艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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 久々にネタに走った内容になっています。


第六八話 フォルマンテーラ島沖航空戦

 艦内アナウンスがカリカリと言う空電のノイズ音を流した後、当直士官の声がスピーカーから拡声されて艦娘母艦「マティアス・ジャクソン」の艦内全体に響き渡った。 

≪連絡する、連絡する。これより名前を呼ばれた艦娘は五分以内にブリーフィングルームへ集合せよ。戦艦大和、武蔵、空母レンジャー、ラングレー、重巡ヒューストン、タスカルーサ、軽巡矢矧、アトランタ、駆逐艦吹雪、初雪、白雪、叢雲。以上≫

 名前を呼ばれた大和は「マティアス・ジャクソン」の食堂で一服入れていたコーヒーを飲み干すとカップをテーブルに置いて艦尾側にあるブリーフィングルームへと足を向けた。呼ばれた艦娘の数は一二名、水上連合艦隊編成を組める数だ。大きな作戦目標が立てられてその対処に当たる事態になったのだろう。

 ブリーフィングルームへと向かう大和は行く途中でラッタルを駆けおりて来た武蔵と出会った。

「お、大和。招集令だ、休憩時間は終わりだ。直ぐにでも出撃準備に入る事になるぞ」

「何か知っているの?」

 自分の前を歩く武蔵に大和が尋ねると、武蔵は右手の親指と人差し指で「ちょっとだけ」と言うジェスチャーを返す。

「何でも棲姫級込みの艦隊が確認されたらしい。今日はこれまでの只の通常型深海棲艦相手じゃないぞ。詳細はブリーフィングルームで指示されるが、任務はフォルマンテーラ島沖に確認された深海地中海棲姫に対する攻撃だ。偵察部隊の情報もある、西地中海の厄介な敵の居所を掴んだんだろう」

 そこまで言ってからラダーヒールを軸にくるりと大和に向き直った武蔵はにやりと笑みを浮かべて右手の拳を突き出した。

「ま、牙を磨いておけ大和。獲物は大きいぞ」

「大きい程戦艦に相手取って不足無しね」

 にこりと微笑み返しながら大和も右手の拳を出してこつんと武蔵の拳とぶつける。やるぞと拳をぶつけ合った二人はブリーフィングルームへと歩き出し直す。

「そんなところだ。深海棲艦の哨戒艦も既に出張って来ている。気分最高だな」

 カタンカタンと狭い通路を二人の靴音が響き渡る中、別の通路からもブリーフィングルームへと急ぐ艦娘達の駆けていく靴音が響いて来る。比較的軽めのパタパタと言う足音に加えて大和型の二人と同じラダーヒールが甲板を打ちつけるカンカンと言う金属音も聞こえて来る。同時に矢矧の「通路は走るな!」と怒鳴る声も聞こえて来た。

 

 二人がブリーフィングルームに入室した時には既に招集が掛けられていた艦娘全員が席に座って待機していた。

 大和と武蔵の二人も揃って開いている席に座り、ブリーフィングの始まりを待つ。五分以内に、と言う通告があったから五分もしない内に「マティアス・ジャクソン」の艦長と艦娘運用長が来るだろう。

「この数で挑むことになる敵、と言う事は相応に強力な敵艦隊と言う事よね。腕が鳴るわね」

 胸の内に昂ぶる感情が抑えきれない様に矢矧が言う。阿賀野型艦娘三女であり四姉妹の中でも特に武闘派の彼女は先代の第二水雷戦隊の川内型三姉妹譲りの所がある。特に川内の影響が良くも悪くも大きいだろう。

 意気込む矢矧の前の席にちょこんと座るレンジャーに隣に座るタスカルーサが顔を近づけてレンジャーの口元を含めて所々嗅ぎまわる。

「な、なんですか……?」

「酒飲んで無かったか確認しているんだ……フムン、どうやら大丈夫だな」

「レンジャーは普段から酒癖が悪いものね」

 苦笑交じりにヒューストンが言うと、レンジャーはどこか幼さが残る顔を赤くして俯き、一方のタスカルーサは安堵した様に溜息を吐く。

 その様子を横から見ていたアトランタへ吹雪が耳打ちする様に尋ねる。

「アトランタさん、レンジャーさんってそんなに酒癖悪いんですか?」

「馬鹿みたいに飲むよアイツ。ああいう顔してマジでアウトなレベル。ポーラみたいに脱ぎ始めないだけまだマシだけど、ジャックダニエルズ三本一夜で飲み干したことあるよ」

「うわぁ……」

 流石に吹雪も露骨に引く表情を浮かべる。アトランタも飲み過ぎだよねえ、と言う顔をしながら「ま、一応越えちゃまずい一線越えていないだけまだマシさ」と添えて最低限のレンジャーの名誉は護る姿勢を見せる。

 そこへブリーフィングルームへのドアが開き、「マティアス・ジャクソン」の艦長と艦娘運用長が入室して来た。

 起立して整列しかける艦娘達にそのままと制しながら艦長は一二名の前を横切って部屋に左側に立つと、軽く咳払いをしてからブリーフィングを開始した。

 

「作戦内容を伝達する。今回の作戦は西地中海、フォルマンテーラ島沖に確認された深海地中海棲姫を中核とした深海棲艦艦隊撃滅だ。

 敵は深海地中海棲姫を旗艦として随伴艦艇に重巡棲姫一隻、戦艦ル級flagship級二隻、空母ヌ級elite級二隻、軽巡へ級flagship級一隻、大型駆逐艦ナ級後期型elite級二隻、それにPT小鬼群デルタタイプが二隻確認された。我が西部進撃隊の動向と戦艦棲姫を中核とした艦隊が壊滅したのを受けて邀撃行動に入った艦隊と司令部は見ている。

 我が『マティアス・ジャクソン』からはこの場に集まった一二名は艦娘任務部隊水上打撃任務部隊、コールサイン・アンヴィルとして出撃。深海地中海棲姫を中核とした敵艦隊を叩く。まずラングレー、レンジャーの二名の航空団が航空優勢を確立。続けて『ユニコーン』より発艦したタイコンデロガ、バンカーヒル、ジュノー、マクドゥーガル、フライシャー、シンプソンからなる北米艦隊空母機動部隊、コールサイン・ライノによる航空攻撃で可能な限りの敵艦隊随伴艦艇の漸減。その後大和型二名を中核とした水上艦隊による水上砲撃戦、雷撃戦を持って敵艦隊を一艦余すことなく海の藻屑にする。

