艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

66 / 121
 2022年夏イベ前に投稿です。
 ピクシブの方で異聞坊ノ岬イベントの小説も投降し始めましたのでそちらもよろしくお願いいたします。


第五九話 転換点

 第三三戦隊から放たれた砲弾が空中を飛翔していき、各自が狙った深海棲艦の傍に着弾の水柱を突き上げる。

 愛鷹が狙っていたのはル級flagship級だった。唯一ル級と正面から砲撃戦を挑んで打ち勝てる見込みがあるのが愛鷹の四一センチ主砲だけに、自然と彼女がル級を相手取る事になっていた。

 青葉と衣笠はツ級を、夕張と深雪、蒼月はハ級を攻撃していた。

 相手もflagship級とだけあって、回避運動にキレがあり第三三戦隊の砲撃も初弾は易々と躱される。

 次弾装填を行っている間に深海棲艦側も輸送艦であるワ級まで備砲で反撃を行って来た。ワ級と言えど、一隻は巡洋艦レベルの火力があるflagship級なだけに侮れない。

「てぇっ!」

 射撃の号令の一言と共に愛鷹は射撃トリガーを引き、手動照準でル級に指向された四一センチ主砲五門が発砲の火焔を砲口から迸らせ、反動で砲身を交代させる。

 撃ち出された一式徹甲弾改が轟音を上げて空中を飛翔していき、ル級の至近距離に着弾の水柱を上げる。

「第二射、近! 修正上げヒト(1)!」

 CIC妖精が射撃諸元の修正を行い、四一センチ主砲五門の砲身が微妙に仰角を変える。

 次弾装填中の愛鷹の耳に遠方からル級が放った射撃の砲声が聞こえて来る。本能的に直撃すると悟った彼女が鞘から刀を引き抜き、虚空を睨む。

 飛翔して来るル級の砲撃を見切った愛鷹の滑らかな剣裁きで彼女に直撃するはずだった二発の砲弾が切り裂かれ、鈍い金属音を上げて真っ二つにされた敵砲弾が無力化されて海上に落ちる。

 切り裂かれて無力化された砲弾の断片が愛鷹の周囲に水柱を突き上げて海中に沈んでいく中、再装填が終わった彼女の主砲が発射準備完了のブザーを鳴らす。

「発砲、てぇっ!」

 射撃号令と共に引かれた射撃トリガーが五門の主砲に発砲を促し、連続した五回の砲声が愛鷹の艤装から轟く。

 発砲した砲身から燃焼ガスが噴き出された後、砲身を一旦水平にして再装填を行う。

 再装填中、愛鷹の目が放たれた自分の射撃の成果を確認する。

 狙われていたル級も当たると感じたのだろうか、取り舵に切って回避運動を図り、攻撃を躱す。惜しい所に愛鷹の放った砲撃が着弾する。

 応射の発砲炎をル級が艤装に瞬かせると、海上に砲声が轟き、程なくして虚空からル級の放った砲弾が愛鷹へ降り注いだ。

 取り舵に切った分、諸元が微妙に狂ったのか砲撃は彼女の周囲に水柱を突き立て、何発かが愛鷹の直下で水中弾となって爆発する。

 足裏からドドンと言う爆発音が響き突き上げるような衝撃が足元から伝わるが、主機にも舵にも被害は無い。

 次は当てる、とル級を見据えて愛鷹が再装填が終わった主砲の射撃トリガーに掛ける指に力を込めた。

 

 四一センチ主砲の砲声が砲口から砲煙と火焔を伴って放たれた時、青葉、衣笠の二人が狙うツ級の艤装に二人からの砲撃が一発ずつ着弾する。

 軽巡級と言えど流石にflagship級なだけあり、ツ級は二人からの砲撃の直撃弾二発程度で参る相手ではなく即座に立て直して反撃の砲撃を青葉へと放つ。

 身体そのものを右に傾けてツ級の砲撃を躱してのける青葉が主砲を構え直し、照準をツ級へと合わせる。衣笠からの暗黙の発砲用意良しの合図を受け取るや青葉は射撃トリガーの発射ボタンを押し込んでいた。

 青葉の右肩に担がれている主砲艤装の二〇・三センチ三号砲四門が発砲の火焔を砲口から放つと、ほぼ同時に衣笠の両手持ちの二基の主砲と左足の主砲の計六門からも砲撃の火焔が放たれる。

 二人からの砲撃に対してツ級も速射で応戦を試み、青葉の周囲に砲撃の雨が降り注ぐ。

 回避能力に優れるツ級なだけあってそう簡単に直撃弾は得られないが、青葉と衣笠にも被弾は無い。

 何度目か分からない砲撃を躱した後、スナップショットの要領で青葉が砲撃を放った後、ツ級の艤装に青葉の砲撃が直撃する。

 ぐらりとツ級が体勢を崩したところへ畳みかける様に衣笠からの砲撃が降り注ぎ、ツ級の火器が軒並み破壊される。

 それでもなお屈しないツ級は生き残っていた魚雷発射管を青葉へと指向するが、その魚雷発射管から魚雷が射出される前に青葉と衣笠が放った斉射の射撃が着弾した。

 二人からの集中砲火計一〇発が直撃するとツ級は悶え苦しむ様にのたうちながら炎に包まれて海上に倒れ込む。火災の炎が海水とせめぎ合い水蒸気の白い煙を周囲に噴き上げる。

「ツ級flagship級の撃沈を確認」

 癖でヘッドセットに吹き込んでから、今は強力な羅針盤障害で使用不能になっている事を青葉は思い出す。

 次に狙うは……と目標を見定めた青葉は衣笠にハンドサインを送って青いオーラを放つワ級に射撃の照準を合わせる。

 よく見ると青いオーラのワ級はこれまでに確認されているワ級とは少し違った外見をしていた。何かの電子戦アレイの様な構造物がその艤装にいくつも突き立っている。

 電子戦型のワ級、と言う仮説はあながち間違っていないのではないか、と狙いを付けたワ級を睨みながら青葉は衣笠と共に青いオーラのワ級へ砲撃を開始する。

 するとそれまで夕張と深雪、蒼月に対して牽制射撃感覚で備砲で応戦していたワ級flagship級が増速をかけ、青葉と衣笠の砲撃の間に割って入った。

 青いオーラのワ級は装備が重いのか動きが鈍いのに対してワ級flagship級はそれよりかはまだ自由が効く方だ。二人からの砲撃に割って入ったワ級の艦上に直撃の閃光と火炎が立ち上がる。

