艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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注意:趣味ネタが大爆発しています。


第七話 初陣 沖ノ鳥島海域偵察作戦 後編

デスクの内線電話が鳴り受話器を取ると相手が大淀だったので、何か大事が起きたなと直感で分かったが大淀の緊張した声での報告に武本は思わず「なんだって⁉」と地が出た声で返していた。

父島の鮎島大佐からの報告だった。

作戦行動中の第三三戦隊が敵潜水艦の猛攻を受け、青葉が魚雷二発を被雷し戦闘・航行不能になったと言う。

幸いにも、魚雷二発が命中した際に防御機能でダメージが軽減されたお陰で全治五日の傷で済んだとの事だった。

ただ当然ながら作戦期間中青葉は出撃できない。

第三三戦隊は作戦期間中青葉抜きの五人体制で活動することになってしまった。

第六戦隊では唯一の改止まりとは言え、経験豊富な重巡だからその戦力は重要だ。

報告を聞き終わると大淀に礼を言って受話器を置いた。

それから少しだけ考えて、巡洋艦寮の青葉型の部屋にかけた。

 

(はい?)

衣笠だ。

青葉型での妹である。

「私だ。

衣笠くん、出撃中の青葉くんの事で話があるんだ」

(青葉がまた何かやらかしたんですか?)

君だって最近は同罪じゃないか、と思いながらも説明する。

「沖ノ鳥島海域で任務中青葉くんが潜水艦の雷撃で魚雷二発を食らって負傷した、と連絡が入った」

(青葉が⁉ 

え、青葉が⁉ え、ちょ、ホントですか、青葉は大丈夫なんですか、生きているんですか!? 

大丈夫なんですよね?)

「落ち着いてくれ。

軽傷ではないが命に関わるほどじゃないとの事だ。

病院に五日間籠るだけだ」

取り乱した声で聞いて来ていた衣笠が受話器越しに大きな安堵のため息を吐くのが聞こえた。

(よかったぁ……)

「ああ。

流石は『ソロモンの狼』だよ。いつもピンチに陥っても必ず帰ってくるんだ。

大丈夫だよ」

(古鷹と加古に話しておいても大丈夫ですか? 古鷹は凄く心配してくれてたんです)

「構わないよ。ただべらべら言いふらさなくてもいいからね」

(はい、ありがとうございます。失礼します)

「うん」

 

電話を切る時には口調はほぼ元に戻っていたので良かった。

受話器を戻すと大きなため息が口から出て来た。

艦娘が被弾した、と言う報告はいつ聞いても体に悪い。

大勢の部下を預かる上官の心理的負担の大きさは階級が上がれば上がるほど大きくなった。

もっとも命を削る思いをしているのは艦娘も同じだ。

特に愛鷹は……。

 

 

「もー、びっくりしましたよ。

当たった時は死ぬかと思いました」

言葉の割にはいつものテンションである青葉を見て、病室に見舞いに来た愛鷹、夕張、深雪、蒼月、瑞鳳は溜息を深く吐いていた。

「でもよかったです、青葉さんが生きてて」

ぐずぐずとまだ泣きながら蒼月が言うと、青葉は苦笑して宥めた。

「大丈夫ですよ、青菜はそう簡単に死にませんって」

「聞いているし、何度も見て来たから分かってるけど、ホント青葉はしぶといよなあ。悪運が強いぜ」

蒼月とは反対に笑みを浮かべて深雪が言う。

深雪も戦闘中にできた頬の切り傷に絆創膏を張っている。

「艤装の防御機能展開が間に合ってよかったわよ。

間に合わなかったら青葉は死んでいたかもしれない」

「これでも結構修羅場は踏んできましたからね。

それに長門さんのゲンコツの方がもっと痛かったですよ」

「本当に命に別状は無くてよかったです。

でも五日間はここで過ごしてもらいますよ」

そう愛鷹は言いながら青葉の姿を見ると痛まれない気持ちになる。

 

頭、右頬、右腕と右足と右半身には包帯がまかれている。

特に右足は膝上まで包帯が分厚くぐるぐる巻きにされている。

医師の話ではかなりの火傷だったそうだが手術はすぐに終わり、三日もすれば焼けた皮膚組織が元の姿に戻っていると言う。

愛鷹達が合流した時は気絶したまま深雪と瑞鳳の応急手当てを受けており、愛鷹に曳航されて父島に大急ぎで帰投中に目を覚ました。

魚雷の爆発で右足の主機が破壊されてしまい(ローファーごと吹き飛んでしまっていた)、左足の主機も損傷して自力航行は不可能だったが浮力は発生させることが出来たのが幸いだった。

損傷した左の主機と失われた右の主機はすでに父島の工作施設で新造、修理されて動作チェック中だと言う。

破けた衣類、無くなった靴も修復中だ。

「それはそうと、皆さんは大丈夫なんですか? 

青葉は作戦に参加できなくなってしまったので」

「青葉ちゃんが居なくても大丈夫よ。

ちょっと寂しいけど」

「でも助かったのが私は一番嬉しいです。

青葉さんがいなくなるのが私にはすぐ悲しいので」

「恐縮です、愛鷹さん」

青葉がにっこり笑った時、病室のドアがノックされ青葉が「どーぞ」と返すと鮎島大佐が入って来た。

「司令官」

慌てて一同が敬礼しかけるが鮎島は手でそれを制した。

「いいよ、いいよ。

青葉くん傷はどうだね」

「はい、おかげさまで全く痛くありません。

料理の時に包丁で指を切っちゃった方がもっと痛いですね」

「青葉くんも料理するのかい?」

「青葉だって料理くらい出来ますよ。

来年のバレンタインにチョコを送りますか? 

美味しいって司令官に言われました」

「では頂こうかな、来年にな。

バレンタインチョコはもう何十年も貰ってないんでね。

元気な顔を見られてよかったよ」

「ありがとうざいます!」

「暇だったら何か差し入れを用意するが、何がいいかね」

「今のところは無いですね。私物の本がありますから」

本を持ってきていた? 愛鷹は少し疑問に思った。

「何の本ですか?」

すると聞かれた青葉はちょっと恥ずかしそうに顔を赤らめて「えっと、童話です」と答えた。

「童話? 青葉ってまだ童話の本読むんだ。

なんか意外」

童話本と聞いて瑞鳳が目を丸くする。

「どんな本なの?」

夕張の問いに青葉は恥ずかしいらしくすぐには答えなかったが、蒼月にも聞かれたので「動物の……」とだけ返した。

可愛い趣味も持っているんだ、と意外な趣味に愛鷹も驚いた。

 

愛鷹もシンデレラや白雪姫、かちかち山、桃太郎と有名な昔話や童話の書物なら小さいころに読んだことはある。

ここ数年と言うよりは、うろ覚え気味の幼少期から最近まで絵本を含めた童話の類は全く読んでいないが、それは単に読む機会が無かっただけだ。

帰ったら久しぶりに図書室にあったら読んでみようと思った。

帰れたら。

 

青葉が被弾したと聞いた時は一瞬我を忘れかけ、海の上で怪我をして気絶したままの青葉を見た時は頭が真っ白になりかけた。

口の中に実感がある苦みがしたので直に我に戻れたが、直後に胸の奥に封印していた記憶が蘇った。

バレない様に無理矢理苦みのあるものを飲み込んで、口にボトルの水と共にタブレットを入れて臭いを消したが、どれくらい誤魔化せたか。

父島に戻って青葉を病院に送った後、基地の宿舎の借り部屋で休もうと思いあてがわれた個室に向かった。

部屋に入ってちょっと横になろうかとベッドに足を向けた時、あの耐え難い体の苦しみが再び走ると共に吐き気がしてトイレに駆け込んだ。

体を引き摺るようにトイレに入ると口から血が吐き出されたので、ぞっとした。

またタブレットを飲んで体を落ち着かせてから、体の酷使に加え精神的なダメージの大きさで吐血する事になるのか、と思うと酷く憂鬱な気分になった。

この体はもうポンコツになってしまっているのか、と思うとため息が出る。

愛鷹も時々鏡を見て年齢を気にしたことはある。

三〇分程横になって休むと鮎島に状況報告に向かい、青葉の治療状況なども確認した。

 

