クラス代表決めで連敗するオリ主   作:林太郎

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5話 友達

フランスから転校生が来た。シャルル・デュノアと名乗った少年は一夏、俺に続く三人目の男性IS操縦者だそうだ。

髪を伸ばしているようで、金色のつやつやときれいな髪を後ろで束ねていた。自己紹介で見せた笑みは柔らかく、なるほどこれが中性的な顔立ちというやつかと思った。女のようなのは顔だけでなく、体格もだ。華奢な体は剣道をやっていた側からしたら不健康に見えた。

 

女子生徒たちがあげる黄色い歓声をよそに頭を掠める一抹の違和感の正体を確かめるべく思考を進めた。

 

キーワードはフランス、デュノア。全く、なんですぐに気づかなかったのか。

デュノアといえばフランスにあるISの企業じゃないか。量産機の開発に秀で、三番目に多くのISを世界に出している大企業。優れた容姿に立派な家か。何と運のいい人間だろう。

 

家のことが皆に知られるのも時間の問題だが女子生徒に知れわたった日には、彼はきっと毎日のように手作りのお菓子を貰うことになるだろう。そうなるのには十分すぎるほどのステータスだ。

 

 

さて、彼がデュノア家の息子だと気づいたところまではいいが、違和感は消えない。何度か考えてみて、ついに違和感の本体を確信した。

 

デュノア家に息子、跡取りなんていただろうか?

 

記憶違いかもしれない。だがいたとして、ここまで容姿端麗の跡取りを経営不振のデュノア社が今まで大事にしまっていた理由がさっぱりわからない。彼に新商品の発表をやらせるなりなんなりをすれば、彼に女性ファンがつくのは想像に難くない。それだけでとは言えないが現在の経営状態を打破できる可能性も見えてくるのではなかろうか。しかも男性操縦者ときたらなおさらだ。もっと騒ぎ立てて社に注目を集めるべきではないのか?

 

解決されたはじめの違和感は弾けるときにたくさんの卵を落としていったようだ。

 

さて、何故彼を広告塔にしなかったのか。

そうする利益に気がつけないほどデュノアの社長が抜けているとは流石に考えられない。

大怪我をしていてそれどころではなかったという可能性が見えた。

だが、例えば車椅子で人前に出てきて、一生懸命がんばっているんだというアピールをすれば普通にやるよりもっと世間は注目する。

 

もっとも怪我の子供を道具にしたくないという親の配慮なら頷けるが。

 

病気でも然り。

 

そう、病であれば彼の細いからだにも納得がいく。そうすると一方で艶々の髪の毛に若干の違和感が生じるが置いておこう。

 

しかし、学校に通ってくるということはつまり、少なくとも今は健康であるということ。

 

ISを操縦する学校に入ってきたのだから体を動かすのに十分健康であることもわかる。外に出せないほど体が悪かったが、ここ最近になって病状が急に良くなったとは考えづらいが───いや、子供を仕事の道具にしたくない親ならば健康であろうと無かろうと、外には出てこないな。

 

俺は思考を止めた。親心に対して邪推をするのは誉められたことではないだろうと思ったからだ。

 

するとすぐ織斑先生に名前を呼ばれた。

 

「おい、聞いているのか」

 

顔をあげると厳しい顔つきをした先生がこちらを見ている。

 

「聞いています」

 

「ほう、それでは私が言ったことを復唱してみろ」

 

おおかた俺が上の空だったと思っているのだろう。うつむいていたしそう思われても仕方ない。

 

「織斑、大田、デュノアに学校のことを教えてやれ───しかし私の態度は先生のお話を聞くそれではなかったように思えます。すみません」

 

先生はわかっているならいいとおっしゃり、ホームルームを終えた。

 

一限目は実技なので早く教室を出てロッカーに向かわなくてはならない。女子生徒は教室で着替えるからだ。

 

