が、ちまちまと第六五話自体は書き進めていました。
その成果をお届けできて居れば幸いです。
対空戦闘用意を発令する第一群の元へイントレピッドが上げた偵察機から深海棲艦艦隊発見の報が入る。
「軽空母ヌ級elite級一、重巡リ級flagship級二、防空巡ツ級一、駆逐艦ハ級後期型二からなる艦隊が二つに、重巡リ級flagship級一、軽巡ヘ級flagship級一、防空巡ツ級一、ハ級後期型elite級三からなる艦隊が二つ、戦艦ル級flagship級二隻と重巡ネ級elite級と防空巡ツ級が一隻ずつと駆逐艦ハ級後期型elite級二隻の艦隊、か」
一気に五個の艦隊を発見するとは。戦艦ル級flagship二隻とネ級elite級一隻を含む艦隊は流石に第三三特別混成機動艦隊の手に余る。
だがそれ以外の敵艦隊なら順繰りに相手をしていけば勝てなくはない。後続の主力艦隊にル級flagship級を含む艦隊を任せ、第三三特別混成機動艦隊はそれ以外の艦隊へ対処するのが良いだろう。
艦隊戦に移行する前にまずは接近中の深海陸上爆撃機の空爆を切り抜けなければならない。
愛鷹、イントレピッドから発艦した戦闘機合計五六機が、護衛機も含めて一八〇機にも上る深海棲艦の陸上爆撃機部隊へインターセプトを開始していた。
航空巡洋戦艦である愛鷹から発艦した五個小隊の烈風改二がタコヤキを相手にスロットルを全開にして交戦を開始する中、イントレピッドから発艦したF6F-5ヘルキャット戦闘機三六機が一六〇機にも上る深海陸上爆撃機へ攻撃を開始する。
烈風改二とF6F-5の編隊は二手に分かれて烈風改二二〇機がタコヤキで構成される護衛戦闘機隊を誘引し、陸爆から引き離す。
(ヒットマン1、ガンズガンズガンズ!)
(グリフィス1、スプラッシュワン)
同数のタコヤキを相手取る烈風改二が作り出す間を縫ってF6F-5三六機が深海陸爆の編隊へ襲い掛かる。
一二・七ミリブローニング機関銃の射撃音が幾つも響き、放たれた銃弾が陸爆を捉える。四機編隊を組んだまま銃撃を行って一撃離脱攻撃を行うF6F-5に深海陸爆から応射の弾幕が飛ぶ。
弾幕を張る陸爆の銃火をロールや背面旋回で躱したF6F-5が再び陸爆に銃撃を加えると、九機の陸爆が黒煙を引きながら失速して高度を落とし始める。
リアタックを仕掛けるF6F-5に集団陣形、通称コンバット・ボックスを形成して陸爆も応射の銃火を飛ばす。飛翔音を立ててF6F-5の編隊へと陸爆の自衛機銃の銃弾が赤い鞭の様な火箭を右に左に振り回し、F6F-5に接近を阻む様に弾幕を形成する。
F6F-5は弾幕を上手く躱しながら応射の火箭が手薄な下方に回り込み、上昇しながら陸爆の腹部へ銃撃を撃ち込む。
また陸爆が多数炎上しながら高度を落としていく中、烈風改二との交戦を振り切ったタコヤキ三機が各個にF6F-5へと迎撃を試みる。
太陽を背にして上方からF6F-5へ襲い掛かるタコヤキの機影を確認した僚機からの警告で、狙われていたF6F-5は一斉にブレイクして散開回避し、タコヤキからの銃撃を躱す。銃撃を行って、そのままF6F-5の下方へ一撃離脱を行うタコヤキに対しすぐさま編隊を組み直したF6F-5の一編隊が追撃を仕掛ける。
(コバルト1-1、敵機が離れるぞ、追跡する!)
(逃がすな!)
(敵機補足、攻撃する!)
照準悍にタコヤキを収めたF6F-5の航空妖精が射撃トリガーを引き絞ると、ブローニング機関銃が射撃を行い放たれた銃弾がタコヤキへと銃火を伸ばす。四機から浴びせられた銃弾は単機だったタコヤキを包み込む様に絡め取り、被弾してバラバラに打ち砕かれたタコヤキの機体の残骸が眼下の海上へと落ちて行く。
他の二機のタコヤキは編隊を組んでもう一つのF6F-5の編隊に挑みかかったが、二機編隊二手に分かれた四機のF6F-5のチームプレーを前にあえなく敗れ去った。浴びせられた一二・七ミリ弾の猛射を食らったタコヤキが四散し、黒煙を引いて残骸が落下していく。
三機のタコヤキを返り討ちにしたF6F-5は再び陸爆の編隊へと攻撃を仕掛ける。狂ったように陸爆側も弾幕を張って牽制を行うがヘルキャットを駆る航空妖精達が怯む事は無い。
吶喊して体当たりしそうな程の至近距離から放たれた銃弾が陸爆を一機、また一機と撃墜していく。何機かは爆弾槽の爆弾に被弾して誘爆の火焔の中に消える。
三六機のF6F-5の銃撃が繰り返される度に多数の陸爆が撃墜されて空中に散って果てるが、八機はタコヤキを相手にした分弾薬を余分に消耗しており、全機を撃墜するのはF6F-5の弾薬搭載量から言って無理があった。
それでも半数以上の陸爆をF6F-5は撃墜し、烈風改二もタコヤキの九割を撃墜して一機の損害も出さずに済んでいた。愛鷹、イントレピッドの両名の艦娘の練度同様、航空妖精の練度は深海北アフリカ部隊の航空部隊を凌駕していた。圧倒的練度と機体性能を駆使して返り討ちにしていく烈風改二とF6F-5の最大の敵は寧ろ自身の弾薬搭載量だった。タコヤキ、陸爆との一回の交戦で全機が機銃弾を撃ち尽くしてしまったのだ。
二〇ミリ機銃を搭載する烈風改二は元々弾薬搭載量が少なく、F6F-5はもう少し多かったが陸爆の数が多かったのもあってやはり全機を撃墜するには不十分だった。
それでも大半の陸爆を撃墜した第三三特別混成機動艦隊の戦闘機隊は一時別エリアに移動して、母艦がいる艦隊が空襲を切り抜けるまでの間待機と空中警戒に入った。
(敵機、残存機数六九機。進路速度を維持し尚も接近中)
EV-38からの報告に愛鷹は主砲を陸爆の接近する方向へ指向して対空戦闘の構えを取る。
データリンクで精確な高度、速度などのデータを射撃諸元に変換して射撃管制装置に入力した愛鷹CICの装備妖精が「射撃諸元入力完了! 撃ち方用意良し!」と告げる。
