艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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 冬月実装がほぼ確定した艦これに心なし気持ち踊ってます。
 節分任務終わらせる中第五四話も終わらせました。
 書き上げて、読み返してから自分から出た一言、「ナニコレ?」

 本編をどうぞ。


第五四話 迫り来る巨艦 後編

 巨弾が空を切り、海上に着弾する。

 明確な殺意を持った破片が着弾の爆発と共に周囲にばら撒かれ、防護機能を最大出力で展開する第三三戦隊の艦娘達を翻弄する。

「散開し、回避に集中! 応戦は二の次に! 一発でも食らったらお陀仏です」

 森の様に突き立つス級の砲撃の水柱に揉みくちゃにされながら愛鷹は第三三戦隊のメンバーに向かって叫ぶ。

 敵の砲弾は着弾してすぐに爆発する当たり、着発信管。弾頭は破片による殺傷を目的としたHE弾。つまり徹甲弾と違って貫通力はない。

 だがス級のHE弾は只のHE弾ではない。散弾一発が防護機能無展開の巡洋艦級の艦娘を容易に切り裂く威力を持っている。戦艦級とてその散弾を食らえば無傷では済まない。

 HUDには早くも防護機能に過負荷がかかっている事を示す警告表示が出ていた。

 三隻からの砲撃ともなれば、散布界が互いに離れていても容易にカバーしあえる位の散弾をばら撒ける。

 青葉たちが上げる悲鳴を聞きながら、予定エリアまでの辛抱だと自分自身に言い聞かせ愛鷹は進路前方を見据える。

 キース島Nフィールドのス級誘因エリアは目の前だ。予定エリア近辺の島々が目視出来る。

 ヘッドセットの通知スイッチを押してギャラクシーに中継を頼むと、待機している砲兵隊、ロングキャスター1、2と回線を繋ぐ。

「ホワイトハウンド0-0よりロングキャスター1、2へ」

(どうぞ0-0)

「まもなく予定エリアに到着します! 砲撃準備を」

(了解、こちらの準備はすでに整っている。座標を転送してくれたら直ぐにそこへ砲弾を送り込んで見せる!)

「頼みますよ」

 通知スイッチから手を放してギャラクシーがHUDに送ってきた弾着予想座標を見て、再び進路を変更した時、ギャラクシーが舌打ち交じりに急報を入れて来る。

 

(警告、ボギー3、急速接近中。参照点より方位〇-三-〇。艦種識別、ネ級改一、ナ級flagship級後期型二。

 ス級の随伴艦三隻がそちらが回避行動で進行速度が鈍っていた隙に回り込んできたぞ)

 

 三隻のス級の取り巻き三隻が回避行動に専念している間に北方から回り込んできていた。

 毎分三発程度の速射で三隻合わせて三六発の巨弾を送り込んでくる三隻のス級の攻撃を回避するだけでもかなり手一杯なところに、少々厄介な展開になりつつある。

 ここはいっそ各個撃破のリスクを冒して、自分だけ戦隊から離脱して砲撃とス級を誘引し、ほかの六人でネ級改とナ級の相手をさせるか。

 

「全艦に通達。予定エリア侵入後、旗艦愛鷹は単艦行動に移行。以後指揮権を次席旗艦青葉に委譲します。各艦は次席旗艦青葉の指示に従って砲兵隊への座標支持を行って下さい」

「愛鷹さん単独でやるつもりですか⁉」

 驚く青葉に「頼みましたよ」と告げると、HUDの海図表示を見る。

 Nフィールドの予定エリア到達まであと一〇秒。北方から回り込んでくる深海棲艦三隻と艦隊が会敵するまで約八〇秒。

「スタンバイ」

 右手を掲げる旗艦に青葉が深いため息をヘッドセット越しに送ってくる。

 復命は? と問おうとした時ヘッドセットから青葉が第三三戦隊各艦に指示するのが聞こえてきた。

「次席旗艦青葉、指揮権を頂きました。次席旗艦青葉ホワイトハウンド1-1より各艦、転進面舵、新進路〇-九-〇。赤黒なし。

 左砲戦、雷撃戦よーい!」

 それでよし、と頷くと時計とHUDを交互に見て愛鷹自身は取り舵一杯に備える。

 

 一〇秒をカウントした時、「マーク!」と青葉たちに聞こえる様に大声で叫びながら愛鷹は取り舵に転舵し、戦隊から離脱した。

 

 

 砲戦準備をした青葉の視界にネ級改とナ級の三隻が見えた。

 HUDで方位、距離を測定する。水上電探で正確な測距も行う。

「ホワイトハウンド1-1、1-2、4は第一目標ネ級改を攻撃。ホワイトハウンド2-1、2-2、3-2は第二、第三目標ナ級を攻撃。

 第二、第三目標攻撃指揮はホワイトハウンド2-1に委譲します。

 主砲射程内に入り次第、全艦統制砲撃戦始め」

 了解、の唱和した返事が青葉に返される。皆愛鷹さんに代わって指揮を執る自分の言う事にすぐに付いて来てくれてる。

 少しばかり感慨深いものを味わいながら支持を伝達し終えると、青葉は主砲の射撃グリップを構えて安全装置を解除する。

 間断無く飛来するス級の艦砲射撃の突き上げる水柱に揉まれる愛鷹に心配そうな目を一瞬送るが、愛鷹は青葉からの視線に構っている余裕はないようだ。

 ネ級改とナ級攻撃の為にさらに艦隊を二分する。手早くネ級改を仕留めて、ナ級を相手にすることになる夕張と深雪、蒼月の支援に行かねばならない。

「夕張さん、深雪さん、蒼月さん、気を付けて」

「そっちもね、青葉」

 ナ級へと向けて深雪と蒼月を連れて加速していく夕張から幸運をのジェスチャーを受け取る。

 青葉と衣笠、ワシントンの三人はネ級改へと単縦陣を維持して突撃する。

 主砲をネ級改へと指向すると、向こうもこちらへ主砲搭を向けているのが見えた。

「青葉、狙われてるわよ!」

 妹からの警告に無言で頷きながら、ネ級改を見据えて主砲の発射ボタンに指を駆ける。

 HUDに「RANGE ON」の表示が出るや、ネ級改のターゲットコンテナにレティクルを合わせて射撃号令を下す。

「左対水上戦闘、旗艦指示の目標。主砲撃ちー方始めー、発砲! てぇーっ!」

 右肩に担ぐ二〇・三センチ連装主砲二基が発砲の火蓋を切る。火炎が砲口から迸り、徹甲弾をネ級改へと叩き出す。

 続行する衣笠、ワシントンも続けて発砲する。自分と同じ二〇・三センチ三号連装主砲の砲声と、一六インチMk6 mod2三連装主砲の砲声が背後から轟いてくる。

  三人からの集中砲火に気が付いたネ級改が射撃の構えを解いて回避運動に入る。

 取り舵と面舵の両方を不規則にとってジグザグに航跡を描いて回避運動をとったネ級改の周囲に、着弾の水柱が付き立つ。

 至近弾すら無しの三人の第一斉射にそう簡単にはやられてくれないよね、と青葉が思った時、ネ級改の主砲に発砲の閃光と砲煙が走る。

 計一九発の砲弾の雨を易々と搔い潜ったネ級改が素早く射撃の構えをとると、青葉達からすればきちんと狙ったのかの見極めも難しい程のスナップショットを青葉に向けて放った。

