獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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ちなみにクロウが致命傷を食らったのにリィンが致命傷にまで至っていないのはギリアスパパンの親子の情によるものです。本来であれば致命傷になる一撃をその愛が致命傷寸前にまで威力やらを減衰しました。


閃光の行方

 その戦いの決着が着いたのは奇しくも黒との死闘に幕が下りるのと全く同じタイミングであった。

 

「……やれやれ、もうちょい粘れると思ったんだがねぇ。俺も年を取ったって事か」

 

 己が愛機の核と自身の腹を貫く致命打。それを受けて激痛に苛まされながらも飄々とした態度を崩さず、猟兵王ルトガー・クラウゼルは血を吐きながら述懐する。

 

「それは違うね猟兵王!あなたが衰えたんじゃない、単に貴方よりも私が強くなった、それだけの事だよ!」

 

 猟兵王ルトガー・クラウゼルは()()()になってしまったかつての憧れ達とは異なりシャーリィ・オルランドの憧れた頃のままだった。無論好みを述べるのであれば当然のようにシャーリィは伯父でもあった闘神バルデル・オルランドのほうが猟兵王よりもより好みのタイプであったわけなのだが、それでもそんな闘神と対等に渡り合う猟兵王もまたシャーリィにとっては憧憬の対象であったことは疑いようがない。

 だからこそシャーリィ・オルランドの心を満たすのは失望の念ではなく強敵を討った昂揚感と充足感。かつての憧れを自分は超えたのだという達成感に満ちていた。

 

()()猟兵王を乗り越えて大陸最強の猟兵である闘神になったんだ!」

 

 故に今こそシャーリィ・オルランドはその名を継承する。

 オルランド家が代々受け継いできた最強の猟兵の称号、闘神を。

 

「これで私は胸を張ってあの人に挑める!だから安心して糧になってね猟兵王♡」

 

 告げられるどこまでも身勝手で自分をメインディッシュの前の前菜か何かのように扱う発言、それを聞いて猟兵王は思わず苦笑を浮かべる。

 こんなおっかない女にこんな風にロックオンされるだなんてあの兄ちゃんも大変だ。でもまあある意味では男冥利に尽きるって奴かーーーなどと()()()であるが故に面白がって。

 

「……すまねぇなゼクトール、こんなロートルの我儘にお前を付き合わせちまった」

 

「マア、致シ方アルマイ。ソンナ汝ヲ選ンダノハ我ナノダカラ。今更ソレヲトヤカク言ウマイ。ソレナリニ楽シカッタシナ」

 

「ありがとよ……そう言ってもらえるとなんというかこっちも救われた気分だぜ」

 

 束の間の生を与えてくれた己が愛機それへの謝意を示した後ルトガーはそもそもの発端となった二人の馬鹿息子に対して声を張り上げる

 

「ゼノ、レオ、一足先に俺は逝くぜ」

 

「団長……」

 

「俺たちはまだ貴方に何も……」

 

 返せていないと告げようとしたレオニダスの言葉を遮ってルトガーは告げる

 

「何言ってやがる、お前たちは十分に俺に色んなものを返してくれたさ。お前らと過ごした日々、それ自体が俺にとっては掛け替えのない宝石だ。

 だからお前らも何時までも俺に囚われていないでお前たちの人生をしっかり生きろ!子供が元気で幸せに過ごしてくれる、()にとってそれ以上の孝行はないんだからよ」

 

 その余りにも温かい父の言葉に、あろうことか戦闘中だというのに歴戦の猟兵二人の瞳に涙が滲みだす。

 そうして最後にルトガーは王の名に相応しい豪快な笑みを浮かべて

 

「じゃあな()鹿()()()()!こっちのほうには当分来るんじゃねぇぞ!」

 

 猟兵王の魂、それがシャーリィ・オルランドへと吸い込まれていく。

 本来であれば相克とは大戦により地上に闘争の意志が満ち満ちる事で世界そのものが巨大な錬金窯として見立てて行われるものであった。

 しかし十月戦役の際にそれは必ずしも世界全体の規模でなくとも出来ることが立証された。

 そして今帝国の地には、皇帝ユーゲントを殺された憎悪と共和国に対する戦意が渦巻いている。

 さらに激突したのは猟兵王ルトガー・クラウゼルと闘神を継承せし者シャーリィ・オルランド。

 双方ともに修羅の領域へと至っており、その二人の激突は不足分を補って余りあるものであった。

 故にここに第一相克は果たされる、緋の騎神がーーー否、闘神シャーリィ・オルランドが猟兵王ルトガー・クラウゼルを降すという結果で以て。

 

・・・

 

