艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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2023年最初にお送りする「代償」のお話です。
尺はやや短めです。


第六三話 銃撃戦

 銃撃音が響くや、愛鷹達が乗る乗用車を銃弾が立て続けに着弾した。後部の窓ガラスに着弾痕が幾つも出来、車体にも着弾音が走る。

「ひっ!?」

 同時に呻き声を上げて身を屈める青葉と衣笠だったが、愛鷹がアクセルを更に踏み込み加速した反動でシートに押し戻される。

「じゅ、銃撃ですよね!? なんで青葉たちが撃たれるんですか!?」

「狙いは私でしょうね……」

 ハンドルを握りしめながら青葉に返しつつ、サイドミラー等で追っ手のバンを見据える。

 こちらが加速すれば向こうも加速して追いかけて来る。残念ながら振り切れそうにない。

 再び銃撃音が鳴り響き、バリバリと車体と窓ガラスに銃弾が着弾する音が走る。

「愛鷹さんも伏せて下さい!」

「大丈夫です、この車は防弾ですから」

 再び身を屈めて頭を抱え込みながら、同じように伏せるよう言って来る衣笠に乗用車が防弾仕様であることを教える。

 

 防弾仕様と言っても、ライフル弾や拳銃弾が防げる程度だ。ロケット弾でも撃ち込まれたら全員車ごと爆散してしまうだろう。

 最大速度で振り切ろうにも、バンの最高速度の方が寧ろ上なのか振り切れそうにない。

 どうする、このままGEAR社が待っているアルカラデロスガスレスまで何とか耐えるか? 車の防弾仕様も六・八ミリ弾までなら何とか耐えられるはずだ。

 タイヤを撃たれたらお終いかもしれないが、愛鷹とてただ車が運転できる程度の運転技術に留まる訳では無い。宙返り以外なら何でも出来ると言う様な自信すらある。

 ただ青葉と衣笠を巻き込んでしまった、と言う事が酷く愛鷹の心を傷つけた。謝っても謝り切れないくらいの悔恨が湧いて来る。

 申し訳なさで一杯の愛鷹だったが、車が防弾仕様と分かると落ち着いたらしい青葉が背後を振り返ってバンの方を見る。

 

「しゃらくさいですねえ……」

 珍しく怒りをハッキリと露にした口調と表情を浮かべる青葉は、後部シートを倒して荷台の方へと這い出した。

 それを見て一番驚いたのは衣笠ではなく愛鷹だった。

「な、なにをする気です青葉さん⁉」

「防弾仕様と言う事はこの車って軍の高官用の車ですよね? 荷台に自衛火器が二丁備えてある筈です」

「まさか、応射するとでも!? 相手は恐らく殺しのプロですよ」

 困惑を露にする愛鷹に青葉ではなく衣笠が応えた。

「大丈夫ですよ。青葉、海軍学校で銃器の射撃はトップクラスでしたから。射撃場に普段行ってないから腕が衰えているか、そのままかは分かりませんけど」

「そうだとしても、危ないですよ。何とか振り切れるか、護衛のPMCとの合流地点まで耐えるしかないです」

「護衛のPMC?」

 二人そろって聞き返してくる。チピオナで有川中将から伝えられていたGEARの事をまだ伝えていなかったことを思い出し、手短にその事を教えた。

「頼もしい話ですけど、その街まで行かないと護衛のPMCとやらは用心棒として働いてくれないじゃないですか。それまで青葉達で凌ぐしかありませんよ」

 青葉の言う通りではあるが、愛鷹としては銃を握って相手を殺傷する行為が憚られた。施設時代のクローン同士の殺し合いが今でもPTSDとして強く彼女の心を苦しめているだけに、苦しみたくない思いが勝ってしまうのだ。しかし、だからと応射するその手を青葉に任せてしまう事も尚の事憚られた。

 再び銃弾が車体を打ち据える着弾音が車内に籠る様に響く。

 

 運転席の愛鷹が決断出来ない内に、荷台から隠す形で仕舞い込まれていたAR15を一丁取り出した青葉は動作チェックを始める。

 チャージングハンドルを何度か引きチェンバー内がクリアなのを確認し、フィールドストリッピングの様に中折れ式に分解して機関部をあれこれ調べて回る。愛鷹を狙っての事だとしたら万が一応射できる防具に何か細工をしていてもおかしくはない。接着剤でも詰められていたら暴発して最悪それで死ぬかもしれないのだ。

 