 飛翔音を立てながら砲弾が空中を駆け、青葉に迫る。

「面舵一杯、右舷機関三分の二、左舷機関前進一杯」

 空にかすかに見えた砲弾とHUDの表示を交互に見て、青葉が回避機動に移る。あんなのは当たりはしない、と自分に言い聞かせ、慌てそうになる自分を落ち着かせる。

 自分の左舷側に着弾の水柱が突き上がる。

 今度はこっちの番、と再装填が終わった主砲を構えなおし射撃グリップに指をかける。

「諸元修正、よし。目標位置を正確に評定。主砲撃ちー方始めー! 発砲!」

「発砲! てぇーっ!」

「Target in sight. Fire!」

 衣笠、ワシントンも続けて発砲し、主砲の砲声が殷々と周囲に響き渡る。

 距離が詰まっていただけあって、今度の砲撃はネ級改のすぐそばに着弾した。

 回避運動を事前に取っていたとはいえ、三人の中で一番精度の高い砲撃を行うワシントンの一六インチ弾がネ級改から一〇メートルと離れていないところに着弾する。

 三人が主砲の再装填にかかっている間、ネ級改が反撃の一撃を放つ。

 今度も狙われていたのは青葉だった。ネ級改はどうやら一番艦を優先して狙う事にしている様だ。

 互いに距離を詰めていると言う事は、互いに被弾する確立も上がっていると言う事だった。

 今度は取り舵に切って砲撃を躱す青葉だが、ネ級改の砲撃が思ったよりも近くに着弾し、流石に冷や汗が出る。

「早いところ仕留めないと拙いですねぇ」

 主砲射撃グリップのカーソルを親指で操作してレティクルをネ級改に合わせながら呟く青葉の耳に、主砲再装填完了のブザーが入る。

 第三斉射を続行する二人と共に放った時、早くも再装填を終えていたらしいネ級改の主砲の砲口にも発砲の砲煙と閃光が走る。

 互いにほぼ同時の発砲だっただけに、砲声が互いに重なって聞き取りにくかった。

 ネ級改の主砲砲撃の弾道を見極める青葉の脳裏で本能的に「危ない」と言う警告が走った。

 回避が間に合うか、と逡巡しながら面舵に切った時、衣笠がワシントンの名を呼ぶ声が聞こえた。

 どうしたの、と青葉が尋ねようとした時、彼女の視界の前にワシントンの大きな艤装が割り込んで来た。

「ワシントンさん⁉ 何を⁉」

「ネ級改の砲弾くらいなら……」

 仰天する青葉の問いにワシントンが答えかけた時、彼女の艤装の装甲版にネ級改の砲弾の直撃の閃光が走る。

 歯を食いしばって堪えるワシントンのくぐもった声が爆発音に交じって聞こえた。

「ワシントンさん!」

「大丈夫よ」

 身を案ずる青葉の言葉に落ち着いた声でワシントンは問題無いと返す。

ほっと溜息を吐く青葉の前でワシントンは主砲をネ級改に向けると、「Fire!」の号令と共に徹甲弾を放った。

 ネ級の艤装に今度こそ、直撃の閃光と爆炎が走る。

「Hold target. Hold target. Concentrate Fire! Concentrate Fire!(ターゲットを維持、集中砲火、集中砲火!)」

 英語で捲し立てるワシントンに指揮権を奪われた様な気分を少し感じながら青葉、それに衣笠がネ級改へ砲撃を送り込む。

 一六インチ弾を食らって流石にダメージを受けた様子のネ級改が動きを鈍らせるが、戦闘可能ならしく反撃の砲火を着弾の黒鉛越しに瞬かせる。

 ネ級改の砲撃は一番距離と脅威度が高いと判断されたワシントンに集中的に向けられていた。対空機関砲まで動員してワシントンへ砲火を浴びせ始めるネ級改に対して、ワシントンは装甲をうまい事駆使して防ぎ、その間に青葉と衣笠が主砲弾を何発もネ級改に叩き付けた。

 しかしノーマルのネ級と違ってワンランク上の耐久と装甲を持つネ級改はワシントン、青葉、衣笠からの集中砲火を浴びてもなお反撃してきた。

 ネ級改の近距離からの砲撃に、ワシントンが一瞬姿勢を崩す。その隙にさらに一発をネ級改がワシントンに撃ち込む。

 突然静かになるワシントンに尚も砲撃が向けられている間に、青葉と衣笠は増速をかけ近接砲撃を仕掛けネ級改を追い込む。

 二人が浴びせる砲撃の着弾の爆炎がネ級改の艤装と本体にいくつも咲き乱れ、流石のネ級改も二人方の集中砲火を前に深刻なダメージを受けた様子を見せ始めた。

 動きが鈍ったネ級改が転進の構えを見せた時、青葉の左足にマウントされている魚雷発射管から魚雷一発が発射された。

 何らかの深刻なダメージを負ったらしいワシントンにこれ以上負担をかけられないと判断した青葉は一発で蹴りを付ける算段だった。どの道あのネ級改の状況は大破と見て良いから一発で充分だった。

 ソナーにも被害が及んでいるのか、それとも注意力が低下していたのか、ネ級改が青葉の発射した魚雷に気が付いた様子はなく、海上に薄っすらと漂う黒煙越しに魚雷命中の水柱と爆発の炎が見えた。

 ネ級改が倒れ込む様に波間に消えて行くのを見送りながら、青葉は突然沈黙してしまったワシントンに衣笠と共に寄る。

「ワシントンさん? 大丈夫ですか?」

 様子を伺う青葉にワシントンが顔を向ける。吐血の跡があった。

 状況を察した青葉と衣笠が慌てて駆け寄ると、ワシントンの白い上着の腹部が真っ赤に染まっているのが分かった。

「大変! 酷い傷ですよ! 止血しないと」

「ガサ、止血を! 青葉はワシントンさんを支えてるから」

 辛そうな表情を浮かべるワシントンを支える青葉に指示され、大急ぎで艤装からファーストエイドキットを取り出した衣笠が止血剤をワシントンに打つ。

 戦場での死因の大半が失血死によるものだ。止血する事でまず最初の難関を防ぐ事が出来る。

「しくじったわ……傷口が開いたみたい……最後の最後で……ラッキーショットを……貰うなんて……」

 脂汗を浮かべ、浅い息をしながら途切れ途切れにワシントンが青葉に言う。

 ひとまず衣笠の手で止血が行われた。鎮痛剤の注射器も打ち、消毒剤を湿らせた滅菌タオルで幹部を拭う。

「拙い、縫合後から出血しているわ。止血剤を打ったとはいえ、これ以上の戦闘継続は無理よ」

「私……の艤装に簡易手術キットが……傷口を再縫合すれば、まだ」

 傷口を消毒して、綺麗にしてもまた傷口から血が滲みだしてくるのを見て焦りを浮かべる衣笠に、ワシントンは艤装に格納している簡易手術キットを教えた。

「これ以上の戦闘継続は無理ですよ。護衛を付けて、『ズムウォルト』に戻します」

「で、でも……私が」

「ダメです」

 まだやれる、と言いたげなワシントンに険しい表情になった青葉が首を横に振る。

 でも、とワシントンが言おうとした時、彼女の口から再び鮮血が零れる。

 