四一センチ三連装砲改二と四一センチ連装砲改二それぞれ一基ずつが設けられた愛鷹の右舷側の艤装上でその二基の主砲が右舷側へと主砲を指向する。
揚弾機が砲身内部に三式弾改二を装填し、ラマーが装薬を三式弾改二の後部に押し込み尾栓が締められる。砲身が陸爆が接近して来る虚空へと持ち上げられ、CICが算出した射撃諸元に基づいて仰角を取る。
データリンクでHUDに表示される陸爆の機影を確認していた愛鷹が、HUDに「Range On」の表示を確認すると射撃グリップを掴み、トリガーに指をかけた。
「射線方向クリア! 対空戦闘、目標、接近中の敵機! 主砲、撃ちー方始めー!」
凛と張った声で対空戦闘の号令を発令し、続けて砲撃の号令を下す。
「一、二番、発砲! てぇーッ!」
五つの砲声が愛鷹の艤装上で轟く。発砲遅延装置で交互撃ち方を行う四一センチ主砲の砲口から発砲の閃光が目くるめく。砲煙と共に砲身が勢いよく後退し、撃ち出された三式弾改二が空中を飛翔して行く。
五発の三式弾改二が陸爆の元へ到達するまでの時間を腕時計で計測する。秒針が着弾までのカウントダウンを行うのを無言で見つめる。
「一〇秒前。マーク・インターセプト!」
三式弾改二の信管は改良型近接信管。時限信管とは違って至近に敵機が居ない限り爆発する事は無い。
弾頭から発せられるドップラー波を反射した敵機を探知した五発の三式弾改二が陸爆の編隊のど真ん中で炸裂し、無数の散弾を周囲にまき散らす。
オレンジ色の花火の様な無数の対空散弾が陸爆の編隊に降り注ぎ、可視出来る散弾と不可視の散弾が六九機の陸爆に死の破片を叩き付ける。
多数の陸爆が三式弾改二の餌食となり、爆散、或いは炎上しながら高度を落としていく。
「敵機約三分の一の撃墜を確認」
「サヴァイブターゲット四七、距離五五〇〇、急速に近づく」
レーダーディスプレイに表示される敵機の表示を見て逐次報告を上げるCIC妖精の告げる通り、陸爆の編隊が第一群の全員の目で見える距離に迫っていた。
「主砲、三式弾改二再装填完了。射撃諸元、入力良し、撃ち方用意良し」
「間に合った? なら撃つか。主砲一番、二番、三式弾改二、斉射始め!」
艦載機等の小型機と違い速度がやや遅いのもあって愛鷹の主砲の再装填が間に合ったのは愛鷹自身の対空戦闘経験でも珍しい事であった。
三式弾改二の再装填が終わった五門の主砲が再び仰角を取り、砲口を敵機群へ向ける。
「対空戦闘、主砲、撃ちー方始めー! 発砲! てぇーッ!」
再び発砲炎が五門の砲口から迸り、砲煙が砲口から噴き出す。撃ち出された三式弾改二が青空にオレンジ色に輝きながら飛翔して行く。
距離が縮まっていた事もあって着弾は早かったが、流石に陸爆の編隊も二度目は無かった。愛鷹の主砲発砲を確認するや即座に散開して相互の距離を取った陸爆の編隊に三式弾改二は効果的な散弾を送り込めなかった。
五機が被弾したものの、撃墜は三機に留まり、二機は反転して離脱していく。
残り四二機は再度編隊を組み直すと、攻撃態勢に入る。
「全艦、対空戦闘。旗艦指示の目標、主砲、機銃、噴進砲、自由射撃!」
「Copy! All mounts fire at will!」
第一群の防空艦を担うフレッチャーが返事を返すやGFCSレーダーと連動したMk30改五インチ単装砲を敵編隊へと指向する。
中距離の防空戦闘を担える防空重巡洋艦である摩耶が三式弾改二を装填した主砲を発砲し、更に二五ミリ三連装機銃や高角砲による対空射撃も開始する。摩耶の発砲に続いて鳥海、愛宕、愛鷹の高角砲が迎撃を開始し、遅れてフレッチャーの主砲も砲撃を開始する。
空一杯に墨汁の墨を垂らした様な対空弾の爆炎がパッパッと咲き乱れ、四二機の陸爆に対空弾の散弾を叩き付ける。
長射程を誇るフレッチャーの四〇ミリ機関砲の弾幕が陸爆を一機捉えると、四〇ミリ機関砲弾を多数機体に受けた陸爆がバラバラに砕かれて果てる。
摩耶の高角砲の速射で陸爆二機が同時に被弾して姿勢を崩し、立て直せないまま海上へと墜落していく。高初速を誇る愛鷹の高角砲から撃ち出された対空弾が陸爆一機に直撃し、諸に対空弾を食らった陸爆が大爆発を起こし周囲の機体を三機も巻き込んで爆発四散する。
対空艦では無い鳥海と愛宕は対空戦闘を得意とする摩耶、愛鷹、フレッチャーの射撃の補完と牽制、それとイントレピッドの直掩に当たり、自前の対空火器が少ないイントレピッドの左右両側を固める。
各艦娘の対空射撃の砲声が海上一杯に響き渡り、誰かが何か呟いても砲声でかき消される状態だ。もっとも全員が対空戦闘に集中していたので誰も無駄口を発していなかったが。
「方位〇-八-七より陸爆二機本艦へ急速接近!」
CIC妖精からの報告に愛鷹は低空飛行で自分へ向かって接近して来る陸爆の姿を視界に収めると、即座に対抗策を打ち出す。
「艦対空噴進砲、攻撃始め!」
艤装に備えられている一二センチ三〇連装対空噴進砲二基が愛鷹の攻撃指示で発射口を陸爆が飛来する方向へ向けると、一斉に噴進砲弾を斉射した。
無誘導弾であり対空ミサイルでは無いので斉射された噴進弾は弾幕を形成して陸爆に襲い掛かる。無誘導とは言っても心理的効果は高く、陸爆二機が怯むのが見えた。
怯みを見せた陸爆目掛けて高角砲、機銃の近接射撃が一斉に浴びせられ、弾幕を浴びた陸爆が一機バラバラに砕け散りながら海上へ残骸を突っ込んだ。
残る一機は強引に爆弾を投下して機首を引き上げたところへ二五ミリ機銃弾を食らって制御不能になり、一機目と同じ末路を辿った。
二機目が投じた爆弾は海上を跳ねながら愛鷹に迫るが、強引に投下した分、照準の詰めが甘かったのもあって愛鷹は余裕で面舵に舵を切って回避出来た。
