獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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界の軌跡をやり不満足状態が解消されたのでまたボチボチ完結目指して更新していきます。
前書き後書き本文含めて界のネタバレが出てくる事になりますので未クリアの方はご注意ください。


黄金錬成

 

 エレボニア帝国、否、鉄血宰相ギリアス・オズボーンは完全な暴走を始めていた。

 ユーゲント皇帝の崩御から大して時を置かぬままに齎された皇太子セドリック・ライゼ・アルノール、副宰相オリヴァルト・ライゼ・アルノール、そして自身の子息である獅子心将軍リィン・オズボーンの訃報を受けた帝国宰相ギリアス・オズボーンはこれらを総て宿敵であるカルバード共和国の仕業であると断定。

 四人の国葬の場において「怨敵であるカルバード共和国を打倒する事こそが亡き陛下に両殿下、そして我が息子に対する何よりの弔いである。空の女神もご照覧あれ!この聖戦の遂行によりこの地上に真なる正義が舞い降りん事を!!」と宣言。長年の盟友であるカール・レーグニッツからの静止の言葉を受けるとあろうことか彼を敵国である共和国に通じる嫌疑で以て拘束したのであった。

 必然的に戦争を望まぬ者達は帝国の政界に於いてギリアス・オズボーンへと対抗し得る最後の一人へと希望を託すこととなったが……

 

「私クロスベル総督ルーファス・アルバレアはオズボーン宰相閣下の方針に全面的に賛同するものである!共和国を打倒してこの大陸に真なる秩序と安寧を!それこそが今は亡き我らが偉大なる父ユーゲント皇帝陛下の子として我らが成し遂げるべき正義である!!

 この聖戦に馳せ参じぬ者は帝国人を名乗る資格のない唾棄すべき臆病者かまたは敵と通じた裏切り者に他ならない!我らアルノールの子、一丸となってこの聖戦を遂行せん!!」

 

 と高らかに宣言。それまでの硬軟織り交ぜた巧みな統治は一変し誰もが予想だにしなかった強硬手段に打って出た。

 クロスベル議会議長ヘンリー・マクダエルを筆頭としたクロスベル政界においてマクダエル派と称される者達を共和国と内通の容疑にて拘束したのであった。拘束されたのはヘンリー・マクダエルだけではない、クロスベルの英雄としてそれまで自身が散々に厚遇してきたはずのロイド・バニングス、エリィ・マクダエルを筆頭とした特務支援課のメンバーらも拘束。当然この余りにも苛烈な行動にクロスベルの人間からは非難の声が挙がり出すが……

 

「言ったはずだ。私も宰相閣下もこれはこの大陸に真なる秩序を齎すための聖戦でありこれに反対するものがいるとすればそれは敵と通じた裏切り者であると。

 如何なる者であろうとその例外ではない事を宰相閣下は長年の盟友であるレーグニッツ殿に対する姿勢を以て示された。故に私もまた示したまで」

 

 と断固たる姿勢を一切崩さず。総督軍というクロスベルの地における最大の力を掌握するクロスベル総督ルーファス・アルバレアに逆らえる者はもはやクロスベルの地にはおらず*1

 その様はクロスベルの民に何よりも自治権を喪失するというのがどういう事なのかを痛感させるのであった。

 しかし後悔したところで時が巻き戻る事はない。そうした大国の力を背景に振りかざされる傲慢さに対抗するだけの力をクロスベルは既に失っていたのだから。

 ここにギリアス・オズボーンの暴走は彼一人の暴走ではない帝国を、否、大陸総てを巻き込んだ暴走と成ったのであった……

 

・・・

 

「総ては貴方の掌の上、というわけですか。いやはやここまで読み切っていたというのであれば神算鬼謀を越えて予知の領域ですわね」

 

 そうではない事を半ば知りながらも半分皮肉交じりにマリアベル・クロイスは傍らにいる自らの同盟者に問いかける。

 

