獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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この世に完璧なものが一つだけある……それは正義超人の友情さ


友情は成長の遅い植物である

「うわあああああああああああああああああああああッ」

 

 仮面を砕かれたセドリックが頭を押さえながら絶叫を挙げる。

 

「セドリック!」

 

 当然のようにそんなセドリックの下へと四人は駆け寄る。

 そしてその肩を掴んで

 

「僕たちの想いは伝えたぞ!今度は君の番だ!君の想いを僕たちに教えてくれ!

 例えそれがどれほど醜いものであっても、情けないものであっても構わない。どうか、君の本音を告げてくれ。それを笑ったりするような真似は決してしない。絶対にだ」

 

「この際溜め込んでいた諸々吐き出しちまえよ。

 ちなみにいい機会だから今の内に白状しておく、晩餐会の時に俺はお前の親父を八つ当たりで殺そうとしていた。そしてあの英雄様に叩きのめされて終わった。そういう意味じゃ皇帝をやっていたのは俺でもおかしくなかった。俺が皇帝殺しの犯人にならずに済んだのは業腹だが我らが教官殿のおかげってわけだ」

 

「!?」

 

 アッシュの衝撃の告白、それを聞いたクルトとユウナは驚愕し目を見開く。

 

「だけどそれは単に操られたってだけのものじゃねぇ。俺の中で確かに燻り続けていた俺自身の想いだ。

 俺はなセドリック、てめぇら皇族の事をーーーアルノールの人間を恨んでいた。

 テメェとダチになった後もそれは変わらなかった。俺の心の中にはずっと燻り続けて居る思いがあった。

 みっともねぇ話だろ?テメェやテメェの家族が悪いわけじゃない、そんな事は頭ではわかっちゃいたのによ」

 

 アッシュ・カーバイドは自嘲しながら自分の中にあったそんなみっともない想いを告げていく。

 

「後は堂々巡りだ。テメェとダチになってテメェらが別段悪いわけじゃないとなまじ頭で理解では出来てたからこんな風に考えるのはダセェ事だと必死に抑えつけた結果、神様気取りのクソッタレな野郎にそこを突かれてとんでもねぇ無様を晒しちまった。無様をさらしただけじゃねぇ、言った通り一歩間違えば皇帝を殺したのは俺になっていてもおかしくなかったーーーけどな、()()なんてそんなもんだろ?

 綺麗な想いばかりを抱えていけるほどに俺たちは完璧な存在じゃねぇ。だからよセドリック、お前もいっちょぶちまけてみろよ。お前の中にある真実の想いを。それがどれだけ醜いものだろうと俺はーーー俺たちは笑ったりしねぇ、()()なんだからよ」

 

 常ならざる真摯な瞳がセドリックを射抜く。

 そしてそれが正気に戻ったセドリックの心を揺さぶり

 

「僕は……僕は……“英雄”になりたかったんだ。ずっと小さなころから憧れていた、英雄帝や獅子心皇帝。歴史に燦然とその名を残す偉大な英雄たちに。そうなれると小さい頃は無邪気に思っていた。

 でも現実の僕は姉に守られてばかりの情けない男で……兄上のように自由闊達に振る舞う事はとてもじゃないが出来なくて……それでも、それでもそれはまだ僕が小さいから仕方がない事で、きっと士官学院に入ればそんな自分も変われるんじゃないかとそう思っていた。

 だけどそんな風に僕が言い訳をして足踏みしている間にも兄上とアルフィンは前へ進んで行った。僕は皇族として何も為せなかった中で二人は皇族として内戦を見事終わらせてみた。悔しかったし、情けなかった。みじめでみじめで仕方がなかった。皇太子だというのに何も為せない自分がーーー大切なはずの兄と姉を疎ましく思ってしまう自分が」

 

 血を吐くようにセドリックは己が心の中でくすぶり続けて居た想いを吐き出していく。

 

「そんな情けない自分を変えたくて、リィンさんの弟子に僕はなった。

 そうすればきっと僕もリィンさんのような英雄に為れると思って。

 だけど現実は違った。もうわかっているさ……“英雄”に為れるのは一握りの選ばれた存在なのだという事位。

 僕ではどう足掻いたところでリィンさんのように為れるわけがないという事位!

