艦隊これくしょん この世に生を授かった代償   作:岩波命自

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第七〇話 バレアレス諸島沖捜索戦 Ⅰ

 着艦する為に「マティアス・ジャクソン」のウェルドックへと進入する愛鷹の視界一杯に巨大な発艦デッキの風景が広がった。アメリカ級強襲揚陸艦の設計を基に建造された艦娘母艦の一隻である事もあり、本来LCACや水陸両用装甲戦闘車の発進、収容に用いられるウェルドックのハッチはそのまま艦娘の発進口となっている。非常に広いウェルドックは一人進入する愛鷹の艤装の幅を持っても尚お釣りが余り余るほど出る広さがある。

 誘導灯を持ってドック内へと進入して来る愛鷹を誘導員が誘導する。微速前進に落としてゆっくりとウェルドック内を進む愛鷹の目の前で誘導員が両手に持つ誘導灯をクロスさせ、停止を指示して来ると愛鷹は微速後進をかけながら制動をかけた。

 アラームが鳴り響き、ウェルドックのハッチが閉鎖され、排水ポンプの作動音が響き渡ると瞬く間にドック内の水位が下がっていく。前の方にある水位計を見ながら緩やかに浮力を落としていくとコツと言う着底音が靴底から鳴る。僅かに海水が残ウェルドックのデッキの上を高い靴音を響かせながら発艦デッキへとスロープを伝って上る。スロープを上がる途中、真水のシャワーが愛鷹の主機に吹きかけられ靴に付着した海水を洗浄しにかかる。大型艦娘母艦なだけあって「ズムウォルト」よりもこういった艦娘収容後の設備の充実具合は段違いだ。

 スロープを上がった先で作業員が真水でびしょびしょの靴を拭うタオルを差し出してくる。受け取り入念に主機兼靴を拭いていると、頭上をクレーンが通り直ぎ、作業員の合図と共にクレーンのアームが愛鷹の背中に背負う艤装を掴んだ。作業員から「接続外せ」のハンドサインを確認した愛鷹は腰の艤装装着ベルトの解除ボタンを押して艤装の接続を解く。

 最後は艤装装着ベルト自体を外して作業員に預けると、収容作業は全て完了だ。

「ご苦労様です」

 作業員一同に一礼を入れた愛鷹はその足で「マティアス・ジャクソン」の医療区画へと向かった。

 

 広い医療区画の病床の一つに青葉は横になっていた。負傷した跡には包帯がぐるぐる巻きつけられており、一見すると重傷にしか見えない有様だが既に体内に残っていた破片や砲弾の摘出手術は終わり、ナノピタルによる再生治療の段階に入っていると言う。全身麻酔が入れられている事もあって愛鷹の見舞いに全く気が付いた様子も無く、青葉はすうすうと寝息を立てていた。心電図の心拍センサーの電子音も規則正しい音を立てており、容体は安定している事が伺えた。

 手術と治療を担当した医官が、青葉の病床の横に佇む愛鷹の所へ来て術後経過を報告した。

「容体は安定しています。五日もあれば回復出来るでしょう」

「五日で? そんなに早く回復出来るのですか?」

「驚くのも無理はないナノピタルのナノマシンの能力です」

 医官自身もナノピタルを用いた治療の実戦経験は多くは無い。そんな経験が浅い医官が使用しても有効に働き、作用し、後遺症なども発生しない所が高速修復材よりも人体に優しい設計であると言えた。夕張がナノピタルでの治療を受けた経験者であるが、治りも良く、後遺症も無いナノピタルは本当に艦娘の治療に最適解な薬物とも言えた。

 とは言え、五日間は青葉は戦闘不能な状態が続く。その間にも深海棲艦の新手は西部進撃隊の行く手を阻もうと前進して来ている。

 先のフォルマンテーラ島沖海戦の終盤、飛来した深海棲艦艦載機群がどこから飛来したのかが現状不明だ。UAVによる偵察でフランス、スペイン沿岸部には展開していない事が判明している。つまりUAV偵察が実施されていない西地中海の広大なエリアを第三三特別混成機動艦隊の手で索敵し、深海棲艦艦載機群を放たった母艦群を見つけ出さないといけない。

 どう動くかの話し合いをルグランジュとする為にも愛鷹は「ズムウォルト」から一人「マティアス・ジャクソン」に赴いた訳だった。

 そっと青葉の額を撫でた愛鷹はルグランジュ以下、艦隊司令部要員が待つCDCへと歩き出した。

 医療区画を出て、通路を迷う事無く歩いてCDCへと向かう。大和もこの艦にいるが、今は私用では無く仕事で来ているので大和に会いに行っている暇はない。それに今は特に会って話す事も無い。

 CDCのあるデッキへと昇るエレベーターを使って昇り、五分程してようやくCDCに辿り着く。ドアの横にある「関係者以外立ち入り禁止」の文字を見やりながら、事前に入手していたカードキーを使ってCDCの中へと入る。

「第三三特別混成機動艦隊旗艦愛鷹中佐、参りました」

 官姓名を名乗り敬礼して入室して来る愛鷹に室内の中央部にあるタッチパネルディスプレイを囲んでいたルグランジュ達が答礼して出迎える。

「ご苦労。戦艦棲姫討伐、深海地中海棲姫艦隊撃破と連戦での貴官らの活躍には感謝している。二番艦青葉の負傷にはお見舞いを申し上げる」

「恐縮です、提督」

 一礼して礼を述べながら愛鷹はルグランジュ達の元へ歩み寄る。タッチパネルディスプレイには西地中海バレアレス諸島一帯の海図が表示されており、既に撃滅した深海棲艦艦隊の位置がバツ印で書き込まれていた。昼間に深海棲艦艦載機群が飛来したと推測されている方角には赤い矢印が表示されているが、矢印の出どころは不明な為なんのマーキングも表示されていない。

「昼間の戦闘で我が艦隊は深海棲艦の主力艦隊の、それも有力な艦隊の一つを撃滅する事に成功したが、その直後に大規模な艦載機群の襲来に見舞われ一時後退を余儀なくされた訳だが。現状哨戒機の索敵網に敵艦隊の艦影は確認されていない。上手い事通信妨害を入れてこちらの捜査網から姿を消しているのか、探知範囲外に展開しているかのどちらかだろうが……」

