クレア「かくかくしかじかこういう事情で軍警学校を辞めさせられようとしている生徒が居るんですか、どうにか出来ないでしょうか?」
リィン「マルマルウマウマ。そういう事ならこっちで引き取るよ(皇太子殿下の成長の為に良さそうだから)」
大体こんな流れです。
ヴァンダイク学院長は当然特に属州出身者を差別したりするような方ではないので、もう後は英雄の権力でゴリ押し出来ました。
ユウナ・クロフォードという少女は一般的に言えば才女と呼ばれる少女だ。
クロスベルのそれなりに裕福な家庭の長女として生を受けた彼女は幼少期からその真面目な性格から、日曜学校や近所でも面倒見の良い優等生として評判であった。
そして生来の正義感の強さから、警察学校へと入学。その溢れんばかりの向上心によってそのまま行けば首席卒業して晴れて、憧れの人達の後輩となるはずであった。
そんな彼女の進路に暗雲が漂いだしたのは、故郷であるクロスベルが併合された事に起因する。
クロスベル警察学校からクロスベル軍警学校へと名称が改められ、帝国軍の軍人が校長として派遣されたそこでユウナは盛大にその校長へと噛み付いてしまったのだ。
「上官への反抗心著しく、秩序の維持者として甚だ不適格」そう烙印を押されたユウナはそれまでの単位を取り消され、あわや退学処分*1になるところであった。
そんな中帝国軍から派遣されていた臨時教官たるクレア・リーヴェルト少佐がとりなしてくれたおかげで何とか退学までは免れたが、当然警察学校にはもはや居られなくなった。
どうしたものかと途方にくれたユウナであったが他ならぬクレアからの「現在のクロスベル警察は軍警察として帝国軍の下部組織として扱われています。なので帝国本土の士官学院を卒業すれば、必然クロスベル軍警察へと士官待遇で入隊する事も可能。幸いな事にそちら方面で口を利いてくれる頼りになる知り合いが居るので、ユウナさんさえ良ければそちらを受けてみるつもりはありませんか?」という提案を受け、迷った末にトールズ士官学院への編入を決め、見事251名中60位という成績にて合格を決め、何の因果か帝国の英雄が担任を務めるクラスへと配属になった、というのが此処に至るまでの経緯である。
60位、そう60位なのだ。
警察学校では首席だった自分がこの士官学院では。
この事実はユウナにとってはかなりショックであった、流石に首席を取れるとまで自惚れては居なかったものの、それでもユウナ・クロフォードにとて警察学校首席としての自負があった。
だというのに、自分がこのような席次というのは属州人という事で差別を受けたに違いない!……等と考えるようであれば、彼女の成長は止まり、たちまちの内に精神の劣化が始まっていただろうが、ユウナ・クロフォードという少女の誰にも否定し得ない美点として、どこまでもひたむきなその真っ直ぐさがあった。
彼女はその結果を真摯に受け止めた。差別されたから不当に評価された等とは考えずに、実際に差別は受けていないのが往々にして彼女のような立場に置かれた場合そうした被害妄想に囚われるのが人間の性である、これが今の自分の実力なのだと素直に受け止めたのだ。
だからこそ、彼女は張り切っていた。
陥った状況に対して言いたい文句は山程ある、だが同時に座学で負けた面々に対して実技によって、クロスベル魂を示すのだとその心は熱く燃え盛っていた。そして今もこうして見ているであろう、帝国の英雄をギャフンと言わせてやるのだと。決意を漲らせ、一対のトンファーをその手に強く握りしめた。
しかし
「ナイスクルト、流石だよ」
「セドリックこそ、良く合わせてくれたな」
扱いの難しい双剣術、それをまるで自分の手足のように自在に操り、戦術リンクの恩恵も合わさり歴戦の相棒と言えるようなコンビネーションを首席と次席のコンビは見せつける。この程度の敵驚異でも何でも無いとでも言うかのように、2人はまたたく間に魔獣の群れを蹴散らしていく。2人の動きは、才あるものが確かな修練をくぐり抜けた末に至る洗練されたもので、ユウナのそれよりもはるかに流麗であった。
「は、ちっこいくせにやるじゃねぇか」
「そちらこそ、口だけではないようですね」
アッシュ・カーバイド、不良生徒である彼もまた決して口だけではない確かな実力を見せつける。我流なのだろう、その動きは首席と次席の優等生コンビに比べれば遥かに荒々しく、無駄が多いように思える。だが、それを補って余りあるポテンシャルは彼を有していた。その力量はおそらく、警察学校で武術を習って身につけたユウナを腹立たしい事に上回っている。
アルティナ・オライオン、かの英雄の副官を務めていたらしい自分よりも年下の少女。
彼女もまたかの英雄の副官を務めていたのは決して虚偽でも伊達でもない卓越した戦闘力を見せていた。
