獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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メアリー教官は実家を継ぐ弟なり兄なりが居ると想定。
そうじゃないとマカロフ教官の婿入りの難易度が跳ね上がるので。
しかしルーファスと言い、ミュラーと言い、歴とした貴族の嫡男がいい歳して結婚していない問題をどう考えれば良いのか……
ルーファスは多分ヘルムートがアルフィン殿下を娶らせようと画策していて、本人が母親の件で女性不信か何かだったみたいに解釈出来るんですが、ミュラーの方は一門の人間からの早く結婚しろ攻勢かなり凄かったのではなかろうか?


歓迎会

「忙しい中良くぞ皆集まってくれた」

 

 時刻は夜の20時。

 帝都近郊都市トリスタ、今や帝国最大の名門となったトールズ士官学院の存在するこの街の宿酒場《キルシェ》で若き獅子を導く、トールズの教官達が一同に会していた。それぞれの前にはジョッキ一杯に注がれたビールと山盛りの料理が所狭しと並んでいる。

 

「皆も知っての通り、本年より我がトールズは大きな変革を迎える事となった。

 機甲兵教練を始めとしたカリキュラムの増加、それに伴う2年制から3年制への変更。

 より士官学校として本格的な軍事教練を施す事となり、そのために退任した三人に代わって新たに四人の仲間が加わる事となった。

 そこで本日は略式ではあるが、大人同士交流を深めるための場を用意させてもらったというわけなのだが……それでは改めてになるが一応自己紹介と抱負を述べてもらえるかな」

 

 ヴァンダイク学院長の促しに颯爽とした様子でまずはリィンが起立する

 

「皆さん、お久しぶりです。

 今年度よりⅦ組の主任教官及び軍事学を受け持たせて頂く事となったリィン・オズボーンです。

 教官としては若輩の身であり、軍務もある故余り頻繁に顔を出す事も出来ない故皆様方には何かとご迷惑をおかけするかと思いますが、どうぞよろしくお願い致します」

 

 今この場に居るのは帝国正規軍少将ではなく、トールズ士官学院に着任した新米教官である、そんな腰の低い様子でリィンは微笑を湛えながら恩師たちに挨拶をする。生徒ではなく同僚として。

 

 そしてリィンを皮切りに残った三人も次々と挨拶をしていく。

 

「クロウ・アームブラストです!Ⅶ組の副主任を務めさせてもらいます!どうかよろしくお願いします!」

 

 言葉自体は丁寧だがどこかおちゃらけた空気でクロウが

 

「ランドルフ・オルランド、クロスベル警備隊から出向して来やした。

 正直、帝国最大の名門士官学校の教官なんてものが務まる器だとは自分でも思えないんですが、まあよろしく頼んますわ」

 

 自分を此処にいるように仕向けた人物に対して含むところはあるが、目前の同僚となる面々の責任ではないとでも言うような様子でランディが

 

「リンデ・オルトです。こうして母校に戻ってこれて嬉しいと同時に、すごく緊張しています。ウルスラ医科大学を卒業したばかりの若輩者ですが、ベアトリクス教官の下で一日でも早く一人前になって、先生方の足を引っ張らないようにしたいと思いますのでどうかよろしくお願い致します」

 

 緊張しきった様子でリンデが。

 それぞれの挨拶の度に教官達は顔を綻ばせながら、拍手で以て歓迎の意を伝える。

 そうして四人全員の挨拶が終わったところでヴァンダイク学院長はジョッキを高く掲げて

 

乾杯(プロージット)

 

 祝杯の挨拶と共にカツンと金属の甲高い音が響く。

 こうして和気藹々とした様子で、歓迎の宴が始まったのであった。

 

・・・

 

「しかし、お前さんも大変だねぇ。ただでさえ忙しいだろうに、この上うちの教官までだなんて。いくら皇太子殿下たってのご希望とはいえ、無理だったら無理って言っていいんだぜ」

 

 そうマカロフは同情しながら過重労働も良いところな教え子にして同僚となった人物に語りかける。

 現状のリィンの仕事量は想像を絶するものと言っていい。

 軍への教導も務める帝国最強部隊の司令官というだけでも多忙を極めるというのに、彼はこれに士官学校教官としての任まで加わるのだ。如何に傑物と言えど、余りにも常軌を逸していると言っていい。

 

「ご配慮いただき感謝しますが、無理でしたら無理と素直に言ってますよ。

 何とかなる精算があるからこそ引き受けました」

 

