気にしているだろうか。仁淀とは再会できただろうか。

 事情を聞けば、愛鷹も大淀にもやむを得ない理由あっての事だったと理解はした。銃撃されて危うく死にかけたとはいえ、決して本意では無かった。

 会って話がしたい、と言う望みすら沸いていたが、何を話せばいいか、と言う迷いもある。

 ただ、大淀と直に会って彼女からの謝罪を受け入れたいと言う気持ちがあった。

「休める時に休んで置いて下さいよ青葉さん。次席旗艦なんですからね。万が一私に何かあったら第三三戦隊の指揮は青葉さんが取ることになりますから」

「青葉達を残して先に死ぬ、何て事は止めて下さいよ?」

「勿論死ぬ気はありません。ですが、万が一の時ってのはどうしても起きうる事ですから、それに備えておいてこしたことはありません」

 死ぬ気などはなっからないが、死と言うモノは理不尽にも訪れるモノだという事は身をもって経験しているだけに、気の抜けない作戦になる事は覚悟していた。

 自分が死ぬのは嫌だが、それと同時に仲間が死ぬのももっと嫌だ。全員で生きて帰る。その為の努力は惜しむ気はない。

「青葉としてですが、同も嫌な予感がするんですよ。何か大きな陰謀めいたものを感じる」

「ジャーナリスト精神を極めたらそうなるんですか?」

「と言うよりは、人間としての経験がそう言っています。マウント取りみたいな発言になりますが、愛鷹さんより長いこと生きているだけに人生経験の面からそう言う本能的な警告が自分でも分かるんですよ」

 確かに、自分は生まれて五年程度。青葉は二七年も生きている。人生経験則の多さで言えば青葉は自分より豊富だ。

 敬語口調で話されているとは言え、本来であれば自分の方が青葉の後輩である。本当の年齢差なんて気にしないのが艦娘同士での暗黙の了解とは言え、多少なりとも愛鷹にも気になる所ではあった。

「お互い死なない様、背中は頼みますよ、先輩」

「せ、先輩だなんて、青葉照れますよ!」

 文字通り顔を赤くして青葉はそっぽを向いた。

 

 

「フランス大西洋側とジブラルタルのス級がいなくなった?」

 怪訝な口調で聞き返す武本にターヴィは確かだ、と返す。

「両方面のス級がいなくなった事で、民間人救出隊の一部が動けるようになった。今、ス級がいなくなった二つのエリアで取り残されていた残る民間人全員の救助活動が急ピッチで進められている。

 穴を埋める形で戦艦棲姫やレ級が何隻か確認されているが、何とか対応できる数だ」

「レ級? 新種のflagship級か?」

「いや既存のelite級と無印がごく少数だ。ス級の代役は基本的に戦艦棲姫が担っているらしい」

 ス級の戦線離脱。補給の為に一時下げられたのだろうか。それとも別方面に一極集中投入するべく動いたか。

 地球海西部は北海戦線に日本艦隊が来援して以降戦線が膠着し進退は無い。地中海東部、つまりギリシャ方面は今のところ深海棲艦の空母機動部隊による沿岸部への空爆が行われている以外に目立った動きはない。

 フランス大西洋側とジブラルタルのス級が姿を消した、となれば、まだ本格的侵攻が始まっていない地中海東部への艦隊戦力の増強目的に回航されたか、補給のためいったんどこかへ下げられたか、はたまた別戦線へ投入されたか。