 手早く確認を行う青葉の手つきに、衣笠が感心した様に見つめる。

「相変わらず、銃の扱いが上手いわね」

「海軍に入る前、ちょおっと、ね」

「何よ、ヤクザとかにでも教わってたの?」

 自分にも教えていない事がまだあるのかと身を乗り出す衣笠の前で、分解チェックをしていたAR15を組み上げ、マガジンを挿入し、チャージングハンドルを引く。初弾がチェンバー内に装填される音が車内に響いた。

「ちょ、青葉さん、本当にやる気なんですか!」

「やらなきゃやられる。深海棲艦と戦ってた時と同じですよ。相手が同じ人間であろうと。殺しにかかって来るのなら敵です」

 容赦なしの姿勢を見せる青葉に流石の愛鷹も冷や汗を浮かべながら引いてしまった時、後方でポン、という間抜けた音がした。

 反射的にグレネードランチャーの発射音、と判断した愛鷹がハンドルを右に切る。乗用車の左手で小爆発が起き、四散するアスファルトの破片が車体を叩いた。

 

「ダネルMGL! 拙い」

 サイドミラー越しにバンから身を乗り出している男の一人が構えている得物を見て愛鷹は呻くようにその名を口にする。

 六連発のリボルバー式のグレネードランチャー。目新しいモノではない割と骨董品の域にあるものだが、発射される擲弾の威力にふざけたところは一切ない。

 再びグレネードランチャーの発射音が響き、発射された擲弾が愛鷹達の車に迫る。

 左にハンドルを切って躱す愛鷹の右手で小爆発が起き、道路に小さな破孔が穿たれる。爆発の規模は小さいが、当たれば防弾仕様のこの車でも大破は免れない。

 ダネルMGLは六連発。今二発撃ったからあと四発は来る。

 GEAR社が合流する町まではまだ距離がある。このまま振り切れる様子はない。

 どうする、青葉に応戦を任せるか? いや危険すぎる。いくら射撃が得意とは言っても、明らかに相手は殺しのプロ、対人戦を生業とする殺し屋の手だ。肩やこちらも一応「深海棲艦を専門とする殺し屋」ではあるが、戦い方が違う。艤装の防護機能の加護が無い今、生身の艦娘はライフルの銃弾でも殺せる。

 やるか、やられるか。確か車内に備えられているAR15は二丁。青葉だけでなく愛鷹自身か衣笠にも応戦する術はある。

 だが愛鷹には対人戦をやると施設時代の「選抜試験」での殺し合いのPTSDが再発すると言う問題があった。撃って来る集団の相手を撃てば、愛鷹はPTSDの再発で苦しむ事になる。何度か経験している体験なだけに、戦うしかないと分かっていても踏み出せなかった。

 では衣笠に青葉の援護を任せるか? いや確か第三三戦隊結成前に読んだ艦娘人事ファイルでは衣笠の銃器射撃適正は青葉と対照的に最下位だった筈だ。

 やはり自分が銃を握って応戦するしかないのか。

 暗然とした気持ちが胸の中で広がる中、青葉は車の右側の窓を開けて身を乗り出そうとした。

「青葉さん!」

「愛鷹さんは運転に専念しててください! 青葉が何とかします!」

 愛鷹が何か言う前に青葉はAR15の引き金を引き、追っ手の車のサンルーフから身を乗り出して撃って来る男達に銃弾を浴びせた。

 ライフルを構えて身を乗り出した青葉の姿を見て即座に車内に引っ込んで応射を躱した男達は、窓を開けて身を乗り出し、グレネードランチャーを発射した。

「グレネードランチャーが来ます!」

「掴まって!」

 二人に向かって叫びながら愛鷹はハンドルを切る。急旋回の勢いで車外に放り出されない様に青葉の身体に衣笠がしがみ付く。

 三発目は思っていた以上に三人の車の左側面の傍に着弾した。爆発の衝撃で左側のタイヤが浮いた。

 必死にハンドルを切って車体の姿勢を元に戻す愛鷹の耳に、青葉が撃つAR15のセミオートの銃声が入る。

 単射であるセミオートオンリーのAR15を撃つ青葉に、二台目のバンから二人がサンルーフから身を乗り出し、ドラムマガジンを装着したAK-37による制圧射撃を浴びせて来る。

 即座に車内に引っ込む青葉だが、何発かがその身体を掠める。青葉が開けた窓から銃弾が二、三発車内に飛び込んできて助手席のシートにめり込む。

「タイヤ! タイヤを狙って下さい!」

「狙おうにも相手はドラムマガジンですよ! いつ射撃が止むか分かりません!」

 着弾する銃弾の音に負けない声で青葉が愛鷹に向かって喚く。

 ドラムマガジンは通常のマガジンと比べて装弾数が多いからライフルを軽機関銃の如く連射出来る強みがあった。ドラムマガジンを装着したAK-37を撃っているのは二人だが、交互に撃って弾切れによる射撃の隙を上手い具合にカバーしあっている。

