インターンシップ中に会社が傾きかけたやべぇ案件を解決するのに滅茶苦茶貢献して、入社と同時に会社の主力製品になり得る新プロジェクトのリーダーになって
若手を率いてバンバン結果を出して、海外の新支店の設立もバリバリ推し進めて、一年の内に新商品の覇権を確立した社長の息子にして滅茶苦茶やり手の超若手の役員って感じですかね?
なんやコイツ……
11月20日
リィン・オズボーンがノーザンブリアの暫定統括官へと就任して4ヶ月が過ぎた。
この時期になってくるとリィンの忙しさも一段落しつつあった。
基よりリィンはあくまで一先ずの急場を凌ぐためと土台作りのための臨時の存在に過ぎない。後任のノーザンブリア総督に後を委ねるための準備というのをそろそろ始める必要があった。
幸いな事にリィンの後任としてやってきた、エリオ・ブラッケとクリストフ・ヴァーゼル中将の両名は能力にしても人格にしても折り紙つきである。
エリオ・ブラッケは革新派のNO3として知られる文官であり、カール・レーグニッツ知事の盟友として幾つもの改革を成し遂げてきた能吏であり、クリストフ・ヴァーゼル中将もまた軍部皇道派の重鎮として第七機甲師団を率いる良将だ。そしてどちらも温厚で理性的な紳士として評判でもある。彼らならば、「属州」だからとこの地の民を見下すこと無く、上手くやってくれる事だろう。
そんなわけで今のリィンは徐々に一人で抱え込んでいた仕事をヴァーゼル中将とブラッケ総督候補へと委ね始めている真っ最中で、徐々に時間が空くようになってきたのだ。無論時間が空いたと言っても、暇を持て余すような真似はしない。己が剣に磨きをかけたり、ブラッケ総督候補と親交を深めたり(彼の愛息子はリィンの一個上の先輩であり会長を務めた事から、その辺りで盛り上がったりもした)とやることなど幾らでもあった。
トールズOBとしてトールズ士官学院の伝統を守るためにヴァンダイク学院長とオリヴァルト理事長の援護射撃を行い、殉職した部下の遺族への手紙を書いたり等である。特に後者は司令官としては避けて通れぬ重要な事であった。
《北方戦役》は戦役という名とは裏腹に脅威的な速度で終結し、そのため犠牲者らしい犠牲者も
少なかろうと犠牲者は確かに出たのだ。祖国のために、彼ら自身が掲げた彼ら自身の理由のために、リィン・オズボーンの
謝罪する気はない。自身の失着で命を落としたというのならば、詫びて然るべきだろうが、最善を尽くしたという自負がリィンにはある。
そして散っていた彼らもまた「軍人」だ。自身の意志で、それぞれ掲げる理由に違いはあれど、その命を賭ける事を自分自身で決めたのだ。
ならば、それについて謝罪するのは彼ら自身の意志を貶めているも同然で、甚だしい思い上がりだろう。
故にこそ綴るのは彼らが如何にして散ったか。如何に素晴らしい軍人であったか、それらを死んだ者の直属の上官、戦友達からも話を聞きながら手紙を書き上げる。
他ならぬリィン自身が決して忘れないように。己の魂へと刻み込む為にも。
リィン・オズボーンの命令によって散っていった部下のことを絶対に忘れないために。その命尽きる最期の時まで彼らを背負い続けるためにも。
あるいは手紙ではなく、直接部下の遺族の下を自分自身の足で訪ねるのが筋かとも思ったが、
「閣下の為さろうとしている事は正しいですが、余りにも
・・・
12月1日
「以上の事からノーザンブリアの世論は極めて帝国に友好的であり、これ以上この地で我ら情報局の介入は必要ないと判断。最低限の人員を残し、我々は一足先に失礼させていただきます」
「鉄道憲兵隊の方も同様に」
「ご苦労だったアランドール少佐、リーヴェルト少佐。此処までノーザンブリアの復興が順調に行ったのも一重に君たち情報局とTMPの協力があればこそ。改めて礼を言わせてほしい」
親しき仲にも礼儀あり。そんな言葉を体現するかのように三者の間で交わされる言葉は公人としてのもの。
今この場に居るのは同じ鉄血の子どもの義兄弟ではなく、帝国正規軍少将と情報局少佐に鉄道憲兵隊少佐。
そんな上官と部下としての関係を前面に出したものだ。
「いえいえ、そう大した事はしてはいませんよ。偏に閣下のご威光の賜物かと。
……真面目な話クロスベルに引き続き、拍子抜けする位に上手く行きましてね。
おかげさまでそう大した苦労はしていないんですよ」
それは紛れもないレクターの本音であった。
ノーザンブリアの地は驚くほどの速さで親帝国へと傾いた。
それを為し得たのはほとんど犠牲らしい犠牲を出さずに最速で併合に成功した上で、紛れもない善政を目前の統括官が敷いたからでもあるが、それにしても拍子抜けする程に上手くそして帝国にとって都合の良い方向へと傾いたのだ。
