獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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勝つためには戦略が必要でしょう。
そして戦略を練るためにはまず情報が必要となってきます。


勝算

 

「それでは協議を始めるとしよう。初めにここから先の謝罪は無しで行く事は提案したい。我々は全員が最善を尽くした。そのうえで失敗してしまったという事実は真摯に受け止めねばならない。だが大前提としてこれから加速度的に進んでいく状況の悪化を、()()()()()を止める為に動ける者は今この場に集った者達しかいない。

 全員の協力が必要不可欠な状況なのだ。そんな状況で責任は自分にこそあるのだと主張しても意味はない。考えるべきはこれからどうするか、どうやって黒の騎神の邪悪なる野望を打ち砕くかにこそある。そのことをまずは大前提としておきたい。全員、それで構わないね?」

 

 取り纏め役であるオリヴァルトの機先を制した発言に一同は頷く。

 本来であれば敗軍の将であるリィン・オズボーンの責任は追及されて然るべきものだが、現実問題としてリィン・オズボーンが灰の騎神の起動者にして現在オリヴァルトらが抱える最高戦力という替えの効かない存在である以上その追及をしても結局のところ形式的な謝罪で終わるものでしかないのだからそれは妥当なものだろう。もはや言葉による弁解等意味を為さぬ局面。ただただ勝利を以て禊を果たすのみーーー等とリィン・オズボーンは考えたが無論オリヴァルト・ライゼ・アルノールという男はそこまで辛辣な男ではない。

 そもそもオリヴァルトにしてみれば最終的にリィンの提案へと乗る事を選んだのは自分である以上先の敗戦の責任を総てリィン一人に押し付けるつもりは毛頭ない。どちらかといえばそんな他人に厳しく自分に対しては更に厳しい鋼鉄の如き男と、黒によって操られた事で罪悪感に苛まれているであろう()()の自責の念を少しでも和らげるものだったのだが、残念ながらあまり効果があったとは言い難い。自責の念というのは結局のところ他人にどういわれるかではない、自分で自分を許せるかこそが肝要なのだから。果たすべき事を果たしていない状況ではそれも到底ままならないというものだろう。

 

「ではまずは今後の方針を練るにあたって貴方の意見をお聞きしたい、フランツ・ラインフォルト殿」

「かしこまりました、オリヴァルト殿下」

 

 オリヴァルトの言葉に応じて一人の男が恭しく立ちはだかる。それは黒の撃滅という肝心かなめの戦力目的の達成にこそ失敗したものの、それでも決戦によって得たものが皆無ではない事を示す確かな()()であった。

 

「まずはこの度の事をどうお詫びして良いものか……」

「ふん、人の話を聞いていなかったのか弟子一号。お前は馬鹿な弟子共の中では唯一マシな男だと思っていたがそれはどうやら私の買い被りだったようだな。()()()()()()と言ったのだ。

 正気を失っていた状態での行動など貴様ではない()()が行ったも同然の事だろう。貴様は自分ではない他人がやったことまでいちいち陳謝するのか?そんな事をしていてはいくら時間があっても足りんというものだ」

 

 ぶっきらぼうな様子で黒の支配から解放されて正気を取り戻した愛弟子を帝国最高の頭脳と謳われるG・シュミット*1は感動の再会など自分のやる事ではないと言わんばかりに辛辣に貶す。

 しかし口調こそ辛辣であれど内容をよくよく吟味すればつまりは「お前のせいではないのだから気にするな」と言っているも同然。なんというか素直ではない人であった。

 そしてそれはフランツだけではなくこの場にいる今尚罪悪感に苛まれているもう一人の弟子へと向けたものでもあった。

 

「そんな()()()()()()()()よりも貴様のこの10年の研究の成果を示せ。地精とやらの持つ技術、それを貴様は吸収したのだろう?研究者として私が興味があるのは()()()()()()だ」

 

 ……前述撤回。この人ほど自分に素直な人はそうはいないだろう。世界の存亡がかかっているこの状況もなんのその。帝国最高の頭脳G・シュミットが最優先とするものはこんな時でも平時と変わらず自らの知的好奇心であった。

 

「……先生は本当にお変わりありませんね。そうですね罪は行動によって雪がせて貰います。ではお伝えさせて頂きます、私が地精の長黒のアルベリヒとして行動していた事で知りえた情報の総てを」

 

 10年前と何一つとして変わらぬ師の姿、それに苦笑を浮かべた後にフランツ・ラインフォルトは語り出す、己の知る限りの総てを。

 