「それとなんだが、英国本土防空軍所属のRC135が奇妙な電文を傍受した。ス級の動向と関係があるのかさっぱり分からないが」

「奇妙な電文?」

 なんだそれは、と聞き返す武本にターヴィは傍受した電文の内容を話す。

「まるで意味を成している様に見えない文字の羅列が組まれた電文がどこかから大西洋北部へ向かって発信されていた。

 発信源の特定は行ったが、特定前に電文は途切れ、以降コンタクトは無い」

「どっかの誰かがこの混乱下に乗じて余計引っ掻き回そうと発信したか? いまだに深海棲艦相手に頓珍漢な理論をかましている輩はいると聞くが」

「そこは分からない。意味を成している様に見えない文字の羅列と言っても、それが暗号な可能性もあるし。

 ひとます情報部がその電文を解読中だ」

 有川の部署……アイツも愛鷹抹殺一派の掃除で忙しい所に訳の分からない電文の正体特定とはご苦労なモノだ。友人の苦労を思いながら武本はコーヒーを飲んだ。

 ただ、武本としても意味を成している様に見えない文字の羅列の電文の中身が気になった。

 どのような電文なのか、写しでも寄こして貰いたいところだった。

 それをターヴィに頼むと二つ返事で了承された。

 自分で分かる事は限られているだろうが、少ない可能性に賭ける価値は皆無ではないだろう。

 それで防げる事があるなら、防ぐまでだ。

 

 

 大西洋北部キース島近海。

 第三三戦隊の作戦行動支援の為に、ベルゲンから飛び立ったトゥームストーンのコールサインで呼ばれるP8ポセイドン哨戒機四機が夜明け間近の空を飛んでいた。

 四機のP8哨戒機は各四機の護衛のP51Dムスタング戦闘機を引き連れて、航空優勢が取れていないキース島近海を強行偵察していた。

 第三三戦隊がス級誘引撃滅作戦に出ると聞いた武本の計らいで、ベルゲンから発進した四機の哨戒機は第三三戦隊の広域捜索網構築に先立っての情報収集に当たっていた。

 少しでも艦娘の苦労を軽減したい、と言う武本の計らいであったが、航空優勢が取れていない空を飛ぶだけあってP8哨戒機の乗員は強い緊張感を持って挑んでいた。

 護衛の為に各機に四機ずつの護衛機が付いているとは言え、戦闘機の大群に襲われたら全速力で逃げるしかない。

 搭乗員達も相応の覚悟を持って任務に挑んでいた。この任務の成果如何でキース島の民間人と負傷兵を輸送する船団の安全が左右される、と四機合わせて三六名の搭乗員全員が同じことを思っていた。

 欧州総軍司令部が気になる一報を送って来たのは、四機の哨戒飛行が予定の半分を消化した時だった。

 この海域へ向けて「意味を成している様に見えない文字の羅列」の電文が送られている、と言う情報が欧州総軍司令部から送られて来たのだ。

 そりゃ一体どういう意味だ? と四機合わせて三六人の搭乗員全員が首を捻りながら、情報に留意しつつ偵察飛行を続けた。

 すでに既知扱いに認定された深海棲艦の艦隊を複数探知していたが、新手の情報は今のところ無いに等しく、深海棲艦側も対空射撃や戦闘機による迎撃を行わないだけに少しばかり四機のP8の搭乗員たちにも弛緩した空気が流れていた。

 そんな緩みかけた空気を絞める情報が上げられたのは、そろそろ全機が燃料切れでRTB(基地帰投)になる間近のところでだった。

 トゥームストーン2のコールサインで呼ばれるP8哨戒機の合成開口レーダーが、不明目標を捕捉したのだ。

「合成開口レーダーにマージ。巨大なレーダー反応、キース島のWフィールドを北上中。恐ろしく速い!」

「目標の識別を急げ!」

 TACCO(戦術士官)がオペレーターの航空士に指示を出す。五名の航空士のオペレーターとTACCOを務める二人の士官がコンソールを操作して目標の識別と評定を行う。

「アンノウンを正確に評定中。解析にもう少しお時間を」

「なるべく急げ。そろそろヒュールビンゴで帰投しなければならん」

 コンソールと格闘する航空士オペレーターに発破をかけるTACCOの顔に焦りが滲む。

 燃料切れで帰投しなければいけないタイミングで不明目標探知とは、とP8の搭乗員たちがタイミングの悪さに悪態をついていると、オペレーターが確認された目標の正体を割り出した。

