獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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第四相克

 

「君の影~星のように~朝に溶けて~消えていく~」

 

 今にもスキップしそうな軽快な様子で紅い髪を持った少女がエリンの里の郊外の秘境を進んでいく。

 

「行き先を失くしたまま~想いは溢れて行く~」

 

 その口から紡がれるのは少し前に帝国で一世を風靡した歌である事をリィン・オズボーンは記憶していたーーーこの手の分野に関してはからっきし疎いリィンが記憶していたのは偏に義姉であるフィオナ・クレイグが夕食の支度をする際に口ずさんでいたリィンにとっても一際思い出深い曲だったからである。

 

「二人歩いた~時を~信じていて欲しい~~~♪」

 

 どこか物哀しさを宿した歌を歌いながらも少女の表情は余りにも晴れやかだった。それはそれだろう、彼女にとってみればこれから待っているのは彼女にとって待ち焦がれた想い人との逢瀬なのだから暗くなる理由など何一つとして存在しない。

 そんな少女とは対照的に英雄は黙々と歩みを続ける。四度目にして最後となるであろう少女との戦いに今度こそ決着をつけるために必勝を期して心の中の炎を燃やし続けながら。

 

 そうしてたどり着いた郊外の拓けた場所で両者は己が愛機を呼び出す。

 とはいえ両者の戦いは騎神同士の激突、すなわち騎神戦によって行われるわけではない。

 この戦いを望んだ者、シャーリィ・オルランドの望みにより両者は生身のまま激突する。

 「道具を使ったプレイも良いけどやっぱりやるなら生に限るよね!」ーーーとはこの戦いを望んだ当人の弁である。

 本来であれば相克を行うためには騎神同士の激突が必要となる、されどシャーリィ・オルランドにしてもリィン・オズボーンにしても既にその身は本来の最終形態である第三段階をも越えて己が愛機と極めて強固な霊的な結びつきが存在している。

 それこそ既にその肉体は人の身でありながら、同時に騎神でもあると言えるほどに。

 故に起動者の敗退はすなわちその起動者を選んだ騎神の敗北でもあり相克の条件は達成されるーーーというわけだ。

 相克が問題なく果たされるようであればリィンとしても異論はない、むしろ騎神同士の激突が及ぼすエリンの里を守る結界への影響を想えば生身同士での決着というのはリィンとしても望むところ。

 ここにシャーリィ・オルランドが望んだ通り、四度目にして最期の逢瀬は“生”で行われることが決まったのであった。

 

「さてそれでは貴様の望みに応じてこうして一騎打ちの戦いへと臨んでやったわけだが……最期に何か言い残しておくことはあるか?」

 

 勝つのはどちらかは既に決まっているも同然の傲然とした様子でリィン・オズボーンは言い放つ。

 それは決して目前の敵手を侮っているが故のものではない。シャーリィ・オルランドは紛れもない難敵であるとリィン・オズボーンは認識している。その上で勝つのは自分だという自負が為さしめるものであった。

 

「それじゃあお言葉に甘えて最期に一言。リィン、私は貴方にあえて本当の本当に良かった!

 貴方に会えてからは全てが輝いて見えた!貴方がくれた総てが私にとっては大切な宝物!ああ、私はこの人に会うために生まれてきたんだって心の底から思えた!!」

 

 輝く笑顔を浮かべながら行うそれはまさしく情熱的な告白。

 そうシャーリィ・オルランドはリィン・オズボーンに恋している。

 出会ったその日から彼女の脳内を埋め尽くしていたのはいつだとて輝かしき英雄の雄姿。

 英雄に追いつき追い越さんとする想いこそが彼女を若くして先代が相打ちで終わった猟兵王を真っ向勝負で破る新たな闘神の座へと至らしめた。

 故にそれがどれほど常軌を逸したものであったとしてもその想い自体は紛れもない本物なのだろう。彼女の抱いた想い、それ自体を偽物だと断ずる資格など誰にだろうと存在しない。