それが二時間前の話だ。

もう日は完全に暮れており外は真っ暗だ。

「もう時間も遅い……ああ、まだ七時か。

夕食時だから食事はどうかね」

鮎島に聞かれた時、愛鷹を含めた一同の腹が鳴った。

「ご飯にしますか」

「そうね。腹が減っては何とやらね」

夕張が頷くと鮎島がにっこり割った。

「食堂で旨い海鮮料理を作っている。

我が基地自慢のレシピだぞ、この基地の職員、海兵隊から好評だ」

「いいなあ、青葉は病院食です」

「退院したら寿司でも食べて行きたまえ。

ちょうどその日の夕食のメニューは寿司が出る。

この基地の近くでとれる魚は旨いぞ」

それを聞いた蒼月が「お寿司!」と顔を明るくした。

「好きなの?」

「はい、大好物です」

瑞鳳に聞かれて生き生きと答える蒼月の表情を見て知らずと愛鷹の表情も緩んだ。

「明日の出撃からも帰ってくれば美味しい食事は必ず待っているよ」

「飯のことになると声が違うなあ。

司令官って食いしん坊なの?」

苦笑交じりに深雪が言うと鮎島も苦笑を浮かべた。

「分かるかい深雪くん?」

「見た感じで分かるよ。

健康的に太っているから」

「『健康的に太っている』て何それ……か」

ちょっと何を言っているのか分からないよ、と夕張が顔をしかめた。

 

 

仲間たちが部屋から出て行ったあと青葉は枕のシーツの中に隠していた本を引き出した。

こっそり隠していたものだ。

表紙にはタイトルの「羊のドロシー」と書いてある。

海外で発売された羊の物語で、その内容性が昔話題になり日本でも翻訳されて発売された。

日本語タイトルの下には原作者の「Johannes Stockman」(ヨハンネス・ストックマン)と言う名と、原題の「Story of Dorothy」(直訳すると「ドロシーの物語」となる)と書かれている。

「昔ある牧場にドロシー、ポーリー、モーリーと言う三匹の羊が居ました。

三匹の羊はとても仲が良く……」

小さい声で青葉は文字を読みだした。

 

 

「青葉が被弾するなんて随分珍しいね」

古鷹が意外そうな顔を衣笠に向けた。

衣笠が第六戦隊仲間の古鷹、加古に談話室で武本から聞かされた話をすると二人は驚いていた。

古鷹の言う通りだと衣笠は頷く。

「ここ最近、第六ではあまり被弾したことが無かったからね。

特に青葉は運がとてもいいから」

「でもよ、潜水艦ってのは結構怖いもんだぜ。

あたしなんかトラウマモノなんだし」

顔をしかめた加古が改二以前に潜水艦攻撃で散々な目にあわされた過去を思い浮かべて言う。

「重巡って対潜装備が無いから、ホント厄介な相手でさ。

ソナーはあっても攻撃できないのが歯がゆいとこなんだよねぇ」

「加古の言うとおりね」

ため息交じりに古鷹は返した。

少し話題でも変えようかと衣笠は天気予報の結果を二人に聞いてみた。

「雨だってよ。

青葉の行った沖ノ鳥島と違って日本は雨だ」

「うう、雨は嫌いなんだよぉ」

雨が嫌いな衣笠が渋面を浮かべると加古がその通りだと頷いた。

「分かるなぁ、あんまり出かけたくないんだよね雨の日って。

部屋で寝てよっかな」

「加古はこの間の訓練レポートまだ書いていないんじゃないの?」

古鷹の問いに加古が「やばっ」と呻いた。

「そろそろ谷田川さんから催促が来るからちゃんと書かないと」

「古鷹が代わりに書いてよ」

そう加古が古鷹に懇談した時、談話室へのドアが開いて高雄型重巡艦娘の高雄が入って来た。

そしてソファに座っている加古を見つけると「いたいた」と安堵の表情を浮かべた。

「加古さん、谷田川大佐が『話があるから連れてこい』と言ってましたのでお迎えに」

「げっ、手遅れじゃんか! 

てかどうやってここにあたしがいるって?」

「大淀さんが『加古さんならここにいるだろうって』」

「あのメガネ!」

悔しそうに顔をしかめた加古はソファから立ち上がって仕方なく谷田川のところへ行った。

「大淀さんの目からは誰も逃げられないね」

「青葉くらいだよ、隠れ続けていられるのは。

古鷹のサーチライトで探し出すって言う頭の回転の速さではかなわなかったけど」

 

基地のどこに隠れても大淀が探すと大抵は見つかる、と言うやらかし屋の艦娘や仕事をさぼった艦娘からは特に恐れられている。

唯一青葉がどこかから手に入れたギリースーツを使って隠れたり、意外とある運動神経で逃げ切ったりと隠れる腕前では青葉は一種の伝説を持っている。

大淀以外で青葉を見つけたのは古鷹だ。

左目の義眼にはサーチライト機能が仕組んであるので、それで見つけ出している。

 

そう言えば青葉の上司になった愛鷹ってどんな人なのかと思った衣笠は古鷹に聞いた。

「そう言えば新しく入った愛鷹ってどんな人だか聞いている?」

「私は知らないよ。

衣笠は青葉から聞いていないの?」

「詳しくは教えてくれないのよねえ。

ひょろっと背が高くて、いつもコートを着て制帽被って左腰に長刀を下げて、あと夜には埠頭で葉巻を吸っているって」

「喫煙しているんだ。

あんまり煙草好きな人っていないよね。

ガングートさんとか若葉ちゃんとかはよく吸っているけど」

「最近は若葉ちゃんの喫煙は初霜ちゃんに嫌がられて頻度は減っているって」

「面白い子だよね。

負傷しても『悪くない』って言うんだもの。まあ、分かるけどね。

『痛みは生きている証拠』って言うから」

「まあ、ね」

 

青葉の失態で左目を失っている古鷹が青葉に恨みを抱かず、いつも仲良くしてくれたことは衣笠には幸いだった。

それだけに古鷹にちょっかいを出していた青葉を見るとヒヤヒヤしたものだった。

温厚な人柄程、本気で怒らせると何をするか分からないのは衣笠も知っている。

目の前の古鷹自身がそうだからだ。

怒らせると怖い仲間と言えば矢矧や不知火が代表格だ。

また駆逐艦時雨などは「下手をすると不知火より恐ろしい目に遭う」と言われている。

実は青葉も非常に寛容な性格から滅多に怒らない(むしろ怒られる側)が、意外と怒らせると結構怖い人物でもある。

もっとも青葉が怒るのは「数百年周期で地球に接近する彗星を見る」のと同じくらい稀だ。

 

「第三三戦隊が帰ってきたらどうする?」

「歓迎会しようよ。

隼鷹さんに頼めばお膳立てしてくれると思う。

宴会が大好きな人だから」

「お酒だすと那智さん、千歳さん、イヨちゃんあたりが勝手に集まりそう。

加古も結構お酒好きなのよねえ。

青葉は下戸だっけ?」

「全然飲めないよ」

衣笠は昔呉基地に青葉と共に勤務していた時、基地のバーで初めて飲んだ時の事を思い出した。

ビールが飲める衣笠に対し酒を飲むと思考力が鈍ると言って青葉は飲まず、それでもちょっと悪戯半分に飲ませようとして青葉に怒られた。

初めて青葉の怒った顔を見たのはあの時だ。

 

と、外が少し騒がしくなった。

何事かと二人が顔を見合わせた時、談話室のドアが開いて陽炎型の末っ子の秋雲が飛び込んできた。

「どうしたの?」

古鷹の問いに秋雲は「あ、姉貴に追われてんの!」とだけ返して、別のドアから猛ダッシュで逃げていった。

「ははあ、また陽炎ちゃんか不知火ちゃんを怒らせたんだ」

「懲りないよね。それが秋雲ちゃんだけど」

二人が苦笑を浮かべた時、「秋雲ー、どこにいんのよーッ!?」と陽炎が談話室に飛び込んできた。

衣笠が秋雲の出ていったドアを指さすと「ありがと」と残して陽炎は出ていった。

 