俺が一夏のところに行くとデュノアが一夏に改めて自己紹介をしようとしていた。一夏はそれを遮って、手をとり(デュノアが驚きの表情を浮かべた)ロッカーへと急いだ。俺はそのあとに続きながら、後でシャルルに一夏は同性愛者だから(嘘)そういう気がないならはっきり言った方がいいと伝えておこうと思った。

 

廊下を急いでいると思いがけない邪魔が入った。ミーハーな女子生徒の一団が行く手を遮ったのである。俺は彼女らの姿に、いつの日だったかに見たニュースの迷惑な猿を捕獲せんとする地元の方々を重ねた。絡まれたら時間がかかりそうだと判断したのだろう。別の方向へと走り出した彼の背中を俺とデュノアは追う。

 

無事にロッカーについた。そこで互いに自己紹介をして名前で呼ぶことを認めあった。

「ねぇデュノアってあのデュノア?」

彼はにっこりとして頷いた。

「お?次期社長?いいなぁ」

経営不振だけどな。シャルルは照れたように笑って謙遜した。

 

一夏がもうすぐ授業が始まってしまうことに気付き俺とシャルルを急かした。俺と一夏はほとんど同じ動作でシャツをボタンを外さずに脱いで上裸になる。それを見ていたシャルルはまた驚いた様子を見せた。

「はやく着替えないと遅刻するぞ。うちの担任、時間にうるさいし」

 

時間に厳しくていったい何故面倒くさがられなければならないのか。悪いのは遅刻する側だろうに。

 

「うん。怒られるとめんどくさいぞ~」

 

そんな俺たち二人の言葉を聞いたシャルルは向こう見ててと言う。わざわざ言うことではない。通常ならば。

 

俺はほとんど確信した。彼は体の傷を見られたくないのだろうと。

わざわざ彼が隠していることを見ようとは思わない。黙って背中を向けると一夏もそれに続いた。

 

不意に一夏は振り向いた。止める間もなかった。だがシャルルの焦った声が聞こえてこないので俺も振り返る。

そこにはただ着替え終わったシャルルが立っているのみであった。

 

二の腕から手の先には傷がなかった。

 

着替えるのが信じられないほど速いという驚きを一夏が代弁してくれて、

そのままシャルルの着ているスーツに話題を移した。

「これ着づらいんだよなー、引っ掛かって」

体にフィットするように作られているから肘や太ももが引っ掛かって、強く引かなければならないことが多々ある。少し汗をかいている今ならなおさらだ。

「ひ、引っ掛かって?」

 

シャルルは顔を赤らめて繰り返した。

俺はあぁと合点した。

それは確かに下ネタに縁の無い箱入りの御曹司の反応。

「一夏のはデカイからねー」

にこにこと作り笑いをして言ってみた。彼は男だからこの言葉がセクハラに当たる可能性も少なかろう。

「え!?いや、なんてこと言うのさ!」

顔を真っ赤にして彼は言った。直後、一夏においと声をかけられる。

「急にそんな話ふるなよ」

「誉めてやったんだぞ、喜べ」

はぁーと飽きれ顔でため息をつくと彼は俺を放っておくように言って、再び急いで着替え始めた。

俺もまだ着替えていなかったので、上裸になると、視界の端に頬を赤らめて顔を背けるシャルルが見えた。

 

本格的にホモセクシャルなのは彼の方かもしれないも思い始めた。

 

 

 

無事に授業に間に合った。

織斑先生は生徒たちに今日から操縦訓練を行うと告げた。今までは俺たち専用機持ちだけがISにのり、先生の指示に従って実演するという内容でその間ほかの生徒はじっとそれを見ていたのである。いよいよISに乗って訓練できると聞いて生徒の何人かは嬉しそうに小さく声を漏らした。

 

いざ訓練を始めるその前に、先生は凰とセシリアを呼び模擬戦を行うように言った。やる気を見せない二人だったが織斑先生に何かを囁かれると態度を一転させた。おそらく一夏に関係することだろう。

 