 海図を見つめるルグランジュの言葉に愛鷹は自分なりの答えを示した。

「今日飛来した深海棲艦の艦載機の中には深海攻撃哨戒鷹が含まれていました。過去の深海棲艦艦載機データから参照するに、さほど航続距離は長くはありません。そもそも深海棲艦艦載機は艦娘艦隊の艦載機と比べて航続距離が比較的短いです。飛び魚系の艦載機は別ですが近年出現率が上昇傾向にあるタコヤキ系や鳥型艦攻の類は爆装、空戦能力の向上と引き換えに足が短い傾向があります。

 となれば哨戒機の探知圏外からの攻撃は考えにくいです。深海棲艦固有の海域異常を利用してこちらの非有視界索敵システムの目をごまかしているのかも知れません。

 ですが、電子の目は誤魔化せても人の目までは誤魔化せません」

「……つまり敵艦隊の位置を人の目で確認し、特定する事から始めると言いたい訳だな」

「はい」

 それしか策は無いだろうと言う目で自身を見つめて来る愛鷹に対し、ルグランジュは顎をさすりながら考え込む仕草を取る。

 

 いつも通りの第三三戦隊、いや今は第三三特別混成機動艦隊を使って深海棲艦の主力艦隊の位置を特定する捜索戦しか現状取れる手段は無いと言う事になる。敵に位置も分からぬまま本隊を前進させて深海棲艦の待ち伏せと総攻撃を食らって全滅してしまってはデュワルワイルダー作戦はもとよりメディトレニアン・フリーダム作戦そのものが破綻する。

 

「……青葉は大破して動かせん。貴官として出動させる艦娘は誰にする予定だ?」

 人選はどうするのかと言うルグランジュに愛鷹は参謀にディスプレイを操作する場所を開けさせてもらうと、素早いタイピングで捜索戦に動員する予定の艦娘の名とIDを表示させた。

「私と摩耶さん、鳥海さん、蒼月さん、深雪さん、瑞鳳さんの六名での出撃を具申します」

「防空重巡に防空駆逐艦、それに貴官と軽空母一人。対空迎撃を重視した艦娘編成と言う訳か」

「想定される敵が航空戦力主体となれば、艦隊の防空能力を重視した編成がベストです。また今回の捜索戦では航空偵察は控え、航空隊は戦闘機隊の比率を上げて艦娘そのものによる捜索、索敵を目的としたSAUを編成します」

「予定している捜索海域の範囲は?」

 横から尋ねて来る参謀の問いに愛鷹はタッチパネルディスプレイを操作して予定する捜索エリアを表示した。

「マリョルカ島を中心に南東五〇キロ四方を捜索します。敵の艦載機群が途中進路変更などを行っていなければ母艦群はこの海域に展開している可能性が大です」

「随分絞り込めたものだな」

「我が艦隊の進撃路を阻むなら、バレアレス諸島に展開する陸上型深海棲艦と連携して来るでしょう。推定される艦隊の規模を考慮し遠すぎず近すぎずの距離、艦載機群の飛来方位を計算に入れるとここかと」

「……バレアレス諸島に展開する陸上型深海棲艦の警戒網にわざと引っかかって敵艦隊の位置を特定する腹積もりか?」

 険しい表情で尋ねるルグランジュに愛鷹は頷く。

「危険度は高くなりますが、見つかってしまった方が今は確実性が高いです。電子の目を誤魔化せても、物理的に飛ばしてくる艦載機群の姿は誤魔化せませんからね。こちらが発見され、敵が艦載機群を送り込んで来たらその飛来コースを逆算して敵位置を算出できる。

 敵艦隊の展開位置が分かればこちらから一気に仕掛けられましょう」

「となれば、後はどうやって敵艦隊を片付けるかだが、まあそれは敵艦隊を発見してから考えるとしよう。作戦は三時間後に開始だ。愛鷹は母艦に戻り次第メンバーを招集し、捜索戦に備えろ。それともう一つ。第三三特別混成機動艦隊には可能な限り休め。貴官らを今後もこき使う局面が増えて来る筈だ。休める時に休んでおいてくれ。以上だ」

 作戦前の会議はこれで仕舞だと告げるルグランジュに愛鷹は敬礼してその場を辞した。

 

 CDCを出て艦尾ウェルドックに戻ると艤装技官の手で艤装が簡易検査を実施されていた。簡易検査と言っても「ズムウォルト」の艦内で行えるものよりもより大がかりで精密なものだ。

 一五分もあれば検査と発艦準備は完了すると返事が返り、その間一旦愛鷹自身一息入れる事にして喫煙所に向かった。誰もいない喫煙所で一人葉巻を吹かして一服入れる。シガーケースに残っていた最後の一本をじっくり味わいながら吸う。これが無くなれば後は艦内のPXで買える市販の煙草で我慢だ。ニコチンが切れるのは地味に辛い。

 そろそろ艦隊への消耗品等の補給も来るだろう。葉巻程度なら事前に申請すれば補給物資として入れておいてくれるかも知れない。

 天井への昇る葉巻の煙をぼーっと眺めていると艦内のアナウンスが度々喫煙所にまで聞こえて来る。作業開始時刻とその作業に当たる分隊への通知等々。準戦闘態勢を敷いている事もあって「マティアス・ジャクソン」の艦内の空気はせわしなさが漂う。

 じっくり葉巻を吸い尽くし、灰皿の中へ捨てた時艤装整備を行っていた五分隊の艦娘技官が艦内アナウンスで愛鷹を呼び出した。

≪航空巡戦愛鷹、艤装発艦準備完了。直ちにウェルドックに来てください≫

 

 

 ウェルドックへと戻った愛鷹を、心なしかキレイに磨き上げられている様にも見える艤装が作業員と艤装技官らと共に出迎えてくれた。

 艤装の検査、それに整備、メンテナンスチェックの各項目を表示させたタブレット端末を片手に艤装技官が検査内容だけでなく整備まで行った愛鷹の艤装の整備内容を伝達する。

「摩耗していた主砲、高角砲、対空機関砲の砲身は全て新品に換装しておきました。また防護機能のコンバーターのコイルも新品の物に変えたので耐久性能は僅かですが改善されている筈です。あと中佐の刀もX線検査で耐久性をチェックしておきました。刀の強度は現状問題なしです。機関部周りも確認しましたが、異常は認められず全力発揮はいつでも可能です」