 

基地の食堂で海鮮料理を頂いた後、愛鷹は昨日借りた小部屋をまた借りて今日の偵察結果と交戦した敵潜水艦隊の情報整理をした。

今日集まった偵察情報を解析してみると、航空偵察の結果はすべて白に終わった。

偵察が行われた島はまだ活発な火山活動が行われており、深海棲艦のいる痕跡はどこにもなかったと言う。

本当にそうかはとりあえず置いておくこととして、今日ピケット艦や潜水艦がいた四箇所目の島と未偵察の島の五箇所目の島が怪しい事に絞り込めたのは大きい戦果だったと言えた。

代償が青葉の戦線離脱と言う物だったが。

潜水艦の数は青葉たちが交戦した規模からして相当数の様だ。

撃沈確実は一三隻、未確認三隻である。

当然だが逃した無傷の敵潜は沢山いる。

ピケット艦だけでなく潜水艦の脅威は想像以上に大きい。

だが潜水艦が相当数いると言う情報も大きな戦果である。

計らずしも威力偵察の仕事をした感じでもあった。

また潜水艦隊が攻撃してきた海域を海図で確認し、観測されているこの海域の潮流情報と照らし合わせると五箇所目の島付近と潜水艦隊が襲撃してきた場所は潮流のある場所と一致している。

断定するのは速いが五箇所目の島に深海棲艦が潜水艦隊の前進基地、または支援部隊を進出させている可能性は十分にある。

それに潜水艦隊の規模から言うとそれなりの規模の基地・泊地か支援艦隊が展開しているはずだ。

ただ当然ながら五箇所目の島に深海棲艦が拠点を構えているとすれば、防備は相当強固なものになっているだろう。

だとすればレーダーサイトや機雷網、ピケット艦や潜水艦の巡視が行われている可能性は非常に高い。仮説飛行場や空母が展開していれば防空隊が展開している可能性まであるし、防衛艦隊も相当数いるかもしれない。

しかし、そうだとすれば四箇所目の島はなぜ警備していたのか? 

申し分程度の様なピケット艦と機雷網があった程度だ。

もし五箇所目の島に大規模部隊が展開するのなら比較的距離が近い四箇所目の島は防衛の為の拠点か陣地を構築してもいいはずだ。

普通考えられる理由とすれば五箇所目の島から目をそらすための陽動、まだ陣地構築が始まって間もない、五箇所目の島の防衛に戦力を結集している、の三つだが愛鷹にはもう一つ思い当たる節があった。

完全な憶測にすぎないし愛鷹の直感そのものだから確証などまったくない。

だがどうしても四箇所目の島に第九二・五任務部隊につながる重要な手掛かりがある気がして仕方がなかった。

すでにメルヴィン、ノーザンプトンの戦死は確認されている。

ダットワースも九対一で生還はノーだが、一はイエスだ。

そうとなったら明日の偵察作戦計画の立案はかなりやりやすい。

 

愛鷹はまず四箇所目の島に航空偵察を行い、そのまま五箇所目の島に進出する事にした。

編成だが今日二手に分かれて偵察したのはかなり失敗した感が大きいので分散行動せず、第三三戦隊全員で行動するべきだ。

初っ端からの苦い教訓・高い授業料となった感はあるがその成果はあるかもしれない。

ここでの解析や計画について纏めるべく愛鷹は小部屋の机に広げていた資料や海図をまとめると、部屋を出てパソコン室に向かった。

しかし生憎部屋はすでに閉まっていた。

どうしようかと考え、鮎島の元を訪ねた。

鮎島は鮎島でパソコンを使うので貸すことは出来ないと言ったが、代わりにタイプライターを貸してくれた。

タイプライターとはずいぶんアナログなものだと驚きはしたものの、使い方は知っているし英文は十八番だから用紙と共に借り受けて自室に持っていき計画書と初日の偵察結果の報告書を作成した。

 

寝間着に着替えた深雪がトイレから蒼月と一緒に寝る部屋に戻る途中、愛鷹の部屋からパチンパチンという音を聞いて「何の音だ?」と尋ねに来た時に、愛鷹が使っているタイプライターを見ると深雪はどこか納得したような顔をして「おやすみ」と言って出ていった。

報告書や計画書を書き終えると、愛鷹もシャワーを浴びて寝間着に着替えると布団に入り眠りについた。

 

 

翌日、昨晩立てた作戦計画を夕張、深雪、蒼月、瑞鳳に伝えた愛鷹は青葉に代わり、以前艦隊旗艦を務めた経験がある夕張を次席指揮官に指定した。

しかし、夕張はそれを断って来た。

「なぜです?」

「私は……向いていないの、指揮官って言う役柄に……」

あまり思い出したくない程嫌な記憶らしいので、深く追求せず瑞鳳に次席指揮官を任せた。

瑞鳳はすんなり引き受けてくれた。

作戦計画の打ち合わせの後、父島のドックに向かう時、深雪が夕張の過去を教えてくれた。

 

夕張は昔、第三水雷戦隊を指揮していたことがあった。

最高速力があまり出ないと言いつつも夕張は旗艦としての仕事をこなしていた。

愛鷹はその時の経験を知って夕張を抜擢したのだが、第三水雷戦隊は深海棲艦に占領されたW島(ウェーク島)攻略作戦に従事していた時、敵機動部隊の空爆で駆逐艦如月がM.I.A(戦闘中行方不明)になった。

捜索が行われたものの如月は結局見つからず撃沈喪失と認定され、夕張は僚艦喪失の責任を取る形で旗艦職を解任された。

彼女にとって仲間を失った事が一度もなかっただけにこの事は非常にショックだったらしく、それ以来小規模部隊指揮官の役すら渋るようになったと言う。

幸い如月はその後激戦地となったソロモン戦線で発見され、無地帰還したので撃沈喪失認定は取り消されM.I.Aに修正された。

過去の束縛から逃れられない仲間がいたのか、と愛鷹は自分と同じく過去の経験が今を縛り続けている夕張に大きな親近感を抱いた。

 

「結構引き摺っているからあんまり言うなよ」

自分も過去に電の誤射で死にかけ、電がそのせいで重度のノイローゼに罹ったのを見ているので釘をさすように深雪が愛鷹に忠告すると「分かります。身に染み込む経験をしましたから」と返された。

それを聞くと「身に染こむ経験? 『身に染みる』と言うのは聞くが『染み込む』とか相当だな、あんた昔どんな目に遭ったんだ?」と深雪は愛鷹の過去を聞きたくなったが思い出したくない事なのは分かるから触れない事にした。

 

ドックで補給整備を受けた艤装を装備した第三三戦隊は午前八時半に作戦を開始、抜錨した。

出撃後一路四箇所目の島を目指す。

潜水艦が沢山いる事が判明したので昨日に増した対潜警戒態勢がとられた。

夕張と深雪は対潜装備をフルに搭載している。

彩雲が四箇所目の島と五箇所目の島の航空偵察に出撃したのは出撃から二時間ほどした時だった。

瑞鳳が矢筒から出した屋を弓で放つと矢は放物線を描かずまっすぐ飛んだ後閃光を発して一機の彩雲を出現させた。

そのまま彩雲は高度を上げて行き四箇所目の島の航空偵察に向かった。

「彩雲発艦。コールサインはどうする?」

「瑞鳳さんが決めていいですよ」

「じゃあ、マザーグースワンで」

「マザーグース? 可愛い名前ですね」

愛鷹は褒めたが深雪は苦笑を浮かべた。

「親ガチョウか。なんかの趣味なの?」

「いいじゃない、別に」

「いや悪いとは言ってないって」

文句あるかと睨まれた深雪は慌てて謝った。

 

五箇所目の島に偵察に向かった彩運は五人より速く、さらに深海棲艦の艦載機よりも足が速いのが自慢だ。棲鬼級空母の白艦載機(通称タコヤキ)も追いつけない。

昨日と同じくレーダーは使用せず逆探とパッシブソナーで警戒を行う。

後はどんな戦場でもものを言う目と耳などの五感だ。

さらに瑞鳳は「ワッグテイル」(Wgatail:セキレイ)「サンバード」(Sunbird:タイヨウチョウ)「バンティング」(Bungting::ホオジロ)と名付けたコールサインの烈風改の四機一個小隊の防空部隊を発艦させ、次いで対潜哨戒装備のコールサイン「ストーク」(Stork:コウノトリ)「イーグレット」(Ergret:シラサギ)「クレーン」(Crane:ツル)「オストリッチ」(Ostrich:ダチョウ)の四機を上げた。