他の陸爆も第一群の艦娘の猛烈な対空射撃に直撃弾を一発も得られていない。摩耶とフレッチャーの対空射撃で一機、また一機と陸爆が射点につく前に撃墜され、残る機体は遠目から運頼みの爆撃を行って離脱を図る。
運頼みで投下された爆弾はどれもその弾道を読み切った第一群の艦娘達の回避運動によって躱され、虚しく海上に外れ弾の水柱を突き立てるにとどまった。
四二機の陸爆が撃墜されるか、外れ弾を投じて離脱するかのどちらかで終わると旗艦である愛鷹は「撃ち方止め」をヘッドセットに向かって吹き込んだ。
ぱたりと対空射撃の砲声が止み、海上に静けさが戻る。
「各艦、損害報告」
一応全員に視線を向けながら損害確認を取る愛鷹に、五人から異常なしの返事が返される。
被弾艦無しの報告に安堵の溜息を軽く吐くと、無線周波数を切り替えたヘッドセットに手を当て、上空で待機していた戦闘機隊に母艦への着艦を指示する。
空襲が止んだ今の内にと戦闘機隊がイントレピッドと愛鷹の飛行甲板へ次々に着艦し、補給作業の為一旦格納庫へと収容されていく。航空艤装妖精が着艦機をエレベーターへと押して行き、ベルが鳴り響くと戦闘機を乗せたエレベーターが格納庫甲板へと降ろされていく。
最後の一機を収容した愛鷹に航空艤装妖精が親指を立てて「全機収容完了」のサインを見せる。
「未帰還機無し、か。初回はワンサイドゲームで何より」
全機帰還した事にほっとしながら再補給を急ぐよう航空艤装妖精に頼む。「了解」と航空艤装妖精が敬礼して答えると自身も補給作業に当たるべく格納庫へと飛び込んで行った。
前進を続ける第三三特別混成機動艦隊より深海棲艦の戦艦ル級を含む有力な艦隊の情報を得た西部進撃隊本艦隊旗艦空母「ドリス・ミラー」から、モスキート陸上攻撃機四二機とスピットファイア艦上戦闘機二四機が発艦した。
艦上戦闘機仕様のスピットファイアはまだしも、モスキート陸上攻撃機は本来は陸上基地からの運用機体だが、航空妖精が運用するサイズの陸上攻撃機であれば全長三三三メートルもある「ドリス・ミラー」の飛行甲板でもオプション装備無しに発着艦が出来た。
甲板上に並べられたスピットファイアとモスキートが艦首及びアングルドデッキ上を滑走発艦していくのを、デッキクルーが見守る。力強いエンジン音が飛行甲板上に鳴り響く中、一機また一機と空へと舞い上がっていき、一〇分程度で全機が発艦した。
発艦した六四機の攻撃隊は、「ドリス・ミラー」の艦載機であるE-2Eアドバンスト・ホークアイⅡ早期警戒機が空中警戒管制指揮を執り、第三三特別混成機動艦隊の偵察機が位置を報じた場所まで攻撃隊を誘導を行った。
戦闘機隊の補給作業に取り掛かる第一群の頭上をスピットファイアとモスキートからなる攻撃隊が通り過ぎて行った。
エンジン音に気が付いた愛鷹が空を仰ぐと、編隊を組んだ六四機の攻撃隊が第一群の頭上を通り過ぎ、第三三特別混成機動艦隊偵察機が発見した戦艦ル級flagship二隻を含む艦隊へと向かって行った。
無言で機影を見つめる愛鷹の肩や艤装上で手空きの装備妖精が歓声を上げて編隊を見送った。
(ソノブイ探知。第二群右九〇度、距離一万二〇〇〇、速力一二ノット。潜水艦ソ級flagship級一、同elite級四を確認。目標群アルファと認定。
深さ一〇、八、潜望鏡深度へ浮上中の模様)
対潜哨戒に出していた瑞雲からの潜水艦発見の報告が第二群旗艦青葉に上げられる。
「対潜戦闘用意、第二群黒二〇、全艦第三戦速。面舵一杯」
戦闘用意を命じる青葉の号令と共に彼女の艤装上で戦闘配置のベルが鳴り響き、装備妖精が対潜戦闘部署につく。続航する衣笠、瑞鳳、伊吹、陽炎、不知火でも対潜戦闘用意の号令が発令され、陽炎と不知火の二人が爆雷を構える。
対潜戦闘用意の発令を受けて瑞鳳は即座に対潜装備の天山一二型甲改四機を発艦させ、青葉自身も対潜爆弾を装備した瑞雲を四機発艦させる。瑞鳳の弓から射出された天山は三機が六発の対潜爆弾を備え、一機はMADとソノブイを装備してソ級の精確な位置の評定に当たる役を担った。青葉が左腕に構えた飛行甲板のカタパルトから乾いた射出音と共に瑞雲12型第一一八特別航空団仕様機が連続射出され、空中へ対潜爆弾二発を抱いた四機の瑞雲が舞い上がる。
「敵潜に魚雷発射点につかせる前に撃沈を。確実に撃沈して下さい」
ヘッドセットの通話スイッチを押して対潜攻撃に向かう編隊に指示を下す青葉に、天山、瑞雲それぞれの編隊長から「了解」の応答が返される。
まだまだ敵潜水艦は複数潜んでいるだろうと踏む青葉は更に対潜装備の増援四機の瑞雲の準備にかからせる。
ソ級五隻からなる潜水艦隊発見から三分後、別の瑞雲から新たな敵潜水艦隊発見の報告が上げられる。
「ソ級flagship級一にelite級が三隻、か」
数ある深海棲艦の潜水艦の中でもソ級は厄介さが際立つ。対潜爆雷の攻撃を躱す事もざらにあるし、カウンター雷撃で大損害を被った艦娘は数知れない。脅威度は水上艦とは別次元で高い。
事前に敷設したソノブイで探知されたソ級五隻の艦隊に向かった天山と瑞雲それぞれ四機の内、速度に優れる天山が先に空中からも視認可能な深度にいるソ級に対して対潜爆弾による攻撃を開始した。
空中からも視認可能と言う事もあってMAD搭載機は攻撃効果確認の役に回り、対潜爆弾を抱えて来た三機の投じた対潜爆撃の評価を行う。
海上に海中で爆発した対潜爆弾の突き立てた水柱が一八本立ち上り、幾つかが黒く濁った水柱となって海上にそそり立つ。
水柱が崩れ去り、海上に静けさが戻る中海上には二隻のソ級の残骸が浮かび上がっていた。残る三隻はどこへいったかを正確に評定する為、対潜索敵装備の天山はソノブイを海中へ投下して捜索に当たった。
