獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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今年最後の更新。
この作品を読んでくださった方、感想をくださった方、お気に入りをしてくださった方、評価してくださった皆様ありがとうございます。
恐らくこれまででも最長となる本作ですが、どうか最後までお付き合いいただければと思います。





自立への一歩(前)

4月下旬、ライノの花も満開を過ぎて花弁を散らす頃。

 名門士官学院に相応しい難解な授業に不慣れな下宿生活にハードな基礎訓練。最初は戸惑うばかりでこなすだけで大半の生徒はへとへととなるハードな生活も徐々にその身に馴染んで来る頃合である。そんなまだ初々しさが残る新入生にとっては初めての自由行動日が翌日に迫っていた……

 

「くー今日も一日お疲れ様でしたー」

 

 快活そのものの様子でユウナ・クロフォードは凝り固まった肉体を解すように、その場で大きく伸びをする。

 

「ユウナさん、少々はしたないですよ?」

 

「ええーいいじゃんこの程度。私は別にミュゼみたいなしとやかなお嬢様ってわけじゃないんだからさ」

 

 互いに交わす会話はどちらも親愛に満ちているものでとげとげしい部分は欠片たりとも存在しない。

 ミュゼ・イーグレットとユウナ・クロフォード、立場も境遇も全く異なる二人であったが、その仲は入学してからの数週間で急速に深まりつつあった。

 

「それにしても自由行動日かぁ……なんというかやっぱりこの学校変わっているわよね」

 

 自由行動日、それは生徒の自主性を高めるために設けられたトールズ独自の取り決めに基づく日だ。

 学生としての本分から外れるような事でなければ、その日は一日中何をしようが生徒の自由、故に自分で最も必要だと思う行動をするべしーーーと要はそういう事だ。

 

「そうですね、確かに士官学校としてはかなり特殊な所だと言えるのでしょう。

 ただある意味では、この上なく厳しいのかもしれません。

 指図される事無く、自分で自分に何が足りないのかを良く考えて、受け身になる事無く自分を律して行動しろとつまりはそう言われているも同然という事なのですから」

 

「そういえばクロウ教官もそんな事言っていたわね。

 日曜学校に通っているガキじゃないんだから、やっていい事と悪い事の判断位は自分でしろって」

 

「はい、それでユウナさんは明日はどんな風に過ごすおつもりなんですか?」

 

「私?私は朝からみっちりラクロス部で青春の汗を流すつもりよ!先輩たちにもその辺しっかり覚悟しておくようにって言われていたしね。そういうミュゼは?」

 

「私は生徒会の一員として住民や生徒から寄せられた”依頼”というものをこなしていく予定です……セドリック様と一緒に♥」

 

 ミュゼのその言葉を聞き、自分の所属する第一般の班長を務める人物へとユウナは視線をやる。

 

「セドリック君、結局生徒会にしたんだ」

 

 セドリックとユウナ・クロフォードは名前で彼の事を呼ぶ。遠慮はそこには存在しない。

 それは彼自身がこの士官学院にいる間は皆と同じ一士官学生として扱ってほしいとそう告げていたからでもあるし、元々皇族に対する畏敬というものが他の者に比べれば薄いからでもあった。

 

「ああ、一応部活は一通りやってみたが、生徒会での経験が一番将来の為になりそうだったからね。

 リィン先生も在学時代は副会長を務めていたと言うしね……」

 

 だからこそ自分もあの雄々しき背中に続くのだとセドリックは確かな決意を滲ませながら告げる。

 

「クルト君はチェス部でアッシュは文芸部だっけ?」

 

 そしてそのままの勢いでユウナはセドリックと談笑していた同じ班のメンバーへと話しかけて行く。

 士官学校では集団行動が基本だ。6人毎に所属する班を割り当てられ、講義中は常にその班で行動する。

 言うなればそれは運命共同体。一人は六人の為に、六人は一人の為に。一人が何かしでかせば他の五人もすべて連帯責任を取らされる事となり、徹底的に規律とチームワークを叩きこまれる。

 そんな状況に置かれれば、必然同じ班の者との親交は深まっていく。---ましてや第一班の面々は入学直後に他の班が受けていない、特殊なカリキュラムも受けているのだから尚更である。

 

「ああ、フェンシング部とどっちにするか迷ったけどどうせなら剣術とは別の事をやった方が良い経験になるとそう教官にもアドバイスされてね」

 

「読み書きってのは出来ておけば何かと便利だからな。無料でその辺学べるっていうんならやらねぇ理由はねぇだろ」

 

 故にユウナからの問いかけに対してクルトとアッシュも友人に対する気やすい態度で応じる。

 そうしてユウナは最後の班員にしてルームメイトの少女の方へと視線を向けて

 

