朝。仕掛けておいた目覚ましがキッチリと仕事をしようと、けたたましくアラームを鳴り響かせる。ベッドサイドに手を伸ばして目覚ましのアラームを確認してベッドからもぞりと起きれば、昨日の夜一緒に寝たはずの人物は既に居なくその名残の温かささえも消え去っていた。
閉じていたカーテンを開けて背伸びをすれば、ようやく眠気は飛んでいき寝間着から私服へと袖を通して部屋を出て、キッチンへと向かいあくびを噛み殺しながら手早く今日の朝御飯の準備を始めた。苦手だったはずの料理も素人なりに頑張ろうと奮起して、それなりの味のモノを提供できるようになった。子供から大人へと成長した私だけれど、はてさて大人と名乗って良いものかどうか悩む。くだらない事を考えていればリビングの外からぱたぱたと騒がしげに足音が聞こえて、いくらもしないうちに扉が開く。
「おはようございます、タツキさんっ!」
「うん、ヴィヴィオおはよう」
新緑の季節が過ぎ去った頃の緑色の瞳、そうしてもう片方はレッドスピネルのような綺麗な赤色の瞳の少女と言葉を交わす。名を高町ヴィヴィオ。この家の主、高町なのはが養子として迎えた女の子で、お嬢様学校に通う天真爛漫な少女だ。現在十歳。格闘技が好きらしく日々練習に明け暮れているんだけれど、小さい頃に運動をし過ぎると成長を阻害してしまう事もあると聞くから、無茶はしないで欲しいと願いつつも、母親であるなのはとそっくりだから私の願いは叶えられるのかどうかは不明だ。
「あれ、なのはママは?」
「なのはならもう出勤したよ。朝一に教導の仕事が入っているからって。なので今日の朝御飯は私が用意しました」
朝なので重いモノは作らないから時間はそんなに掛からないし、凝った物を作った訳でもない。そして私が作るものは所謂野郎飯という類のものが多いので、なのはやフェイトが作る女性らしい繊細な料理は苦手だ。同じ女性だというのに、この差は一体何なのだろうか。アレか、歳の差なのだろうか。でも彼女たちとは二歳しか違わないから誤差の範囲だし……。
「タツキさん?」
「ああ、ごめん、考え事してた。さ、食べよう。学校に遅れるといけないしね」
さっくりと朝御飯を済ませて、ヴィヴィオを玄関で見送る。なのはがこの家を購入してからというもの、なのはとフェイトにヴィヴィオそして私という奇妙な共同生活を送っている訳なんだけれど。二人の事を"ママ"と慕っているヴィヴィオと三人の間に異物であろう私が入る事を危惧していた数年前の私の心配を余所に、ヴィヴィオ本人は至って真っ直ぐに育っていてくれているようで最近ようやく一緒に居ることに慣れてきた気がする。こういう事は大人よりも子供の方が順応が早いのだろうね。腫れ物のように扱っていた事はバレていたのだろう。ヴィヴィオの方から歩み寄ってきてくれたのだから、本当子供って聡い。
「さて、掃除、掃除」
一人きりとなった広い家で、ぼそりと呟いて部屋中の窓を全開にして、言葉通り掃除を始める。ヴィヴィオの世話を頼みたいとなのはとフェイト二人に懇願されて断り切れず、管理局を辞めて居候の身になった私だから、これくらいの事はしなければ。ヴィヴィオが学校に通うようになったから本当はアルバイトでもしたいんだけれど、この家の主ともう一人の主人が許してくれないから今は諦めている。なので絶賛ヒモ生活中。情けない事だけれど、色々と複雑な事情が絡んでこうなってしまった。何がいけなかったのだろうと自問するけれど、答えは結局『私が全て悪い』に帰結してしまう。
「ただいま」
聞き慣れた声が響いてきたけれどその本人は今次元の海へと航海中であるというのに、いったいどうしたのだろうか。掃除機のスイッチを切って振り返ると、玄関からどんな速度で移動して来たのか嬉しそうに微笑みながら両手を広げて私抱きしめるフェイト。
「おかえり、フェイト。なんで居るの?」
「……ぅん、予定よりも早く帰れたんだ。だから今日からしばらくはお休みだよ。ようやくタツキさんと一緒に居られるね」
