新大陸に悪魔的なアイルーが来たら…というお話。 

 単発ネタです。

 改造ダメ。ゼッタイ。




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うわっ…私のオトモ、悪魔すぎ…?

 第5期調査団。

 

 それは、新大陸と呼ばれる土地にて起こる古龍渡りを解明するべく派遣される、誉れある者達のことです

 自己紹介遅れました。

 私は、今回第5期調査団に推薦された新人ハンターの一人です。

 訓練所の教官に扱かれること一年。あまりにもキツイ訓練に枕を濡らすことも度々多かったですが、それでも優秀な成績を収めることにより、見事主席で卒業することができ、結果的に調査団に推薦されるに至ったのです!

 

 この古龍渡りの謎を解明できれば、調査団の名は永遠にギルドの歴史に刻まれ、私の名前もきっと……!

 

 涙を流して喜んでくれたお父ちゃんやお母ちゃんも、きっと故郷で喜んでくれること間違いなしです。

 しかし、新大陸は気候が非常に不安定な場所。

 どれだけ帰りたくなっても、そうすぐに帰ることができない場所に存在している訳なのですが……私ならきっと大丈夫。

 

 新大陸でもうまくやっていけます!

 

「それでは、ここに居るのがこれから君のオトモとなるアイルーだ」

 

 

 

 そう思っていた時期が私にもありました。

 

 

 

「は、ははっ……」

 

 乾いた笑いとはこのことなのでしょうか。

 私の目の前に居るのは、これから狩りを共にしてくれる心強い仲間であるオトモアイルーです。

 アイルーとは、猫っぽい獣人族のこと。

 もふもふでキュートな見た目のあんちきしょうです。

 

 しかし、私の目の前に居る物体はなんですかね、これ。

 

 二メートルを超える巨躯。

 丸太のように太い腕や脚。

 その筋骨隆々の体の至る所には痛々しい傷跡が。

 多分、ラージャンをコンパクトにしたらこんな感じになるんだろうな~っていう見た目ですね、はい。

 

「お初お目にかかる。これから貴殿の世話になるオトモだ。よろしく頼む」

 

 あ、礼儀正しい……。

 

 でも、見た目の恐さが全てを凌駕しています。

 

「は、はろー。ないすみーとぅー。ははっ、さんきぅ……」

「うむ」

 

 ほら、変な挨拶しちゃった。

 そんな私に嫌な顔見せず手を差し伸べてくれるオトモアイルー……いや、オトモさん。

 これを拒めば、その丸太のような腕で首をもがれそうな気がしたので、素直に手を差し伸べて握手します。

 

(堅っ!?)

 

 え? 肉球ってこんな堅いものでしたっけ? もっとムニムニでプニプニなものじゃなかったっけ?

 まるで小さなグラビモスが宿っているような感触の肉球。

 一体どうすれば、肉球がこれほどまで堅く育つものなのか……グラビモスとかウラガンキンみたいに鉱物とか食ってるんじゃないですかね。

 

 なんか色々と先が思いやられます。

 私は! 私はきゃわいいオトモを狩りの後にモフりたかったんです!

 なのにやって来たのは、モフモフとは程遠い圧縮したラージャンみたいなオトモさん。いや、モフれる程度の毛皮はありますよ? でもね、ラージャンを『かわいい~♡』って言ってモフれるのって、どこぞの第三王女ぐらいじゃないですか。

 

「さて、第5期調査団諸君」

 

 あ、なんかもう見送りしてくれるギルドのお偉いさんが締めに入りましたよ。

 チェンジは認められないですか? 直接口に出せない私の気持ちを察して、誰かオトモをチェンジしてくださる狩り人は居ませんか?

 おい、そこの男。

 私はお前が訓練所時代に、美人ハンターが使い終わった訓練用の狩猟笛を舐めたこと知ってるんだからな? 今ここで叫んでやってもいいんだぞ? おい、聞いてるのか? 私の想いよ、届け!