「色々とありがとうございました」

 礼を述べながら作業員が差し出して来た刀を腰に差し直し、発艦デッキへと昇る。ウェルドックハッチが開放されていきデッキ内へ海水が注水される。「マティアス・ジャクソン」の艦娘発着艦ウェルドックにはカタパルトは備わっていないので艦娘の自力発進になる。

 クレーンアームがゆっくりと艤装装着ベルトを締めた愛鷹の背中へ艤装を運んで来る。作業員がクレーンを誘導し、ウェルドック内に笛と掛け声が響き渡る。重々しい金属の接続音と軽い衝撃が背中に走り、神経接続の痺れが一瞬愛鷹の全身に走る。

「接続完了!」

「作業員退避」

 作業員の掛け声が左右後ろで飛び交う中、愛鷹はゆっくりとした足取りでスロープを下り、海水が満たされたウェルドック内へと降りる。

 踝辺りまでじゃぶじゃぶと海水の中を歩いて行くと、主機を機関部と接続し浮力発生装置を起動させる。海水に洗われていた愛鷹の主機がふわりと海上に浮かび上がり、海上に二本足で立ちあがる。

 特に戦闘出撃と言う訳でもなく、単に「ズムウォルト」へ帰るだけなので発艦士官のGOサインを確認した後、愛鷹は微速前進をかけゆっくりとウェルドック内から出ると、母艦の元へ進路を取った。

 

 

 自室で自身の新型艤装に関するマニュアルを読んでいた比叡の耳にターボファンエンジンのエンジ音が聞こえて来た。網戸にしている窓の外に目をやると、地上軍の兵士を輸送するMV-38の三機編隊が都心の方へ飛んで行くのが見えた。

 日本方面軍で深海棲艦の侵攻に備えて地上軍の都心及び首都圏沿岸部への展開配置が決まって以降、統合基地近辺を含め海兵隊地上軍の輸送機や装甲戦闘車量を載せたトレーラーの往来が多くなっていた。

 同時に深海棲艦の艦隊の出現率も日増しに高くなっていた。空母棲姫級が再建中の父島基地近海やその他硫黄島基地近海に現れたと言う情報もあり、潜水新棲姫等の潜水艦隊の活動も盛んだ。

 これにより日本へ通じる海上交通路の安全性も保証出来なくなりつつあり、日本艦隊は戦艦や正規空母も動員して日本への海上交通路防衛に当たっている。現状在日北米艦隊や極東欧州艦隊の全てが欧州へ出払っている以上、日本本土を護る艦娘艦隊は事実上日本艦隊しかいない。一応小規模ながらロシア太平洋艦隊の艦娘艦隊があるが、それはそれでロシアの極東部の沿岸部防衛に必要だ。

 不穏な気配が漂う日本近海の情勢だが、一方で台湾艦隊ではアメリカからフレッチャー級、アレン・M・サムナー級、ギアリング級駆逐艦艦娘の艤装を提供し、それを台湾国内で確認された艦娘適正者と接続して台湾独自の艦娘艦隊結成が成功するなど、久方ぶりの艦娘艦隊戦力の増強が成功していた。同様の例は中国でも行われており、ロシアから提供された駆逐艦娘の艤装を適正者と接続して艦娘艦隊の増強を図っている。

 また韓国でもアメリカから台湾と同じようにフレッチャー級駆逐艦娘の艤装が提供され、国内で適正者による試験運用が開始されている他、北朝鮮でも韓国に先駆けてロシアから提供されたプロイェクト53型掃海艇艦娘の艤装を用いてフーガス級コルベット艦娘の実戦配備を行っている。

 徐々に極東での日本以外の国での艦娘艦隊の増強が進められているが、外洋艦隊としての規模では無く、あくまでも沿岸海域を活動範囲とする程度の艦隊な為、日本艦隊との共同運用は今のところは望めない。将来的には日本艦隊と共に対深海棲艦戦略の一環として運用が成されるかも知れないが、今のところは中台韓朝共に運用が始まったばかりの赤子レベルだ。予測される次の日本への深海棲艦襲来までの完全な実戦配備化は間に合いそうにないだろう。

 一隻、一人でも多くの強力な艦娘を欲する日本艦隊として比叡と榛名を此度金剛と同じ改二丙へと改装する事が決まった。榛名に関しては更に防空戦艦としての能力を強化した改二乙の艤装も開発されコンバート改装で運用可能になる予定だ。

 改装と言えばと比叡はふと小耳に挟んだ程度の新型戦艦艤装の噂を思い出した。大和型改二を凌ぐ超戦艦艤装の噂だ。自身の改二丙化改装の話が持ち上がった際にざっくりとした概要だけ目にした。

 聞くところでは主砲の口径は五五口径五六センチ三連装四基と言う大和型改二を遥かに凌ぐ大火力、そして最大速力三四・六ノットと言う高速性と言う驚く程のハイスペックだ。副砲以下の兵装への言及は確認出来なかったが恐らくは相応に強力な対空火器や副砲を備えることになるだろう。

 問題は誰がその艤装を纏う事になるのか、だが。

 少なくとも自分では無いだろうとマニュアルのページをめくりながら比叡は思う。新規に戦艦艦娘を迎え入れられたと言う話は聞かない。なら誰がその超戦艦艤装を纏うのか。考えうる事としては大和型の二人だが、超大和型艤装でも現状ス級以外の深海棲艦相手にする際は概ねのその火力が解決してくれている。先日のフェロー諸島での戦いでも大和の大火力で深海棲艦の新型戦艦を撃沈している。

 では大和型でなければ誰か? 運用する側の艦娘も用意せずに艤装の開発が進む訳がない。そもそも使用する側の艦娘がいなければ開発予算が降りないからだ。そう考えればやはり誰かが運用する事を想定して超戦艦艤装の開発は進められているのだろう。

