バカとテストと召喚獣 ~僕はこの歪んだ運命に抗い続ける~ 作:天沙龍月
明久side
僕はコーヒーのカップを持ちながら、櫻田 茜さん?に付いて来ていた。お店の人に茜さん?が話して席を用意してもらった。そこに僕と茜さん?が向かい会わせで座った。そして、周りにあまりお客さんがいない事を確認すると、
「大丈夫、盗聴や尾行なんかは無いよ。いやぁ~、アキくん久しぶりだねぇ。」
「お久しぶりです、茜さん。」
茜さんが親しげに僕に話しかけてくる。僕はそれに応じる。お分かりの方もいるだろうが僕と茜さんは知り合いである。テラス席では他人の演技をしていたのだ。何故かというと一言でいうと用心の為だ。
僕は御曹司という立場であるから暗殺などの対象になりやすい。その他にも親の企業の弱味を握るために僕の動きに敏感な者もいるし、すり寄ってくる者もいる。だから、僕の親交関係などを知られるわけにはいかないので、知り合いでも他人の振りをする事が必要なのだ。
ちなみに茜さんは昔から良く面倒を見てくれていたりする、僕のもう一人の姉さんみたいな人だ。茜さんには8人の兄妹がいるらしく、そのため面倒見がすごく良い。それに勉強もでき大学を首席で卒業している。今は僕の親の企業で働いているキャリアウーマンである。
「元気だった? 彼女できた?」
「まぁ、そこそこ。彼女の方は……分かってるでしょ?」
「まぁね~♪」
僕は前も言ったように恋愛事が苦手だ。何故、苦手かというと……まぁ、仮に僕に彼女がいて、彼女とイチャイチャするとしよう。すると僕は必ず苦しみだす。強い頭痛と胸が引きちぎられそうになる痛みに襲われ、その場に倒れ込む。
なぜこんな事が起きるのかは分からない。お医者さんが言うには精神的なものらしい。過去に何か恋愛事で深いキズを負ったのでは無いかと。
「単刀直入に聞くけど、何で茜さんが木下さんと知り合いなの?」
「昔からの知り合いなの。アキくんと一緒でね。」
「じゃあ、なんで茜さんはここにいるの?」
そう、茜さんが木下さんと知り合いなのは良い。後でもその事は聞ける。だが、茜さんがここにいる理由が分からない。何故なら茜さんのいる部署は僕の親の企業でも特殊であり、あまり表舞台に出てこないはずのだ。だから、白昼堂々と茜さんが僕に接触してくるのはおかしい。
「それについては……これ。」
「これは……?」
「まぁ、中身を読んでみなよ。」
茜さんから茶封筒が渡される。表には大きく親の企業の名前が書いてある。ていうことは……。
封筒の中身を出してみると書類が入っていた、それもすべてラテン語で。そこに書いてある文章を訳してみると下のようになる。
依頼受領書 ○年○月○日
フェイス No.1より各位
今回の依頼はCEOである吉井 輝久様とその妻である吉井 玲子様より依頼されたものである。依頼の内容は以下の通りである。
1.ご子息である吉井 明久様、および明久のご学友の護衛。
2.吉井 明久様に対する敵性勢力の排除。
3.吉井 明久様の婚約者、および婚約者候補とその家族、学友の護衛。
4.吉井 明久様の記憶の回復。
上記の内容を遂行するためであれば武器の使用を許可する。および、敵性勢力の祖国への制裁は条約に明記された通りのものを遂行する。
また、この任務の指揮権はフェイス No.2に持たせ、部下にはNo.4、No.7の両名を任命する。それ以外に必要であれば他にも部下を使ってもよしとする。
最優先は吉井 明久様の護衛であり、もしもの時はこれ以外を放棄しても構わない。
最高責任者はNo.1が務めるものとし、No.2に課せられる責任はすべてNo.1が受け持つ。
またNo.2は護衛対象である吉井 明久様にはこの書類をお見せし、了承を貰うこと。
僕は書類を読み終えた後、深いため息を出した。僕の親はなんて過保護なんだろうか……。だが、ここに書いてあるような事が起こらないとも限らない事も確かである以上、護衛があるに越した事はない。だけど……、
「何故、これにこの部署を使ったんですか?」
このフェイスという部署は茜さんが所属している所なのだが、この部署はさっきも言った通りかなり特殊である。僕の親、企業のCEO直属の部署であり企業の中でも独立した権力を持っているのだ。フェイスのメンバーは全員の情報が極秘扱いでNo.~でそのメンバーを呼ぶ。No.は1に近づくほど権力があり、茜さんはNo.2なのでフェイスの中では2番目の権力を持っている。
