そのため基本彼は行動する際にあのひとならどういう行動をするだろうと考えて行動しているわけですね。
なお、殿下の信望する英雄は猫耳つけた奥さんとキャッキャウフフな事をしていたりする模様。
「改めてになりますが、まずは自己紹介から始めませんか?」
意気揚々と攻略を開始しようとした一行の機先を制すようにどこかのんびりとした様子でミュゼは提案する。
「……自己紹介なら先程のオリエンテーリングの時に済ませています。
この上もう一度というのは時間の浪費では?」
そんな暇は無いとでも言いた気な様子でアルティナは告げる。
任務の達成には何よりも迅速さが求められる。特にリィン・オズボーンという将の下で働くならば尚更である。そんなアルティナにとってみればミュゼの提案は時間の浪費にしか思えなかったのだ。
「確かに先程も行いました。
ですが、あの時はまだただの級友としてのもの。
そして今から我々は文字通り共に試練を乗り越える戦友となるのですから、改めてそうした相互理解を深めるのは重要ではないかと思うのです。
その程度の事は認められるかと思うのですが……如何でしょうか教官。
そうしたこれから共に戦う仲間とのブリーフィングの時間は頂けるのでしょうか?」
「許可する。良い判断だ、イーグレット候補生。
そうした時間も設けず、攻略を行おうとしていたらどやしつけていたところだったぞ」
しかし、返ってきたのはむしろミュゼの判断を是とする言葉。
それを聞いたミュゼは特にアルティナに対して勝ち誇るような顔をするでもなく、あくまで粛々とした様子で
「お褒め頂き、ありがとう御座います。
というわけで、教官からの了承も得ましたし、言い出しっぺの私から改めて。
ラマール州の一門イーグレット伯が孫娘のミュゼと申します。
武術の心得が無いため、皆様にはご迷惑をおかけするかと思いますが、何卒よろしくお願い致します」
丁重に礼を行う姿は軍人の卵というよりは、どこからどう見ても深窓の令嬢と言うべき様子であった。一般家庭で育ったユウナとしては思わず、その生まれながらに高等教育を受けて育った真の貴種の持つ品格とでも言うべきものに、どこか見惚れたような心地となっていた。
「ああ、よろしく頼むよ。フロイライン・イーグレット」
しかし、そんな同性も見惚れるような深窓の令嬢の様子を見たところでセドリック・ライゼ・アルノールは特に気にした様子もなく応じる。
なんと言っても彼はこの国の皇太子、そうした令嬢から話しかけられた事なのでもはや数え切れぬ位に存在する。
かつては顔を真赤にして、姉や兄にフォローを入れて貰っていたが、今の彼には英雄からの薫陶を授かった、皇太子としての明確な自負と自覚が備わっている。
そこにかつての下手をすれば姉共々可憐と称されるような柔弱な少年の姿は微塵も存在しなかった。
「どうか……そのような他人行儀な呼び方ではなく、ミュゼとお呼び下さい、セドリック殿下。
これから私達は多くの時間を共に過ごす事になる戦友なのですから。
勿論それ以上の仲になれると言うのなら、望外の幸福ですが♥」
「そういう事ならばミュゼと呼ばせてもらおう、僕に対しても殿下という敬称は必要ないよ。
この学院に居る間は僕も君たちと同じ一人の生徒に過ぎないんだからね」
どこか蠱惑的な様子を見せるミュゼに対してもセドリックは特に気にした様子も見せずに応じる。
女の色香に惑うなど、彼の信望する“英雄”とは程遠いあり方であるが故に。
「はい、それでは改めてお願い致します。セドリック様」
「ああ、こちらこそよろしく頼むよミュゼ君」
「他の皆様もどうかよろしくお願いいたしますね」
そうして改めてミュゼはその場に居た一同に一礼を行う。
気がつけば先程まで存在したどこか張り詰めた空気は霧散しており、和やかな空気がその場を満たしていた。
「それでは僕の方も続かせてもらうとしよう。
ユーゲント皇帝陛下が次子、セドリック・ライゼ・アルノール。
一応この国の皇太子を努めては居るが、あくまでこの学院に居る間は君たちと同じ一介の候補生だ。
敬称は不要だから、どうかセドリックとでも気軽に呼んで欲しい。
これから三年間、共に切磋琢磨して行ければと思っているよ。
そしてこちらはーーー」
「クルト・ヴァンダール。帝都ヘイムダルの出身で、
以前は彼の守護役を務めて居たんだが、今は失職中でね。なんとか学院を卒業するまでの間には復職を認めて貰えるように努力している最中さ」
堂々とした様子のセドリックに続いて、どこか冗談めかした様子でクルトは告げる。
「守護役?」
「ヴァンダール家の祖ロラン・ヴァンダール卿は帝国中興の祖ドライケルス大帝陛下に仕え、彼を守るために命を落とされました。
