共和国:国内移民問題でグダグダのボロボロ
不敗の魔術師でも居ないとこんなん無理ゲーですわ。
ノルド高原会戦ーーーそれはマッケンジー政権の愚行の最たるものとして当代及び後世からの非難の的となる共和国にとっては徒に犠牲を出し、ただ一人帝国の英雄リィン・オズボーンの名を為さしめる結果となった戦いであった。
何故そのような愚行をマッケンジー政権が行ったかと言えば、端的に言えばマッケンジー政権は行き詰まっていたのだ。
東方からの移民排斥及び宿敵たる帝国の打倒という威勢の良いスローガンを掲げて政権に付いたジョージ・マッケンジーであったが、その威勢の良さとは裏腹に国内は完全に行き詰まりとなっていた。
基よりカルバード共和国とは建国にあたって東方の大商人からの多大な援助を受け、共和国が言うところの民族を超えた偉大なる共闘によって腐敗した王朝を打破して、誕生した他民族国家である。その設立からして暗躍した東方系は共和国の政財界に確固たる影響力を有しており、これを排除するのは容易ではない。案の定と言うべきか、威勢のいい言葉を掲げて政権へと就いたジョージ・マッケンジーは当然のように現実の壁を前に行き詰まった。
当初はまだ就任したばかりだからという事で甘く見ていた彼の支持者達も、政権に就いてから半年という準備期間が過ぎると威勢の良い言葉とは裏腹になんら有効打を打つことも出来ず改善されない現状に、次第に抱いた期待は失望へと変わりだした。就任当初は6割あった政権支持率はあっという間に半分を切った。
そしてトドメとばかりに齎されたのが宿敵エレボニアのノーザンブリアの併合であった。
共和国の盾が真っ向から粉砕され、共和国の属州たるクロスベルを帝国に奪われた記憶は共和国の民にとっては未だ新しい。共和国には灰色の騎士に家族や友人を殺された者が五万と居るのだ。そんな状況下で灰色の騎士が今度はノーザンブリアを侵略したその様に共和国人は恐怖し、同時に怒りを抱いた。帝国の強硬姿勢に対して断固たる措置を行うべし!とそんな
対応に苦慮した彼は言葉の上では帝国に非難声明を出しながら、情報部を使って世論操作を試みた。ノーザンブリアは難治の地であり、その統治は容易ではない。帝国は言わば自分から不良債権を抱え込んだようなものだとノーザンブリアの併合は明らかな失政であり、愚行であると思わせるように仕向けたのだ。これは総てが総て嘘だったというわけではない。もとよりノーザンブリアは難治の地だ。土地は痩せ細り、民は飢えている。これを統治するのは容易ではない。それこそ大規模な資本の投下と、余程英明で強力な指導者が独裁権力でも有して取り組んでようやく復興の目処が出る、といったところだろう。
前者をする場合当然帝国人より不満が出るだろうーーー何故ノーザンブリアの為にそこまでしなければならないのか?と。なればこそ、ノーザンブリア自治州はこれまでもゼムリア大陸の最貧国として破綻寸前のまま存続して来たのだから。
後者に関してはなるほど、リィン・オズボーンが紛れもない天才と称されるような軍事的英才である事はもはや疑いようがない。だが、彼の功績はあくまで軍事分野であり、政治分野での功績と言えばクロスベルでの粛清劇位である。そして人間というのは自身の成功体験に縛られるものだ。「前はこのやり方で上手く行ったのだから今回もこれで上手く行く」とそんな具合に思考の硬直が生まれる。
そしてリィン・オズボーンという若者はクロスベルでこの上ない成功を収めた。そしてそれこそが命取りとなる。ノーザンブリアとクロスベルでは求められる対処というのは全く別物になるからだ。
クロスベルで求められたのは肥満児を適正な体重にするべく引き締めを図ることであったが、ノーザンブリアは違う。やせ細ったノーザンブリアの地に必要なのは理念や理想、正義よりも何よりも今を生きるための糧なのだ。
そしてその事が年若い彼には未だわからぬだろうというのが共和国側の読みであった。
