獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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「よいかセドリック。
我々はインペリアルクロスという陣形で戦う。
防御力の高いベアが前衛、
両脇をユウナとアッシュが固める。
お前は私の後ろに立つ。
お前のポジションが一番安全だ。
安心して戦え。」


原石

「外の光……?」

 

「どうやら終点のようですね」

 

 差し込む人工的ではない、自然の光。

 それを目にした瞬間思わずミュゼとユウナは安堵の息を漏らす。

 

「はーようやくついた。全く、学校の地下にこんな訓練施設を作るだなんて……」

 

「それだけ軍と政府がシュミット博士を重視しているという事でしょうね。

 なんと言っても、熾煌翼獅子最高綬章の授与者ですから」

 

「なんか聞くだけですごそうな名前の勲章だけど……」

 

「凄そうではなく、実際に凄いんです。

 我が国における最高の勲章で、これの授与者は現在オズボーン宰相にヴァンダイク大元帥、そしてシュミット博士の御三方しかいませんから」

 

 ユウナの疑問に対してミュゼはスラスラと答えていく。

 そこには「そんな事も知らないのか」と見下すような色は欠片たりとも存在しない。

 

「は、けどまあどんなもんかと身構えてみたがそう大した事はなかったな。

 《ブレイブオーダーシステム》とやらも結局使う必要なんざ無かったしよ。

 ま、皇太子殿下に万が一の事があっちゃあ担任の英雄様の責任問題になるだろうし、こんなもんか」

 

 チョロいもんだとアッシュは言い放つ。

 さもスパルタぶっていようが、やはり皇太子様が居る以上そう危険な事は出来ず結局はただの接待プレイだとそうたかをくくって。

 

「いや、入学早々にこんなところにいきなり突き落として魔獣と戦わせている時点で十分無茶苦茶だしスパルタでしょ」

 

「そうですね……皆様はともかく柔弱な私としては付いてくるだけで一苦労でしたし。

 容易いとそう思われたのは偏にセドリック様を始めとする皆様の実力あってのことかと♥」

 

 出口が見え、そして魔獣の気配もしないことから弛緩した空気が流れ出す。

 もうこれで終わりなのだと、そうリィン・オズボーンを伝聞でしか知らぬ者たちは考えて。

 

「セドリック……」

 

「ああ、気を引き締めようクルト。あの人がこんな程度(・・・・・)で終わらせるわけがない」

 

「センサーに警告。霊子反応を検出しました」

 

 なればこそ英雄の薫陶を受けし者達は微塵たりとも油断していなかった。

 

「み、皆さん逃げて下さい!!!」

 

 そして、切羽詰まった様子のティータ・ラッセルの悲鳴に似た叫び声が聞こえたかと思うと次の瞬間ーーー空間が大きく歪みだす。

 姿を現したのは全長八アージュ程もある巨大な異形。

 

「な、なななななななななななな」

 

「ちぃ、噂の機甲兵とやらかよ!?」

 

「いいえ、これは……」

 

「ーーー魔煌兵。内戦の際にも出現した暗黒時代の遺物ですね。

 自律行動が出来るものの出力という点では汎用機たるドラッケンⅡにも劣り、判断力という点でも当然人間には及ぶべくもありませんから、標準的な機甲兵の戦力を下回るかと」

 

「って冷静に解説している場合じゃないでしょ!?

 ちょっと無茶苦茶も大概にして下さいよ!こんなデカブツ相手にしてーーー」

 

「勝てるわけがないーーーか?そう思うのならば、そこが君の限界点だなユウナ・クロフォード。人は自分自身で出来ないと思ってしまった事はどう足掻いても出来ないものなのだから。

 ーーー君の尊敬する彼ら(・・)は決して諦めなかったぞ。風の剣聖に紅の戦鬼といった自分たちを凌駕する使い手を相手取ってもな」

 

 それに比べれば遥かに容易い相手だ。故にさあいざ飛翔しろと英雄ははるか天空の高みから未だ巣立ちを迎える前の雛鳥達に告げる。

 

「~~~~~~~~貴方が!よりにもよって貴方があの人達のことを語るんですか!!!」

 

 心の中の聖域。それを土足で踏みにじられたような思いと共にユウナは怒りの言葉を吐き出す。

 

「落ち着こうみんな。リィン先生は確かにとんでもなくスパルタだけど、それでも無理な事は決して言わない人だ」

 

「ああ、つまり、僕らが死力を尽くせばなんとかなる(・・・・・・)相手という事だ」

 

 2人が思い起こすのは地獄のような鍛錬の日々。

 思い出すだけで血反吐を撒き散らしそうになる、鬼!悪魔!等と形容すれば鬼と悪魔に失礼になるであろう師によって課せられた修行の数々。

 それらは確かに地獄だったが同時に、それを乗り越えるたびに確かな成長の実感と喜びを感じとれるものであった。

 故にこそ、今回もそれと同じだ。一見無茶に思えど、それでも真実全霊を尽くして取り組めば達成できる難易度のはずなのだと両者は気合を入れる。

 