 だけど幼い頃の憧れを捨てる事は出来なくて……何よりもそれ以外のやり方で兄上を超えられるとは思えなくて……結果がこの様さ。父上を死なせて、そんな父上を殺した仇の走狗に成り果てて、大切な友達にまで剣を向けた。

 本当に全く以て笑ってしまうよ。一体誰がこんな無様な男を“英雄”だなんて思う?皇帝に相応しいだなんて思う事が出来る?今回の一件でハッキリしたよ。皇帝になるべきは僕じゃないーーー僕じゃないんだ。

 いっそ君たちの手で僕を殺してくれれば良かったんだ……こんな、こんな皇太子として余りにも情けない男に対して君たちがそこまで必死になる理由なんて……」

 

 仮面を砕かれ、正気に戻った事でセドリックは否応なしに自分のやった事の罪悪感へと苛まれる。

 そして当然のようにその場でうずくまる。 

 そんなセドリックをミュゼはそっと優しく抱きしめる。

 

「そんなに不思議な事ですか、友達の為に必死になる事が。

 私たちは次代皇帝への忠誠心から此処にいるわけじゃありませんよ。私たちの大切な友達を取り戻す為に此処に来たのです」

 

「でも、僕は……そんな君たちを……」

 

「誰も死んでいません、多少の怪我はしてしまいましたけど……まあたまにはそういう風に喧嘩をしてお互いの想いをぶつけ合うというのも有りなのではないでしょうか?私が嗜んでいる小説では殿方がそういう風に友情を深めている様がいくつも描かれていましたよ?」

 

「僕たちにはきっと必要だったんだ……こういう風に一度ぶつかり合う事が。

 セドリック、確かに君は獅子心皇帝や英雄帝のようには成れないのかもしれない、でもそれを言うなら僕だってそうだ。僕は内戦の時に守護役として君を守るという役目を果たすことが出来なかった、友として君に寄り添うという幼き日の誓いも真の意味で果たす事が出来ていなかった。きっと亡き父や開祖ロランがみたら一喝するだろうさ、この未熟者!ってね。だけどそれでもーーーそれでも僕たちの道はまだ途絶えてしまったわけではないとそう僕は信じている」

 

「私たちはまだまだ未熟で若い。

 これからなんだよセドリック君、これからなんだって!まだ私たちは道を歩き始めたばかりなんだよ。

 それなのにたった一回の失敗で自分を見放してしまうなんて余りにも早すぎるよ」

 

「ま、それでも皇帝になるのがもう嫌になったって言うなら俺は止めはしないぜ。

 さっきも言った通り俺は皇太子とダチになったわけじゃなくてただのセドリックとダチになったつもりだからな。テメェの人生だどう生きるかはテメェで決めろ、その上で今回みたいに馬鹿やらかそうとしたときはちゃんと止めてやっからよ」

 

「みんな……君たちは僕の事をまだ友だと、そう思ってくれているのか?」

 

「ったりめーだろ。我らが麗しの教官殿じゃあるまいし、俺が皇族への忠誠心だの国の為だのにこんなしちめんどうな事やる奴だとでも思っているのか?」

 

「言ったでしょ、私が落ち込んでいる時に励ましてくれて嬉しかったって。だから今度は私の番。友達ってそういうものでしょ?」

 

「役目に囚われるのはもう辞めたんだ。何せ僕は現在君の守護役を失職中だからね。僕が此処に来たのは僕がヴァンダールだからでも守護役だからでもない、僕がセドリック・ライゼ・アルノールの友だからだ」

 

「私も皆と同じ気持ちです。白状しますと、最初に近づいた時にそうした打算がなかったといえばそれは嘘です。貴方はこの国を統べる皇帝と為る存在だから、もしも貴方が道を過とうとしているのならばこの国の為にそれを諫めなければならない、それが貴族としての務めであるとそう考えていました」

 

 貴族としての務めを果たす事、それがミュゼ否ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエンにとっては亡き父と母の娘であることの証明であった。だからこそ当初彼女がセドリックへと近づいたのはそうしたある種の打算ありきの物であった。

 

