「往くぞヴァリマール!」
「応ともリィン!」
己が起動者たる英雄の呼びかけ、それに灰の騎神ヴァリマールは熱い気勢を以て答える。
そこにかつての機械であるが故のどこか無機質な印象は欠片たりとも存在しない。
英雄に感化された事で灰の騎神は確かな自我を確立していた。
「「鬼騎相克!」」
リィン・オズボーンの放つ鬼気とヴァリマールの持つ霊力それらがぶつかり合い力の源たる巨イナル一への道をこじ開ける。そして巨イナル一から引き出される力がリィン・オズボーンの肉体を、灰の騎神の機体をその場で新生させて往く。
「「鬼騎相乗!」」
そして両者は、いいやまだだこんな程度で終わりはしないとばかりに互いの持つ鬼気と霊力、意志と意志をぶつけ合い高め合っていく。
「「焔騎降臨!」」
訪れる均衡。
自我に芽生えた灰の騎神は灰であって灰に非ず。
芽生えた自我の在り様を象徴するかのように機体を燃え盛る赤い焔が纏っていた。
それはまさしくリィン・オズボーンの在り様を象徴するかのような機体。
放っておけばどこまでも突き進み、敵を焼き尽くし、燃え尽きる事になるであろう鏖殺の焔だ。
故にそれは継戦能力という点に於いて致命的な弱点を抱えている。
起動者と機体の双方がブレーキを踏むことなくひたすらアクセルを踏み込んでいるような状況とあらば然もありなんというものだろう。
「全く本当にどこまでも突っ走しちまいやがって。しゃあねぇから付き合ってやるよ」
だからこそ親友たるクロウ・アームブラストが己が愛機たるオルディーネと共にそれを補ってやる。
燃え盛る焔の騎神へと蒼の騎神が融合していく。そしてその焔の色が深く澄んだ蒼色へと変わっていく。
熱量はそのままに、されど激しいが故に落ち着きに欠けていた先ほどまでとは異なり静謐さがその蒼い焔には宿っていた。
そしてクロウ・アームブラストはリィン・オズボーンの燃え盛る意志へと対抗し高め合うのではなくそれを受け止め、支える。
さながら大海の如き雄大さで、あるいは大地の如き堅牢さで以て。
燃え盛る焔の意志に敬意を払いながらも自分が進むべきはそちらの道ではないと告げるかのように。
これこそがクロウ・アームブラストがーーー否、リィン・オズボーンとクロウ・アームブラストが到達した境地。
対極であるが故に反発し合い、されど親友同士であるが故に敬意を抱き合い、別々の道を往きながらも確かな絆が存在する両者なればこそ至れた境地であった。
降臨するは蒼き焔を纏いし蒼焔の騎神。運命を超克せんと挑む第八の騎神ヴァリマール・デスティニーだ。
「大したものです本当に。見てみなさいドライケルス、我らが築いた世の礎へと続く頼もしき若人達の姿を。
彼らがきっとこれからの時代を作り上げていってくれることでしょう」
そんな姿を見てアリアンロードは万感の思い以て呟く。
そして一転して烈火の如き怒りを黒き邪神へと叩きつける。
「ならばこそこれより先に貴様は不要なのだ黒の騎神イシュメルガ!
貴様を倒し、私は我が主君を、そしてこの国を呪縛から解き放とう!アルグレオン!」
「ウム。我ラノ永キ旅ヘト終止符ヲ打ツ時ガ来タ」
そしてアリアンロードは黒との決戦の為に仕込んでいた切り札を発生する。
それは己が愛機たるアルグレオンを第三形態のその先へと進化させる事。
理論上は可能なはずだった。何故ならばエンド・オブ・ヴァーミリオンへと化した緋の騎神という実例をアリアンロードはその身を以て知っていたから。
だからこそアリアンロードは黒との決戦に備えて己が愛機たるアルグレオンをさらなる高みへと至らせるための仕込みを行っていた。
それこそがハーメル、クロスベル、そしてブリオニア島という各地の霊地で行った実験の正体。
闘争により霊脈を活性化させて、その霊力をアルグレオンへと吸収させる事こそが結社の目的であった。
無論それはあくまで蓄えた霊力を用いたある種のドーピングのようなもの、使えるのはたった一戦限りだ。