俺は凰とセシリアの戦闘を見るつもりでいたがそうではなかった。彼女らが織斑先生に話を聞こうとしていると、頭上からISが落ちてきた。そのよく見慣れた緑のラファール・リヴァイブに乗っているのは山田先生だった。落ちてくる先生を見て、俺を含めたほとんどの生徒は蜘蛛の子を散らしたように避難した。

 

ただ一人、一夏を除いては。彼の驚きに満ち満ちた声を聞いて振り向いてみると彼はただ棒立ちしていたのである。馬鹿といっては馬と鹿に失礼なほど頭が悪いと言えよう。

 

大きな音をあげて砂ぼこりが舞った。それが止むとどういうわけか、一夏が山田先生の上に馬乗りになっていた。その右手は先生の豊かな乳房をしっかりと掴んでいた。やってしまったとでも言いたげな短い叫び声を上げはすれども、右手を離さない。こういう場合、気づくと同時に反射的に手をのけるのが普通だと思うのだが違うのか。山田先生は山田先生でなにやら変なことを口走っている。それが言い終わるとやっと彼は胸から手を離し後ろにのけぞった。

今まで彼がいたところをレーザーが撃ち抜いた。ちらりと見るとなるほど、セシリアの攻撃だった。別の方向から一夏を呼ぶ声が聞こえた。ただ名前を呼んだだけだとというのに、その三文字には研ぎたてのナイフの如く鋭いものが内包されているように思えた。そのナイフの主である凰は、両手に持っていた青龍刀を一本に連結させ、ブーメランのように一夏に投げつけた。

それが一夏に当たることはなかった。山田先生がそれを撃って弾いたのだ。

 

まぁ確かに、一夏の行いが誉められたことではないのは明らかだ。

しかし当たらなかったからよかったものの、両者とも、一夏に攻撃を加えて怪我をさせてしまう可能性を考えなかったのだろうか。

 

そもそも彼女らは一夏を男性として好きなのだから、攻撃をする前に、怪我をさせられたら嫌われてしまうのではないかと思うのが普通ではなかろうか。

 

思いを寄せる男が馬鹿をやったり冗談を言ったりしたときに手で軽くこづくのが有用な一手であることはわかる。だが思うにそれが有用なのはこづく時にボディータッチが発生するからであって、痛いからではない。

 

揃いも揃って本当に頭が悪いやつらだ。

 

そもそも(ISを展開していない)人に向かってに向かって攻撃をすることは代表候補生として相応しくない行動なのではとも思う。

 

そして凰とセシリアが山田先生に手合わせをしてもらった後(もちろん彼女らは惨敗した)、グループに別れての訓練が始まった。

 

グループのリーダーは専用機持ちが務めるので、俺は群がってきた女子生徒たちに基本動作を教えることとなった。自分で言うのもなんだが、大変な人気である。一夏と俺はことあるごとにこのような目に遭っているので慣れたものであるが、シャルルはそうではない。シャルルの方を見るとやはり困惑していた。

 

改めて集まった女子生徒たちの方に向き直る。みな期待の眼差しで俺を見ていた。俺を慕い、こうして集まってきてくれたことは嬉しいが、はっきり言ってやる気が起きない。何故(色欲にまみれた流行り好きの)女子生徒たちに手取り足取り教えてやらねばならないのか。

「おっけー、そんじゃーね、出席番号順に一列になってー。右が若い数字ね」

元気に返事をして彼女らは並んだ。後ろが騒がしいのが気になって振り向いてみると、一夏のグループの女子生徒何人かが一夏に向かって頭を下げ、手を伸ばしていた。

「第一印象から決めてました!」

何かの訓練でも受けたのだろうか。四人の言葉のタイミング、内容が完璧に合致していた。

「よろしくお願いします!」

すぐ近くで女子たちの声が聞こえた。こっちの班でもか。

目線をやると一夏がやられていたのと同じことを彼女らはやっていた。

「あれじゃん。離島のやつじゃん」

俺は右から流れるように歩いてそれぞれの手にタッチしていく。どうやらそれで満足したようで全員顔を上げた。しかしその目から放たれる恍惚とした光は消えておらず、俺はそれに一種の気だるさを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