 考えても始まらない、と頭の中で割り切り直し比叡はマニュアルを読むのに集中する事にした。

 

 大画面ディスプレイにバレアレス諸島の東部の海図が表示された。

 ディスプレイを前に鳥海、摩耶、蒼月、深雪、瑞鳳、それとレイノルズを前にブリーフィングを始めた。

「今回第三三特別混成機動艦隊が実施するのは威力偵察です。敢えて深海棲艦に見つかる航路を選択し、敵艦載機による空襲を意図的に誘発。こちらはその艦載機群の飛来方向をトレースし、母艦の位置を特定します。

 よって今回の作戦では敵艦隊からの激しい航空攻撃に晒される可能性が極めて大きいです。その為艦隊の陣形は輪形陣で固定です。瑞鳳さんの艦載機は戦闘機の比率をいつもより増やし、偵察機部隊の数を減らして下さい。摩耶さんの主砲の弾薬は全て三式弾で統一です。蒼月さんの主砲も対空弾のみ装填。深雪さんと鳥海さん、それと私は対空弾と水上戦闘用の徹甲弾を半々に装填です。

 今回はとにかく敵艦隊の空母機動部隊からの空襲祭りになる事を覚悟して下さい」

「空襲祭りか。だからこその今回あたしと蒼月の出番って訳だな」

「そういう事です」

 防空重巡の本領発揮となる事もあってか力む摩耶に愛鷹は頷く。摩耶の対空戦闘能力は日本艦隊でもトップクラスだ。蒼月といい勝負になる腕前の持ち主であり、北米艦隊のアトランタとは長年のライバルだと言う。

「水上戦闘用の徹甲弾も持っていくと言う事は、やはり水上戦闘も予期してと言う事ですね?」

 そう尋ねて来る鳥海に愛鷹はその通りだとまた頷きながら海図の一部を拡大する。

「無人機偵察の際にバレアレス諸島北部に大型駆逐艦ナ級からなる一個駆逐戦隊が確認されています。ナ級の事に関しては今更言うまでもありませんが、駆逐艦と侮ることなかれの大型駆逐艦です。その他重巡リ級やノーマルのネ級等で構成される哨戒艦隊が展開している可能性もある。水上戦闘は極力避けますが、敵が水上艦隊を差し向けて来て、こちらが何らかの理由で振り切れないと言う事態が発生する事も想定して最低限の水上戦闘装備は用意しておくべきです」

「偵察機の比率を減らし、戦闘機の比率を増やすと言う事は、これまでのセオリーだった航空偵察による敵艦隊の捜索を諦めると?」

 タブレット端末に表示される自身の艦載機戦力の内訳の数字を見た瑞鳳の問いに愛鷹は制帽の鍔に手をやりながら答える。

「今回の相手は大規模な空母機動部隊である可能性大です。偵察機を飛ばしても撃墜されて未帰還機となっては消耗戦にしかなりません。

 艦隊による直に目で確認する事を重視の捜索の方が危険度は高けれど、確実性は上がります」

「なるほど」

「目視による深海棲艦艦隊捜索も視野に入れるなら、見張り員妖精の数も増備した方がいいかも知れませんね。丁度青葉さんの見張り員妖精が今手空きの状態ですから、そこからお借りするのはどうでしょう?」

 蒼月の提案に鳥海がいい考えだと頷いた。青葉の艤装は現在修理中でその間彼女の艤装の見張り員妖精を始めとする無傷だった妖精は暇な状態だ。六人に分乗させる形で青葉の装備妖精を載せて警戒監視と索敵能力を強化する案に愛鷹も賛成し、更に自身の案も口にする。

「それに加えて青葉さんの熟練艦載機整備員妖精を瑞鳳さんと私に一部移乗させて航空機の運用能力を上げましょう。増員すれば航空機の発着艦のハンドリングや時間の短縮につながりますからね」

「賛成です。航空機運用系の妖精は多い程仕事は早いですから」

 航空機運用に関しては愛鷹以上に熟知している瑞鳳も賛成した。

 青葉の装備妖精の中から見張り員妖精を移乗させ、索敵と捜索能力を上げると言う案を実行する前に愛鷹が全員に分乗する妖精の必要数を調整し、算出した必要数をウェルドックの艤装整備場に伝達する。

 

 損傷した青葉の艤装から下艦して待機状態だった装備妖精達が指示通り、次の出撃に備える第三三特別混成機動艦隊の六人の艤装へと乗り込んで行った。増員で少々居住区が狭くはなったが、長期戦運用では無いからさほど問題にはならないだろう。

 ブリーフィングを終わらせた六人が艤装整備場に行き、装備を整える。瑞鳳は艦載機の航空妖精の内、偵察機航空妖精を減らしてその分予備の戦闘機航空妖精を多く積み込んだ。偵察機を四機分減らし、戦闘機を四機増備し、編成も最小編成を四機一個小隊編成から八機一個中隊編成し直す。五個中隊四〇機の烈風改二が瑞鳳の航空艤装に搭載され、矢筒の中へと収められる。

 愛鷹の航空艤装では特に変化は無い。格納庫へとエレベーターで降ろされる烈風改二を見て、ふと搭載機数を増やす為に一回り小柄な紫電改四に戦闘機隊を変更するのもありかも知れないと思いつく。現在の烈風改二では格納庫内ぎりぎりでハンドリングの要領は良いとは言えない。だが比較的小柄な紫電改四なら搭載機数が増やせるかもしれないし、増えなかったとしても烈風改二とほぼ同性能でやや小柄な紫電改四なら格納庫内や飛行甲板での取り回しが良くなって発着艦効率が上がるかも知れない。日本に帰ったら搭載機の変更も検討してみよう。

 

 第三三特別混成機動艦隊の六人を支援するEV-38が「ズムウォルト」から発艦し、続けて愛鷹達も発艦する。

 カタパルトで順次発艦していった愛鷹達は「ズムウォルト」の後方で愛鷹、鳥海、摩耶、蒼月、深雪、瑞鳳と捜索作戦海域まで先ずは単縦陣を組んで前進する。

 三〇分程してEV-38、コールサインは引き続きヘビー212から作戦エリア突入の告知が来ると愛鷹を中心に前衛を鳥海、後衛を深雪、左翼に蒼月、右翼に摩耶、中央部に愛鷹、瑞鳳と言う輪形陣に組み替える。更に上空警戒のBARCAPとして瑞鳳からストライダー隊の烈風改二、八機が発艦する。