 HVTは深海地中海棲姫及び重巡棲姫だが、航空攻撃に当たってナ級も最大級の脅威となる。DEAD(敵防空網破壊)をナ級に対して実施し敵防空網を破壊してから突入するのが良いだろう。今次攻撃作戦にはニーム=ギャロン海軍基地からB-25による近接航空支援が行われる。艦隊の攻撃に合わせて基地航空隊による敵艦隊へ対する空爆を実施し前路掃蕩を含めた敵艦隊の頭数減らしを担ってもらう。

 同時に前衛配置についている第三三特別混成機動艦隊からも前衛任務に就く部隊が展開し、敵艦隊への牽制攻撃を担う。

 軽艦艇であるナ級及びPT小鬼群が諸君らの行く手を阻む前に第三三特別混成機動艦隊が掃蕩してくれる手はずだが、状況によっては第一一駆逐隊の諸君らが対応に当たる局面も出るかもしれない。吹雪、一一駆の嚮導艦としてしっかり隊を率いてくれ。

 深海地中海棲姫の装甲の硬さは諸君らも知っての通りだ。基地航空隊による空爆如きで撃沈可能なやわな相手ではない。大和型の二人の大火力を叩きこんでも尚耐える可能性がある」

 続いて艦娘運用長が攻撃作戦とは別の内容を伝達する。

「今回の全艦娘の装備構成は対艦戦闘重視だ。ラングレーとレンジャーの両名は索敵及び戦闘機隊の誘導を担う艦爆を除き全艦載機を戦闘機とする。その他水上艦艦娘に関しては徹甲弾、魚雷、爆雷完備で固める。深海地中海棲姫と重巡棲姫は装甲が極めて硬いハードターゲットだ。最も攻略難易度は高い。大和型の特殊砲撃で薙ぎ払う事に賭ける作戦だが状況によっては駆逐隊の雷撃で止めを刺す状況も考えうる。

 また随伴のヌ級からの航空攻撃に備えて対空戦闘装備も準備を怠らない様に。敵艦載機は恐らくは深海猫艦戦と深海攻撃哨戒鷹と見られる。深海攻撃哨戒鷹は所謂鳥型艦攻と呼ばれるタイプのタコヤキ系とは別種の機体だ。知っての通り深海猫艦戦を搭載した深海棲艦の空母は総じて制空戦闘能力に秀でており、また鳥型艦攻系は爆撃能力が極めて高い。駆逐艦級なら一撃で大破、大型艦娘でも甚大な損傷は免れない。

 万が一戦闘機隊のエアカバー及び対空砲火による撃墜に失敗した場合は全力で回避に専念してくれ」

 随伴のヌ級elite級二隻の艦載機数は約九〇機。一八〇機近い深海棲艦の航空戦力に対し艦娘艦隊側はラングレーに四五機、レンジャーに八六機の艦載機が艦載可能だ。共同作戦を行うタイコンデロガとバンカーヒルの二人の航空戦力も合わせたら艦載機総数は三七五機にも上り数で圧倒も可能だ。更に基地航空隊のB-25の爆撃も行われるから航空戦で負ける要素はほぼ無い。ただし深海棲艦の対空射撃は極めて強力であるから航空戦で優勢に立てても、対空砲火で攻撃機が撃墜されて航空火力が低下する可能性は充分にあった。

「航空攻撃の実施完了後、レンジャーとラングレーは第三三特別混成機動艦隊の随伴艦護衛の元一時本艦へ後退し、艦隊は大和は武蔵、ヒューストン、タスカルーサ、アトランタ、矢矧、吹雪、初雪、白雪、叢雲の編成に再編する。説明は以上だ」

「楽な相手ではないが、諸君らならやり遂げてくれると信じている。健闘を祈る。では全員、発艦準備にかかれ」

 艦長が敬礼して締めると、一斉に起立した艦娘達が踵を揃えて答礼した。

 

 

 当直士官がマイクに向かって笛を吹き、「全艦に達する、これよりウェルドックハッチを解放、艦娘の発艦作業を開始する」と号令を吹き込む。艦内全体に警報が鳴り響いた後ウェルドックハッチが開放される。艦尾のウェルドックのカタパルトデッキで愛鷹、青葉、衣笠、愛宕、鳥海、夕張、深雪、蒼月、綾波、敷波、陽炎、不知火がそれぞれの艤装のチェック項目を各自消化し発艦に備えていた。

「作戦についての簡単なおさらいです。我が第三三特別混成機動艦隊は水上打撃任務部隊に先立って、深海地中海棲姫艦隊を左から突入、強襲し可能な限りの敵随伴艦艇を撃破します。こちらが敵艦隊の左側面を抑えて攻撃をしている間に後続の水上打撃部隊が正面に回り込んで特殊砲撃を持って一挙に殲滅します。今回の作戦に当たって私達第三三特別混成機動艦隊にはシャークのコールサインが与えられています、忘れない様に」

「了解」

 艤装のチェックを終えた愛鷹が一一名の仲間に振り返ってブリーフィングで伝達された作戦内容をもう一度簡潔に伝え直すと、作戦内容の伝達を確認した一一人から揃って同じ返事が返された。

 カタパルトデッキの警告灯が赤く光り、管制室から管制官が発艦用意とアナウンスを介して愛鷹達に告げる。三基のカタパルトレーンに愛鷹、青葉、衣笠が立ち、パネルに乗ると三人の踝をランチバーが掴んだ。

 タブレットの錠剤をポケットから出して口に入れて深呼吸すると愛鷹は艦尾のハッチの向こうに広がる大海原を見据えた。視界は晴天かつ良好。風向、湿度、波高共に戦闘、航行に支障なしとの気象予報通りだ。カタパルトデッキの右脇に視線を向けると発艦士官が右手をグルグルと回してパワー上げろのサインを三人に送っている。

「増速、黒二〇」

 短く手短に主機と機関部に加速を命じると足元で主機が出力を上げる振動が伝わって来た。背中の艤装の内部にある機関部からも出力を上げる低い唸り声が響き渡って来る。HUDの速度計を見ると速度メーターが発汗に必要な主力と速力にまでゆっくりと近づいて行くのが表示されている。加速力で言えば青葉と衣笠の青葉型の二人が早く、愛鷹に先んじて加速用意良しと親指を発艦士官に向けて立てる。

 やや遅れて愛鷹も発艦に必要な速力と主力を満たすと親指を発艦士官に向けて送る。三人から発艦用意良しの合図を受けた発艦士官は各部への指さし確認をすると身を屈めて右手を艦尾方向へと伸ばした。

 作動音と共に電磁カタパルトが作動してまず中央の第二カタパルトが愛鷹を射出し、遅れて第一カタパルトの青葉、第三カタパルトの衣笠を射出する。一瞬にして第一戦速にまで加速して海上へと身軽なステップで乗り出した三人は揃って「グッドショット」と発艦に成功した事を宣告すると梯形陣を組んで「ズムウォルト」の周囲をぐるぐると周回し後続の艦娘が発艦して来るのを待つ。

