クラス代表決めで連敗するオリ主   作:林太郎

3 / 8
3話 結果

 昨日廊下で会った少女は中国の代表候補生であり、(ファン)鈴音(リンイン)という名であるとわかった。

 

 彼女が隣のクラスの代表としてクラス対抗戦にでることになったので一夏に宣戦布告に来たからである。彼女は一夏の幼馴染みで、篠ノ之とちょうど入れ替わるように転校してきたのだそうだ。

 

 

 久しぶりの再会となると当然つもる話もあるわけで、昼休みに仲良く二人で食事していた。そんな彼らを睨むように観察しながらご飯を食べるオルコットと篠ノ之。俺と相川さん、布仏さん、谷本さんは一夏を巡る戦い全体を眺めながらテーブルを囲んでいた。

 

 

 (ファン)と一夏は本当に親しげで二人ともにこやかに会話を楽しんでいた。距離感もほどよいし例の二人と違って高圧的でもない。

「これは(ファン)さんの勝ちかな」俺は苦笑しながら三人に向けて言った。 

「私の付け入る隙は?」

 相川さんがそう聞いてくるので、ないないと首を横に振りながら言うと少し落ち込んだようだ。俺の印象が悪くなるといけないので、あまり考えずに、あの二人の会話に割って入ることができなければ、と付け加えた。

 

 相川さんは一度気をとりなおして顔をあげるも、あの二人の楽しげな会話をしばし眺めて、結局うつむいた。

面倒くさいことになった。変なことを言わなければよかった。どう励まそうか。

 

 そんなことを考えていると布仏が声をあげた。

「二人が仕掛けたよ!」

 目線を一夏の方に戻すと、オルコットと篠ノ之が一夏と凰のところに行き、テーブルに同時に手をついたところだった。彼女らの声は大きく、離れた場所の俺達のところまで聞こえてきた。どうやら彼女らは凰が一夏の彼女ではないかと思っていたようだ。俺はそれを明確に否定することができる。一夏とそういう話になったときに彼からいないと言われたからだ。

 

 

 篠ノ之とオルコットの攻撃は凰に容易くあしらわれた。凰は二人の追及を道理の通った答弁でやり込めたのだ。凰が一夏を取り合う競争の先頭を走っているという考えは概ね合っていそうだ。ただ気になるのは、やはり一夏が凰のことを仲の良い友達だとしか認識していないように見えることである。もっとも、一夏は凰に限らずアプローチしてくる篠ノ之もオルコットも、クラスの積極的な女子生徒も友達と認識しているのだが。まったく、罪な男である。

 

 

 

 放課後になると俺はISの自主トレを行うために外に出た。訓練場には、どこから飛んできたのか赤子の頬のような色をした桜の花弁が落ちていた。辺りを見渡しても桜の木はなく、はち切れんばかりに光る宝石のような薄緑の葉の華やぎは感じられない。無機質な訓練場にいると春の寒さをよりいっそう感じた。乾いた土が風に舞う。

 

 

 鍛えるならやはり、一夏が得意で俺が文字通り太刀打ちできなかった剣を使った接近戦に限る。俺もそうだが、彼に銃器扱いはできないので、ここさえ押さえれば彼には勝てる。オルコットへの対策はそのあとでいい。

 

 

 俺はISを展開して両手でISを装備した俺の身長を二倍したのより少し大きいくらいの剣を握った。ISを装備していても重さを感じるほど重厚な剣で、幅も人が寝転がることができるくらいだった。剣道をやっていた頃のような俊敏な攻撃をこの剣でやるのは難しそうだった。だが、やるしかない。彼を越えるためには必要なことだし、俺にならきっとできる。

 

 

 

 素振りを始めると扱いにくさをより実感できた。下から上に切り上げることなどは実戦ではとうてい行わないだろう。このあたりから頭の中には、今までの剣道のスタイルを捨て去り、この剣の強みを生かすような闘い方を模索するべきではないか、という考えが何度も浮かんできた。しかし、俺ながら恥ずべき自尊心は、長年積み重ねてきた技を捨てることを許さず、きっと有効なその案を頭の隅へ隅へと追いやり黒い布を被せてしまった。

 

 

 

 剣で空を切る時間が十五分ほど過ぎただろうか。まだ訓練をはじめて間もない頃、ふと、背後に気配を感じて振り向いた。  

「もうやってたのか、亮太郎。声かけてくれればよかったのに」

一夏はひらひらと手をふって寄ってきた。後ろにはオルコットと篠ノ之をつれている。篠ノ之は打鉄(日本の訓練用量産機だ)を展開していた。一夏の訓練に付き合うためか。

 