()()()。私は単に賭けただけさ。少しでも私に勝機と呼べるものが残る側へとね。そして期せずして私にとって最も理想的な盤面と成った、それだけの事さ」

 

 ルーファス・アルバレアの策、それはクロスベルの地に住まう50万もの魂を供物とする事で自らと自らの愛機エル・プラドーを進化させる事にある。

 それをしなければルーファス・アルバレアは勝負の土俵にすら上がれないのだ。それだけの力量差がオズボーン父子とルーファス・アルバレアの間には存在している。

 

「皮肉な事に空の女神は貴方に微笑んだというわけですか」

「だとしたら空の女神はとんだ阿婆擦れだね。己が身命を賭して邪神を討ちとらんとした英雄にではなくこんなロクデナシへと微笑んだのだから」

 

 七耀教会の者が聞けば眉を潜めながら説教を行うような事をルーファス・アルバレアは皮肉気に笑いながら行う。

 

「私はただ知りたいのだよ。私という不義の子が果たしてどこまで往けるのかをね。その点君の行わんとしている黄金錬成なる儀式、それはまさしく私にとっては願ってもない事だった」

 

 曰く錬金術の秘奥。曰く女神の理を突破し地上に真なる神を降臨させる儀式。

 

「念のために再確認しておきますが本当によろしいのですね?いくら貴方が傑出した存在とは言えど50万もの魂を呑み込んだ上でその個我を維持できるかの時点で十分に博打。

 この上更には儀式を行うために為した霊脈の再活性化によって生じたエリュシオンなる機械知性まで取り込もう等と。どうなっても知りませんよ」

 

 マリアベル・クロイスが目前の男と手を組んだ理由、それは失敗に終わった錬金術の秘奥黄金錬成(アルス・マグナ)を再び実行する為だ。

 かつてキーアという少女を核とする事で行った零の至宝の顕現、それは半分成功して半分失敗に終わった。幻の至宝をも越える零の至宝の顕現、それ自体には成功したものの幻の至宝が消失した根本的な原因である至宝という絶大なる力を振るう存在の精神性がそこらの少女と変わらないという()()、それを改良できていなかったからだ。

 だからこそマリアベル・クロイスは考えたのだ。彼女たちがその神の御業とすら言える超常の力を振るう事に耐えられなくなるのは彼女たちが所謂世間一般でいう真っ当な感性を抱いた存在だからこそ。

 ならばそう最初からそうした事に対していちいち大した痛痒を抱く事がない()()()()であればその問題は解消されるのではないかと。

 無論ただ人でなしであればいいというわけでない、理を突破して神の領域へと至るためには魂に相応の格というものが必要になるし、そもそも黄金錬成を為す為には魂の収奪を行うための核となるような何らかの力が必要となる。それらをクリアする存在等というのは早々巡り会えない以上マリアベルのそれはあくまで漠然とした思いつきの域を出ないものであった。

 だが期せずしてマリアベルは出会ってしまった。碧の大樹計画の失敗から数年も経たぬうちに自身のその思いつきを実現できるかもしれない女神の七至宝の力の一端を有する騎神を擁する特級の人でなしへと。

 

「言っただろう、私は自分がどこまで往けるのかを知りたいのだと。人の限界をも越えた機械知性、それを取り込める機会を逃すなど実にもったいない事じゃないか。リスクを考えるものであればそもそもこのような大博打に打って出てないさ」

 

 そうルーファス・アルバレアがやったのは賢明とは程遠い判断だ。自分という存在がどこまで往けるのかを知りたいというただそれだけの為にクロスベルに住まう50万もの民を犠牲にすると決めた。

 黒を討つためのやむを得ない犠牲という論法が通らない事をルーファスは自覚している。何せ黒を打倒する為の決戦に赴いたリィン・オズボーンへと助力する事なく静観する事をルーファスは選んだのだから。それをした瞬間自分という存在がリィン・オズボーンというギリアス・オズボーンの実子が紡ぐ英雄譚の添え物になるを厭うたが故に。