 しかし、そんな言葉にもリィンは揺らがずただ事実を述べるかのように当然のように答える。

 そこには気合でなんとかしようという精神論ではなく、確かな根拠に由来する自負が存在した。

 

「でも、奥さんとの時間はちゃんと取っていますか?まだ結婚して一年でしょう?」

 

 仕事一筋家庭を省みない夫、そんな風になっていないかと心配した様子でメアリーも問いかける。

 一度目標を定めたら、そこに向かって脇目も振らずに全速前進と言った目前の同僚となった教え子の在学時代を思い出しながら。

 

「そちらも大丈夫ですよ。週に一日は彼女と共に過ごす時間を意地でも確保していますから」

 

「それは偉いですね。男の人というのはどうにもそうした機微に疎いところがありますから」

 

 まるで我が子を見守る母のような穏やかさでベアトリクス教官はそうリィンを称える。

 エレボニアは「帝国男子はかく在るべし」と言ったマッチョイズムの強い国家である。

 槍の聖女という帝国人ならば知らぬものは居ない女性の英雄なども居ることから、一定の歯止めは掛かっているがそれでも、男ならばこう在らなければならないという思想が根強く存在している。

 一概にそれは悪いものとも言い切れぬのだろう、そうした誰かを守るために強く在らねばならないという考えは、ある種の向上心にも繋がるのだから。

 だが、そうした考えが仕事重視、男性優位と言った思想に繋がり、ひいては家庭の軽視やそうした理想像から外れた者の蔑視に繋がる事もまた事実である。

 リィン・オズボーンは帝国男子の鑑とも謳われる、強きエレボニアを体現する雄々しい“英雄”とされているし、実際生徒であった頃の彼はその形容に違わぬものであった。

 だからこそベアトリクスも若干だが心配していたわけなのだが……

 

「別に偉くもなんともないですよ。妻と一緒の時間を作っているのは俺自身の為なんですから。

 彼女と一緒に居る事で俺も心の洗濯をさせてもらっているんです。夫婦というのはそういうものでしょう?」

 

 片方が片方に対して一方的に奉仕するのではなく、病める時も健やかなる時も貧しい時も富める時も寄り添い支え合うのが夫婦だろうとリィンは堂々と惚気を行う。

 

「おやおや、これは一本取られてしまいましたね。確かに貴方の言う通りです」

 

 そしてそんなリィンをベアトリクスは微笑ましい者を見るかのように穏やかな笑みを浮かべる。

 

「ところでそういうマカロフ教官とメアリー教官はどうなんですか?ご結婚は何時頃を予定されているんですか?」

 

 さらりと投下された爆弾、その衝撃でマカロフは咳き込みだす。

 そうしてそんなマカロフを隣に座るメアリーは背中をさすり甲斐甲斐しく世話をする。

 

「お前なぁ……さらりとそういう事言うなよ、びっくりして変なところに入っちまっただろうが」

 

「これは失礼。ですが教官も良い御歳ですし、収入にしても支障があるわけでもなく、既に交際して一年も経ちますし、そろそろかと思った次第なのですが」

 

「あんなぁ、お前さんみたいに誰もが即断即決ってわけには行かないんだよ。

 こちとら救国の英雄でも何でも無いし、政府や軍の高官ってわけでもない、しがない平民の教官だからなぁ……」

 

 内戦によって貴族勢力が大きく後退したとはいえ、未だ身分制が完全に撤廃されたわけではない*1

 そしてメアリー・アルトハイムは歴としたアルトハイム伯爵家の長女だ。いくら家を継ぐ嫡男が別に存在するとはいえ、平民との結婚等というのは所謂身分違いの恋であり、当然それを認めてもらうには並大抵の苦労ではないだろう。

 

「ふむ、つまりメアリー教官と結婚する意志自体はあるが、メアリー教官は伯爵家のご息女であるのに対してマカロフ教官は平民であるという身分差、それがメアリー教官のご実家に結婚を認めて頂くにあたっての大きな障害となっている、そういう認識でよろしいでしょうか?」

 

「いやまあ……そういう事になるんだが……」

 

 気がつけば何故か猛烈な勢いで退路が塞がれているような状況にマカロフは呻く。

 彼としても別段遊び半分でとかそういうつもりではなかったのだが、何やらもう既に実家にさえ認められれば結婚するという状況になってきてしまっているような状態には一言二言言いたくなってくるというものであった。

 

 

「そういう事ならば、如何でしょうか、教官業務の傍らシュミット博士の助手を務めるつもりはありませんか?