 これは見た目以上に深刻なダメージを受けている様だった。

 

 遠くで砲撃の雨を躱すのに必死になっている愛鷹に、聞いている余裕がないのは分かりながらも青葉はヘッドセットの通知スイッチを押すと愛鷹にワシントンの状況を伝えた。

「ホワイトハウンド1-1青葉より旗艦ホワイトハウンド0-0愛鷹さんへ。ワシントン大破、深刻なダメージを受けている為これ以上の戦闘継続は不可能。後退を具申します」

(ワシントンさんの、容体、はどうですか⁉)

 猛砲撃を受ける轟音がヘッドセット越しに聞こえてくる。回避運動で精一杯らしい愛鷹に「良くないです。自力航行困難です」と返す。

(了解しました、蒼月さんを護衛にしてワシントンさんは後退して下さい。『ズムウォルト』からヘリを寄こす様連絡も)

「了解です。愛鷹さんも気を付けて。なるべく早く援護に向かいます、アウト」

 

 

 間断無く浴びせられた長一〇センチ高角砲の砲撃を浴びたナ級が激しく炎上し、黒煙を上げながら沈黙する。

 大破確実と言える被害を与えたと判断した深雪と蒼月は、ナ級と交戦する夕張の支援に回る。

 そこへ青葉から負傷したワシントンの護衛に着くよう蒼月に指示が入る。

 ヘッドセットの通知スイッチを押しながら「了解です」と蒼月は答え、進路を変更してワシントンの方へ向かう。

 すれ違いざまに蒼月は深雪と無言で拳をぶつけ合った。

 夕張とナ級の砲撃戦は長引いていた。高性能駆逐艦として恐れられるナ級なだけあって夕張でも火力面では拮抗している。

 おまけにナ級はレーダーを搭載しているので地味に砲撃と雷撃の精度が高い。

 繰り出される甲標的の雷撃、一四センチ連装砲の砲撃をことごとく躱し、反撃の五インチ弾を夕張に撃ち返している。

 だが急接近してくる深雪に気が付いたナ級が数的不利を悟って攻撃の手が緩やかになった。

「援護をお願い!」

「任せろ!」

 援護射撃を要請する夕張に深雪がすかさず一二・七センチ連装主砲で援護射撃を開始する。

 砲撃の手を緩めたナ級の周囲に夕張と深雪から浴びせられた砲撃の雨が降り注ぎ、着弾の水柱が周囲に林立する。

 劣勢に陥ったナ級だが、砲を深雪に向けなおすと速射で応戦を試みる。

 五インチ砲弾の雨が深雪に降り注ぐが、右に左にランダムな回避運動をとって全速力でナ級へ吶喊する深雪はナ級に至近弾すら許さない。

 逆に深雪が放つ砲撃はナ級の至近距離に着弾する。ナ級の右厳に着弾させた深雪は夕張に無言の合図をした。

 暗黙の了解で再装填が終わった甲標的が夕張の艤装から発進し、ナ級のすぐそばへと忍び寄る。甲標的接近の間に調音で悟られない様に夕張と深雪の砲撃は継続してナ級の周囲に着弾した。

 牽制半分、撃沈させる勢い半分の砲撃が二人から降り注ぐ中、甲標的が絶妙なポジションについて魚雷を発射する。

 集中砲火を浴びるナ級が回避運動に気を取られている隙をついて放たれた魚雷一発がナ級に命中する。

 轟音と真っ赤な火炎がナ級の舷側に走り、一気に行き足を奪う。

「脅威全排除!」

 やったね、と弾んだ声を上げる夕張に深雪も無言で笑みを浮かべて右手の親指を立てる。

 これでネ級改とナ級の三隻の随伴艦は全滅だ。

 第三三戦隊の被害はワシントン大破と少なくない損害を被ったが、それ以外の被害はない。

 後送されるワシントンの回収の為に「ズムウォルト」からは既に戦闘救難ヘリが発艦して、彼女と護衛する蒼月とのランデブーポイントへ急行していた。

 ワシントンの事は蒼月に任せ、青葉と衣笠、夕張と深雪はすぐに遅滞戦闘を続ける旗艦愛鷹の元へと向かう。

 

 ス級からの猛砲撃をことごとく躱してのけている愛鷹だったが、防護機能は至近弾ダメージだけで既に飽和寸前だ。

 一刻も早くキース島の砲兵隊に座標を送って砲撃支援でス級を撃沈しないと、愛鷹が持たない。

 そんな第三三戦隊の元へギャラクシーが警告を発する。

(全艦コーション。参照点より方位二-七-〇より新たな艦影捕捉。敵増援艦隊だ。 反応は……リ級一、ツ級一、ハ級四)

 この忙しい時に、と深雪が歯噛みした時、青葉から深雪に伝達が入る。

 

(深雪さん、砲兵隊へ座標指示を。青葉と衣笠、夕張さんの三人で敵増援艦隊を迎え撃ちます)

(さ、三人で六隻とやりあうっての?)

 大丈夫かそれは、と衣笠が焦りを見せるが青葉はやるしかない、と返して通信を切った。

 やれと言われたらやってやる、と深雪はHUDの表示をナビゲートモードに切り替え、愛鷹へ砲撃を続けるス級を画面にとらえる。

 座標指示準備を行う深雪に夕張が無線を使わずに大声で応援を送る。

「頼むわよ、深雪!」

「分かってるって」

 元気よく返しながらも、眉間には汗を滲ませながら深雪はHUDに表示される座標の数字を見つめ、キース島に展開する砲兵隊とデータリンクする。

「ロングキャスター1、2へ、こちらホワイトハウンド2-2。感度は良好なりや?」

(どうぞ2-2、感度良好だ。座標指示の用意は)

「今送る。目標位置グリッド29950113、マイナス90085579、オーバー」

(座標確認……砲撃開始! Fire misson danger close. Ampua!)