 アリアンロードの放った一撃、それは確かに黒の騎神のコアを打ち砕いた。

 いかな黒の騎神と言えど自身のコアを砕かれてしまえばどうしようもない。

 小癪な黒はスペアへの乗り換えを図ろうとするだろうが、無論そんな暇を与えなどはしない。即座にローゼリア、ヴィータ、エマの三人が魔女の秘奥を以てその邪悪な魂を封じ込めようとする。

 故に此処に黒の野望は潰えるーーーそのはずであった。

 

「いいや、否。我は……我は滅びぬ!我こそが空の女神(エイドス)なる偽神に変わり、この世を統べる絶対なる神なのだから!」

 

 響き渡るは1200年に及び妄執が籠った叫び。

 女神より授けられた七至宝ーーーそれは強き意志に呼応して奇跡を齎す。

 そして意志を持っていた幻の至宝を除きそれらはその願いの正邪を問うことはしないーーーただその強き意志に呼応して奇跡の恩恵をもたらす。

 ならばこそ鋼の至宝はそのイシュメルガという邪神の意志にも呼応してしまう。

 1200年もの間暗躍し続けた邪神の妄執、それは()()()()()で言えば決して英雄や聖女に劣るものではないのだから。

 敗北の結果白銀の騎神へと取り込まれるだけであったはずの黒の崩壊、それが寸前で押し留められていく。

 地の底に充満していた瘴気全てが黒の騎神へと吸い込まれていくーーーのみならず大地の聖獣がその身を以て封印していた呪いまでもが流れ込んでいく。

 

「!?ロゼ!早く封印を!!!」

 

「やっておる!やっておるのだ!!!だというのに……もはや、これは」

 

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 

 黒の騎神の雄たけび、そしてその身から迸る暗黒の闘気が封印術式を完膚なきまでに粉砕する。

 その身より発せられた闇の波濤が物理的な衝撃を以て白銀の騎神と魔女の眷属を吹き飛ばす。

 

「見事なり、勇者たちよ。貴様らの命を賭した一撃、確かにこの身へと届いたぞ」

 

 地に伏した三体の騎神それを睥睨しながらイシュメルガは告げる。

 そこには先ほどまではなかったある種の敬意が満ちている。

 

「誇るが良い、我を此処まで追い詰めたことをな!」

 

 黒の騎神ーーー否、暗黒の騎神より先ほどまでが児戯にさえ思えるほどの虚無の波濤が迸る。

 顕現するは黒の騎神の第四形態、イシュメルガ・プロヴィデンスが此処に降臨した。

 

「オオオオオオオオオオ」

 

 聖女が白銀の騎神を駆り世界を闇に包まんとする暗黒の騎神へと挑む。

 こちらの勝機がもはや絶無だと悟りながら、それでも屈するわけにはいかないと。

 

「私は浮気には寛大な女だけど、それでも人の男を掠めとろうとする泥棒猫にまで容赦する気はないんだからね!」

 

 猟兵王を降した闘神もまたそんな聖女を援護する。

 あの素晴らしき英雄は私の物である以上、それを横取りしようとすることなど決して許さないと。

 

「ぬ……ぐ、ぅッ!」

 

 戦いはまだ終わっていない、それを悟った英雄は立ち上がろうとする。

 しかし、動けない。その身に刻まれた一撃は致命傷寸前。

 その身を苛む痛みは精神力で補えても、潰れた臓腑と砕けて抉り取られた骨肉を回復するには相応の時間がかかる。

 

「クソッタレが……」

 

 そして致命傷を負ってしまった者はその光景にもはや悪態をつく以外に出来ることがない。

 蒼の騎神を貫いた黒の一撃、それはクロウ・アームブラストの体も貫きその心臓を抉った。

 騎神から流れる霊力がギリギリのところでその命を留めていたが、それもそう長くは保たないことは明白だった。そしてこのままクロウが死ねばその魂はクロウを殺した黒へと吸収される事となるーーーそれが相克のルールなのだから。

 

「冗談じゃねぇぞ……!」

 

 戦いに身を置く者として死ぬことは当然覚悟していた。

 だがその死が邪神の糧になるというのならばそれこそ死んでも死にきれないというもの。

 ならばこそクロウ・アームブラストはその身を苛む激痛を堪えながら必死に最期の力を振り絞って必死に蒼の騎神を動かして……

 

「クロウ……もう一度だ。もう一度俺とお前とで蒼焔の騎神になるぞ!」

 

 たどり着いた先で告げられたのは、こんな状況になりながらも未だ戦わんとする親友の喝破。

 それを聞いた事で思わずクロウの表情に笑みが浮かんでしまう

 

「おいおい、こっちは全員満身創痍なのに対して相手はさっきよりもパワーアップしてんだぞ。どう考えたって勝ち目なんて無いだろうが」

 

「かもしれん。だがそれが足掻かない理由にはならない」

 

 何故ならばまだこの身がこの命がこの魂が歩けると言っているのだからとどこまでも雄々しく告げた後に英雄は常日ごろ浮かべる不敵な笑みではなく少年のような笑みを浮かべて

 

「それに勝ち目ならあるさ。こっちには俺とお前が居るんだ。俺とお前、二人そろって出来ないことなんてない、そうだろう?