遅れてやって来た瑞雲から敵潜水艦の位置を問われた天山隊は「スタンバイ」とだけ返し、残る三隻のソ級の位置を探る。その間瑞雲四機は天山隊が行った対潜爆撃の場の周囲を旋回して待機する。
(ソノブイに反応あり、ソ級三隻、flagship級一、elite級二。深度一〇、急速潜航して遁走を図っている模様)
(逃がさん、アオバンド4-1からアオバンド4各機、続け)
ソノブイで判明したソ級三隻の位置へ向けて瑞雲四機が転進し、まず一番機が胴体に抱いていた対潜爆弾を海中へと投下する。
二発の対潜爆弾が海中で爆発すると、海上に白い水柱を突き上げる。濁りの無い綺麗な水柱。外れと見て良いだろう。
(4-2から4-3、4-4へ、一気に片を付けるぞ)
(了解)
残る三機の瑞雲がソ級三隻がいるとされるポイントへ対潜爆弾を投じる。海上に六本の対潜爆弾の爆発の水柱がそそり立ち、三本が黒く濁った様な水柱となって突き立つ。
ソノブイで海中を探査する天山の航空妖精は海中でソ級三隻の艤装が破壊され、分解される音を確かに捉えた。六〇キロ級の対潜爆弾の爆発で致命傷を負い浮上できなくなったソ級三隻の艤装が沈降するにつれて増大する水圧に押しつぶされ、破損部位からゆっくりと部品がはがれて行く音が聞き取れた。
(残存するソ級三隻の撃沈を確認)
「青葉了解、全機帰投せよ」
攻撃効果を確認した天山と瑞雲に帰投を命じた青葉は第二群に減速を命じ、瑞雲の収容準備に入る。
減速して収容態勢に入る間無防備になる青葉の周囲を陽炎と不知火が警護する様に展開し、対潜爆雷を構えて海上を凝視した。
海上へ着水した瑞雲四機をしゃがんだ青葉が一機ずつ収容していく間、飛行甲板を広げた瑞鳳にも天山が着艦していく。二人が航空機の収容作業に当たっている間、陽炎と不知火だけでなく衣笠と伊吹の三人も双眼鏡を手に海上に潜望鏡はないか、不審な艦影はないか警戒に当たる。
天山全機が無事着艦し、エレベーターで格納庫へ降ろされるのを見て瑞鳳は青葉に振り返って収容完了を告げる。
「こっちは全機収容完了よ。青葉は?」
「今こっちも終わりました」
最後の一機がデリックで飛行甲板に戻されるのを見て青葉は瑞鳳に向かって頷く。二人の航空機の収容完了を持って第二群は再び陣形を組み直し、前進を再開した。
再び第三戦速へ加速する第二群から対潜爆弾の補充を受けた青葉と瑞鳳の艦載機が再び発艦し、目標群ブラボーと認定されたソ級flagship級一、elite級三からなる四隻の潜水艦隊へ向かう。
第三戦速で第二群の先頭を航行する青葉の艤装内のCICで四式水中聴音機のヘッドフォンを被って聴音を行う水測妖精が、ヘッドフォンに手を当てながらマイクに「ソーナー探知」と吹き込む。
「左七〇度、距離六〇〇〇、ソ級flagship級一、同elite級三。目標群ブラボーと同一目標と見られる」
「思ったよりも近い」
急激に高まる緊張感で心拍数が上がるのを感じながら、青葉は陽炎と不知火に対潜攻撃用意を発令する。
「一八駆、対潜攻撃用意! お願いしますよ」
「了解! 一八駆、陽炎前に出るわ!」
「不知火、後に続きます!」
二人が増速して前に出る中、青葉のCICからは水測妖精が引き続き目標群ブラボーの位置を伝達する。目標群ブラボーの位置をデータリンクで確認した陽炎と不知火が四隻のソ級の元へ向かい、それぞれ左手と投射機に爆雷を構える。二人の接近を探知したソ級はカウンターの雷撃を行うよりも潜航して回避する事を選んだのか、バラストタンク注水音とベント解放音が確認された。
水測妖精がソーナーで聞く音源を共有したヘッドセットでソ級が急速潜航で回避にかかっている事を聞き取った青葉は、陽炎と不知火に攻撃開始を指示した。
「逃げられる前に仕留めて下さい」
「了解! 右舷投射機、射線方向クリア、てぇッ!」
攻撃指示と共に陽炎の艤装に設けられた三式爆雷投射機から爆雷が射出され、海中へと投じられる。
遅れて不知火も陽炎とは反対側の左舷投射機から三式爆雷を投射する。二人からそれぞれ四発の爆雷が投射機から投射され、海中に沈んで行く。
推定深度に調停された爆雷が海中で爆発し、ソーナーの音界を一時的にその爆発音で攪乱する。八発の爆雷の爆発音が海中で炸裂し海上に同じ数の水柱が立ち上る。海中がノイズでかき乱される中、聴音デシベルを調整した四式水中聴音機で青葉は聴音探知を継続する。
程なくしてソーナーが復旧し、聴音が可能になる。ソ級の推進音が四つ聞こえ、一つはバラストタンクが損傷したのか激しくエアーが漏れる音がヘッドセット越しにも聞こえた。
「敵潜水艦位置、北に一五メートルずれました」
「オーケー、止めを刺すわ」
左手に構えていた四発を青葉の指示する位置へと陽炎が投じる。遅れて不知火も左手に持っていた四発を海中へと投げ込む。
再度海中で八発の爆雷が爆発する音が炸裂し、ソーナーの効果が無効化される。海上には八つの水柱が突き立ち、その水柱を陽炎と不知火が左右から挟む様に布陣する。二人の手慣れた挙動は改二化された駆逐艦艦娘ならではの熟達した動きと言えた。
八発の爆雷の爆発音が静まると、二隻のソ級の推進音が消滅し、二隻分の残骸が沈降する音が聞こえた。
「まだ二隻残っています、恐らくソ級のflagship級とelite級が一隻ずつ」
「しぶといわね」
爆雷投射機に爆雷を再セットしながら呟く不知火に陽炎が相槌を打ちながら応える。
「まあ、ソ級だものねえ。カチカチに硬い潜水艦なだけあるわよ。次でやるけど」
次で確実に仕留める、と言う陽炎に不知火はそうだなと頷き、二人は発射時期を合わせて三度爆雷を四発投射する。
三度目の正直と投じられた爆雷が海中で爆発すると、青葉のソーナーにソ級の上げたらしい悲鳴が一瞬聞こえた。
「やった……?」