俺も男なので同年代の女子生徒たちにちやほやされるのが嬉しくないといったら嘘になる。しかし俺は異性の魅力というものをを意図的に遮る必要があった。

 

『私は確信したい。人間は恋と革命のために生まれたのだ』

 

太宰治が斜陽で綴った言葉だが、そんなわけあるか。

恋は革命の妨げにしかならない。そう確信している。よって恋と革命の両立は不可。そしてその二択なら俺はもちろん革命をとる。

 

この学園には不思議と顔の造形の整った生徒が多く集まっていて、学校生活は誘惑に満ち満ちている。それを幾度となく断ってきたので、今はもう慣れたものだ。

 

だからこうして、特に優れた容姿を持つ一夏の取り巻きたちと屋上で輪を作ってお昼を食べていても、どこか達観した視線から会話に参加することができていた。

 

 

午前中の授業がすべて終わると一夏が俺とシャルルをここに誘ったのだ。彼に気持ちを寄せる例の三人も来ていて何やら険悪な雰囲気が感じられた。俺はいつものように購買で買ったパンの袋をあけ、かじりつく。

天気はよく、外で食べるのには絶好の日だった。

 

女性陣はおのおの手作りの料理を持ってきていた。健気なものだ。

「おお、酢豚だ」

一夏の目線を追うと凰が酢豚の入ったタッパーを開けているところだった。タッパーいっぱいに詰められた酢豚は確かに美味しそうだが確実に冷めているし、彼女はそのタッパーひとつしか持ってきていない。気になったので聞いてみた。決してそこに嫌みはない。

「凰さん、白米は?」

凰は目を細めて厭悪感をむき出しにしながら答えた。

「ないけど、何か文句あるわけ?」

それが無性に頭に来た。ただの好奇心から生まれた問いを何故こんな言い方をされて返されねばならないのか。

 

「別にー?ただオカズだけって栄養バランスやべぇなって思っただけ」

 

ここでごめんと謝ることは当然できたがプライドがまた邪魔をした。

その虎のようなするどい眼をまっすぐ見る。あくまで微笑みながら。

「もう一回いってみなさいよ」

耳も遠いのだろうか。睨む凰のこめかみに青筋がたっている。

「何て言ったらいいかな。えーと........................偏った食事してるからそんな体型なの?」

 

言ってから、すぐに自分を殴りたくなった。

言わなければよかった。

 

こんな言葉づかいをしていたら今の自分の立場が危うくなるかもしれない。良好な関係を築くには波風たてず常にニコニコしていなければならないと言うのに。

 

 

 

 

 

箒とセシリアが自分の昼食を守るのが、凰がISを部分展開するのが、一夏とシャルルが焦るのが見えた。

 

胸を狙った拳を二の腕でガードすることは間に合ったが、俺は地面すれすれを飛ばされ、柵にぶつかって事なきを得た。

体のあちこちがいたい。

「だ、大丈夫?」

シャルルがそばに駆け寄ってきて俺の顔を覗きこむ。

「マジであの暴力女やべぇぞ」

笑顔を作ろうとしたが痛みと、何か別の感情に邪魔された。その表情の機微を感じ取ったのか、彼もまたISを展開して俺を両手に抱くとひらりと屋上から飛び降りて保健室に急いでくれた。廊下を飛んでいるものだから、シャルルにお姫様だっこされているのを何人かの生徒に見られて騒がれた。

それにしても前回殴られたときよりはるかに痛い。

だがどこも折れてる様には痛まず、強い打撲だけだろうと思う。

 

先生に見てもらうと全くもって予想通りだった。湿布をはってしばらくここで横になって休むことになった。

 