リィン・オズボーンなる人物が如何なる人物なのかというのは粗方把握している。何せ共和国から見れば今や鉄血宰相に次ぐ、帝国の要注意人物なのだから。その生い立ちから為人まで、それこそ血眼になって情報部が調べ上げた。そうして達した結論はリィン・オズボーンなる人物は極めて高い能力と溢れんばかりの愛国心を持ち合わせ、腐敗を憎み正義を愛し公益をこそ最優先させる高潔な、公人として軍人としては凡そ理想的と言える人物であるというものであった。そしてそんな軍人として理想的で情熱に燃えるような高潔な人物だからこそ、ノーザンブリアの地を上手く治める事は出来ないとマッケンジーは踏んだのだ。
何故ならば政治とは決して綺麗事だけでは済まないものだから。クロスベルに於いては彼の高潔さは+に働いた。クロスベルは豊かな地で、求められたのは肥満児をスリムにする事であったから。腐敗の粛清、綱紀の引き締めという分野に於いて彼のような清廉な理想家はこの上なく上手くやる。
しかし、ノーザンブリアに求められるのは兎にも角にも今を生きる糧である。そしてそうした凡人の求める即物的なものについて、リィン・オズボーンのように若く高潔で優秀な理想家というのは疎いものだ。何故ならば彼らのような人物はとかく自分と同じ水準を他者にも求めるものだから。そしてその「正しい」が故に凡人にとっては倣うには余りにも厳しい在り方はクロスベルでは口に苦い良薬として働いたが、ノーザンブリアでは半死半生の病人にトドメを刺す劇薬となるだろう。故に帝国のノーザンブリアの統治は失敗する。それがマッケンジー政権の予測だった。
それは希望的観測ではあったが、的外れなものでは決してなかった。
何せリィン・オズボーンは生粋のエリートであったから。
帝国宰相の実父と帝国正規軍の将官の養父を持ち、名門トールズ士官学院を首席で卒業し、エレボニア帝国の最精鋭が集う光翼獅子機兵団の司令官たる彼が接してきたのは社会に於ける上澄みばかりであったのだから。そう、彼自身の経験では確かにそうであったのだ。
だが彼には獅子戦役を駆け抜けたドライケルス・ライゼ・アルノールの記憶と経験が存在した。その中でドライケルスは多くの悲劇を見た。そして痛感したのだ、民が求めるものは何よりも今を生きるための糧であり、「安心」であると。
命よりも誇りを優先させられる自分や自分の友のような存在はそう居るわけではなく、そしてそれを万人に求めてはならないという事をその身を以て実感したのだ。
故にこそ共和国の期待したような失政をリィンはせずに済んだのであった。
かくして共和国の予測とは裏腹にリィン・オズボーンはノーザンブリアの統治者としてもこの上なく上手くやった。更にクロスベル総督を務めるルーファス・アルバレアは同胞としてノーザンブリアの復興に全面的な協力を約束。クライスト商会、RFグループといった大企業が政府と協力の下ノーザンブリアの地に資本を投下し、支社や工場を作り始めると他の帝国企業もこのノーザンブリアの復興特需へと目をつけ、急速な勢いでノーザンブリアの地は復興し始めたのであった。
そしてそれは苦境にあったマッケンジー政権を更に追い詰める結果となった。
大統領は帝国は難治の地を抱え込んだだけと言っていた。灰色の悪魔は軍人としては優秀だが、政治家としての実績など無いに等しい。故ににまず失敗するだろうと。だというのにやつはこの上なく上手くやって、帝国は益々強大になったではないかーーー!と。
帝国が強大になるのをみすみす見過ごした、と共和国市民には見えた、マッケンジー政権を非難する声は高まり支持率はついに政権運営が困難となる4割を切り出した。事此処に至ってジョージ・マッケンジーは博打へと踏み出す、すなわち帝国相手の軍事的勝利を収める事での人気回復という博打である。
大規模なものではなくても良い、最低限勝利と言えるものをあげられれば、それを過大に持ち上げてどうにか政権を維持する事が出来ると軍部に於ける彼のシンパと相談した結果、ノルド高原への出兵を行う事となった。
