バカとテストと召喚獣 ~僕はこの歪んだ運命に抗い続ける~ 作:天沙龍月
本編をどうぞ!
明久side
試召戦争が始まった。相手は一つ上のEクラス。こちらの第1陣は島田さん、ムッツリーニ、秀吉と他大勢。島田さんたちには悪いけど今回の試召戦争では捨て駒だ。姫路さんと雄二以外はね。当然僕も捨て駒。姫路が回復試験を受け終わるまでの時間稼ぎをしているに過ぎない。本当に皆良い意味でも悪い意味でもバカだね~。おっと、始まったかな?廊下が騒がしくなってきた。
「島田美波!行きます!」
「木下秀吉!参戦いたす!」
「土屋康太!…同じく!」
「承認します!」
長谷川先生の承認の合図でE、Fクラスとその廊下に数学のフィールドが展開される。このフィールド内じゃないと試験召喚獸を召喚する事が出来ない。そして、召喚獸を召喚する時には合言葉を言わないといけない。それが、
「試験召喚獸召喚!試獸召喚(サモン)!」
「…試獸召喚」
「試獸召喚!」
おっ、最初に召喚獸を召喚したのは島田さんたちか。威勢がいいことで。時間稼ぎに使われてるとも知らずに。そういえば何故廊下の声が聞こえるかというと、教室の壁が薄いからだ。流石おんぼろ教室だよね。
5分後
最初の戦死者がEクラスから出た。戦死者というのは自分の召喚獸の点数が0点になること。それ以上戦えないため、補習室で強制的に補習を受けることになる。それに補習の担当は鉄人こと西村先生だ、鬼の補習を受けさせられる。大体補習か終わったあとには趣味は勉強、尊敬するのは二宮金次郎になるってどんな補習をするだろうか?
30分後
まだ島田さんたちは頑張ってくれている。だけどそろそろ限界だろう、あっちは僕たちより上の点数を出している訳だから、最初は同じくらいの人数でも後になればなるほど、こちらの戦力は大きく削られる。
「どういう作戦でいくの?雄二?」
「作戦なんかねぇ。「え?」力任せのパワーゲームで押切られた方の教室に敵がなだれ込む。そして、代表が倒された方の負けだ。」
「まさか、押切られたりはしないよね?「もうダメ!押切られる!」え~!」
「Eクラスの方が成績は上だからな。ストレートにぶつかれば押切られるのは時間の問題だ。「そんなぁ~!」だが向こうも所詮はEクラス、Fクラスとの差は大きくない。押切るには時間が掛かる。その時間が勝負のカギだ。」
そういえばさっき雄二が言っていた代表が倒された方の負けだというのは、試召戦争の負けの条件なのだ。試召戦争のルールとして明確に書かれている。だからクラスの代表は前には出ずいつも後ろにいる。これが試召戦争の基本的な戦法だろう。そろそろ時間か。
「うぅ!点数が!」
「このままでは戦死じゃ。お主は下がって点数を回復するのじゃ!」
「分かったわ。」
島田さんが最前線から居なくなったってことはもうすぐ前線は瓦解するだろうな。島田さんたちは僕たちの中でも点数は高い部類に入る。その島田さんたちが居なくなれば、他の皆が頑張ったとしても耐えられる時間は大きく削られる。RPGでいうところの盾役なしのパーティみたいなものだね。
「もう無理!」
「ムッツリーニ!戦略的撤退じゃ!」
秀吉たちも前線から離脱した。これで一気に押切られるな。
「この勝負貰ったわ!」
まだ勝負は分からないよ。姫路さんの方が多分あともう少しで終わるだろうから、それまで時間稼げればなんとかなるんだよね。
「しまった!」
「突撃よ!」
『おぉ~!』
Eクラス代表を先頭として教室になだれ込んで来る。
「防衛線が破られたな。」
「ヤバイよ。雄二~!」
僕は雄二の方を向いて恐怖しているような演技をする。
「戦死者は補習室に集合!」
『ヒィ~!』
西村先生が戦死者を連れていく。あと残るのは僕と雄二だけだ。これは僕が時間稼ぎをしないといけないだろう。しょうがない、やるか。
「どうしよう?雄二~!」
「もう終わりなの?これまでのようね。Fクラス代表さん?」
「おやおや、Eクラス代表自ら乗り込んで来るとは。余裕じゃないか。」
「新学期早々宣戦布告なんて、バカじゃないの?振り分け試験の直後だからクラスの差は点数の差よ。あなたたちに勝ち目があるとでも思ってるの?「まぁ、どうだろうな?」そっか。それが分からないバカだからFクラスなんだ。」
「雄二、やっぱり作戦も無しじゃ上のクラスに勝てっこないよ。「おっと、そういえば一つだけ作戦を立ててたっけ。」「え?」何故お前をここに置いているのか分からないのか?」
「え?そうか。」
ここは演技をするしかない。
「まさか、そいつは…」
「そう。この吉井明久は観察処分者だ。明久。お前の本当の力を見せてやれ!」
「ちぇ。しょうがないなぁ、結局最後は僕が活躍する事になるだね。試獣召喚!」
Eクラスのほとんどが後退りした。そんなことしても逃げられないのに。
「観察処分者の召喚獣には特殊な能力がある。罰として先生の雑用を手伝わせるために物体に触る事が出来る。『ゴツン!』そして、召喚獣の受ける痛みはその召喚者も受ける。「痛い痛い痛い!裂けてないかな?大丈夫かな!?」な、面白いだろ?」
「それだけかよ!」
全く痛いのは勘弁だよ。それにしても姫路さんまだかな?