 英語とフィンランド語交じりの返信が返され、「Ampua!(フィンランド語:撃て)」の言葉の直後、K9自走砲一〇門が斉射を行う轟々たる砲声がヘッドセット越しに届く。

 

 頼むぞ、砲兵隊……。

 

 水柱に翻弄されかける旗艦愛鷹を見つめながら持ち堪えてくれ、と愛鷹にも念じているとギャラクシーからレーダーで砲兵隊の砲撃を捉えた事が通知される。

(こちらギャラクシー。キース島からの飛翔体一〇発を確認! TOT(同時弾着)まで一〇秒)

「TOT一〇秒、了解! 愛鷹! 砲撃が来るぞ! デンジャークロースだ!」

(了解です! 深雪さん、指示した位置にスモークグレネードを投げて下さい。そこに一旦隠れます。深雪さんは煙幕展開後全速で離脱)

「了解した。白のスモークグレネードを投げるぞ」

 洋上で機関に負荷をかけずに煙幕を展開できるスモークグレネードを深雪が愛鷹にHUD共有で指示された位置に投げると、ス級の砲撃の隙を突いた愛鷹がその中へと飛び込む。

 深雪自身も最大戦速で離脱していると飛翔音が急速に頭上を通り過ぎ、ス級のすぐ傍に巨大な水柱を突き上げた。

 ス級がス級に撃たれたと思わせる程の水柱が一〇個同時に突き上がるのを見て、深雪はすぐにス級の動きを見つめながら座標修正を指示する。

「TOT確認。修正037、025」

(037、025、Roger!)

 次弾の装填と発砲まで暫し時間が必要だ。

 突如至近距離に着弾したロングキャスター隊からの砲撃にス級は砲撃の手をやめて、様子を伺っている。   

 いや、困惑している様にも見える。

 どこかに着弾観測機がいるのかと思ったのか、対空砲火を何もいない虚空へと打ち上げ始める。

 かかった、空に敵がいると勘違いしている。チャンスだと深雪がにやりと口元を緩めた時、愛鷹を包んでいた煙幕が薄れ始めた。

 在庫は残り五個。大事に使え、と自分に言い聞かせながら、全速力で愛鷹の方へと近づきながらもう一個スモークグレネードを出して愛鷹の傍へと投げ込む。

(諸元修正、次弾装填完了。斉射用意、Ampua!)

 再びフィンランド語で「撃てーっ!」と号令する掛け声がヘッドセット越しに響き、K9自走砲一〇門二個中隊分の砲声が遅れて響く。

 ヘッドセット越しに煙幕の中で愛鷹が噎せ込むのが聞こえる。

「大丈夫か⁉」

(大丈夫です、ちょっとスモークを吸っただけです)

 発作を心配する深雪にガスを吸っただけだと咳交じりに愛鷹が返す。

 声からして問題なさそうだ、と安堵する深雪にギャラクシーから飛翔体一〇発飛来の報が入る。

 

(当たれ当たれ当たれ当たれ当たれ)

 

 対空射撃を継続しながら単縦陣を維持して進むス級を見つめる深雪が念じていると、飛翔音が迫り、深雪の鼓膜を聾した。

 どこからの砲撃だ、と右往左往するス級三隻の内、先頭のス級の艦上に直撃の閃光が走った。

 これまでス級が食らった攻撃の中ではトラック島を巡る戦いででF35が差し違える勢いで体当たりした時を除けば最大級のモノだった。

 一〇発の一五五ミリ榴弾砲の砲弾の内半分の五発が同時に着弾すると、直撃を食らったス級の艤装が轟音を上げてひしゃげ、巨大なハンマーで叩き潰されたが如くの惨状に変わり果てる。

 大爆発がス級の艦上に吹き荒れ、瞬く間にス級の生き足が鈍る。

「着弾確認! ス級一番艦に命中確認!」

(了解!)

(見事な射撃指示です、深雪さん)

 煙幕越しに褒めて来る愛鷹に「サンキューな」と返しながら深雪は二番艦に照準を合わせると、座標をロングキャスター隊に送る。

 再装填と座標入力が終わったロングキャスター隊が三度目の斉射を行う。

 スモークグレネードのスモーク内に隠れる愛鷹に砲撃を向ける事はなく、空に敵がいないと分かったらしいス級が対空射撃を止めて様子を伺う素振りを見せる。

「勘付いたか? そうでもないか……?」

 遠くに見える三隻のス級を見つめる深雪がス級の様子を伺っていると、ギャラクシーから「飛翔体を確認、弾着まで一〇秒」と通達が入る。

「一〇秒……マーク」

 腕時計の秒針でカウントしていると轟々たる砲声が頭上から迫り、ス級へと飛んで行った。

 刹那、二番艦にまばゆい閃光が走った。深雪がいる位置にまで衝撃波が及ぶ程の大爆発が起こり、ス級二番艦が燃える松明と化す。

「当たり所が悪かったみたいだな……こちら2-2、ス級二番艦に全弾直撃を確認、ドンピシャだ!」

 燃える残骸と化するス級を見ながら深雪がロングキャスター隊に弾着効果を報告していると、ス級三番艦が二番艦の残骸に追突するのが見えた。

 一応航行可能で舵も効いた一番艦と違って、二番艦は一瞬で航行不能になった為、三番艦がその残骸を躱す時間的余裕がなかった様だ。

 玉突き衝突で三番艦が二番艦の残骸にハマって身動きが取れなくなるのを見て、深雪は「ゲームセット」と呟いた。

「弾着修正、002、003」

(002、003了解!)

 復唱する声をヘッドセット越しに聞きながら、もうスモークグレネードはいならないだろう、と思い直してピンに指をかけいたスモークグレネードから手を離す。

 諸元修正を行う声がヘッドセット越しに聞こえる中、スモークが晴れて中から愛鷹が現れた。

 至近弾のダメージを受けたらしい制服が随所で破けたり、ささくれ立っており、切り裂かれた袖の下の腕からは血が滲んでいたが軽傷の範囲で済んでいる様だ。

「やりましたね」

「あったりまえさ」

 にやりと笑う深雪に愛鷹は微笑を浮かべて互いに拳をぶつけ合う。

 二人が拳をぶつけ合っている中、一番艦が突如大爆発を起こして砕け散った。火災の延焼消火が間に合わず、弾薬庫に誘爆を起こしたらしい。

 二番艦、三番艦は衝突して動けなくなっている。

 先程までの猛砲撃が嘘の様に止み、愛鷹がこれで終わりなのか、と拍子抜けする思いを浮かべていた時、ギャラクシーから敵増援探知の報告が入る。

(敵増援数三隻。この反応はレ級flagship級一、リ級flagship改二隻だ!)

「めんどくさいのが来たぞ!」

 主砲を構え直して深雪がギャラクシーにレ級とリ級合計三隻から成る艦隊の来る方位を訪ねる。

(参照点より方位三-五-〇)

「了解、青葉さん、そちらの様子は」

(ハ級は全艦撃沈し、現在リ級とツ級と交戦中! リ級はⅡflagship級、ツ級はelite級な為手こずってます! ガサ、左翼はお願い! 夕張さん、伏せて!)

