獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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待っていてくださった方大変お待たせいたしました。
以前までのような更新速度は難しいですが英雄伝説の最終章、それを行っていきたいと思います。ぼちぼちと完結に向けて更新していきますので気長にお付き合いいただければ幸いです。

前話までのあらすじ:主君である皇帝まで囮にして結社とかいう犯罪者集団の力まで借りるとかいう軍の重鎮としてはグレー越えて明らかにアウトなことまでやったのに英雄は負けました。


獅子戦記最終章-The End of Saga-
敗軍の将


 

 "最強"、それはいつの世も人々を魅了する永遠の議題だ。

 

 スポーツ等の分野においてこの問いを愛好家達に投げかければ次の瞬間に始まる熾烈な議論。自らが崇敬する対象こそが最強だという主張と主張がぶつかり合い、和やかな会話が一転罵倒をも含んだ苛烈なる討論へと発展する事さえもあり得る。

 ただの称号に過ぎないそれに人々はなぜかくも惹きつけられるのかと言えば、それは人間が生きる社会に於いて他者との競争が切っても切り離せないものだからだろう。手にすることが出来る者が限られている一握りの栄光の座を獲得するために他者と争わねばならぬ局面はどうしたとて発生し、自らの望みを獲得するために他者を蹴落とさねばならぬ瞬間は訪れる。

 

 故に"最強"の座とは数多の屍で築かれた玉座とさえ居るだろう。

 無論これはいささか極論めいた比喩に過ぎない。何故ならば人間社会に於いて通常敗北はその死に直結するわけではないからだ。スポーツの試合に負けたところで死にはしない、むしろその敗北が死に直結するとなってしまえばそれはその時点でスポーツと呼べなくなってしまうだろう。

 そう幸福にも()()()()()に生まれることが出来た者であればそれが常識だ。敗北は死に直結せず、味わった苦渋を糧にまた再起すれば良い。

 

 しかし忘れてはならない、それは()()()()()という多くの者の努力によって作り上げられた幸福な共同体に属することが出来た者の幸福な理屈であるという事を。

 そしてその平和という秩序は"力"によって維持されている事も。

 哀しいかな、どれだけ高潔な想いも言葉も力が伴わなければそれは容易く蹂躙されてしまう。

 "平和"を"秩序"を"善"を"正義"を尊び、守りたいと願う者こそ強く在らねばならない。

 でなくば一体"誰"がそれらを尊ぶ心を持ち合わせない畜生がその暴虐を振るいし時に止められるというのか?

 

 ならばこそ国家という共同体に於いて"最強"の称号を背負いし者がいればその重責は想像を絶する重さとなる。その敗北はたった一人の敗北を意味せず、多くの者の心に絶望を齎す。多くの者に死という終わりを齎す。最善は尽くす事など当然。ならばこそそれはただの言い訳にしかならず求められるのは何時だとて"勝利"、その二字のみ。勝って勝って勝ち続けて"栄光"を齎し続ける事を義務付けられた存在、それこそが国家に於ける"最強"、"英雄"に他ならない。

 進み続けたその道が数多の屍によって作られたものである以上、もはや彼に人がましい言い訳など許されない。"勝利"、それのみが犠牲に報いる術だと信じてその道を往くと決めたのは他ならぬ彼自身なのだから……

 

・・・

 

 魔女の隠れ里であるエリン、それは通常の方法では訪ねることが出来ない地にある文字通りの秘境である。近代化が著しいエレボニア帝国に於いて魔女達は昔ながらの自然との共生・共存を選んでおり、時折生活のための食糧を確保するために訪れる事もあれど通常その郊外は野兎などの小動物達も安らかに生活を送る事が出来る静謐な地であった。しかし今、その地にいる生物そのすべてが常ならざる脅威に怯え竦んでいた。余りにも恐ろしい鬼の咆哮が轟いていたが故に。

 

「クソ、クソ、クソ、クソ、くそったれがーーー!!!!!!」

 

 その鬼の名はリィン・オズボーン。エレボニア帝国に於いて"最強"の名を冠する敗軍の将であった。

 激情の赴くままに発せられる鬼気は生物であれば根源的な恐怖を感じずにはいられないものであり、この鬼が現れた瞬間この地に暮らす生命体の想いは一つとなった。

 すなわち、この鬼を刺激してはならない。平時この地に於いて王として君臨する魔獣さえも取った手段は早々の全面降伏。自らの腹を曝け出し敵意がない事を示す命乞いのポーズを取りながら兎にも角にも息を潜めてこの鬼がこの地から去るのを待っていた。

 

「この大馬鹿野郎が!何もかも全部お前のせいだぞ!わかってんのかこんちくしょう!!!!」

 

 怒りのままに何度も何度も力任せにその拳を地面へと叩きつける。そのたびに辺り一帯が震え、その咆哮に周囲の生命体が声なき悲鳴を挙げるが今の鬼にそれを省みる余裕などない。何故ならば今鬼はそうした冷静さを取り戻すために、他の者へとぶつけることが出来ない己が心の中の猛りを吐き出しにこの場所に訪れたのだから。