「機関よし、速度よし、オールクリア」

 ヘッドセットに手を当てて逐次報告する愛鷹に早期警戒機EV-38から連絡が入る。

≪シャーク・リーダー、こちらヘビー212。旋回して方位〇-九-〇へ向かえ、どうぞ≫

「シャーク・リーダー了解」

 コールサイン・シャークで呼ばれる第三三特別混成機動艦隊の旗艦を務めるだけに愛鷹の名乗るコールサインはシャーク・リーダーとなっていた。またシャーク・リーダーを名乗る愛鷹が青葉、衣笠、夕張、蒼月、深雪からなる分艦隊シャーク1を率いて、鳥海が愛宕、綾波、敷波、陽炎、不知火からなる分艦隊シャーク2を率いる事になっていた。

 全員が発艦を終え、シャーク1とシャーク2の二部隊に分かれて単縦陣の隊列を組み終えるとシャーク2を率いる鳥海が愛鷹率いるシャーク1の右舷側についた。

「シャーク1、こちらシャーク2。そちらの右舷に並びます」

「了解」

 複縦陣を組んだ第三三特別混成機動艦隊が「ズムウォルト」を後にすると、EV-38、コールサイン・ヘビー212から再び連絡が入る。

≪シャーク1、2、こちらヘビー212、レーダーコンタクト。距離一八キロ、反応一二、速力二〇ノットで直進中。参照点より方位〇-五-七。回頭して方位〇-八-〇へ向かえ≫

「シャーク・リーダー了解。方位〇-八-〇、第二戦速。シャーク2、直ちに回頭せよ。艤装スタンバイ、マスターアームオン」

 緩やかな旋回半径を描きながら第三三特別混成機動艦隊が取り舵へと回頭する。

 愛鷹達が全員回頭を終えて新たな方位〇-八-〇度へ進路を変更した時、後方の艦娘母艦「マティアス・ジャクソン」と「ユニコーン」からアンヴィルとライノのコールサインを与えられた二個艦隊が発艦した。ライノのコールサインを与えられた空母機動部隊の面々からは直ちに第一次攻撃隊の発艦準備を開始し、同時にアンヴィルのコールサインを与えられた水上打撃部隊のレンジャー、ラングレーからF6F-5が発艦して海域の制空権を奪取しに前進していく。

レンジャー、ラングレーから発艦した三六機の戦闘機隊が頭上を通り過ぎて行き、エンジンの騒音が空に響き残った。二〇〇〇馬力級のエンジンが轟々と鳴らす音が遠雷の様に響き渡るのを見上げて眺めながら、今回は自分の戦闘機部隊は出番なしと言う事に愛鷹は少しばかり疎外感を感じていた。空母が大々的に投入可能な環境下で愛鷹の限られた戦闘機隊を出すまでもないのは承知ではあるが、自慢の戦闘技量を持つヒットマン以下の五個小隊も参加出来ない事への不満をその顔に僅かに滲ませた。

 

 第三三特別混成機動艦隊を追い越して間もなく、三六機のF6F-5は深海棲艦が上げて来た迎撃機部隊と交戦に入った。

 邀撃に上がって来たのは深海猫艦戦。タコヤキ系の深海棲艦艦載機の戦闘機タイプだ。ドッグファイト能力に秀でており相手取るには容易ならざる戦闘機である。

「ターゲットマージ。ロメオ1、エンゲージ」

 先行するレンジャーの搭載機であるF6F-5が邀撃に上がって来た深海猫艦戦を目視で確認するや増槽を切り離し、スロットルを開いて加速をかける。遅れてリマのコールサインを与えられたラングレーのF6F-5が「エンゲージ」をコールして交戦を開始する。

 プラットアンドホイットニーの二〇〇〇馬力エンジンの咆哮が空一杯に響き渡り、それに深海猫艦戦の飛翔音が混じる。彼我の機関砲の射撃音が鳴り響き、青空の上で空中戦が始まる。操縦桿とスロットルレバーを握りしめる航空妖精がF6F-5を巧みに操縦して深海猫艦戦の銃撃をロールで躱し、急降下に転じて離脱を図る。その背を追う深海猫艦戦の背後を別のF6F-5が奪い、M2機関砲の銃火を浴びせる。

 曳光弾の弾幕が背後を取られた深海猫艦戦の背中から降り注ぎ、直撃を受けた一機がバラバラに四散し、一機が黒煙を吹きながら姿勢を崩し立て直せないまま海上へと死の急降下を始める。

「リマ2、背後に敵機! 右にブレイク、今すぐ!」

「急上昇、急上昇!」

 エレベーターやラダーの作動音が鳴り、機体姿勢を変えたF6F-5が急旋回や急上昇、急降下を繰り返し深海猫艦戦の攻撃を躱す。強引に巴戦に持ち込もうとする深海猫艦戦の誘いに惑わされず、一撃離脱を試みるF6F-5が優位なポジションを確保すると正確な照準を合わせて機関砲を撃ち放つ。M2機関砲の射撃音が鳴り響き、撃ち放たれた銃火が深海猫艦戦の機体に銃痕を穿ち、被弾箇所から黒煙を吐いて深海猫艦戦が墜落していく。

 一方ヘッドオンから一撃を食らったF6F-5が操縦の自由を奪われてよたよたと飛んでいる所へ反転してきた深海猫艦戦に止めを刺され撃墜される事もあった。

「やられた! ベイルアウトする!」

 被弾して操縦不能になった愛機の操縦を諦め、風防を開けてパラシュートを装着した航空妖精が愛機を捨てて機外へと飛び出す。

 空中に僚機パイロットのパラシュートの開閉を認めた航空妖精が墜落地点を母艦に伝えようとした時、再び戻って来た深海猫艦戦がパラシュート降下する航空妖精に銃撃を浴びせた。成す術がない航空妖精が深海猫艦戦の銃撃の雨を浴び、その胴体を銃弾に撃ち抜かれ、パラシュートの紐を引きちぎられる。パラシュートから引きちぎられた航空妖精が力なく眼下の海上へと落ちて行った。

「ちっっくしょう、やりやがったな! この野郎やりやがった!」

 ベイルアウトした仲間を空中で射殺した深海猫艦戦に対して逆上したウィングマンの僚機が怒りの喚き声を吐き散らしながらその後を追いかける。フルスロットルのエンジ音が怒りの咆哮となって深海猫艦戦に追いすがり、復讐の銃火がF6F-5から放たれる。ベイルアウトした航空妖精を殺害した深海猫艦戦が爆散し、その爆炎を突き破って敵討ちしたF6F-5が姿を現す。