「全艦及び全部署に発令。対空警戒厳に」

「了解」

 全員に対空警戒を強めるよう指示を下す一方で愛鷹は自身の電探を最大出力で回して、周辺海域の捜索に当たる。彼女の艤装上で42号対空電探改二と32号対水上電探改が最大出力で水上、対空の捜索を行い、更にESM(電波逆探知機)であるE27も起動する。摩耶と鳥海でも22号対水上電探改四(後期調整型)と21号対空電探改二が電子の目で長距離の索敵を行う。

 更に愛鷹からは早期警戒を目的とした天山一二型甲改が発艦する。機上のレーダーである空六号電探改二でEV-38のセンサーでも捉えられない小型目標に対応する為だ。

 コールサイン・ウォッチャー1で呼ばれる天山が艦隊上空を旋回する形で警戒監視に入ると、愛鷹のCIC妖精がレーダーディスプレイを見てそれを確認する。

「ウォッチャー1、所定位置に展開。警戒監視に入ります」

「了解」

 視線を空の向こう側へと向けると天山の機影が小さく見えた。洋上迷彩の水色に塗られた機体色の為はっきりとは見えないが識別用の日の丸のラウンデルで辛うじて見えた。

 六人はまずフォルマンテーラ島の沖合を通過し、マリョルカ島の方へと前進する。天候は上空は晴れてはいるが海上には薄らと靄がかかっており、視界は良くない。

「目ん玉での捜索戦するにはひでえ視界だな」

 靄越しに双眼鏡で警戒と監視を行う摩耶が愚痴る様に呟く。

 まだこの海域なら深海棲艦に探知される場所では無いだろうし、仮に潜水艦が潜んでいたとしても潜望鏡で確認する事は向こうも困難だ。聴音だけを頼りに魚雷を撃ってもそう簡単に当たりはしない。最も聴音頼りの雷撃をされたら愛鷹達も目視での早期発見が困難だから気が付いた時には手遅れもあり得る。

 最も聴音能力の高いソナーを積んでいる愛鷹がヘッドセットをソナーモードに切り替えて聴音探知を試みるが、潜水艦がいる気配はない。海中の音の伝播力は海中内の温度によって変わるとは言え空気を介するよりも速い。遠くで少しでも音を立てれば聞こえて来るものだが、その様子も無い。着底してやり過ごしている可能性も考えたが、このあたりの海域の深度は深海棲艦の潜水艦が着底できるほど浅くはない。

 青葉がいれば瑞雲を飛ばして対潜哨戒も出来ただろうが。

 暫くはレーダーによる警戒が頼りだな、と思っていた矢先に愛鷹の視界が徐々に晴れ始めた。思ったほど視界不良のエリアは広くなかったようだ。

 愛鷹を含めた艦娘の肩や艤装の上で、青葉の艤装から移乗して増備されてきた見張り員妖精が双眼鏡を手に警戒監視に当たる。輪形陣の外周を固める鳥海、摩耶、蒼月、深雪と輪形陣内部の瑞鳳、そして隊で最も背の高い愛鷹の上で人間よりも優れた視力を持つ妖精が水平線上を見渡す。

 いつもなら航空偵察による情報が定期的に入って来るが、今回は偵察機を飛ばしていない為通信も静かだ。

「艦隊基準進路〇-五-〇を維持」

「ようそろー」

 マリョルカ島に近づけば敵が動く、と言う愛鷹の予想に基づき艦隊はマリョルカ島近海へと前進を続ける。

作戦エリアに進入して一時間が過ぎた頃、愛鷹のCIC妖精が逆探のスコープに現れた反応を見て報告を上げる。

「逆探に感あり。感度大きくなる、地上警戒電探棲姫のレーダー波の可能性大。方位〇-三-二」

「捕捉されたな」

「まだ捕捉は出来てもこちらの数、艦種までは特定できないから。正確な艦娘艦隊の情報を掴んでからアクションを起こす筈よ」

 そろそろ出番が来るかと拳を鳴らす摩耶に落ち着けと鳥海が返す。

 

 地上警戒電探棲姫はレーダーサイトとしての機能しか持たないから、兵装は一切ない。その代わり艦娘艦隊や国連軍の航空機をその電波の目で悉く見つけ出す「番犬の目」として機能している。方位からして地上警戒電探棲姫はマリョルカ島に展開している筈だ。レーダーの電波の性質上水平線の丸みの影響もあって水上目標を確認出来るのは良くて三〇キロ程度だ。愛鷹達はその限界ぎりぎりのマリョルカ島沖二八キロを航行しているから、地上警戒電探棲姫の捕捉可能圏内と言う事になる。

 地上警戒電探棲姫のレーダーに捕捉されたとは言っても、地上警戒電探棲姫のスコープには大型艦二、中型艦二、小型艦二の艦娘の艦影が映っているだけだろうからより、正確な情報把握の為に深海棲艦の空母機動部隊が偵察機を飛ばしてくるだろう。第三三特別混成機動艦隊の六人の位置と艦種を偵察機を用いて特定次第、何らかのアクションを起こす筈だ。

 航空巡洋戦艦一隻、軽空母一隻、重巡二隻、随伴に駆逐艦二隻。場合によっては愛鷹と瑞鳳だけでも軽度の航空攻撃が可能な航空戦力を有していると見えなくはない。艦載機のほぼ全てを戦闘機に統一しているとは深海棲艦も知らないだろうから、航空攻撃に打って出る艦隊とみなして攻撃隊を送り込む可能性が大きい。

 