それはかつてクロスベルの地で目前の義弟が指揮を執った時にもあった事で……
「……本当に閣下は女神に愛されているのかもしれませんね」
どこか畏怖の感情を覗かせながらクレアは呟く。
神がかっているという表現があるがクロスベル併合以後のリィンがまさしくそれだ。
決断は素早くそれでいて的確で無謬であるとさえ、錯覚するような領域である。
そしてまるで運命が彼に味方しているかのように、凄まじい速度で道が開けて行く。
此処まで来るのに1年は懸ると踏んでいたというのに。
「そっぽを向かれぬように気をつけたいところだな。
とかく神にしても人にしても、その寵愛を当たり前だと奢った者はあっという間に愛想を尽かされるものだ。
神頼みはあくまで人の身で最善を尽くした上での話。奇跡に頼ること無く、戦いには勝つべくして勝つ。
私は常にそんな姿勢で在りたいと思っているよ」
神へ祈る事と縋る事は違う。リィン・オズボーンは女神に祈った事は当然あるが、縋った事は生涯にただ一度きり。母を失ったその時のみだ。そして当然、御伽噺のような“奇跡”など起こりはしなかった。母は死に、自分は重傷を負い、永遠に続くと思っていた穏やかな日常は呆気なく崩れ去った。それが真実だ。
以来、リィンは神に祈れど縋った事は存在しない。女神はあくまで優しく見守るだけで、人を救うのはあくまで人だと知り、信じているが故に。
「……強い人ですね、閣下は」
そしてそんな覇気に満ち溢れた眼前の義弟をクレア・リーヴェルトは眩しそうに見つめる。
悲劇を前にして自棄になるでもなく、自身の才に溺れて傲慢になるでもなく、当たり前のように為すべき事を為すだけだと言わんばかりに、他者の為に未来へと邁進し続ける。リィン・オズボーンこそ“英雄”という言葉の体現者であり、ある種の理想像である事は間違いがないだろう。それは彼の父たる宰相閣下と似て非なる彼自身が苦難の果てに辿り着いたリィン・オズボーンの持つ強さだ。
凄まじい速度で義弟は成長した。かつて教師を務めた自分をあっという間に追い越して。
翻って自分はどうだろう。目前の義弟のような強さも、恩人たる宰相閣下のような強さも、そして親友のような真っ直ぐな思いを貫く事も出来ずにずっと迷い続けている。目前の人物は決して死んだ弟の代わりではないというのに、此処まで成長した姿を目の当たりにしても尚未練がましい思いを捨て去る事が出来ていないのだから……
「
そこでリィンは将軍としての凛々しき顔から、かつて彼らが教えた少年のような屈託のなさを見せて
「改めてありがとう、クレア義姉さん。レクター義兄さん。
クロスベルに引き続き2人が協力してくれたおかげで本当に助かったよ。
二人も
「……ええ、それは勿論」
「……期待されすぎても困るけどな。ま、義兄貴としてきっちりサポートしてやるさ」
自分たちの中の葛藤、それを見透かしたかのように告げられたリィンからの頼みにクレアとレクターは一拍遅れたものの、それぞれなんとか微笑みを作り上げながら応える。
そして最期に兄弟としての語らいを終えると氷の乙女とかかし男、二人の鉄血の子どもはノーザンブリアを跡にするのであった……
12月20日
侵略者とは到底思えぬ程の歓声を民から浴びながら、リィン・オズボーンは統括官としての任を終えて、後事をノーザンブリア総督エリオ・ブラッケ、ノーザンブリア総督軍クリストフ・ヴァーゼル中将へと委ね、ループレヒト・ラッカム中佐を含む北の猟兵の総戦力の半数の3000名もの兵員を新たに旗下に加えてノーザンブリアの地を跡にする。
当然帰還する場所は愛する妻の待つ帝都ヘイムダル……というわけには行かなかった。
ノルド高原に宿敵たる共和国軍が侵犯、これの迎撃の要請が帝国政府より下ったからである。
当然のようにリィン将軍はこれを受諾。即座にノルド高原へと急行する事となる。
12月23日
ノルド高原へと急行したリィン少将率いる《光翼獅子機兵団》は戦史に残る鮮やかな中央突破からの背面展開によって自軍に倍する数の共和国軍を撃滅。ノーザンブリアを併合した帝国に対するマッケンジー政権の人気取りを兼ねた帝国への示威行為は共和国にとって最悪の結果となって終わる事となった。宿敵たる共和国軍をこの上なく見事に撃退したリィン将軍はノーザンブリア併合の手腕と併せて帝国における機甲兵運用の第一人者との声望を確立する。
かくして帝国のクロスベル侵攻によって始まった七耀暦 1205年という年は、最後までリィン・オズボーンという一人の英傑の華麗な英雄譚によって彩られて終わるのであった……
「貴様のために何人の人間が死んだと思っているんだ!?」
「聞きたいかね?昨日までの時点では99822人だ。」