大帝陛下がそんな忠臣にして友たるロラン卿に報いるべく設けたのが皇族守護職です。
アルノール家の信認厚き、皇族守護を担う忠義の御三家*1の筆頭、それがヴァンダール家です」
「は、要はそこの皇子様の御守り役って事だろ。ご苦労なこって」
呟き、というには余りにも大きな揶揄するような声が挙がる。
「君は……」
「アッシュ・カーバイド。ラクウェル出身だ。
皇太子殿下だのその皇子様の御守り役を務める子爵家のお坊ちゃんだのに比べてしがない平民だが、ま、精々平民なりに足を引っ張らないようにするんでどうか頼むわ」
「……ああ、こちらこそよろしく頼むよ。
どこか小馬鹿にした態度を見せるアッシュに対してクルトもまた挑発の言葉を投げかける。
クルト・ヴァンダールは決して気が短い方ではないが、それでも親友との友情を小馬鹿にするような事を言ってきた者を笑って許せるほど寛容な男ではなかった。
「………」
「おや、気に障ったかな?こちらも君達流の儀礼に沿った呼び方をしたつもりだったんだが。
名前ではなく、こんな感じの呼び方をするのが君なりの礼儀なんだろう?」
「は、上等じゃねぇか。一度吐いた唾は飲み込めないぜ、お坊ちゃん」
アッシュが己の得物を手に取る。
「それはこちらの台詞だ。さぞかし故郷ではお山の大将を気取って居たんだろうが、上には上が居るという事を思い知らせてやる」
クルトもまた己の持つ双剣を抜き放つ。
一触即発とでも言うべき空気が両者の間に漂うが……
「二人とも喧嘩なら僕は別に止めないけど、やるならせめて此処の攻略が終わってからにしてくれないかな」
「そうですね……乙女の嗜みの愛好家としては対照的なお二人の、ぶつかり合いの果てに友情が芽生えるという場面を是非ともこの目で見届けたいところではありますが、今は少々時と場所が悪いかと」
セドリックの特に気にした様子も見せない落ち着いた、ミュゼのどこか悪寒を感じる面白がっているような制止の言葉を聞いて……
「命拾いしたな、
「は、そりゃこっちの台詞だ。
渋々と言った様子で両者共に矛を収める。
どちらも今がそうした状況にそぐわないと認識する程度の理性と自制心は存在した。
「では、続いて私も。
アルティナ・オライオン、先月まではリィン少将閣下の副官を努めていました。
差し当たって、閣下に恥じぬよう首席卒業を目指して行きますのでよろしくお願い致します」
ジーッと自身よりも席次が上だった二人を見つめながらアルティナは告げる。
そんなアルティナの視線に受けて立つぞとセドリックは笑い、クルトもまた苦笑をする。
「副官って……冗談でしょ?」
しかし、事情を知らぬ者はそうは行かない。
目前の自分よりも年下の少女が先月まで現役の軍人、それもかの英雄の副官を務めていたというその言葉にユウナ・クロフォードは信じられない思いを抱く。
「私は別段冗談を述べたつもりはありませんが、一体何を根拠にそのような事を言われるのでしょうか?」
そして、それに対してどこかムッとした様子をアルティナは見せる。
自分があの方の副官にふさわしくないと言いたいのかと憤りに近い思いを抱いて。
「だって、貴方はどう見たって私よりも年下じゃない。
本当だったら士官学校じゃなくてまだ日曜学校に通うような年齢じゃ……」
「確かにこの肉体年齢は現在14歳相当です。
しかし、私はあの方の副官としての任を大過なく果たしたという自負があります。
外見で侮るのは止めて頂きたいですね」
「じゃあ、その英雄の副官様がなんだって今更学校になんて通いだしてんだよ。
そこの子爵家のお坊ちゃん一人じゃ不安だって事で、皇太子様の御守りでも頼まれたのか?」
「あいにく外れです。状況証拠から考えるに最もな推論ではあるので、的外れとは言いませんが。
私がこの士官学院へと進んだ理由、それは他ならないリィン将軍に勧められたからです。
「大いに学び、大いに遊び、大いに青春を謳歌しろ。それが血となり肉となる」、そうあの人は仰っていました。
そんなわけで、どうぞこれから三年間よろしくお願い致します」
ペコリとアルティナは一礼する。
そうして5人目の自己紹介が終わったことで、自然と最後の一人へとその場に居る者達の視線は吸い寄せられて
「……ユウナ・クロフォード。クロスベル警察学校の出身よ。
正直今こうしてこの場所に落としてくれた人には言いたいことが山程あるけど、貴方達に言っても仕方がないし、とりあえずよろしく」
「ユウナさん、クロスベル警察学校は以前の名称で、正しくはクロスベル軍警学校です。発言は正確にお願い致します」
「~~~併合前は警察学校だったの!それを帝国が勝手に変えて……それとも正式名称以外は使うなって言うの!?」
「?勝手も何も政府が併合したクロスベルの治安組織の再編を行うのは当然の事では?
