「二人とも酷いわ!ずっと男だと思ってたのね!まあ確かにやんちゃだったけど」
そう言ってプリプリ怒る彼女に戦兎と龍誠は苦笑いしながら話を聞く。だが先程から悪寒が止まらない。恐らくイリナとは別のもう一人の少女が椅子に立て掛けてる奴だ。理由はないけどそんな感じがする。
「でも二人とも変わらないねぇ。まぁ、随分変わった所もあるけど」
『っ!』
そう言う彼女の胸元から十字架が覗き、戦兎達は眼を見開きながら相手の顔を見た。
「あぁ安心して。別に今日は挨拶しに来ただけだから」
そう言って荷物を持つと、もう一人の方も荷物を持つ。
「あら、ご飯くらい食べていって良いのに」
「今日は挨拶に来ただけですから」
そう言ってイリナは戦兎とすれ違う時、
「あんまり悪魔と仲良くって言うのも怒られちゃうしね」
(やはり気づいてたか)
こりゃ教会の関係者になっていたかと戦兎は思っている間に二人は行ってしまい、戦兎と龍誠は顔を見合わせる。
「なんつうか……昔みたく仲良くはできなさそうだな」
「そりゃそうだろ」
龍誠の呟きに戦兎は肩を竦める。まぁ向こうは悪魔と敵対してる教会の関係者っぽいしなぁ。とは言えどうせもう会うことはないだろう。そう思っていたのだが、
「何でここにいるんだよ……」
次の日、何故かイリナともう一人の少女が部室にいるし、祐斗が初めて見るほど殺気を放っていた。
「成程。聖剣の回収ね」
リアスの言葉にイリナではない方の少女。青い髪が眼を引くショートヘアーの少女。名前はゼノヴィアと言うらしいのだが、彼女曰く教会から聖剣・エクスカリバーが6本の内、3本が奪われたらしい。
それを奪い返すのが今回の彼女達の仕事で、その為に彼女達もエクスカリバーを一本ずつ携えてやって来たらしい。
因みに何で本とかでも有名なエクスカリバーが何本もあるのかと言うと別にエクスカリバーのパチもんのエクスカリパーがあるとかではなく、全部本物。本来のエクスカリバーは昔の戦いで折れてしまい、その破片を使ってエクスカリバーを7本作ったらしい。まあその内一本は昔に紛失しているらしいのだが……
そしてエクスカリバー、7本それぞれに特性があるらしく(と言うか全部元々は折れる前のエクスカリバーの能力だったらしい)ゼノヴィアが持っているのは
さて、そんな彼女達が何故ここまでやって来たのかと言えば、
「そしてその際私達は関わるな……と」
こちらの陣地で好き勝手する上に要求も勝手ね。とリアスの言うように今回の彼女達がこちらに来た理由は戦意がこちらにはない事を伝えるだけではないどころか、こっちより自分達の要求である不干渉でいて貰うが重要だったっぽい。するとゼノヴィアは、
「聖剣がない方が良いのは君達悪魔も同じだろうからね。いや、弱点な以上彼等より鬱陶しいんじゃないかな?」
「彼等?」
「今回の聖剣強奪事件を起こしたのは堕天使組織・
遠回しに堕天使と組んでると言いたいわけ?とリアスは不機嫌さを隠そうともせずに言うと、ゼノヴィアは肩を竦める。
「本部はその可能性も考えている」
「冗談じゃないわ!グレモリーの名にかけてそんなことはしない!」
だと良いがな。とゼノヴィアは言いながら席を立つと用件は以上だと言った。
そしてイリナと退出しようとしたその時、
「まさか……【魔女】アーシア・アルジェントか?」
ビクッとアーシアはゼノヴィアの言葉に体を強張らせる。 それを見ていたイリナも、
「え!?あの噂になってた元聖女様!?追放されたのは聞いてたけど悪魔になってたのね」
「あ、あの……」
突然の事態に、アーシアは明らかに狼狽する。そんな彼女を見ながらゼノヴィアは更に口を開いた。
「堕ちるとこまで堕ちたものだな。まだ我らが神を信じてるのか?」
「待ってよゼノヴィア。彼女は悪魔になったのよ?未だに信仰してるわけ……」