そして、フェイス最大の特徴は敵対する勢力、または条約に違反した行為をした国にその程度により粛清を行えるという所である。これは依頼に含まれている僕の敵対する勢力も含まれており、僕を守りながらついでに邪魔な勢力を一掃しようという事だろう。何故、ウチの親の企業やフェイスがこんな権限を持っているかは今は置いておこう。
「一番の理由はアキくんの記憶を取り戻せる可能性があるのが限られた人たちとの交流であるかも、っていう憶測を私が輝久さんに進言したのとNo.1がアキくんの記憶喪失に興味があるという事かな。」
「No.1が……? それは何故?」
「私もよくは知らないけど……なんでもアキくんの記憶喪失のメカニズムについて知りたい、らしいよ。」
僕の記憶喪失のメカニズム……? それが何かに役立つという事なのかな? よく分からない……。
「う~ん……、まぁそれは置いておいてNo.1って一体何者なの?」
「うん? どうして?」
「No.1について噂ぐらいしか情報を持っていないから、どんな人なのかなと思って。」
その噂もにわかに信じられないけど……。なんでも紛争を1週間経たずに止めたとか、ある有名なマフィアを1日で壊滅させたとかいう噂だ。そんな人がどんな人なのか知りたいというのは自然に思えるだろう。だけど、茜さんは口に手を当てたまま喋り出した。
「まぁ、すごい人だよ。あの人は……。その前に……」
茜さんが後ろの方に目配せする。……そういう事か。僕は次の場面に備えておく。
「これからの話は流石によそ者には聞かせれないかな~。ね、イギリスの番犬さん?」
「……」
茜さんはちょうど僕たちから少し離れた所にいたどこかの会社員みたいな格好の男の人に話しかけた。男は茜さんを無視してコーヒーを飲んでいる。その光景を見て茜さんは微笑みながら男の方に向かった。
「貴方がイギリスのスパイって事は貴方が入国した時から分かってたの。ただ危害を加えなければ見逃してあげる。ただ、ここであった事は全部秘密にして貰うけどね。」
「……。」
茜さんが男のテーブルになにかの書類を置く。男は一見書類を見てないように見せていたがドンドン顔が青白くなっていき、茜さんの忠告を聞きいれたのか静かに店を出ていった。茜さんがこちらに戻ってくる。
「あれで終わりですか?」
「まさか。ああいう人たちはすぐに本部に連絡をいれようとするからね~。手は打ってあるよ。」
そう言って茜さんはスマホでどこかに連絡する。そして、椅子に座ってコーヒーを飲んだ。他のフェイスのメンバーに頼んだって事か。茜さんの事だし前もって仲間を隠れさせておいたのかもしれない。
「それじゃあ、さっきの続きね。あの人は一言でいうと超人だよ。頭は回るし多くの知識も持ってる、そして戦闘も超一流。身内の私たちにすら隙を見せないんだよねぇ~。」
茜さんが少しだけ寂しそうに笑った。
「……そんな人が本当にいるとすれば、世界のどこからも引っ張りダコになってるはずだよね? だけど、そんな話聞かないよ?」
「まぁ、引っ張りダコになってる事はなってるんだけどね……。あの人の存在自体がアキくん以上の秘匿扱いになってるからね。」
茜さんは含みのある言い方をした。何だ? 少し引っ掛かる……けど、そんな人が本当にいるなら会ってみたい気もする。
「そういえばさっきの話……僕の記憶を取り戻せる可能性が限られた人との交流ってどういう事なの?」
「あぁ~、その話ね。たぶんアキくんの記憶喪失は精神的なものだと私は思っているの、だから記憶喪失以前の環境に無理矢理にでもしてあげれば何か成果は出るかもしれないってこと。」
「だったらその理由は? 僕は理由がないのに今の生活に一定以上のリスクがかかる事はしたくないんだけど。」
そう、僕はこれが今の生活にリスクが付くものならやりたくはないと思っている。雄二たちを演技で騙す事をしてまで得ている生活だ。そう簡単にリスクをつけたくはない。
たかが自分の記憶……とまでは思ってないけどその過去のために現在まで壊したくはない、というのが僕の考えだ。そのリスクに見合う程の理由がなければ動くつもりはない。
「う~ん、納得させられるかは分からないけど、私はアキくんがどうして記憶喪失になったか分からない。けど、推測はできる。たぶん、アキくんは強いストレスを抱え込んでいた。そして、それが爆発してそれ以前の記憶を自分で封印している。それの影響で恋愛事が嫌になってる。それを解決しないと学園での生活にもいつか綻びが出てくる。そうは思わない?」