「偵察機が来たら敵の攻撃が来る合図です」

 そう告げる愛鷹の言葉通り、一〇分後には深海棲艦の偵察機が飛来した。深海棲艦偵察機を捕捉したヘビー212およびウォッチャー1から敵偵察機接近の報告が入る。

≪敵機接近。方位〇-四-八、高度三〇〇。機種は深海棲艦偵察機。機数は一機≫

「愛鷹、どうする? 落としちまうか?」

 主砲と高角砲を偵察機に向けながら摩耶が一応確認を取ると、愛鷹は即答に近い速さでそれを制した。

「泳がせておいていいです。こちらの位置を敢えて教えて敵の攻撃を誘発するのが目的ですから」

「とは言え、上をふわふわと漂われるのは何だか癪ですね」

 深海棲艦偵察機の機影を睨み上げながら瑞鳳が忌々し気に顔をしかめた。

「どの道こちらがBARCAPを上げたらすぐに逃げ出しますよ。本艦及び瑞鳳へ通達、直掩機を増備。敵の空襲に備え。全艦対空戦闘用意」

 旗艦愛鷹の号令が下るや、彼女の航空艤装からカタパルトで烈風改二が次々に射出され、空へと舞い上がっていく。瑞鳳からも烈風改二を収めた矢が放たれ、既に上がっている八機の直掩機に加えて更に二八機の烈風改二が戦列に加わる。対空戦闘用意の号令が下り、鳥海、摩耶、蒼月の高角砲が空を睨む。

 三六機の烈風改二の姿を確認した深海棲艦偵察機は脱兎のごとく逃げ出し姿を消すが、それと入れ替わる形で愛鷹の予想通り深海棲艦艦載機群の襲来をヘビー212が捉えた。

≪ヘビー212より第三三特別混成機動艦隊。深海棲艦艦載機群戦爆連合接近。方位〇-六-七、高度二五〇、機数一二〇、速度三〇〇ノット≫

「旗艦愛鷹よりBARCAPに上がった全機へ。兵器使用自由、ターゲットをマージ次第攻撃開始」

≪ウィルコ≫

 各戦闘機隊のリード機から復命の返事が返される。一方愛鷹は深海棲艦艦載機群が飛来する方位から母艦となる深海棲艦の空母機動部隊の位置をトレースする作業に移る。

「敵艦載機をトレース、発進地点を算出」

「了解、解析します」

「ウォッチャー1、戦域より離脱します」

 CIC妖精が解析に取り掛かる間、愛鷹は主砲を艦載機群が飛来する方向へと向ける。三式弾改二が砲身内へ装填され、鎌首を持ち上げるように愛鷹の四一センチ主砲五門が仰角を取る。艦隊の上空では早期警戒の目となっていたウォッチャー1が空戦に巻き込まれて撃墜されるのを逃れるために一時的に艦隊上空から離脱する。

 

 

 前方に一〇〇機を超える深海棲艦の艦載機群を認めた瑞鳳搭載機のストライダー隊の一番機、ストライダー1が目視確認を宣告した。

「ターゲット・マージ。目標、ビジュアルコンタクト。ストライダー隊、エンゲージ」

「サイクロプス隊、エンゲージ」

「ハーン隊、エンゲージ」

「ヒットマン隊、エンゲージ」

「ドレイク隊、エンゲージ」

 増槽を切り捨てた烈風改二三六機が増速をかけ、エンジンの荒々しい咆哮を立てながら三倍近い敵機群へと挑みかかる。ヘッドオンから交戦に入る両者の戦闘機隊が銃火を交わすのは同時だった。二種類の曳光弾が飛び交い、左右にロールした烈風改二が夜猫深海艦戦とすれ違い、そのまま後方の深海攻撃哨戒鷹や夜深海艦爆、夜復讐深海艦攻の編隊へと突入する。

 再攻撃せず攻撃機のみに目標を絞って攻撃を仕掛ける烈風改二の意図を察した夜猫深海艦戦が即座に反転し、烈風改二の背後を取りにかかる。

「チェックシックス! ケツに付かれたぞ、振り払え!」

「急上昇、急上昇!」

 フルスロットルの轟々としたエンジン音を立てながら縦にループして夜猫深海艦戦の銃撃を寸前のところで躱した烈風改二の編隊に別の烈風改二の編隊がカバーに入る。

「食らえ!」

 二機の烈風改二の二〇ミリ機関砲の銃撃が夜猫深海艦戦に赤い死のシャワーとなって降り注ぎ、銃弾を浴びた黒い機体の深海棲艦戦闘機がバラバラに砕け散る。

「スプラッシュワン」

「新手だ、スターボード」

「ラジャー、スターボード」

 ヴェイパーを引きながら急旋回する烈風改二の目の前に編隊を維持して飛ぶ深海棲艦の攻撃機が入り込む。照準器を覗き込み射撃トリガーを引く航空妖精の狙い通り、二〇ミリ弾が深海攻撃哨戒鷹を射抜き、翼をへし折られた艦攻がくるくると回転しながら眼下の海上へと転げ落ちて行く。

 護衛する筈の攻撃機を落とされた夜猫深海艦戦が烈風改二の横っ面から攻撃を仕掛けるが、銃弾は直前に機首を下げて降下に転じた烈風改二の頭上を飛び抜けるに留まる。

 護衛機の数と烈風改二の数はほぼ同じ数だったこともあり、夜猫深海艦戦は迎撃に打って出て来る烈風改二の攻撃から攻撃機隊を守り切る事が出来ていなかった。それでも攻撃機隊を護らんと奮戦する夜猫深海艦戦はやはり侮りがたく烈風改二三機が被弾する。

「ひき肉にされちまう!」

「離脱しろ!」

 被弾した三機の内一機は黒煙を引きながらも空域を離脱するが、二機は翼や胴体を砕かれ、木の葉のようにくるくると回転しながら眼下の世界へと落ちて行く。

 三機を戦列から失うも、残る烈風改二は深海棲艦艦載機群の攻撃機隊を攻撃し続け、夜猫深海艦戦はそれを阻もうと必死に割り込もうとするが、重厚な機体ながら軽い機動性で夜猫深海艦戦の攻撃を躱した烈風改二が反撃せずに一機、また一機と攻撃機を片っ端から食って行く。

 空一杯に乾いた銃撃音が響き渡り、飛び交う銃弾の空気を切り裂く高めの音がひゅんひゅんと鳴る。烈風改二の銃撃の銃弾の赤い鞭の様な火箭に絡め取られた深海攻撃哨戒鷹が爆散し、夜復讐深海艦攻が制御不能に陥って僚機と激突してバラバラになって果てる。