 クロスベル総督という帝国の重臣としての責務も貴族としての矜持も人としての道徳も自らの望みの為にルーファスは放り捨てたのだ。

 

「結構ですわ。私としても貴方が怖気づいていないのであれば止める理由はありません。果たして一体どうなるのかをこの目で観てみたいのは私も同じなのですから」

 

 そしてそんなルーファスの在り方をマリアベルは笑みを浮かべながら肯定する。責務に矜持に道徳、そうしたものを煩わしい枷と厭うて捨てる事を選んだのはマリアベル・クロイスもまた同じ。

 錬金術の秘奥である黄金錬成を実現としているのも別段世界の為やクロイス家の悲願を成し遂げる為などといったお綺麗な理由ではない。単にマリアベル自身がそれを見てみたいと思うが故だ。果たして人は女神の軛から脱して神の領域へと至れるかどうかをその目で。

 その為なら生まれ故郷に住まう彼女の友人や父親さえも生贄の供物とする事を厭わない、それが結社の第三柱を担う使徒前任者に負けず劣らずの人非人、マリアベル・クロイスという女であった。

 

「そうこの地に住まう50万の人間、総督軍、そして対共和国との戦争のためへと派遣される帝国軍の先遣隊、そして期せずして生まれた機械知性、それらを総て取り込む事で私は人の領域を越える。 

 そしてそんな私を討ち果たすに来るであろう彼の英雄を返り討ちにする事で彼の魂と力をもこの身に取り込む」

 

 黒に手痛い敗北を喫した英雄が地に伏せたままとなるはずがないとルーファス・アルバレアは確信している。

 何故ならば彼の英雄こそルーファスが父へと挑む前に決着をつけねばならないと定めた好敵手なのだから。たかだか親友一人を喪った程度でその歩みを止めるはずがない。必ずや体勢を立て直して彼が手を組んでいる魔女の眷属らの協力も得て黒を打倒する為に再起してくるだろう。

 ならばこそリィン・オズボーンはその前に必ずや自分を討ちに来る。黒を打倒する為の勝負の土俵に上がるためには最低限それを為さなければ話にならないのだから。たとえそれが準備万端でこちらが待ち構えている虎口へと飛び込む事を意味する事に成ろうとも。

 

「そしてそこまでやって尚私が黒を打倒できるかは完全なる未知数。私にとって凡そ最善と言える形となって尚これなのだから全く綱渡りも良いところだな」

 

 賢明な判断とは程遠い綱渡りの大博打である事を自覚しながらもルーファスはどこか楽し気であった。己が才智の総てを注ぎ全霊を賭して挑むこの機会をこそずっと自分は求めていたのだと言わんばかりに。

 

「感謝して欲しいですわね。その綱渡りの大博打が成立したのも総ては我々の協力があってこそ。こちらの協力がなければ貴方は勝負の土俵にすら上がれずに終わっていたのですから」

「無論感謝しているとも、心から。君たちの結社の協力には相応の形を以て報いるつもりだ。もっとも此度の一件は君たち結社全体での協力というよりはあくまで結社の最高幹部の一人である君の協力という側面が大きいのだろうが」

「ええ、それが我ら結社です。第七柱と第二柱もまたそれぞれの思惑によって帝国の鋼によって起きる此度の変事へと対応する事を選んだように私もまた私の思惑で貴方に協力する事を選んだ。そしてそれらは総て我らが盟主の御心に叶う行為でもある。実に自由な組織でしょう?」

「ああ、よくそれで組織の体裁を維持出来るなと思う程度には。察するに至宝そのものというよりは至宝という力に対して人がどのようにして対処するかを観察する事こそが盟主と結社の目的といったところかな?」

「ええ、私はそう聞いております。ならばこそ私の為そうとしている事も盟主は否定をされなかった。貴方という存在が果たしてどこまで往けるのか特等席から見物させて頂きますわ」

 