そう言うイリナだが、ゼノヴィアはアーシアに詰め寄りながら言葉を続ける。
「背信行為を行う者にも信仰心が忘れられず罪悪感を感じるものがいる。それと同じ気配がするんだが?」
「捨てられないだけです。ずっと信じていたので……」
そう言って視線を逸らすアーシア。確かに彼女は今でも良く何かにつけて祈ってはダメージ受けてるのを見る。長年の癖と言うのはそう簡単に抜けるものじゃない。するとゼノヴィアは手に持っていた剣であるエクスカリバーを向ける。
「ならばここで私に斬られるが良い。今ここに断罪してやる。慈悲深き我らが神ならばお前の罪を許してくださるはずだ」
『っ!』
その場のグレモリー眷属全員が身構えた中、龍誠がアーシアとゼノヴィアの間に割って入る。
「いい加減にしろよテメェ。アーシアが大変だった時になにもしなかったクソみてぇな神の名の元に断罪だぁ?させると思ってんのかよ」
龍誠の言葉にゼノヴィアとイリナが眉を寄せた。
「私達の前で神を愚弄するか?」
「俺は物心ついた頃から世の中神も仏もねぇってのだけは身に染みてるんでね」
そう言って龍誠とゼノヴィアが睨み合う。
「成程。交戦の意思として受け取ってやる。表に出ろ」
上等だ。そう言おうとする龍誠の肩を別の誰かが掴む。誰かと思い振り替えると、そこに立っていたのは祐斗だ。
「僕がやる」
「祐斗?」
聖剣とは因縁があってね。そう言う祐斗は魔剣を作りながら ゼノヴィアに近づく。彼女も龍誠から祐斗に意識を移したその時!
「いやするなよ」
『え?』
突如祐斗の背後から戦兎が声を掛けると、そのまま何かを取り出し、
「サンダーボルトV2!」
「ぎゃあああああああああああああ!」
『えぇええええええ!?』
スタンガンをそのまま祐斗の首に押し付けてそのまま気絶させた。
「そんな眼を血走らせてやり合ったら殺し合いになるぞ……」
やれやれと言いつついる戦兎に、龍誠が顔色を青くしながら掴み掛かってきた。
「おま!なにしてんだよ!つうかこれ前に俺にやったやつか!?マジでヤベェ威力じゃねぇか!」
「いや、これは前の特製スタンガンを改造してライトフルボトルを挿すことにより持続性と威力をアップさせた改良版だ」
それもっとヤベェじゃねぇか!つうか改造したのかよ!と唸る龍誠に戦兎は溜め息を吐くと、
「良いだろ。このまま教会の人間と喧嘩おっ始めるよりマシさ」
「でもあいつらアーシアを!」
そう言う龍誠に戦兎は落ち着けと言う。
「良いか龍誠。こいつらはこれから聖剣を奪い返すらしい。きっと厳しいものになるだろう。なのにここで叩きのめして簀巻きにして放り出した所為で負けましたなんてなってみろ。こっちに責任来るに決まってるでしょうが」
「おい」
ピキッと頬をひきつらせたゼノヴィアは戦兎を睨む。
「まるでやれば勝てるが面倒だから見逃してやれとでも言いたそうだな」
「いやいや。俺アーシアの件があって個人的に教会ってそんなに信用してないからね。後で難癖付けられるようなことはするなってことさ。そっちだって態々ここで体力使いたくないだろ?まぁ、どうしてもアーシア殺るってなら……俺も相手するけどな」
シッシと戦兎は言いながら、そっとビルドドライバーに手を伸ばしておく。
「悪魔として生きることが彼女の苦痛になってもか?」
「それはお前が決めることじゃない。あとでアーシアに聞いとくよ」
戦兎はそう言って肩を竦めると、ゼノヴィアは息を吐いて剣を引いた。
「まあ良い。私達の目的は聖剣だ」
「あ、ちょっと待ってよ」
ゼノヴィアはさっさと部室を出ていくとイリナをそれを追い掛け、足音が遠くなると戦兎はプハッと息を吐いて膝に手を置く。
「大丈夫?戦兎」
「いやめっちゃビビりました」
駆け寄ってきたリアスに、戦兎は今頃になって出てきた冷や汗を拭った。
「確かにめっちゃびびってたよな」