ええい、首筋に顔を埋めて臭いを嗅ぐのは止めなさい。私の方が身長が低いが為に成されるがままになってるし、さっきまで掃除をしていたから汗かいてるし。
「フェイト、離れて」
「嫌だよ。久しぶりなんだもん、タツキさんと会うの」
「たかだか一週間でしょ。子供みたいな事言わないの、ほら離して……」
私の言葉に返事をせずさらに腕の力を強めるフェイト。耳元で私の名前を小さく何度も呟きながら、フェイトの長い脚が私の股の隙間に差し入れられてぐっと力を込められる。
「っ! ああ、もうっ! フェイトこっち向いてっ」
「?」
私の意図が解らなかったフェイトはきつく抱きしめられた手を緩めれば自然と視線が交差する。身長が足りないために足のかかとを上げなければならない事に不満を覚えるけれど仕方ない。フェイトの綺麗な顔のドアップが一瞬で鼻先まで迫り、顔を少し傾げて口づけを交わした。はじめは触れるだけ。伝わる体温に確かに久しぶりだなと頭の片隅に浮かんだ瞬間、生温かいなにかが私の口腔を蹂躙する。やられっぱなしは癪なので私も反撃に出るけれど、若さが足りないのかフェイトの方が上手で、降参のサインを私から送る羽目になったのはご愛嬌だ。
「タツキさん、続き……」
「駄目」
真昼間からするつもりはないと、すげなく断れば耳と尻尾を悲しく垂れ下げた大型犬が目の前に。お預け状態のフェイトは今の所大人しくしてくれているけれど、妙なスイッチが入ると私じゃ抑えられないから上手く立ち回らないと。
「夜にね。これ以上の事を今からするのは本当に駄目」
「……うん」
「ほら、もう少しでお昼だから、一緒にご飯食べよう」
「うんっ」
ぱっと明るい顔になったフェイトに現金なものだと苦笑し問題を先送りにしながら、お昼御飯の用意に勤しむ私だった。
◇
――なのはとフェイトと私が肉体関係を持つようになったのは何時の頃だったけ。
私、
そうして更に三年が過ぎようやく無印一期が始まって、なのはとフェイトどちら側につくかどうか迷いながら"なるようになるさ"と気ままに面白半分で原作介入。一人でジュエルシードを集めていれば、いづれはなのはかフェイト、もしくは管理局に接触する事は必然だったからね。そこから色々とあってプレシア・テスタロッサの病とアリシア・テスタロッサの蘇生に助力したことが、まさかこんなひずみを産んでしまうとは。
簡単に考えすぎていたんだと思う。アリシアを救えばフェイトもプレシアから愛されるだろうと。でも現実は違った。結果だけを言えばフェイトはプレシアから捨てられた。プレシアとアリシアは現在も親子関係を続けており、管理世界の何処かの世界でその世界から一歩も出ない事を条件に暮らしているから、たぶん幸せなんだろうね。フェイトの存在を否定して、アリシアはフェイトの事を知らないだろうから。周囲もその事を良しとしてしまったし、私も負い目があるから責めることも出来ないでいる。
捨てられたフェイトは廃人同様になったんだけれど、私が改竄した記憶を埋め込んだ。もちろんアニメの筋書き通りにしてリンディさんの養子となった。なのははその事実を知らず、ただ単にフェイトが現実逃避をしたと認識したから好都合だった。
そうこうするうちに原作二期もはじまって順調にイベント消化しているものだと信じていたんだけれど、私という存在が大きく話を変えその時は満足していたんだ。過程はどうであれ結果は最良だったのだし。リインフォース生存っていうチート能力全開の結果に。そしてツヴァイも無事に生まれたし、なんの文句もない展開だった。
そして問題が起きる。自分は原作二期までしか知らないという事実に。三期もテレビ放映されていたけれど、一期と二期が一番熱が入っていた為に三期は視聴していなかった。だからという訳ではないけれど、なのはが墜ちてしまう事を防げなかったし、私も無茶をしてなのはと同じように墜ちてしまった。