 

「ふっ、武者震いとは……主殿もまさしく狩り人に相応しい者よ」

「ありがとうございます」

 

 はい、ダメでした。

 

 あまつさえ、このオトモさんに意気込みよしと受け取られた模様。

 ダメだよ、お父ちゃんお母ちゃん。私、新大陸でやっていけそうにないよ。

 

「―――もし覚悟が失われたのなら、ここで引き返すことをすすめよう」

 

 全力で引き返したいです。あ、ダメですか?

 

「それではこれより、新大陸に向け出港する!」

 

 ……誰か私の救難信号を受け取ってください。

 

「主殿、それでは往こう」

「あ、はい」

 

 こうして、私とオトモさんとの新大陸生活は始まるのでした。

 

 

 

 *

 

 

 

「って、言ってる傍から速攻ピンチぃぃぃい!!!」

 

 な ぜ こ う な っ た ?

 

 せめて悠々とした船旅をと思い、今日まで過ごしてきました。

 幸いなことに、オトモさんは普段は訓練として甲板で瞑想することが多かったので、あまり接触する機会はあまりありませんでしたよ。

 ですが、親睦を深めるためにと食事は共にしていたのです。

 

 好物はサシミウオとのことで、『あら、カワイイ』と思うのも束の間、次の瞬間新鮮な生のキレアジをバリボリ貪る様を目にし、心の蔵がキュッと締め付けられる感覚を覚えましたね。

 次は貴様だ。暗にそう言われてる気がしたのです。

 

 まあ、それはどうでもいいとして……問題はこの現状ですよ。

 

「なんで船が九十度傾いてるんですかあああ!?」

 

 私たちを乗せていた船は、突如として海の中からせり上がってきた火山に乗り上げ、乱入クエストばりの唐突さで船の甲板クライミングを始めるに至っております。

 しかし、ハンターたるものこの程度の傾斜(九十度)、なんてことはありません。

 

 絶対傾斜なんかに負けたりしない!

 

 ですが、舞い上がった海水で濡れてる甲板は滑りやすい訳でして。

 

 ズルッ。

 

「あっ……ああああああ!!?」

 

 傾斜には勝てなかったよ……。

 

 と思うも束の間、私は手を滑らせて海だかマグマだかわからない下へと落ちていきます。

 ああ、いい人生でした……せめて最後にオニマツタケの炊き込みご飯が食べたかったですが。

 

 しかし、そこに助けにやってきてくれた救世主が!

 

「主殿!」

「お、オトモさん!」

「今助けます故!」

 

 やだ、カッコイイ……!

 

 ラージャンの空中グルグル回転アタック並みの身のこなしで駆けつけてくるのは他でもありません、私のオトモさんです。

 

 そんなオトモさんは私の腕をつかむや否や、その丸太の如き腕を甲板に突き立て、落下を阻止。

 うん、凄い音鳴りましたね。おかしいですよね。船の甲板に使われている木材って、そんな薄いハズないですよね。でも、私の目には明らかに貫通しているレベルで腕が突き刺さっているように見えている訳でして。

 

「主殿、駆け上がります故、しっかりとつかまっていて下され」

「へ?」

 

 おかしいですね。掴まるものがあれば、九十度の壁でもホイホイ登れるハンターですが、流石に脚だけで駆け上がることは不可能ですね。

 ましてや、人一人抱えてなんて。

 

「破っ!!!」

「ぎゃひいいいい!!?」

 

 ああ……私は今、風となりました。

 きっと、クシャルダオラの起こす竜巻に呑み込まれたら、こんな感じなんでしょうね。髪とは皮膚とか色々後ろに持っていかれそうな風圧が私を覆い、

 

「ふっ!!!」

「おごえっ!!?」

「……大丈夫か、我が主殿よ」

「だ、だいじょうぶデース。心配いりまセーン」

「承知」

 

 高いところから降りた時って、内臓がふわってなりますよね。

 でも、実習の『は? こんなところから落ちたら絶対死ぬだろ。押すなよ、絶対』訓練の高所から降りた時でさえ感じなかった衝撃が私の体に奔りました。

 

 喋り方も思わずカタコトになっちゃいましたよ。

 

 そんなこんなで世界の終わり感バリバリのどこかに着陸した私とオトモさん。

 本当にここで世界の終わりで、世界に私とオトモさんしかいないのであれば、もれなく私は自害するところだったと思いますが、流石に助かってすぐに命を無駄にする覚悟なんてありません。

 私はこう見えてチキンですよ。

 訓練所時代は、太刀を使えば突きと斬り下がりだけでモンスターを倒すようなハンターでしたから。

 そのお陰で乙ったことはありませんがね! 未だ、フルフルに呑み込まれてもティガレックスに貪られても助けてくれているネコタクにはお世話になっていないのですよ!