《クラウ=ソラス》なる巨大な傀儡を操り、更には導力銃を見事に扱う彼女は近・中・遠距離総てに見事なまでに対応してのける。射撃の腕も、悔しい事に自分より上だった。
「は、どんなもんだよ
アッシュ・カーバイドが戦技を叩き込む
「そういう事は、一撃で敵を蹴散らしてから言うものだ」
体勢を崩した敵に即座にクルトが高速の追撃を叩き込む
「……お二人ともずいぶんと仲がよろしいですね」
「ああ、全くだよ。先程のミュゼ君じゃないが、僕だけ部屋の中で浮いてしまわないか今から心配だ」
残った敵にアルティナとセドリックの発動させた導力魔法が叩き込まれて一掃される。
完璧な連携であった、攻略を開始してから重ねた戦闘は既に10を超えるが、現状その殆どがユウナとミュゼの出る幕が無く終わっていた。
「ケッ、良く言うぜ。さっきから気味が悪い位に息ピッタリな様子を見せているのはどこのどいつらだよ」
以心伝心。そんな形容がぴったりな、俄仕込みでは到底不可能な息のあった2人の様子をアッシュは揶揄する。
「そこはほら、同じ地獄をくぐり抜けた者同士故の絆という奴さ。君ともそんな風になれたらと思っているんだが、どうかなアッシュ」
朗らかな笑みを浮かべるセドリックのその言葉には「友達になってやるから光栄に思え」と言った傲慢さは欠片たりとも存在しない。どこまでも真実、対等の友誼を求める真摯な態度であった。
「……ただ、甘やかされて育ったお坊ちゃんじゃねぇ事は認めてやるさ。
一年前まではちびヒョロだったらしいのに、ずいぶんと頑張ったみたいじゃねぇか」
アッシュの発する言葉。そこからも最初の時にあった小馬鹿にするような態度が大分薄れていた。
それは両名の振るう剣に確かな研鑽が、努力の跡が見て取れたから。
アッシュ・カーバイドは自他ともに認める不良であり、偉そうにしている奴を見ると噛みつきたくなる反骨心の強い男だが、それでも“努力”それ自体を嘲笑う程落ちぶれるつもりはなかった。
「確かに。一年足らずでそれほどの腕になるとは、驚嘆する他ありません」
一年前に煌魔城にて保護した弱々しかった皇太子の姿、それを思い返しながらアルティナは確かな尊敬の念を滲ませながら告げる。本当に良くぞこれ程までと。
「ああ、セドリックと来たら見る見る内に腕を上げてね。
このまま行くと用済みになってしまいそうだと僕も焦っているところさ」
冗談めかしながら、クルトもまた親友の成長を寿ぐ。
そこには親友の成長への喜びと負けてなるものかという意地が矛盾なく共存していた。
「おいおい、褒め殺しかい?割と調子に乗りやすいタイプだから、余り持ち上げすぎないでくれよ。
そう大した事じゃないさ。自分の無力さをこの上ない形で実感した。素晴らしい師に巡り会い、その指導を受ける事が出来た。共に切磋琢磨できる友が居た。目指すべき明確な背中が存在した。これだけ条件が揃えば、誰だって成長できるさ。
そういうアルティナ君こそ、随分と成長したみたいじゃないか?」
「……まあ、確かに去年に比べて身長は5リジュ程伸びましたが」
「いや、そっちの方じゃなくて。その導力銃の事さ。
一年前までは確か使っていなかっただろう?」
チラリとアルティナの手に握られた、彼女のその華奢な外見とは不釣り合いな武骨な存在へと目をやりながらセドリックは告げる。
「ああ、これですか。これ位身につけなければ、あの方のお役に立てませんでしたから」
リィン・オズボーンは今や名実共に帝国最強と言える存在だ。当然、それに付いていこうとする者には相応の実力が求められる。
故に、リィンの相棒たるクロウもまた二足の草鞋を履く余裕はなく、先を往く親友へと追いすがる為にも自らの剣を磨きをかけることを選んだ。光の剣匠、黄金の羅刹、そして親友にして上官たる灰色の騎士という帝国最高峰の剣士達の修練に自らもまた混ざり、その剣に磨きをかけたのだ。
そう、基より高い実力と剣才を有していたクロウの場合はそれで良かった。
だが、アルティナはそうは行かなかった。
何しろ彼女の身体はそうした近接戦闘を自ら行うことを想定して作られていない。
未だ発育途上の彼女の細腕では剣を振るう事は出来ず、そうした脆さを補うように用意されたモノが戦術殻である以上それは必然だろう。
以前までの彼女であれば、それで良いと思っていた。世の中には適材適所という言葉がある、望遠鏡が顕微鏡の機能を兼ね備えていない事は望遠鏡の不具合ではないし、その事に文句を言う者が居るとすれば、それは文句をつける者の方がおかしいのだと。
実際上官たるリィンはそうした戦闘力をアルティナに求めたことは無かった。彼がそうした分野で誰よりも頼りにしているのは常に相棒たる蒼の騎士だったからだ。