一緒にリハビリを頑張ろうと誓い、その後なのはは無事に回復。同じ頃に私はリンカーコアが壊れたままで自然治癒も望めないから魔導師として空に帰ることは不可能だと医者から告げられた。案外チート能力も万能ではないんだな、と何処か他人事のように冷めた気持ちになってしまったんだけれど生活の拠点をミッドチルダに移していた為に地球に戻る事も難しく、こっちの世界で暮らしていく事を決めた。
なのはは事故の所為なのか教導官の道を目指し、フェイトは執務官に。はやては捜査官として働き異例の出世スピード。そんな私は魔導師としては働けないけれど、管理局員として雇ってくれたし文句なんてなかった。この頃だろうか、なのはとフェイトと私の関係がおかしくなり始めたのは。やたらと身体が接触する機会が多くなっていて、私が飛べなくなってしまった事で気を使ってくれているだけだと思っていたんだけれど私の考えは外れていた。そうして数か月後には『好きです』とストレートに二人一緒に告白されたのには驚いたし、返事を未だに返さないまま誤魔化し続けているのは私が優柔不断な証拠なんだろうね。
私が二十歳の誕生日を迎えた夜、二人に手籠めにされた。返事をうやむやにしたまま何年も過ごしてしまったツケなのか、なのはとフェイトの理性がぶっ飛んでいたし私も拒まなかった。初行為をまさか三人でするとは思っていなかったし、異性ではなく同性が相手という理由でその日の朝盛大に自責の念に囚われるけれどもう遅い。なのはとフェイトはまた私を抱いたし、その先の未来の話までするもんだから止められなかった。
なんでこんな事になっちゃったんだろう、本当に。何がいけなかったのかを考えてみれば、答えは必然的に"私の存在"って事になるけれど。でもリンカーコアの能力を失ってしまった私が、何か出来ることなんて無いから。現状を甘んじて受けるくらいしか考えられなかった。
肉体関係を持ちつつ、平和な日々が続いていたけれどはやてがずっと頑張って目指していた自分の部隊、機動六課が設立されミッドチルダを震撼させたジェイル・スカリエッティ事件が起きる。
小さな女の子を保護したと聞き、紹介されると何故か懐かれた。それでもヴィヴィオと名乗った女の子と過ごす時間は過去を忘れさせてくれる時間だったし、なによりも楽しかったし。"ママ"と呼ばれなかった事は少し悲しかったけれど、私は機動六課じゃなくて陸の局員だったから会う時間はなのはたちよりも少ないから仕方ないと自分に言い聞かせた。
聖王のゆりかごと呼ばれる巨大要塞が空を飛んだ秋の日。なのはとフェイトそしてはやての活躍により無事ジェイル・スカリエッティ事件は終結。陸の最高責任者が死亡、最高評議会壊滅の報を受けて混乱に陥った地上本部だけれど四年経った今は落ち着きを取り戻しているらしい。らしい、というのは陸の局員を辞めたから。
辞めた理由はヴィヴィオの面倒を見て欲しいとなのはとフェイトに懇願されたし、なのはが養子に迎える予定のヴィヴィオに寂しい思いはして欲しくなかったから。それでも幼少期は多感な時期で心配事もあったけれど、どうにか四人でよろしくやっている。なのはとフェイトと私の関係は小さい頃からの友人同士で一緒に生活しているのは私のとある理由の所為だとヴィヴィオに説明しているから、多分バレてはいないはずだ。
奇妙な四人の共同生活が始まった理由はこんな感じだ。
◇
「ただいま~」
そろそろ夕飯の支度をしなきゃならないと、準備に取り掛かった時だった。この家の主の声が響く。
「お帰り、なのは。早かったね?」
「うん、早出だったし樹希さんに早く会いたかったんだもん」
「はいはい。フェイトが帰ってきてるよ。久しぶりに四人そろうね」
「フェイトちゃん帰ってきてるんだ。あ、それなんだけれどヴィヴィオはお友達の所にお泊りだから、晩ご飯はいらないってメールが来てたよ?」
見ていないの、と言いたげに首を傾げるなのは。ポケットから取り出した通信端末を確認すれば、ヴィヴィオからメールが届いていた。格闘技を一緒にやっている子たちとお泊り会だそうだ。