 

 まあ、ですが海だか火山だか分からない場所に落ちても助けてくれるかは謎なところ。

 そもそもこれクエスト外ですしね。契約外です。ここで倒れたら、誰も……いや、このオトモさん以外助けてくれることはないでしょう。

 

 閑話休題。

 

 オトモさんに担がれ、変な山みたいな場所を移動する私たちは、船の中で出会った女性と再会。

 それから彼女の案に乗り、翼竜に捕まって脱出を提案されたのですが……。

 

「オトモさんはどうするんですか?」

「案ずること勿れ、主殿。己が命、己が守るのみ」

「あ、ハイ」

「さあ、お二方。急ぎ、この場から―――」

 

 刹那、地面に激動が奔ります。

 まずい、と思った時に私達は突然の傾斜に足下をすくわれ、滑り台の如く滑って空中へ放り出されました。

 マグマで熱いのだか海風で寒いのだかよくわからない状態の中、無我夢中でスリンガーから伸びるワイヤーを、近くを飛翔していた翼竜へ引っ掻ける私。

 続けざまに飛び込んでくる女性の方もキャッチして、なんとか脱出に成功に至ったのですが……。

 

「オトモさん!?」

 

 自分の身は自分で守る的なことを言っていたオトモさんの姿が見えません。

 まさか、この荒れ狂う海に落ちて……!?

 

「ずぇああああああああ!!!」

 

 ―――ませんでした。若干予想はしてましたよ。

 上空でもわかるくらいの雄叫びを上げる巨体が、なんか海の上を走ってらっしゃいますね。

 なんて美しいフォームなのでしょう。思わず見とれてしまいますね。というか、海の上を走るってなんなんでしょうね。でも、割と自然に受け入れられている自分が怖いです。

 

「主殿ぉぉぉおおお!!! 新大陸で相見えましょぉぉぉおおお!!!」

 

 オトモさん、怖いです。

 

 嵐を抜けた先の晴天と、オトモさんの声に導かれた私達は、ようやく新大陸に到着(ついらく)するのでした。

 

 

 

 *

 

 

 

数多の竜を駆逐せし時 悪魔はよみがえらん

数多のミツムシを寄せ 罠を張り 大盾を得た時

彼の者はあらわれん

土を焼く者(走る際の足裏の摩擦熱で)

【くろがね】を溶かす者(殴り続けた熱で)

水を煮出す者(筋肉の発熱で)

風を起こす者(掌で仰いで物理的に)

木を薙ぐ者(もちろん物理的に)

炎を生み出す者(種火石を投擲するだけで)

その者の名は オトモさん

その者の名は 悪魔の猫

その者の名は 避けられぬオトモハンターの誕生

腕あらば撫で回せ

魚あらば差し出せ

ソーセージもあるなら差し出せ

オトモさん

(ハンターとしての名声的な意味での)(人間としての失墜的な意味での)とを覆い尽くす

彼の者の名を

(ハンターとしての名声的な意味での)(人間としての失墜的な意味での)とを覆い尽くす

彼の者の名を

彼の者の名を

 

 

 

 *

 

 

 

 新大陸に来て、どのくらいの時間が経ったのでしょう。

 

「主殿……遂に、ゾラ・マグダラオスと相見える刻っ……!!」

「ハイ、ガンバリマショウ。オトモサン」

「ふっ、この新大陸の命運をかけた一戦を前に武者震いとは……矢張り主殿は生粋の狩人(ハンター)よ」

 

 貴方の放つ覇気で震えてるなんて、口が裂けても言えません。

 言ったら、何時ぞやの毒妖鳥(プケプケ)のように舌を引っこ抜かれそうな気がするので。

 