「まず私がこうして正気を取り戻すことが出来た事、それは黒にとっても完全なる想定外。聖女の放った一撃が確かに黒に対して致命打を与えた証左に他なりません。

 齎された想定外の終わりを前にして黒は自らの存在を繋ぎとめるために大地の聖獣がその身を以て抑え込んでいた″呪い"をその身へと取り込みました。そしてそれはあの場にいた黄昏の遂行のために用意していた手駒もまた同様だった。何しろ自身が滅んでしまってはそうした仕込みも総て無に帰すのですから。

 大地の聖獣の死とそれによって帝国全土へと呪いが拡散する事こそ本来の黄昏の始まりであり、その黄昏の遂行のための手駒こそが黒のアルベリヒの存在なればこそその点に於いて既に黒の計画は大きく崩れたと言えるでしょう」

 

 そう何せ大地の聖獣は生きている。その身は疲弊しきっているがしばらく休めば万全には程遠いもののある程度の協力を求める事も出来るだろう。これは黒のアルベリヒの消滅共々大きな戦果と言える。

 

「黒の史書によって記された内容は所詮予言。人の手でいくらでも未来は変えられる事は証明されたというわけだな。もっともそれが本当に状況の好転を意味しているかはわからないが」

 

 そう人の意志は時として運命と呼ばれるものでさえも変えることが出来る。だが変えた未来が本来の流れよりも好転したと断言できるほどに現状は優しくはなかった。

 

「仰る通りですリィン将軍。黒の計画こそ崩れたもののそれは必ずしも黒の弱体化を意味しない。いえむしろ黒はより強大な存在となったとさえ言えるでしょう。何せかつて英雄帝がその身と引き換えに討ち果たした暗黒竜の力、その大部分をも自身のものにしたと言っても過言ではないのですから。

 呪いの拡散が抑えられたこと自体は紛れもない福音ですが、黒の打倒という観点で考えれば残念ながらより困難になったと言っても差し支えないでしょう」

 

 政治的には紛れもない福音と言えるだろう。何せ呪いによる精神干渉が日常茶飯事のように行われる状況では話し合いも何もあったものではない。だがそれがいったいなんだというのだろうか。

 単騎で軍隊という国が抱える事の出来る最高戦力を容易く殲滅出来てしまうような存在を相手に話し合い等意味を為さない。結局のところ黒の騎神イシュメルガという神に成らんとしている悪魔を打倒せねば人類に明日は訪れないのだ。

 

「更に黒の力が強大になったという事はそれだけ黒による自身の起動者に対する精神干渉もまた増大したという事。ギリアスさんは……凄まじい人でした。あの人は黒の駒と成りながらも決して諦めてはいなかった。黄昏によって齎される帝国への被害を最小限に抑えるように尽力しながら同時に元凶である黒のみを打倒する術を模索していました」

 

 黒のアルベリヒに寄生された事でフランツ・ラインフォルトの意識は暗い魂の底へと沈んでいた。

 だが完全にその自我を喪失したわけではなくうすぼんやりと悪い夢を見続けるかのようにその意識は存在し続けていた。だからこそフランツ・ラインフォルトにはわかるのだ、黒の騎神イシュメルガの起動者となったギリアス・オズボーンが恐るべき精神力でその自我と正気を保っていた事を。

 ーーーそのことがよりあっさりと傀儡に堕してしまった自身を苛むわけだが、こればかりは比較対象が悪すぎるという他ないだろう。ギリアス・オズボーンの精神力こそが異常なのであってフランツ・ラインフォルトは至って正常な人間なのだから。

 

「ですがそんなあの人でも……」

「暗黒竜の力さえも加わった黒の支配を相手にいつまで抗いきれるかは怪しい。故に希望的観測は厳禁……とそういうわけですね。帝国政府のアクションに注視していく必要がありますね。おそらくはそれによって宰相閣下がどれだけ正気を保っているかを窺い知ることが出来るでしょうから」

 

 ギリアス・オズボーンが未だその正気を保っているならば彼は黄昏の遂行に動きながらもなんとか帝国への被害を最小限に抑えられるように動くだろう。

 責任はエレボニアという国そのものに帰するのではない、総ての責任はギリアス・オズボーンという大陸をわが物にせんとした野心家に帰し、エレボニア帝国もまたその被害者であったのだとーーーそれこそ御伽噺の打倒すれば総てが丸く収まる()()()()の立ち位置と自身が収まるように仕向けて行くはずだ。決戦の際にも彼は出来得る範囲で全力で黒の足を引きにかかるはずだ。

 だがもしもギリアスがその正気を完全に喪失していれば状況は極めて厄介なことに成る。ギリアス・オズボーンという男が真実その能力の総てを黄昏の成就に注いでいたその時は黒の打倒までに()()()()の死者が出る事も覚悟しなければならないだろう。そしてギリアス・オズボーンと黒の騎神を打倒してもそのダメージは帝国を蝕み続ける事となるのだ。