「フォーメーションを組み直せ。まだ敵機はいるぞ」

「ロメオ3-2、敵機撃墜。三機目!」

 犠牲を払いつつも全体的にF6F-5が優勢だった。深海猫艦戦は既に半数以上を落とされ組織的抵抗力を失いつつあった。

 深海棲艦の迎撃機部隊の抵抗が弱まったのを確認したロメオ1はヘビー212との回線を開くと、基地航空隊の攻撃を要請した。

「敵邀撃機部隊は抑えられている。基地航空隊の航空攻撃を要請する」

≪了解した。レザール、ザウバー、ゴースト、攻撃を許可する≫

 

 レザール、ザウバー、ゴーストのコールサインを与えられた五四機のB-25が一六機のP-51に護衛されて北側から深海棲艦の艦隊へとアプローチを開始する。

≪Cleared Hot!≫

 その宣告と共に三個中隊のB-25がP-51を引き連れて深海棲艦へと爆撃を開始する。

 深海地中海棲姫と重巡棲姫を始め各深海棲艦も対空射撃を開始し、青空に対空弾が炸裂する黒い斑点がぱっぱと咲き乱れる。撃ち上げられてくる高角砲の対空弾が近接信管を作動させて散弾をB-25に浴びせ、散弾と爆風を浴びたB-25がぐらぐらと機体を揺らす。防弾性は高いとは言っても複数被弾するうちに致命的な損傷を負った数機が制御を失って高度を落とし始める。

≪レザール6、ゴースト12、ダウン≫

≪レザール1よりレザール各機、各個に攻撃開始。ザウバー隊とゴースト隊の攻撃の為の活路を開く≫

≪ジュリエット隊はB-25の爆撃を支援しろ≫

 猛烈な対空射撃を行うナ級に対してジュリエットのコールサインを与えられたP-51の中隊が低空へと降下し、ナ級に機銃掃射を浴びせて牽制をかける。被弾によって動きが鈍るナ級目掛けて中高度から侵入したB-25が爆弾を投下し、反跳爆撃を行う。海面を水切りの容量で跳ね飛びながら一〇〇〇ポンド爆弾がナ級へと迫り、一隻が爆弾の直撃を受けて爆発の炎を噴き上げた。直撃を受けて大破したナ級が速度を失って海上に制止する中、後続艦は爆撃に対する回避運動も兼ねて航行不能になったナ級の左右両側を通り抜けていき、対空射撃を継続する。

 四方八方に散開して取り囲む様に突入して爆弾を投下したレザール隊だったが、散開したのが仇となり火力の一点投射力が低くなった結果、大量に投下された爆弾はその殆どが海上を跳ねて行くにとどまり、被撃墜機を複数出した割に上げられた戦果は運悪く被弾したナ級一隻を仕留めるにとどまった。

≪ザウバー1より中隊各機、我に続け≫

 一八機のB-25からなるザウバー隊が対空砲火を掻い潜って突入を開始する。ザウバー隊の周囲を深海棲艦の対空砲火が飛び交い、至近距離で爆発した対空弾の散弾がB-25の機体を殴りつける。大口径の対空機関砲の射撃も加わり、曳光弾の火箭に絡め取られたB-25が翼を叩き折られて空を転げ落ちる様に落下していく。 猛烈な対空砲火の出迎えを受けながらザウバー隊が爆撃を開始する。反跳爆撃を行っていたレザール隊と違って中高度からの水兵爆撃を実施するザウバー隊が投下した爆弾は直下の深海棲艦の右に左に前後に着弾して高々と水柱を突き立てた。PT小鬼の一隻が至近弾で軽度の損傷を被り、ヌ級elite級一隻に爆弾が直撃する。雨あられと投下された爆弾の内、直撃弾となったのはヌ級elite級に命中した一発に留まった。

 残るB-25の中隊ゴースト隊が爆撃を敢行し、P-51も支援の機銃掃射を行うが、先に攻撃した二個中隊よりもさらに接近戦を挑んだゴースト隊はナ級を始めとする深海棲艦の苛烈な対空射撃に身を晒す事となり、濃密な対空砲火を前に一機、また一機と投弾前にB-25が翼をもぎ取られ、胴体を砕かれ、エンジンを射抜かれ、撃墜されていった。あるB-25は爆弾槽に直撃を受けて搭載していた爆弾が誘爆し、そばを飛んでいP-51一機を巻き添えにする程の大爆発を起こして果てた。

 対空砲火を前に最も多くの被撃墜機を出したゴースト隊だったが、引き換えにロ級一隻に三発の爆弾を命中させこれを轟沈させ、ル級一隻にも至近弾による小規模なダメージを与える事に成功した。

 海上に爆撃を受けて大破し航行不能となったナ級と撃墜され海上に墜落したB-25の上げる黒煙が林立する中、B-25を護衛していたP-51の編隊長、コールサイン・ジュリエット1は眼下に広がる味方機と深海棲艦の惨状を的確に見極めるとヘビー212へ爆撃効果を報告した。

「ヘビー212、こちらジュリエット1だ。レザール。ザウバー、ゴースト各隊の爆撃終了。ナ級一隻の大破確定を確認。ロ級一隻は轟沈確定、更に戦艦ル級一隻小破、軽空母ヌ級一隻中破を認む。爆撃効果は不十分。速やかなる第二次攻撃を要すると認む。アウト」

 爆撃を完了したB-25三個中隊が編隊を組み直し、ニーム=ギャロン海軍基地へと帰投の途につく。組み直された編隊は、来た時と比べて多くの機体がその胴体に被弾の跡を残していた。組まれた編隊も被撃墜機を多数出した結果その数は大きく減っていた。

 レザール隊、ザウバー隊は未帰還機をそれぞれ四機、ゴースト隊に至っては八機にも上る未帰還機を出し、護衛のジュリエット隊も二機が未帰還となる損害を被る中、タイコンデロガとバンカーヒルから発艦した第二次攻撃隊が深海棲艦艦隊へと殺到した。F6F-5一六機、SB2Cヘルダイバー二四機、TBFアベンジャー二四機からなる第二次攻撃隊は発着艦能力をまだ維持している軽空母ヌ級の片割れから発艦した八機の深海猫艦戦の迎撃を退けて深海地中海棲姫と重巡棲姫、戦艦ル級、軽空母ヌ級に群がった。

 随伴護衛艦を務めるへ級とナ級、PT小鬼、それに深海地中海棲姫と重巡棲姫、ル級自身も対空砲を総動員して弾幕を張る。深海棲艦の高性能レーダーに管制された対空射撃を行うナ級の対空砲火を前にヘルダイバーとアヴェンジャーが一機、また一機と食われていく。ナ級に限らず深海地中海棲姫と重巡棲姫からも激しい弾幕射撃が撃ち上げられ、攻撃機を寄せ付けない。強引に突破を試みたアヴェンジャー四機が瞬く間にボロボロと対空砲弾によって切り裂かれて機体の残骸を海中へと投げ込む。