「アンノウンの正体を特定。これは……ス級です! 数二。二〇ノットで北上中」

「ス級だと⁉ この海域に? まさか、フランス大西洋側とジブラルタルから姿を消した奴か」

「地理的に言って間違いないかと」

「無補給でかつこんな短時間でこの海域に進出したと言うのか?」

 信じられん、と言う顔になるTACCOにオペレーターが新たな目標探知と告げる。

 即座に正体の特定作業が行われ、輸送補給艦ワ級flagship級四隻と既にこの海域に展開していたス級一隻、輸送補給艦ワ級flagship級の随伴艦と思われる駆逐艦ナ級一隻が識別特定された。

「この海域に全速力で進出して来たス級への補給艦隊でしょうね」

「つまり、この海域に進出したは良いが暫くは補給の為に時間を割く必要があるという事か。移動速度と距離的に言えば相当な燃料を……連中の燃料なんぞ知らんが、まあ消費している筈だから補給には時間がかかるだろうな」

「とは言え、事前に給弾系の補給は行ったうえでこの海域での補給を燃料系に限っていれば、補給時間は短縮できる筈です。

 腹八分で切り上げ、友軍の作戦行動を阻害しにかかる可能性もあり得ます」

「厄介な事になったな。この海域だけで三隻のス級だ……」

「特定の艦娘にス級を誘引する能力があると言う噂があります。そうだとすれば彼女の存在は疫病神という事に……」

「噂や憶測を安易に信じるな。確実な情報を信じろ。艦娘への悪評も慎め」

 不安げな表情で呟くオペレーターをTACCOの一人が一喝する。

 とにかくデータリンクで前線部隊の各拠点と支援艦「ズムウォルト」にス級増援二隻現るの急報を発令しながら、トゥームストーン隊は燃料切れで帰還の途に就いた。

 

 

 

 既知のス級一隻に加えて、フランス大西洋側とジブラルタルから回航されたと思しき二隻のス級現るの報告を聞き、愛鷹はゾッと悪寒を覚えた。

 他にもレ級flagship級と言う既に厄介な敵がいるにも拘らず、更に強力な戦力をこの海域に送り込んで来た。

 なんて疫病神なのだろうか、とス級を誘引出来ると言われる自分自身の存在を呪いもした。

 自室の机の上で頭を抱えて突っ伏していると、自室のドアがノックされた。

「入って……」

 やけくそ気味に入室を許可すると、聞き覚えのある足音が部屋に入って来た。

 部屋に入った青葉に反応はしているものの、頭を抱えて机に突っ伏す愛鷹は顔を向けなかった。

「愛鷹さん……」

 心情を案ずるような声を送る青葉の言葉すら、嫌に感じる程愛鷹は気分を滅入らせていた。

 何か言おうとした青葉の先を遮る様に突っ伏したまま愛鷹は吐き捨てる様に言った。

「サンバイですよ! イッパイでも大変な敵がサンバイ! 司令部が出した帰還率40%の根拠が分かった気がしますよ」

「愛鷹さん……」

「疫病神ですよ、私は……それ以前にもはや死に神ですらある! あんな巨艦、どうやって相手しろと? また私が刺し違える勢いで仕留めろと?」

 自分の前で弱音交じりの本音を吐き散らす愛鷹に青葉はかける言葉が無かった。

 今にも泣きそうな上官の傍らに立った青葉に初めて愛鷹が顔を向ける。搔きむしったらしい愛鷹の長髪がバサバサとその顔にかかる。

「刺し違える勢いで仕留める必要はありません。青葉達は全速力で走り回って砲兵隊に仕留めて貰う手伝いをすればいいだけですよ」

「そんな簡単に行く相手だと思いますか? 太平洋で一体何隻の艦娘が相次一隻相手に撃破されたかお忘れですか?」

「忘れてはいませんよ。でも、愛鷹さん、青葉達がここでス級を仕留めるお膳立てをやり遂げないと民間人や負傷兵を載せた『オーシャン・ホライゾン』は出港できないどころか、キース島に停泊したまま撃破されてしまうかも知れないんですよ。