ヘッドセットに手を当てて聴音を継続する青葉の耳に、艤装が圧壊して沈んで行くソ級二隻の沈降音が静かになっていく海中のノイズ越しに聞こえて来た。
「攻撃効果はどう?」
自身のソーナーよりも優れた聴音能力を持つ青葉ヘソ級への攻撃効果を尋ねる衣笠に青葉は右手の親指を立てた。
「撃沈確認、見事です」
「どう? 一八駆の対潜攻撃の腕前は、少しは参考になったかしら?」
「たかが四隻のソ級程度で天狗になるのもいかがかと」
「もう、不知火ったら。自信がないよりも自惚れるくらいの方が幸先良いモノよ?」
調子に乗った様に軽いノリで青葉に答える姉を諫める不知火に軽いノリのまま陽炎は返す。
そういうモノだろうか、と顔で答える不知火に陽炎はそういうモノよとウィンクした。
敵潜水艦二群を撃破、我が方損害無し、との報告が第二群旗艦青葉から上げられて来た頃、先行して戦艦ル級flagship級二隻とネ級elite級一隻を含む艦隊を攻撃したモスキート陸上攻撃機の編隊から攻撃効果の報告が愛鷹にも共有されてきた。
戦艦ル級flagship級二隻とも撃沈確実、ネ級elite級及びツ級大破航行不能と認む。無傷の残存艦艇はハ級二隻のみ。
恐らくネ級とツ級はハ級の手で雷撃自沈処分されるだろう。大破した状態ではネ級もツ級も艦娘からすればいい射的の的でしかない。航行不能では前進して来る艦娘艦隊を前に自沈するしか道はない。近海の他の深海棲艦艦隊が救援に向かったとしても二次被害を起こすだけだ。
しかし、四二機のモスキートで挑んで戦艦二隻撃沈、重巡と防空巡一隻ずつ大破で攻撃終了とはいささか物足りなさも感じなくはない。ツ級の防空能力に加えてル級とネ級の対空戦闘能力も高い事も相まって上手く攻撃が通らなかったのかも知れないし、そもそもモスキートの爆装搭載量が些か物足りなさを感じさせるのも原因だったかもしれない。
とは言え、高火力艦三隻を含む艦隊を壊滅させたのは大きい。願わくば全滅させて欲しかった気もしなくはないが、ハ級二隻程度なら第三三特別混成機動艦隊の艦娘に敵でもない。
「と、なると残るはヌ級を中核とする空母艦隊が二つに、リ級を中核とする艦隊が二つか」
ノートタブレット端末で確認された深海棲艦艦隊の位置を確認しながら呟く愛鷹は、この四群の艦隊をどうするかと言う判断を迫られた。
敵艦隊の展開状況を把握するのが自分達の仕事とはいえ、前路掃蕩もまた任務の一つだ。航空攻撃で二群程度は削っておきたい気もしなくはない。
しかし、余りここで兵装を消耗するとまだまだ未確認の敵艦隊を相手取る時に詰む事にもなる。後方の本隊に任せて、第三三特別混成機動艦隊は偵察と対潜掃蕩に務めるのが最善策だろう。
「全艦、艦隊編成を再編。夕張さん、深雪さん、綾波さん、敷波さんは『ズムウォルト』へ後退し待機に入ってください」
(了解)
(了解です)
青葉と夕張から復命の返事が返され、第三群を形成していた蒼月とジョンストンがそれぞれ元々形成していた第一群と第二群の航行序列に戻る。夕張と深雪、綾波、敷波の四人は愛鷹の指示通り「ズムウォルト」へ帰投し、即応待機に入る。
深海棲艦の空爆と潜水艦二群を撃破した第三三特別混成機動艦隊は、引き続き偵察機による索敵を続行し敵情報が皆目分からない西地中海の深海棲艦艦隊の展開状況を探った。
艦隊がカルタヘナ沖合にまで進出した時、再びオラン方面から陸爆とタコヤキからなる深海陸上航空攻撃部隊が飛来した。
EV-38が察知した攻撃部隊は深海双発陸爆二〇機とタコヤキ一二機。今日最初に受けた空爆時と比べるとかなりその頭数が減っていた。初手の空爆時に受けた損害が大きく、飛行場姫への補充が間に合っていない状況下で空爆を敢行したのかも知れない。
イントレピッドにF6F-5による迎撃を指示し、愛鷹もヒットマン小隊を発艦させる。
第一群から総計一六機の迎撃機が上げられ、さらに第二群の伊吹からも橘花改四機が増援として送られてきた。
空戦は瞬く間に始まり、瞬く間に終わった。愛鷹が三式弾改二を装填した主砲を撃ち放つ事も、摩耶とフレッチャー、ジョンストンの高角砲が対空弾幕を張る事も無いまま迎撃隊によって深海棲艦の陸上航空攻撃部隊は撃滅された。
その後も三〇機程の数の陸上爆撃機と護衛のタコヤキからなる航空攻撃部隊が第三三特別混成機動艦隊の頭上に押し寄せたが、数が少ないのもあって殆どが艦隊を見る前に迎撃隊による迎撃を前に全滅して終わった。
とは言え、波状攻撃もあって特に集中攻撃を受けた第一群の艦娘に集中して疲労が嵩み、第七波を受けた際には摩耶の対空射撃が明後日の方向に飛んで行き、一機の陸爆の侵入を許す事態まで起きた。
幸い、愛鷹の長一〇センチ高角砲の対空射撃で事なきを得たものの、波状攻撃と言う手段に愛鷹はあまり良くない兆候を感じた。
今日は防げたとしても、明日、明後日はどうなるか。
その日の内に更にオラン方面から二度の空爆を受けた第三三特別混成機動艦隊だったが、全ての航空攻撃を凌ぎきり一日目を終えた。
全艦が日没前に「ズムウォルト」に帰投した。負傷者が一人も出なくて済んだのが旗艦を預かる愛鷹として何より安堵した事であった。装備を外した艦娘から艤装を預かった「ズムウォルト」の艤装要員は直ちに消耗した弾薬、燃料、艦載機と艤装の整備に入った。
一方一時の休みを得た第三三特別混成機動艦隊の艦娘達は居住区に向かい、短いながらの休息時間を取った。
夜間も偵察は続航するが、出撃する艦娘には制限がかかるし、この先の作戦上初手から疲労が嵩む出撃は繰り返したくないのが愛鷹の考えだった。
