獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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パッパ「灰色の騎士よ……お前には英雄としてしばらく役に立ってもらうぞ」

内戦終結←灰色の騎士大活躍!(少尉→大佐)
クロスベル侵攻→灰色の騎士大活躍!(共和国粉砕!玉砕!大喝采!大佐→准将)
北方戦役→灰色の騎士大活躍!(3日で終戦。准将→少将)
アルタイル要塞攻略→灰色の騎士大活躍(少将→中将)

ペロッこれは父親を支える孝行息子にして鉄血の子筆頭。



獅子の目覚め

 

 七曜暦1205年4月1日、皇帝直属の特務部隊《光翼獅子機兵団》は正式に動き始めた。

 

 帝国最強の剣となる同部隊の栄光有る司令官の任を与えられたのは十七勇士筆頭にして《灰色の騎士》の異名を持つこの年19歳となる若き英雄リィン・オズボーン帝国正規軍准将。 法の守護者、軍人の理想、鋼の化身、断頭台、エレボニアの剣、閃刃、炎神と言った数多くの異名を以て讃えられる最も新しき英雄伝説を綴りし国民的英雄である。

 185リジュの堂々たる体躯の総身には烈気が漲り、鋭い眼光には常人とは隔絶した覇気が宿る。彼が未だ成人すら迎えていない若者だと言われても、多くの者は信じる事が出来ないだろう。《光翼獅子機兵団》が張り子の虎となるか、それとも文字通りの獅子となるか、それは総て司令官たる彼の器量にかかっている。

 

 副司令官を務めるのは《光の剣匠》の異名を以て知られる帝国の二大流派の一角アルゼイド流総師範を務めるヴィクター・S・アルゼイド子爵。年齢は43歳と肉体的な全盛期はとっくに過ぎた身でありながら、振るう光刃には刃こぼれ一つ生じていない帝国最高峰の剣士である。正規軍・領邦軍への武術教練を務め、帝国に於いて知らぬ者は居ない武威はその異名の通り、光の翼となって獅子をさらなる高みへと導くだろう。

 

 司令官を補佐する幕僚チームの要にしてトップである参謀長へと就任したのは熊のような大柄な外見とは裏腹に溢れんばかりの愛嬌を宿したエミール・ローレンツ大佐。指揮官としては二流、参謀としては一流、調整役としては超一流と評される誠実で温厚な人物であり、人間関係の生きた接着剤としての役目を期待される。また帝国軍の頭脳たる参謀本部に10年以上勤務して、その社交性を生かして培われた人間関係は急激な出世を果たしたがためにその手のパイプの薄い司令官にとってはこの上ない助けとなる事だろう。

 

 そしてそんな参謀長と対照的なのが副参謀長を務めるブルーノ・ゾンバルト中佐である。

 10年に一人の逸材と評され、中央士官学院を首席で卒業した彼は、その異名に違わぬ抜群の作戦能力を誇る帝国軍の英才達が集う参謀本部に於いても頭一つ、二つ抜けた怜悧な頭脳を持つ。しかし、その才を鼻にかけたようなところがあるため、上から疎まれやすいというまさしく参謀長を務めるローレンツ大佐とは真逆と言える人物である。

 

 参謀長と副参謀長の下で更にそれぞれ作戦立案や部隊運用を担当する作戦部長、作戦遂行に際して情報収集及び分析を担当する情報部長、兵站計画の立案・運用を担当し、物資の面から部隊を支える後方部長、人員の補充・配置を担当し、人的資源の面から部隊を支える人事部長の4人の少佐が名を連ね、更にその下にそれぞれ十名単位の参謀達が存在する。彼らは文字通り獅子の頭脳である。

 

 本来であればこうした幕僚は出世の過程で得た縁故、及び士官学校時代の同期、先輩、後輩等を頼るものであるが、リィンの場合は余りに急激な出世を果たしたためにその手の縁故がほとんど存在していなかった。

 しかし、幸か不幸か折しも内戦の直後で複数の機甲師団が壊滅の憂き目に合い、軍は再編成の真っ只中。おかげで宙に浮いた状態の本来であれば引く手数多の英才たちをを引っ張ってくるのに困らなかったというわけである。なにせ上層部には急激すぎる出世が原因で疎まれている傾向があるリィンであったが、まだ脅かされるような立場にない若者達にとって、灰色の騎士は目標とすべき憧憬の対象以外の何物でもないのだから。