 

「だからありがとうリィン!トワじゃなくて私を選んでくれて!!」

 

 だがその上で英雄にとって看過できぬ妄言というものがある、シャーリィ・オルランドが恍惚としながら吐いた言葉が紛れもないそれであった。

 

「貴様は一体何を言っている。俺が妻に選んだの最愛の女性はトワ・オズボーンだ。貴様ではない。ふざけた妄言をこれ以上ほざくというのならもはや問答は不要だと判断して早急にその口を永遠にふさいでやるぞ」

 

 常人であれば怯え竦み失神するか失禁するような強烈な怒気が英雄から叩きつけられるが無論常人には程遠い怪物を叩きつけられても喜ぶばかり。恍惚とした様子で彼女の理屈によって構成された言葉を紡ぎ続ける。

 

 

「だってあなたはトワの夫である事よりも英雄である事を選んだじゃない。どれだけトワが頼み込んでもトワの下に帰る事は選ばないでしょ?戦って戦って敵を倒して最期は自分も死ぬ。それが自分の、リィン・オズボーンの生き様だと定めたんだよね?

 それはつまり日常ではなく戦場を自らの居場所であり果てる場所と定めたという事。ほら!つまりはそれってトワじゃなくて私を選んでくれたって事でしょ!?」

 

 彼女の本性を知らない者であれば魅了されそうな眩く輝く笑顔を浮かべながらシャーリィ・オルランドが語った内容は余りにも論理が飛躍していた。

 

「……そうだな、確かに俺は彼女の祈りと願いには最早答えることが出来ない。残されたこの命を燃やし尽くしてこの身に背負う責任を果たすのだと、そう決めた」

 

 そこについては確かにシャーリィ・オルランドの語った内容は正鵠を射抜いている。リィン・オズボーンはトワ・オズボーンの願いを第一にすることは出来ない、否、しないと決めた。

 自らの選択と決断により最愛の女性を泣かせることになろうともリィン・オズボーンには果たさねばならぬ責任があるのだから。道は既に定まった以上断固たる意志と覚悟を以て後はそれをやり遂げるのみだとそう決めた。

 故に前半についてシャーリィ・オルランドの語った内容は決して的外れと言えるものではなかった。

 

「だがそれは軍人としての責務を果たす事を選んだというだけの事。決して貴様を選んだわけではない、シャーリィ・オルランド」

 

 走り切ると決めた道の途中に配置されている番人の一人にシャーリィ・オルランドという女がいる、ただそれだけの事なのだ。決してトワ・オズボーンとシャーリィ・オルランドの二名を天秤にかけて後者を選んだわけではないのだから。

 

「え~だから~その選択自体がトワじゃなくて私を選んだって事なんだってば~~~。も~うリィンったらわからずやだな~それともツンデレって奴?」

 

 不満げにそっぽをむくその表情は愛らしい。それこそ彼女の本性を知らぬものであればその愛嬌に魅了される者が出たとしてもなんらおかしくない程に。

 

「ま、良いか。リィンがどれだけ口で否定したとしてもこの最期の逢瀬であなたを殺せばあなたは永遠に私のものなんだから!

 ごめんね、ごめんね最愛の人(リィン)。貴方の心臓を私に抉らせて。貴方の命とあなたの魂を私に頂戴。貴方の事をずっとずっと忘れないから。片時も忘れずにあなたという英雄を私が未来にまで連れて行くから!!」

 

 本性を剝き出しにした怪物は狂おしい程の情念を込めながら叫ぶ。

 ーーーシャーリィ・オルランドはリィン・オズボーンを殺したい。殺して永遠に自分のものにしたい。

 ーーーシャーリィ・オルランドはリィン・オズボーンを殺したくない。殺してしまえばもう二度と最愛の人との逢瀬を楽しめなくなってしまうのだから。

 そんな二律背反に英雄に恋した結果怪物と成り果てた乙女は苦悩しながらも、あくまで英雄を喰らう事を選んだ。

 それはシャーリィ・オルランドがリィン・オズボーンという英雄に恋をした結果の当然の帰結であった。

 