「もう一人、銃を扱える人が居たら……ガサは肝心な時に役に立たないし」

「何かそれ言われると腹立つけど、こればっかりは反論出来ないわね」

 マガジンの残弾を確認しながらぼやく青葉に衣笠は口を尖らせる。

 再びグレネードランチャーの弾が飛来し、三人の乗る車の傍に着弾して車を大きく揺さぶる。

 このまま迷い続けていたら三人揃ってあの世だ。覚悟を決めるしかない。

 腹を括るしかない。人を撃たずとも、タイヤを撃って追って来られない様にするくらいなら自分でも出来る。

 手汗でびっしょりの両手でハンドルを握り直してやるしかないと決めた愛鷹は、飛来したグレネードランチャーから残る残弾を数え直す。

 四発撃ったから、シリンダーには後二発の装填されている筈。つまり、残る二撃を躱せば一度リロードタイムを挟む必要があると言う訳だ。

「後二発、それで一旦リロードタイムに入りますね……衣笠さん」

「はい?」

 不意に呼ばれた衣笠が振り返ると、バックミラー越しに彼女の顔を見返しながら愛鷹は頼みを入れる。

「車の運転は出来ますよね?」

「自動車の運転なら得意ですけど」

「グレネードランチャーのリロードタイム中に私と運転を代わってください、私が青葉さんに加勢します」

「で、でも出来るんですか? 愛鷹さん、確か対人戦は得意でもそれがトラウマだったんじゃ」

「やりようはあります。お願いします」

「……わ、分かりました」

「わーお、ガサの運転とは久々だね」

 緊張した表情で頷く衣笠の横で、青葉が少し驚いたような表情を浮かべる。

 五度目のグレネードランチャーの発射音が鳴り、今度は側面ではなく三人の車を飛び越えて目の前に着弾する。飛散する破片がフロントガラスを含めた車体前面を殴りつけた。

「あと一発」

 衝撃で噛みそうになった舌を引っ込めながら呟いた時、その六発目が飛来した。

 バックミラー越しに弾道を見切った愛鷹がハンドルを切り、躱された擲弾が車の右側に着弾する。

「今です、衣笠さん!」

 運転操作を切り替えるタッチパネルディスプレイで三〇秒間オート運転に切り替えると愛鷹はシートベルトを外して助手席に移る。

 すぐさま後部座席から衣笠が運転席に体をねじ込み、ハンドルを握り、アクセルに足を置く。二人が入れ替わっている間に青葉がAR15で牽制射撃をバンに向けて浴びせる。

 素早く愛鷹が後部座席に移動すると、荷台に仕舞われているもう一丁のAR15と備えられていた予備マガジンを全て取り出す。

 応射前に青葉がやったのと同じ銃のチェックを手早く行って、細工がされていないか、作動不良になる原因はないかを確認するとマガジンを装着し、チャージングハンドルを引く。初弾がチェンバー内に装填される音が車内に響いた。

「フリップアップサイト……ACOGサイトかせめてホロサイトだったら良かったのだけど」

 本来はバックアップ目的のアイアンサイトだ。精密照準射撃は専門のサイトより難しい。普段の艤装で培った射撃技術で何とかするしかない。

「リロード!」

 AR15の弾が切れた青葉が空のマガジンを外して予備マガジンをすぐさま装着し、ボルトリリースボタンを叩く。

 青葉が身を乗り出している右の窓とは反対側の左の窓を開けた愛鷹は、バンの方の注意が青葉に向いている隙を突く形で、一台目のバンのタイヤを狙う。

 一台目のバンの男の一人が愛鷹に気が付き、AK-37を向けるが、即座に愛鷹はバンのタイヤに向けて引き金を引いていた。

 二発の銃声が鳴り響き、弾丸がタイヤに吸い込まれる。が、愛鷹が期待したバーストの音はせず、小さな着弾音を立てて弾が弾かれた。

「嘘でしょ、ライフル弾を弾くなんて只のバンじゃありませんよ!」

「ま、弾薬はM856A1ですからね……貫通力の評価に関してはブレがある弾薬ですし」

 ライフル弾を弾き返すバンのタイヤを見て驚愕する青葉に対し、愛鷹は半分驚きながらも半分は納得していた。

 

 事前に備えらえていた銃を調べた際、勿論弾薬も調べた。M856A1はそれなりの貫通力はあるのだが、バンのタイヤはM856A1程度のライフル弾では撃ち抜けないくらい硬いらしい。