 砲撃戦で忙しい青葉が砲声に負けない大声で吹き込んで来る。

 ヘッドセットから手を離した愛鷹は深雪を見る。

「青葉さんたちは手が離せないようです。蒼月さんはワシントンさん護衛でしばらく手が離せない……深雪さん、やってくれますね?」

「任せろ、深雪様が愛鷹を守って見せるって」

 言い切ってしまう深雪に頼もしい限りだ、と思いながら愛鷹は絆創膏を切り傷の患部に張り付けて応急処置を済ませると、左手で刀を引き抜き、深雪と共にレ級flagship級とリ級flagship改三隻の艦隊に挑みかかった。

 

 ケリをつけてやる。

 

 

 レ級flagship級以下三隻の艦隊が来る方向を愛鷹が殺意を湛えた目で見据える。

「作戦は?」

 背後から問う深雪に愛鷹は手短に説明する。

「リ級Ⅱflagshipをまず片付けます。二隻を撃沈後、レ級flagship級を私が牽制しますので、その間に深雪さんは雷撃でレ級flagship級を撃破してください」

「了解だ。青葉達は大丈夫かな」

「青葉さん達なら大丈夫ですよ」

 振り返らずに言い切ってしまう愛鷹に、信頼されてるんだな青葉は、と深雪は微笑を浮かべた。

 

 リ級flagship級の中でも上位種と言えるflagshipⅡに手こずる青葉と衣笠に対し、夕張もelite級のツ級と激しい砲撃戦を繰り広げていた。

 一四センチ連装主砲が何度目か分からない斉射の炎を放ち、直撃を受けたツ級が一瞬姿勢を崩す。

 しかし、まるで夕張の砲撃など大したことが無いとでも言うかの様にすぐに立て直したツ級が砲撃を放ち、魚雷を流す。

 白い航跡を引く殺人鬼が夕張の足元を掠め、速射される砲撃が彼女の周囲に至近弾の水柱をいくつも突き立てる。

「これ、ちょっとヤバくない……?」

 主砲の発射トリガーを引き絞り、主砲を発砲しながら夕張が冷や汗と共に呟いた時、水柱の轟音にかき消されて聞き取るのが遅れたツ級からの一弾が夕張を捉えた。

 ツ級に直撃弾を与え続けていた夕張だったが、遂に被弾した。軽巡と言え、ツ級、それもelite級の砲撃はノーマルのツ級の砲撃よりワンランク上なだけに、夕張が受けたダメージは只では済まなかった。

 被弾の衝撃で彼女が大きく姿勢を崩す。HUDに「Damege Report」の表示が出て、自動的に被弾個所と被弾部位が表示される。

 左肩に走る激痛にこれは只じゃ済んでないわね、と夕張がHUDの表示を見て損害を確認する。

 第二主砲沈黙、甲標的発射管及び発電機室損傷、予備電源に自動接続、と肩に食らったダメージ以上の被害を被った艤装の損害報告に舌打ちをする。

 発電機室がやられたと言う事は、防護機能展開の為の電力供給が予備電力であるバッテリーに切り替わったと言う事になる。

 バッテリーでも防護機能は維持できるが、発電機と比べたら展開可能時間はたったの五分。それもさらに直撃を受けなければの話で、被弾して電力を消費すればバッテリーの消耗は早まり、最悪防護機能は失われてしまう。

 再度舌打ちをしながら、残る第一主砲でツ級にカウンターアタックをかけた時、戦闘力、防御力が大きく低下している夕張にさらにツ級が直撃弾を与えて来る。

 胸に走る衝撃に肋骨が折れるのを感じ取った。防護機能がなかったら胸に大きな穴が開いて即死だっただろう。

 それでも被弾して欲しくない場所に被弾した自分の動きの鈍さと精確なエイム力のツ級を呪った時、口にこみあげて来るものを堪え切れず、夕張は音を立てて吐き出した。

 鮮血が口から吐き出され、噎せ込む。噎せ込む度に肋骨が逝かれた胸部に激痛が走る。

 痛みのあまり動けなくなる自分にツ級がさらに砲撃を強める。

「チートじゃない……ツ級ってこんなに強かった?」

 モルフィネの注射器を打ち、胸部に走る激痛を和らげながら夕張はツ級を睨んで恨み節を吐く。

 痛みを軽減させる処置をしたばかりの自分に更に直撃弾の爆発が走る。辛うじて防護機能と装甲が弾くが、バッテリー残量がごりっと減る。

「青葉、衣笠、どっちもで良いから援護を! ツ級にやられてこっちは」

 リ級と交戦中の青葉と衣笠の二人に援護を要請した時、夕張の頭にツ級の放った一弾が直撃した。

 艦娘の防護機能の中でも胸部と頭部の強度は一番高い。それでも、衝撃までは緩和してくれる訳ではない。

 物理的な衝撃が夕張の頭部を強打し、夕張の意識が一瞬にして暗転した。

 

「夕張被弾、沈黙!」

「沈黙⁉ 夕張さん、返事を。応答してください!」

 ようやくリ級Ⅱflagshipに直撃弾を与えて動きを鈍らせたばかりの青葉に、見張り員妖精から焦燥をあらわにした声で報告が入る。

 海上に倒れ伏す夕張が頭から血を流しているのを見て、拙い、と青葉は胸中で夕張の危機を悟る。

「ガサ、リ級の相手はお願い! 青葉は夕張さんの救援に入る」

「分かったわ!」

 主砲を放ちながら頼みを承諾する妹にありがとうと口には出さずに礼を言いながら、動かない夕張にとどめを刺そうと接近するツ級に青葉は主砲砲撃で牽制射を与える。

「夕張さん、応答してください! 夕張さん! 返事をして!」

 頭が吹き飛んでいないあたり頭部へのダメージは恐らく防護機能で抑えられている筈だが、見て見ない限り分からない。

 動かなくなった夕張に気を取られていたツ級は夕張の主砲より威力がある青葉の二〇・三センチ主砲の砲撃でダメージを受けた素振りを見せる。すでに夕張と撃ち合っていただけにダメージが嵩んでいたのかもしれない。

 遁走にかかるツ級だったが、突如ツ級の足元で爆発が起き、ツ級を水柱と爆炎が包み込み、水底へと一瞬にして沈む。

 当たるか外れるか半分半分で青葉が撃った魚雷一発がツ級を捉えたのだ。その事をツ級は知る由もないまま海底へと沈む。

 轟沈するツ級を見やりながら、青葉は夕張の救護に入る。

 夕張の装備妖精が夕張の首筋を探っていた。大急ぎで寄ってきた青葉に夕張の首筋を探っていた装備妖精が親指を立てた。

 脈はある。その知らせにほっと溜息を吐きながら、青葉の手で夕張の様子を伺う。

 頭部への直撃時の衝撃で脳震盪を起こして気絶したらしい。大丈夫だ、と頷きながらファーストエイドキットから包帯と消毒剤諸々を出して応急処置をする。

 ワシントンに加えて、夕張も戦闘不能か、と歯噛みしながら夕張の傷口を手早く応急処置していく。

 HUD共有でバイタル被害を確認し、唾つけておけば大丈夫と言うレベルではないが、この傷なら死ぬ事はないと判断する。

 肋骨が折れているのが心配だった。生憎肋骨の骨折用の添え木や包帯まではファーストエイドキットには含まれていない。

 HUDをレーダー表示に切り替えると、救難ヘリにワシントンを託した蒼月が戻ってくるのが表示されていた。

 無線を蒼月に繋ぐと青葉は夕張を「ズムウォルト」まで護送する様に頼む。

(りょ、了解しました!)