 ……え? どういうことかですって? では、少しばかりオトモさんの武勇伝をば。

 

 新大陸に赴いてから、(案の定)無事であったオトモさんと拠点アステラで再会した私達は、共にゾラ・マグダラオスの背中から脱出した女性―――受付嬢さん、正式名称は編纂者さんと共に、相棒となって調査に励んだのです。

 

 そして明らかになるオトモさんの実力。

 それはもう、私がオトモになる勢いでしたね。

 

 要約すると、こんな感じ。

 

 賊竜戦。腹を空かせたドスジャグラスにオトモさんが飲み込まれてしまったのですが、次の瞬間には腹から突き破って出てきました。あの時降り注いだ血の雨を、私は恐らく一生忘れないと思います。

 

 掻鳥戦。クルルヤックが跳びかかり、振りかぶってきた石ごと、彼の鳥竜をアッパーで粉砕してましたね。

 

 毒妖鳥戦は、上述の通り。アステラの資料で『急接近ベロベロ攻撃』と称される舌での攻撃の際に、それをいなし、あまつさえ口からデロンと出ていた舌を引っこ抜いてました。蛙さんが胃袋を吐き出す時の光景と似ていましたね。

 

 土砂竜戦。ボルボロスの突進を、片手一本で受け止めた姿には感動さえ覚えました。あと、ボルボロスが振り撒く泥を、手で仰いだ風で吹き飛ばす様は圧巻でしたね。

 

 泥魚竜戦。なんか、手刀で泥の湖を裂いてました。それしか表現のしようがありません。そして打ち上がるジュラトドスを、肉迫したオトモさんが頭部に手刀を叩きこみ、延髄を粉☆砕。『魚はこう〆るのが正解也』と呟くオトモさんの笑みが恐ろし過ぎて、失禁しそうでした。

 

 飛雷竜戦。これまた珍妙な名前の攻撃『樹上からの滑空帯電回転攻撃』という、早口言葉にありそうな攻撃を受け止め、そのまま一本背負いで仕留めてましたね。静電気で全身の毛が怒髪天を衝く感じ。軽く失禁しました。

 

 蛮顎竜戦。これは私がヘマをやらかしてしまいましてね。不意に転んでしまった時、ちょうどアンジャナフが火炎放射攻撃を放ってきたのです。ああ、これはダメなんじゃないかな、と思ったその時、私の目の前に飛び出してきたオトモさんが、地面を踏み砕いて岩盤をめくり上げ、それで火炎放射を防いでくれました。後? 後はなんか、飛び出してた鼻をワンパンで砕いてましたよ。

 

 そして、一度調査拠点総出で行った烙山龍戦です。バリスタの弾を投擲槍みたいに投げたり、大砲の弾を砲丸投げみたいに放り投げ、次々にゾラ・マグダラオスの部位破壊を進める様は恐ろしくも頼もしかったですね。でも、一番恐ろしかったのはそんなオトモさんに順応している自分です。『ああ。まあ、オトモさんだし』で大抵のことが納得できる自分が怖い。

 

 でも、流石にトントンで進んだ訳がなく、途中で乱入してきた滅尽龍ネルギガンテにより、拘束弾が外されてしまい失敗。最後、オトモさんが体一つでゾラ・マグダラオスを食い止めようとしてましたけど、十秒くらいしかもってなかったですね。本人曰く、腹が空いたのが喰いとめられなかった理由っぽい。

 その時の、涎を垂らすオトモさんの顔……怒り喰らうイビルジョーみたいでした。怖い。ソードマスターさんも『修羅よ……』って呟いてましたもん。

 

 で、陸珊瑚の台地に赴いての調査へ。

 

 浮空竜戦。首の周りにガスを溜めて浮遊するパオウルムーを、オトモさんはその辺に落ちてた石ころを投擲し、膨らむ皮膚に風穴を開け墜落させてました。もうこの程度じゃあ驚きませんよ。

 

 骨鎚竜戦。転がってくるラドバルキンを真正面から受け止め、そのまま停止。その後、体中から伸びている骨という骨と、鉄拳、手刀、掌底で悉く破砕し、その骨の鎧を剥がして真っ裸にしていました。まだです。まだこんなもんでも驚きません。