「あ、ごめん。気が回らなかったよ」

 お前が俺の友人であることは確かだ。だが、お前を訓練に誘うわけがないだろう。

 一夏は何も気にしていない様子で四人で一緒に訓練をしようと言った。クラス対抗戦に向けて実力の向上をはかりたいらしい。俺は、あと少しで始まる大好きなテレビ番組を理由にその申し出を断った。無論、そんな番組はない。

 

 

 

 更衣室で着替えていると、後ろから声をかけられた。

「猫を被るのがうまいのね、男のクセに」

 凰だった。俺はすぐさま笑顔をつくって対応する。前回のような失敗は繰り返さない。

「なんのこと?知らんなぁ」

 凰はうわぁという声とともに顔をひきつらせた。

「何?あたしに対してもそういう態度をとることにしたわけ?」

「よくわからないけど、友達の友達は友達だぞ」

 凰は露骨にイライラし始めた。無理もないだろう。爪先で床を小刻みに叩いている。

「ほんっと、気持ち悪い」

 そこまで言われると流石に腹立たしいし、この社交的な大田亮太郎でもきっと怒るだろう。

「口が悪いんだね、凰さん。一夏が聞いたらなんて思うかな」

 凰は口をつぐんでこちらを鋭い目付きで睨み付けた。とはいえ、身長差がおそらく二十センチほどある、つまり百五十センチくらいの小柄な少女がこちらを見上げながらそんな表情をしていても何の威圧にもならない。俺は続ける。

「で?健気に一夏のお出迎えかい?なんて声をかけようかとかどうせ考えてるんでしょ。おつかれ一夏、とか?」

 凰は瞬時にISを部分的に展開して俺に殴りかかった。さすがに全力ではなかったのが幸いして、防御が間に合い、けれど数メートル向こうに飛ばされた。受け身もとれたが衝撃で体中が痛い。

 

 凰は俺に詫びをいれることなく立ち去った。欲しくもないが。

 

 

 

 部屋に戻る途中、職員室へとよって織斑先生を訪ねた。俺は彼女からUSBメモリーを受け取った。先生は俺の要望を承諾し、このUSBに俺の求めるものを入れて下さったのだ。

 

 俺は織斑先生を尊敬しているし認められたいと思っている。ひとえに彼女が人類最強のIS操縦者であるからだ。彼女は内面もまた優れているがそうでなくとも俺はきっと尊敬した。そんな彼女にお礼を言い慇懃に頭を下げた。

 

 顔をあげると何やら言いたげな顔をしていたので、訪ねてみた。先生は少しためらって、そして短く言った。

 

 その言葉は俺の中にある、なにかどす黒い液体のようなものをふつふつと煮えたぎらせて、そして言葉に変成させた。先生に向かっているその刃をどうにかしまいこんで、先生に再びお礼を言って職員室を後にした。

 

 

 

 部屋に帰るとパソコンに電源を入れてUSBメモリーをさしこむ。俺はそこに入っているこの学園でのISの試合の動画をメモを取りながら注視した。同じ試合を繰り返し観て分析した。だがどこか集中できない。どうしても先生の言葉がちらつく。苛立ちは先生に向けるわけにはいかないので、自分に向けた。すると、もっと集中しなければと思うのだが結局その言葉がちらついて。つまり、堂々巡りだ。

 

 なんて時間の無駄だろう。俺はため息をつき、ベッドに仰向けに寝転がり真っ白な天井を見つめた。

 

 

そして俺は諦めて、尊敬する織斑千冬をただその一点において責めることにした。

 

あまり無理をするな、なんて、そんな言葉いらなかった。

 

この程度、無理なんかじゃない。

 

 

 

 

 クラス対抗戦までは放課後はパソコンの前に座って、試合映像を研究する日々が続いた。映像を観ているとさまざまな技術を知ることができて、早く練習してみたいという気持ちが強まった。だが、対抗戦にでる一夏とその仲間たちの訓練と被るので思うようにいかなかった。だから数日前、朝四時に起きて訓練しようと思い立ち、先生に許可を貰いにいったが断られた。

 

 そんな事情を知るわけがない一夏は俺をたびたび訓練に誘う。その度に俺は申し訳なさそうにして断った。一夏より実力を上げることが目的で訓練をしているのだから、一緒に訓練なんてあり得ないし、一夏を我が物にしたいという色欲にまみれた女どもと訓練をするのは何としても避けたかったのだ。

 

 

 さあ、今日は対抗戦初日。一夏は奇しくも一回戦で凰と当たった。俺はモニタールームでやる気に満ちた表情を浮かべる一夏を、織斑先生と副担の山田先生、加えてオルコットと篠ノ之とともに見ていた。

 

 一夏の白式が(その名のとおり)白色なのに対して凰の甲龍はミディアムバイオレットの機体である。ただでさえ小さい凰がISを身に付けていると、ますます小さく見えた。

 