「全部鳥の名前ですね」

コールサインを聞いた蒼月が名前の意味を言い当てるが深雪と夕張は全く分からなかった。

夕張はクレーンと聞いた時は機械のクレーンの方を思い浮かべた。

 

空は気象予報の通り快晴だ。雲のそれほどなく青空が頭上に広がっている。

日本では雨雲がかかっているとの事だったが、ここにいるとそんなことが全く信じられない気分になる。

百聞は一見に如かずとはよく言うなと愛鷹は日本を発ってから感心する事ばかりだった。

波は凪いでいるという訳ではないが、高いわけでもなかった。

 

「ん?」

一瞬何か表現しにくい異変を感じた。

しかし夕張、深雪、蒼月、瑞鳳らが気付いた様子はない。

気のせいか? いや何かおかしい。

本能と直感が何かかなり嫌な予感がすると言っていた。

「風、臭い、音……」

「どうかした?」

ぶつぶつ呟く愛鷹に夕張が問いかけるが答えず思案し続けた。

逆探とソナーには反応は無い。

周囲監視でも見えるものは無い。

ではなんだこの感覚は。

「鼓動?」

ようやく今感じるものの一番近そうなものを口にしたが、鼓動とはいったい何のことか自分でも分からない。

自分の心臓は正常に動いているし、ソナーからは魚の心臓の鼓動までは拾えない。

何かを感じるこの感覚は一体……敵襲だと言うのか? 

しかしそれにしては気配が無さすぎるし、自分より実戦経験がある他のメンバーが気付いてもおかしくはない。

どこから感じるかと思ってもそのような超能力があるとかは聞かないし、知ろうと思ったこともないから知識は全くない。

考えても始まらないか、と溜息を吐きながら頭を振った。

 

彩雲が発艦から一時間以上が経過して、四箇所目の島を確認したと彩雲から一方通信(発信だけで応答はしない)で暗号文が入る。

眼下にピケット艦らしき航跡が見えるとの事だったが、迎撃機や砲火が上がってくることは無いと言う。

そして島に近づいた際に彩雲から「建造物発見」の報告が飛び込んできた。

「建造物?」

「人工物の事だろうさ」

首を傾げた蒼月に深雪が説明する。

 

何もないまままた一時間以上した時、彩雲が返って来た。

そして瑞鳳に着艦した彩雲から驚くべき情報が確認できた。

人工物らしきものに人影、それも深海棲艦ではないものが確認できたと言うのだ。

しかも動いているのが見えたと言う。

「遭難者かな?」

彩雲から報告を聞いた瑞鳳が推測すると、愛鷹がきっぱりと言った。

「仲間ですね。

恐らく第九二・五任務部隊の生存者とみて間違いはないでしょう」

「ノーザンプトンの撃沈は確認したから……インディアナポリス、スプリングフィールド、ダットワース、マクドゥーガルか」

顎をつまんで考えた夕張が生存していると思われる名前を口にした。

ダットワースが生きているかはかなり微妙だが、死んだとはまだ断定出来ないから生きていると見て行動するべきだろう。

 

「救助するの?」

瑞鳳が聞いて来ると深雪が「あったり前だろ」と返した。

「仲間が助けを待っているんだぜ。

ほっとく馬鹿があるかよ」

「でも偵察任務が優先事項では?」

蒼月の言葉に深雪がじろりと彼女を睨みつけた。

「蒼月、お前は経験がねーからそう言えるんだよ」

「主任務は偵察とは言え、救助できるかもしれない命をここで放っておくわけにはいかないわよね」

「でも負傷しているかもしれない彼女たちを連れて動くのは無理だよ」

「瑞鳳は薄情なこと言うな、オイ」

今度は瑞鳳を深雪は睨みつけた。

「航行できるか分からない人たちだよ? 足手まといだって」

「補給も受けていないのですから一緒に戦えるか怪しい戦力です」

「でも見捨てる訳にはいかないわよねえ」

意見が瑞鳳と蒼月は偵察任務優先、深雪と夕張は救助を先にと二つに割れた。

「艦隊旗艦、どうするのさ? もちろん救助だよな?」

愛鷹はすぐには答えなかった。

 

島にいるのが第九二・五任務部隊の面々であるのは恐らく間違いないだろうが、指令では偵察が優先事項である。

かといって見過ごすつもりには全くない。命の尊さは身に染みている。

だが今は任務が優先だ。

 

「いえ、今はしません」

「はあ!?」

深雪が酷く憤慨した顔を愛鷹に向けて来る。

「ボコボコにされているんだぞ、負傷しているかもしれないんだぜ? 

それに何も食べてないかもしれない。

放っておけば今救える連中もあたしらが後回しにしたせいで力尽きるかもしれないんだぞ? 

人間は七二時間以上飲まず食わずだと死ぬ確率上がるって事はインテリな愛鷹だって知っているだろ?」

「彼女たちを救助している間に私たちが攻撃を受ける可能性もあります。

敵情確認の後救助するべきかと」

「今救助できるかもしれないのはあたしらだぞ。

分散行動はヤバいだろ? 

それにみんな負傷していたら五人で運ばないと無理だ」

しかし愛鷹は頷かなかった。

「今は寄り道しません」

「こっの、大馬鹿野郎-っ!」

逆上した深雪が連装砲を放って愛鷹に殴りかかって来た。

「ちょ、深雪さん」

慌てて蒼月が止めに入る。

瑞鳳も蒼月に加勢した。

「止めるなよ二人とも。

蒼月、お前は知らないだろ? 見たことないだろ? 

死にかけた奴を放っておいたらどうなるか? 

あたしは見て来たんだ、あたしのせいで……」

「知ってます!」

「嘘つけ! まあ、お前は外洋艦隊に加わんねえから知らないんだろうけどさ!」

「知ってます! 私の父と母も小さいころに重傷を負いながら私を助けて死んだから分かります!」

「え?」

深雪を止める蒼月以外の全員が彼女を見た。

「私の父と母は私が小さいとき、対馬から福岡に向かう船が深海棲艦に沈められた時に死んでしまいました。

私を庇って重傷を負った母は船と共に沈み、父は火災で負った火傷の傷をおして私と一緒に海に飛び込みました。

父は救助の護衛艦『あきつかぜ』の内火艇の人に私を預け、近くの漂流する人を優先してくれと頼んで救助を拒み続け最後に救助された時には手遅れでした。

深雪さんの言う事は正しいです。

アメリカ艦隊の人は助けなければなりません。

でも私たちが敵の情報を得られればもっと多くの人の命が救えるかもしれないんです。

今はこらえてください深雪さん。

絶対に助けます。そうですよね、愛鷹さん?」

「……勿論です」

愛鷹の答え方は少々事務的だったが蒼月の説得で気を落ち着かせたらしい深雪は「仕事が済んだら絶対助けるぞ」、と言って放り出した連装砲を拾うと艦隊編成を組んだ。

 

彩雲が第九二・五任務部隊の面々だと確認したとの一方暗号通信を送って来た。

「持ちこたえてくれよ……」

祈るように深雪が言った。

四箇所目の島には第九二・五任務部隊の生き残りが人工物のそばにいる……。人工物とは恐らくシェルターの事だろう。

アメリカ艦隊では一部の艦娘が遭難時に備えて艤装に非常にコンパクトにして持ち歩けるテントを携行している物がいると言うから、艤装サイズから言って余裕がありそうなスプリングフィールドかインディアナポリスが持っていたのかもしれない。

 

四箇所目の島を捜索した彩雲は五箇所目の島へと変針し、第三三戦隊も五箇所目の島に針路をとった。

五箇所目の島に近づいた時、彩雲がピケット艦複数発見を報告してきた。

互いのレーダー探知能力範囲を補う様に展開しているらしい。

 