何しろ、リィン閣下が再編を行う前のクロスベルの状態はと言えば、汚職に塗れて腐敗しきった状況だったのですから。挙げ句、大統領を僭称したディーター・クロイスなる大逆犯に多くの者が加担する始末。
再編と立て直しを図るのは当然の事かと」
淡々とした様子でアルティナは帝国軍人としての模範解答を一切の逡巡無く言い切る。
「た、確かにどうしようも無い人も中には居たけど……でも、それは」
「はい、カルバード共和国の暗躍と横やりがあったためです。
そしてそれらを自力でどうにも出来なかったからこそ、皇帝陛下はリィン閣下にクロスベルの地の清浄化を委ねる御聖断を下され、リィン閣下はそれを見事遂行されたのです。
いわば、クロスベル軍警察という名称かつての腐敗していたクロスベルの決別の証です。
だというのに何故殊更かつての名称に拘るのか、私には理解できません。
それとも貴方は、騒乱の元凶たる風の剣聖同様帝国への叛意を抱いているという事ですか?」
告げるアルティナの言葉に一片たりとも迷いは存在しない。
何故ならば彼女にとてリィン・オズボーンに従う事は無上の幸福だから。
自分たちではどうにも出来なかった腐敗を、英雄に糺して貰ったのだから涙を流しながら感謝して然るべきだとさえ思っているのだ。
だと言うのに、反発めいた様子を見せるものが居るとすれば、それはかつて英雄の剣から逃れた、大逆の徒アリオス・マクレインに与する者以外あり得なかった。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~」
淡々と告げられる言葉、それを前にユウナは総てをぶちまけたい思いに駆られた。
帝国に服従するなんて真っ平御免だ、自分たちは帝国人ではなくクロスベル人だと。
だけど、それは駄目なのだ。何せかつてそうした短気を起こしたがために、警察学校を首席でありながら危うく退学させられるところになったのだから。
幸いな事に何とか口を聞いてくれた親切な人が居てくれたおかげで、こうして何とか帝国の名門士官学校に入学する事が出来たわけだが、また同じ事を繰り返すわけにはいかないのだ。
何よりもユウナ自身が決めたのだ、帝国の名門士官学校に行ってクロスベル魂を示すと。
そうして帝国の名門士官学校を卒業したという箔をつけてクロスベルに戻れば、今も戦い続けている
だからそう、耐えなければならない。感情任せに突っ走るだけでは、結局また誰かを助ける側ではなく助けられる側になってしまうのだから。
「アルティナさん、そう咎めるような口調ではユウナさんも困ってしまいますよ」
助け舟を出すように、否真実助け舟だったのだろう。
ユウナが口を開く前にミュゼが横から割って入る。
「ですが、私の言っている事は」
「はい、間違ってはいません。だからこそ、言い方には注意したほうが良いと思いますよ?
正しい事を言う時にこそ、尚更言葉に棘が出ないようにしないと反発を招きますから」
「はぁ、そういうものですか……」
釈然としない様子ながらも渋々と言った体でアルティナは矛を収める。
「何にせよ、これにて全員分の自己紹介が終わりましたね。
うふふふ、アルティナさんとユウナさんと来たらすぐにでも“親友”と呼べる仲にでもなってしまいそうで、私部屋の中で一人ぼっちになってしまわないかと今から心配です」
どこがだよと言いた気な、セドリック以外の視線がミュゼへと集中する。
しかし、そんな視線にもミュゼは特に気にした様子は見せずに
「それでは続いて班長を決めましょう。
明確な統率者の存在は集団の連携を高めるのには必要不可欠なものですから。
そして、私はその班長にセドリック様を推薦させて頂きます」
「ずいぶんとさっきから露骨に媚を売るじゃねぇかよ。貴族様も中々どうして大変みたいだなぁ」
「いやですわ、アッシュ様。気に入った殿方の気を引きたいと思う乙女心に貴族も平民も関係ありませんわ♥
ーーー最も、私がセドリック様を班長に推薦した理由はそうしたものではなく、あくまで客観的に判断した結果ですけど」
「へぇ、是非とも聞きたいものだな、その客観的な理由とやらを」
「そう難しい話ではなく、至って簡単な理由です。セドリック様が皇太子であり、首席だからです♥」
「どんな理由かと言えば、そんなのはーーー」
「根拠にならないとそう思われますか?