 

「そうだな……俺たち二人なら……ゲホッ」

 

 きっと出来ると告げようとしたクロウの口から言葉ではなく血反吐が吐き出される。

 

「クロウ……?」

 

「悪いな親友……最期まで付き合うつもりだったがどうやら俺は此処までみてぇだ……」

 

「何を……言っている……」

 

 告げられた言葉、それがリィン・オズボーンには理解できないーーーいいや理解したくない。

 

「このままいけば俺とオルディーネはあのクソッタレな黒に取り込まれちまう。

 だから頼む親友、()()()()()()()()()()()()()()()()

 そうすりゃ俺とオルディーネはお前たちのほうに吸収されるはずだ」

 

 それはかつてマクバーンの戦いの時にヴィータ・クロチルダより為された提案。

 煌魔城での戦いの結果疑似的な相克状態にある灰と蒼を完全に相克させることでその力を一つに束ねるというものだ。

 かつてそれをリィン・オズボーンは拒絶した。自分たち二人ならばそれらとは違う道を往くことが出来るはずだと。運命を超越することが出来るはずだと。

 しかしそれが何時も出来るほどに世界は甘くはない。

 我が身を裂くような選択を例え辛くとも行わなければならない時が人には存在する。

 

「……どうにもならないのか」

 

 それでもと諦め切れぬ思いから、リィンは苦悶に満ちたどこか縋るような声を漏らす。

 

「ああ、悪いな。俺は此処までだ。そんで頼む、俺の魂を受け取ってくれ。俺をあの邪神の傀儡にしないでくれ」

 

「……ッ!わかった。お前の死は決して無駄にしない。

 その魂に誓おう。俺は必ず奴をーーー黒の騎神イシュメルガを討ち滅ぼす。

 奴が支配する世界など決して来させはしない」

 

「リィン……ありがとな」

 

 告げられた最期の感謝の言葉、それを聞きながら振り下ろされた一撃は瀕死の状態にあったクロウ・アームブラストの命を完全に奪い去る。

 そして蒼の騎神が灰へと吸収され、クロウ・アームブラストの魂がリィン・オズボーンへと取り込まれていく。

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!」

 

 悲鳴にも似た雄たけびが響き渡る。

 見開いた目からは涙が止まることなく溢れ出す。

 しかし、憎悪や哀しみに浸ることなどリィン・オズボーンには許されない。

 何故ならば彼は数千数万の兵士の命を預かる将なのだから。

 これまでも彼は何千何万という敵と味方をーーー誰かにとってのクロウ・アームブラストを死なせてきたのだから。自分が親友を失ったからといってその激情に身を委ねることなど決して許されはしない。

 

「総員、撤退だ!」

 

 ならばこそ今すぐにも黒へと襲い掛かりたい衝動を必死に抑えながら将としての決断を下す。

 

「現時点で黒の打倒は不可能と判断。ならばこそ此処は退き、再起に賭ける!」

 

「それを黙って見過ごすと思うかね?」

 

 そうはさせじと黒がその暗黒の闘気を迸る。

 

「ええ、見過ごして貰いますよドライケルス。こちらにとっては200年ぶりの逢瀬なのですから。

 よもや恋人からのこの誘い、嫌とは言いませんよね」

 

 それを銀の振るう一撃が引き裂く。

 若者の未来を守るためにその身を賭すのが古き者の役割だと言わんばかりに。

 

「行きなさいリィン。この場は私が引き受けます。

 この国のーーーいいえ、この世界の未来を貴方に託しました」

 

「リアンヌ殿……ええ、必ずや!」

 

 噛み締めた歯が賭け、握りしめた手では肉が裂け血が滴り落ちる。

 それでもリィン・オズボーンはそれを止めることが出来なかった。

 それを止めてしまえば正気を失ってしまいそうだったから。

 

 七耀歴1207年、7月20日。帝国政府は帝都全域を襲った異変の元凶を共和国の工作員によって齎されたものと断定。同時に皇太子セドリック・ライゼ・アルノール、副宰相オリヴァルト・ライゼ・アルノール、獅子心将軍リィン・オズボーンの三名がそれによりその命を落としたことを発表するのであった……

 




這い上がれ、立ち向かえ

当作で読んでいて一番わくわくしたバトルはどれでしょうか?

  • VSシャーリィ・オルランド
  • VSマクバーン
  • VSアリアンロード
  • VSイシュメルガ
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