 黄金錬成を用いた時ルーファス・アルバレアの霊格はもはや人にあって人に非ざる領域へと到達する。そしてそんなルーファス・アルバレアが鋼の至宝という圧倒的な力を掌握するのに成功した時、それはまさしく人の形をした神がこの現世へと顕現するに等しいだろう。

 それこそがこの閉塞した世界を打破する階になるかもしれないとマリアベル・クロイスは期待している。見た事のない景色を見てみたい、そんな好奇心をこそが彼女を何よりも突き動かしている。

 

「是非見届けてくれたまえ。私という不義の子が果たして人を越え神の領域へと至るのか。それとも不遜なる愚者として滅びて終わるのかを。それこそがこの私ルーファス・アルバレアが選んだ道なのだから」

 

 他者からの称賛も真実を知らぬままに自らを慕う弟の存在もルーファス・アルバレアという男の心の中にある飢えと渇きを満たすには至らなかった。自分を牢獄へと押し込めていたアルバレアという家名がもはや自分の付属品へとなり下がった今でもそれは同じだ。

 つまり結局のところ自分はそういう人間だったのだろう。他者からの信頼や愛情といったものでは渇きと飢えを満たす事の出来ぬ弟とは違う人でなし。そちらこそが人の正道と呼ばれるものと理解する頭脳は備わっていれどもその道で心を満たす事は出来なかった。

 

「ならばこそ必ずや成し遂げてみよう。歴史上に燦然と輝く数多の英傑たちが成しえなかった事をこの私が。我が好敵手を我が父を降した暁には、このルーファス・アルバレアが天に立ちこの世界を永遠に導こう」

 

 ルーファス・アルバレアは特級のろくでなしであり人でなしだ。自分の選択がそう呼ばれるものである事を自覚しながらも改める気が皆無なのだからもはやつける薬がないというものだろう。

 だがそんな男を止める事が出来る術がもはやクロスベルの地に住まう者には存在しない。それはこの地に住まう者達にとってこの上ない悲劇であっただろう……

 

・・・

 

「……根拠のない完全な推測ですが、以上がルーファス・アルバレアが勝利のために講じている策でしょう。奴ならばその程度の事はやってのけます」

 

 もはや退路を断たれたのだとその場の者に突き詰めた英雄の不可逆の変貌。愁嘆場を一通り済ませると帰還してきたレクターとクレアらが齎した情報を受けてオリヴァルト陣営、否、()()()()()()()()()は再び今後の動きに関する討議を行っていた。

 数少ないギリアス・オズボーンを止めうる存在であるカール・レーグニッツの逮捕と拘禁。そしてクロスベル総督ルーファス・アルバレアの全面的な賛同と支持により可決された国家総動員法による完全なる独裁権力を掌中に収めた鉄血宰相。そして暴走を始めた祖国であるエレボニア帝国。その情報は半ば予期していた事とは言え事態の深刻さを一同に周知するに十分過ぎるものであった。

 だが沈痛な顔をして落ち込んでいれば事態が改善に向かうわけでもない。今後の動きに関する協議を行う必要がありそうして議題に挙がったのはルーファス・アルバレアは一体何を考えているのかというもの。その場に於いてリィン・オズボーンは自らの予測を述べていた。

 

「かつて偽帝オルトロスが緋の騎神を用いて行ったエンド・オブ・ヴァーミリオン化、それに類する何かを奴は金の騎神を用いて行うつもりでしょう。奴が勝負の土俵に上がるためにはそれ位の事を行わなければならないのだから」

 

 ただ単に金の騎神を駆るルーファス・アルバレアにリィン・オズボーンは百戦して百勝する自信がある。それは蒼や緋や紫紺を取り込む前の灰単独の頃であったとしてもだ。それほどの歴然たる力量差が起動者の間には存在している。そしてその事がわからぬほどにルーファス・アルバレアという男は蒙昧ではない。必ずや勝つための何らかの方策を講じている事は疑いようがない。