「詫びる必要などない。死ぬのは貴様の方なのだから。貴様の総てを余すことなくぶつけてこい、シャーリィ・オルランド。その上で俺は貴様を討ち貴様の命を以て第四相克を果たそう」

 

 リィン・オズボーンは勝ち方への拘りというものが薄い。

 シグムント・オルランドを討ち取った時のように敵より多くの戦力を揃えて袋叩きにすることも虚をついた奇襲をかける事も戦いの基本中の基本にして常道だと認識している。

 だがそれでも今回の戦いはそうした手は一切用いずに真っ向勝負をすることを選んだ。

 それは目前の相手に対する最期の手向けだとか契約を履行した相手に対する正当な報酬だからーーーといった殊勝な理由が占める割合は0ではないにしても主なものではない。

 リィン・オズボーンが真っ向勝負を選んだ理由、それはこの戦いが残り少ない自らの力を高める好機に他ならないからだ。

 リィン・オズボーンの戦闘力はヴァリマールという相棒との共鳴ありきにしても既に武神アリアンロードにさえも比肩しうる領域にまで到達している。

 当然ながらここまでくるともはや尋常な方法でのレベルアップというのは難しくなってくる。

 ならばこそ自らに刃を届かせ得る存在との死闘というのはそのまたとない機会へと成りうる。

 

 黒の騎神イシュメルガを駆る獅子の心を持つ王は銀と武神を吸収してより高みへと至っている事は疑いようがない。

 そんな圧倒的格上を相手にリィン・オズボーンは最低でも1時間の時間を稼がねばならないのだ。

 黒との最終決戦に至るための過程で盤石を期して確実な勝利を選んだところで肝心要の黒との戦いを落としてしまっては何も意味がない。

 黒の持つ虚無の力を想えばオーレリア・ルグィン、ヴィクター・アルゼイドといった帝国最高峰の実力者でさえも戦力外となってしまう事を想えば黒を相手取る事が出来るのは灰を駆るリィン・オズボーンただ一人。

 故に最終決戦での勝率を少しでも上げるためにはリィン・オズボーンが今よりも強くなる以外にはないのだ。

 

 ならばこそシャーリィ・オルランドという自身に牙を届かせ得る敵手との戦いという貴重な機会を逃すつもりはない。

 シャーリィ・オルランドがその生涯を培って手にした力、それら総てを余さず受けとめ砕き食い尽くして更なる高みへと至る。

 ただの勝利に留まらない次へと繋がる勝利、それこそがこの戦いでのリィン・オズボーンの目的であった。

 

「うん……うん!始めようリィン!私と貴方の最後の逢瀬を!!」

 

 そしてそんな英雄の宣言を前にシャーリィ・オルランドは涙を流しながら歓喜の咆哮を轟かせる。

 紛れもないこの戦いこそが自分にとっての聖戦、最高の時間になるのだと確信して。この瞬間のためにこそ自分はこの世に生を受けたのだとさえ思いながら。

 

 ーーー英雄と怪物の四度目にして最後となる戦いが、幕を開けた。




シャーリィちゃんが勝つ→リィン・オズボーンの魂を喰らいリィン・オズボーンを永遠に自分の者に出来るので大勝利(その結果世界が滅びる?この娘がそんなもの気にするわけはないでしょ)
引き分けで終わる(相打ち)→リィン・オズボーンを自分のものにして自分もまたリィン・オズボーンのものになるのでハッピーエンド
シャーリィちゃんが負ける→最高にして最愛の英雄との逢瀬を人生の最後に持って来れたのでハッピーエンド

もはやこの戦いが始まった時点でシャーリィちゃんに負けはないんですね。
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