 人に向けて撃てば生身の身体にはもちろん脅威だが、ボディアーマーや装甲版、防弾仕様のものに対しては少々貫通力に劣る弾薬な分不利であった。

 装甲車のコンバットタイヤか、とその頑丈さに驚きながら、代案を考える。

 その間に青葉は容赦なく撃って来るバンの男達に対して銃撃を浴びせる。だがセミオートな分、連射出来るAK-37より制圧力に欠けた。

 

(タイヤが無理なら窓はどうかな)

 

 フロントガラスに撃ち込みまくって視界を奪うのはどうか、と考え付き、銃口を一台目のバンのフロントガラスに向けて引き金を引く。

 バンのフロントガラスに白い着弾孔が出来るのが見え、行ける、と愛鷹は確信するとフロントガラスに万遍なく銃弾を撃ち込んだ。

 割れはしないがその分白い着弾孔となってドライバーの視界を奪う。サンルーフから身を乗り出す仲間が方向指示するお陰で辛うじて進路を維持できている様だが、その仲間を車内に引っ込めさせた状態で障害物にでもぶつければ無力化できるだろう。

 一旦、バンのフロントガラスに全弾撃ち込んで撃ち切ったマガジンをリロードし、二台目のバンのフロントガラスに狙いを付けた時、一台目のバンのサンルーフから長い筒を構えた男が身を乗り出そうとしていた。

 ぎょっと目を見開き、長い筒の名を口にした。

「MATADOR!」

「対戦車ミサイルですか?」

 愛鷹の叫びに青葉が目を見開いて聞いて来る。

「ミサイルじゃなくてロケットランチャーです! 衣笠さんジグザグ運動! ロケットランチャーの弾頭はアニメみたいに飛んで来るのが見える代物じゃありません!」

「了解! しっかり掴まっててください!」

 その言葉の直後に衣笠は右に左にハンドルを切って蛇行運転に入る。

 愛鷹と青葉は下半身で車内に身体を固定して蛇行運転の慣性に耐える。右に左にと視界が揺れ動く中、愛鷹はAR15を構え直し、ロケットランチャーを構える男の腕を狙う。

 胴体に撃ち込んでもアーマーを着込んでいるのが見えるから、M856A1では貫通出来るか分からない。それにやはり殺傷は憚れた。

 腕なら死にはしない。

 右に左にとハンドルを切る衣笠だが、パターン気味なハンドル捌きになりがちだ。動きを読まれると危機感をあらわにした青葉が衣笠に向かって叫ぶ。

「もっと不規則に蛇行運転をして!」

「いや、五秒だけ直進して下さい。相手の射手の腕を狙い打ちます!」

 無言で言われた通りに衣笠は五秒、ハンドル捌きを止める。その間に愛鷹はMATADORロケットランチャーを構える男の腕を狙い撃った。

 すうっと息を吸って軽く止めると、フリップアップサイト越しにロケットランチャーを構える男の腕に狙いを澄まし、引き金を引き絞った。

 銃声が一発響き、放たれた弾丸がランチャーを構える男の腕を捉える。ロケットランチャーが車内に取り落とされるのが見えた。

「ナイスショット!」

 親指を立てる青葉に愛鷹はウィンクで答える。

 その後、衣笠のランダムな左右への切り替えしハンドル捌きで愛鷹と青葉ともに銃の照準どころではなくなったが、それは追っ手のバンも同様で、銃撃が止んだ。

 一旦車内に引っ込む愛鷹と青葉はマガジンを引き抜き、残弾を確認する。互いに残り数発と言う具合だ。

 予備マガジンはあるが、予備弾薬は無い。それぞれ残り三つずつ分しか残弾は残っていない。

 GEARと合流するアルカラデロスガスレスまでまだ二〇キロ程ある。

「弾を大事に使って下さい」

 予備マガジンを渡しながら言う愛鷹に青葉は無言で頷く。

 バンは二台ともまだ追ってくる。フロントガラスを潰された一台目はサンルーフから同乗者が身を出して方向指示する事で追跡を続けている。

 銃撃戦は埒が明かないと見たか、二台とも急激にスピードを上げて愛鷹達の車に迫る。

 

「もっと加速してガサ!」

「これが精一杯よ!」

 追い上げて来るバンを見た青葉の言葉に、ヒールサンダル履きの足で床に張り付くまでアクセルを踏み込んだ衣笠が頭を振る。

 左右から挟み込む形でバンは乗用車に並ぶ。そのバンに車体色と殆ど同じ色書かれた文字を見て愛鷹は舌打ちをする。

「やはりUSET ARMSか」

 同様に右手から挟み込みにかかるバンの側面に書かれた「USET ARMS」の文字を見た青葉が驚きをその顔に浮かべる。

「欧州最大のPMCじゃないですか。ロシアの無法地帯で有名なザコフ市での治安維持活動を行っていて、真意は不明ですけどロシアの科学企業である『Gaiaグループ』の研究施設で民間人殺害事件を起こしたとか良くない噂が付きまとってるとか」