 三機の攻撃機と一機の護衛の夜猫深海艦戦を撃墜したストライダー1の航空妖精は計器を見て二〇ミリ機関砲の残弾が底を尽きそうになっている事に気が付く。燃料ももうこれ以上空戦機動を行えば燃料切れで着艦不能になる。

 中隊の各機に燃料と機関砲の残りの状況を尋ねると、皆同じだった。経戦能力はもう無い。

「ストライダー1よりヘビー212、中隊全機の燃料と残弾が少ない、離脱許可を求む」

 戦闘機や攻撃機相手に奮戦していたストライダー隊が燃料と弾切れをコールする。他の戦闘機隊と違って滞空時間が長かったこともあってストライダー隊の残燃料はかなり減っていた。もう空戦機動を行えるほどの量は無い。

≪ヘビー212よりストライダー、戦域離脱を許可する。方位二-九-〇に旋回し、艦隊が艦載機収容可能になるまで待機せよ、212アウト≫

「了解」

 ストライダー隊が戦域を離脱する中、残る二五機は以前戦い続けたが、やがてストライダー隊と同様に弾切れになる機体が相次いで出て来た。

 弾切れになる機体が相次ぐ分、深海棲艦艦載機群は大きな被害を受けていた。深海攻撃哨戒鷹を始めとする攻撃隊の凡そ半数を失い、護衛や盾になった戦闘機隊も三分の一が撃墜されていた。

 烈風改二が全機戦域を離脱した後、深海棲艦艦載機群は損傷の大きい機体を引き返させ、残る機体で編隊を組み直して前進を再開したが程なくその編隊の目の前で花火の様な閃光と鉄の雨が炸裂し、艦載機群の鼻っ面を殴りつけた。容赦なく艦載機群の機体を切り刻み、ボロボロに砕く散弾の雨で戦闘機隊、攻撃機隊問わず複数の機体が赤い火球となって爆散する。

 

「トラックナンバー2234から2247まで撃墜確認」

「主砲再装填急げ」

 三式弾改二を放った主砲が砲口から白いガスを吐き出しながら砲身を水平に戻し、三式弾改二の再装填作業に入る。

 残り約六〇機未満と言う所か。HUDに表示される敵機群を見つめる愛鷹の右側で四一センチ主砲に三式弾改二が再装填されると、装薬がその後ろから挿入され、尾栓が閉鎖される。

 再装填完了のブザーが鳴り響き、今度は一〇機落とせればいい方かな、と内心呟きながら愛鷹は第二斉射を放った。

 右舷側に発砲炎が迸り、雷の様な砲声が耳を聾する。撃ち出された三式弾改二が空中を飛翔していき、眼前眼下での発砲炎を確認し三回を開始した艦載機群の鼻先で近接信管を作動させて再び鉄の雨を打ち付ける。

 分かってはいたが黒煙吹いて墜落していく機体は五機程度にとどまった。やはり第二射を撃つ頃になると艦載機群側からも発砲炎が見えて散開する暇が生まれてしまう。気休め程度の第二射はもう弾の無駄にしかならないから止めようか、と愛鷹が考えている内に艦載機群の残りが編隊を組み直して第三三特別混成機動艦隊に押し寄せた。

「対空戦闘、目標接近中の敵機。CIC指示の目標、主砲、高角砲、撃ちー方始め!」

 摩耶の攻撃開始の号令が下るや、彼女と蒼月の主砲、高角砲が砲撃を開始した。対空レーダーによって正確に照準を管制された二人の砲が深海棲艦艦載機群に対して三式弾改二等の対空弾を撃ち上げる。空に対空弾が近接信管を作動させて炸裂した際の墨汁の墨を垂らしたような黒い爆煙がぱっぱと咲き乱れ、砲弾の至近弾を浴びた深海棲艦艦載機群がぐらぐらと機体の姿勢を揺らす。

 散弾の雨を浴びた深海攻撃哨戒鷹の一機が姿勢を立て直せず、そのまま眼下の海上へと黒煙を引きながら落ちて行き、夜深海艦爆が至近距離で炸裂した三式弾改二の散弾を全身に浴びてずたずたに切り裂かれて深海攻撃哨戒鷹の後を追う。夜復讐深海艦攻が蒼月の対空弾の直撃を受けて爆散し、破片が黒い糸の様な黒煙を引きながら落下していく。

 対空砲火を放つ摩耶、蒼月に続き愛鷹の一〇センチ連装高角砲改が砲撃を開始する。愛鷹の高角砲が使用する砲弾は蒼月のものと同じだが、備えている対空レーダーと照準システムは愛鷹の方が大掛かりでかつ精度が高い。空に咲き乱れる愛鷹からの対空弾が一機、また一機と敵機を撃墜していく。

「新たな目標、数四機、一一〇度、仰角六〇」

 CIC妖精がレーダーに表示される敵機を見て愛鷹に報告する。方位一₋一₋〇に顔を向けると、夜猫深海艦戦四機が機銃掃射を目論んで愛鷹へと編隊を組んで接近して来るのが見えた。

「噴進砲で対処する。艦対空噴進砲、攻撃始め」

「噴進砲、発射始め」

 艤装上の一二センチ三〇連装噴進砲が四機の戦闘機に砲門を向けると、三〇発の対空ロケット弾を連続発射して弾幕を形成する。当てに行くと言うよりは心理的な効果狙いが目的とは言え、大量のロケット弾が包み込む様に襲い掛かってくれば一発二発は当たりもする。

 大量のロケット弾のシャワーの様な弾幕を掻い潜って離脱に成功した夜猫深海艦戦は二機に留まり、残る二機はロケット弾の直撃を受けて爆散した。機関砲の銃弾や高角砲の散弾に切り刻まれるよりも酷い直撃だ、残骸が原形を留められる筈も無かった。