一応一時間の休憩を挟んだ上で、自分と青葉、鳥海、蒼月、陽炎、不知火で二一時まで偵察を行う予定だった。日本本土から夜間作戦を実施可能な新型の瑞雲である試製夜間瑞雲が八機航空妖精とセットで「ズムウォルト」にMV-38で空輸補給される形で届けられており、青葉の瑞雲12型第一一八特別航空団機八機と入れ替える形で補充整備が行われていた。
夜間瑞雲の実戦テストも兼ねて、二一時までの夜間索敵を実施する予定だった。
艦内の食堂で戦闘糧食の食事をとってトイレ休憩も終えた愛鷹が「ズムウォルト」の艤装整備場へ赴くと、青葉が整備場の一角で装備妖精と共に日本本土から送られてきた夜間瑞雲のマニュアルを読んでいた。
「調子はどうです?」
「ん、丁度探しに行こうと思っていたところです。中々良い装備を融通して貰えましたよ」
そう言いながら青葉は愛鷹にもマニュアルを表示したタブレット端末を見せる。
「概要としてはアメリカで開発された小型高出力発動機を搭載した瑞雲改二に更に夜間作戦能力を付与した特別仕様機、と言う感じです。元々は四航戦の伊勢さん、日向さん向けに量産配備が進められていた第六三四航空隊の所属機です。
元々瑞雲改二と言う機種そのものが艦娘艦隊編成に当たって新規に開発された航空機であり、一〇〇年ほど前に実際に空を飛んだ瑞雲にはそもそも『瑞雲改二』なる機体は存在しないんですよね。艦娘艦隊編成時に当たって新規に設計、開発されたこの瑞雲改二ですが肝となるエンジンの開発に難航したと言う経緯があります。結局瑞雲改二に求められた高出力かつ小型の航空機エンジンは日本では開発出来なかったので、海外のロッキード・マーティン社やマクダネル・ダグラス社、BAEシステムズ社等に競合発注して、最終的に新興企業であるGAことグローバル・アーマメンツ社が新型エンジンを開発した事で成就した機体ですね」
「機体そのものは日本で開発できたが、エンジンは海外製と」
「そう言う事です。日本って昔から航空機の開発があまり得意じゃ無かったりしますからねえ……」
語尾を濁す青葉の言う通り、日本の航空機開発は失敗と打ち切りの連続だ。艦娘艦隊に配備される航空機も例外ではないと言う事だろう。しかし実戦配備を求められる機体の開発プロジェクトをそう簡単に打ち切る事も出来ないので、海外に助力を求めたと言う所だ。
「で、アメリカのGA社で開発された新型エンジンを載せたこの瑞雲改二の夜間仕様機である試製夜間瑞雲ですが、標準装備として照明弾、機上電探、航空妖精用の暗視ゴーグルと夜間の航空オペレーションに必要な装備を一通り揃えている、と言ったところです。
爆装、空戦能力も相応にありますね。出来ないのは精々雷撃位でしょうか」
「レシプロ機に現代戦闘機と同レベルのマルチロール性を追求されましてもね……」
航空妖精用の暗視ゴーグルが開発されただけでも大したものである。艦娘用の暗視ゴーグルすらろくすっぽ配備されていないと言うのにだ。夜間の暗さに目が慣れた状態で食らうと一番目に来る照明弾による目つぶし攻撃も、暗視ゴーグルをつけていれば瞬時に偏光モードで軽減することだって出来るのだが。艦娘の個人装備として実装されない理由は大方コスト低減が上手く行かない為である。
「夜間出撃は一九〇〇からです。それまでに調整を終えておいて下さいね」
「任せて下さい」
前衛を務める「ズムウォルト」の後方に布陣する西部進撃隊の本隊総旗艦を務める空母「ドリス・ミラー」と大型艦娘母艦「マティアス・ジャクソン」「ケルンヌンノス」「ユニコーン」の三隻、それに揚陸艦「ディクスミュード」「ファン・カルロス一世」「ヨハン・デ・ウィット」「アルビオンⅡ」「トリエステ」の五隻が続いていた。
八隻の周囲には常時英国、北米艦隊の駆逐艦娘が対潜哨戒についており、上空には「ドリス・ミラー」艦載機であるE-2EAEW機が警戒配置についていた。
艦隊総旗艦「ドリス・ミラー」のCDC(戦闘指揮所)では西部進撃隊の総司令官を務める欧州総軍所属のルグランジュ中将と艦隊参謀らが詰めており、前衛を務める第三三特別混成機動艦隊が上げて来た西地中海の偵察情報を表示したタッチパネルディスプレイを眺めていた。
「現時点で敵艦隊は五個艦隊、潜水艦隊も多数確認されています。また北アフリカのオラン方面に展開する深海棲艦基地航空部隊の空爆が第三三特別混成機動艦隊に波状攻撃を仕掛けております。現時点で第三三特別混成機動艦隊に損害はありません。
戦艦ル級flagship級二隻を中核とした敵艦隊は既に我が空母ドリス・ミラーに艦載している陸上攻撃機隊の航空攻撃で撃破が完了しています。
進撃に際し、現状大きな障害となる深海棲艦は確認出来ていません。第三三特別混成機動艦隊旗艦愛鷹は二一〇〇まで夜間偵察を行うと一報を入れてきました」
状況を説明する作戦参謀に言葉にルグランジュは静かに耳を傾け、時折頷きながら気になる所は自らタッチパネルディスプレイを操作して情報を確認していった。
「例の巨大艦ス級や今次欧州大規模侵攻開始時に確認された戦艦棲姫等の大型戦艦は未だ確認出来ずか」
両腕を組んで唸るルグランジュに作戦参謀ははいと相槌を打つ。
「敵情報が不明瞭な状況下では第三三特別混成機動艦隊の偵察情報だけが現状頼りです」
「彼女だけに頼っていては、クリスマスになってしまうかもしれんぞ。我が方の陸上航空基地の哨戒機の復旧状況は?」
「基地施設は復旧済みです。現在はアメリカ本土より本来の定数の哨戒機の補充が来るのを待っている状況です」
「補充待ちか」
「その代わりですが、UAVによる沿岸部偵察が再開されました。データリンク通信で既に第三三には捜索しなくてもよい範囲を通達済みです」
参謀の一人がUAVによる捜索網をディスプレイ上にハイライトさせる。同じものをきっと「ズムウォルト」の第三三特別混成機動艦隊のメンバーも見ている筈だ。