 当然だがことここに至ってリィン・オズボーンは父ギリアスの命を救う術がないかを模索する気など毛頭ない。ギリアス・オズボーンには()()()()()として死んでもらう。それは一連の事態を収拾させるための()()()()なのだから。黒を打倒してその死を混乱を収めるために最大限に利用すること、それこそが孤独な闘いを続けてきた父へと報いる最大の術だとリィン・オズボーンは信じている。

 

「ちなみに黒が残る騎神とその起動者へと積極的に襲撃をかけてくる可能性は?」

「その可能性は極めて低いでしょう。最終相克を為すためには黒が戦う相手にも相応の()というものが必要となります。かつて起こった大地の至宝と焔の至宝の激突、それを再現する事で達成されるのが最終相克なのですから。

 最強である黒がすでに銀を取り込んだ。この状態で他の騎神まで取り込んでしまっては肝心要の最終相克が不完全となってしまう可能性が出てきてしまいます。おそらく満を持して最強の挑戦者を迎え撃つ準備を進める事でしょう。そのための()()()()()が黒にはあるのですから」

「この期に及んで更なる隠し玉があるというのか……」

 

 うんざりとした様子でローゼリアが呟く。それはその場に居合わせた者達の心の声の代弁でもあった。

 

「かつて地精の祖が築いた幻想機動要塞。地精の長である黒のアルベリヒは黒の下僕として千年かけてその改修を進めてきました。最終相克の場として、そして黒へと完全なる勝利を約束するために。

 共和国との開戦前夜、この時のために帝国の各地に用意されていた塩の杭が一斉に起動します。そして各地の塩の杭から集められた人々の憎悪、敵意、怒り、戦意、そうした感情を塩の杭が吸収して霊脈より吸い上げた霊力と共にそれらは幻想機動要塞へと集約される。集約された力は黒へと注ぎ込まれて黒に更なる力を与える、というわけです」

「ちょっと待てぇい!先ほどお主は最終相克を行うためには黒の相手にも相応の格が求められると言っていたではないか!相手がどれだけ強くても黒がそうやって更なる力を手に入れてしまっては互いの力を全く釣り合っておらず相克が不成立となるのではないか!?」

「最終相克の達成のために求められるのは両者の力が釣り合っている事ではないのですローゼリア殿。重要なのは双方共に最終相克を達成するための基準値を満たしている事。基準値を10とした場合相手が基準値ぎりぎりの10で黒の持つ力が50でも100でも最終相克は達成されるのです。戦いがどれほど一方的に成ろうとも基準値は越えているのですから」

「……ならばいっそ手立てが見つかるまでこのままの状態を維持するというのはどうじゃ?残っている騎神は黒、金、緋、灰の4つ。金と緋と灰が談合して相克を行わなければ黒の最終相克の達成を阻止する事だけは出来る。幸い灰と緋の2つはこちら側にいるわけじゃし、後は金の起動者の協力さえ取り付ければ良いわけじゃ」

 

 名案とは到底言えない先延ばしにしかならないローゼリアの提案だったが一理はあるだろう。何しろ今のリィン達は乾坤一擲を賭した戦いに敗退したばかり。この状況で千年かけて準備をしてきた黒に挑むのはただの無謀だ。最低限の勝機がない状態で挑んだところで博打にさえならない。

 

「何言ってんの?私はちょっと休んでお互い万全に成ったらすぐにでもリィンと()し合う予定なんだけど?」

「……お主、状況がわかっておるのか?」

「?うん。黒の騎神に挑んだけど負けちゃって鋼のお婆ちゃんとクロウが死んじゃってリベンジするための算段を立てているところだよね?私のリィンが()()()()の事で諦めるわけもやられっぱなしで終わるはずもないし。

 でもそれに私が協力する義理も義務もないでしょ。だって私がリィンと交わした契約はあくまで決戦の際に猟兵王の相手をしておく事でその報酬としてリィンは私との逢瀬を約束してくれたんだから。そうだよねリィン♪」

 

 貴方はまさか乙女の純情を弄んで利用するだけ利用してポイするような酷い男ではないよねとシャーリィ・オルランドの熱い情念が籠った視線が英雄へと向けられる。

 

「ああ、貴殿は私との契約を果たしてくれた。故に私もまた貴殿との契約を履行しよう。そちらの望み通り横やり無しの一対一で一方の死を以て終わりとなる殺し合いをやろうじゃないかシャーリィ・オルランド。貴様の死を以て第四相克を果たす」