放課後には凰を除いたあの場にいた全員が見舞いに来てくれた。

こういうのを見ると、俺がうまく裏を演じられているのだと確信できて安心する。

「大丈夫ですの?」

セシリアが声をかけてくれた。その顔に浮かぶのは何か複雑な感情だった。

「大丈夫ではないけど....悪かったのは俺だから」

こう言ってほしいんだろうと想像がついたのでいっておいた。暴力女とはいえ、女性を侮辱したのは事実だから、セシリアが俺に抱いている気持ちもわかる。それに凰にも(少しは)悪かったと思うから。

「凰さんに伝えてくれる?悪かったって。女の子に言うようなことじゃなかったって」

どこか陰りの、憂いのある笑顔を作ってそう付け加えた。

セシリアはこくんと頷いた。

 

 

 

「謝るっていうか、話し合えよ」

 

 

突然、一夏が強めの口調で言った。いつもの柔らかさはない。目の前で起きた事件に心を痛ませているのだろうか。

「お前らずっと仲悪いじゃん」

「え、そう?」

「会話少ないし、あってもお互いトゲあるし、ずっと名字にさん付けて呼んでるし」

 

凰のことは嫌いだが、同じグループに属しているため、食堂などで一緒になることが多いので、会話しないといけない場面がいくらかあったのだ。彼女もたぶん、一夏の親友である俺を嫌っていることを一夏に知られることを怖れて、しかし可能な限りのトゲを込めて会話をしていた。

 

ばれていたようだが。

 

俺は少し考え込んで、ゆっくりと一夏に返事をした。

 

「たしかに、俺は凰さんの事が嫌いだし、向こうも俺を嫌ってる。だからって、そこにお前がしゃしゃり出てくるのは違うだろ、一夏」

 

「でもお前別に、鈴に何かされたわけじゃないだろ?」

 

一夏の声が大きくなった。

 

俺は彼の目を見て頷いた。

 

「だったら、話してみたら何か変わるかもしれないだろ」

 

友達のことを思って言っているつもりなのだろうが、押し付けがましい。

 

「今回のことは悪かったと思ってる。必要なら直接あって頭を下げようとも思ってる」

 

一夏が安心したような顔をした。

「じゃあ!」

 

俺はその顔を見ているのが申し訳なくなって目線を落とした。

 

「でも無理だ。俺はあいつが嫌いだから仲良くなりたくない」

 

ついに一夏は声をあらげた。

 

「でも鈴はなにもしてねぇだろ」

 

きっかけは廊下ですれ違ったときの一言だったと記憶している。

 

一夏と俺を比べる言葉。もちろん俺が下だった。

 

あの言葉がどんなに鋭かったか、お前にはわからないだろう、一夏。

 

こんな情けないことがどうして言えようか。

 

「黙ってないで何か言えよ!」

 

シャルルとセシリアが彼をなだめる。箒は怒っている一夏にとまどっていた。

 

「何をそんなに怒ってんだよ。人の人間関係に口出ししてんじゃねぇよ!」

 

言葉が震えていた。一度堰をきってしまうと止めどなく怒りが沸き上がってきた。

「一緒にいて不快な人間とどうして仲良くしなければならない?」

じっと彼の顔を睨む。彼もまた、俺を睨んでいた。

「そんな言い分が許されると思うのか」

「なんでお前に許されなくてはいけないんだ?」

こんなに一夏が怒ってるのは、凰が彼にとって大事な友達だからか。彼女が嫌な思いをしないよう、俺を変えようとしているんだろうか。

 

なるほど、女子から人気があるわけだ。俺とはまるで違うじゃないか。

 

そういえば今日の授業でも、彼のところに集まった女子の数は俺より二人多かった。

 

違う、ダメだ。何を気にしているんだ。比べても意味なんかない。劣等感なんか抱かなくていい。

 

「えーと、一夏、一回落ち着いて、また来よっか」

 

シャルルがわずかな沈黙の間にするりと割り込んだ。

 