 

「クロスベルの地に住まう民を。自らの部下であるはずの総督軍を。奴ならば自らの勝利の薪とする事を厭わない。根拠も証拠も一切ありませんが自分はそう確信しております」

 

 それこそがルーファス・アルバレアという男が目論んでいる策だろうというリィン・オズボーンの根拠のないされど正鵠を射抜いている推測を聞いた時真っ先に反応したのは当然クロスベルを故郷とする少女であった。

 

「だったらすぐに止めないと!クロスベルの人達が犠牲になる前に!!」

「……残念ながら事はそう単純にはいかない。逆臣ルーファス・アルバレアを討伐するにはその前にしておかねばならない準備が山のようにあるのだ。オリヴァルト宰相閣下、仮に我々が今なんの根回しもしないままルーファス・アルバレアを討つと公表して動き出した場合どうなると思いますか?」

「……死んだはずの英雄と皇族の名前を騙る帝国の団結を削ぐために用意した共和国が用意した偽者だと宰相も総督も主張するだろうね。信じてくれる者もあるいはいるかもしれないが」

 

 リィンの意図するところを理解してオリヴァルトは沈痛な表情を浮かべる。

 

「それを防ぐためにはまず帝国の有力者を我々は味方につけねばなりません。特にアルフィン殿下とプリシラ様、お二方の身柄の確保は必須と言えるでしょう。オリヴァルト閣下とセドリック皇帝陛下が確かに本物だと証明してもらうための説得力に於いてお二方に勝る人間はいないのですから。

 だが同時にカレル離宮で軟禁されているお二方の身柄をこちらが確保をするというのはその時点で帝国内を二分する開戦の号砲もまた意味します。我々は帝国の人間に突きつける事になるのですから。果たして逆臣ギリアス・オズボーンに与するか、それとも正当なる皇帝であるセドリック皇帝陛下へと就くかを」

 

 現在ギリアス・オズボーンは帝国のほぼ完全な独裁者となっているが、それでもその力はあくまで皇帝アルフィン・ライゼ・アルノールの代理人としてのものだ。如何にそれが権力を伴わぬ権威だけのものであっても皇族から逆臣の弾劾を受ければ必ずやギリアス・オズボーンの権力基盤に大きな皹が入るだろう。

 

「そしてその際に雪崩現象を起こさせるためにも我々は何としても真相を知る支持者を作っておかねばならない。軍に於いてはヴァンダイク大元帥閣下、ゼクス・ヴァンダール大将閣下、オーラフ・クレイグ大将閣下。このお三方は必ずや我々の言葉に耳を傾けてくださることでしょう」

 

 そう信じられるだけのものがこの三名にはある。そしてこの三名は帝国軍に於いて三長官でも無視できぬだけの影響力を有している。

 

「そして渡りをつけておかねばならないのは帝国軍内部だけではなく諸外国に対してもだ。こちらは私がリベール王国へと赴きアリシア女王にお願いをするつもりだ。共和国と帝国の全面戦争、そんなものを望んでいないのはリベールも同様だ。アリシア女王ならば必ずや力になってくれる事だろう。

 そうしてなんとか共和国政府へと渡りをつける。此度の帝国の行動、それは逆臣ギリアス・オズボーンの独断による暴挙であり帝国の正統なる皇帝とそれに付き従う我々はそれを糾さんと行動しているという事をね」

 

 無論共和国も当然ながら「ギリアス・オズボーンが全て悪かったんですね。わかりました水に流します」等とはならないだろう。既に共和国は帝国の侵攻に備えて急ぎ防衛を固めている。それらの行動がタダで行えるはずもない以上例え開戦前の明確な血が流れる前にオズボーンの首を取り、此度の騒乱を終結させられたとしても共和国に対しては相応の誠意を示す必要があるだろう。

 