「昨日四箇所目の島を守っていたピケット艦より数が多いわね。

ってことはやっぱり五箇所目の島に本命が?」

昨日一緒に行動していたからすぐに解った夕張が聞いて来る。

愛鷹も「断定はできませんが、可能性は高いですね」と頷いた。

すると彩雲が「天候不順。黒雲厚し。ただし気流の乱れは穏やか」と報告してきた。

「でも気象予報では晴天が続くって言ってました。

天候が急変したのでしょうか?」

「いや、敵泊地の気象条件と一致するわ」

報告を聞いた蒼月が怪訝そうな表情を浮かべたが、瑞鳳は頭を振って教えた。

敵泊地の気象条件をあまり知らないらしい蒼月に夕張が説明した。

「蒼月ちゃんは知らないみたいだから解説するとね、敵泊地のある所は分厚い黒い雲に覆われている割に上空の気流が穏やかなの。

多分防空戦闘機部隊の機動を邪魔しないようにってとこかしらね」

「いったいどんな手品を使っているんだろな。

天候をいじるなんてどういう力を持っているんだか」

理解が及ばないと言う風に深雪が呟いた。

その時、彩雲が「敵前線展開泊地棲姫発見。我緊急帰投する」と一報を入れて来た。

「前線展開泊地棲姫……相当な大規模部隊が展開可能ですね」

「未確認の巨大艦三隻も余裕で賄えそうじゃないか?」

「ええ」

 

前線展開泊地棲姫は泊地棲鬼の類似種とみられるもので、艦隊が確保した場所に短時間で大規模な艦隊が展開可能な基地機能を作り出せる。

また工作艦機能も備えている。反面防御力はそれほど高くは無く防衛部隊に頼っている感があった。

 

「マザーグースワン収容次第、四箇所目の島に向かい救助活動を展開します」

「了解」

一同が返答した。

その時、マザーグースワンが「敵タコヤキ戦闘機部隊を発見。全速力で離脱を行う」と一報を入れて来た。

見つかったか……。

タコヤキとは深海棲艦側の最新鋭艦載機だ。

形状からタコヤキと呼ばれている。

彩雲は偵察機だから空戦能力は無い。

自衛の旋回機銃も速度向上のためや電子装備、対潜装備搭載による重量増加を軽減するためオミットしている。

快足を生かして振り切りしかない。

しかし長距離飛行の結果燃料に余裕がないからフルスロットルで飛行すると当然だが長くは飛べなくなる。

こうなると危険を承知で前進して回収するしかない。

「彩雲収容の為、さらに前進します。

哨戒中の敵艦隊との会敵がありえますので警戒を一層厳にしてください」

「了解」

 

それから前進する事数十分。

マザーグースワンはフルスロットルで離脱したものの、敵戦闘機部隊複数部隊の待ち伏せに何度もあったおかげで進路変更を繰り返したためさらに燃料が不足し始めた。

それはつまり回収する第三三戦隊が発見され攻撃を受ける可能性がさらに高まると言う事でもあった。

 

「待ち伏せを複数受けていると言う事は、近辺に空母機動部隊が展開していると言う事か……」

そうだとしたらまず来る可能性があるのは敵航空部隊かもしれない。採り逃した彩雲のコースをトレースすれば第三三戦隊を発見して戦爆連合を送り込んでくる可能性が高い。

水上艦より移動速度が速い航空機がまず襲ってくるかもしれないと踏んだ愛鷹は主砲に三式弾改二を装填させた。

三式弾改二装填完了のブザーが鳴った時だった。

「拙い、マザーグースワン被弾! 飛行可能なるも主翼損傷。長距離飛行は困難」

瑞鳳の報告に愛鷹はいよいよ拙い状況になってきたことを感じ始めた。

自分たちは確実に見つかる。

「発信位置から会合予定はあと一〇分」

「総員、対空戦闘用意。敵は恐らく空から来ます。

瑞鳳さん防空隊を増強」

「はい」

「来い、片っ端肩落としてやる。

蒼月から特訓させてもらった腕を見せてやるぞ」

瑞鳳から烈風改がさらに上げられた。

「ストライダー隊、サイクロプス隊、メイジ隊、ゴーレム隊、スケルトン隊、ガーゴイル隊発艦」

「もう何のネタからか分かんねえ」

深雪が苦笑を浮かべた時、蒼月が空の一点を指さした。

「黒煙を吹きながら飛ぶ航空機を発見」

「マザーグースワンだ……まって、後方にタコヤキ数四機!」

第三三戦隊を見つけたらしい彩雲がバンクを送って来た。

その時、機銃の銃声がして彩雲が爆散した。

「何てこった、マザーグースワンが撃墜されたぞ!」

「敵機を視認!」

愛鷹はそう言いながら主砲の照準をタコヤキ四機に向けた。

まだ六個小隊の防空戦闘機隊は発艦したばかりで間に合わない。

射程ギリギリかもしれないがやるしかない。

対空射撃電探を起動する。

「目標確認、正面対空戦闘。

指標一番から四番に対し第一、第二主砲、撃ちー方始め! 

三式弾改二信管安全装置解除」

トリガーの引き金に指をかける。

「撃ちー方始め、てぇーっ!」

 

三式弾改二を装填した二基の主砲六門の三一センチ砲が轟々とした砲声と共に火を噴き、砲身を反動で後退させた。

六個の発火点を確認したタコヤキ四機は回避行動をとるが、愛鷹の放った三式弾改二の初速が速かったのを当然知らないから思ったより早く散弾を浴びた。

三式弾改二は信管に新型VT信管を使用しているので精度が高い。

六発の散弾が四機に死の暴風を浴びせた。

火の玉が青空に四つぱっと走る。

火の玉は黒煙を拭きながら落ちていった。

 

「敵機撃墜確認! 

凄い、この距離で⁉」

夕張が驚嘆した声を上げるが、愛鷹の顔は暗かった。

敵機が撃墜直前に敵艦隊発見と通信を発したのを捉えたのだ。

位置は発進できなかったようだがこの海域に自分たちがいる事がばれてしまった。

「敵に見つかりました。攻撃が来ます」

その言葉に一同の顔が緊張で引き締まった。

「一時離脱します。新針路〇-〇-〇へ変針、四箇所目の島は敵攻撃隊をやり過ごしてからとします。

最大戦速黒一杯。電波制限を解除、電探使用自由。

AEW(早期警戒型)彩雲発艦を許可します」

「了解、コールサインはスカイキーパー。

AEW彩雲発艦」

機上型対空電探搭載の彩雲早期警戒型が発艦すると、わずか数分で南東から敵攻撃隊発見を知らせて来た。

「お出でなすったな、しかし早いな」

「全員被弾しないでください。

救助活動の為にも誰一人欠ける訳にはいきませんし何より生きて帰ります。

対空戦闘用意、艦隊陣形を輪形陣に。

青葉さんが欠けている分防空能力が落ちています」

「了解」

六個防空戦闘機隊が敵攻撃部隊へと向かった。

 

 

(スカイキーパーより防空戦闘機隊。

ターゲットマージ、ボギーは八〇。

戦爆連合急速接近)

(了解。ストライダー1より各機、続け)

八〇機の白いタコヤキを確認した二四機の烈風改が交戦を開始した。

高度では有利だった烈風改が上から攻め込むと二〇機ほどのタコヤキが上昇。

他は加速する。

双方の射撃はほぼ同時だった。

烈風改の二〇ミリ機銃が曳光弾を放ち、赤い鞭の様な機銃弾の軌跡がタコヤキを捉えるとタコヤキが次々に爆散する。

タコヤキも緑の曳光弾の攻撃を烈風改の編隊に放つが初弾はすべて外れる。

瑞鳳の戦闘機部隊の練度は非常に高い。

四機小隊は連係プレーを駆使して渡り合う。

 

(ストライダーは戦闘機を引き付ける、サイクロプスは攻撃隊を)

(ガーゴイル、後方に敵機!)

(メイジ1からゴーレム、攻撃隊は任せる)

(エレメントを維持、孤立に注意!)