「盾になった⁉」

 目を剥いて驚きの声を上げる衣笠と違って、狩人の目になった青葉は良いでしょう、ならまずはそちらから始末してあしあげましょう、と決めると左足にマウントされた魚雷発射管をワ級flagship級へ指向する。

「発射管一番二番、用意良し……てぇーっ!」

 左足の魚雷発射管から二発の魚雷が圧搾空気で撃ち出され、海中へ飛び込むとモーターを駆動させて馳走を開始する。

 備砲で青葉と衣笠に牽制射撃を試みるワ級flagship級へ見えない航跡を引く酸素魚雷二発が忍び寄っていく。ワ級にはソナーが備わっていないのか、青葉の放った魚雷に気が付く様子は無い。ましてや青葉が放った魚雷は航跡をほとんど引かない酸素魚雷だ、視認する頃には回避は困難だろう。

 腕時計を見て命中の時を待つと、ワ級flagship級の左舷の舷側に魚雷二発の命中の火焔が突き上がる。火炎は黒煙へととってかわられ、夥しい浸水によってワ級flagship級は大傾斜を始める。

 情け無用とばかりに青葉と衣笠からとどめの砲撃が浴びせられ、左舷に傾斜するワ級の艤装に着弾の閃光と火炎がいくつも走る。

 積載物資に引火爆発したワ級flagship級が大爆発を起こし、きのこ雲状の黒煙を海上に立ち上らせる。

 邪魔になっていたワ級flagship級を撃沈し、改めて砲撃目標を青いオーラのワ級へ定めた青葉と衣笠は鈍足で離脱を試みる青いオーラのワ級へ砲撃の火蓋を切った。

 装備が重いのか、回避運動を試みる青いオーラのワ級の動きは鈍く、青葉と衣笠の砲撃は初弾から命中を果たした。

 電子戦アレイの様な構造物が吹き飛び、火災の炎が青いオーラのワ級を包み始める。

 すると、突然青葉のHUDが「RESTART」の文字を表示すると、「HUD ONLINE」の表示が続けて現れ、電探、通信、データリンクの全てが復旧を果たした。

「HUD再起動。え、あいつに砲撃を当てたら治ったんだけど……」

 何が起きたと衣笠の毒毛を抜かれた様な反応に対し、青葉は確信を持っていた。

 あの青いオーラのワ級は電子戦タイプのワ級だ。電探、通信、航法管制、データリンクの全てを強力な羅針盤障害でジャミングする新型種。

 だが防御力はさほどでもない。電子戦アレイを艦上に付き合立てている関係上、それらが破壊されてしまうと一気にその価値を喪う。電子戦アレイには装甲の類は施せていない様だ。

「電子戦型ワ級、さしたありデンワとでも呼ぶべきかな」

 その場での思い付きの略称を口にしながら衣笠とのデータリンクを復旧させると統制砲撃で電子戦型ワ級に止めの砲撃を浴びせる。

 二人からの砲撃に内部の電子機器がショートしているらしい火花を散らしながら、電子戦型ワ級が大火災の炎に包まれ行き足を止める。

 HUDが復旧したとなれば数的有利も相まって第三三戦隊が優勢となっていた。

 愛鷹のHUDも復旧し、射撃に必要な全制御系が元通りの表示をHUDの画面に表示する。

 

 今更治ってもね……と胸中でつぶやきながら既に何発か当てているル級に精度が向上した砲撃を叩き付ける。

 四一センチ主砲弾を何発か被弾して損傷を重ねていたル級に、精度が元通りになった愛鷹からの五発の砲弾が直撃する。

 轟音と共にル級の艤装から破片が舞い上がり、吹き飛んだ砲塔や艤装の破片が海上にまき散らされる。

 尚も屈しないル級に対し、愛鷹は左手に構えた刀を手にル級へ転進するや最大戦速で接近し、まだ稼働しているル級の主砲の砲身を切り落とす。

 ぎらりとル級が愛鷹を睨みつけて来るが、冷徹な愛鷹の目が見返した時、彼女の主砲がル級の鼻先に向けられていた。

 死刑宣告の様な再装填完了のブザーと発砲のブザーが鳴り響き、ル級のゼロ距離から愛鷹は砲撃を撃ち込んだ。

 ゼロ距離射撃に戦艦のル級が吹き飛ぶ一方、反動を生かして愛鷹は後方へと軽いステップで下がる。

 艤装深くに撃ち込まれた五発の砲弾が誘爆を引き起こし、ル級がもがく中眩い閃光と轟音を発して弾薬庫が誘爆してル級が爆発四散する。

 海上に火焔と黒煙を立ち昇らせて海中へと没していくル級の残骸を見つめながら、愛鷹は復旧したHUDのレーダー表示で他の深海棲艦の状況と第三三戦隊の被害確認を取る。

 こちらの被害はゼロで、夕張と深雪、蒼月の三人の集中砲火を浴びたハ級は早々に轟沈して全滅していた。蒼月の長一〇センチ高角砲の連射でハ級が五分と経たずに被弾して轟沈していたが、砲身を摩耗してしまっており、夕張に手伝ってもらいながら砲身交換を行っていた。

 二隻のワ級も撃沈。特に青いオーラのワ級に青葉と衣笠がダメージを与えてから羅針盤障害の全てがクリアになっていた。

 あの青いオーラのワ級はやはり羅針盤障害を引き起こす中核となっていた艦だったかと愛鷹が考え込んでいると、コマンチ1-1との通信が繋がった。

 

(コマンチ1-1より愛鷹へ。聞こえるか?)