ですが、根拠になるんですよ。何故ならば皇太子であるという事は、すなわち幼少期から人の上に立つものとしての教育を受けられたという事なのですから。
そしてセドリック様はそれを首席入学という実績で以て証明されておられる。
ね、まだ互いをよく知らない中ではセドリック様が一番客観的にこの班のリーダーを務める理由が存在すると、そうは思いませんか?」
「ーーーーーーーー」
告げられた言葉にアッシュは押し黙る。
総て納得したわけではない、ペーパーテストで優秀だからと言ってそれを実践出来るとは限らないと彼は思っている。
だが、現状そう言えるだけの結果をアッシュ・カーバイドは示したわけではないし、リーダーなんてものを巡って何時までもうだうだと争うのも馬鹿らしい。
実際こうして今まで見た限りでは、そう馬鹿坊っちゃんというわけでも無さそうだし、一先ず任せてみて駄目そうならその時は指示など無視してしまえばいいとそう思ったのだ。
「は、しゃあねぇ。皇子様のお手並拝見といくか」
「私としても特に異論はありません。首席入学者の力量見させて頂きます」
「当然だけど、僕も異論はないよ」
「……思うところがないわけじゃないけど、今の私が言っても負け惜しみにしかならないので止めておきます」
「はい、それでは満場一致という事で。勝手に進めさせて頂いたんですが、肝心のセドリック様はよろしいでしょうか?」
「やれやれ、これで嫌だと言ったら僕はとんだ意気地なしじゃないか。喜んで引受けさせてもらおう。
基より、それこそが僕に生まれながらに課せられた使命なんだからね」
そうどう足掻いたところで自分が皇子であるという事実は変わらない。
故にこそ逃げる事を止めた。目指すのはあの日目にした雄々しき背中。
自分に向けられる憎悪も崇拝も平然と受け止め、背負い、どこまでも明日を目指す英雄のように自分もなるのだとそう誓った。
だからこそ、セドリック・ライゼ・アルノールはもう迷わない。兄でも姉でもなく
こうしてお膳立てまで整えられながら、この程度の人数を纏める事もできずに皇帝になる事など出来ないのだから。
「それでは改めて、Ⅶ組第一班、これより小要塞の攻略を開始する。
見事谷底から這い上がって、僕らの実力を証明するとしよう」
告げたセドリックの宣言にまばらながらも他の5名の返事が響く。
かくして小要塞の攻略が開始されるのであった……
おまけ
中央管制室から一連の流れを見ていた面々
クロウ「いや~なんというか若い頃を思い出すねぇ、俺達にもあんな時代があったなぁ」
リィン「ああ、子は黙っていても親に似るものだと今痛感しているよ」
ティータ(今でも二人とも十分若いんじゃないかなぁ……)
シュミット博士「ふん、ようやく始めたか。全く待ちくたびれたぞ。
こうなれば更に難易度を上げてやろう」
ティータ「は、博士!?そんな事しちゃ駄目ですよ~~~
リ、リィン教官も早く止めないと!!!」
リィン「カーバイドにクロフォード、そしてイーグレットはともかく他の三名はその程度で遅れを取るようなヤワな鍛え方はしていない。カーバイドにしても我流ながらもかなりの才を感じた。そう心配は要らんさ」
シュミット博士「話がわかるようで何よりだ」
ティータ(うう、エステルお姉ちゃん、ヨシュアお兄ちゃん、レンちゃん、アガットさん。私とんでもないところに来てしまったかも知れません……)
ミュゼ「おかしい……私の立ち位置はこう蠱惑的にかき乱す小悪魔ポジだったはずなのに、何故こんな仲裁役として苦労するような立ち位置に?」
今作ではロイドが指名手配されずに、位打ちを食らいながらも抗っている状態ですので、ロイドを尊敬しているユウナはそれの少しでも助けになろうとしてします。
所謂中から変える事を目指すという奴ですね。