七機のタコヤキが撃墜されるが烈風改の損害無しはそこまでだった。

立て直したタコヤキが烈風改に緑の曳光弾の鞭を投げると、一機がからめとられて撃墜される

(スケルトン3、撃墜)

(スケルトン1、回避。後方にぴったりに着いている!)

(かわす……)

(スケルトン1が落ちた!)

(スカイキーパーからスケルトン2、4エレメントを組みなおせ! 急げ)

(だめだ、やられる!)

(スケルトン4がやられた。2も被弾)

(こいつら腕がいいぞ)

 

戦闘機隊の内ストライダー、メイジ、早くも三機を失ったスケルトン、以外の三小隊が残る敵機に襲い掛かる。

爆撃機と攻撃機が機銃攻撃で一機、二機と討ち取られる。

三個小隊は編隊を組んだまま一撃離脱するが、敵編隊内に紛れていた戦闘機が後ろから攻撃を開始する。

 

(ゴーレム2がやられた!)

(用心棒が混じっているぞ!)

(艦隊に近づかれる前にやっつけるんだ)

 

青空にフルスロットルのエンジン音と爆発音、機銃音が鳴り響く。

烈風改二機が編隊を維持しながらタコヤキ二機と切り返しやバレルロールを繰り返して追い出させ、そこへ機銃の攻撃を浴びせる。

機体を横に滑らせる、ロールする、降下する、上昇すると状況に応じて攻撃をかわすが、かわし切れなかった銃弾が機体に損傷を与える。

逆に背後をとった烈風改は捕食者の様にぴったり食らいついて射撃タイミングをうかがい、必中の距離、タイミングで機銃を撃つ。

放たれた曳光弾がタコヤキを火の玉に変えて葬る。

烈風改も緑の曳光弾を食らって翼をへし折られて錐もみになったところへ、とどめの一撃を浴びて機体が爆発して果てる。

 

(スケルトン2ロスト、スケルトン隊が全滅!)

(後ろをとられた。

拙いストライダー1、隊長機。何とかしてくれ!)

(ストライダー2、回避、回避)

(わ、なんでこんなところに!?)

後ろとられた烈風改が捻り込みを行ってタコヤキ二機からの攻撃をかわすと、そこへ隊長機が駆けつけて機銃攻撃を行い一機撃墜する。

(ありがとう、助かった)

(気にしない。フォーメーションを組みなおせ)

(ウィルコ)

 

タコヤキの攻撃隊は烈風改の迎撃で早くも三分の一近くを喪失するが、半分以上が戦闘機で攻撃機はまだ多数残っている。

(全機、攻撃機を狙うんだ! 戦闘機は後回し!)

(無茶言わないで、こいつら出来るんだよ)

第三三戦隊へと距離が縮まっていくが攻撃隊はまだ半数以上が健在だ。

(相手が多すぎる!)

(多すぎるからってビビるな!)

(スカイキーパーから各機、長距離対空射撃が来る。

高度一五〇〇メートルへ上昇))

烈風改が三分の一以上の攻撃隊を撃墜し、七機の烈風改が撃墜された時に愛鷹は三式弾改二による対空砲撃を行った。

しかし今度は散開されてしまったので、七機を撃墜するにとどまった。

 

次の迎撃は蒼月が担った。

高い視力で爆装したタコヤキの中でも蒼月が脅威と感じたモノに対し、長一〇センチ連装高角砲が砲撃を開始する。

長一〇センチ連装高角砲の三式弾改二が一機、また一機とタコヤキを落としていく。

正確な照準、長一〇センチ連装高角砲の高い速射性による砲撃は面白い様に敵機を撃ち落とす。

直撃を受けて四散するタコヤキ、至近距離でVT信管が起爆してばらまかれた散弾で飛行不能、また困難になったタコヤキが黒煙を吹き、何機かは海へと立て直せずに高度を落としていく。

二基の長一〇センチ連装高角砲が猛然と対空射撃を行った結果、蒼月の対空射撃だけで二六機もの攻撃機が撃墜される。

さらに射撃が続行される中愛鷹の高角砲、夕張、深雪の主砲の射撃が加わる。

深雪の一二・七センチ主砲が対空砲弾を連射し、夕張の一四センチ単装砲も対空電探とリンクした射撃をタコヤキの編隊に浴びせる。

特訓の成果を深雪は見せ、夕張は電探リンクによる精密射撃で対処する。

一四センチ砲の連射能力はあまり高くない。

タコヤキは次々に赤い火の玉になり黒い煙を吹きながら海へと転げ落ちていくが、残る機体が三手に別れる。

一隊は低空に降りてさらに二手に分かれ、もう一隊は高度を上げ、もう一隊はまっすぐ突っ込んできた。

低空に降りて二手に分かれたタコヤキに対し愛鷹と夕張の射撃が浴びせられる。

魚雷を抱えているのは明らかだ。

左右から雷撃による挟撃を行われる前に数が多い方を愛鷹が少ない方を夕張が受け持つ。

蒼月が高度を上げた敵機に射撃を続ける。

急降下爆撃を仕掛けて来る隊だ。

高度を上げている間は無防備になりやすいのは人類側も深海側も同じ。

蒼月が敵だったのは深海側には不幸だった。

残る一隊は恐らく戦闘機。機銃掃射攻撃を仕掛けてくるのだろう。

致命傷にはならないがダメージにはなるし瑞鳳には大きな脅威だ。

一機、二機、三機目、と愛鷹は攻撃機を落としていき自分の受け持つ側の攻撃機を全滅させると夕張の援護に入った。

夕張は一二・七センチ単装高角砲で応戦を開始していた。

主砲の速射性の無さに業を煮やしたらしい。

そこへ援護に入る。

だが大分高度を落として攻撃態勢に入っている。

「なかなか落ちない!」

焦燥を滲ませた声で夕張が言った時、愛鷹は第三主砲を構えた。

「どうする気なの?」

「主砲で海面を撃ちます、衝撃波に注意」

意図を理解される前に愛鷹は主砲を発射した。

三発の三一センチ弾が攻撃機の鼻先に突っ込むと触接信管で砲弾が起爆し、低空飛行する敵機の目の前に水柱のカーテンを作り出した。

これによって大半のタコヤキが水柱に突っ込んだ際海面に叩きつけられて墜落する。

考えた物ね、と夕張は戦闘中なのを忘れて感心する。

「くそ、二機仕留め損ねた! 機銃掃射来るぞ! 瑞鳳を護れ」

深雪の警告が飛んだ時、戦闘機が機銃掃射をしてきた。

気が付くのが遅れた夕張が機銃弾を浴びる。

防護機能で致命傷は受けずに済むが体中にパンチを食らったような衝撃が走る。

夕張が姿勢を崩すが、愛鷹が対空機銃で援護し二機の戦闘機は対空機銃の銃弾の雨に呑み込まれて爆散した。

「夕張さん⁉」

「大丈夫、軽巡でもこれくらいならまだ!」

「直上、蒼月ちゃんが撃ち漏らした二機が急降下!」

甲高い瑞鳳の警告が飛んだ時、タコヤキ二機が逆落としして来た。

愛鷹と夕張に備えられた対空機銃が弾幕を張るが撃墜できたのは二機が投弾した後だった。

「全員距離を!」

「かわせーッ!」

夕張と深雪、蒼月がパッと散るが動きの鈍い瑞鳳の至近距離に一発が着弾する。

「わっ!?」

大きな水柱に煽られた瑞鳳の小さな体が右に大きく傾き、左足が宙に浮いた。

そこへもう一発が直撃コースに乗る。

だめだ、当たっちゃう! と瑞鳳が目をつむって衝撃に備えた時、

 

「瑞鳳さん、危ない!」

 