「感度良好です、どうぞ」

(そちらへ向かう深海棲艦の艦隊を捕捉した。参照点より方位一-八-〇。艦種特定、軽巡へ級flagship級一、重巡ネ級elite級二、防空巡ツ級elite級一、駆逐艦ハ級後期型elite級二)

 

 別動隊が援護に来た様だった。どうするか、このまま交戦するか、それとも一旦引くか。

 データリンクを介して敵艦隊の位置と母艦である「ズムウォルト」の場所を勘定して、やり過ごすのは無理だと悟る。

 

「戦闘部署はそのまま、二戦目用意!」

「またお客さんかよ」

 やれやれ、と頭を掻きながら深雪が両手持ちの主砲を構え直す。

 さっきまでの電子機器の目を封じられらた戦いと違い、今度はコマンチ1-1の支援を受けらる分、分がいい戦いが出来そうだった。

 リンク17と呼ばれる艦娘用データリンクがコマンチ1-1との間で接続されると、HUDにコマンチ1-1が捉えた深海棲艦艦隊の動向がリアルタイムでハイライトされた。

「右主砲戦用意!」

 砲戦準備を命じる愛鷹の号令に合わせて第三三戦隊の仲間五人も右舷側へと主砲を指向する。

 羅針盤障害による第三三戦隊の電子機器攪乱と言うアドバンテージを喪ったにも拘らず、深海棲艦艦隊は吶喊を止めようとしない。弔い合戦と意気込んでいるのだろうか。

 撃ち方用意、と射撃グリップのトリガーに指をかけた時、再びコマンチ1-1から通信が入る。

(警告、新たなボギーを探知。遠いが、そちらへ向かっている。艦種は現在特定中、解析完了次第追って知らせる)

「了解」

 ヘッドセットに確認の旨を吹き込んで射撃グリップに手を戻す。射程距離に収めているが、必中を期してもう少し距離を詰めておきたい。

 愛鷹が狙うのはネ級elite級。自然とだが彼女が狙う目標が敵艦隊の中でも最も脅威度の高いと判断したネ級だった。

 五門の主砲の砲身が仰角を取ってネ級へと砲口を差し向ける。真っすぐにへ級を先頭にして単縦陣で第三三戦隊へと突撃する深海棲艦に対して、第三三戦隊は丁字有利を描いていた。

「撃ちー方始めー! 発砲、てぇーっ!」

 凛とした愛鷹の射撃号令がその口から発せられると、引き絞られた射撃トリガーの攻撃信号を受けた五門の四一センチ主砲が発砲の火焔を放つ。

 轟々とした砲声が五回轟き、砲弾五発がネ級elite級目掛けて飛翔していく。

 砲弾の接近を悟ったネ級が回避運動を試みる中、その周囲を包み込む様に五発の主砲弾が着弾する。

 包み込む様な着弾の水柱にネ級が右に左にともみくちゃにされる中、射程に収めた青葉、衣笠も砲撃を開始する。

 二人の砲撃はもう一隻のネ級elite級に向けられていた。頭を抑えた丁字有利を第三三戦隊は引いているだけあって、深海棲艦に対して有利な砲撃を浴びせていた。

 青葉型の二人から集中砲火を浴びせられるネ級elite級が応射の構えをとる中、ツ級とハ級の三隻が増速して前に出て来る。

 主砲を撃ち散らしながら前進して来たツ級とハ級に対して夕張と深雪、蒼月が前に出て対応を始める。

 夕張の一四センチ連装砲と深雪の一二・七センチ連装砲、蒼月の長一〇センチ連装高角砲が攻撃の火蓋を切り、間断の無い砲撃の雨をツ級とハ級へ浴びせ始める。

 勿論ツ級とハ級も撃たれっ放しではなく、主砲射程に収めた夕張、深雪、蒼月に砲撃を開始し、応射を開始する。

 応射を開始するツ級とハ級に対して、夕張と深雪が一発一発の精度を重視した射撃を返すのに対し、蒼月は長一〇センチ高角砲の速射性を生かした猛砲撃をハ級へ浴びせる。

 接近を許さない蒼月の猛砲撃にとらわれたハ級が被弾の火焔を艤装に走らせ、姿勢を崩すとさらにそこへ蒼月から次弾が次々に着弾する。

 次弾装填が速い長一〇センチならではの速射にハ級が瞬く間に反撃能力を喪って海上に燃える松明と化して停止する。

 反撃らしい反撃すら出来ない内に蒼月によって無力化されたハ級と違って、残るツ級とハ級それぞれ一隻はしぶとく夕張と深雪との砲火を交える。

 砲撃を行う夕張はツ級の姿を見てぎりっと歯を噛み締める。この間キース島からの帰路でツ級に手痛い一撃を食らって戦闘不能にされた苦い経験は記憶に新しい。

 右手に持つ一四センチ単装砲と艤装左右両舷にマウントされた二基の一四センチ連装主砲の狙いをツ級に定め、引き金を引く。

(片目を瞑ってよーく狙う……)

 狙いを澄ました夕張の砲撃がツ級の至近距離に着弾の水柱を立ち上げる。射角を微妙に修正し、修正データを入力し終えた主砲の引き金を引き絞る。

 愛鷹や青葉型のモノよりも小口径な分、軽めの砲声が夕張の艤装から発せられ、赤く光る砲弾がツ級へと飛翔していく。カウンターの一撃をツ級が放つのを見た夕張が面舵に舵を切って回避する中、夕張の放った砲撃がツ級を捉える。

 二発の一四センチ砲弾の直撃を受けたツ級がぐらりと一瞬その身を揺らがせる。火災の炎を艤装から上げながらも何とか立て直したツ級が夕張へと反撃の砲撃を放つ。

 そこへ、ハ級を始末した蒼月が援護射撃を開始し、ツ級の艤装に長一〇センチ高角砲の砲弾が次々に着弾し始める。

 とは言え、ツ級もelite級なだけあってなかなか怯む事無く夕張へ砲撃を継続する。

 周囲に林立するツ級からの砲撃の水柱を右に左にジグザグ運動で回避し、落ち着いて照準を合わせた一四センチ主砲の引き金を引く。

 砲声が響き渡り、発砲時の砲煙が砲口からなびく。次弾装填を急ぐ中、ツ級に夕張の主砲弾四発が直撃するのが見えた。手痛い一撃になったのか、ツ級が速力を落とし始める、艤装上で発生している火災は勢いを増し、悶え苦しむ様にツ級が身をよじらせる。

 砲撃も回避運動も出来なくなったツ級に夕張がとどめの砲撃を浴びせると、ツ級の艦上でひときわ大きな爆発が走り、そのまま倒れ込む様に海中へとその身を没していった。

 前へ出て来たツ級とハ級をそれぞれ一隻ずつ撃沈した第三三戦隊だったが、ネ級とへ級は未だ健在だった。

 健在とは言ってもツ級とハ級合わせて二隻が撃沈された頃には青葉と衣笠から撃たれていたネ級にも直撃弾が出始め、愛鷹と交戦していたネ級に至っては二発の直撃を受けていた。