クロスベルを攻めればそれは帝国の逆鱗に触れ、大規模な軍事的な衝突に発展するだろう。
しかしノルド高原は戦略上の価値はクロスベルに比べれば遥かに低く、折しもそこを防衛していた名将ゼクス・ヴァンダールは大将への昇進と共にドレックノール要塞司令官へと栄転しており、そのゼクスと共に北方に駐屯していたクリストフ・ヴァーゼルもまたノーザンブリアへと代わり、ノルド方面への帝国の警戒は明らかに落ちていた。
帝国本土への侵攻ならばともかく、ノルド高原への侵攻ならば十分に成功するだろう、それが結論であった。
そしてそれをやるならば今年の内でなければならない。何故ならば、年が明ければ恐るべき灰色の悪魔が再び動き出すのだから。北方戦役の殊勲式と凱旋式で少なくとも年内の内はかの存在は身動きが取れないはずであり、その間に共和国人が溜飲を下げる事が出来て、なおかつ帝国を刺激しすぎない程度の細やかな勝利を挙げるためにも。
そして、それらは総て怪物の掌の上であった。
共和国が自分の予測して期待した通りに動いた事を知った鉄血宰相ギリアス・オズボーンは即座に、予定していた殊勲式と凱旋式の延期、及びリィン将軍への迎撃の要請を行い、同将軍はこれを受諾。脅威的な速度で同部隊を率いて急行したリィン少将率いる《光翼獅子機兵団》は戦史に残る鮮やかな勝利を収めたのである。
ジョージ・マッケンジーにとっては悪夢であった。
相次ぐ将軍の転任からして帝国政府がもはやノルド高原に重きを置いていないは明らかだったはずだ。
だからこそその対応はまず以て、後手を踏むはずであり、実際にノルド高原への侵攻はこの上なく上手く行った。後は適当なところで撤収するだけであったはずなのに、よもや凱旋式を延期してまでかの将軍が急行、それも常識はずれの速度で、してくる事など完全に慮外の事態であったのだ。
彼は知らなかった。帝国政府がノルド高原を軽視しているとそう思わせる事、それ自体が鉄血宰相の掌の上であったことを。政権運営に行き詰まったマッケンジーにそうしてノルドを侵攻させて、その上で息子に叩き潰させるところまでギリアス・オズボーンがノーザンブリアを併合した時点で思い描いていた事だったなどと。
(これでお前への結婚祝いは終わりだ、リィンよ)
ノーザンブリアの併合、ノルド高原会戦での勝利でリィン・オズボーンの名声は確固たる物となった。
かの皇子とも協力すれば自分に刃を突き立てるための最低限の下地は出来たと言って良いだろう。
同時にその父親たるギリアスの声望も高まり、英雄の齎した勝利に湧く帝国では「共和国など恐れるに足らない」という好戦的な世論がギリアスの狙い通りに高まりつつ有る。
着々と
(もう後一手、それで共和国への対処は万全)
今回のノルド高原への共和国の侵攻で帝国はクロスベルの防備を固めるための、自衛のための大義名分を得た。
そうしてクロスベルに戦力を集中させれば、先の敗北と併せて恐怖に駆られた国民をもはやマッケンジーでは統制する事は出来ない。
自身の生き残りも賭けて、クロスベルを全力で攻め落とそうと動くだろう。
そしてそれを叩き潰す。そうすれば帝国の共和国への優位は絶対的なものとなり、自分が
(盤面は整いつつ有る。どこまで抗う事が出来るかな)
オリヴァルト・ライゼ・アルノール、自分に対して宣戦布告を行った若き皇子の姿を思い起こす。
リィン・オズボーン、ついに自分の道を歩みだした自分の愛息子の姿を思い浮かべる。
(願う事ならば、この様な
何故ならば、何時の時代も世を築いてくのは老人ではなく若者なのだから。
250年前の遺物に過ぎぬ自分を超えて見せろとギリアス・オズボーンは鋼鉄の決意の中に僅かな希望を若人達に託すのであった……
ルーファス総督「ノーザンブリアへの支援なら任せろーバリバリ」
クロスベル市民「辞めて!!!」
所得の再分配は統治者の義務だからね。しょうがないね。
帝国内で一番豊かなクロスベルの金を帝国内で一番貧しいノーザンブリアに回すのは当然の事だよね!!!