「よくご存じですね青葉さんは」

 その情報通に驚きと何か呆れに似たものを覚えながら返した時、左右から挟み込む二台のバンが急激に乗用車に同時に体当たりを敢行して来た。

 衝突音が響き、三人の悲鳴が上がる。バン二台の体当たりで大破するようなやわな車ではないが、みしりと車のフレームが不気味な音を立てる。

「またバンが来ます!」

 AR15を構えながら青葉が叫ぶ中、愛鷹は衣笠に急減速を命じた。

「ブレーキを踏んで、目一杯!」

「はいッ!」

 即座に衣笠はアクセルを目いっぱい踏み込んでいた足をブレーキに移して思いっきりブレーキを踏み込む。

 タイヤが急停止の悲鳴を上げ、愛鷹と青葉の二人の身体が慣性で運転席と助手席にそれぞれ押し付けられる中、三人の車の目の前で二台のバンが衝突する。

「面舵、最大戦速!」

 艦娘ならではの癖で運転指示を下す愛鷹に迷う素振りも無しに衣笠はハンドルを切り、アクセルを踏む。彼女のサンダルのヒールがペダルを踏む際に引っかかって微妙に反応がずれながらも、衝突して反動でぶらついている二台のバンを追い越し、一気に距離を離しにかかる。

 フロントガラスが着弾痕で真っ白になって見えなくなっているバンの方は、仲間と接触した際にハンドル捌きに失敗してそのまま路肩に突っ込んで止った。

「一台脱落! もう一台はまだ追ってきます!」

「しつっこいわねえ! しつこい男は嫌われるわよ」

 銃を構えてバンが追ってくる事を知らせる青葉の言葉に衣笠は悪態を吐く。

 またフロントガラスを着弾痕だらけにして視界を奪ってやるかと愛鷹がAR15を構え、フロントガラスに照準を合わせ、引き金を引く。

 二発撃ちこんだところで、サンルーフから身を乗り出した二人組がドラムマガジンを装着したAK-37の弾幕射撃を浴びせて来た。

 急いで車内に引っ込む愛鷹に代わって、青葉が身を乗り出しライフルを構え、AK-37を構えている男の一人を狙う。素早くトリガーを引かれた青葉のAR15から三発の銃弾がAK-37を構える男の胸部に当たるが、ボディアーマーに吸われてしまったのか、一時的に射撃を止めさせるぐらいに留まった。

「これじゃ埒が明かないし、弾も持たないわね……」

 一旦AR15から引き抜いたマガジンの残弾を確認しながら愛鷹はため息を吐く。

セミオートな分、フルオートタイプのライフルよりかは弾の消費は抑えられているが、予備弾薬が無い為マガジンに弾薬の補充が出来ない。

 対してUSET ARMS側は大量の弾薬を有しているのか、銃撃が絶える様子はない。

 青葉と愛鷹と交互に撃つ事で射線を一方に絞らせることは防いでいるが、エイムを両方に置かれたら応戦する暇も無くなる。

 早めにケリを付けなければ、とマガジンを入れ直した時、応射していた青葉がバンからロケットランチャーを構えた三人目の男がサンルーフから身を乗り出すのを確認した。

「またロケットランチャーが!」

「発射される前に射手を無力化して下さい!」

 窓から身を乗り出してライフルを構えようとしたが、AK-37の制圧射撃が二人の応射を阻んだ。

 拙い、と本能的に感じた時、後方でMATADORロケットランチャーが発射される音が鳴り、撃ち出されたロケット弾が三人の乗る車に迫った。

 バックミラー越しにロケットランチャーを構える男を見ていた衣笠が咄嗟にハンドルを切ったのが幸いして、ロケット弾は三人の乗る車の右側面を掠めるように飛び抜け、車の目の前に着弾した。

 グレネードランチャーの爆風よりも大きな爆風が乗用車を上向きに持ち上げ、持ち上がった勢いで軽くジャンプする様に車が宙を浮く。

 三人の呻く様な悲鳴が上がる中車は前輪から再び地面に着地する。着地の衝撃で愛鷹と青葉は強か前席のシートに頭を打ち付ける。

「ナイスハンドル捌き!」

 打ち付けた額をさすりながら青葉が衣笠に賛辞を贈るが、当の彼女はロケット弾の爆発に驚く余り目と口が開いたまま硬直していた。

 硬直している衣笠に気が付いた青葉がその肩を掴んで揺さぶって我に戻す中、愛鷹はマガジンを交換して新たに三〇発の弾丸を装填すると、窓から身を乗り出してAK-37を構える男二人に狙いを定めた。