 被弾のダメージで攻撃に勢いに衰えが見え始めるネ級二隻に愛鷹、青葉、衣笠は砲撃を継続する。被弾によって目に見えて回避能力が低下したネ級の艤装艦上にさらに直撃の爆破閃光と火炎が走る。

 愛鷹が放った四一センチ主砲弾を更に被弾したネ級が力尽きた様に海上に倒れ込み、そのまま海中へと身を沈めて行く。

 青葉と衣笠から集中砲火を浴びていたネ級は何とか一発を青葉の至近距離に着弾させ、破片で青葉の右腕にかすり傷を負わせたが、それが限界であり、衣笠からの援護射撃を受けた青葉の砲撃を受けてネ級が艤装で発生した火災の炎に包まれる。

 一方、ハ級と交戦する深雪は思いの他彼女の砲撃を躱してのけるハ級に手こずっていた。

 苛立ちの舌打ちを何度もしながら深雪の主砲がハ級へ何度目か分からない砲撃を行う。

 ハ級へ放たれた主砲弾が回避に徹するハ級の舷側に着弾の水柱を突き立てるが、ダメージを与えるには至らない。

 そこへ夕張を支援していた蒼月が今度は深雪の支援に回って来た。長一〇センチ高角砲の連射音が海上に響き渡るや、ハ級の行く手を阻む様に砲弾が次々に着弾し始める。

「今だ!」

 チャンス、と口にした深雪の斉射がハ級に向かって飛翔していき、今度こそハ級の艤装上に直撃の閃光が走る。

 当たってしまえばこっちのものだ、と深雪が次弾装填を終えた主砲を向けて引き金を引く。撃ち出された砲弾がハ級に次々に着弾し始めるが、ハ級は尚も反撃の砲火を撃ち出す。

 至近距離に着弾し、自身の背丈を超える高さの水柱を掻い潜り、水柱の海水を浴びて白い蒸気を上げる主砲の砲身を見やりながら深雪は再装填が終わった主砲の発射トリガーを引く。

 口笛の様な飛翔音を立てて飛翔していく深雪の主砲弾がハ級の艤装に着弾し、ハ級が大きく姿勢を崩す。畳みかける様に深雪が砲撃を続行し、蒼月も援護射撃を継続する。

 ようやくハ級が沈黙し、艤装上で発生した火災の炎に包まれて停止した時、深雪と蒼月の主砲の砲身からは白い煙が立ち上がっていた。

「やべえな、ちょっと撃ち過ぎたかもしれねえ」

 予備砲身を備えている蒼月と違って深雪には予備の砲身は備えられていない。ただ、深雪の場合は砲身が摩耗したと言うよりはオーバーヒートしたと言うべきだろう。

 蒼月の長一〇センチは連射をし過ぎた結果早くも砲身が摩耗しており、自動で摩耗した砲身が排出されると、蒼月の手で太ももに備えられた予備の砲身に交換する作業が行われていた。

 二人が主砲のクールダウンタイムを挟んでいる間、ツ級を仕留めた夕張はへ級へと向かい、主砲で牽制射撃を行いつつ、甲標的を発進させる。

 近くでネ級と交戦する愛鷹の砲声に遮られて甲標的の航走音を聞き逃したらしいへ級に向かって、甲標的が二発の魚雷を発射する。

 すぐ傍で発生した魚雷の馳走音に気が付いたへ級が回避運動を試みるが、間に合わず魚雷一発が直撃する。当たり所が悪かったのか、へ級が海上に大爆発の火焔を立ち上げて轟沈し果てる。

 残存する深海棲艦が全艦撃沈されるのを確認した愛鷹はヘッドセットの通話ボタンを押して、全員の安否を確認する。

 異常なし、の返事が五人から返されると、愛鷹は安堵の溜息を深々と吐いた。溜息を吐くと微妙に胸に痛みが走るのを感じ、タブレット錠剤を口に入れて調子を整える。

 戦隊再集結をかけていると、別方位から接近する敵艦隊の解析に当たっていたコマンチ1-1から続報が入る。

 

(接近する敵艦隊の解析完了。空母ヲ級flagship級二隻、重巡ネ級elite級二隻、軽巡へ級flagship級一隻、防空巡ツ級一隻、駆逐艦ナ級elite級二隻、ハ級後期型三隻、不明艦一隻)

「不明艦……?」

 聞き慣れない不明艦と言うワードに反応する愛鷹にコマンチ1-1は(先に確認された新型戦艦かも知れない)と返す。

 データリンクを介して敵艦隊の位置情報を確認する。数で劣る上にヲ級flagship級二隻が随伴しているとなると、流石に荷が重い。幸い、今から「ズムウォルト」に撤退すれば、振り切れそうだ。

 だが、当初の目的である新型戦艦の戦闘能力の評定と言う任務がある事を愛鷹は思い出す。

 ヘッドセットの通話ボタンを押して、「ズムウォルト」で待機している瑞鳳と連絡を取る。

「瑞鳳さん、出番です。方位一-三-〇から第三三戦隊へ接近を図る敵艦隊に戦闘機隊と観測データ収集のための天山二機を上げて下さい」

(戦闘機隊は何機上げますか?)