 

 そして返ってきたのはそんなシャーリィ・オルランドの心をどこまでも魅了してやまない期待通り、否、期待以上の言葉と視線。

 余りの幸福にシャーリィ・オルランドは自身の頬がみるみる熱くなっていくのを感じて両手で頬を抑えながら悶え出す。

 常人には到底理解することの出来ないその異次元の感性を前に当然のように周囲は引いていた。

 

「このようにこいつは常人とは全く異なる感性を以て動いている存在です。談合等、到底成立する相手ではない事をご理解ください」

「……うん。理解したわ。すごく理解した。なんというかお主も中々に大変じゃな」

 

 普段無茶ぶりをされてドン引きさせられてばかりのローゼリアもこの時ばかりはリィンへの同情を禁じ得なかった。

 

「では金の起動者ならばどうじゃ?確か汝はそやつと帝国の双璧などと謳われている盟友同士なんじゃろう?」

「そちらも難しいでしょう。こちらからの共闘の申し出をルーファス・アルバレアはすでに一度拒絶しています。

 奴は奴で勝つために相応の準備を整えている。乾坤一擲に失敗して態勢を立て直している最中のこちらとはまるで状況が違います。

 何よりもそうして手をこまねいている間に黒はこの大陸の総てを呑み込むべく動き始めます。

 幻想機動要塞とやらの力で帝国中の力を吸い上げた状態の黒を止められる術が共和国にあるとは到底思えませんーーーそんなものがあるのであれば先の戦役時に投入してきているに決まっているのですから。

 何とか共和国との開戦前に黒へと刃を届かせるための算段と準備を整えた上で決戦を挑み、奴を打倒する。それ以外に手立てはないかと」

「……じゃがその肝心要の算段とやらが現状皆目ついていない状態ではないか。汝がリアンヌやドライケルスにも引けを取らぬ規格外の英傑である事は認めるが、その汝とリアンヌが揃っている状態でさえも敗れたのだから。

 そして黒は銀とリアンヌをも吸収し、ドライケルスを己が起動者にして幻想機動要塞なるとっておきまである始末。これでは汝が緋と金を取り込んだところで焼石に水というものじゃろう」

「………」

 

 ローゼリアの言葉にリィン・オズボーンは沈黙する。

 ローゼリアの語った内容は正論であった。現状リィン・オズボーンは黒の騎神イシュメルガを打倒する術を到底見出せていない。

 緋と金を取り込んだ程度でどうにかなるとは思えないほどに彼我の戦力差は離れてしまっている。

 この状態でそれでも勝って見せるのだという空手形を切る事はリィンには出来なかった。

 自らの命と魂を捧げる程度で事を為せるというのならいくらでも捧げる覚悟がリィン・オズボーンにはある。

 だがたかだか英雄一人がその命と魂を捧げた程度で為せるほどに黒の打倒は容易くはないのだ。

 何せリィン・オズボーンはその持てる才智の総てを注いだ上で敗れた敗軍の将なのだから。

 そのような手立てがあったというのならばそもそも前回の戦いの時に使っているに決まっているのだから。

 

「……一つだけ、私に黒を打倒しうる手立てに心当たりがあります」

 

 ならばこそこの状況をひっくり返す一筋の光明、それを齎すのは10年もの間黒の傀儡とされていた男、すなわち黒の騎神の内部事情を知り尽くしている存在フランツ・ラインフォルトその人に他ならなかった。

*1
自分が手掛けたオーレリアとヴィクター専用の機甲兵の性能を実施で確認するためにと無理を言って決戦時にカレイジャスに同行。この男がこの手のわがままを言った時に止められるものは当然のようにエレボニアには存在しなかった。




思ったよりも長くなったので会議は次回に続く。

呪いが帝国全土に広がってないという事がどういう事かわかるか?
つまりはノリノリで共和国相手に戦争しようとしているのは紛れもないエレボニア国民の意志によるものだって事だよ。
なんでそんなことになったかって?どっかの誰かさんが共和国ボコボコにしたりノーザンブリアあっさり併合したりで帝国臣民にとっての戦争は娯楽に成り下がったからだよ。帝国人にとって戦争は悲劇じゃなくて国中が熱狂して盛り上がれるお祭り騒ぎになったんだよ。
ついでに槍の聖女という黒打倒オッズ、ガチガチの本命馬を唆して決戦を挑んで負けたのもどっかの誰かさん。つまりは黒にとって一番警戒するべき存在が消えることになったのもどっかの誰かさんのせい。よって今の絶望的な状況は大体どっかの誰かさんのせいという事ですねガハハハハハ。
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