「いいわ。まずはその雑魚から始末してあげる。試獣召喚!」
「そう簡単に負けはしない!行くぞ!」
僕の召喚獣が勢い良く走り出す。ここで上手く自然に床が落ちる場所に操作する。そして、
「痛~!同じ所ぶった~!いた、痛い!流石はEクラス代表。なかなかやるじゃないか。」
「全く役に立たない護衛ね…。」
「いんや~。十分役に立ったさ。」
そうみたいだ。姫路さんの採点がちょうど終わった頃か。
「それじゃ。代表自らあなたに引導を渡してあげるわ。覚悟して。Eクラス代表中林広美、坂本雄二に…」
「待ってください!姫路瑞希、受けます!召喚獣召喚、試獣召喚!」
やっと姫路さんがきてくれた。姫路さんが召喚した召喚獣がEクラスの生徒を一掃する。姫路の点数は412点。Eクラスで勝てる人はいないだろう。チートっぽくて僕はやりたくないなぁ。でも、これがAクラスの実力か。
『Aクラス並の攻撃力!?何でFクラスにそんな生徒が!?』
Eクラスの人たちがすごく驚いている。それはそうだろう。
「やっと来たか。」
「姫路さん!」
「姫路瑞希ってもしかしてあなた!?」
「吉井!「島田さん?」この子やっぱりすごいわ!」
「流石、Aクラス候補だっただけはあるな。」
「あれが姫路さんの成績?」
「問題数無制限の文月学園のテストは答えられれば何点でも取れる。「それじゃあ、作戦っていうのは…」テストの時間稼ぎだな。」
いやぁ、姫路さんが間に合って良かった。
「Fクラスにそんな人がいるなんて聞いてないわよ!」
「それじゃあ、行きます!ごめんなさい!」
姫路さんの召喚獣の一撃がEクラス代表に当たる。そして、Fクラスの勝ちが決まった。
other side
かくして、この試験試験戦争はFクラスの勝利で幕を閉じた。
other side out
しかし、その後の交渉で事件は起きた。
「やった~!すごいよ、姫路さん。これも姫路さんのおかげだよ!」
「そんなこと…ありがとうございます…!」
「これで僕らはEクラスと教室の設備を交換出来るんだよね。少しだけど今までより良い環境になるよ。」
そんな訳にはいかないか。
「いんや。設備は交換しない。「え?」設備は今までのままだ。良い提案だろ?Eクラス代表さん?」
「そんな…どうして?」
「何でだよ?雄二?せっかく勝ったのに…」
教室の扉が開いた。あれ?誰だろう?秀吉に似てるけど明確に違う。言葉では言い表せないけど。何か懐かしいような…
「決着は着いた?」
「どうしたの?秀吉?その格好?そうか!やっと本当の自分に目覚めたんだね!「明久よ。わしはこっちじゃ。」え?秀吉が二人!?」
「秀吉はあたしの弟よ。あたしは2年Aクラスからきた大使。木下優子。我々AクラスはあなたたちFクラスに宣戦布告します。」
『えぇ!?』
「どうしてAクラスが僕らに!?」
「最下位クラスじゃないだからって手加減しないから。容赦なく叩き潰すから。そのつもりで。」
木下さんは明らかにこちらを見下していた。やっぱり木下さんとは初めて会った気がしない……気がする。
明久side out
時は少し遡る。
優子side
あたしは今Fクラスの近くまできている。何故かというと目的は2つ。1つは吉井 明久くんに会うこと。もう1つはFクラスに宣戦布告するため。中の話が大分終わった様なので教室に入る。
そして現在
Fクラスの面々が驚いている。それはそうだろう。さてと、
「あなたが観察処分者の吉井君?」
「そうだけど?な、何か用かな?」
吉井君であろう人が首を傾げながらこちらを見る。そこで、あたしは気づいた。
彼には面影がある。なんというか、雰囲気が変わってるけどあたしの知るあの大好きなあの子に。
ーやっぱり、彼があの子なのかな?