(待って青葉、今から私が向かうから蒼月は愛鷹さんの援護に向かわせた方が良いんじゃない?)

 無線に割り込んで来た瑞鳳に、「今どこです?」と問う。

(今発艦するところ。コンバットメディック役の瑞鳳に任せて蒼月は戦線に戻すべきじゃないかしら)

「……そうしましょう。瑞鳳さん、夕張さんの場所に着くまでどれくらいかかりそうですか?」

(五分もあれば付けるよ)

「了解、頼みましたよ。蒼月さん、衣笠の支援に回れますか?」

(心配ご無用青葉、衣笠さんなら今しがたリ級Ⅱflagshipに痛いのをぶっ食らわせたところよ)

「その様子なら大丈夫だね……なるべく早くリ級Ⅱflagshipを始末して蒼月さんと一緒に合流して」

(了解よ)

(了解です)

 衛生兵資格持ちの瑞鳳に夕張の回収を任せると、青葉は夕張の周囲に鮫除けの薬剤を散布して血の匂いによって来る鮫に備えた。

 遠くで衣笠がリ級Ⅱflagshipを仕留める爆発音が聞こえた。

 

 これで敵の増援艦隊第一陣を退けたか、と安堵のため息を吐きながら、第二陣のレ級flagship級とリ級Ⅱflagship三隻からなる艦隊と交戦する愛鷹と深雪の様子を電探表示で伺う。

 ちょうど交戦開始する所の様だった。練度では問題無いとは言え、やはり数的に不利だ。火力でも深雪は魚雷以外にリ級Ⅱflagship級に勝っているところがない。

 すぐにでも急行しないと愛鷹と深雪が撃沈されかねない。

 レ級flagship級とやりあった事はないが、elite級となら青葉も交戦経験はあるし、そのレ級elite級に青葉も手酷くやられた経験がある。

 flagship級となれば厄介さはワンランクかツーランク上だろう。

 

 

 四一センチ主砲五門の砲声と共に徹甲弾が砲煙を纏いながら叩き出され、第一目標のリ級Ⅱflagship級に向かって飛翔していく。

 ただのリ級より格上に当たるflagship級のⅡなだけあって初弾命中とはいかない。幸いなことにリ級Ⅱflagship級はレーダーを装備していないのでリ級Ⅱの放つ砲撃精度に関しては特段高いと言う訳でもなかった。

 しかし回避されてしまうと次弾装填までの時間が惜しいのも確かだし、遥かに脅威であるレ級flagship級もいるから早期に決着をつけないと拙い。

 諸元修正と再装填が終わった主砲を構える愛鷹の周囲にリ級Ⅱとレ級flagship級の放った砲撃が着弾する。

 愛鷹と深雪の二人と、レ級とリ級Ⅱの三隻は同航戦を描く形で西へ進路をとって撃ち合っていた。

 深雪は主砲射程外の為一発も撃たずに続航している。何度か深雪へ飛んでくる砲撃もあったが、愛鷹の防護機能と刀を使った防御で被害は二人とも無い。

 被害は無くても、ケリを早くつけないとレ級flagship級に本気で暴れられたらこちらは火力負けしてしまう。

 修正した諸元をHUDで見て少し考えこんだ愛鷹は、手動入力で第一主砲と第二主砲の射角を少しずらした。

「第二主砲、撃ちー方始めー! 発砲!」

 まず第二主砲を撃ち、二発の四一センチ弾をリ級Ⅱに向けて放つ。

 砲撃を確認したリ級Ⅱが面舵に切って回避する。その動きを見て愛鷹はすかさず第一主砲を撃ち放った。 

 面舵に切ったばかりのリ級Ⅱが愛鷹の砲撃に気が付いて舵を切るが、実はリ級Ⅱの舵の反応速度はほんの僅かだが他のリ級シリーズより落ちていた。

 回避を始めれば一気に回避してしまうのだが、舵の反応速度では実は微妙にタイムラグがあるのがリ級Ⅱの特徴だった。

 身体も倒して回避にかかるリ級Ⅱの艤装に、愛鷹の砲撃が直撃する。ネ級改のような高耐久は持ち合わせてないだけにリ級Ⅱが瞬く間に大破する。

 火器をあらかた潰されたリ級Ⅱがようやく効いた舵の方向へと転舵し、ありったけの速度を出して離脱していく。

 逃げるのなら、別にいいだろう。あの損傷ならいくら現場での回復能力に優れている深海棲艦とて、ワ級等の修理機能を持つ支援艦艇のバックアップ抜きには全回復は無理だ。

 第二目標のリ級Ⅱへ照準を合わせる。

「いいぞ、二対二だ愛鷹。負ける筈ねえ!」

「深雪さん、リ級Ⅱを撃破したらエンジンブーストを起動して一気にレ級に肉薄し、魚雷攻撃をお願いします」

「任せろ」

 主砲を放ちながらヘッドセットで深雪にレ級への魚雷攻撃に備えるよう指示する。

 速射で愛鷹と深雪に砲撃の雨を降らすリ級Ⅱに対して、レ級は散発的な砲撃を行うだけになっている。

 心なしか、二隻の間隔も開いている。何か考えがあるのか? と愛鷹が疑った時、レ級の航空艤装から艦載機が発艦した。

「水上戦闘中に艦載機を発艦させた⁉」

 艦娘側ではまずやらないやり方に打って出るレ級に深雪が驚きの声を上げる。

 愛鷹と深雪に向かってレ級が発艦させたのは八機の艦爆だった。elite級と同様の機体、飛び魚艦爆だ。

「対空戦闘用意! 深雪さん」

「おうよ! 深雪様の弾幕を食わらしてやるぜ」

 両手に構える一二・七センチA型改三高射装置付きの仰角を取りながら深雪はレ級の放った艦爆隊を見据える。

 艦爆だから攻撃方法は爆撃。雷撃機と違って急降下爆撃か、反跳爆撃の二択だ。

 厄介なことになる前に仕留めるぞ、と深雪が一三号対空電探改が捉えた艦爆に対して対空射撃を開始する。

 愛鷹の四一センチ主砲より小さな砲声が響き、対空弾が撃ち出される。

 近接信管で艦爆の周囲に爆炎が吹き荒れる。牽制ではない、撃墜する勢いで撃ち上げられる対空弾の散弾に艦爆八機はグラグラと揺れる。

 タコヤキと呼ばれる艦載機程強くはない。とはいえ、ぶら下げている爆弾の威力に何らふざけたところはない。

 当たれば深雪なら一撃で大破確定だ。愛鷹とて当たり所次第では深刻なダメージを被りかねない。

 リ級Ⅱに砲撃を行う愛鷹が左舷の高角砲を自動照準管制で起動させるが、砲戦が右砲戦故に高角砲はその設置場所から指向出来なかった。

 対空噴進砲と左腕にマウントされた機関砲しか対空射撃に使えるものがない。そのうち機関砲は愛鷹の剣裁きを制限してしまうので事実上愛鷹の防空手段は噴進砲と深雪のエアカバーだけだ。