叫び声がしたかと思うと瑞鳳は突き飛ばされ、その直後大きな爆発音と爆風が起きて愛鷹が閃光と黒煙の中に消えた。

第三主砲に防護機能を集中させて、爆弾を受け止めたのだ。

爆風が四人に吹き付け深雪と瑞鳳がひっくり返る。

「愛鷹さん⁉」

悲鳴のような声で蒼月が愛鷹を呼ぶと、しばし間をおいて黒煙の奥から激しく咽込む声が聞こえた。

一同がほっとした時、愛鷹が呻き声を上げて何かを吐いた。

「愛鷹⁉」

「愛鷹さん!」

「……大丈夫、まだ戦えます……」

黒煙から口元から吐血し、天蓋が大きくへこみ、砲身一本が折れ、火花がバチバチと散る第三主砲を持つ血まみれの左腕を庇う愛鷹が立ち上がるのが見えた。

小刻みに体を震わせ、制帽の下の額からは出血している。

一同からすればとても「大丈夫」には見えなかったが、愛鷹はタブレットを数錠口に入れてハンカチで口元を拭うと少し状態が良くなったらしい。

「第三主砲は……左砲が使えなくなりましたが……右砲が使用可能、中砲も修理すれば復旧……できます」

「でも、左腕の傷は……?」

「……大丈夫です、痛いのがはっきりわかります。

骨が折れたらしいので動きませんが」

そう言って愛鷹はまた咽込むがもう吐血はしなかった。

「皆さんは……ご無事で?」

「あたしと蒼月は無傷」

「ちょっとまだ体が痛いけど、少しすれば治ると思う」

「ご、ごめんなさい、愛鷹さん。私が、私が……」

ぐずぐずと泣きながら瑞鳳が庇ってくれた愛鷹に謝る。

「その声なら、ご無事そうで……うッ!」

まったく起こった様子もなく愛鷹は返すが、苦痛にまた顔をゆがめる。

しかししっかりと愛鷹は二本足で立っていた。

左腕が使えないので蒼月が鎮静剤注射と腕の止血を行った。

「第三主砲と左腕の機銃は使えませんが、それ以外の火砲は使用可能です。

機関部、主機も正常。

ただ電探の大半が損傷していますので索敵能力が……」

「そんだけやられても大丈夫だなんて、訓練の時に血を吐いて倒れ……ま、まあ、さっきも結構吐いてたけど、案外タフじゃん」

「私は超甲型巡洋艦です。

戦艦ほどタフではありませんが、あの程度の爆弾の一発でやられたりはしませんよ」

そう言って深雪に愛鷹は微笑んだ。

 

戦闘機隊を収容して一同は海域を一時離脱し、その後四箇所目の島へと向かった。

ところが四箇所目の島の手前でAEW彩雲が敵艦隊発見と知らせて来た。

瑞鳳は敵艦隊の編成内容を確認し、返って来た内容に唇を噛んだ。

敵はネ級二隻、リ級二隻、ホ級一隻とイ級らしき駆逐艦一隻だ。

こちらは夕張と深雪、蒼月、手負いの愛鷹を含めても数的な不利が大きい。

ここはいったん父島に撤退するべきか。

しかし、四箇所目の島の北米艦隊の艦娘の救助を断念するのは気が引ける。

救助を強く進言していた深雪も状況が状況なだけにここは撤退するべきと考えていた。

しかし愛鷹は交戦・排除した上で救助に向かう事を決定した。

「無茶言うなよ! その傷じゃ危ないって!」

深雪の言葉は夕張と蒼月、瑞鳳の気持ちも代弁していた。

いくら重巡を圧倒可能と言っても手負いのまま戦っては大破するのは目に見えている。

だが旗艦の気持ちは変わらなかった。

頑固なのか、慢心しているのか分からなかったが愛鷹の意思に揺るぎはないようだった。

しかし瑞鳳を連れての水上戦闘は危険だ。

そこで愛鷹は瑞鳳に深雪を付けて海域から離すと、夕張と蒼月の二人を連れて二倍の数の敵との交戦を目論んだ。

中破、それも左腕が骨折しているから実質第三主砲は使用不能でも戦う気でいる彼女の意思の堅さに、深雪が「これほどの大馬鹿野郎は初めてだぜ」と苦笑交じりに言ったが瑞鳳を連れて離脱し、夕張と蒼月も愛鷹の判断を支持した。

 

「敵を殲滅する必要はありません。

追い払うだけでもいいです」

「退かなかったら?」

「私が何とかします」

使える右腕で二基の主砲を管制するし、被弾時にレーダー類が多数破損したから電探射撃は出来ない。

目視による光学射撃が頼りだから反応速度は相当落ちている。

射程を生かした長距離狙撃は無理だ。

「無理しないでくださいね、愛鷹さん」

「ありがとう蒼月さん。無理を言ってすいません」

「いえ、私が防ぎきれなかったばかりに……」

「過ぎた事です。悔しいことは次につなげる基盤です」

「はい」

 

夕張の電探は無傷なのでその電探と瑞鳳がもう一機上げたAEW彩雲コールサイン「ヘヴィークラウド」が目となった。

島まであと二五キロと言うところで深海棲艦巡洋艦部隊を「ヘヴィークラウド」が捉え位置を知らせて来た。こちらに向かっていると言う。

「お出でなすったわね」

夕張が袖をたくし上げる。

ただ愛鷹は一つ気になることがあった。

敵艦隊はなぜこちらに向かってきている? 

こちらの存在は知っていても、位置までは知らないはずだ。

いやな予感が頭をよぎった時、夕張の電探に敵艦隊の反応が現れる。

「全員、対水上戦闘用意! 

左砲戦面舵二〇、第四戦速。

二人は軽巡と駆逐艦を先にお願いします。

私は重巡を相手にします」

「四隻の重巡相手に一人で?」

「お任せを。来ますよ」

愛鷹が目視でとらえたネ級に照準を合わせる。

海洋生物のように動く駆逐艦は砲撃できないのでホ級を夕張と蒼月が二人で対処する。

 

先手を取ったのは第三三戦隊の方だった。

 

「対水上戦闘、全艦主砲砲撃はじめ。

撃ちー方始め!」

三一センチ三連装砲二基と一四センチ単装砲、長一〇センチ連装高角砲が深海棲艦巡洋艦部隊に砲撃を開始した。

対空射撃では精度が低い夕張の砲撃も、水上射撃なら上手向きだった。

敵艦隊はこちらより半分の数の敵からの先制砲撃に動揺したものの初弾は外れたのを見て立て直してきた。

五隻分の発火点が三人の左手にはしった。

深海棲艦巡洋艦部隊の初弾も外れる。

その間に第三三戦隊は次弾を放っていた。

万全の状態ならすでに直撃させているはずだが、中破しているから二撃目でも愛鷹の砲撃は当たらない。

しかし狙いを定めているネ級から右にわずか二メートルの位置に着弾していた。

深海側の砲撃が来る。

倍近い数なだけに投射量はやはり多い。

作り出される水柱の飛沫が三人に降りかかる。

第三射目で愛鷹の砲撃がネ級を挟叉した。

夕張と蒼月の砲撃も次の射撃で命中弾が期待できる位置に着弾する。

向こう側は早くも直撃弾が出る段階にまで追い込まれたことに焦りを見せる。

三射目の砲撃は第三三戦隊を捉えることもなければ、次撃てば当たるような位置にも着弾しない。

 

「次は当てる……てぇーっ!」

六門の三一センチ砲が轟音と共に砲口から徹甲弾を撃ち出す。

ネ級一隻に直撃の閃光が走る。

ネ級が爆炎の炎に包まれて無力化されるとほぼ同時に夕張の射撃がホ級を捉える。

夕張の射撃はホ級にダメージを与えるが負けじと撃ち返してきた。

残る重巡三隻もネ級の仇と砲撃する。

三人は本能的に当たると判断した。

「回避運動」

射撃照準がぶれ過ぎない範囲で三人が回避機動を行うと、周囲に水柱が大量につきあがった。

回避していなければ確実に被弾していた位置ばかりだ。

お返しにと第三三戦隊の砲撃が深海棲艦へと行われる。

夕張と蒼月の砲撃がホ級を捉え、二隻の砲撃を食らった軽巡ホ級が爆発炎上し速度を落とした。

リ級一隻も愛鷹の砲撃が直撃して爆炎に包まれる。

残る重巡二隻は形勢不利を悟ってか砲撃が及び腰になった。

そこへ愛鷹がもう一射を浴びせると、至近弾でネ級の主砲塔が損傷する。

発砲不能になったらしくネ級が損傷した主砲を庇いながら離脱し始めた。

無傷のリ級が後方についてバックアップに着く。

 