 教官は元々シュミット博士の愛弟子の一人だと聞いています。そんな教官ならば並の人間では務まらない博士の助手も十二分にこなせると思うのですが」

 

「いや、何がどうしてそうなった」

 

 さっぱり因果関係がわからんとマカロフは告げる。

 

「シュミット博士はご存知の通り熾煌翼獅子最高綬章の授与者です。

 そして現在もその意欲は何ら衰える事無く、研究に打ち込んで居られます。

 そんな博士の助手として補佐を行い、国家に貢献する発明の一つや二つも行えば皇帝陛下より勲章を授かる事とて不可能ではないでしょう。

 士官学校の一教官と熾煌翼獅子最高綬章の授与者の愛弟子にして勲章の授与者。

 どちらがご実家からの理解を得やすいのかは明らかというものでは?」

 

 勲章というのは国家によるある種の保証だ。

 この者は国家にこれこれこういう貢献を果たした立派な人物ですよとそう証明を行う。

 当然、それがあるのと無いのでは社会的名声(・・・・・)というものに雲泥の差が出る。

 

「なるほどねぇ……」

 

 そして貴族というのはそうした名誉を重んじる人種だ。

 どこの馬の骨ともわからぬ平民と国家に少なからぬ貢献を果たして皇帝陛下に認められた平民とでは婿に迎え入れるにあたって、その心理的抵抗は大きく変わってくるだろう。

 身の丈に合わぬ高嶺の花を奪い取るのではなく、家族にも祝福された円満の状態で手に入れんとするというのならば、その程度の事をやらなくてはならないとリィンはマカロフに告げているのだ。

 

(腹のくくりどころか)

 

 メアリー・アルトハイムは伯爵家の息女という紛れもない高嶺の花だ。

 そしてそんな高嶺に咲き誇る花を手に入れんと欲するならばそれ相応の労力というものを要するのは必然というものだ。

 

「マカロフ教官……その、余り気に為さらないで下さい。きっとお父様やお母様もちゃんと話せばわかってくださいますから」

 

「確かに話せばわかってくれるかも知れませんがね、わかってもらうための努力っていう奴はしておかなくちゃならないでしょうよ、なにせこちとら向こうさんが大事にしている花を頂く側なんですから」

 

「マカロフさん……」

 

「つーわけで無理にならない程度に頑張って見ることにしますわ。

 リィン、お前さんもありがとな。おかげで踏ん切りってもんがついたぜ」

 

「いえいえ、どうやら要らぬお節介を焼いてしまったようで。

 何にせよ恩師がとんだ玉無しのヘタレではない事がわかって安心していますよ」

 

「我ながら柄じゃないとは思うけどな……ま、俺にも男の意地ってものが多少なりともあったみたいだわ」

 

 惚れた女に釣り合うために努力して高みを目指す。全く以て柄ではないとマカロフは自嘲してしまう。

 おそらく、目前のどこまでも真っ直ぐで雄々しい同僚となった教え子の熱気がらしくもなく伝播してしまったようだと。

 

「しかし、お前さんは大したもんだねぇ。いつだって自信に満ち溢れていて、決める時は即断即決。そしていざ決めたらそれを果たすために全速前進。今や帝国じゃ知らないものは英雄様の上に、プライベートでもおしどり夫婦そのもので充実と来たもんだ。何か悩みの一つや二つ位無いのかよ?」

 

「悩みか……勿論ありますよ、大きなものが一つ」

 

 軽口のつもりで叩いた言葉に思わぬ重々しい様子でリィンは応える。

 

「悩みというのは他でもない、アルティナの事です」

 

「アルティナ……確かお前さんが後見人を務めているⅦ組の生徒だったな。

 入学時の成績も第三位と優秀そのものの」

 

「ええ、そうです」

 

「なんだ、ひょっとしてアレか?所謂反抗期でも迎えたとかそんなアレか?」

 

「いいえ、その逆です。彼女が余りに俺を絶対視しているように思えること、それが目下最大の悩みなんです」

 

 そうしてリィンは訝しがる一行に対して語りだす。

 どうにもアルティナが自分を無謬の完全無欠の存在とでも思っているような事を。

 自分を非難する者に対して過敏なまでに反応する事を。

 

「……というわけで、一体どうすれば良いものかと弱り果てていまして」

 