そしてアルティナには
あの時彼女は己の敬愛する上官を援護する事もできず、見ていることしか出来なかった。ーーーのみならず、風の剣聖を取り逃がすという大失態を犯してしまった。
敵が上をいっただけだとリィンは彼女を責める事はしなかった。だが、アルティナ自身がそんな自分を許せなかった。
もっとこの人のお役に立ちたいと、そう願った。
そして目をつけたのが、クロスベルでの清浄化作戦の最中彼を補佐したクレア・リーヴェルト少佐であった。
卓越した処理能力を誇り、高性能の導力演算器とも称される計算能力を誇り、正確無比な射撃の使い手である彼女は手本とするに相応しいとアルティナは判断し、すぐさまクレアへと相談を行った。
相談を受けたクレアは驚きながらも最後には快諾してくれて、以来一年間磨きをかけた射撃の腕は花開き、ようやく実戦で使うに足る領域へと至ったのだ。
「は、随分と入れ込んでいるみたいだな。帝国の英雄、灰色の騎士様によ」
「当然です。あの方以上に素晴らしい人等この世に存在しません」
「・・・・・・・・・」
一切の迷いなくいい切ったアルティナにさしもののアッシュも二の句を告げずに固まる。
「ああ、全くだよ。リィン先生と巡り会えた事は僕の生涯に於ける最大の幸福と言ってもいい」
「セドリックさんは良くわかっているみたいですね」
そんなアッシュをよそにセドリックとアルティナは意気投合する。
両者の浮かべる笑みはとても綺麗だというのに、何故だろうアッシュにはそれが酷く空恐ろしいものに感じられた。
「おい、大丈夫なのかよこいつら」
先程までの高評価はどこへ行ったのか。
ドン引きした様子でアッシュは皇太子の御守り役を務めるお坊ちゃんへと語りかける。
「……まあ、些か崇敬しすぎているとは思うが、憧れてその背を目指す事それ自体は決して悪い事ではないだろう」
「まあ、そりゃそうかもしれねぇけどよ……なんつーか坊っちゃんは坊っちゃんなりに色々と苦労してんだな」
先程まで向けていた敵意は霧散し、同情に満ちた視線がクルトへと刺さるが
「自分自身で選んだ道だ。友として生涯彼を支えると、そう僕は誓った。憐憫も同情も不要だ」
それをクルトは拒絶する。強制されたわけではなく、これは自分で選んだ道なのだからと。
その瞳には確かな意志の力が宿っていた。
「そうかよ……そんじゃまあ、精々頑張るこった」
「君に言われるまでもないさ」
そこでクルトとアッシュの会話は途切れる。
だが両者の間に漂う空気は和やかとは言えないまでも、決して険悪なものではなかった。
意気投合し始めた四人とは裏腹にユウナの心は焦燥に満たされていた。
決して甘く見ていたわけではない。帝国の強大さというのもわかっているつもりだった。
だが、それは本当につもりでしか無かったのだ。
セドリック・ライゼ・アルノール、クルト・ヴァンダール、アルティナ・オライオン。
座学に於けるトップ3のこの三名は実技に於いても卓越した力量を持っていた。
しかも、三人揃ってユウナが対抗意識を燃やしているかの“英雄”の教えを受けているというのだから、否応なくその強大さを実感してしまう。いや、この三人だけではない。
アッシュ・カーバイドなる不良生徒も実技の実力で言えば自分を上回っているし、隣に居るミュゼ・イーグレットという令嬢も座学に於いては席次10位と自分を大きく上回っている。
班員の中で、自分こそが一番劣等である事は疑いようがなかった。
(は、上等じゃないの!)
今、劣っているから一体何だと言うのか。
今劣っているというのならば、追いつけるように努力すれば良い。
がむしゃらにひたむきにただ前だけを目指して進み続けるのだ。
だって自分の憧れた人達は決して諦めなかったのだから。
今も尚、足掻き続けているのだから。 あの人達を目標とするなら、こんな程度で諦めてなんか居られないのだ。
(そうですよね、ロイド先輩!)
心に浮かぶのはユウナが尊敬して止まぬクロスベルの
それだけで先程まであったユウナの中の焦燥感は霧散し、その心には決意が漲っていく。
そしてそんなユウナの様子を見てミュゼはクスリと笑みを零す。
どうやら自分がフォローする必要は無さそうだと胸を撫で下ろして。
そうして第一班は小要塞の攻略を順調に進めていくのだった……
おまけ
クロウ「おい、お前の義娘本当に大丈夫か!?」
リィン「大丈夫じゃない。問題だ(だからこそ士官学院に行かせた)」
クロウ「駄目じゃねぇか!!!」
リィン「まあまだ若いし、友人たちから影響を受けて丸く収まればいいなって!」
クロウ「希望的観測じゃねぇか!!!」
リィン「しゃあねぇだろ!誠意を持って接していたら、いつの間にかあんな感じになっていたんだから!!!」
子育てって難しいね。