 今ここで青葉達第三三戦隊が頑張らないと、救える命が救えないんです。軍人が果たす使命は命を賭してでも、民間人を守る事にあるんです。

 ひと踏ん張りしましょう、少し持ちこたえるだけでいいんです。アイツを何とかしなければどの道退路は無いんです」

「う……」

 いつになく、いや普段見せたことがない程に恐怖に怯える愛鷹に無理もないモノを覚えながら、青葉は予め決めていた事を切り出した。

「愛鷹さんが指揮を取れないと言うのなら、青葉が旗艦となります。愛鷹さんはここに残って船団護衛艦になって下さい」

「な……!?」

 腹を決めた表情で告げる青葉に驚愕する表情を愛鷹は浮かべた。

 驚きに揺れる上官の顔を見据える青葉の腹の中は決まっていた。やるしかないのだ。ス級三隻はどう足掻いてもこの先障害になる存在。

 排除する今のチャンスを逃す手はない。しかし、難敵中の難敵である事は青葉もよく知っている。太平洋でス級と対峙した時の恐怖は今でも覚えている。

 しかし、今回の作戦で自分らが無理に倒す必要はない。やりようはある。そう見込んでいた。

 腹を決め、指揮を執る事が出来ないのなら次席旗艦の自分が指揮を執る。そう宣言する青葉から顔を逸らした愛鷹は深く溜息を吐くといつものタブレットを呑み込んで、再び深呼吸する。

「指揮権の移譲は……出来ません」

「愛鷹さん……」

「……やりましょう。歯車が仕事をしなくなってしまっては、私を含む世の中が動かない」

「青葉達も頑張ります。愛鷹さんだけに苦労はかけさせません」

「ありがとう、青葉さん」

 鼓舞してくれた青葉に感謝を述べると愛鷹は制帽を被って立ち上がった。

 頼れる仲間は最高だ。今更ながらの様に思い返す愛鷹に青葉が静かにほほ笑みかけた。

 

 

 翌日。

(General Quarters, General Quarters. All hands man your battle station)

 支援艦「ズムウォルト」艦内に戦闘配置の号令がかかり、乗員がそれぞれの部署へと駆けだした。

 第三三戦隊の艦娘達は艦尾のウェルドックに集まり、艤装を装着し、カタパルトデッキの上に立つとドック注水を待った。

 出撃準備を整える六人の前に立った愛鷹は、ドック内の作業音に負けない大声で一同に作戦前のおさらいを行った。

「皆さん、作戦前の最後の確認です。トゥームストーン隊の事前情報からターゲットであるス級はNフィールドの南西約二五キロに展開していると思われます。

 私達は第三戦速でまずス級のいる海域へ向かい、ス級を含む艦隊をNフィールドのライオネル諸島へ誘引。そこで遅滞戦闘を行いながら砲兵隊による長距離射撃によるス級撃滅を図ります。

 砲兵隊のコールサインはロングキャスター、1と2です。ロングキャスタ―への効力射指示は敵が私を集中的に狙う予測から私が行うのは恐らく無理なので、皆さんに一任します。

 一人でも多く正確な座標をロングキャスター隊に転送して下さい。三人による三艦共同観測なら精度は極めて高くすることが出来るでしょう。ですが、上手く行かないのが戦場の常です。無理に三隻共同観測に拘らず、状況に応じて対応をお願いします」

「了解」

 唱和した返事が六人から返される。

 やる気満々、元気も一杯な六人の顔を一人一人見返すとカタパルト発艦準備に移る。

「いつも通りに行きます。深雪さん、夕張さん、蒼月さん、先行して出撃。続いて青葉さん、衣笠さん、ワシントンさんです。私は最後に発艦します」

「了解!」

「了解です」

「はい!」

 先行して発艦する深雪、夕張、蒼月から元気な返事が返った時、ウェルドック内に「ドック注水、艦内後方傾斜に備えよ」の警報が飛び、アラームが鳴り響く。

 ウェルドックのハッチが開放され、ポンプとハッチから大西洋の海水がドックへと流れ込む。

 五分と経たずにドック内の注水が完了し、カタパルトがアクティブになる。

 カタパルトに立った深雪、夕張、蒼月の三人をランチバーが固定すると、発艦士官の合図と共に次々に発艦していった。

(カタパルトボルテージ上昇、70,80、90、ポイント15、48、32確認)

(オーケーです、打ち出し準備完了です)

(第一発艦終わりました、次の艦娘確認して下さい)

(重巡青葉、衣笠、戦艦ワシントン発艦!)