「追撃は不要。瑞鳳さんと深雪さんと合流後島へ向かい生存者の救助を行います」

「了解」

二人がほっと溜息を吐いた。

その時、愛鷹のソナーが魚雷の馳走音を捉えた。

駆逐艦が一隻まだいたのだ。

魚雷の音がする方を見ると四本の白い航跡がこちらに向かって来る。

「雷跡四、正面です。回避!」

「駆逐艦、どこに?」

回避行動をとりながら夕張が言った時、魚雷が向かってきた方にイ級後期型が飛び出してきた。

そして一番近かった愛鷹に三発砲弾を発射した。

回避はとても間に合わなかった。

三発すべてが命中した。

金属の塊を三回たたく音が響く。

三点射撃を行ったイ級に蒼月が主砲砲撃を浴びせて撃沈すると被弾した愛鷹を確認する。

直撃を受けたのは第二主砲と左わき腹だった。

砲弾は第二主砲の装甲に弾かれて破片が愛鷹の頬に引っかき傷をつけたが、それ以外に被害は出なかった。

脇腹に命中した砲弾は防護機能で威力を大きく減じたので、愛鷹は呻き声を上げて前のめりになって後ろに後ずさりしたが、傷は浅かった。

「駆逐艦程度の砲撃では主砲塔は破壊できません」

黒煙を上げて沈んでいくイ級を見つめながら愛鷹は呟いた。

 

 

瑞鳳と深雪と合流した後、島にようやく到着した第三三戦隊は島で救助を待っていた第九二・五任務部隊のスプリングフィールド、インディアナポリス、マクドゥーガル、ダットワースの四人と合流した。

四人とも艤装も服装もボロボロになり大なり小なり負傷していた。

特にダットワースは瀕死の重傷を負っており、意識不明で酷く衰弱していた。

しかし上陸してきた第三三戦隊の面々を見てダットワース以外の面々弱々しくも歓声を上げる程度の体力はまだ残っていた。

幸いスプリングフィールドはある程度体力が残っており、中破し傷を負いながらも救助に来た愛鷹を見て号泣しながら「Thank you Thank you」と両手で握手をしてきた。

 

「ご無事で何よりです。申し訳ありません、お迎えが遅れて」

「貴女こそ大丈夫ですか? 酷くやられてしまっていますが」

「左腕は使えませんが、戦闘。航行共に可能です」

「貴女たちは命の恩人です。この御恩は……」

「帰ってからお願いします。父島に引き揚げましょう」

「はい、ありがとうございます」

スプリングフィールドの歓喜の涙は止まらなかった。

 

何とか持っていたレーションを細々と食いつないでいたものの、昨日でそれが切れ水ももう一日近く飲んでいないと言う。

脱水症状、栄養失調で酷く痩せてている上、スプリングフィールド以外は航行不能だった。

インディアナポリスとダットワースは主機が大破するか履いてない状態で浮くことすらできない。

マクドゥーガルは片肺だ。

また全員弾薬を損耗している為戦闘も不可能だ。

スプリングフィールドは戦闘で機関部が損傷している上、この島まで三人を曳航してくるまでにかなり負荷がかかった結果巡航すら出せない状態だった。

幸い夕張が機関部の応急修理を行った結果巡航速度はどうにか出せるようになり、第三三戦隊は旗艦が中破するも偵察任務を成功させ副次的任務の第九二・五任務部隊生存者救助を行って父島へと帰投した。

 

父島が見えた時、愛鷹は父島との回線を開いた。

「こちら第三三戦隊旗艦愛鷹、父島警戒基地管制へ。

任務達成、第九二・五任務部隊生存者四名を救助。

全員負傷しており一名は危険な状態です、緊急医療搬送の用意を願います」

(了解、第三三戦隊。

任務達成おめでとう、そしてお帰り。

お手柄だな)

(……貸してください。

皆さんご無事ですか!? 青葉です)

「全員無事ですが、夕張さんが機銃掃射を受けて被弾したので念の為検査が必要です」

「こちら瑞鳳。

付け加えると愛鷹さんも中破して左腕骨折の模様。

戦闘・航行可能なるも手当てが必要です」

(それを早く言ってくださいよぉ!? 

大丈夫なんですか、愛鷹さん!?)

「私より第九二・五任務部隊の人たちが深刻です。

私は大丈夫です、腕の一本が折れただけです」

無線御向こうで青葉が大きなため息を吐くのが聞こえた。

(心配しましたよ。

でも愛鷹さんが中破って、青葉、司令官に殺されてしまいます)

「大丈夫だよ、あいつそこまで鬼じゃないだろ」

深雪がケタケタと笑うと青葉が笑うのも聞こえた。

 

 

父島に入港すると、埠頭で待機していた五台の救急車からストレッチャーがおろされ、動かないダットワースを載せると真っ先に島の病院へと緊急搬送した。

インディアナポリスはスプリングフィールドと夕張に肩を貸してもらって上陸すると救急隊員に引き渡されてストレッチャーに載せられ、マクドゥーガルは深雪、蒼月が肩を貸して上陸し同じく救急隊員に引き継いだ。

「先に行ってるわよ、スプリングフィールド」

「ええ、インディ。後から行くわ」

「助かったの私たち?」

「ええマック。助かったの」

「夢みたい……」

「パープルハート勲章と海軍殊勲十字章、スプリングフィールドにはメダルオブオナー(名誉勲章)が授与されるわね」

「やめてよ、インディ。メルヴィンとノーザンプトンが死んだのに……」

「そうね……Peace to the follen(死者よ、安らかに)」

「死者よ安らかに」

 

インディアナポリスとマクドゥーガルを載せた救急車が発車し、艤装を解除した愛鷹も救急隊員に応急処置を施されて救急車に乗った。

「私は病院に行きますので、申し訳ありませんが少しだけ瑞鳳さんに後をお願いします」

「任せて」

「しっかり傷治して来いよ。後で見舞いに行くから」

「後片付けは任せてください」

「壊れちゃった第三主砲が使えるように私が何とかしてみるわ」

「ありがとうございます」

微笑んだ愛鷹が一礼すると「もう行きますね」と救急隊員が言ったので愛鷹頷いた。

「敬礼!」

瑞鳳が号令と共に夕張、深雪、蒼月が敬礼するとにっこり笑った愛鷹も答礼した。

五台の救急車が病院に負傷した艦娘五人を搬送し、手当てを行った。

 

ダットワースは一二時間近い手術を受けて一命をとりとめ、他の三人のアメリカ艦娘も包帯、絆創膏だらけになり添え木や松葉杖の世話になることになったが三か月(スプリングフィールドは一か月)入院すれば退院可能と診断された。

愛鷹も骨折し傷だらけになった左腕を治療して、骨が治る三週間後まで添え木をして三角巾で吊る生活をしばらく送る事となった。

とにもかくにも愛鷹と青葉が中破したものの第三三戦隊は任務をやり遂げ、全員が生還を果たした。

しかし、まだこれで終わりではない。まだ……。

 




今回の話で愛鷹達の任務は事実上達成しましたがまだまだ沖ノ鳥島海域を巡った戦いは続きます。
そして愛鷹の艦娘としての苦難の人生もまだ始まったばかりです。

前回、魚雷攻撃で退場した青葉ですがはっきりと宣言します。
青葉は沈みません(死にません)。

第七話では私の好きなゲーム「ACE COMBAT7」に登場する航空機のコールサイン、やり取りの一部などが多く盛り込まれています。
マザーグースワン、スカイキーパー以外のコールサインの内、鳥の名前は「ACE COMBAT7」に登場する味方艦艇の、防空戦闘で空中戦を繰り広げた戦闘機隊はゲームに出て来る戦闘機部隊の名前から来ています。
また臨場感演出の試みとして妖精さんパイロットには多数のセリフを出してみました。
反省点としては「ACE COMBAT7」ネタを少し盛り込みすぎた所です。

なお、今作では原作となる艦これには登場しない艦娘(愛鷹もその一人ですが)の他に深海棲艦も多く登場します。
それらについては次回以降に詳しい解説回を設けていきたいと考えています。
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