 

 風漂竜戦。レイギエナの氷結攻撃を見に受けたオトモさんが、『解!!!!!』と叫ぶや否や、体から発せられた蒸気を伴う熱で、まとわりついていた氷を一瞬にして剥がしてました。あの時のレイギエナの怯えた顔も、私は一生忘れないでしょう。さらば、陸珊瑚の台地の主よ……。

 

 そして、瘴気の谷での惨爪竜戦。飛び出した受付嬢さんにオドガロンが襲い掛かり、それを救おうと出会ったことのあるおばさまが助けてくれようとした訳なのですが、まあ、オトモさんが居ますし。

 オドガロンとの背後の取り合いを制したオトモさんが、オドガロンの心臓を一突きで抉り出してました。

 オトモさん、お前が(瘴気の谷の)ナンバー1だ。

 

 烙山龍の痕跡も集め終えた我々は、古代竜人の導きで火竜と角竜の狩猟に赴くことに。

 

 火竜戦。低空飛行するリオレウスの尻尾をオトモさんが掴み、そのまま自然の堤防へリオレウスをシュゥゥゥーッ!!!

 流れる激流に呑み込まれ落ちていくリオレウスに、最後は宙より舞い降りたオトモさんが、渾身の一撃を頭部に叩きつけ、その命を刈り取りました。

 

 角竜戦。突進してくるディアブロスを、何時ぞやのボルボロスの如く受け止め、『ぬぅん!』と気合いの入った声を上げ、立派な二本の角を破砕。泣いていいですよ、ディアブロス。まあ、鳴くより前にオトモさんに仕留められてましたけど。

 

―――そんなこんなで、我々は再びゾラ・マグダラオスの前へ!

 

 終焉の時を迎えるゾラ・マグダラオス。その命の終わりをこの地脈回廊で終わらせてしまっては、彼の内を巡る膨大なエネルギーにより、新大陸の生態系が終わりを迎えてそうなのです。

 故に、総力を以てゾラ・マグダラオスを海の方へと追いやるのが、今回のクエスト!

 

「久々に真面な狩りができる……!」

 

 オトモさんはゾラ・マグダラオスの背中に乗らず、障壁にてバリスタや大砲での援護に回ってくれています。勿論、素手での投擲ですよ。

 そうしてオトモさんや他のハンターさんたちが頑張ってくれている間、私は背中排熱器官の破壊に没頭していました。

 なにせ、真面に武器を振るえるのはこっそり赴く調査か闘技大会ぐらいですもん……!

 

 まったく武器を振っていないのに、どんどんハンターランクが上がっていくもんですから、毎晩プレッシャーで胃痛がひどく、料理長や受付嬢さんの作ってくれる料理が腹に入らないこと入らないこと……。

 

 そうしていると、オトモさんが『主殿、大丈夫か?』と聞いてくるので、そのラージャンの如き視線を受けつつ、毎度残さず食べる羽目になりまっていました。今? お腹の中は瘴気の谷並みに凄惨な状況となっておりますが、なにか?

 

「破ッ!!!」

 

 今この瞬間も、オトモさんの素手投擲攻撃は続いております。

 

 砲弾とバリスタの嵐は、ゾラ・マグダラオスの背中に降り注ぎ、時折私のすぐ近くに着弾したりしては背筋が凍るような思いを覚えますね。

 ですが、ゾラ・マグダラオスが怯んでいますので、私の我儘ではどうにもなりゃあしません。

 

 呑気にやって来たネルギガンテも、オトモさんの正確無比な砲弾をその身に受け、泣く泣く撤退していきやがりましたよ。

 あれ? でも、あそこまで正確に狙えるのであれば、私の近くに着弾しているのは何故なのでしょうか? ヤダ、凄い怖くなってきました。ゾラ・マグダラオスさん、どうか私をどこか遠い場所へ連れて行ってください。

 

 ……と、現実逃避している間にも排熱器官はほとんど破壊。

 残るは、障壁や船に積まれている大砲やバリスタ、拘束弾、そして船に搭載されている撃龍槍を駆使し、いざゾラ・マグダラオスを導く時!