 三人の対空砲火で深海棲艦の艦載機群は三分の一を失ったが、それでも残る艦爆、艦攻はそれぞれの兵装を投下する攻撃ポジションに取りつき、六人に対して全方位からの飽和攻撃を試みた。全方位からの飽和攻撃を行うには機数が少なく投射火力が中途半端であり逆に戦力の分散になっていたが、少数でも対応する敵が四方八方から攻めて来るのは第三三特別混成機動艦隊側にとって対応を難しくさせていた。

 摩耶、蒼月、愛鷹に続き鳥海、深雪、それに瑞鳳の高角砲、機関砲が対空射撃を開始する。全方向からの攻撃となってはもう摩耶と蒼月と愛鷹だけでは全てを防ぎきるのは無理だ。

 鳥海の主砲から三式弾改二が撃ち出され、低空を飛行する夜復讐深海艦攻一機を捉える。目の前で炸裂した散弾の雨が夜復讐深海艦攻を真正面から捉え、むさぼられる様に散弾の雨を浴びた艦攻がバラバラに砕け散って海面に残骸を投げ込む。

「敵機左四五度、上方から三機、更に右二〇度、下方より四機。真っすぐ突っ込んで来る」

「……ッ! 同時攻撃か」

 急降下爆撃を開始した夜深海艦爆のダイブブレーキが砲声に交じって聞こえてくる中、右手からは夜復讐深海艦攻が魚雷を抱えて突入して来る。合計七機の集中攻撃を前に愛鷹は面舵に舵を切って艦攻四機と正対する。

「主砲、信管着発」

 それだけ命じると装備妖精の手では無く自ら射撃グリップを掴んで主砲の照準を艦攻四機の目の前の海面に合わせると、タイミングを上手く掴みトリガーを引く。俯角を取った主砲が三式弾改二を突入して来る艦攻の目の前に着弾させ、壁の様に水柱をそそり立たせる。夜復讐深海艦攻四機が諸にその水柱の壁に激突して姿勢を崩し、海面に接触して海上を転げまわって果てる。

 次! と今度は艦爆三機に注意を向ける。投弾態勢に入っている夜深海艦爆に僅かでもその投弾コースがずれる様に対空機関砲の射撃を浴びせる。艦爆三機は撃ち上げられてくる曳光弾に怯んだ様子も無く突入進路を維持し、爆弾槽を開くと爆弾を投下した。

 咄嗟に左腰の刀を引き抜き、自分への直撃コースを取っていた爆弾二発を一薙ぎで切り捨てる。両断された爆弾二発の残骸が重々しい着水音と共に海面に突っ込み、更に一発が愛鷹の左舷側至近距離に着弾する。至近弾の水柱と爆風が愛鷹を右舷側へと押しやるが、辛うじて彼女は姿勢を維持し続ける。

 四方八方から爆弾と魚雷を投下して来る深海棲艦艦載機群に第三三特別混成機動艦隊の六人の白い航跡があやとりの糸の様に複雑に入り乱れ、交わり、絡み合っていた。衝突していないのが不思議なくらいだが、そうならないのは事前の艦隊運動演習のお陰でもあった。また前後左右をすり抜ける魚雷の航跡に気を配り、頭上から降り注ぐ爆弾に警戒し、更には回避運動を行う味方艦娘にも気を付ける三重苦の状態だが、青葉から移乗させて来た見張り員妖精が艦娘の第二の目となっていた為、六人の負担は軽減されていた。

 夜深海艦爆が投じた一発が瑞鳳の右舷至近距離に着弾し、彼女に至近弾の水柱の海水の飛沫と爆風を浴びせたのを最後に空襲は一段落した。

「被害報告」

 短く、簡潔に全員に被害の有無を確認する愛鷹に、鳥海、摩耶、蒼月、深雪、瑞鳳から「異常なし」の返答が返される。

 よし、と満足げに頷いた愛鷹は右手に持つ刀の切っ先に視線を向ける。刃こぼれしていないかと眺める彼女の目に白く光る刀の綺麗な刃先が鈍色に輝いて映った。問題はなさそうだ。

「CIC、敵艦隊の位置を解析は?」

「凡そなら」

「どこです?」

 大体の位置を掴めたと返すCIC妖精に、より細かい返事を求める。

「恐らくは方位は参照点より〇₋四₋九。距離は五〇キロ前後と見られます」

「了解。全艦、本艦を中心に隊列を再編。戦闘機隊を一時収容、補給を行った後転進。方位〇-四₋九へ向かいます」

「了解」

 唱和した返事が五人から返される。ヘッドセットからも、右耳から直に聞こえる五人の元気な声が全く問題無しと言う事を表していた。

 

 

 戦闘機隊を収容し、再補給を行った後、今度は愛鷹で待機していたグリフィス隊をBARCAPとして発艦させ、上空で警戒に当たらせる。一時戦域を離脱して退避していたウォッチャー1も元の位置に戻って来て引き続き警戒監視に当たった。

 左手の水平線上にうっすらとマリョルカ島の島影をのぞみながら前進する六人の前方に海面が赤く染まっているのが見えた。

「変色海域か……」

 赤い海を見てその名を呟く愛鷹の眉間に一筋の冷や汗が滴り落ちる。あの赤い海の中は完全に深海棲艦のテリトリーだ。

 念を入れる様にヘッドセットの通知ボタンを押した愛鷹はマイクに向かって吹き込む。

「この先、何が起きても不思議ではありません。各艦、引き続き対空並びに対潜警戒を厳にし、突発的な敵襲に備えて下さい」

 この赤い海の向こうに、まだ見ぬ敵の艦隊が潜んでいる。そう考えるだけで緊張感が六人の中でさらに高まる。

 緊張感からか射撃グリップに置く愛鷹の右手にじわりと手汗が滲んで来た。手汗が滲む右手を一旦グリップから離して、少しその手のひらを見つめてから元の場所に置く。不安なのは分かるが旗艦である自分が弱音を吐くわけにはいかない。

 程なく六人は赤く変色した西地中海の海の中へ突入した。  




 艦娘母艦での艦娘を収容した際のあれこれを考えるのが今回のお話を描いてて一番面白かったところでもあります。

 フーガス級コルベット艦娘の着想元が分かった人は、多分同じ趣味の話で盛り上がれるかも知れません。

 ではまた次回のお話でお会いしましょう。

 
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