 カタパルトの作動音が艦内に響き、再び三人の艦娘が射出される。

 全員の発艦を確認した愛鷹は滑走用ランチバーが元の位置に戻った第一カタパルトの上に立った。

 緑のジャージを着たカタパルト要員が発艦重量を書いたボードを右舷側のデッキの手すり越しに愛鷹に見せて来る。

 確認のジェスチャーを送るとカタパルト要員は親指を立ててデッキから降りる。

(ホワイトハウンド0-0、発艦シークエンスに移行。発艦を許可する)

 黄色のジャージとベスト、緑のヘルメットを被った発艦士官が愛鷹に向かって右手を掲げて右手をくるくると回す。機関出力が上げろの指示だ。

 ランチバーで固定された主機が第一戦速まで加速すると、カタパルトの警告灯がグリーンに変わり、それを確認した発艦士官が発艦針路上、艦内各所を指さし確認して準備よしと安全確認を終えると身を屈めて、右手を艦尾方向へと伸ばした。

「ホワイトハウンド0-0、第三三戦隊一番艦愛鷹、出る!」

 発艦の加速に備える姿勢を取った愛鷹が身構えていると、カタパルト要員がカタパルト射出ボタンを押し、カタパルトが一気に愛鷹を大西洋の海へと打ち出した。

 

「さ、行くわよ! 偵察隊、戦闘機隊、発艦!」

 ギリギリとしなる弓を構えた瑞鳳が艦載機の矢を放つ。

 ヘリ甲板上で最適な発艦針路の為の風を肌で感じ取り、行け、念じた矢を右手が離すと弓が勢いよく矢を空へと打ち出す。

 空に戦闘機隊三個小隊一二機と偵察隊一二機を撃ち出し終えると、新装備のHUDをオンにして航空管制モードを起動する。ヘッドセットの通知ボタンを押して愛鷹に戦闘機隊と偵察隊を発艦させたことを知らせる。

 警戒陣の隊列を組んでス級が最後に確認された海域へまず向かう愛鷹達に瑞鳳は「幸運を」と呟きながら見送った。

 

 

 最後にス級が観測された海域へ天山偵察隊が捜索網を展開し始める。Wフィールド近辺に捜索網を構築すればすぐに見つかるはずだ。

 Wフィールドへまず第三戦速で向かう第三三戦隊は先頭を愛鷹、二番艦に青葉、三番艦に衣笠、四番艦にワシントン、五番艦に夕張、六番艦に蒼月、七番艦に深雪と言う隊列を組んでいた。

(フェーザント1から旗艦愛鷹。我が隊はWフィールド南部作戦エリアに到達せり)

(ターミガン1から旗艦愛鷹。我が隊、Wフィールド北部AOに進出せり)