 所属部隊が壊滅して、その身より溢れ出る情熱を持て余した者が、命令すれば事足りる雲の上の階級たる“英雄”とされるような人物が直々に訪ねてきて、真摯に助力を求められれば、その返答がどうなるか等もはや皆まで言う必要はないだろう。

 

 更に司令官の首席副官を務めるのは鉄道憲兵隊より出向のミハイル・アーヴィング大尉だ。

 指揮官としても一流、参謀としても一流、管理者としても一流と評される彼は精鋭が集う鉄道憲兵隊に於いてリィンの義姉であるクレアと並ぶ若手の双璧とまで謳われる英才だ。彼を部下に持ち、その働きに不満を持つ司令官が居ればそれは求める水準が高すぎる完璧主義者か、さもなくばその有能さに気づかぬ度し難い低能のどちらかだろう。

 

 次席副官を務めるのは引き続き情報局より出向したアルティナ・オライオン少尉である。

 後見役を引き受けている事から、公私混同ととられるような真似は避けるべきではないかとも考えたが、この世の終わりのような表情をする可愛い義妹分の姿を見てはリィンとしては流石に別の人間を登用するとは言えなかった。彼女の能力にも人格にも文句は特にない以上、不信感を買わぬように務めるのは自分の役目だろうと考えて。

 

 そして司令官の頭脳となるのが幕僚ならば、司令官の手足となるのが実戦部隊を率いる指揮官達である。

 《光翼獅子機兵団》は4つの機甲兵連隊によって構成される総員1万名で構成される戦闘集団である。その連隊名は帝国を古くより守護する四神の名を冠している。

 

 第一連隊朱雀を率いるのは司令官たるリィン・オズボーン准将。副隊長を彼の盟友たるクロウ・アームブラスト少佐が務める事となる。

 

 第ニ連隊青龍を率いるのは副司令官たるヴィクター・S・アルゼイド大佐。

 

 第三連隊白虎を率いるのは武門の名門フェルデンツ伯爵家の次兄たるアウグスト・フェルデンツ中佐。年齢は27歳となる。まさに貴族と言った貴公子然とした容貌とは裏腹の竹で割ったような豪快な性格で、部隊の運用もまたその性格を反映するかの如く、常識外れの猛々しさと破壊力を誇り、黄金の羅刹からも高く評価されたラマール領邦軍屈指の猛将である。

 

 第四連隊玄武を率いるのは中央士官学院を席次5位で卒業した英才にして、鉄壁のミヒャールゼンの愛弟子の一人であるユルゲンス・モルト中佐。年齢は31歳となる。鉄壁の系譜を受け継ぐ者として守勢における粘り強さに定評のある勇敢かつ献身的な指揮官である。

 

 各連隊長の下には更に大隊を率いる3人の少佐が控えており、その者達もまた若く優秀で勇敢な軍人である。

 特筆すべき点はなんといっても、その指揮官達の若さだろう。

 大隊長を務める少佐も含めて、皆30代前後の若手ばかり。40代となるのは幕僚と指揮官を併せてもヴィクターとローレンツの二人だけというのは“異常”と言うべき若さである。

 

 無論、これには明確な理由がある。

 それは《光翼獅子機兵団》が新兵器たる機甲兵を運用して、帝国軍の最先端を走る事となる部隊だからである。

 人間というのは年を取る程に柔軟性が失われて、新しい物への適応力というのが落ちる生き物とされる。

 パラダイムシフトと呼ばれる転換期、これが起こった時本来であればそれ相応の功績と才覚を示して上へと登り詰めた老人たちがそれまで培ってきた“経験”は通用しなくなる。

 かつて百日戦役で起こった飛空艇の軍事利用がまさしくこのパラダイムシフトであった。“空”という概念が齎された新たな戦場で、これまでの“経験”が通じなくなった多くの将達が“愚将”という汚名と共に多くの兵士を道連れにその命を散らすこととなった。