「わかるかユウナ、ルーファス・アルバレアを討つ前には最低限これだけの準備を整えておかねばならない。でなければ帝国の暴走は止まらずより大きな混乱が生じるだけだ。一度動き出してしまった国という巨大なものを止めるにはただ元凶を討てば良いというものではないんだ」

 

 ただ静かに諭すようにリィンは告げる。それはユウナだけでなくユウナの勢いに引っ張られかねない主君に対する諫めの言葉でもあった。

 

「……つまり今すぐルーファス総督を討つと()()にとっては無視できない問題がたくさんある。だからルーファス総督がクロスベルの人達を危険にさらすとわかっていながら看過する。そういう事なんですか……!」

 

 怒りを込められた瞳がリィン・オズボーンを射抜く。それは自分が父の命じるがままに祖国の為と信じて併合した地に住まう少女の正当なる弾劾であった。

 

「……仮に今すぐ動いたとしてもルーファス・アルバレアの暴挙を食い止める事が出来る可能性は薄い。奴の事だ、既にいつでもその秘策を発動できるような状況にしているはずだ。

 未だ発動させていないのは少しでも多くの魂を取り込む事でよりその力を増大させるためだろう。開戦の日が近づけば近づくほどクロスベルの地に集結する帝国軍の数は増えるからな」

 

 そしてその中には司令官と副司令官を表向き失った帝国最精鋭の光翼獅子機兵団も含まれている。亡き友の遺志を引き継ぐのだと表明したクロスベル総督ルーファス・アルバレアの旗下へと引き込まれる形で。

 

「だがそれもまた言い訳だな。すまないユウナ、今君の故郷が危険に晒されることとなっている責任は全て黒に敗れた私にある。

 あそこで黒の討滅と封印に成功していればあるいはルーファス・アルバレアもそのような大博打に出る事はなく存外クロスベル総督の地位で満足していたかもしれない」

 

 席から立ち上がりリィンはユウナへと頭を下げる。それはユウナを瞠目させるのに十分過ぎる効果があった。

 

「しかし状況がこうなってしまった以上すぐにルーファス・アルバレアの討伐へと動くのは余りにも時期尚早なんだ。

 それは前述した政治的な理由もそうだが同時に黒がどう動くかが読めなくなるからでもある。

 ルーファス・アルバレアを討ち灰が金を取り込むかあるいは私が敗れて灰が金へと取り込まれる事で第五相克を果たした瞬間、最終相克の準備は整ってしまう。

 そうなれば幻想機動要塞の起動を待たずして黒がこちらを討ちに来る可能性も十分にあり得る。

 そうなってしまえばこちらが用意した奴を討つための策は水泡に帰す事となる」

 

 政治的な都合のみであればあるいは兎にも角にも金を討ってしまうという手もあっただろう。秘策を発動させたルーファス・アルバレアがリィン・オズボーンの上を往く可能性もある以上は。兎にも角にも迅速に金を討つ事を最優先とする、それも一つの選択肢ではあった。

 しかし拙速を以て金を討った後に待ち受けるのは勝算が見えない状況での黒との戦い、それが起きてしまう可能性こそがその積極策を断念させていた。

 

「無論幻想機動要塞こそが黒の勝利をより盤石にするためのものである以上奴がその起動を待った上で決戦に臨む可能性の方が高い。だがそうして状況の変化が起きた時に奴が積極策に打って出る可能性もまた否定できない。

 ……偏にそうなったとしても奴を撃破して見せると言えぬ我が身の至らなさが原因だ。故郷と家族が危険に晒されることとなる君には詫びる以外に他ない。だがそれでも理解してくれ、これこそが最善ではなくとも現時点で用意できる次善の方針なんだ」

 

 強圧的に従えと言われたのであればユウナも反発出来ただろう。しかしこうして文字通り祖国の未来のために己が命を捧げると決めた者に頭を下げられてしまってはもはやユウナとしても反論のしようがなかった。

 

「……取り込まれてしまった人達は、すぐに死んじゃうというわけではないんですよね」

 