「……」
茜さんは微笑みながら、そう言った。僕にとっても学園での生活に綻びが出るというのは不味い。その理由は置いておくが他の生徒との差が広がるのは不味い事に変わりないし、もし色仕掛けをされれば僕は苦しみだし、最悪そのまま誘拐、なんて事もあり得る。だとすれば答えは決まっている。
「分かったよ……、僕の負け。いいよ、その方法を試してみよう。で、その交流する相手は?」
「うふふ♪ 分かってくれて嬉しいよ。相手は優子ちゃんは当然入ってくるけど、後はあたしとか玲ちゃんとかかな。」
「やはり昔、僕と木下さんは知り合いだったの?」
「うん。とっても仲良しだったよ。」
「そっか。」
茜さんはコーヒーを一口飲んで答えた。木下さんの態度からそうかもとは思っていたけど、やはりそうなのか。ただ木下さんとの距離はおそらく昔とは変化してしまうだろう。僕にも立場があるし学園では堂々と会えはしないだろうし、しょうがない。
さて、僕はコーヒーを一口飲む。
「アキくんから後質問はある? ないんだったら私はもう行くけど。」
「うん、大丈夫。質問は後でもできるでしょ?」
「そうだね。じゃあ、私は行くね。あと、ここの支払いは私がやっておくから。」
茜さんは椅子から立ち上がり、テーブルに代金を置いた。
「あ、最後にこれ。OSをアップデートして機能も統合、拡張したから扱い易いはずだよ。」
「ありがとうございます。」
「それじゃ、また連絡するから。」
「はい、では。」
茜さんがポケットから黒い携帯端末を出して、テーブルに置く。僕はそれを取り、自分のスマホを渡す。茜さんが僕のスマホをポケットに入れ、そのまま店を出ていった。さて、僕もコーヒーを飲んだら帰るかな。
僕はまたコーヒーを一口飲む。
明久side out
少し時間を遡る。
???side
ボクのスマホに連絡が来た。さて、頃合いか。
「……時間みたいだ。」
「そう、じゃ行きますか。」
ボクと彼女はバイクから降りる。ここが住宅街だから……もう少しか。ボクと彼女は二手に分かれ歩き出す。
「……はい、そうです。最初から気づいていました。……了解です。」
ボクの前を会社員の様なスーツの男が歩いている。あの人か。ボクはスマホを少し操作して男を追う。
それから少し歩いて、
ドンッ
「あ、すっみませ~ん。」
「……。」
「携帯、落としましたよ?」
前から歩いてきた彼女が男にぶつかる。その拍子に男が携帯を落とした。ボクはそれを拾う。男はそれを取ろうとするが、ボクは携帯をこちら側に引く。
「? 何だ?」
「……さっきの電話、とても大切な用事でしたか? だったらすみません、切っちゃいまして。」
「別に大丈夫です。それよりも……」
男は早く携帯を返してほしそうだった。だがボクは笑顔で携帯を返さない。男は段々とイライラしてきたようだ。
「何だというんだ! 早く返せ!」
「ウププ♪ こいつ、あたし様たちの事分かってないみた~いっ♪」
「……さっき、忠告されたはずですよね? 本部に連絡するなって。だけど、あなたはそれを破った。その意味分かりますよね?」
「……お前ら、まさか……!」
男の顔が段々青ざめる。ボクと彼女は男に逃げ場のないような位置に立つ。
「条約によりあなたを連行、裁判を行い処理を決めます。こちらへ。」
「くそっ……! 女、そこをどけっ!」
「あら? こっちに来るのねぇ~。ウププ♪」
男が彼女の方に銃を向け、走っていく。彼女は笑いながら目を見開く。その瞬間、
「あ? あぁ~~~っ!! なんだこれ!? あ、あぁ~~!!」
「ウププ♪」
「少しだけにしてあげなよ?」
「う~ん、じゃあ後でキスしてくれるなら良いよ?」
「はいはい……。」
男は走っている最中に突然倒れ込み、呻き出した。全く……抵抗なしで捕まれば良いものを……。
彼女は茶目っ気ありありな笑顔で頼んできたので、ボクは呆れながら了承する。そんな風に頼まなくてもしてあげるのに……。
その時男がちょうど気絶したので、縄と特殊な拘束具で拘束する。さてと、
「帰るよ。」
「はいはい、でもコイツは?」
「処理班を呼んだから大丈夫。」
そして、ボクと彼女はまたどこかへと向かうのだった。
???side out