本当に沿岸部を中心としたエリアに限定されているが、それでも西地中海の全域を第三三特別混成機動艦隊の手で索敵させるよりはマシである。
「巨大艦ス級と戦艦棲姫を中核とする艦隊が我が艦隊、ひいては地中海全域における脅威だ。早期に発見せねばならん。第三三特別混成機動艦隊、基地航空部隊、それに我が空母『ドリス・ミラー』に艦載している陸攻部隊の一部を索敵に割けまいか?」
「提督、陸攻部隊は全機艦隊攻撃に用いる必要があります。中途半端に別任務運用して損耗してしまっては機体も装備妖精もいくらあっても足りません」
「モスキートは比較的高速機だ、深海棲艦の迎撃機につかまっても振り切れるだろう。装備妖精も偵察任務の心得はあるはずだ、違うか?」
「はあ、確かに可能ではありますが」
「明日の朝以降、第三三特別混成機動艦隊が索敵を予定している海域とは別エリアにモスキートを飛ばして深海棲艦の展開状況把握を行おう。ただ貴官の言う通り艦隊攻撃に必要な数が無くなっては意味が無いから索敵網を構築するに必要充分な数の機体に絞る」
ルグランジュ提督のモスキート陸上攻撃機を用いた航空偵察を実施すると言う判断は、すぐに「ズムウォルト」にも伝えられた。
SMCでその知らせを聞いた愛鷹は予定していた第三三特別混成機動艦隊による偵察海域からモスキート及びUAVによってカバーされる海域を削除していった。
「大分カバー範囲が狭まるわね……」
マップを表示したディスプレイに修正を入れた第三三特別混成機動艦隊の偵察エリアを表示させて呟く。
沿岸部はUAV、北アフリカ寄りの地中海南部側はモスキート、その間の海域を第三三特別混成機動艦隊が捜索を受け持つことになる。範囲は相変わらず広いが、それでも当初の予定よりもカバー範囲は狭まっている。
欧州総軍司令部からは基地航空部隊配備の哨戒機部隊の補充、再編制が完了次第西部進撃隊の支援に回すと通告して来ている。明日明後日中に出来る事ではないが、少なくとも西部進撃隊がアンツィオに到達する前には完了しているだろう。
二時間程度の夜間索敵の為に招集された青葉、鳥海、蒼月、陽炎、不知火がウェルドックで待機していると、SMCから戻って来た愛鷹がウェルドックへ入る水密扉を開けて入って来た。
ドアを締めながら愛鷹は五人に準備は良いか尋ねる。
「もう五杯もコーヒー飲んだわよ、速く行きましょ」
「ご、五杯も飲んだんですか……」
けろりとコーヒーを五杯も飲んで眠気覚ましも充分だと答える陽炎に愛鷹は一週回って心配になった。眠気覚ましとは言え、飲みすぎによるカフェインの過剰摂取も考え物である。
「陽炎はカフェインに強い体質なので問題ありません」
横から姉の体質について言及する不知火の台詞に対し愛鷹は内心引き気味な気持ちになりながら艤装の装着作業にかかる。彼女自身コーヒーはよく飲む方だが、一日で五杯も飲んだ事は無い。あまり飲み過ぎるとトイレに行きたくもなるし、カフェインの過剰摂取は身体にも良くない。眠気覚ましには持ってこいの飲み物ではあるが物事には限度と言うモノがあるものだ。
作業員の合図の元、クレーンで吊り下げられた愛鷹の艤装が彼女のベルトハーネスに接続部に連結される。
左目に装着したHUDに艤装がオンラインになった事を示す表示が出て、諸々の艤装OSが起動していく。航空艤装は夜間作戦に適応した艦載機を搭載していない事もあって各管理システムは静かだ。
「愛鷹、抜錨準備良し」
艤装から安全ピンを全て抜いた作業員が確認の声を上げる。愛鷹が「外せ」のハンドサインを管制室へ送ると、艤装を吊り下げていたクレーンがアームを外した。
腕時計を見ると予定していた夜間作戦の開始時刻五分前になっている。
「全艦、発艦準備」
カンカンという乾いた金属の足音を発艦デッキに響かせながら愛鷹は青葉達にも発艦デッキにつく様指示する。
先んじて発艦する愛鷹の両隣に鳥海と青葉が立つ。鳥海のブーツと青葉のローファーの対照的な足音が発艦デッキ上で鳴り響く。
ウェルドックのハッチが開放される前にドック内の照明が赤に切り替えられ、夜間の暗闇に慣れさせる為の光加減になる。
光加減に目を鳴らしていく間に愛鷹は耳元で指をスナップし、耳にはめているヘッドセットの自動電源オフ機能が作動しているかどうかを確認する。艦娘が使うイヤホンタイプのヘッドセットは通信やソナーの聴音、それに主砲の発砲音から耳の鼓膜を防護する機能を兼ね備えている。特に愛鷹クラスの大型艦娘は主砲の発砲音が極めて大きい為、その巨大な発砲音をヘッドセットの電源を自動的にオフにすることで音量軽減機能を発揮している。ただし長い事使っているとその軽減機能がきちんと作動しているかどうか分からなくなるので、指をスナップして確認しているのだ。
ぱちんと鳴らす指の音がしっかり抑えられた音量で聞こえてくるのを確認すると、締めに制帽の鍔を掴んで被り直し開放が始まったウェルドックのハッチの向こう側を見据える。
ウェルドックのハッチが全開放される頃に踝の辺りをランチバーが抑えるのが伝わって来た。
HUDには「Catapult ONLINE」の表示が出ている。右手に目を向ければ発艦士官がキャットウォーク上に立ち、愛鷹に向かって右手を振っている。機関出力上げろのハンドサインだ。艤装制御をつかさどる艤装操作グリップを握りしめ、少し押し込む。足元で主機が回転数を上げて行く振動が伝わって来た。
回転数が第一戦速にまで達すると愛鷹は発艦士官に向かって右手の親指を立てて準備良しのハンドサインを送る。それを確認した発艦士官は艦尾方向、カタパルト、ウェルドック各部を指さし確認し、全て問題なしと確認すると身を屈めて右手を艦尾方向へと伸ばした。
「第三三特別混成機動艦隊愛鷹、出る!」