「可能な限り多数を。相手にはflagship級のヲ級が二隻います。強襲航空偵察になりますから可能な限り多数の戦闘機を上げて、敵新型戦艦の達空戦闘能力の評定を行って下さい」

(……了解しました)

 対空砲火の中に鍛錬を共にしてきた航空妖精を突っ込ませると言う事に引け目を感じる瑞鳳だったが、僅かな間をおいて承諾する旨を返す。

 

 深海棲艦の新型戦艦の対空戦闘能力を調査するべく瑞鳳が発艦させた威力偵察攻撃飛行隊は烈風改二が二四機、天山一二型甲改二機の計二六機だった。

 発艦した威力偵察攻撃飛行隊は帰投する第三三戦隊の頭上をすれ違い、追撃を仕掛けて来る敵艦隊に迫った。

 上空直掩についていたタコヤキこと深海猫艦戦四機がインターセプトの為に進路を変更し、更にヲ級flagship級二隻からそれぞれ四機が発艦する。

 計一二機の迎撃機に対して、威力偵察攻撃飛行隊の先頭を切るゴーレム1の航空妖精が目視するや「タリホー」と敵機発見をコールする。

(全機エンゲージ、迎撃機を排除せよ)

 コマンチ1-1からの攻撃許可を受けた烈風改二の航空妖精が一斉に「了解」と返し、交戦距離に収めたタコヤキに対して攻撃を開始する。

 空に発動機の唸り声が鳴り響き、旋回するタコヤキの飛行音がそれに交じる。双方の射撃音が飛び交い、赤い曳光弾が互いを捉えようと絡み合う。

 早々に被弾したタコヤキ数機が推力と揚力を喪って高度を落としていく。一方烈風改二もストライダー2が被弾し、戦線離脱を余儀なくされる。

 照準を合わせたタコヤキに銃撃を浴びせ、着弾の閃光と破片が飛び散るのを確認したガーゴイル1の航空妖精が僚機からの警告に、虚空へと振り返る。

 二機編隊を組んだタコヤキが烈風改二に下方から襲い掛かろうとしていた。狙われていた烈風改二のガーゴイル1の航空妖精は即座にバレルロールし、左垂直旋回でブレイク、僚機が援護に回る。

 タコヤキ二機から射撃時間が長めの銃撃が飛んで来るが、距離がやや遠かったのもあって全弾が虚空を掻く。

 操縦桿を倒し、フットバーを踏み込み、スロットルを押し込んで全速旋回した烈風改二が編隊を組み直して襲い掛かって来た二機のタコヤキト正対する。

「敵機、ヘッドオン。ガーゴイル2いくぞ!」

(了解!)

 正対した状態からタコヤキに対してガーゴイル1の航空妖精が射撃トリガーを引き絞った時、同じように機関砲の射程内に捉えていたタコヤキからも銃撃が飛んで来る。

 ダッチロールで銃撃を躱した航空妖精は、僚機のガーゴイル2も左ヨーでタコヤキの攻撃を躱したのを確認する。

 一方のタコヤキ側はこちらの攻撃を食らって黒煙を引きながら高度を落としていく。致命傷ではない様だが、かと言って戦闘可能な訳でもないようでそのまま戦闘エリアから離脱していくのが見えた。

 無線からは他の烈風改二の航空妖精がタコヤキを圧倒しているのが伺えた。

(右だ、右旋回!)

(ガンズガンズガンズ!)

 銃撃音が何度となく響き渡ると数で劣勢のタコヤキがまた数機、撃墜される。

 こちらが優勢だな、と確信したガーゴイル1の航空妖精は天山二機がいる方を振り返って、安否を確認する。

「フェーザント1、2、無事か?」

(高みの見物中だ。そちらが優勢なのが良く分かるぞ)

「無事なのは何よりだ」

 安堵した時、僚機のガーゴイル2がガーゴイル1に向かってバンクした。

 何だ? と僚機を見ると眼下を見ているガーゴイル2から無線で連絡が入る。

(敵艦隊を目視で確認、三時方向下方)

 ガーゴイル2が言う方向をガーゴイル1も見ると、一二隻の深海棲艦艦隊が引く航跡が紺碧の海上に引かれているのが確認出来た。

「了解、こちらでも見えた。ガーゴイル1よりコマンチ1-1及び展開中の全機へ。ガーゴイル1と2はこれより降下し、敵新型戦艦の対空戦闘能力の評価を行う」

(ゴーレム1了解、気を付けて行えよ)

 ゴーレム1を始めとした各機から注意しろ、と口酸っぱく言われるのに対してガーゴイル1はまとめて分かったと返すと、ガーゴイル2と共に新型戦艦の方へと降下を開始した。

 見慣れた艦影に交じって一隻だけ見慣れない艦影が混じっていた。降下して来る二機の烈風改二に対して僚艦が対空射撃を開始するが、重い攻撃兵装を積んだ攻撃機と違い身軽な戦闘機なだけあって烈風改二の周囲に対空砲火の爆炎が咲く事は無い。

 フルスロットルで艦隊の中央に位置している新型戦艦へと突撃するガーゴイル1と2に対して新型戦艦が高角砲を撃ち始める。

 途端に機体の周囲でドンドンと爆発音が響き渡り、飛散して来た散弾が機体を叩く。

「⁉」

 敵新型戦艦の濃密な弾幕にガーゴイル1が驚きのあまり目を剥きながら、両手で操縦桿を握り、右に左に舵を切っ弾幕を回避する。

 空気を切り裂くような飛翔音と共に対空機関砲の射撃まで飛来し、掠った数発がコックピット内に不気味な音を立てる。

「ヤバい!」

 ブレイクして離脱を図ろうにも、今旋回したら速度が落ちて格好の的になる。かと言ってこれ以上肉薄するとさらに精度が上がった対空射撃が雨あられと飛んで来る。

 ええい、ままよと逆にスロットルレバーを押し込んで新型戦艦の方へと加速し、その艤装上へ射撃トリガーを引き絞る。

 機関砲弾の着弾の閃光が新型戦艦の艦上に走るのが見えたが、牽制射撃程度なので有効打にはなっていない。

 それでも何とかガーゴイル1はガーゴイル2と共に新型戦艦の頭上を通過し、離脱体制に入る。

 操縦桿を引いて上昇態勢に入った時、ガーゴイル1と2の突入を観測していたフェーザント1、2から通信が入る。

(敵戦艦の対空戦闘能力評価は充分だ。今すぐ離脱しろ)

「了解、これより」

 離脱する、と言いかけたガーゴイル1の左手で突如ガーゴイル2の機体が爆散した。

「ガーゴイル2!」

 僚機の突然の最期にガーゴイル1が叫んだその時、ガーゴイル1の烈風改二の左翼が新型戦艦の対空射撃で叩き折られた。

 制御を喪い左にぐるぐるとロールしながら急激に高度を落としていく烈風改二のコックピット内に、ガーゴイル1の航空妖精の悲鳴が響き渡るが、程なくそれは海中に突っ込んでばらばらになった機体と共に消え去った。

 