 語り終えたリィンの様子は育児に迷う新米の父そのものと言った様子で先程までの雄々しき英雄の姿はそこにはなかった。

 如何せん頼りになるドライケルス帝の記憶も即位するまでであり、必然育児の経験等ありもしなかった。

 自分なりに精一杯彼女を導こうとしているのだが、どうにもそれが裏目に出てしまっているというか、自分があがけば足掻くほどに彼女の自分への傾倒ぶりが酷くなってしまっているような現状を前にリィンは若干途方にくれていた。

 

「あーという事なんですが、どうでしょうか教頭、学院長。確か娘さんが居ましたよね?」

 

 そしてそんな教え子からの悩み相談にマカロフは応える事が出来無い。

 当然だ、なにせつい先程結婚を認めてもらうために頑張ってみようという踏ん切りがついたところ。

 育児の経験などあろうはずもなく、必然リィンの悩みに対して返す言葉等持ち合わせていないのだ。

 

「……反抗期が来て悩みだすというのならば、理解も共感も出来るのだがね。反抗期が来ない事に対する悩み等というのは流石に私は味わった事がないね。むしろ、散々娘の反抗期に悩まされた私としては羨ましい位だ。

 可愛く手塩にかけて育った娘にある日より「一緒に洗濯しないで」等と言う謂れなき誹謗に苦しみ、それを乗り越えたと思えば、今度はどこの馬の骨とも知らぬ輩に連れ去られる事になるのが男親の宿命というものだ。

 良いかねリィン君、「お父さんと結婚する!」等と言ってもらえる可愛い時期等本当に人生の内の限られた時間なのだよ!故に、私は君が何をそんなに悩んでいるのか私には理解できない!

 反抗期が中々訪れない?素晴らしい娘さんではないか!羨ましいにも程がある!!!」

 

 ハインリッヒ教頭はそう涙を流さんばかりの勢いで怨嗟の声を挙げる。

 その吐息には多分に酒気が混じっており、頬も赤くなっており、既に彼がしたたかに酔っ払っている事を証明した。

 

「いえ、そうは言いますが、そうした時期は子どもが大人になるために必要な過程というもので……」

 

「ならば大人になどなる必要ないのだ!一生子どものままでいてくれればいい!!!うおおおおおお、何故だアンヌ!あんな馬の骨の一体どこが良かったというのだ!!!小さい頃にはお父さんと結婚してくれると言っていたではないか!!!!!」

 

 そうして普段厳格を以て知られる教頭はそのまま号泣しだす。

 恩師の学生時代は見なかった醜態を前にどこかリィンは居た堪れない思いを抱く。

 そんな空気の中、ゴホンと学院長は軽く空気を入れ替えるように咳払いをして

 

「まあ、教頭の語った内容は些か極端だが、そこまで気にする事はないだろうさ。

 なにせ反抗期等というものはそれこそ親がどれほど望むまいと自然と訪れるものなのだからな。

 心配せずとも、そこまで彼女の事で頭を悩ませている君は立派な親だ。

 一度自分の手から離れて、同年代の友人を作った方が彼女の為になると思い、此処への入学を勧めたようにな。

 ならば案ずる事はない、彼女も学院生活で大きく成長する事だろう。かつて君たちがそうだったようにな」

 

 微笑みながら告げた学院長のその言葉にリィンも安心したように頷く。

 そうして其処からは思い思いに会話を交わし、交流を深めて、深夜の23時に解散となるのであった……

 

 

 おまけ

 

ランディ「いやぁ、なんというかアレだねぇ。少将様だとかそういうのになったつーのよりも何よりも、ああして結婚だの育児だので盛り上がっているところを見ると男として差をつけられた感が半端じゃないねぇ」

 

クロウ「まあ独り身には独り身の楽しみってもんがありまさぁ。つーわけでどうっすかランディさん。再会を祝して今度帝都で俺の行きつけの店に一緒に行くってのは!」

 

ランディ「お、マジかい。いやー話せる同僚を持って嬉しいぜ。そういう事ならさん付けはいらねぇぜクロウ、俺達は対等の“ダチ”なんだからな!」

 

クロウ「そうかい、そんじゃあよろしくなランディ!」

 

ランディ「おう、楽しみにしているぜクロウ!」

*1
長く続けたものを辞めるというのはそれだけで難事であり、急激な変化は混乱を生じる事になるから当然である。




ちなみにもう成人しているのでオズボーン君は仕事後のプライベートの時間でクロウがその手の店に遊びに行くのにとやかく言う気はありません。自分は全く行く気はありませんが。
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