≪まるでハリネズミだ、近づけない!≫

 凄まじい対空砲火を見たF6F-5の航空妖精が撃ち上げられる曳光弾や対空弾の爆炎を見て眉間に汗を滲ませる。それでもヘルダイバー二個小隊八機が急降下爆撃を開始し、機関砲の曳光弾や高角砲の対空弾の雨を突き抜けながら突っ込んでいった。ダイブブレーキを展張して降下速度を制御する八機の内、二機が対空機関砲と高角砲の砲撃を浴びて機体姿勢を崩し、減速不能となって立て直せないまま海上に突っ込んでバラバラに砕け散った。

 残る六機は至近弾に機体を激しく揺さぶられ、叩かれながらも狙いを付けた深海棲艦目掛けて爆弾槽に抱いていた一〇〇〇ポンド爆弾を投下した。誘導悍で引き出された爆弾が口笛を吹く様な落下音を立てて深海棲艦の頭上から降り注ぎ、手負いのヌ級が最初に直撃を受けた。

 果敢に突入したヘルダイバーに続いて残るヘルダイバーとアヴェンジャーも攻撃を開始したが、猛烈な対空砲火は依然として健在であり、兵器を投下する前に一機、また一機と撃墜され海上に墜落していった。猛烈な対空砲火による抵抗を前に四八機のヘルダイバーとアヴェンジャーは効果的な爆撃を実施出来ず、辛うじて手負いのヌ級に止めを刺すだけで精一杯となった。

「駄目か」

 依然としてほとんどの艦が健在な深海棲艦の艦隊を見てタイコンデロガの航空団の編隊長がため息交じりに呟く。四八機で襲い掛かって空母一隻の撃沈に留まるのは攻撃効果として不十分過ぎる。だがあの対空砲火を前に航空攻撃を仕掛けるのは自殺攻撃に等しくも感じられる。ひとまず攻撃効果をヘビー212に報告した編隊長は、第三次攻撃隊の必要を訴えるべきか迷った。まだ母艦艦娘のタイコンデロガと僚艦バンカーヒルには多数の攻撃機が対艦攻撃兵装を装備して待機している。しかし、深海棲艦の艦隊の強力な対空砲火を目にすると仲間をこれ以上危険に晒したくないと言う私情が湧いて来る。一方で航空攻撃を徹底して行わなければ艦娘艦隊が大損害を被りかねない。

 ジレンマにかられる編隊長だったが最終的に下した決断は航空攻撃の中止だった。対艦攻撃で航空団背力をすり減らす訳にはいかない。近隣の島々の奪還作戦支援や後々のアンツィオ奪還作戦にも航空隊は必要だ。ここで戦力を損耗し過ぎるのは拙い。

「スーパー1よりヘヴィー212へ勧告。別手段での速やかなる再攻撃を求む。艦娘艦隊各艦は敵勢艦隊への攻撃を引き継ぐ必要がある、アウト」

≪了解スーパー1、アンヴィル全艦はラングレー、レンジャーを分離し前進して敵勢艦隊を攻撃せよ。シャーク隊へ勧告、シャーク2は水上戦闘に移行するアンヴィルより離脱するラングレー、レンジャーを護衛して母艦へ後退。シャーク1は敵艦隊への主攻を担うアンヴィルの助攻に当たれ。アウト≫

 

「瑞雲フィードに接続。瑞雲からの航空偵察情報を転送します」

 タブレット端末をタッチペンで操作して事前に発艦させた瑞雲とのデータリンクを青葉は開いた。

 ヘビー212からの指示通りラングレーとレンジャーの離脱の護衛にシャーク2の鳥海、愛宕、綾波、敷波、陽炎、不知火を分離した為、深海地中海棲姫を含む艦隊へと前進する第三三特別混成機動艦隊は青葉と愛鷹、衣笠、夕張、深雪、蒼月だけになっていた。

 アオバンド3からの偵察情報が入ってきており、青葉はその偵察情報内容を確認し、愛鷹他シャーク1やヘビー212、アンヴィルの全員に情報を共有した。

「防空巡洋艦ツ級elite級一隻、ナ級後期型elite級一隻が深海地中海棲姫の艦隊の元へ向けて前進中。航空攻撃で失ったナ級とロ級の分の補充戦力と思われます」

「合流されると厄介ね」

 HUDにも表示される二隻の位置を見て愛鷹は微妙に顔をゆがめた。防空巡とは言っても水上戦闘能力は高いツ級と高威力の魚雷を放ってくるナ級、どちらも高脅威目標だ。数が増えてはいくら後続の主力部隊が腕利き揃いでも思わぬ苦戦をしかねない。だが二隻だけの状態ならそこまで脅威とも言えない。

「ヘビー212、こちらシャーク1。敵艦隊への補充部隊と思われる深海棲艦二隻を攻撃する」

≪了解シャーク1。アンヴィルはシャーク1の攻撃完了を待て。敵勢艦隊の有無については随時知らせる≫

 通信を終えた愛鷹は面舵に転舵して二隻の深海棲艦増援部隊に向けて進路を取った。

「新進路、〇-八-五度。ヨーソロー」

「ヨーソロー!」

 瑞雲から送られてくる偵察情報を管理するので忙しい青葉に代わって衣笠が復命し、夕張、深雪、蒼月と順次回頭し、先行する愛鷹、青葉、衣笠の航跡の後を追う。

 

 単縦陣を組んで前進する第三三特別混成機動艦隊の六人の前方にツ級とナ級の二隻からなる小艦隊が見えてくると、愛鷹から続行する五人に「水上戦闘用意」の号令が下される。ツ級とナ級も接近する六人に気が付き、艤装や主砲を構えて応戦態勢を取る。逃げも隠れもせずに立ち向かってくる二隻を見つめながら愛鷹は右舷艤装の四一センチ主砲二基の砲門をツ級へと指向した。

「戦闘用意! 全艦、砲雷同時戦用意!」

 単縦陣を組んで前進する第三三特別混成機動艦隊に対して、ツ級とナ級は反航戦を描く形で接近して来る。射程では愛鷹の四一センチ主砲が上だが最大射程から動く目標相手に撃っても初弾命中はそう簡単には望めない。いくら愛鷹の砲術の腕が良くてもである。有効弾を得やすい中距離まで距離を詰めて砲撃開始に移行する事を愛鷹は狙っていた。その距離なら青葉と衣笠の二人も有効射程に入っている。