 無線越しにガーゴイル1が残した最後の悲鳴が途切れるのを瑞鳳は聞き届けた。

(ガーゴイル1、2、ロスト。脱出は出来なかった模様)

 二機が撃墜されるのを確認したゴーレム1からの通信に瑞鳳は右手に知らずと力が入り拳を作った。

「了解。全機、RTB」

 短くヘッドセットに吹き込んで通話ボタンから手を離す瑞鳳の背後で、飛行甲板へ出る水密扉のハッチが開く音と、コツ、と言う愛鷹の足音が聞こえた。

 飛行甲板の端に立つ自分へとコツコツと足音を響かせて歩み寄って来る愛鷹に背中を向けたまま、瑞鳳は虚空を見上げた。

「瑞鳳さん、航空偵察の結果は?」

 何も知らない愛鷹が瑞鳳に尋ねた時、片手に弓を持ったまま瑞鳳が振り向きざまに愛鷹に抱き着いて来た。

 な、なんだ、と愛鷹が驚く中、彼女の胸の中に顔をうずめた瑞鳳が「ちょっとだけ、こうさせてください……」と沈み込んだ声を出す。

 心境を察した愛鷹は軽くため息を吐くと、自分の胸の中に顔をうずめたままの瑞鳳の肩にそっと手を置いた。

 

 キール軍港の武本の元へ愛鷹からのフェロー諸島一帯の偵察結果の報告書が届けられたのはそれから一週間後の事だった。

 フェロー諸島近海に展開する深海棲艦は新型戦艦を含む艦隊を北極海方面艦隊増援総旗艦艦隊と呼称された上で、その他にも深海棲艦北極海方面艦隊とカテゴライズされた上で軽巡戦隊一個、警戒隊一個、重巡戦隊二個、連合艦隊編成の強襲部隊一個の水上艦隊が確認された。

 水上艦隊の数で言えばさほど問題はない。第三三戦隊の偵察作戦中に強力な羅針盤障害を発生させていた電子戦型ワ級を含む連合艦隊プラス、一個艦隊を殲滅しているのでフェロー諸島近海に展開する深海棲艦北極海方面艦隊の水上艦艇はさほど多くは無い。

 問題は三群も確認された潜水艦ヨ級の存在だ。どれもflagship級とelite級で構成されており、雷撃戦能力と合わせて侮りがたい脅威である。

 対抗する国連海軍の艦隊は日本艦隊から大和型戦艦二隻で構成された第一戦隊、第七航空戦隊の大鳳、第四戦隊の高雄、第二水雷戦隊の矢矧、第一一駆逐隊の艦娘、そして全艦隊の前衛を担う第三三戦隊を投入する事になった。

 この他に北米艦隊から戦艦ワシントンを旗艦に空母サラトガ、重巡ヒューストン、軽巡ヘレナ、駆逐艦フレッチャー、ジョンストンからなる第九九任務部隊、英国艦隊から地中海戦線から引き抜かれた軽巡ユリシーズと装甲空母ヴィクトリアスの二人とドイツ艦隊のビスマルク、重巡プリンツ・オイゲン、装甲艦アドミラル・グラーフ・シュペー、駆逐艦マックス・シュルツの四人を合わせた英独合同任務部隊が投入されていた。

 日米英独の四か国からなる国連海軍合同任務部隊は既に集結地キール軍港で艦隊運動訓練を入念に行っており、いつでも出動可能な状態だ。

 総勢二九名の艦娘を支援するのはヴァルキリー級大型支援艦「マナナン・マクリル」。沖ノ鳥島海域での戦いで投入された「しだか」の同型艦だ。

 キース島からフェロー諸島一帯偵察任務にあたる第三三戦隊を支援し続けた「ズムウォルト」は一時、補給と整備、乗員の休息の為にキール軍港に留め置かれる。

「北海を我が物に奪還出来れば、欧州での戦況も潮目が変わるかも知れんな」

「まだ分からん」

 コーヒーを差し入れて来たターヴィの楽観的な発言に武本は首を振る。

「ス級はまだ五隻健在だ。戦艦水鬼や空母棲姫等もいる。それにアンツィオに居座っている謎の深海棲艦も気になる。

 北海でケリを付けられるとしても、地中海戦線で泥沼化する可能性は充分あり得る」

「ま、それは確かにそうだな」

 自分のコーヒーカップを片手にターヴィは頷く。

 辛うじて地帯戦術の結果、海上での戦いは五分五分に持ち込めているし、陸上部でも北米方面軍から引き抜かれた二個師団の増援もあって戦線は膠着状態に入っていた。 

 アンツィオを失陥後、国連軍はローマに全体防衛線を敷いて深海棲艦の侵攻を食い止めており、一部地域では反転攻勢に出られるほど立て直していた。

 一方、分断された結果補給が経たれたナポリは放棄が決定され、イタリア半島南部防衛線は縮小が進み、市民の避難はアドリア海を経由してクロアチアへと脱出が進められていた。

 イタリア半島南部から脱出してきた大量の避難民が流れ込んだクロアチア国内では早くも国連本部に対して人道支援の増強を求める声が寄せられ、国連の人道支援団体が避難民のケアに回っていた。

 イタリア半島南部に取り残された国連軍は避難民を輸送する輸送機がクロアチアからイタリアへ戻る際に補給物資を満載して補給を継続しているが、それでもじりじりと劣勢に立たされつつあった。

 どうにもならないのがス級による長距離艦砲射撃であり、ス級の連日の様な艦砲射撃でアンツィオ以南のイタリア半島南部ティレニア海側の港湾都市は軒並み壊滅し、国連軍は充分とは言い難い補給も相まって防衛線を内陸部に形成して守勢に回らざるを得ない状況だ。

 一回はMQ170無人機によるス級への航空攻撃が実行されたものの、深海棲艦の猛烈な対空射撃とタコヤキなどの戦闘機部隊を前に全機撃墜の憂き目にあっている。

 どうしても海上からの艦隊決戦でス級を仕留めるか、艦娘による砲撃弾着観測をもって撃破するしかないようだった。

 前者の場合、現状ス級に対抗しえる火力の艦娘がいない為、苦戦は必須だ。後者も弾着観測を行う艦娘が無力化されてしまえばそこまでであるが、現状最も犠牲が少なくて済む方法でもある。