「ええ、リィン教官ならばそれこそ容易く一蹴出来る程度の敵です」

 

 アルティナの発言はただの事実を述べただけの発言だったが、それはこの上なく英雄に対抗意識を燃やす2人の心に火を付けた。

 

「上等じゃねぇか」

 

「あの人達はどんな時も諦めなかったって?そんなことーーー私が一番良く知っているんだから!」

 

「困りました。正直逃げ出したいところですが、私とて恥というものは知っております。

 仲間である皆様がそうしてやる気を出されては私一人、逃げ出すわけにも参りません」

 

「ーーー結構。それでは各々死力を尽くして見事この試練を突破してみせろ」

 

「ふん、精々良いデータが取れるよう足掻くが良い」

 

 高まる戦意に呼応するように魔煌兵が雄叫びをあげる。

 そして、此処に特務クラスⅦ組第一班と魔煌兵の戦いが始まった。

 

 

「ブレイブ・オーダーシステム起動」

 

 威厳に満ち溢れた言葉と共にセドリック達の所有するARCUSⅡそれが青白く光り始める。

 

「《疾風陣・白虎》」

 

「これは……」

 

「はは、凄いな。まるで相手が止まって見える!」

 

 まるでその身が一陣の風となったかのような心地良さ。

 それを味わいながらクルトとセドリックが魔煌兵の攻撃を掻い潜りながら、接近する。

 これこそがG・シュミット博士が開発したブレイブオーダーシステム。

 その本領はすなわち将の位階にまで幕下の兵を引き上げること。

 戦術リンクシステムが連携の極致ならば、ブレイブオーダーシステムは統率の極致。

 獅子が率いることによって羊の群れを獅子へと変える力であった。

 

「解析完了。基本的な構造は機甲兵と同じです。

 関節部分を狙って下さい。そこは他に比べて装甲が脆くなっています」

 

 そしてアルティナもまたクラウ=ソラスをその身に纏いながら三次元を縦横無尽に駆け抜けながら、正確無比な加えていく。

 アルカディス=ギアモード。通常傀儡として操るクラウ=ソラスをその身に纏う事で機動力と攻撃力を高めたアルティナ・オライオンにとっての切り札となる形態である。

 未だ成熟仕切っていないアルティナの肉体ではそのGに身体が耐えきれず、そう長くは展開出来ぬのが難点だが、それでもその欠点を補って余りあるメリットがこの形態には存在する。

 それはすなわち三次元での高速機動が可能であるという点。翼を持たぬ人間では本来不可能な空中での機動が可能なのだ。

 疾風陣白虎の恩恵も得た今のアルティナはまさに高速で飛び回る戦闘機と化していた。

 

 自身の周囲を飛び交ううっとおしい虫を払いのけるかのように魔煌兵がその腕を振り下ろそうとするが

 

「おらデカブツ!これでも喰らいやがれ!

 

「せやあああああああああああ!」

 

 渾身の力を込めたアッシュとユウナ、2人の一撃が魔煌兵へと炸裂する。

 甲高い金属音が鳴り響き、微かに魔煌兵が後ずさる。

 

「お熱いですがご容赦を……ファイヤ!」

 

 更にこの機を逃さぬとばかりに導力ライフルによる渾身の一撃が魔煌兵の顔面を撃ち抜く。

 頭脳回路の存在する頭部に一撃を喰らった事で刹那、魔煌兵の動きに硬直が生じる。

 

「殲滅陣《朱雀》」

 

 告げられた新たなるオーダー。

 それを受けた瞬間に全員の総身に力が漲る。

 皆まで言われるまでもない、すなわち此処で決めろとそう彼らの教官は告げていた。

 

「セドリック!」

 

「ああ、行こうクルト!」

 

 セドリックの双剣に炎が宿る。

 クルトの双剣に風が宿る。

 

「「インペリアル・クロス」」

 

 放たれのはヴァンダール流中伝に於ける最大出力の攻撃たるラグナストライクが二つ。

 2人同時に放ったそれが十字に魔煌兵の躯体を引き裂き、そのコアを露出させる。

 

「アルティナ君!」

 

「ええ、これでトドメです」

 

 コアを砕かれた魔煌兵は静かにその場にて沈黙するのであった……

 

・・・

 

「6人とも良くやったな」

 

 慈愛に満ち溢れた笑顔を浮かべながら、一行の眼の前に現れた担任教官はそう教え子達の健闘を労う。

 

「各々改善点と反省点はまあ幾つか存在するが、それはおいおい直して行けばいいだけのこと。

 一まずはその奮闘を労わせてもらおう。良くやった。これにてブレイブオーダーシステムの初回(・・)の試験は終了だ。

 シュミット博士にもご満悦とまでは行かなくても十分に満足頂く事が出来た」

 