そう総てを怨敵イシュメルガを討つためにアリアンロードーーー否、槍の聖女リアンヌ・サンドロットは準備をしてきたのだ。
そしてここを最終決戦と定めた聖女は
もはや仮初の器は必要ないと文字通りこの一戦に己が総てを賭して。
「「人騎合一」」
誕生するのは起動者と完全なる合一状態へと至った白銀の騎神。
伝説を背負いし機体アルグレオン・レジェンドが降臨した。
「行くわよエマ」
「うん、姉さん」
「「
無論、
この戦いは文字通りの乾坤一擲。
黒の騎神イシュメルガを討つために文字通り総てを束ねて賭して英雄とその仲間達は決戦を挑んだのだから。
魔女に伝わる秘術、かつてヘクトル・ライゼ・アルノールが暗黒竜を打倒した際にも先代の長が用いたそれをエマ・ミルスティンとヴィータ・クロチルダ、稀代の才を宿した二人の魔女が発動させる。
カレイジャスにて勝利を信じて待つオリヴァルト・ライゼ・アルノールという器を用いる事で束ねた光翼獅子機兵団の勇士の力、それがヴァリマール・デスティニーを更に強化する。
「ドライケルスよ待っておれ……汝をすぐに解放してやる。わらわとリアンヌとそしてそなたの息子がそれを為す!覚悟せいイシュメルガ!幾多の者の運命を、そしてわらわの友の魂を弄んだ罪、その身に刻み込んでくれるわ!」
怒りと共に魔女の長であるローゼリアが発動させるのは帝国の呪いを抑え込む封印術式。
ローゼリアとて獅子戦役が終結してからの200年以上もの間何も遊んでいたわけではない。
詳細は掴み切れていなかったにしても暗黒竜の顕現や獅子戦役のように、いずれまたこの地に呪いによる災厄が降りかかる事はわかっていた。
なればこそ魔女の眷属へと伝わる呪いを抑え込むための封印術式、それに磨きをかけていた。
そしてそれが黒の騎神イシュメルガの力を抑え込む。
「そうだ、お前たちの力と意志、その全てをぶつけてくるがいい!それが届かぬのであればこの私ギリアス・オズボーンが全てを滅ぼす!!!」
「コノ程度デ我ヲ縛レルト思ウテカ!」
しかし、それで抑え込めるのは黒の力のほんの一旦。
解き放たれる闇の波濤にローゼリアの表情が苦悶に浮かぶ。
減衰できたのはほんのわずかなものに留まり、黒の掌より放たれた
黒の騎神イシュメルガ、それは地精達が来るべき戦いに於いて勝利する為に作った王の機体。
故にそれは当然のように力の根源たる巨イナル一へと他の騎神よりも深く結びついた。
そしてそれが製作者である地精の想定をも超えた
巨イナル一へと深く結びつくという事はすなわち巨イナル一より溢れ出る
巨イナル一、それは大地の眷属と焔の眷属の争いの果てにそれぞれの眷属が己が至宝へと
互いに相手を認めず打ち消し合い、内部にて無限の自己相剋を行い生まれた莫大なる力の奔流、それは至宝を作った女神の敷いた理を外れた力を生んだ。
すなわち七属性のいずれにも属さない“虚無”とでも言うべき属性だ。
人類という種が戦いに際して“敵”へと抱く極限まで凝縮された負の慟哭、殺意の奔流。
敬意や相手も同じ人間なのだという自覚や配慮、そんなものなど一切持たないただただ敵の絶滅のみを願う祈り。
黒の騎神イシュメルガはそんな負の想念へと深く繋がってしまった。
ならばこそ黒は悪意へと目覚め全てを滅ぼし、全てを手に入れんとする。
それこそが焔の眷属と大地の眷属、その双方が、人が至宝へと願った祈りであったのだから。
故に放たれた闇の波濤は圧倒的な相性差を以て英雄と伝説が放つ輝きを蹂躙する。
死に絶えろ、死に絶えろ、すべて残らず塵と化せ、自分ではない他人が持つ絢爛たる栄光や輝きなど全て滅びてしまえば良いのだと。
その力は余りにも絶大、どれほど力を高め輝きを放とうと闇はその光を否定して蹂躙する。
故にそれを前にすれば英雄が結集した力も塵同然であり、余りにも呆気なく英雄は地へと堕ちる事に……
「絶対的な相性差?全ての輝きを喰らい打ち消す虚無の力だと?それが一体どうした!