 二人から制圧射撃が飛来する前に、二人の右腕を正確に狙いを澄ました愛鷹の銃撃が射抜く。間を置かずにボディアーマーにダメ出しの二発が立て続けに撃ち込まれて着弾の衝撃で二人が怯みを見せる。

 やったか、と愛鷹が様子を伺う中、バイポッドを展開したAK-37を左手に持ち替えた二人が射撃を再開する。

 左手で撃っている為か先程よりもエイムに精確さを欠く射撃が飛来する。

「青葉さん、援護を」

「了解!」

 援護射撃を開始する青葉がAR15を連射し、バンに向かってセミオートの制圧射撃を行う中、まぐれ当たりさえなければ問題ないと判断した愛鷹が落ち着いて二人の男の左腕を狙い撃つ。

 両腕を撃ち抜かれた二人がダメージから車内に引っ込むのを確認し、射手二人は無力化した事にひとまず安堵する。

 もう戦闘可能なPMCはいないでだろうと思いながら様子を伺う愛鷹と青葉の目に、MATADORロケットランチャーを構えていたのと同じUSET ARMSのPMC要員が大きな銃器を取り出して構えた。

「PKP68!」

 こちらに銃口を向ける銃器の名を愛鷹が口にした時、六・八ミリ弾を使用するロシア製の軽機関銃の猛烈な弾幕射撃が三人の車を撃ち据えた。

 ストッピングパワーに優れる改良型のPKP軽機関銃から撃ち出される六・八ミリ弾は徹甲弾なのか防弾仕様の三人の車の窓ガラスを容易く粉砕し、車体にも破孔を無数に穿った。

 けたたましい破砕音と共に後部の窓ガラスが砕け散り、破片が三人に降りかかる。

「伏せて!」

 青葉と衣笠に身を屈める様に叫びながら愛鷹も頭を抱えてシートの間に身を伏せる。

 ベルト給弾ではないボックスマガジンだったのは見えていたから、最大でも連射出来る弾数は二〇〇発。二〇〇発の六・八ミリ弾の雨を凌げば応射の機会も来ると意図的に楽観視する愛鷹だったが、猛烈な軽機関銃の射撃はそれまでのAK-37を凌ぐ火力だった。

 両サイドのバックミラーが吹き飛び、車体のフレームそのものがボコボコにされ始める。

 損傷でみしりと不気味な音を立て始める車に不安げな目で衣笠が愛鷹に問う。

「車、持つと思います?」

「どうでしょうね」

 その時、バン、と言う破裂音と共に車体が後方に傾斜し、目に見えて車の速度が低下し始めた。

「しまった、タイヤをやられた!」

 呻く様に愛鷹が言った時、猛然と発進する車の音がしたかと思うや別の銃声が走り軽機関銃の射撃音が止んだ。

 

 車体を地面に擦りながらも尚も走行を続ける車内で、急に様子が変わった事に訝しみながら恐る恐る顔を上げる愛鷹の目に、二台の白いバンに乗った男達がUSET ARMSのバンに対してM7A2アサルトライフルで攻撃しているのが見えた。

 白いバンの正面に描かれた紋章を見て護衛に就くと有川から聞かされたGEAR社のバンだと分かった。

「GEAR社! 来てくれたのね」

 護衛のPMCが救助に来てくれた、と分かった途端に溢れ出す安堵の溜息と弛緩する手からAR15が車内に転がり落ちた。

「助かったんですか?」

「そうみたいだね」

 拍子抜けた様な表情を浮かべながら青葉と衣笠が頭を上げて後ろを振り返る。

 USET ARMSのバンはGEARのバン二台からの突然の攻撃で混乱しつつも、PKPを向けて応射を試みていた。それまで戦闘に加担して無かったドライバーと助手席の者もサブマシンガンやハンドガンでGEARのバンに射撃し抵抗を試みる。

 しかし、二台のGEARのバンから浴びせられる弾丸の数は、その数倍の量だった。激しい銃撃音が二台のバンから発せられる度に、大量の弾丸がUSETのバンへ撃ち込まれる。

 GEARのPMCが使うM7ライフルも六・八ミリ弾を使用するライフルだ。M7ライフルの最新モデルであるM7A2は国連軍でも北米方面軍以外の方面軍でも正式採用が始まり部隊配備が進められている小銃である。