 防空は深雪に一任して、自分は早くリ級Ⅱを仕留めなければ。微かな焦りを覚えながら右に左に回避行動をとって自分の砲撃を躱してのけるリ級Ⅱを睨む。

 砲撃を止め、回避に専念するリ級Ⅱは第一目標のリ級Ⅱよりも面倒な相手になっていた。至近弾は与えているが、有効打には程遠い。

 中距離砲戦を捨てて、深雪共々吶喊して必中を期するか。いやレーダーを備えているレ級もいるから近づくのは危険だ。

 ちまちまと砲撃を続けるか、それともここは思い切ってレ級に制圧射撃を行うか。

 

 そこへ、青葉から通信が入る。

(愛鷹さん、待たせました。衣笠と蒼月さんと共に参上です)

「夕張さんは?」

 別動隊を始末した青葉、衣笠、蒼月の三人をレーダーで認めながら、夕張の表示が無い事に愛鷹が尋ねるとやや沈んだ声で青葉は答える。

「ツ級との砲戦に撃ち負けて大破です。瑞鳳さんが今曳航して『ズムウォルト』へ回収してくれました」

「了解。青葉さん、衣笠さん、蒼月さんはリ級Ⅱを攻撃してください。ギャラクシー、敵の増援の様子は?」

(ネガティブ、敵の反応はない。奴らリ級Ⅱとレ級を送り込んでからこっち増援を送る気配がない)

 

 この海域に展開する深海棲艦もス級三隻が撃沈破されて、攻めっ気が落ちたか。

 

 ならば好機かもしれない。レ級flagship級を撃破すれば、高脅威目標は殆どいなくなったも同然だ。

 今の問題は上空の艦爆八機。なかなか攻撃して来ようとしない。

 牽制目的か、こちらが油断した隙を待っているのか。深雪が対空射撃を行っているが、一機も撃墜出来ていない。

「落ちろ! 落ちろってんだよ!」

 流石にいら立った声を上げる深雪が引き金を引き絞り、対空弾を撃ち上げる。

 艦爆一機のすぐ傍に爆炎が咲いた時、ダメージが限界になっていたらしい艦爆が黒煙をふきながら高度を急激に落としていく。

「一機撃墜! トラック3302照準、発砲、てぇーっ!」

 ようやく落ちた艦爆に安堵する間もなく、二機目に照準を合わせて深雪は砲撃を開始する。

 ふと愛鷹が落ちて行く艦爆を見ると、パイロンに爆弾の影がないのが見えた。墜落前に投棄した様子は無かった。

 もしかして、艦爆隊は爆装していない?

 目を凝らして艦爆隊を見上げると、八機全機のパイロンに爆弾が懸架されていないのが見えた。

 爆装していない……なら攻め方を変えるか。刀を構え直した愛鷹は作戦変更を深雪に伝える。

「深雪さん、対空射撃で援護を。私はレ級に吶喊します」

「おいおい艦爆から袋叩きにされるぞ?」

「あの艦爆は爆装してません。恐らく弾着観測機かこちらの動きを牽制する為だけに発艦したのでしょう」

「なんだ、ただの嫌がらせだったのか……よし、このままじゃ埒が明かないしな、分かった。死ぬなよ」

 主砲はレーダー自動射撃管制に任せ両手で刀を構えると愛鷹はレ級に向かって進路を変更した。

 こちらへ最大戦速で接近してくる青葉、衣笠、蒼月にハンドサインを送ってリ級Ⅱへ向かわせる。

 自分へ急接近してくる愛鷹にレ級が砲撃の火蓋を切る。

 CICからレーダー照射を受けている報告が上げられてくるが構わずレ級flagship級に突撃する。

 レ級からの砲撃が飛来するが、弾道を読み切った愛鷹の刀で直撃弾はことごとく切り落とされ、弾かれてあらぬ方向へと飛ばされる。

 流石に拙いと言う顔になるレ級に愛鷹は主砲を指向し、無言で発砲する。この距離ならそこそこダメージは入るのでは? と言う希望的観測だったが、レ級は腕をクロスして砲撃を弾く。

 

 この距離からの砲撃すら無効化されるなんて……こっちは艦娘用に作られた強化APDS弾だと言うのに。

 

 防御力はやはりflagship級なだけに化け物か。しかし、この刀による近接攻撃までは想定して無い筈。

 自分の接近を許したレ級が主砲を乱射して弾幕防御に出る。愛鷹の周囲に多数の水柱が突き立ち、彼女から視界を奪う。

 だが距離はもう手を伸ばせば届くような距離だ。貰った、と愛鷹がほくそ笑みかけた時、まだ距離がある段階でレ級が腕をクロスして防御の構えを取った。

 刹那背後からプレッシャーを感じた時、飛翔音が背後から迫った。

 

「なに⁉」

 

 咄嗟に振り返った時、なんと青葉達からの砲撃の雨を掻い潜りながらリ級Ⅱが愛鷹へ向けて放った砲弾が彼女の視界に大きく映っていた。

 

 拙い!