否、闇が切り裂かれる。
英雄の振るう蒼焔を纏った双剣によって。
闇を切り裂き光を齎す存在こそが英雄なのだと言わんばかりに。
「ナン……ダト」
かつて聖女でさえ為す術なく沈む事となった因果律の干渉と双璧を為す黒の持つ圧倒的な力。
獅子の心を持つ王を起動者へと迎えてかつてよりもはるかに強化されたそれが突破されたことにイシュメルガは驚愕する。
「なるほど……どうやら相応の対策をしてきたようだな。君の差し金かね、リアンヌ」
「当然でしょう。黒の持つその絶大なる力、それを私はこの身を以て知っています。そして私が結社の使徒となったのはこの日の為だったのですから」
振るわれる白銀の騎神の一閃、それも同様に黒の放つ虚無の波濤を切り裂く。
そして両者はそのまま黒へと肉薄する。
「
一体何が虚無の力の宿すその絶対的な相性差を突破する要因となったかあっさりと看破したギリアスはその答えを口にする。
そして言葉と共に放たれた膨大なる闇の波濤を前に両者は回避と防御のための後退を余儀なくされて再び距離が開く。
「なるほど確かに女神の敷いた理の下に存在する万象を否定する虚無の力も
そうこれが事前の情報など全くない状況で挑んでいれば如何な英雄と言えど為すすべなく完敗を喫する事になっただろう。しかし、リアンヌ・サンドロットはその身を以て知っていた。黒の持つその圧倒的な力を。16年前の敗北によって。そしてなればこそその敗戦より学ぶのは当然の事。
女神の敷いた理に於いて黒が絶対的な力を有するというのならば理の外の力を借りるまでの事。幸いなことにリアンヌ・サンドロットにはそれを手に入れる伝手が存在したのだから。
「しかし、使徒たる彼女はともかくお前までもが結社の軍門へと降るとはな」
告げられた言葉の色に交じっているのは失望か呆れかそれとも感嘆か、聞いている限りでは判断出来ないものであった。
「いいや、否。我が忠誠は依然変わりなく祖国に。これは生涯変わる事のない誓約だ。違える時が在ればそれはすなわちリィン・オズボーンという男の死に他ならない。結社身喰らう蛇は今回黒の打倒という共通の目的の為に協力関係を結んだ同盟相手に過ぎない」
「なるほど、しかし帝国の英雄であり十七勇士へと列席されている君が付き合うには聊か以上に問題があると思うのだが?」
「
ギリアス・オズボーンが結社身喰らう蛇とある種の協力関係にあった事。
リベールの異変の際にはそれを利用して導力停止現象の影響を受けない旧式の戦車を擁した第三機甲師団をリベールへと派遣したことをリィンは既に知っている。
そしてその事実を知って動揺していた青臭さなどとうの昔にリィン・オズボーンは捨て去った。
その程度すら呑み干せずして一体どうして先人たちが為しえなかった黒の打倒を行い、祖国を守る事が出来ようかとその鋼鉄の意志は毛ほどの揺らぎも見せない。
結社身喰らう蛇は国際的な犯罪組織だ。故にこれまでリィンは遭遇すれば容赦なく討ちとるつもりでいた。
しかし、もはや事情は変わった。今リィン・オズボーンが優先せねばならないのは何を置いても黒の騎神イシュメルガの打倒にこそある。
そして結社身喰らう蛇と手を組んだ場合に得られるリターンはデメリットを補ってあまりあるもので在る以上、手を組むことにもはや躊躇いなどありはしない。
「確かに、その通りだな」
感慨深そうにギリアスは呟く。されどその言葉には幾ばくかの寂寥感が宿っていた。
しかしそれもほんの一瞬すぐさまギリアスは鋼鉄の意志を宿して
「良いだろう、お前をただの愚者ではなくこの私を真に超えんとする挑戦者と認めよう。
だがしかし、お前が挑まんとするこの壁容易に乗り越えられるなどと思うてくれるなよ!」
「……容易に乗り越えられるなどと思ったことなど一度たりとて存在しないさ」
そうそんな事思うはずがない。
リィン・オズボーンにとってギリアス・オズボーンとは憧れであり目標だったのだから。
もしも黒の騎神などという存在が居なければ、ギリアス・オズボーンが巨イナル黄昏などという物を起こそうとしているのでなければ、それこそ父を超えようなどという発想それ自体が浮かぶことさえなかったかもしれない。
「だがそれでも、今日俺は貴方を
吐いた気勢と共に英雄は伝説と肩を並べて挑む。
この帝国を覆わんとする強大な闇に。
闇を切り裂き希望を齎す一閃となる為に。
次回は獅子心将軍閣下の盟主との邂逅シーンの回想から。
大陸でその名を知らぬ者はいない帝国の英雄が結社とかいう犯罪組織と密約交わしてその組織の幹部二人の協力も得て自国の宰相の暗殺しようとしているとかこいつはとんでもない大スキャンダルですよ……
マリアベル:ルーファスに協力して黒を打倒しようとしている
ヴィータさん:リィンとクロウに協力して黄昏を起こさずになんとか黒を打倒して封印する計画
アリアンロード:対黒に備えて各地の霊脈から霊力をアルグレオンへと吸収させて、他の騎神との相克に於いてはその力を持たず打倒して黒との決戦にそれを用いる事でアルグレオンを進化させて黒を打倒するプランだったのを黄昏前にリィンと協力して黒を討ち取る深淵の計画へと協力する事に変更
盟主様:至宝をめぐるそういう使徒同士の方針の違いもどんどんやれと見守りモード
まあそんなわけでこの戦いはガチの乾坤一擲です。
黒の情報を交戦経験のあるリアンヌ様から入手して仕留める為に特攻武器(外の理)も用意(盟主様に貰った)しました。
ちなみにリアンヌ様の今のテンションは過去最高です(たくましく成長した息子のように夢想していた存在と肩を並べて友であるローゼリアのバックアップを受けながら怨敵イシュメルガへと挑んでいる)