「炎鬼覚醒!」
「竜気解放!」
ことここに至ってはもはや出し惜しみ等不要。
両者は共に初手から全力。己が愛機との繋がりを通して上位次元に存在する鋼の至宝、その根源から力を引き出して己が肉体を爆発的に強化していく。
「行くよリィン!今こそ私の全力を、私の歩みを、その総てを貴方にぶつける!!」
先手を打ったのはシャーリィ・オルランドであった。
テスタロッサの持つ権能、己が武具を創形し異空間より呼び出すその力を生身のままに用いて武具を一斉に英雄に向けて斉射する。
それらは当然ながら今この場で創形したわけではない、リィン・オズボーンという英雄がそんな暇を戦闘中に与えてくれない事は余りにも明白なのだから。
故にそれは一度リィン・オズボーンに敗れて、否、殺されて復活した日から今日に至るまでシャーリィ・オルランドがその溢れんばかりの英雄への想いを込めて用意した珠玉の品々。
猟兵王との戦いでも使用する事無く温存しておいたとっておきだ。
「切り伏せる!」
しかしそんなものは当然今の英雄に対しては牽制程度にしか働かない。
回避が困難な飽和攻撃だと悟るや否や自らの前進を阻むものを的確に見抜きその双剣を以て粉砕し、一挙に敵へと肉薄する。
「ッ~~~~!!!本当に最高だなぁ貴方は!!!」
振るわれるその閃刃は余りに激烈。猟兵王を喰らった闘神をして防御に徹して凌ぐのがやっとという有様であった。だからその事実がシャーリィ・オルランドには嬉しくて嬉しくてたまらない。
これほどまでに女を磨いた自分をして尚届かない益荒男、それは自分の男を見る目は確かだったという何よりの証拠に他ならないのだから。
「だから負けない!負けられない!!あなたに釣り合う女であるためにも私は負けられないんだ!!」
初撃で明確に叩きつけられた余りにも明確な優劣。
猟兵王を喰らい更なる高みに至ったと自負していたが英雄はやはりというべきかそんな自らの上を行っていた。
それはある意味必然だろう、シャーリィ・オルランドがリィン・オズボーンに敗北し、不死者として再び目覚めるまでの間もリィン・オズボーンは戦い続けてきた。
劫炎のマクバーン、武神アリアンロードという自身の格上を相手に。
それらと渡り合い乗り越える事で英雄は飛躍的な成長を遂げた。
一方のシャーリィ・オルランドはその間眠りについていたのだ。
たかだか猟兵王一人を喰らった程度で英雄が走り続けていた間に眠っていたブランクは埋まらない。
更にはリィン・オズボーンが為す炎鬼覚醒は愛機でありヴァリマールと共鳴を行う事で為すもの、つまりはリィン・オズボーンとヴァリマール二人分の意志を以て鋼の至宝より力を引き出しているものなのだ。
一方シャーリィ・オルランドが為す竜気解放はあくまでシャーリィ・オルランド独り分の意志によって引き出すもの。
呪いに侵された愛機テスタロッサ等シャーリィ・オルランドにとってはあくまで自分を想い人に釣り合うための花嫁衣裳に過ぎずそこに絆も敬意もない以上それは必然と言える選択であったが、それでも当然のようにその意志を共鳴させている英雄の側に比べれば引き出せる力の総量は格段に劣る。
故に当然のようにシャーリィ・オルランドは劣勢に陥る。この戦いのためにとっておいた事前準備がなければそれこそたちどころに粉砕されていたとしてもおかしくなかっただろう。
「そんなの全部承知の上だよ!!」
そう承知の上だ。
この想い人が自分をまた追い越したはるか上のところにまで行ったことなどシャーリィ・オルランドは当然承知している。
だってシャーリィ・オルランドが恋をした人はとてもとても素晴らしい英雄なのだから。
何時だって全身全霊脇目も振らずにひた走る柔弱さなど欠片足りとて感じさせないその雄々しき姿にこそシャーリィ・オルランドは恋をしたのだから。
そんな想い人を相手に二ヶ月もの間眠りこけていた事がどれほど致命的な遅れとなるかシャーリィ・オルランドはよくよく知っている。
意志を共鳴させて高め合う英雄とその相棒を前に愛機であるテスタロッサをただの道具として自分独り分では後れを取るのは必然だという理屈がわからぬほどに愚昧なわけでもない。
一定以上の質を有しているという大前提有りきだが、少ない方よりも多い方が強いというのは戦場に於いて至極当然の理なのだから。
だから、ああ、それで?