 真正面から正対する第三三特別混成機動艦隊と深海棲艦の彼我の距離が縮まる。戦力差は目に見えているにも拘らずツ級とナ級は逃げる素振りを全く見せず全速力で前進して来る。

 先手を打ったのは愛鷹だった。

「主砲、撃ちー方始めー! 発砲、てぇっ!」

 発砲音と共に砲煙が四一センチ主砲の五つの砲門の内、第一主砲の右砲と左砲、第二主砲の右砲の砲口から噴き出し、真っ赤に光る徹甲弾が撃ち出され、発砲の反動で砲身が後退する。風の向きが逆風なのもあって主砲の砲煙が愛鷹の身体に吹き付け、硝煙が白い制服にこびりついてうっすらと制服を黒く汚す。

 放たれた徹甲弾三発が宙を飛び抜け、ツ級へと迫る。着弾までのカウントダウンをする砲術妖精が「弾着、今!」と叫ぶとツ級の右側面に三つの水柱が突き立った。着弾した初弾の位置を確認した砲術妖精からの修正値を基に愛鷹が艤装操作グリップで主砲搭の向きを微妙に左へと回し射撃諸元を修正する。

 遅れて青葉と衣笠の主砲が砲撃を開始した。四一センチ主砲よりもやや小ぶりながら相応に大きな砲声が響き渡ると、ナ級へ向けて二人から放たれた二〇・三センチ砲弾が飛翔して行く。再装填に時間がかかる愛鷹と違って青葉型の二人はその半分以下の時間で次弾を発射する。

「夕張さん、深雪さんと蒼月さんを率いて敵の左側面に回ってください」

「了解です。深雪、蒼月ちゃん、続いて!」

 ツ級へと第二射を放ちながら夕張に深雪と蒼月を率いて左側面を抑えるよう指示する愛鷹に、三人が増速をかけて追い越していく。タービンを追加装備して速度を上げている夕張の主機から増速の白波が蹴立て、その航跡を深雪と蒼月が追う。増速し面舵に舵を切ってツ級とナ級の左側面を抑えにかかる夕張達が主砲を左舷側に指向して夕張はツ級へ、深雪と蒼月はナ級へと砲撃を開始する。

「二人とも、ナ級の長距離雷撃に気を付けてね」

「はいよ」

「了解です」

 ナ級のレーダーによる射撃管制を受けた正確無比な長距離雷撃はナ級の脅威を物語る代名詞と言っていい。elite級の雷撃戦火力だけでも重巡級を一撃で大破させに来る威力を持つし、ナ級後期型Ⅱflagship級ともなれば戦艦クラスでも耐えられない高威力の魚雷を長距離から正確に当てて来る厄介さがある。艦娘の中でもナ級は特に忌み嫌われるレベルで脅威度が高い。故に日本艦隊では対ナ級専門部隊ともいえる一式戦闘機隼を装備した第65戦隊が対ナ級キラーとして配備されている。

 Elite級ならまだやりようがある、と踏む愛鷹が第三射を放つ。三発の砲弾はツ級の目の前に着弾した第二射から再度修正を入れた諸元を基に撃ち出される。反航戦なだけに彼我の位置が並行した状態で撃ち合う同航戦よりも命中率は下がり気味だ。レーダーによる測距の補佐もあっても相手が動く目標である限り、砲撃は狙った位置に着弾すればいいものだからそうピンポイントで当たってはくれない。

 水柱がツ級の左右両側に挟み込む様に突き上がるのを見て、愛鷹は斉射へと移行した。ツ級からもレーダー測距による砲撃が飛来して来るが、防護機能が悉く弾き返していた。装甲と防護機能は戦艦程分厚い訳では無いとは言っても、ツ級程度の軽巡クラスの砲撃を通すようなやわさはない。再装填が完了した主砲搭から装填完了のブザーが三度鳴り響き、愛鷹の肩に立っている見張り員妖精も撃ち方用意良しの親指を立てる。

「主砲斉射、てぇっ!」

 凛と張った声で下された砲撃号令と共に愛鷹の指が艤装操作グリップのトリガーを引き絞り、五門の四一センチ主砲の砲口から五つの徹甲弾が轟音と共に撃ち出される。宙を飛翔して行く愛鷹の砲撃を回避しようとするツ級の傍に夕張から放たれた一四センチ主砲弾が降り注ぎ、動きを牽制する。もたもたとしている内にツ級に愛鷹が放った砲撃が直撃した。ツ級の中でも比較的頑強なelite級だったが、戦艦級の口径の徹甲弾の直撃には耐えられない。被弾の衝撃でよろけたツ級の艤装が遅れて爆発し、吹き飛んだ砲塔や艤装の破片が宙を舞った。

 兵装の誘爆で木っ端微塵に爆散したツ級の残骸が燃えながら海中へと没する中、青葉を始め四人からの集中砲火を浴びていたナ級もその丸い艤装上に被弾による火焔を噴き上げる。ナ級も青葉へと応射を試みるが、ナ級が一発撃てばその数倍の砲弾が撃ち返されてきた。直撃弾に加えて海中で爆発する至近弾のダメージが嵩張り、ナ級の速力が徐々に低下し始める。被弾しつつも尚も応射を繰り返すが魚雷発射管は既に破壊されており、ナ級の高性能レーダーも蒼月から撃ち込まれた長一〇センチ高角砲の砲弾によって吹き飛ばされた。

 大破炎上するナ級に対して夕張から甲標的が発進し、止めを刺す。甲標的から発射された魚雷がナ級の舷側に直撃の水柱を突き立て、急激な浸水を起こしたナ級が左舷側へとお椀をひっくり返す様に転覆した。

 二隻の撃沈を確認した愛鷹は分離した夕張達を呼び戻しながらヘビー212へ報告を上げる。

「こちらシャーク1。ツ級およびナ級の二隻の排除完了。引き続き作戦を遂行する」

≪了解した。こちらのレーダーでも敵増援の影無し。深海地中海棲姫に対する本隊攻撃に当たっての側面攻撃を開始せよ≫

「了解。アウト」

 夕張達の合流を待ってから隊列を組み直した愛鷹は深海地中海棲姫を中核とする艦隊が展開する方へと舵を切った。

 

 ここまでは順調。少なくとも航空攻撃を打ち切った事を除けば深海棲艦の数は減らせている。敵主力部隊の主力艦の内ヌ級の片割れは落としているから敵艦隊上空の制空権も確保しやすいレベルに低下している。あとは艦娘艦隊の本隊の全力射撃が上手く刺されば今日中には西地中海の制海権は奪還出来るかもしれない。愛鷹として一つ心残りなのがス級が今になっても一隻も確認されていない事だった。深海棲艦にとってもその維持、運用にはかなりの手間がかかると推測される艦でも、地中海を事実上の庭とする深海棲艦が肝心な時にゲームチェンジャーなりうるか力を持つス級が動かせない状況を作るだろうか、と言う疑念がわく。どこかで思わぬ待ち伏せを仕掛けて来るのではないか、と言う懸念が愛鷹の中で胸騒ぎとなって蠢いていた。