「そりゃ根性で聖剣も耐えそうなバカと違って、こっちは切っ先で引っ掻かれただけで消滅しそうな剣を目の前にしてたら怖いんだよ」
龍誠にそんな言葉を返しながら、戦兎は言うとリアス曰く、エクスカリバークラスの聖剣だと笑えないジョークらしい。すると、
「龍誠さん、戦兎さん」
『ん?』
アーシアがこちらに来た。それを見た戦兎は、
「なあアーシア……正直斬られた方が良かったか?」
そう正直に言うとアーシアは首を横にブンブン振り、
「確かに忘れられないのが本音です。でもだからと言って、戻りたい訳じゃないんです。今のオカルト研究部の皆さんとの生活は大切ですから」
「龍誠もいるしな」
ククッと喉を鳴らすように戦兎が続けるとアーシアは顔どころか耳まで真っ赤にしてしまう。
「せ、戦兎!」
と、龍誠まで真っ赤になり、その場に笑いが漏れた。ちょっと庇ったのは良いけどこれで実は嫌だったらどうしようかと思ったが大丈夫そうだ。
「う……」
そう思っていると、祐斗が起きる。それを見た戦兎は、
「よう。ワリイないきなりスタンガンぶち当ててよ」
俺の時と随分扱いが違うじゃねぇか。と龍誠はブウブウ言うが気にせず祐斗に近づいた瞬間!
「あべしっ!」
『戦兎(君)(さん)(先輩)!?』
いきなり立ち上がった祐斗にぶん殴られたのだった。
「いつつ。木場のやつ思いっきりぶん殴りやがった」
口を切ったし頬は腫れて、戦兎は顔をしかめながらアーシアの治療を受けている。
先程突如祐斗にぶん殴られ、しかも完全に不意打ちだった為、もろ喰らってしまった上にそのまま馬乗りになられて殴られた。
その際何故邪魔をしたとか言われたが、そんなの知らないしと必死に抵抗したが、完全にマウントをとられた状態ではどうしようもなく、龍誠と小猫が慌てて引き剥がしてくれなかったらもっと酷いことになっていただろう。
その後、祐斗はリアスに何をしてるんだと怒られ、飛び出してしまった。いったい何を考えてるんだ?そう戦兎が思っているとリアスがこちらに来た。
「ごめんなさい戦兎。祐斗は聖剣の事になると少し……いえ、かなり冷静さを欠くのよ」
何故ですか?と戦兎が聞くと、リアスは口を開く。
「祐斗は昔教会の施設にいたの」
彼女が言う祐斗の過去は、余り胸糞の良い話ではなかった。
祐斗は元々教会で行われていた、人工的に聖剣使いを作ると言う計画の中で作られた人間だったらしい。
他にも祐斗のような子供がおり、それらと一緒に聖剣使いになるべく厳しい訓練を積んだりしつつ暮らしていたらしい。
だがそれは、ある日突然壊された。人工的に聖剣使いを作るのは不可能と判断され、全て処分。その全てには勿論育成されていた子供達も含まれており、祐斗は他の子供達に逃がされる形で唯一生き残ったらしい。
とは言えそれでも死にかけていたところ、偶然リアスに出会い、彼女の手によって転生した。それが祐斗の過去らしい。
「後で祐斗が
聖剣があったからあんな事件が起きた。そう思っている祐斗にとって聖剣は存在が悪であり、すぐにでも消してしまいたいものなのだろう。
「大分最近は落ち着いてたんだけどね」
「だから、あの時……」
龍誠は思い出す。この間祐斗が小さい頃の写真を見た時の顔を……そりゃ結果的に聖剣を破壊できるかもしれなかったのに戦兎に邪魔された形なのだから逆ギレもするか。
「でも、今回は戦兎が止めてくれて助かった面もあるわ。ここで教会の使いと喧嘩なんて出来ないしね……まあ、アーシアをバカにしたのは許さないけど」
コメカミをピクピクしながら言うリアスに皆は笑みを浮かべる。アーシアはこの部室における癒しなのだから、それをバカにするやつは許せないのがここでは皆で一致している考えである。
しかし……
(木場はどうしたもんかねぇ)
戦兎は漸く痛みと腫れが引いてきた頬擦りながら思うのだった。