 ポツリとそれでもこれだけは確認しておかねばならないと為されたユウナの呟きに答えた者、それはこの分野においては第一人者のローゼリアであった。

 

「うむ、それはわらわが保証しよう。元凶となった騎神を討滅すれば取り込まれた者達の魂もまた解放される事は獅子戦役の時からも明らかじゃ」

「……わかりました。それなら私から言う事は何もありません。ワガママを言ってすいませんでした」

「いやクロスベルは君の故郷だ。それを想えば当然の事だろう。()()()()()で大切な故郷を生贄に捧げられるかもしれないとあってはな」

 

 ルーファス・アルバレアではなく自分自身を嘲るようにリィン・オズボーンは告げる。

 結果的にこれは帝国のみならずクロスベルの為にもなるはずだと嘯きその併合に積極的に加担した以上、この事態の責任がリィン・オズボーンにもある事は確かであったが故に。

 これこそがお前という英雄が嘯きながら為して来た事だと女神から突きつけられているかのような心境であった。

 

「それではエレボニア帝国第90代皇帝としてリィン将軍の方針をこそ是とします。尚この決定を最終的に降したのはこの私セドリック・ライゼ・アルノールである事をこの場にいる者達には改めて宣言しておきます」

 

 そしてそれらを最終的に背負わねばならないのが皇帝である自分の務めなのだとセドリック・ライゼ・アルノールはその重さに打ちのめされそうになりながらも最終決定を居合わせた者達に伝えるのであった。

*1
クロスベルの遊撃士であったアリオス・マクレインの独立騒動への加担によりクロスベルのギルド支部はその管理能力に対して帝国政府より重大な疑義を呈された事でその影響力と権限を大きく減じさせられた上にそもそも遊撃士とは軍隊を掌握している政治権力者がここまであからさまに開き直った行動を取った場合往々にして無力な存在となる




兄上の戦略:マリアベルさんのやる黄金錬成で以てクロスベルの地に存在する魂&零の至宝の残滓を取り込み金の騎神と自分をワープ進化!なんかエリュシオンとかいう機械知性まで出たらしいけど奇貨居くべし!その程度で駄目になるようだったらそれはそこが私の器だったというだけの事さーーー!!パワーアップした私を討ちとりに我が最大の好敵手が来るだろうからそれを返り討ちにして彼の魂諸々を取り込んで更にパワーアップだ!こっちがホームグラウンドで迎え撃つ形になるから圧倒的優位になるけどその程度で怖気づく君じゃないよな!クロスベルの民と忠勇な帝国軍将兵の命がかかっているしそもそも私を討たない事には君も我らが父との勝負の土俵に上がれないんだから!!

黒キ星杯でギリアス・オズボーンが完勝(リィン・オズボーンも死んで黒に取り込まれる)していたら?⇒流石にその可能性は薄いと思っていた(だって私は私が好敵手と定めた英雄を信じているもん)けどその時は黄金錬成発動させて我らが父に全霊で挑むだけ。負けたら負けたでその時はその時

黒キ星杯でリィン・オズボーンが勝利していたら?⇒その時もギリアス・オズボーンが消えた後に権力の掌握やらでごたごたする事になっていただろうからその間に黄金錬成発動させて自分を討伐しに来た好敵手と雌雄を決する事を選んだだけ。別に自分の名誉が地に堕ちようが死のうがその過程で何万人が死のうが気にはしないので特にそれをやる事への躊躇はない。なのでリィン将軍の自分が負けていなければ~はぶっちゃけ的外れ。

ちなみにこの世界線での兄上は自分は信頼とかそういうものは自分の渇きを満たせない人でなしなのだと自認してしまったが彼の本質が本当の本当にそういうものであったかは創以降のお話が示している通りです。じゃあなんでそうなっちゃったのかって?まあ期せずして現れた好敵手と言える存在から戦意をぶつけられて如何にして勝つのかを全力で考える充実感が彼の心の中にあった空虚さを埋めてしまった結果といいますか……
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