 そうしてリィンは披露困憊と言った様子の教え子たちの健闘を労いながら、その場で肩をたたきながら激励する。

 アルティナとセドリックはそれだけで今にも軽やかなスキップでも開始しそうな程に浮かれた様子となる。

 

「……なんかちょっと意外。てっきり此処が駄目だったみたいなダメ出しでも始まるのかと思っていたから」

 

「厳しくはあれど決して理不尽ではない。そういう事なのでしょうね。厳しくするだけでは人は付いて来ませんから」

 

 打って変わって優しい笑みを浮かべる鬼教官の姿。

 それを目にしてどこか複雑そうな表情でユウナが、推し量るような瞳で見つめながらミュゼが言う。

 

「次回の試験はまた来月を予定している。それまでに各々存分に切磋琢磨しあい、腕に磨きをかけておくことだ。

 ーーー各々不満はあるだろうが、最初に言った通りに諸君らに拒否権を与える事は出来ない。

 代わりと言ってはなんだが、私の権限が及ぶ範囲ではあるが、ある程度の要望には応えよう」

 

 功績に対しては相応に報いるとリィン・オズボーンは堂々とした様子で告げる。

 

「そういう事なら、一つ稽古をつけて貰えないっすかね。

 帝国最強と噂される英雄様、その実力の程にちぃっとばっかし興味があるんでねぇ」

 

 不敵な笑みを浮かべながらアッシュは得物を抜き放つ。

 

「やれやれ、意気込みは買うけど……」

 

「流石に相手が悪すぎる」

 

「身の程知らずという言葉の生きた実例ですね」

 

 英雄の凄まじさそれを知る三人はどこか呆れた様子で学友を見つめる。

 何故ならば彼らは知っているから、例えこの場に居る、否222期生が総掛かりで掛かったところで一太刀入れる事さえ出来るかどうか怪しい領域であるということを。

 

「いいや、身の程知らず大いに結構。

 身の程なんてものは大人になってから学べば良い。

 学ぶ立場にある諸君らに限って言えば、身の程等弁えずに大いに挑戦するべきだ。

 先程クロフォード候補生にも言ったが、人間、自身が出来ないと思っている事は絶対に出来ないのだからな。

 そういう点に於いて、君の気迫は実に好ましいぞカーバイド候補生」

 

「は、そりゃどうも。それじゃあ稽古をつけて貰えるって事で良いんですかね教官殿?」

 

「ああ、つけてやろう。ーーーどうせ、すぐに終わる」

 

 瞬間リィンの身体がかき消えたかと思うと、アッシュの顎に鋭い痛みが走る。

 世界が揺れ、アッシュの身体がそのまま崩れ落ちる。

 

「なぁ……」

 

「基礎がなっていない。動きに無駄がありすぎる。我流で鍛えたのだろうが、それではこの辺りが限界だ。私は愚か、そこに居るヴァンダール候補生にも追いつく事は出来ず、そう遠くない内にアルノール候補生とクロフォード候補生にも遠く及ばなくなっていくだろう」

 

 責めるでもなくただ事実を述べるかのように淡々とした様子でリィンは告げていく。

 

「だが、逆に言えば君はそうした基礎を知らぬ状態でそこまでに至ったという事でもある。

 紛れもない天禀とそして重ねた研鑽あってのことだ。その点は素直に称賛させて貰おう」

 

 才能というのは正しく磨かれなければ輝きを放つ事はない。

 さながら今のアッシュ・カーバイドは磨き方を間違えてしまった原石だ。

 そんな原石の状態でありながら、彼はセドリック・ライゼ・アルノールに現状匹敵しうるだけの輝きを放っているのだ。

 

「まずは基礎を学べ。あらゆる分野は先人たちが生涯を賭けて作り上げた基礎によって成り立っている。

 発展も応用も総ては基礎を学ぶことから始まる」

 

 読めない文字を書くことは出来ない。

 四則演算すら出来ない状態で方程式を解く事は出来ない。

 天に届く塔を築くにはまずはその土台をしっかり作らねば、途中で崩れ落ちる。

 今を生きる人間は先人たちが積み上げてきたものの上に立つことで、遠くを見渡す事が出来ているのだ。

 誰の教えも受けずに総て我流でやるというのは、それを一から自分一人で作り上げようとしている非効率極まりない行為だとリィンは断じる。

 

「その為に我々教官を大いに利用(・・)することだ。我々はそのために居るのだからな。

 改めてようこそトールズ士官学院へ。君のような原石を磨き上げられるのは指導者冥利に尽きるというものだ。

 これからよろしく頼むよ、アッシュ・カーバイド君」

 

 にこやかに浮かべる微笑み。

 獲物を目にした肉食獣に似通ったそれを前に、その場に居合わせた者たちは猛烈な寒気を感じるのであった……

 

 

 




セドリック「リィン先生に此処まで目をかけられるだなんて……ギリィ」
アルティナ「……負けていられません」
ユウナ(ええ、そこでなんでそういう反応になるの?という顔)
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