「了解、各機は対空射撃及び敵迎撃に警戒しつつス級を捜索せよ、アウト」

 通知スイッチを切りながらタブレット錠剤を呑み下して発作を事前に予防する。最近の発作の頻度が早い。無言で体が老化とそこから来る体の限界を示していた。

 コールサイン、フェーザント、ターミガンの二隊各六機の偵察機がWフィールド一体に捜索網を構築して偵察行動を開始するのをHUDで確認する。

 今回の作戦では第三三戦隊所属艦娘は全員HUDを装備している。リアルタイムで偵察隊の情報はデータリンクでHUDに共有されるので、素早い作戦行動が可能になっていた。

「こういうの前から使ってた愛鷹と青葉は恵まれてて羨ましいぜ。ポンコツ特型駆逐艦には縁のない装備だと思ってたよ」

 HUDをいじりながら深雪が嘆息を漏らす。

「私達での運用データを基にいずれは全艦娘標準装備品が開発されるでしょう。船団護衛艦の海防艦辺りも装備する日は遠くないかと」

 いつかは、と返しながら愛鷹は偵察隊とのデータリンクを開いて広域表示の海図と、各偵察機の現在地を重ねた。

 天山各機がレーダーでカバーしあえる範囲で捜索網を形成して、ス級を含む深海棲艦艦隊の捜索に出ている。

 直ぐにヒットするか、しばらく時間がかかるか。それとも出てきたこちらに向こう側から反応して接近して来るか。

 第三三戦隊所属艦娘では唯一愛鷹だけ装備している三二号対水上電探改をフル回転させて警戒に当たる。さらに今回の作戦で参加させたワシントンも愛鷹に告ぐ索敵能力を誇るSGレーダーを回して索敵に当たっている。

 この電探(レーダー)波を逆探してこちらの位置を探って来ている場合もある。それならそれで寧ろ好都合だ。

 問題は、ス級を含む艦隊と出くわした時、その大火力からどれくらい逃げ続けられるかだ。

 あの一撃を食らったら、いくら防護機能を展開しても大破は免れない。最悪当たり所が悪かったら一撃で轟沈、あの世送りだ。

(何か妙だな……)

 ふと無線越しにギャラクシーが呟くのが聞こえた。

「どうかしました?」

(解読不能な電文がこの海域に向かって発信されている。なんて言っているのかさっぱりだ……一応文字変換は出来るのだが、意味を成している様に見えない文字の羅列にしか変換できない)

「それは」

 どういう事? と聞きかけた時、フェーザント2から緊急電が入った。

(こちらフェーザント2、レーダーに反応。機上員が目視でウェーキを複数視認。旋回して確認に向かう)

「了解、敵艦隊の可能性があるのである程度距離を取って確認を。データリンクでカメラの映像を共有して下さい」

(了解、リンク17接続)

 フェーザント2から送られてくる映像がHUDにも表示される。水平線上に大型艦の艦影とウェーキ(航跡)複数がやや粗い画像越しに見えた。

 発見される可能性もある為、一旦フェーザント2は高度を落とす。水平線の丸みを利用して隠れながら進むフェーザント2のカバーに他のフェーザント隊機が応援に向かう。

「グリッド1アルファにス級……いや、違う……?」

 もしス級なら対空レーダーでとっくに捕捉している筈だ。ス級でなくても随伴艦の対空レーダーで既に捕捉されていてもおかしくない。

 ヒットするにも早すぎるし、あれは違うのではないか、と首を傾げていると拍子抜けしたフェーザント2の報告が入る。

(なんだ、ありゃ、漁船だ。正体は漁船三隻。ギャラクシー、船体にかかれている識別コードから船籍識別頼む)

(……キース島の漁業組合所属漁船に一致するデータあり。妙だな、こんな海域に漁船が出張っていると言う情報は聞いていないぞ)

 漁船? なぜこんな海域に三隻も?

 疑念を深める愛鷹はフェーザント2に漁船の船上に人影がないか確認に当たらせる。

(船上に人影らしきもの見当たりません)

 おかしい。キース島から事前届け無しに無断で脱出した島民がいたとしても、船の上で隠れられる場所は限られる。

 しっかり確認を行うよう指示を出しながら、フェーザント2の支援に向かっていた他のフェーザント隊機を元の位置に戻らせる。

 無人、と言う二文字が脳裏をよぎる中、ギャラクシーから「意味を成している様に見えない文字の羅列」の送り先が判明する。

「グリッド3ブラボーに向かって……」

 直感、本能的な何かが自分を動かすのが分かった。HUDで電文の送り先を海図に重ねて表示させ、答えを出す。

 グリッド3ブラボーの位置はNフィールド南西部。

「フェーザント各機。Nフィールド南西部に進出し、捜索網を形成せよ。ス級は恐らくそこにいる」

 了解、の返事がフェーザント隊機から返される。

ス級はそこにいる、その自信が不思議と胸の内に沸いていた。本能的何かかが愛鷹を導いていた。

 気になるのはギャラクシーが捉えた「意味を成しているように見えない文字の羅列」が組まれた電文だ。

 発信されている方向と鑑みると、ス級を誘引しているようにも思える。それは良いとして、問題はだれが何のために発信しているかだ。

 深海棲艦が送信しているとみるのが妥当、なのかもしれないが、愛鷹にはどうにも引っかかるものがあった。

 単に深海棲艦が安易に傍受されるような電文を発信するだろうか。傍受されるのを見越して意図的にこちらには「意味を成しているように見えない文字の羅列」にしか見えない暗号を組んでいる可能性も皆無ではない。