 そして機甲兵という新兵種の登場はまさしく再び起きたパラダイムシフトである。

 

 故に、この部隊に必要なのは老兵の経験ではなく若手の柔軟性である、それがリィンの考えであった。

 なにせ機甲兵が導入されると言っても別段戦車が完全に廃止されるわけではない、ならば戦車の運用に慣れた老兵達に無理に機甲兵に乗り換えさせるよりも、若手を機甲兵部隊の指揮官及びパイロットとして育成して行くほうがはるかに合理的というものであろう。

 

「3ヶ月と言ったところか……」

 

 《光翼獅子機兵団》はどの部隊よりも恵まれている。

 皇帝直属というその立場故に豊富な予算を与えられ、装備は最新鋭のものが与えられ、福利厚生もまた充実させる事が出来ている。

 だが恵まれているという事はそれだけやっかみも買うという事。

 どこかでその費やした金に見合うだけの価値がある事を証明しなければならないだろう。

 

 だが、それこそリィンにとっては望むところである。

 何時の時代でも机上で論理を弄ぶだけの輩よりも、現実に於いて確たる実績を挙げている人物の発言が重んじられるのは当然の成り行きである。

 実戦に於いて武勲を挙げて、その実績による機甲兵運用の第一人者としての声望を軍内部に於いて確立させる。

 そうしてしまえば、後はこちらのものだ。

 官僚組織に於いて何よりも強いのはノウハウを知っているものだ。今後の帝国軍に於いて機甲兵とは間違いなく主力運用されていく兵器。

 そのノウハウを知り尽くしている第一人者としての声望を手に入れれば自分は今後の軍部の主導権を握る事ができる。

 そしてそうなれば、それはもはや父親頼りではないリィン・オズボーン自身が築き上げた地盤だ。

 

(そのためには、やはりあの方(・・・)を是が非でも口説き落とさねばなるまい)

 

 今、この大陸に於いて最も機甲兵の運用に際しての実績を持つ人物。

 自分と同じく十七勇士にも名を連ね、現在は内戦における貴族連合総司令としての責任を取り、予備役へと編入された人物、《黄金の羅刹》オーレリア・ルグィンを。

 

(おそらくまた、老人方にはさぞ嫌われることだろうな)

 

 貴族連合軍の総司令を務めた人物なのだ、反発があって当然だろう。

 なにせ今の軍三長官は危うく貴族連合の手によって処刑されるところだったのだから。

 自分たちを虜囚にした際の中心人物ともなれば尚更だろう。

 自分とてミヒャールゼン将軍の仇に思うところが全く無いと言えば、それは嘘になる。

 

(だが、それでもこれは必要な事だ)

 

 未だ遥か遠い頂にいる父に刃を届かせるためにも。

 是が非でも口説き落としてみせると目覚めた獅子はその光纏う翼を羽ばたかせる日に備えて、水面下で動き続けるのであった。

 

・・・

 

 そして鉄血宰相の覇道を食い止めんと水面下で動くのは何も彼だけではない。

 アストライア女学院、帝国有数の名門校たるこの地で、2人の男女が邂逅を果たしていた。

 

「なんでも私にどうしても話したい事があるという事だったが、一体何かな?

 愛の告白という事であれば、無論大歓迎なのだが♥」

 

「はい、そうなのです。実は私ずっと殿下の事が……そのために姫様にどうしてもとワガママを言ってまで……等と言いたいところですが、生憎私が今日この日こうして殿下と話し合う場を姫様に設けていただいたのはそのような色っぽい話ではないのです。

 ーーーこの国の行く末について。かの宰相殿がこの国をどこに導こうとしているのが、改めてお伝えしたいと思ったからなのです。オリヴァルト皇子殿下」

 

「ーーーわかった、聞こうじゃないかミュゼ君。いいや、ミルディーヌ・ユーゼリス・ド・カイエン君」

 

 若者たちは足掻き続ける。

 世の礎を護るためにも。終焉へと抗うべく……




なお、ついに反抗期を迎えた模様。
国民から熱狂的な支持を受けて、軍部に於いて若手から熱烈な支持を集める祖国に絶対的な忠誠心を持つ若き英雄。
なんやこのクーデター起こしそうな危険人物……

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