「さっき、先生にあなたに頼みがあると言付けを頼まれてね。一緒に来てくれるかしら?」
なるべく見下しているような口調だったけど大丈夫だよね?これで彼に嫌われてもしょうがないかな。
こちらにも都合というものがあるから。でもこれで、
ーちゃんと再会を果たせるはず!
優子side out
明久side
今日、先生の手伝いはあったっけ?突然手伝いが必要になったのかな?まぁ、木下さんに付いていけばわかるか。木下さんに付いて廊下を歩く。
すると、不意に木下さんが立ち止まる。
「ごめんなさい吉井君、先生の用の前に屋上に一緒に来てくれる? そこであなたとちょっと話をしたいの。」
前を見たままそう言ってきた。
え? 先生の用の前に?
「え? どうして?」
そう少し驚きながら聞くと、木下さんの雰囲気が少し変わった。
「……大事な事なの。吉井君、お願いだから黙って付いてきて。」
「そ、そう。分かったよ。」
……少し警戒するか。
木下さんが悪い人だとは思わないが人は見かけによらないって言うし。屋上だと人はあんまり来ないから何をされるか分からない。
僕と木下さん、どちらも一言も話さないまま屋上の着いた。
木下さんはフェンスの近くまで行って、立ち止まった。
「あの木下さん、聞かせてもらっていいかな? ここまで僕を連れてきた理由を。」
「えぇ、いいわ。それはあたしが吉井君と二人きりで話をしたかったから。」
「……どうして、僕と二人きりで話がしたかったの?」
理由が思い浮かばない。僕と木下さんには接点はあまりないだから。
……まさか、とは思うけど僕の家の事がばれた?それで脅しに来たとか? いや、これはあり得ない。
僕と家の関係は国家機密相当の情報にされている。そして、その情報が入っているコンピューターがハッキングされたという報告はない。
ーだったら、何故?
明久side out
優子side
やっぱり、強引に連れてきたから警戒されてる?
でも、こうでもしないと再会もちゃんと出来ないからしょうがない。彼はFクラスで、あたしはAクラス。その二人が頻繁に会っていたらおかしいと思われる。
ーだから、こういう風にしか会えない。
まずは、あれを聞いてみるかしら。
「……吉井君、あなた幼稚園は如月幼稚園?」
「え? よ、幼稚園? そうだけど、それがどうかした?」
吉井君の表情が、固まる。
まぁ普通、初めて会った人にこんな質問しないわよね。だけど、やっぱりそうなんだ。
じゃあ、次は一番したかった質問をしましょうか。
優子side out
明久side
一体何なんだ? 木下さんのあの質問は? って! それよりもここで木下さんとそんなことを話すのは不味い。その内容がどんなものかにもよるけど。
「木下さん、ちょっと待って。」
「え? 何で?」
木下さんは首をかしげているが、構わず僕はジェスチャーで静かにと伝える。木下さんは内容は分からないが僕がお願いしたい事は分かってくれたみたいだ。
何故、ここで木下さんと話すのが不味いかというと、ここにはムッツリーニの仕掛けた隠しカメラがあるはずなのだ。もちろんマイクも付いているのだから、ここで話した事はすべてムッツリーニに伝わり、雄二にも伝わるはずだから色々と不味いのだ。
僕はズボンの後ろポケットにいつも入れているボールペン付きのメモ用紙を取りだし、木下さんに現状で考えられるここで話すデメリットを書いて見せた。
『落ち着いて見て。ここにはFクラスのある人物が取り付けたマイク付きカメラがあるんだ。だから、ここで重要な話は不味い。カメラの死角まで誘導するからわかったら頷いて。』
木下さんはようやく内容を理解したようで驚きながら頷いた。カメラの死角まで木下さんを誘導する。
「一体どういう事なのよ!? 隠しカメラって!」
木下さんは少し焦った様に小声で問い詰めてきた。それはそうだよね、隠しカメラなんてあったら何を撮られているか分からないし。
「木下さん落ち着いて。あそこのカメラのマイクは高性能だから少しでも声を大きくしたりすると聞こえるから。」
「……分かったわ。でも、何で屋上に隠しカメラなんてあるのかしら?」
まぁ、当然の疑問だよね。
「なんていえばいいかな……、他のクラスの情報を上手く手に入れる為、かな。」
「……ふ~ん。でもその話、あたしにしても大丈夫なの? 結構重要な事でしょ?」
「大丈夫大丈夫。重要ではあるけどそれがすべてって訳でもないしね。それに……どこにあるか、分からないでしょ?」
満面の笑みでそう言った。
そう……僕は木下さんに隠しカメラがある事は教えたが、どこにあるかまでは教えていない。
木下さんは目を見開いて驚いていたが、僕もそこまでお人好しじゃない、一応敵だし。
「……確かにそうよね。そこまで教えてくれただけでもありがたいわ。ありがとう。」
「いえいえ。」
「それで……本題なんだけど……」
木下さんも納得してくれたようだ。そして、ようやく本題に入るようだ。
「何かな?」
「あの……その、えっと……」
木下さんが急にさっきまであったカリスマ感がなくなり、顔を下げモジモジし始めた。なんとも可愛らしい。
一体どうしたんだろうか? そんなに言いにくいものなんだろうか?