 しかし、愛鷹の頭が告げていた。これは仕組まれたものだと。

 

(罠臭いわね……なら罠に飛び込むか?)

 

 博打が過ぎるが、これしかないだろう。罠にかけてくるなら罠に飛び込む。ハイリスクは犯したくないが、死中に活を求めるという手でもある。

 

 

 

 程なくして、フェーザント3から「ス級含む有力な艦隊を発見」の報が入った。

 発見された艦隊はス級三隻、駆逐艦ナ級flagship級二隻、ネ級改一隻。

 ナ級はともかく、ネ級改は事前偵察では発見していない艦だ。どこからやってきたのか。

 ス級だけでも充分厄介なのに、その取り巻きが寄りにもよって手練れ級だ。

「厄介ね……」

 独語する様に呟きながら第三三戦隊全艦に対水上戦闘用意を発令し、最大戦速へ加速をかける。

主砲に徹甲弾を装填し、航空艤装を格納する愛鷹のHUDに《各部戦闘用意よし》の表示が出る。

 第三三戦隊全艦も戦闘配置が完了し、まずはス級がいる海域へと七人全員で向かう。

「ギャラクシー、敵艦隊の現在位置を随時トレース。妙な動きを見せ次第直ちに報告を」

(了解)

 自分に続航する青葉、衣笠、ワシントン、夕張、蒼月、深雪をちらりと一瞥して問題ないか確認をとる。

 ス級との戦いというよりは取り巻きのナ級とネ級改との戦いになりそうだ。ス級は砲兵隊が始末してくれるからこちらは被弾しないように動くだけ。

 簡単そうに思えて、案外そうでもない。ス級の火力は異常だし、ナ級、ネ級改ともに性能面でそれぞれ駆逐艦、重巡としては極めて強力だ。

 もしかしたら、ス級よりナ級、ネ級改で思わぬ被害を被りかねないかも知れない……そんな予感が愛鷹の中でしていた。

 

 最大戦速でス級がいる海域へ向かう中、キース島の砲兵隊に射撃準備を要請する。

 ヘッドセット越しに待ってましたとフィンランド語訛りの英語で返される。

 準備はよし、と思っているとギャラクシーからス級を含む艦隊に動きが出たことが告げられる。

(敵艦隊転進。参照点より方位〇₋四₋〇、速力三〇ノット。全速力でそちらを追尾中)

 撒き餌にかかった。その言葉が脳裏に浮かぶ。

 ここからが本番、と生唾を飲み込む。

 敵艦隊は全速力でこちらを目指している。随伴のナ級とネ級改はス級のお化けな速力は出せないので、必然的に深海棲艦艦隊の速力はナ級とネ級改の最大速力に合わせざるを得ない。

 猶予はある。そう見た愛鷹は予定通りにキース島Nフィールドへ戦隊を転進させ、最大戦速でNフィールドへと進出する。

 胸の動悸が緊張で激しくなるのを感じる。いよいよス級三隻を含む有力な艦隊と会敵だ。

 レ級flagship級がいないだけまだ脅威度は低いが、増援艦隊を引き連れて来る可能性もゼロではない。

 Nフィールドへ全速力で進出する第三三戦隊だが、全速力で航行している割には深海棲艦との距離が徐々に縮まっていた。

 原因はワシントンだった。高速戦艦にカテゴライズされるとは言え、発揮可能速力は最大で二八ノット。第三三戦隊の中では一番低速だ。

 低速といえば改二特の夕張も発揮可能速力は最大二五ノットなのだが、彼女の場合は増設ハードポイントにタービンユニットを追加で搭載しているので発揮可能速力が三〇ノットに向上している。