 現状ス級に対抗しえる火力を持つ艦娘が存在しない以上、あと五隻はいると見られる地中海の深海棲艦艦隊の陣容を思うと、流石の愛鷹も怖くなってくる。沖ノ鳥島海域での戦闘で、当時はまだス級に対する艦娘側の認識が甘かったと言う落ち度はあるにはあれど大艦隊が無印のス級の砲撃によって壊滅させられたのだし、愛鷹もその時その場にいたから未だに彼女の中では根強くス級に対する恐怖は存在していた。

 すると胸中を察したかのように青葉が声をかけて来た。

「ス級、いるならもうとっくに来ていますよね。今になっても現れないって事は地中海で暴れまわり過ぎて整備と補給に時間がかかっているか、アンツィオやマルタ等の最重要拠点の守りに入っているんじゃないですかね」

「まだ分かりません。ただ青葉さんの言う通り、西地中海に展開しているのならもう増援として来ていてもおかしくはないですね。かの艦は巨艦の割に速度が速い。西地中海で劣勢になっていると深海棲艦が判断すれば一両日中にでも増援として送り込んできてもおかしくはない。

 でも、その兆候は未だに無い。何か動かせない理由があるのか……それとも……」

 ふと脳裏を過ったある可能性に愛鷹はまさか、と思いつつもあらゆる可能性を視野に入れた場合、自身の脳裏で湧いたス級の出方にあながち嘘偽りはないかも知れないと言う考えが浮かぶ。

 だが今はそれを考える時ではない、と頭を振って作戦に集中する事に切り替え、愛鷹は前を見据えた。

 

 主力部隊アンヴィルに先行して行動に入っているシャーク隊旗艦愛鷹から通信が大和に入り、装備妖精が通信内容を読み上げる。

「シャーク1、愛鷹より入電。変針点通過。取り舵一〇、砲雷同時戦に備え。先行するシャーク1は単縦陣の戦闘隊形を維持。尚も増速中」

「大和より各艦へ、我未だ敵艦隊を目視出来ず。全艦戦闘配備、索敵警戒厳に」

 大和を先頭に武蔵、タスカルーサ、ヒューストン、アトランタの四人が単縦陣を組み、更にその約五〇メートル先を矢矧を先頭に立てた一一駆の四人が同様に単縦陣を組んで前進していた。今回の作戦に当たって改二重艤装を組まれた大和からは瑞雲改二が対潜哨戒機としてアンヴィル隊の周囲を旋回しながら対潜哨戒に当たっており、陣形上速やかなる対潜攻撃陣形への移行が難しいアンヴィル隊に代わっての対潜攻撃手段として機能していた。

 ヘビー212からは敵艦隊主力は既にEV-38のレーダーで捕捉出来ており、シャーク、アンヴィル共に会敵は間もなくだと告げられていた。敵艦隊への航空攻撃は途中で切り上げられたこともあって必ずしも充分とは言い難い結果となったが、それでもヌ級一隻を含む複数隻の艦艇は撃沈しているので数の上では負けていない。また爆撃で複数の艦を手負いにしているから完全な状態のアンヴィルと不完全なコンディションの深海棲艦と言うパワーバランスが出来ていた。

 一方で大和を不安にさせる要素が出てき始めていた。海上を雲が多い始めたのだ。曇になりつつある天候は見通しが悪く成り気味であり、砲撃戦に置いて大和型の長射程のアドバンテージが崩れてしまう。必然的に艦隊の砲撃戦の距離は中近距離に持ち込まざるを得なくなる。

≪アンヴィル各艦へ、こちらヘビー212。敵だ。敵針〇-一-三、速力三〇ノット、数は九隻。目視可能距離まであと一分≫

「了解、ヘビー212。全艦黒二〇」

 最大速力で接近して来る深海棲艦の艦隊に対して大和もアンヴィル各艦へ増速の指示を出す。増速と言ってもトップスピードが二八ノットが限界の大和型に合わせて矢矧達やタスカルーサ達も最大速力を調整する。

 雲が水平線上を覆う中、その水平線上に砲口炎と遠雷の様な砲声が轟いて来る。

「砲口炎見ゆ! 右舷一〇度!」

「雷の間違いだったりしないか? いくら深海棲艦でも遠すぎるぞ」

 大和の見張り員妖精の報告に武蔵が怪訝な表情を浮かべる。間もなく双方目視可能距離に入るとは言え、これから相手取る深海棲艦側の中で最大射程を誇るル級の主砲でもまだアンヴィルを射程に捕捉出来ているとは言えない距離だ。考えうる要因は一つしかないとタスカルーサが口を開いた

「先行するシャーク隊が補足されたって事じゃないかな」

「その可能性は高いわね」

 彼女の後を続行するヒューストンも頷いた時、アンヴィル各艦のヘッドセットにシャーク隊旗艦愛鷹から続報が入る。

≪我現在敵艦隊主力随伴艦艇と交戦を開始。敵艦隊主力左側面へ回り込み側面攻撃を実施中。アンヴィルは速やかなる敵艦隊主力への総攻撃を願う≫

 彼我の位置から言って先行する第三三特別混成機動艦隊、シャーク隊が先に交戦を開始するのは当然の事と言える。寧ろ当初の作戦ではシャーク隊が先陣を切り敵艦隊の随伴艦を可能な限り排除して本隊の攻撃につなげると言うモノだから、当初の予定通りの行動が始まったと言えよう。

「大和、好都合よ。砲撃の規模からもヘビー212が共有してくれる敵艦隊の規模と一致するわ。このまま当初の予定通りシャーク隊で敵艦隊随伴艦艇への攻撃を行わせている間に我が隊は敵艦隊正面へ回り込み、一機に片を付けるべきよ」

 先んじて交戦を開始した愛鷹達が敵艦隊主力左側面を抑えている今だと主張する矢矧に大和は頷き、戦闘用意を発令した。

「我に続け全艦最大戦速、取り舵一杯、右砲戦用意!」

 

 

 降り注ぐ砲弾の雨に対して、シャーク隊の六人はまず回避を優先して行動に入っていた。愛鷹だけは進路を維持し降り注ぐ砲弾を刀で切り裂き、小口径弾は防護機能で弾き返して敵の攻撃を無力化してのけていた。

「敵艦隊の陣容確認! 深海地中海棲姫一、重巡棲姫一、戦艦ル級flagship級二、戦艦の片方は手負い。空母ヌ級elite級一、軽巡へ級flagship級一、大型駆逐艦ナ級elite級一、PT小鬼群デルタタイプ二」