「あたしの事……お、覚えてる?」
「え? あの、それはどういう事かな?」
木下さんが、ちゃんとこちらを見たと思ったらとんでもない事を聞いてきた。一瞬、戸惑って思考が追い付かなかった。
本当にどういう事だ? 僕は木下さんと会ったのは初めてのはずだ。それなのに……覚えてる?って聞いてきた。もしかしたら……
「あの、もしかして……ぼくたち幼稚園の頃とかに一度会ってる、のかな?」
「え? それって、どういう……」
木下さんは僕が木下さんの事を知らないという事に気づいたみたいだ。
どうしたらいいのか分からないという様な顔をしている。
……仕方ない、僕の事情を話すか。
「……実は僕、小学3年生以下の記憶がないんだ。だから、ごめんなさい。僕は君が知っている人とは限らない。」
「そんな……」
「それでも……僕に何か用があるかな? 冷たい言い方だとは思うけど……君の為でもあるから……「……」ないなら、僕は戻るよ。 ……それじゃ「……待って!」何かな?」
僕が教室に戻ろうとすると、木下さんがブレザーの裾をそっと掴んできた。木下さんの方を振り向くと、木下さんは今にも泣き崩れそうな顔をしていた。……その表情を見ていると何ともいえない感情に押し潰されそうになってくる。
ー彼女を抱きしめてあげろよ!
何だ? 頭の中に声が……
ー抱きしめろ! 抱きしめろ! 抱きしめろ!
「っ!?」
頭に自分の声で抱きしめろ、という言葉が響く。この声は一体……? ただ、この声に従わないと頭に強い痛みを受ける。どうする? この声に従ってみるか?
「どうか、したの……?」
「っ!! 木下さん、ごめん!」
木下さんが不思議そうに僕を見つめてきた。その瞬間、一気に痛みがひどくなる。
この声には抗いきれない! そう思った僕は木下さんを抱きしめる。
「……え? ちょ、ちょっと吉井君!?」
木下さんは僕のした事をようやく理解したようで驚いていた。ただ、驚いたのと同時に体から力が抜けた。
ーあれ? もしかして木下さん……気を失った?
それはそうだろう。突然、目の前の相手に何の前触れもなく抱きしめられたら誰でもパニックになるし、気の弱い人なら気を失う。
だけど、この状況をどうする? こんな所を他の人に見られたら、誤解される。それは避けないと。
「しょうがない……。」
1時間ぐらいここで時間を潰して、保健室に連れていく。それが最善策のようだ。誰にも見られず、木下さんを運ぶにはそれしかない。
それにその間に木下さんが気が付くかもしれないし。
僕はその場で腰を降ろし、木下さんを僕の隣に寝せた。
「はぁ……。」
木下さんに聞けば僕の過去の記憶も分かるのだろうか?
明久side out
???side
「……最初の出会いがこんな感じで良いのかな?」
私は双眼鏡を覗くのをやめる。どのような形でも吉井くんと木下さんが出会う、それが大事。でもあれはやり過ぎじゃない! 吉井くん、やるときはやるんだなぁ~、結構意外。
さてさて、今度の報告は良いものになりそうだね♪
???side out
はい、お疲れさまでした。今回、ようやく優子を出せました。ただ、ここから数話は直接的には優子は出ないと思っていてください。明久との絡みが直接的にはないということです。
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では、また次回に!