 アナウンスが試合開始を告げる。一夏は細身の剣(名前はなんと言っただろうか)を取り出すと一気に距離をつめた。それを凰は日本の青龍刀で軽く凌ぐと、重さで叩き切るようにしながら一夏にダメージを与えるべく青龍刀を巧みに扱う。

 

 両者ともに近接型の武装であるが、互いに向き合って打ち合うことは少なく、分が悪くなるとすぐに離脱、それを片方が追うという場面が多かった。実力をみるとやはり代表候補生である凰の方が何枚か上手に見える。凄まじい連続攻撃が繰り出されると、やはり一夏の顔は苦しそうだ。一夏をよぶ小さな声を聞いてそっちを見ると、篠ノ之が心配そうに画面を見つめていた。あえて見なかったがどうせオルコットもそんな面持ちだろう。

 

 負ければ良いのに。

 

 ふと頭に浮かんだ醜い考えに気づき、すぐさま自分を恥じた。友の敗北を願う奴がどこにいるというのか。他人の失敗を願うなんて、人として未熟すぎる。そんな自分の醜さを否定する言葉が次々に浮かんできたが無意味だった。

 

 一度、負けろと思ってしまうと、それが思考にまとわりついて、離れようとしない。

 

 凰が目に見えない、おそらく衝撃砲を放ち、一夏がそれを食らった。何故か緩みそうになった口もとに力をいれた。

 

 彼の敗北を願っているという事実。それに気づくと、自分が恥ずかしく、同時に悔しかった。画面から目を背けたくなった。だが、この試合に一夏を越えるのに有用な手段が隠されていることもきっと事実。一回、目をつぶって深呼吸をして、改めて画面を見た。

 

 その衝撃砲に一夏は翻弄されていた。俺は自分に言い聞かせた。

 

 これはただの分析。どっちが勝とうと大した差はない。

 

 一夏は何かを狙っているように飛び回った。うまく距離をとっているが、遠距離攻撃の手段を彼は保有していただろうか。

 

 山田先生が俺と概ね同じ内容の疑問をもったようで、彼が何を狙っているかを織斑先生に聞いた。興味があったので織斑先生を見る。

 

 織斑先生曰く、それはおそらく、瞬時加速だそうだ。一瞬で距離を詰める技術。そして先生は付け加えた。

「出しどころさえ間違えなければ、あいつでも代表候補生と渡り合える」

 俺ははっとして画面に視線を戻した。先生が何やら瞬時加速のデメリットを言っている気がするが内容は耳に入らない。

 

 だが、そうだ、瞬時加速がどうした。彼がそれを使いこなして凰を倒したところで何の問題もない。どっちが勝とうと大した差はない。

 

 距離をとる一夏の動きに凰が慣れてきた。そしてそれを待っていたのだろう、一夏は凰めがけて凄まじい速さで接近した。剣は大きく振りかぶられている。凰は反応できていない。一夏が剣を振り抜こうとしている。彼の気合いのこもった声は、モニタールームを揺らした。俺は何故か、全部ゆっくりに感じた。

 

 どっちが勝とうと大した差はない。

 

 だが、負けろ。負けろ、一夏。

 

 爆音が鳴り響き、モニターは光で満ちた。

 

 

 

 

 

 

 もし仮に、この世界が物語の中のもので誰かを軸にして回っているのならば、その軸は織斑一夏だと思う。あの事件が起きる前は彼にどんな劣等感を抱こうとも心のどこかでは、自分が主人公だと信じていた。実にバカらしい。ああ、なんたる思い上がりだったことか。

 

 あの事件を俺はたびたび夢に見るようになった。何度見ても、色褪せることなく、その時の俺の息づかい、手汗の気持ち悪さ、胸の中をぐるぐると回る何か嫌なものを余すことなく思い出してしまう。

 

 あの衝撃の原因はアリーナのシールドを突き破って侵入してきた謎のIS。強力なビーム兵器を用いて一夏と凰を襲う。謎のISがどうやったのかは知らないが観客が避難できないように扉を封鎖、それが解除できるまでISを食い止めようと一夏は奮起するのだった。

 

 本当に、まるで主人公じゃないか!

 

 凰に対して何だか恥ずかしい格好の良いことをたくさん言って、そして凰が赤面して、二人で協力して全力の一撃を当てにいって、でも倒しきれなくて、助っ人として待機していたオルコットが射撃して、でもとどめはさせなくて、一夏が決死の覚悟で突っ込んで、そしてすべて終わった。

 

 俺は見てただけ。織斑先生には行かせてくれと言ったけど。見てただけ。なんで。局外者。実力不足だと言われました。蚊帳の外。なんで。エキストラ。爪弾き。輪の外。しらない。疎外感。なんで。混ざれない。引き立て役。なんで。油みたい。脇役。なんで。仲間外れ。なんで。寂しくないよ。なんで。

 

 

 

 なんで、こんなに頑張っているのに。





  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。