「誰も死なせたくはない……」

 今年だけでも戦死した艦娘はノーザンプトン、スプリングフィールド、メルヴィン、エクセター、霞、浦風、鈴谷、ヴィクトールの八人。

 おいそれと補充が効かない艦娘戦力だし、艦娘も一人の人間だ。特別扱いのし過ぎも考え物とよく言われるとは言え、過去に「命を消費する」行いに関わっただけに部下をこれ以上喪いたくないと言う切実な思いが武本の中で膨らんでいた。

 

 キール軍港に第三三戦隊が帰着してから三二時間後、支援艦「マナナン・マクリル」はフェロー諸島へ向けて出港した。

 半減上陸休暇すら無しの再出撃となった第三三戦隊のメンバーは、「ズムウォルト」から「マナナン・マクリル」へと拠点を移し、船室で作戦前の僅かな休憩を挟んでいた。

 夕食を摂った愛鷹は「マナナン・マクリル」の艦尾のキャットウォークに出ると、一人葉巻を吸って一息入れていた。

 葉巻を吸うと葉先でチリチリと小さな音が立つ。愛煙家の愛鷹にとっては至福の時間でもある。

 艦尾側へと延びる航跡を眺めていると、傍の水密扉が開き、大和が艦内から出て来た。

「あら、邪魔しちゃったかしら?」

「別にいいわよ」

 申し訳なさそうな顔になる大和に吸った煙を吐きながら返す。

 愛鷹の隣に立った大和はキャットウォークの手すりにもたれかかって海を眺める。

 特に話す事も無いらしい大和に愛鷹は何気なく話題を振る。

「改二重が実装されたそうね」

「ええ。私も航空戦艦よ。貴女ほどの制空戦闘能力がある訳じゃないけど」

「火力では圧倒的に大和が上じゃない。羨ましいわね」

 軽くため息を交えて言う愛鷹に大和はごめんなさい、と謝る。

「別に責めてる訳じゃ無いわよ」

 苦笑交じりに返しながら愛鷹は葉巻を吸う。

「まあ……やっぱり羨ましいわね……五一センチ砲の火力は」

 吸い込んだ煙を吐きながら空を見上げて呟く愛鷹に大和は無言を返す。

 二人に足元から響く「マナナン・マクリル」の機関音や艦内放送で乗員を呼び出すアナウンスが時折流れる以外は静かだ。

「静かね」

「ええ」

 また何気なく言葉をかける愛鷹に大和は海を眺めながら頷く。

 葉先が短くなってきた葉巻を吸う愛鷹にふと大和は海へ向けていた視線をもう一人の自分に向けて聞く。

「もし、今以上の艦種の艦娘になれる時があったら貴女はなりたい?」

「……具体的に言ってもらえないかしら」

 微妙にぼかした発言をする大和に愛鷹は意図をはっきり言う様に促す。

 軽く溜息を吐いた後、大和は愛鷹に向き直って改めて問う。

「貴女も戦艦艦娘になる事が出来たら、なりたいかしら?」

「私が、一体どういう戦艦になると……? 大和型改二以上の戦艦艦娘の構想があるとでも?」

 少し訝しむ様な目線で愛鷹は大和を見返す。見返す愛鷹に大和は真剣な眼差しで頷く。

 短くなった葉巻をシガーケースに仕舞い込むと愛鷹は大和に先を促した。

「私への改二重の実装後、あるプロジェクトの話を聞いたの。プロジェクト・ハリマ。ス級に対抗出来る火力を持つ戦艦艦娘の艤装の開発計画」

「……適正者が現れたと言う事? でも、大和型を凌ぐ戦艦は第二次大戦以降一隻も計画されていないわ……どうやって艤装の特殊コアと適正者のエレメントを形成すると……」

 艦娘とは艦娘となる女性の中に宿る「第二次世界大戦時までに建造ないし計画された軍艦に関するあらゆる記憶」が艦魂となり、それが艤装の特殊コアとリンクする事で艦娘と言うエレメントを形成している。

 人工的に艦娘を作り出す事が極めて難しい要因がこの艦魂の元となる「記憶」を体内に宿している人間がいないからだ。

 そんな中で例外的に誕生したのが愛鷹である。彼女の艦魂は人工的に作り出された言わば疑似的な「記憶」である。やりようによってはいくらでも上書きして書き換える事も可能だ。

「まさか……!」

 考え込んでいた愛鷹は思い至った結論に思わずたじろいだ。

 自分の艦魂と特殊コアの内容を書き替えてしまえば、超甲型巡洋艦をベースに発展させられた航空巡洋戦艦に留まらない艦種へとさらに発展する事も可能なのである。

「そう、プロジェクト・ハリマによって開発が進む戦艦艦娘の艤装を使いこなせる艦娘は貴女だけ。

 貴女は知らなかったようだけど、過去にス級を何隻も撃沈してのけている貴女に着眼した国連軍技術開発部が貴女の艦魂のデータを基に開発を進めているそうよ。

 プロジェクト・ハリマが完成したら、貴女は戦艦艤装を与えられる」

「私が戦艦に……」

 元はと言えば愛鷹は大和型を凌ぐ戦艦になる筈だった。それが大和型改二の艤装の開発によって存在意義を失い、愛鷹は超甲型巡洋艦へと落とされた訳だった。

 気持ちの整理がつかない話に愛鷹はもう一本葉巻を吸いたい気分になる。しかし、あまり吸い過ぎると肺がんを発症する可能性が高まるので、いま二本目を吸うのは躊躇われた。ただでさえ短い寿命をより縮める事は流石に愛鷹もやらない。

「突然こんな話をされて戸惑うだろうけど、いつかは知る事になる事実だと思って伝えたの」

「拒否権はあるの?」

 そう問いかけて来る愛鷹に大和は意外な気持ちになる。

「戦艦になりたくないの?」

「私は……今ある自分が重要なの。別に高い世界を望んでいない訳では無いけど、今ある日常、艦娘としての人生、これが戦艦になった途端喪われる事があるのだとするのなら、私は戦艦になるのを辞退したいわ」

「でも、今のままじゃス級には勝てない」

 抑揚のある言葉で告げる大和に愛鷹は両手に拳を作った。言われずともその事は分かっている。

 しかし、もう自分にあるものをこれ以上失いたくないと言う一種の恐怖が愛鷹を束縛していた。故に戦艦になった際に今ある自分の全ての何か一つでも失われる事になるのだとしたら、それはそれで得る事よりも失う事の痛みが上回るだろう。