 多勢に無勢だった。GEAR社のPMCから激しい銃撃を浴びせられたUSET ARMSのバンは瞬く間に制圧され、走行不能になった。

 フロントから白い煙を上げて停車するUSET ARMSのバンを、GEARのバンから降りたPMCが包囲し、ドアを開けて内部を確保していく。

 些か荒っぽい手つきで車内に残っていたUSETのPMCをGEARのPMC要員が拘束して、車内に不審物がないか調べて行く。

 一方タイヤをやられて走行困難になった車を停めた愛鷹達の元へ、GEARのリーダーらしい男がM7を持って駆け寄って来た。

 AR15を両手に警戒する愛鷹と青葉にM7を後ろに回して両手を上げたリーダーらしき男が愛鷹に向かって尋ねる。

「愛鷹中佐ですね? GEAR社の者です。襲撃を受けているとは知らなかったもので来援が遅れました。申し訳ないです」

「本当に味方なんでしょうね?」

 AR15を構えて尚も警戒を続ける青葉にリーダーらしき男は若干困惑した様な仕草をしつつも、「信じて戴きたいです」とだけ答える。

「信じましょう、どの道彼らが居なかったらUSET ARMSにやられていたところでしたから」

 青葉が構えるライフルの銃身に手を置いて下げさせると、愛鷹は車から降りリーダーらしき男に歩み寄ると身分証明書の提示を求めた。

「自分はGEAR社のイェゴールです。GEAR社スペイン支部に所属しています」

 差し出された身分証を手に取り、見つめる。見た感じでは偽造証明書の路線はなさそうだ。

 身分証からしてどうやらウクライナ人の様である。

 ひとまず信用しても大丈夫だろうと判断した愛鷹は、乗っていた車を後ろ指で指す。

「見ての通り、私達の車はボロボロで走行困難な有様です。護衛も兼ねて貴方達の車でジブラルタル基地まで送っていただけたら幸いなのですが」

「勿論構いません。お連れは二人ですか?」

「ええ」

「中佐一同をジブラルタル基地までお送りしましょう。それが、軍との契約内容ですので。あのUSET ARMSの奴らは部下に対処させます」

「感謝します」

 スラブ訛りの英語で快く請け負ってくれるイェゴールに愛鷹は礼を述べた。

 

 

 イェゴールのバンでジブラルタル基地まで送ってもらう間、愛鷹は自分を抹殺しようする一派が珍しく明るさまなやり口で自分を抹殺しにかかって来た事に危機感を覚えていた。

 これはこれで終わりなのではなく、始まりなのではないか。

 これからデュアルワイルダー作戦の西部進撃部隊として作戦行動に入ると言う時に、もしや抹殺派による妨害が作戦中に入ったりでもしたら?

 あながちおかしな話ではない。現に種子島では無人機の行動プログラムを大淀を利用して改ざんして結果巻き添えを食う形になった鈴谷が殺害された。

 今回は危うく青葉と衣笠の二人まで巻き添えに仕掛けた、と言う事実に暗澹したものが胸の中にこみ上げて来る。

 深海棲艦と戦うだけでも生死の保証はないと言うのに、その深海棲艦とは無縁でいられるはずの地上で同じ人間から襲われるのではやるせない。

 自分だけが死ぬのならまだしも、今回の様に周囲の艦娘すら巻き添えにする事も厭わないやり口が今後続かないとも限らない。

 せめてデュアルワイルダー作戦中にその様な魔の手が同胞から伸びて来ない事を祈るばかりである。

 これから始まる作戦で愛鷹は一七名の艦娘を率いて深海棲艦と戦う事になるのだ。容赦のない明確な殺意の塊が大勢徘徊する海に赴く。

 そんな時に本来同胞であるはずの人間から襲われたら対応する暇があるかどうか。深海棲艦と戦うだけでも精一杯なのに、人間から隙槍を食らう可能性まで考慮しないといけないのはマルチタスクが得意な愛鷹と言えど無理が大きい。

 ただ今回派手な行動を取ってしまった以上は抹殺派も、有川中将率いる情報部からの更なる追跡を受けるリスクを大きく犯した事にもなる。

 そう考えると、自分の知らない所で既に有川達は抹殺派の追跡に乗り出しているのではないか。追っ手から逃れる為に今後暫くは寧ろ安泰なのではないか。

 そう考えるのがしっくりきた。情報部の活動能力は伊達ではない。表沙汰になっていない情報部による工作活動は数知れない。

 下手に尻尾出した今回の襲撃を機に、逆に自分の首を絞める結果になったと考えて今は艦娘としての任務に専念するのが良いだろう。

 二つの敵を同時に相手する暇はない。

 

 