 勿論ワシントンの低速は織り込み済みだ。仮に追いつかれたとしても、回避行動で振り切るだけだ。

 Nフィールドへ差し掛かった時、ギャラクシーからス級の弾着観測機の誘導電波を逆探した報告を寄せられる。

 以前トラック島基地での戦いで出くわした時、誘導砲弾で自分達を長距離砲撃して仕留めようとしたあの光景が脳裏によみがえる。

 こちらは最大速力で前進中だ。回避運動をとればその分だけ予定ポイント進出が遅れる。

 対抗手段発動だ。愛鷹はギャラクシーにECM(電波妨害)をかけるよう指示する。誘導砲撃の誘導電波は青葉が解析してすでに判明している。

 ジャミングで誘導電波を打ち消せば誘導砲弾による長距離砲撃は出来なくなる筈だ。

 案の定、ECM、ジャミングを開始すると誘導砲弾による砲撃が飛んで来なかった。

「青葉さんの電波解析が役立ちましたよ」

「いやあ、解析した甲斐があったものですねえ」

「なーに天狗になってるのよ」

 振り返ら得ずともにやけていると分かる青葉の言葉に、衣笠が突っ込みをかける。

 二人のやり取りを聞いて軽く頬を緩めた時、ギャラクシーから新たな情報が入り、HUDに情報が共有された。

 誘導砲弾による長距離砲撃ができないと分かるや、ス級三隻はさらに増速をかけた。ナ級とネ級改を置いて、先行して第三三戦隊を追撃しにかかっている。

 弾着観測機自体も急速に近づいていると報告が入る。通常の弾着観測機でこちらを攻撃する算段だろう。

 そうはさせまいと、即座に格納していた航空艤装を展開させると、ヒットマン隊を発艦させ、弾着観測機迎撃に向かわせる。

 烈風改二戦闘機四機が上昇して弾着観測機迎撃高度に向かうのを見送ると、再び航空艤装を格納し水上戦闘に備える。

(タリー1バンディッツ。ターゲットマージ。ヒットマン1エンゲージ)

 弾着観測機を発見したヒットマン隊が攻撃を開始したことを告げて来る。

 相手は空戦能力は無いに等しいはずだから手早く終わるだろう。

 そう考えている内に早々に弾着観測機撃墜の知らせがヒットマン隊から入る。

 弾着観測機を失ったら、さらに速力を上げて追撃してくるだろう。いよいよだ、と自分の右手を愛鷹は見つめた。

 手袋をした手が心なしか震えている。恐怖からではない、静かなる武者震い。

 

(奮い立つ? なら奴を沈めて見せなさい)

 

 ぐっと手のひらを握りしめ、また開くと右手をトリガーグリップに戻し、左手で長刀の鞘を握った。

 しばらくして愛鷹の電探がス級をとらえた。

 こちらが捉えたと言う事は向こうも捉えていると言う事だ。そう考えているとCICからス級から水上レーダー照射を受けたと言う報告が上げられてくる。

 来る、と肌で感じた時、遠くで雷鳴のような砲声が轟き、甲高い口笛の様にも聞こえる飛翔音が頭上から急速に迫ってきた。

 至近弾でも致命傷だ。

「全艦随時回避運動。最大戦速を維持しつつ衝突に注意!」

 回避運動を指示しながら自分も取り舵に転舵し、ス級からの砲撃を躱しにかかる。

 

 

 キース島沖合で愛鷹達第三三戦隊とス級三隻を含む深海棲艦艦隊との戦いの幕が切って落とされた。




 次回は来年となります。

 次回はいよいよ愛鷹達第三三戦隊とス級三隻を始めた深海棲艦艦隊とのキース島沖合での激闘が始まります。
 
 来年も本作及び空衛命自の艦これワールド各作品をよろしくお願いします。
 よい年末年始をお過ごしください。

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 ではまた次回のお話でお会いしましょう。
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