 

 咄嗟にかざした右手で防護機能を展開する。派手な爆発が走り、衝撃が右腕をじんと痺れさせる。

 右腕の感覚が一時的にマヒし、刀に手を添えるどころではなくなってしまう。痛みを堪える愛鷹にリ級Ⅱがレ級への同士討ち上等で放つ援護射撃の次弾を放とうと主砲を構える。

 再装填が終わったリ級Ⅱの主砲が愛鷹に向けられた時、その艤装に青葉からの主砲弾が直撃し、リ級Ⅱの姿勢が崩れる。

「お前の相手はこっちだ!」

 続航する衣笠と共に青葉が集中砲火をリ級Ⅱに浴びせる。

 邪魔を入れてきたリ級Ⅱに青葉と衣笠が挑みかかるのを確認した愛鷹がレ級に振り返った時、レ級は魚雷を発射した。

 一〇本近くの白い雷跡が急激に愛鷹に迫る。咄嗟に愛鷹は魚雷群の鼻先に主砲を向け、信管設定を着発にして撃つ。

 海面に五発の砲弾が突き立てる水柱のカーテンが出来上がり、魚雷群の半数が爆発に巻き込まれて誤爆する。

 自分の左右両側を逸れた魚雷が通り過ぎるのを一瞥しながら、レ級に吶喊し、刀をその艤装に向けて振るう。

 第一主砲の砲身が切り落とされて無力化される。が、レ級は第二主砲を構えると自分にもダメージが及ぶ事も厭わずにゼロ距離射撃を試みた。

 咄嗟に左舷の飛行甲板を第二主砲の砲撃の盾にする。轟音と共に飛行甲板に大穴と爆発の炎が走り、着艦フックやカタパルトが吹き飛ぶ。

 航空艤装を丸々お釈迦にしながらも、辛うじてレ級の砲撃を防いだ愛鷹は、次弾装填完了前に第二主砲の砲身を薙ぐ。

 主砲全基を無力化されたレ級だったが、今度は右腕で愛鷹を殴りつけにかかった。

 流石にこればかりは躱す体制をとる余裕がなく、愛鷹の顔面にレ級の拳が炸裂する。

 顔面にパンチを食らった愛鷹の目から火花が散り、思いのほか強いその拳の勢いに押されて後ろへとよろける。

 するとレ級はスタンした愛鷹にタックルをかけ海上に彼女を押し倒す。体格差では愛鷹が圧倒的に背が高かったが、レ級は機関部を最大戦速にして体当たりしていた。

 馬乗りになってきたレ級が愛鷹の顔面に拳の嵐を浴びせる。愛鷹の鼻と口から血が流れだす中、愛鷹は左足でレ級を蹴り飛ばして引きはがす。

 一時後ろに蹴り出されたレ級だったが、即座に起き上るとまだ倒れている愛鷹の左足を艤装でがっちりと嚙み咥えた。

「肉を切らせて骨を切る!」

 左足に走る痛みを堪えながら、愛鷹はレ級の艤装にがっちりと噛み加えられている左足の主機を脱ぎ捨て、右足だけで海上に立ちながら刀を構える。

 一瞬だが迷いが出た。タ級を刺殺したラバウルでの戦いの光景が脳裏をよぎる。

 

 隙が一瞬出来た愛鷹にレ級は、脱ぎ捨てられた主機を吐き出させながら機関砲の射撃の雨を愛鷹に叩き付ける。

 

 防護機能がHUDで一気に飽和寸前になりかけるのが表示される。

 

 迷うな!

 

 

 半ば強引に決めた愛鷹は右足で海面を蹴ると、刀をレ級の腹部へ突き立てた。

 突っ込んだ勢いで今度は愛鷹の方からレ級に体当たりする。刀の切っ先がレ級の胴体を貫通し、体液にまみれた白刃がレ級の背中に突き出る。

 

 脳裏に施設時代、自分と同じクローン相手に同じ様なことをやった光景がフラッシュバックして来るが、覚悟を決めてやった事もあってか、深刻と言える程の精神的なダメージは直ぐには無かった。

 

 それでも激しい頭痛が突発的に訪れ、呻き声を漏らしながら、刀をレ級から引き抜く。

 

 流石にこれは大ダメージになったらしいレ級が腹部を押さえ、無事な機関部に全速の加速をかけて離脱していった。

 

 ここで「苦しみ」が愛鷹に牙を向いた。

 

 施設時代に味わったクローン同士の殺し合いの苦しみとその時の光景が脳裏に激しくフラッシュバックして、愛鷹は追撃どころではなくなっていた。

 もっとも左足の主機も脱いでしまっているから、全速発揮もできないのだが。

 激しい頭痛が頭を割らんばかりに襲い、その過度なストレスからか発作の症状まで愛鷹の体を襲う。

 咳と吐血、体中を襲う言い表せようの無い痛みと苦しみ、胸を圧迫するような息苦しさが刀を再び深海棲艦相手と言え使った事を責め立てるかの様に押し寄せる。

 誰かが責め立てるかの様な声すら聞こえる気がした。

 震える手で血だらけの口にタブレットを数錠入れて吞み下しても、苦痛はすぐには止んでくれない。

 

「……痛いよう……痛いよう……」

 

 幼児の様な苦しみの言葉を吐き、声にならない苦痛の喘ぎ声を上げた時、限界を超えた脳がぷつりと音を立てて動かなくなり、愛鷹の意識が途絶えた。

 

 

(こちらギャラクシー。青葉と衣笠が攻撃していたリ級Ⅱの撃沈を確認。残存艦爆隊及びレ級の戦域外離脱も確認。

 ス級二番艦、三番艦はエコーが小さくなっている。沈没は時間の問題かもしれないがとどめを刺してくれロングキャスター隊)

(了解だ、ギャラクシー。座標送れ)

 ヘッドセット越しにギャラクシーとロングキャスター隊がやり取りするのを聞きながら、青葉は衣笠、深雪、蒼月と共に、愛鷹の方へと向かっていた。

 洋上に倒れ伏す愛鷹の片手に握られる刀にレ級の体液が付いているのを見て、またやっちまったのか、と深雪が気まずそうな声を上げる。

「愛鷹さん、レ級相手に刀を」

「あいつ、ラバウルでの戦いの時もタ級相手に使って刺殺して、その時昔を思い出して発狂しちまったんだよ……今回は自分の意思でやったようだけど」

「無理しないで下さいよ愛鷹さん……いつも愛鷹さんは無理をするんですから……」

 海上を漂う愛鷹の左主機を衣笠が拾っていると、彼女の耳にぐったりとしている愛鷹を担ぎ上げる青葉が珍しく厳しい口調で呟くのが聞こえた。

 

「馬鹿ですよ愛鷹さんは……馬鹿じゃないの……」

 

 容赦無しにまるで切って捨てる様に呟く青葉へ衣笠が「言い過ぎよ」と言おうとした時、遠くで大破漂流中のス級に止めを刺す着弾音と爆発音が轟いた。

 

 

 とどめを刺されたス級二隻が上げる爆発炎と立ち上る黒煙が戦闘終結の合図を告げていた……。




 レ級flagship級と愛鷹との肉弾戦、もう自分でもナニコレ感しかなかったです。
 多分もうやりません。てかやりたくない。
 
 K9自走砲によるス級の長距離砲撃攻撃の場面はアルドノア・ゼロの「カエル頭」ことソリス戦を元ネタにしています(座標とかまんまソリス戦のイナホのセリフです)。
 
 ネ級改とエリツがやたら強く描かれてますが、これは先年のイベントでイントレピッド堀りでネ級改に苦戦させられた経験と、5-4でエリツに辛酸をなめさせられた経験の反映です。

 次回投稿は二月をめどにしたいところですが、冬イベントの予告もあるので伸びるかもしれません。
 出来るだけ詐欺にならないよう善処します(前科持ち)

 ではまた次回のお話でお会いしましょう
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