ね?と声をかけられても、一夏はまだ言い足りないようでしばらく俺を睨んでいたが、やがて一人で保健室を出ていった。それを箒が追った。セシリアもそれに続いたが途中で俺を振り向いて、それから出ていった。悲しそうな目をしていた。

 

シャルルと二人きりになった。

 

「シャルルはあっち行かなくていいのか」

 

彼は爽やかな笑顔で言った。

「一夏には支えてくれる女の子たくさんいるからね」

 

「...俺がモテないって言いたいの?」

 

彼はあははと笑って否定した。

 

カーテンの隙間から入る光がうっすらと茜をさして、掛け布団の上におかれた俺の手の甲まで届いた。

 

「シャルルは、俺は凰さんと話し合うべきだと思う?」

 

彼は目線を俺から外し、薄暗い保健室の机にある薬箱などを眺めながら考えていた。

 

「亮太郎が凰さんをどう思ってるとかは関係なくてさ、これから今日の件で一夏と変な感じになりたくないなら、会って話をすべきじゃないかな」

 

確かに変な感じになんのは嫌だなと思ってしまって、いらっとした。でも、やはり、ここでの人間関係は大事だから、修繕しておこうかとも思う。

でもやはり、一夏が嫌いなのだ。嫌っていたいのだ。彼が悠々と物を成し遂げるのが気にくわないのだ。

 

「一夏は良い奴だ。今回のことも凰さんと俺のことを考えてのことだろうけどさ」

 

ぽつりぽつりと言葉が漏れた。俺は自分が思っている以上に弱っていた。

 

どうすれば良いかわからなくなった。プライドを捨てて、一夏に謝りにいくことはできる。凰と話し合うこともできるけれど、プライドを捨てて、そして残るのは何だろうと考えると、とても怖いのだ。

 

「悩むんだったら、話し合っちゃってもいいんじゃないかな」

 

顔をあげるとシャルルの少し紫がかった瞳がまっすぐに俺を見ていた。

 

「悩むってことはそれだけ大切な友達ってことでしょ?」

 

確かに、悔しいけれど彼は親友だ。それに、やらないで後悔するよりやって後悔した方がずっといい。

今までならそう思っていただろう。今は一夏を果たして親友というポジションに置いておいて良いものかと懸念し始めている自分がいる。

しかしやはり、この学園での立場を今後も引き摺る可能性があるのだから関係を修復することにした。

 

どうするべきかシャルルに聞くと、夜に部屋に来いと言われた。何だか妙に説得力があった。俺は迷わずに頷いた。

 

 

 

シャルルが保健室を去ってから、会ってまだ一日と経っていないのに彼には心をだいぶ許せたことに気づいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜。

 

シャルルと一夏の部屋の前に立った俺は一息おいて、できるだけいつも通りドアを開けた。

 

部屋に入るとシャルルが笑顔で迎えてくれた。奥の一夏が一瞬戸惑った顔をして、結局、俺を睨むことにしたようだ。

 

だが睨まれようと関係ない。

 

俺は一夏の名を呼んだ。

 

「なんだよ」

 

不機嫌そうな声色だが、作り物だとわかった。

 

「凰さんのLIMEくれ。それと悪かったよさっきは」

 

一息に言った。眼前の一夏はポカンとしていたがすぐに我にかえって言うのだ。

 

「俺も言いすぎた。シャルルに怒られちゃってさ。いろいろ考えて、今は俺も間違ってたと思う。ごめん、あんなこと言って」

 

そして笑った。本当に屈託のない笑顔だ。こんな風に正直に笑えるのも羨ましい。そして憎たらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ連絡先送るぞ」

 

シャルルの隣の椅子に座った一夏が端末を操作してしばらくすると、俺の端末が振動した。

 

ベッドにぐてんと横になる。

ユーザー名は、りん。俺はそれをタップして、友達追加をして、入力バーを押して、そして指を止めた。

 

「何て言えば良いと思う?『明日の放課後、屋上に来い』?」

 

シャルルと一夏が考え込む。一夏が顔をあげた。

 