一体それがなんだというのか。
「こんな簡単に終われるもんかぁ!」
だってこれは文字通り想い人との最後の逢瀬なのだから。
シャーリィ・オルランドは全身全霊を振り絞り必死に英雄に喰らいつく。
その魂を喰らい己が物とした猟兵王の知識、経験、それらも総動員させながら血みどろになりながらも喰らいつく。
この戦いの間保ってさえくれるというのであればその後どうなっても構わないとかつてない深度で以て力を求める。
そんな自らへと恋焦がれる乙女の姿を見てもリィン・オズボーンは常と変わらない。
どこまでも冷然と迷惑だと言わんばかりにただただ蹴散らすのみだと言わんばかりにーーー
「どうしたシャーリィ・オルランド、貴様の全力はこの程度か?」
否、常とは異なり殊更煽るような挑発を敵手へと投げかける。
まるで
それはこれまでの英雄であればあり得なかった振る舞いだ。
一切の慢心をせずに自身の敗北の可能性を少しでも下げるために相手が全力を出せぬうちに完封できるというのであれば最上、そんなロマンチシズムとは縁遠い余りにも無情な戦い方こそがこの英雄の戦闘方針であったが故に。
「冗談!まだまだぁ!」
案の定というべきか、投げかけられた言葉を起爆剤にしてシャーリィ・オルランドの至宝より引き出す力の深度が跳ね上がる。
鋼の至宝は強き意志に呼応し至宝と繋がる騎神と起動者へと力を授ける力の塊である以上はそれは必然だ。
引き出した力に耐えられず自壊を始める肉体さえも物質を司る大地の至宝ロストゼウムによってこの瞬間その出力へと耐えられるようにより強靭な身体へと作り替えられていく。
必然的に発狂するような激痛がシャーリィの身体を蝕んでいるはずなのだが人の身をした狂える竜が今さらその程度で動じるはずもない。
何故ならばシャーリィ・オルランドは当の昔に正気を失っているのだから。
あの日オルキスタワーで運命の相手と巡り会い、その雄々しき眼光に魂を魅了された瞬間から。
そうだシャーリィ・オルランドがこの世に恐れる事はただ一つ、目前の英雄に取るに足らない路傍の石ころのような存在として扱われる事のみなのだ。
「だから力を寄越せテスタロッサァ!リィンと並び立つ女になるためにも!シャーリィはこんなところで止まってられないんだからぁ!!」
それはどこまでも愛機であるテスタロッサを道具として扱ったものでしかない。
そこに絆と呼ばれるようなものはない。当然のようにその意志を共鳴させ合い高め合っているわけではない。
「竜気覚醒!」
にも関わらずシャーリィ・オルランドは独力で以て奇跡を起こした。
ただただ想い人である英雄に並び立つためにという恋心を以て。
道理と呼ばれるものを「恋する乙女に不可能はない」などという理屈にさえなっていない無茶苦茶な理屈によって総て蹴散らして。
それはまさしく退路など要らないのだとばかりにこの戦いに総てを賭けた想いが起こした奇跡であった。
「ああ……ようやくようやく私はまたあなたに釣り合う女になれた」
戦闘中とは思えない蕩けきった声がシャーリィ・オルランドより漏れる。
自らが壁をまた一つ乗り越えた、自分のはるか上を行ってしまった英雄に再び釣り合う存在と成れたことで圧倒的な多幸感がシャーリィの心を今満たしていた。
「お待たせリィン、さあ今度こそ私と貴方の最後の逢瀬を始めよう!」
あふれる感謝と共にシャーリィ・オルランドはその全力を英雄へと叩きつける。
振るわれる閃刃が迎撃するが、もはやシャーリィ・オルランドは先ほどまでとは立っているステージが違う。
瞬きの内に莫大な霊力を以て膨大な数の武器を創業してそれを英雄に向けて放ち続ける。
「ヒャッホー!」
そして高速で襲い掛かって来た竜は愛しき英雄の肉体を引き裂かんとその爪を振りかざす。
そうはさせじと振るわれる英雄の剣が竜へと裂傷を負わせるが、まさしく竜にとってはかすり傷。
次の瞬間には至宝の力により立ちどころに修復される程度のものでしかない。
英雄の圧倒的優位は消えて、その力量は完全な拮抗状態となった。
それが殊更煽るような事を言い、目前の竜へと餌を与えた英雄の浅慮が招いた結果であった。
「それでいい。それをこそ待っていたぞシャーリィ・オルランド」
否、この英雄はもはやそんな生易しい存在ではない。
負けてはならぬ戦いで敗北を喫し、半身とさえいえる友を失った事でこの英雄からは完全にブレーキが消え去った。
そうリィン・オズボーンは知っていたーーー心のどこかで自分がブレーキをかけている事を。
炎鬼覚醒、愛機との共鳴を以て自らの身体をより上位の存在へと作り替えるこの力による変身が戦闘が終われば解除されていたのがその証拠だ。
それはおそらく悟っていたからだ、この力が人の身からどんどん外れていく力であるという事を。
使い続ければもはや人間としての日常に戻れなくなる力である事を。
妻を始めとする愛する人たちの下へと二度と帰れなくなる力だという事を。