管制室から発艦のホーンが鳴り響くと愛鷹の足を固定していたランチバーが加速を開始し、一気に長身の彼女の身体がカタパルトの上を滑走していった。
カタパルトの終端で軽い衝撃と共に彼女の身体は身に纏っている艤装ごと海上へと躍り出て、軽やかなステップでハイヒール状の主機の爪先を海上に付けた。
少し遅れて発艦ホーンが二回背後で響き、ウェルドックから鳥海と青葉がカタパルトで射出されてきた。二人とも身軽な挙動で足を海上に付けて姿勢を保つ。
それから程なく蒼月、陽炎、不知火の三人もカタパルト発艦して来て先に発艦した愛鷹らと合流すると六人は単縦陣を組んで日が暮れた西地中海の北東に進路を取った。
追い越して後方に過ぎ去っていく「ズムウォルト」を横目にする愛鷹の背後では青葉が飛行甲板を展開し、新装備である夜間瑞雲の発艦作業に取り掛かった。飛行甲板上で夜間作戦航空要員・熟練甲板員妖精がカタパルトへと瑞雲をセットし、カタパルトにセットされた夜間瑞雲のコックピット内では搭乗員の航空妖精二人がナイトビジョンゴーグルをかけて機内の計器を確認していた。
全ての発艦準備手順項目をクリアした航空妖精が甲板員に発艦用意良しの合図を送ると、夜間瑞雲の周りにいた甲板員妖精が離れる。カタパルトにセットされた二機の夜間瑞雲のエンジン音が高まり、風上に立った青葉の頷きと共に発艦始めの合図の旗を甲板員妖精が振り下ろす。
乾いた射出音と共に夜間瑞雲が連続して射出され、暗い夜の空に緑と赤の航空灯を光らせながら上昇していった。
「夜間瑞雲の実戦デビューですね。四航戦の伊勢さん、日向さんもまだ使った事がない新装備と聞きます」
上昇していく夜間瑞雲を見送りながら鳥海が言う。普段から眼鏡をかけている彼女だが実は伊達眼鏡であり目の保養の為にかけていると言う。過去に彼女とソロモン諸島で第八艦隊を形成して戦った青葉によれば裸眼視力、夜間視力はまさに梟並みに鋭いと言う。
何かと「私の計算では」と理論づくめな一面を知的な容姿も相まって伺わせるが、そこそこ付き合いが長い青葉曰く頭を使った頭脳戦派に見て割と脳筋な武闘派寄りらしい。特に夜戦となれば俄然やる気満々になると言う。
夜戦が得意なのは頼もしい限りだ。他に一緒に艦隊を組む陽炎と不知火も改二化されている所から分かる通り、二人とも歴戦の甲型駆逐艦娘である。鳥海、青葉同様激戦区ソロモン戦線の修羅場を掻い潜って来た姉妹だ。暗闇で見え辛いが二人の肩には大尉の階級章が付けられている事からも相応の戦功とキャリアの持ち主同士であることが伺える。
自分と蒼月以外は夜戦経験も豊富な頼もしいメンツだ。何かあっても充分に対応出来るだろう。
もっとも、その何か、と言う不測の事態を未然に防ぐのが旗艦を務める自身の務めであることも愛鷹はわきまえていた。
ナイトバード1と2のコールサインで呼称される夜間瑞雲二機は編隊を組んで予定された索敵エリアの捜索に入った。ナイトバード1、2に若干遅れてナイトバード3と4の二機も青葉から発艦し、同様に索敵エリアの捜索に移る。
夜間瑞雲にも他の瑞雲と同様多彩な武装が施す事が可能だが、今回は偵察任務と言う事もあり偵察に使うカメラポッド以外は武装は乗せていない。
夜間の地中海の空に夜間瑞雲のエンジン音が鳴り響く中、機内に乗り込んでいる二人の航空妖精は機上レーダーやナイトビジョンゴーグルを駆使して海上を凝視し、深海棲艦の艦隊が展開していないかの捜索を行う。
航空妖精がかけている四ツ目のナイトビジョンゴーグルから得られる緑色にハイライトされた視界には、黒く表示される地中海の海が広がっていた。
愛鷹は余り夜間の作戦と言うモノが好きでは無かった。どうにも施設時代の事を思い出しそうになる。
暗闇は無限の世界を感じさせる一方で視覚的に息苦しさをどこか感じさせに来る。視界が昼間程よろしくない事から来る閉塞感が彼女は好きでは無かった。
ただ月明かりが煌々と灯っている夜は好きだった。月あかりの綺麗な夜空の下で海を眺めながら一服するのは至福の時でもある。
だが生憎今は月明りはそれ程明るくない。雲が比較的多い為、せっかくの月明かりが隠れがちだった。ナイトバード隊が進出している空域は雲が比較的晴れていると言うのが少し羨ましかった。
深海棲艦の潜水艦に発見されないようにするため、航海灯以外の明りは消している六人は終始無言だった。陽気な青葉も、明るく楽天的な陽炎も黙って海上を凝視して警戒に務めている。
先頭に立つ愛鷹は愛鷹でこの頭数、天候、時間帯でス級と会敵したら、と想像するだけで冷や汗が止まらない。深海棲艦はどれも脅威でしかないが中でも特に愛鷹が恐れているのがス級だった。
トラック諸島での戦いでは夜間にス級と交戦した事もあったが、あの時より視界は良いとは言い難い。視界の悪さと言うディスアドバンテージがある今、ス級に一方的に撃たれたらと思うと緊張感が止まらない。
最も仮にス級が居たとしたらナイトバード隊が早期に発見してくれるだろうから気張り過ぎずリラックスして任務にあたるべきだろう。
まだまだ作戦は始まったばかりだ。気を張りっぱなしでは長くは持たない。
「落ち着いて行きましょうか」
独語する様に自分自身に言い聞かせながら愛鷹は双眼鏡を覗き込んで、暗闇に包まれた地中海の海上を凝視した。
夜間瑞雲は艦これで実際に使ってみたら体感「そんなにぶっ壊れに強い装備」には感じなかったのですが、アニメ「いつかあの海で」での活躍とか見ていたら出してみたくなるのが性と言うモノでした。
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四月は更新速度をなるたけ上げられるよう努力したいと思います。
ではまた次回のお話でお会いしましょう。