「ですが今は違います。共に多くの時間を過ごして貴方の良いところも悪いところも一杯見てきました。

 理想通りに在れない己の姿にもがき苦しみながらも、それでも少しでも理想に近づこうと懸命に努力する姿を見てきました。---そして気が付いたらそんな貴方の事を好きになっていました」

 

「---え?」

 

 場の空気というものは恐ろしい。

 気が付けばミュゼ・イーグレットは自分でも自覚していなかった想いを口にしていた。

 セドリックにクルトにユウナの三人が驚いた表情を浮かべ、アッシュ・カーバイドは囃し立てるかのように口笛を吹く。

 

「貴方は自らを無様だなんて卑下しましたけど、私から見たセドリック・ライゼ・アルノールという人はとても素敵で眩しく見える人でしたよ?理想通りに在れない自分が貴方はもどかしかったのだと思いますが、そんな風に理想の自分に為ろうと苦しみながらも足掻き努力している姿は全然無様などではありませんでした。だから余り自分を卑下しないでください、()()()()をそんな風に貶められたら恋する乙女としては哀しくなってしまいます」

 

「ミュゼ……」

 

 戦場にはそぐわないどこか甘酸っぱい空気が二人の間に漂い出す。

 それを見てクルトとユウナがひょっとして自分たちは気を利かせて離れた方が良いんだろうか等と考えだしたところで……

 

「セドリックさん!」

 

 自分も仲間だというのに蚊帳の外に置かれていた事が腹立たしかったのだろう、そうした機微にまだ疎いアルティナが唯一自由に動かせる口を使って声を張り上げる。

 

「キルシェのパンケーキとコーヒーセットで良いです!全部終わって学院に戻ったらそれを奢ってくれたら全部チャラです!」

 

 全員アルティナの言葉に呆気を取られる。しかしすぐにその発言の意図するところを理解すると破顔して

 

「私もアルと同じで良いわよセドリック君!」

 

「俺は甘いものには余り興味ねーからな、昼飯一回奢れやセドリック」

 

「じゃあ僕は長い付き合いの好でコーヒー一杯にしておくよ」

 

「私は割り勘で結構ですのでデート一回という事で♡」

 

 つまりは今回の件はそれで手打ちだと。

 いつまでも引きずるような事じゃないからそれで終わりにしようとそんな友人達からの気遣いがセドリックの打ちのめされた心へと染み渡って行き……

 

「ありがとう、みんな。僕はトールズに入って……みんなと出会えて良かった……本当に」

 

 セドリックの頬を熱い雫が伝わり地面へと。

 そんなセドリックへとクルトはそっと手を差し伸べて

 

「帰ろうセドリック、僕たちのトールズ士官学院に」

 

 差し伸べられた手を拒絶する事無くセドリックは握り返す。

 此処に若人達の戦いは一先ずの幕を下ろす。

 彼らの夢が叶うかどうかーーーそれは英雄と聖女の戦いへと委ねられた。

 

・・・

 

「ミュラー……私は駄目な兄だな」

 

 ARCUSを介して伝わってきた弟への説得劇。 

 それが上手くいった事を確認して心の底から安堵した上でカレイジャスにて待機しているオリヴァルト・ライゼ・アルノールはぽつりとつぶやく。そこには弟に良い友人がいてくれた事を心の底から喜ぶ心境と兄としての自分の不甲斐なさを自嘲する寂寥感の双方が入り混じっていた。

 

「セドリックがアレほど悩んでいたというのに結局私は弟の為に何もしてやる事が出来なかった。それどころか私の存在がセドリックを追い詰めてしまっていた……全く以て兄失格だ」

 

「……致し方あるまい、こればかりはお前が何とかするのは難しい問題だった。

 家族なればこそ逆に打ち明けられぬ悩みというのは存在するものだろう。

 俺とてそうだ、兄として弟の悩みに寄り添ってやることが出来なかった。

 だから今は純粋に喜ぼう、不甲斐ない兄の力など借りずとも立派に弟が成長してくれた事を。そして感謝しよう、弟に寄り添ってくれる友が出来た事を」

 

「ミュラー……ああ、そうだな。今はただ弟の成長を喜ぶとしよう。

 そして祈るとしようか、今世の礎を築かんと戦っている彼らの勝利を」

 




若者たちの青春パートは終わったので次回は再びゼムリア大陸頂上決戦をお送り致します。
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