 ジブラルタル基地に帰り着くと送ってくれたイェゴール達に再び礼を言って愛鷹と青葉と衣笠はバンから降りた。

 ほっとした様に安堵の溜息を吐く青葉達を先に基地内に帰らせると、愛鷹はイェゴールに右手を差し出した。

「仲間の命と共に助けて戴いた事、深く感謝します。御恩は忘れません」

「これが我々の仕事ですので。後々軍にはこの一件について詳しい報告書を上げる予定です」

「その報告書ですが、出来れば封緘にして情報部に提出する事をお願いしたいのです。事がことなだけに、軍部のどこかで抹消される可能性があるので」

「了解しました。その点を考慮して対策をしておきましょう」

「ご迷惑をおかけしますね」

 重ね重ね礼を述べる愛鷹にイェゴールはにこやかに笑って手を振る。

「これが仕事なので。それ程深くお礼を言われると、何だかこそばゆいモノですよ」

「本来なら弱者を守るべき軍人を護衛するとは、PMCと言う仕事も中々大変ですね。お仕事大変かと思われますが、どうかお元気で」

「中佐も、航海の安航をお祈りします。では自分らはこれにて失礼します」  

 一礼して三人に別れを告げたイェゴールはバンのドアを締めるとドライバーに「出せ」のハンドサインを出した。

 街中へ消えて行くバンを見送った三人は基地の中へと入り、愛鷹は取り敢えず破壊されて失った乗用車に関する各種始末書類を書くため宿舎の自室に戻った。

 本来なら書く必要のなかった筈の書類を書き上げ、書面にしたためて基地の司令部に持って行って提出する。

 艦娘が基地の外で銃器を使用したことでお咎めが入るかと内心冷や冷やしたが、管理部の兵士は事務的に提出された書類を受け取って、中身を読んで印鑑を押した。

 特にお咎めなしで済んだ事に安堵する一方、一息付けている間も無く直ぐに宿舎に戻ると私物を纏めて基地に係留されている支援艦「ズムウォルト」の元へ向かった。

 

 デュアルワイルダー作戦に当たって第三三特別混成機動艦隊支援の為に北海から回航されてきた「ズムウォルト」は堂々たる姿をジブラルタル基地の埠頭に留めていた。

 先に利用した時に世話になったレイノルズやドイルたちは上陸中で丁度いなかったが、顔は覚えていた当直士官が出迎えてくれた。

「また中佐のご支援に当たれるとは光栄です」

「こちらこそ、また世話になりますよ」

 簡易的な挨拶を交わして「ズムウォルト」の艦内の居住区に向かう。宛がわれた愛鷹の自室に入り、私物を入れたバックを降ろす。

 それ程長い期間離れていた訳ではないのだが、再び乗艦すると懐かしさが胸に湧き上がって来る。陸上とは別の安心感がある。

 自分を疎み、抹殺しに来る一派の手が及ばない、その安心感を得られるだけでも彼女の心生安らいだ。長身の自分には少しばかりベッドが狭いと言う事を除けば安全地帯と言ってもいいかも知れない。

 安心感と長距離の運転からの疲れから眠気が押し寄せ、軽く仮眠をとっておこうと愛鷹は制帽と靴だけ脱いでベッドに横になると目を閉じ軽く眠りに落ちた。

 

 

 イェゴールから送られてきたUSET ARMSとの交戦記録を読みおえた有川は報告書を閉じると、軽く溜息を吐いた。

 まさか官営系のPMCを使って愛鷹を襲撃するとは盲点だった。

 GEAR社の調べではUSET側はごくごく単純に攻撃を依頼、指定されただけでありあまり情報は得られそうにない。依頼交渉に当たった窓口の相手も尻尾はつかめそうになかった。

 USETへの任務依頼の報酬は後日払いとされているが、恐らくは踏み倒されるか、国連軍の予算からこっそり間引かれる形で支払われるだろう。

 しかし、まさか自分達との会合直後に襲われるとは、こうなると事前に分かっていれば情報部で護衛しておくべきだったと悔やまれるものがある。最終的にはGEARの護衛が間に合ったおかげで事なきを得たものの、万が一の事がありえたと思えば今回の一件は辛勝だったと言える。

 明日から愛鷹は作戦行動に入ると有川は聞いていた。せめてその期間中任務に専念出来る様にこちらも愛鷹抹殺派の動きを牽制、制圧出来ればと彼としても思わない所ではない。

 深海棲艦と正面から戦うだけでも精一杯になる戦場で、不意に味方がいる筈の背中から撃って来る相手にはどうしようもない。

 その状況を可能な限り防がねば、種子島での鈴谷の一件の再来になりかねない。

「深海棲艦も深海棲艦だが、本当に厄介な敵は同じ人間なのかもしれんな」




(Youtubeで素晴らしいガンファイト動画見て執筆が進んだのはナイショ)

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