「『言いたいことがあるから、明日の放課後、屋上に来てくれないかな』はどうだ」

 

「いやいや、告白じゃねーんだから。勘違いされたらどうするんだ」

 

「しないでしょ、この状況で」

 

シャルルが笑ってつっこんで、そして新たに提案をした。

 

「やっぱり、『今日はごめん』とかから書き出したら?」

 

シャルルの案が良さそうなので続きを俺と一夏とで促した。

 

「うーん、『直接会ってちゃんと謝りたいし、少し話もしたいから』って感じでどうかな?」

 

俺はそれにダメ出しをする。

 

「『少し話を』と言うところが抽象的で分かりにくくないか?」

 

「でもそうしたら『友達になってほしいんだけど』になるよ?」

 

ダメだそれは避けたい。

 

まて、大事なことを見落としていた。

 

「そもそも、来てくれるのか?その呼び出しに」

 

あー、とシャルルは一夏を見る。

 

「来ると思うぞ。アイツは無視するような陰湿なヤツじゃない」

 

そうか、と安心してため息をつく。

 

「てか、ホントに告白するみたいじゃんかこれ」

 

「好きなの?」

 

シャルルがとんでもないことを言う。俺は体を起こして首をぶんぶん横にふって言った。

 

「ないないない!」

 

一夏は叫ぶ。

 

「鈴はなにもしてないだろ!」

 

「キレとるやないかーい」

 

立ち上がって寄っていって、ぽんと彼の頭を叩いたら、三人の間に笑いが起こった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、『今日はごめん。明日の放課後なんだけど、直接会ってちゃんと謝りたいし、少し話したいこともあるから、屋上に来てくれない?』に決定でいいね?」

 

シャルルの問いかけに俺と一夏は力強く頷いた。

 

シャルル監修のもと、しっかりと文字を入力した俺は凰にそれを送った。

 

既読がつくのが怖いから急いでひとつ前の画面に戻る。

 

そういえばシャルルと連絡先を交換していないことに気づいたので急いでそれを済ませた。

 

「じゃあ、歓迎パーティーやりますか」

 

俺が言うと一夏はクローゼットをごそごそやって、スナック菓子を持ってきた。

 

俺は冷蔵庫を開き、俺がいつか飲むだろうと買って冷やしておいた清涼飲料をとりだし、コップに注ぐ。

 

まぁまぁ楽しかったし、シャルルも会って一日とはいえ、親友だと呼ぶことに躊躇いがなくなるほどの仲になった。

 

色々会って疲れていたのだろう。まだ就寝時間三十分もあるのに三人とも眠気がだいぶ回り始めた。

 

用を足して、帰ろうとおもってトイレに入ったところで俺の眠気が吹っ飛んだ。

 

とあるものが視界に入ったのだ。

 

それはなんの変哲もないもののはずだった。

 

一般的にそれに触れることはタブーだが、しかし俺も一夏も知っていて普通の代物。

 

この部屋に箒がいた頃からそれは会って、でも絶対に触れてはならないもの。

 

彼女がそれをどう扱ってきたかは、この部屋に馴染みの深い俺は目についてしまっているから知っている。

 

そしてこの扱い方は箒のそれではない。

 

では一夏が?それも考えられない。そんなこと人としてあってはならない。もしそうだとすると、辻褄が合わなすぎる。

 

ではシャルルが?それも考えられない。もしそうだとすると、辻褄が合ってしまう。朝に抱いた疑問すべてを解決してしまう。

 

俺は必死に反証可能性を探した。探せば探すほど、俺にはその考えがまとわりつき、そして最後には確信に変わった。

 

俺はもう一度それを見た。

 

トイレの端にちょこんと置かれた小さな蓋付きのごみ箱。

 

そこから覗いている、箒がいたときには決して出ることがなかった、ビニール袋の端を。

 

 

 




遅くなった!ごめん!文字数マシマシだから許して!

書いたプロットが嫌になって練り直してたの!

誤字脱字は任せた!

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