「そんな甘えがあったからこそ、俺はイシュメルガへと敗れた」
覚悟していたはずだ。イシュメルガを討つためには己が全身全霊を賭けると。
わかっていたはずだ。敵は英雄帝や獅子心皇帝という名だたる英傑達すら打倒する事が出来なかった神にも匹敵する存在なのだと。
理解していたはずだ。命を捧げようとも何も為せる事無く果てる者達が無数にいる戦場に於いて自らの命を対価にするだけで奇跡を起こせるというのならばそれがどれだけ幸福であるかという事を。
「ならばこそ今の俺には貴様が必要だったのだ、シャーリィ・オルランド」
そう目前の女は自らへと並ぶために必ずや全霊を振り絞る。
想いの力を以て奇跡を起こしてのける、そんな期待があった。
そして自らを更なる高みへと押し上げるにはそんな対等の敵手こそが必要なのだとリィン・オズボーンはこれまでの戦いから理解していた。
「行こうか親友、もうあと少しだけお前の力を俺に貸してくれ」
自らの内に宿る親友の魂、それをリィン・オズボーンは感じていた。
それはもしかすると優しい奇跡を自分へと齎してくれる最後の鍵となったかもしれないもの。
馬鹿野郎、そう苦々し気な表情をしている親友の姿を垣間見た。それはきっと幻覚ではなかったのだろう。
だがそれさえも勝利を手にするためにくべると英雄は決めて
「炎神降臨」
もはや引き返す事は不可能なその先の力へと手を伸ばした。
人としての幸福、それらをもはや自分には不要なものだと覚悟して。
戦って戦って邪神を討ち滅ぼした末に自らもまた果てる、そんな運命を総て受託して。
女神との誓約は交わされ、ここに英雄は自らの身を神の現身と変えたのであった。
もはやそれはその身に焔を宿すのではなく焔そのものと言って良い状態。
自らの総てを勝利を掴み取るために薪へとくべた英雄、その極点である成れの果てであった。
「…………わぁお」
戦闘中にあるまじき感嘆のため息がシャーリィより漏れる。
追いついた、自分の全身全霊を振り絞りシャーリィ・オルランドは確かにリィン・オズボーンへと追いついたはずだったのだ。
それにも関わらず次の瞬間には更に上へと行った、そんな絶望して然るべき状況だというのにシャーリィの心を満たすのはただただ歓喜であった。
「来い、シャーリィ・オルランド。貴様の総てを出し尽くせ。それら総てを燃やし尽くし俺は先へと進む」
目前の女の好意に応える義務は英雄には存在しない。
好意に対して好意を以て答えるかは完全な自由意志であり、リィン・オズボーンが愛した女は最愛の妻であったのだから。
シャーリィ・オルランドはリィン・オズボーンにとって厄介極まるストーカーでしかない、そう断言できる。
だが同時に思う、目前の女は目前の女なりに誠意を自分に示して来たと。
自らに軽蔑されたくないという理由で以て民間人を巻き込むが如き行為は慎んだ、それは一般的には当然の事であるが目前の女にとっては精一杯の誠意であった事もまた確かである。
何より目前の女をここまで手遅れの存在にしてしまったのは自分だという自覚が英雄にはあった。
あの日オルキスタワーで自らと邂逅する事無く別のもっと真っ当で温かな繋がりを得ていれば目前の女とて此処までには成り果てなかったかもしれない。
それを想えば好意に応える事は出来ずともそれを受けとめる義理が自分にはあると英雄には思えたのだった。
それは文字通りこれから殺す相手に対する死出の餞別であった。
「……!うん、うん!行くよリィン!私の総てを貴方にぶつける!貴方という最高の英雄に捧げる!!全部全部!!だからお願い!貴方のその焔で私を焼いて!!」
故にシャーリィ・オルランドの情緒はもう完全に限界であった。
歓喜と感激と感動により戦闘中だというのに涙が溢れるのを止める事が出来なかった。
うれしくてうれしくて嬉しさの余りにもうそれだけで自分を天国とやらに召されてしまうのではないかという程にただただ嬉しかった。
後の仔細は語るに及ばず。
英雄へと恋した竜は己が総てを振り絞り出し尽くした末に喜びと共に英雄の刃にその身を引き裂かれる。
歓喜の断末魔と共に英雄は竜の血を浴び、より強大な存在へと成る。
第四相克は此処に果たされ、シャーリィ・オルランドはその身も魂も想い人へと捧げるのであった。
シャーリィ「ね?言った通りリィンはトワじゃなくて私を選んだでしょ?」
英雄の意志×ヴァリマールの意志→炎鬼覚醒(戦闘終わればまだ一応人間に戻れる範囲)
英雄の意志(もう退路なんかいらねぇ)×ヴァリマールの意志×英雄の中にあるクロウの魂(なんか優しい奇跡を起こすための最後の鍵になってくれたかもしれないもの)→炎神降臨(戦闘終わっても解除されない。もう戻れない人の身から完全に外れた力)
ヴァリマールはそれで良いのかって?ヴァリマール君にとって英雄は戦友だからよ……!(お前の覚悟確かに受け取ったぜ我が起動者うおおおおおおおおおおするのが当作に於けるヴァリマール君)