 主砲艤装のグリップを展張して構えた青葉が敵艦隊の艦種別構成を即座に確認して愛鷹に告げる。初弾を躱したシャーク隊は直ちに反撃に入った。

「深雪さん、蒼月さん、夕張さんはPT小鬼群を対処。青葉さんと衣笠さんはへ級及びナ級を対処して下さい。戦艦は私が相手をします」

「了解」

 矢継ぎ早に指示を下す愛鷹に青葉達の唱和した復命が返され、シャーク隊の前哨戦の幕が切って落とされた。

 

 

 東京の日本大学病院にロシニョール病の定期検査を受けに行っていた比叡が全ての診察などを終えて、病院を出た頃には日が暮れようとしていた。久しぶりの東京の風景に懐かしいものを覚えながら、フード付きのジャケットを被り直してその足で秋葉原の繁華街へと足を延ばした。通院も兼ねて二日の非番と外泊許可を出されているから少しだけ東京観光と洒落込む比叡は秋葉原の繫華街へと足を踏み入れた。

 過疎化した地方から人口を大都市に集中させる日本政府の政策の結果、東京は人口一〇〇〇万を超すメガロポリス化が進み、秋葉原を始めとする東京都心の風景も比叡が幼い頃と比べたら大分変って来ていた。

 最新の液晶テレビが大量に店頭に並ぶ家電量販店の前を通りかかった時、突然店頭に並ぶテレビの画面が一斉に国営放送局のニュースキャスターの映像にかわり、画面の上に「臨時ニュース」のテロップが流れ出た。

≪東京及び太平洋沿岸部にお住まいの視聴者の皆さんにこれから緊急放送をお送りします。テレビの近くにいる方は出来るだけ多くの方に声をかけ、放送をご覧になる様ご協力をお願い申し上げます≫

 何事だと通行人が次々に足を止めてテレビの画面に視線を向ける中、その中に紛れる比叡も何の発表だろうかと気になって足を止めた。

≪先程鳥羽内閣官房長官は緊急記者会見を行い、首都圏及び太平洋沿岸部における深海棲艦の大規模な日本本土攻撃の可能性が高まりつつあると言う見解を示し、国民の皆さんには予測される最悪の事態に備えて内陸部及び日本海側の一時的な計画避難勧告を発令する事を発表しました。

 また首都圏及び近県の太平洋沿岸部の治安を維持し、万が一の時の備える為海兵隊に出動を要請したと報じました。今回の要請について鳥羽長官は次の様な日本政府の公式見解を表明しました。『昨今の日本本土近海における深海棲艦の活動の活発化に際し国連軍太平洋方面軍司令部等との協議の結果、現在の沿岸部に住まう国民の皆様の有事に陥った際に一斉避難は困難であるとし、政府からの避難勧告解除が発令されるまでの間、太平洋沿にお住いの方々は自治体ごとに定められた有事避難計画に従い、段階的に内陸部及び日本海側の避難施設またはご親族の元へ身を寄せるなどして……』≫

 

 ニュースキャスターが読み上げる日本政府の公式見解を聞いている内に比叡はのんびりしている場合じゃない、と即断即決を下すと秋葉原駅へと足を向けた。

 

≪この決定を受けて、現在配備が進められている部隊は、海兵隊日本方面軍東部方面隊第一師団第一普通科連隊、同第三一普通科連隊、同第三二普通科連隊、同第一偵察戦闘大隊、同第一高射特科大隊、同第一戦車大隊、富士教導団普通科教導連隊、同機甲教導連隊、同特科教導連隊、東部方面隊第一飛行隊、同第四対戦車ヘリコプター隊……≫

 日本統合基地の艦娘寮の談話室のテレビでは別のチャンネルで放送される首都圏に展開する予定だと言う海兵隊の部隊の報道が流され、艦娘達はテレビ画面を凝視して配備される部隊の名前を聞いた。

「こんだけの大部隊が東京含めた首都圏の沿岸部に配置されるのか」

 ソファーの上で胡坐をかいてテレビを見る嵐の呟きに普段ノリの軽い秋雲も真面目な表情でテレビ画面を見つめた。

「首都圏と近県の沿岸部の事実上の防衛目的ねぇ……いざと言う時の私達じゃ不安だとでもいうの?」

 信用されていないのかと疑問を投げかける朝雲に、夕雲が首を振った。

「それは無いと思うわ。だけど何も対策もせずにただやられるって訳にもいかないでしょ? あらゆる事態を想定して、って事よ」

「まア、最近ちょっと本土近海が物騒になっちゃったからしゃーないかもね」

 いつものお惚けた口調で漣が言った時、ふと寮の窓の外に視線を向けた嵐が唐突に叫んだ。

「おい見ろ! 来たぞー!」

 その叫びに一斉に艦娘達は窓に殺到し、基地のすぐ傍にある高速道路を利用して移動する海兵隊の装甲車輛達の姿を目の当たりにした。大型の戦車運搬車の上には一〇式戦車の近代化改修型である一〇式戦車改が載せられており、その戦車運搬車の前後には西暦二〇二五年に正式採用された八輪の装輪タイプのIFVである二五式装甲戦闘車が走っていた。

「凄い。一〇式改にオオマツの二五式もいるわ」

 窓の外から見える高速道路をトレーラーに乗せられた一〇式戦車改や自走する二五式装甲戦闘車の姿を見て能代が驚嘆する。

「あれは、富士教導団の車両ですね。よく見ると教導団のマークが見えます」

 眼鏡の下の目を細めて凝視する香取が運ばれる戦車や自走する装甲戦闘車の砲塔部に書かれたマーキングを見て言う。同様に多数のトレーラー上の戦車や自走移動する装甲戦闘車の数々を見た飛鷹がため息交じりに呟いた。

「総火演とかでもあれだけの戦車や装甲車を見た事は無いわね。ホント、一大事が迫っているって感じがしてくるわ」

「暫くの間、あの装甲車輛がこの基地を含めたあちこちに置かれるって事ですか」

 ほんのり不安を浮かべた表情で照月が展開場所へと移動する海兵隊の装甲車輛を見て言うと、霧島が落ち着かせる様にその肩に軽く手を置いた。

「日本の反対側で国連軍が深海棲艦相手に総力戦モードやってるって時に、真反対の日本に今攻め込まれちゃ溜まったもんじゃないよ」

 やれやれと頭を掻きながら秋雲が深いため息を吐くと、全く持ってその通りだ、とその場にいた全員が頷いた。

 




 突っ込まれてるネタが分かったぞ、って方は感想欄などでドンドン書いて行って構いません。
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 ではまた次回のお話でお会いしましょう。
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