「大和は、私に戦艦になれと言うの?」

「強制する気は無いわ。でも、今の貴女ではス級と対峙した時、死の危険が極めて高い戦い方でしか倒す術がない。

 プロジェクト・ハリマで開発されている艤装を纏えば、貴女は死の危機を下げる事が出来る。一分でも一秒でも人としていきたい貴女の希望が実現する」

「力を手に入れると言う事は、何かを代償として失う事と同義よ。私は人間。艦娘と言う人よ。兵器じゃないわ」

 知らずと自分の意思を主張する愛鷹の言葉に力が入る。

 強い意志をもって自分を見る愛鷹に大和は無言で目を閉じると、キャットウォークへ出る艦内水密扉に歩み寄った。

「よく、考えておいて」

 それだけ言って大和は艦内へ姿を消した。

 

「ふーん、プロジェクト・ハリマねえ」

 ハッキングで入手した国連海軍の最新艤装開発情報を眺めながら、青葉は船室の自室に持ち込んだPCの画面に表示された記事の全文に目を通していた。

 大和型改二ですら対抗が困難とされるス級を、その新型艤装の火力で打ち破る最新鋭艦娘艤装。

 主砲は五五口径五六センチ三連装四基と言う破格の大口径主砲である。艦娘間データリンクも搭載しており、統制特殊砲撃も可能だ。

 大和型改二艦娘二隻を随伴艦としてデータリンクで接続して統制特殊砲撃を行った場合、サーモン北方に居座っている南方戦棲姫と戦艦レ級elite級二隻からなる強力な機動艦隊を文字通り瞬殺する事も可能と試算されている。

 その強力無比な新型艤装は巨大戦艦艤装であるにも拘らず、三〇ノット以上の高束力を発揮しえる機関を搭載しており、展開可能な防護機能の防御力も理論値上ス級の砲撃すら防ぐ事も可能だ。

 文字通り最強を目指した戦艦艦娘の艤装である。運用に当たってのコストは当然ながら破格ではあるが、それに見合った戦闘能力と言える。

 この艤装を運用する艦娘は既に候補者が決定されていた。

「愛鷹さん……」

 記事にある愛鷹の名を見て青葉は短くその名を呟く。

 人為的に作り出された艦魂の艦娘であるが故に、愛鷹はこの新型艤装を身に纏える唯一の艦娘であると言っていい。

 彼女自身の意思を別とすれば、この艤装が完成し、実戦に投入されれば国連海軍はス級に対抗出来る艦娘を手に入れたと言っていい。

 ス級に現状対抗するには艦娘による近接戦闘か、魚雷攻撃、砲兵隊による間接照準射撃くらいしか手は無い。航空攻撃でも無印のス級を大破させるのが関の山だったし、航行能力を奪うにまで至れなかった。

 それらの問題すべてを解決出来る火力の艤装。だが問題はその艤装を愛鷹が身に纏う事を承諾するか否かだ。

 運用予定の艦娘の意思を最初から想定していない中でスタートしている艤装開発に、青葉は愛鷹の事が哀れに思えた。

 生れた時から自分の意思など最初から無視された世界で育てられ、棄てられかけたクローンの艦娘だ。今は一定の居場所を保証されていると言え、存在を疎まう輩に未だに命を狙われている。有川中将率いる情報部が対応に当たっているので当面は安泰と見るべきだろうが、それとはまた別の愛鷹を悩ませる案件が出現したと言う訳だ。

「命は、玩具じゃないんだよ」

 静かなる怒りを込めて呟いた青葉はプロジェクト・ハリマの計画書の記事を消した。

 

 キャットウォークの手摺を掴んで愛鷹は眼下の海面に向かって吐血した。

 一服前に薬を飲んだはずのなのに、突然の発作に見舞われた身体が耐え難い痛みと苦しみを訴える。

 激しく噎せ込み、震える手でポケットからケースを出し、その中から錠剤を口に入れて何とか苦しみと痛みを抑え、肩で息をする。

「私の命は、一体なんなの?」

 自分の知らぬ間、知らぬところで進められるプロジェクト・ハリマの艤装。

 いつまで自分の意思は無視され続けるのか。

 無言の怒りに任せた彼女の拳が手摺を殴りつけた。

 

 

 深海棲艦の手に墜ちたアンツィオの上空を高速無人偵察機雲竜10が飛んでいた。

 中国製の高速無人偵察機は今では人間は一人もいないアンツィオの市街地上空を通り抜け、港湾部へと進路を変える。

 深海棲艦の電波妨害の影響で無人機とのデータリンクも三分に一回は発生する中で、辛うじて最新の電波妨害処置でドローンオペレーターの操縦を受け付けている状況だ。

 その雲竜10のカメラに、謎の深海棲艦が映される。

 カメラがズームアップして謎の深海棲艦を拡大撮影しようとした時、謎の深海棲艦が雲竜10に艤装を向けて砲撃を開始した。

 電波妨害の影響で満足な回避運動も出来ない無人機が成す術もなく撃墜される。

 しかし、その収音マイクは撃墜直前に謎の深海棲艦が放ったあるモノを国連海軍欧州総軍司令部に送り届けていた。

 

 

(ヒャーッ! キヤガッタ……カァ……ッ。オシオキ……シナイト……ネエ……ハジメルヨォッ!)

 

「しゃ、喋った……⁉」

 人間の言葉を介したことが今までなかった筈の深海棲艦が初めて明確に喋った事に司令部の一同は驚愕の表情を浮かべていた。

 その中で一人ロックウッドは喋った深海棲艦の声に既視感を覚えていた。

「聞き覚えのある声だな。だが、一体誰だ……?」




 久々のあとがきでの小ネタ紹介

 コマンチ1-1・「トップガンマーヴェリック」で終盤マーヴェリック達を管制していたE-2ホークアイのコールサインより
 プロジェクト・ハリマ・「レッドサンブラッククロス」の戦艦播磨より。
 支援艦「マナナン・マクリル」・「銀河英雄伝説DNT」に出て来るフィッシャー准将の座乗艦より。
 
 感想評価 ご自由にどうぞ。

 ではまた次回のお話でお会いしましょう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。