 

「……勝たなければならなかった。絶対に……絶対に勝たなければならなかった。例えこの命と魂と引き換えにしてでも俺は勝たねばならなかったというのに……!」

 

 握りしめた拳から血がしたたり落ちる。

 そうリィン・オズボーンは勝たなければならなかった。

 黒キ星杯の戦い、誰もが戦いに際して最高司令官であるリィンが求める役割を全うした。

 各々の敵を食い止めリィン・オズボーンという切り札(エース)が万全の状態で敵と相対する状況を整えた。

 ならばこそこの()()の責任は全てリィン・オズボーンに帰する。

 誰があの地で決戦を仕掛けると決めた?ーーーリィン・オズボーンだ。

 誰があの戦力ならば勝てると踏んだ?ーーーリィン・オズボーンだ。

 あの戦いで唯一明確な黒星を喫したのは誰だ?ーーーリィン・オズボーンだ。

 これより先生じる犠牲、それは総てリィン・オズボーンの責任だ。リィン・オズボーンがあそこできちんと勝ってさえいれば出ずに済んだはずの犠牲なのだ。

 最善を尽くした?そんな事は余りにも当然の事でありいちいち考慮に値するような事ではない。この世には負けてはならない立場というものがあり、帝国最強の騎士の名を担うというのはすなわちそういう事なのだから。

 

「クロウ……!」

 

 一足先に散った友の事を想う。

 友の魂は自らの中へと消えていった。如何なる原理かは不明だがそれはリィン・オズボーンをより強大な存在にした。

 黒を相手に受けた致命傷寸前の傷は治り、死闘の後にも関わらずその身体には生気が漲りこうして暴れるだけの元気が残っている。

 だがそれは死して尚友が傍へといてくれる吉報を意味しない。むしろ状況の更なる悪化を意味する凶報でさえある。

 

「リアンヌ殿……」

 

 自分たちを逃がすために殿を引き受けてくれた偉大なる先人の事を想う。

 槍の聖女リアンヌ・サンドロットは後事を総て託して覚醒を果たした黒を相手に殿を引き受けてくれた。

 その生還は絶望的と言っていい。すなわちあの黒が槍の聖女と銀の騎神をも吸収してより強大になったという事だ。

 最高と言える布陣を整えて挑んだ乾坤一擲、それにリィン・オズボーンは敗れ去り黒は勝利した。

 そうしてリィン達の側はリアンヌ・サンドロットとクロウ・アームブラスト、強大なる二つの戦力を喪失して黒はより強大になった。

 状況は余りにも絶望的と言っていいだろう。

 

()()()

 

 だがそれがいったいなんだというのだろうか。

 

「まだだ、まだだ、まだだまだだ!

 

 リィン・オズボーンは敗軍の将だ。人生に於いて最も負けてはならぬ局面で敗戦を喫した役立たず。無様な負け犬だ。

 

「まだ何も終わってなどいない……!」

 

 だがそれでもその心までもが折れてしまったわけではない。

 むしろその真逆、敗北した直後なればこそその心は熱く燃え猛るのだ。

 何故ならば彼はまごう事無き英雄、人々の希望の担い手なのだから。

 闇を相手に屈する等とあってはならないのだから。

 たかが親友一人が死んだ程度でそれに囚われ足を止める贅沢など許されるはずもない。

 今までだって彼はその手でその言葉で、誰かのクロウ・アームブラストを奪ってきたのだから。

 勝利が栄光が、その犠牲に報いる事になると信じて。

 捧げた命に見合うだけの光を英雄が祖国に齎してくると信じて彼の部下はみんな散っていったのだから。

 

「戻るとしよう。オリヴァルト殿下らと共に今後の方針をただちに練る必要がある」

 

 ほんの小一時間、オリヴァルト・ライゼ・アルノールらに告げた通りにほんの小一時間程度で英雄はその生涯で喫した最大の敗戦から自身の心を立て直して見せた。

 激情は今なおその心に猛り続けている。だがそれを統御する鋼の理性を復活させてのけたのだーーー親友の死という衝撃からもたった一時間余りで。

 そうもはや英雄の中に自分自身が幸福になろう、生き残ろう等という甘い気持ちは消え失せた。

 その身に残ったのは自らの魂と命を燃やし尽くす事に成ろうとも必ずや黒を滅ぼすという鋼鉄の覚悟のみ。

 "勝利"の二字を以て己が英雄伝説を完遂するために男は往くと決めたのだ。

 

 ここに獅子の名を以て讃えられし英雄、その伝説の最終章が幕を開けたのだった。




またコイツ独りで勝手に再起動しているよ……
これまでも多くの人間を死なせてきたのに今さらその死者の列に親友が独り加わった程度で歩みを止める贅沢なんてリィン・オズボーンには許されないからね。仕方がないね。
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