「ホントだ。気付かなかった……」
カルガモの子供のように私の後ろを付いて回っていたヴィヴィオが小学校に入学して、こうして外へと巣立っていくのは嬉しい限りだ。あまり外出癖が付くのは問題だけれど最近の子は大人びているし、ヴィヴィオは良い子なので相手方に迷惑を掛けることは少ないだろうから。
「……樹希さん。何を考えているの?」
「いやさ、子供が成長するのは早いねって」
一瞬むっとした表情を見せるなのは。何か気に障るような事を言った覚えはないけれど、直ぐに元の表情に戻る。
「そう、だね……でも……こんな事は知らないよ?」
なのはと私の身長は二センチ程の差しかない。どちらが高いかとなると彼女の方が高い訳なんだけれど、どんぐりの背くらべ程度の差だ。それでも私の身長を超えた時は大喜びしていたんだけれど、何故喜んでいたのかは謎のまま。
「ちょっ、なのは、駄目だってば。跡付けるなっていつも言ってるでしょうがっ!」
私の首筋に顔を埋めて歯を立てられる。ぐぬぬとなのはの肩に手を置いて引き離そうとするけれど、最近全く運動をしていない私が現役の魔導師、しかも超一流にカテゴライズされるなのはに敵うはずもなくなされるがままで。午前中にも同じように迫られた記憶があるけれど、相手が違う。同じ戦法を取れば確実に私が彼女に喰われてしまうのでソレを実行するのは憚られる。結局首筋に数か所赤い華を散らされると満足したのか、してやったりみたいな顔をするなのはだった。
「あれ、フェイトちゃんは?」
「………………お風呂。あー、ついでだからなのはも入ってくれば?」
これ、フェイトに見られると対抗心を燃やして更に増えるから、多少はマシになるのでさっさと冷やしたいんだけれど。
「ううん、後からでいいかな。ゆっくり入りたい気分だし」
「そか」
夕飯の支度をしようと台所に戻る私の後ろを付いてくるなのは。
「ん、着替えてこないの?」
「うん。お風呂の後でいいかなって」
ま、いいかと納得して冷蔵庫を漁って三人分の食事を作る。フェイトももうすぐお風呂から上がるだろうし、なのはも帰ってきたのなら温かいご飯を提供できるから丁度良い。作り置きすると美味しさは半減しちゃうからね。
「ね、樹希さん」
「ん?」
まな板の上の野菜を切っていた時不意に声を掛けられて顔を上げれば、なのはは真剣な表情で私を見つめる。
「……何処にも行かない、よね?」
何度か問い掛けられた台詞をまた言われる。長い時間彼女と過ごして来た気がするし、離れることが不安なのだろうか。
中学校を卒業してすぐにミッドチルダへと渡ったから日本に住んで居る同年代の子たちより学力が劣る私が地球で生計を立てるのは難しいだろう。ミッドチルダでさえ管理局を辞めてしまった身としては、再就職先を探す事は困難なのかも知れない。
「行かないよ……」
行けないし、ね。私の傍へとそそくさとやって来て両腕できつく抱きしめられた後、腕が腰へと下げられてなのはの左腕が私の右脚を撫でる。墜ちてしまった私の右脚は生体義足だ。医療技術が発展していた管理世界の賜物で無茶はできないけれど普段の生活なら支障はない。
「樹希さん、好き」
「ん」
結局なのはの言葉に答える事を私はしないまま、今の関係をずるずると続けていくのだろう。この先の未来がどうなるかなんて知らないまま。
振り切れているヤンデレも好きですが、正常なまま時折異常な部分を垣間見せる描写も好きなんです。息抜きで書いたし設定をそんなに詰め込んでいない為にかなり適当です。まぁこの先の展開も思い浮かばないしこれで良いのかなぁと。
中途半端にエロ描写をはさみました。読んでくれた方が悶々としてくれるのなら作者は嬉しい限り。というかR-15で大丈夫だよね、直接的な描写はしてないしね、ね?w
『リリカルなのは』百合百合しい作品だというのに二次の百合が少ないのはなんでさ!と思う日々。女オリ主モノ増えて、増えろっ!