 

「撃龍槍は!?」

「いけるぜ、じいちゃん!」

「よし! 撃龍槍……撃てぇぇぇええ!!!」

 

 リーダーさんが祖父であり総司令とやり取りし、終に最終兵器である撃龍槍を発射。

 対巨龍用に開発された、我々人類が誇る最高峰の一撃が、山の如き巨体を有すゾラ・マグダラオスへ見事命中!

 咆哮を上げ、体勢をのけ反らせるゾラ・マグダラオス。

 尚も撃龍槍は、その岩壁のように硬い甲殻を削るよう回転しております。

 

 イケる、これはイケますよ!

 

「やったか!?」

「バカ! お前、それはだな……」

 

「―――あ」

 

 どこぞのハンターが旗を立てた瞬間、のけ反っていたゾラ・マグダラオスを体勢を立て直し―――障壁へ突進開始。

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!? 止まってえええええ!!!」

 

 このまま障壁を突破されてしまっては、二度と彼を地脈回廊から追い出すことが不可能になります。

 

 =死。

 

「まだ死にたくないですぅぅぅううう!!!」

「―――視よ」

「え……?」

 

 不意に、障壁の上に佇む影が後光に照らされ浮かび上がる。

 ……ここ洞窟ですよね?

 いや! これは、導蟲が青い光を放ち、天を指さすオトモさんを取り囲んでいることによる光!

 

「ッ! 聞いたことがあります! 導蟲は、古龍や歴戦の個体のような強力なモンスターに、青い光を放って集まっていく習性があると!」

 

 受付嬢さん、凄く興奮して解説してくれております。

 というか、今の説明で行くとオトモさん歴戦の個体か古龍のどちらかになるんですが……まあ、あながち間違いじゃない気もしますね。そう思う確実に私は毒されております。今更です。

 

 そうこうしている内に、青く輝く導蟲がオトモさんの指さす頭上に集う様は、まるで―――。

 

 

 

「我等調査団が下に、導きの青い星が輝かんことを……」

 

 

 

「ッ、オトモさん!」

 

 私が声を上げた時と、ゾラ・マグダラオスが障壁に衝突したのはほぼ同時。

 しかし、その一瞬前に腰を落としたオトモさんが、突きの構えをとったのが微かに見えました。

 

 刹那、放たれる渾身の突き。

 

 大地と大気と海。それは新大陸全てを揺るがすような衝撃を周囲へ爬行させていきます。

 ゾラ・マグダラオスの頭部に直撃したオトモさんの一撃。以前と同じであれば、オトモさんは彼に押されて後ろに下がっていたことでしょう。

 しかし、全身全霊―――己の全てをかけた一撃は撃龍槍さえ超越するほどの激烈な一撃と化し、噴火寸前の火山の鳴動さえも……。

 

「グオオオオオオオオッ!!!」

 

「ゾラ・マグダラオスが……」

「海の方に……!」

「―――成功です!!」

 

 押し退けてしまうのでした。

 

『うおおおおお!!!』

 

 海の方へ眠りにつかんと去り行く龍の雄叫びの次に、地脈回廊を揺らしたのは、この場に居る全ての者達の雄叫び。

 そして、彼の烙山龍さえも退かして見せた、一匹のアイルーへ投げかける感謝と称賛の声なのでした。

 

 

 

 

 

……いや、あれアイルーなんですか?

 

 

 

 

 

 *

 

 

 

「―――亜種と、烙山龍以外にこの新大陸に集いし古龍たち……主殿、腕が鳴るな」

「はい」

「聞けば、彼の健啖の悪魔も海も渡ってきたと聞く。今こそ、我等が新大陸の生態系を守る時」

「はい」

「いざ往かんとしよう、主殿」

「……オトモさん」

「む」

「―――解雇はできませんか?」

(あた)わず」

「ハァ~イ」

 

 新大陸へ赴くハンターへ、私から一言。

 

 

 

―――オトモアイルーは、しっかりゆっくり自分の意思で決めましょう。

 

 

 

*おしまい*

 



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