アル(・・)はどう?決まった?」

 

「私は正直余り皆さんのように課外活動というものには余り興味がありませんので、明日は図書館で自習でもしていようかと思っています」

 

「ええーアルってば成長期にそんな風にがり勉していたら、大きくなれないわよ。一度しかない青春なんだしさぁ、もっといろんな事にチャレンジしてみようよ。私と一緒にラクロス部に入って青春の汗を流さない?」

 

「……体を動かす時間自体はきちんと確保していますのでご心配なく。

 前にも言いましたが、首席獲得を目指す身として私には他に労力を割いている余裕がございませんので」

 

 そこでアルティナはじーっとセドリックとクルトの自分よりも席次が上の両名の方を見つめる。

 

「意気込みは買うけど、流石に少々肩の力が入りすぎじゃないかい?

 君のその論理に則ったら首席以外は全員部活動なんて出来なくなってしまう」

 

「セドリックの言う通りだ。一つの物事に囚われるのではなく、広い視野を持って積極果敢に多くの事に挑戦する事を助言してくれたのは他ならないリィン先生だった。単に自習、独りだけで学ぶことができるのならこうして学院に通う必要なんてないじゃないか」

 

「それは……」

 

 そんなアルティナの挑戦に対して二人が返したのはアルティナを気遣う言葉。

 それを前にアルティナは二の句を告げる事が出来ずに押し黙る。

 二人のいう事は最もだ、そうした単なるペーパーテストでは学べぬ”何か”を学ぶためにアルティナ・オライオンはトールズ士官学院へと入学したのだから。

 

「別段、そう難しく考えずとも何をすべきかではなく、アルティナさん自身が何をしたいかを考えればよろしいのではないでしょうか?考えた結果、アルティナさんが心の底からやりたいことが勉強だというのならば、我々にそれを掣肘する権利はありませんけど……」

 

「だけど、てめぇの場合そこまでのアレじゃないだろ。

 そこまでのレベルだったらそれこそセドリックとクルトの奴抜いてお前が首席だっただろうからな。

 てめぇが現状勉強必死にやっているのは全部、てめぇ自身の為っていうよりはあの英雄様に褒められる為にやっているように見えるぜーーー別にそれが悪いってわけじゃねぇけどよ」

 

 好きこそ物の上手なれという言葉があるが、これは一つの真理だ。

 夢中で打ち込む人は常人が”努力”として行う事を”当然”としてこなす。

 そうした者たちにとってはそれが”努力”等ではなく”当たり前”の事なのだ。

 そしてアッシュ・カーバイドの見たところ、目前の銀髪の少女はそこまでの”変態”だとはあいにく思えなかった。

 呼吸をするように努力を積み重ねる”天才”というよりは、そんな”天才”を間近で見続けたが故にそれに続こうとしている”秀才”とそんなところだと予測していた。

 別段それ自体は何ら責められる事ではないーーーというかむしろ賞賛されて然るべきだろう。

 だがどうにも目の前のチビッコの場合はそれが過大であるように”不良”のアッシュからすると見えてしまうのであった。

 

 

「私は……」

 

 告げられていく班員達からの言葉、それに確かな自分への気遣いを感じたからこそアルティナは押し黙る。

 「トールズで多くの人と出会い、軍務に限らず様々な体験を重ねて君自身が何をしたいのか、今一度見つめ直してみると良い。その上でまた自分の副官となってくれるというのなら、そのときは歓迎させてもらう」

 そんな風にトールズに入学する際に彼女の上官にして義兄でもあり、義父でもある存在は言っていた。

 故にこそアルティナとてわかってはいるのだ、単に勉学に励み主席を取れば良いのではないという事位。

 だけど一体何がしたいのか?と問われればアルティナの中にある想いはどうしたって「リィンさんの力になりたい。そしてあの大きくて温かな手で頭を撫でてもらいたい。褒めてもらいたい」というものになってしまう。

 自分自身が何に興味を抱いているかというものが、アルティナ自身良く分かっていないのだ。

 

「ご、ごめんねアル。別に私たちはアルを責めるつもりじゃないんだ。

 ただそうやって自分に”要”、”不要”で物事を考えていたら色々勿体無いよって言いたかっただけで……」

 

 気が付けばすっかりと考え込み出してしまったアルティナを見てユウナは慌てたようにフォローを入れる。

 風呂でのミュゼとの語らい以来、アルティナがその優秀さの裏に年相応ーーー否、年不相応の幼さを有した自分よりも年下の少女なのだという事を意識するようになり、ユウナは余りアルティナに強く出られないようになっていた。

 

「いえ、皆さんのお言葉は最もかと思います。---単に座学にのみ打ち込めば良いというのならば、それこそ自由行動日等というものを学院が設ける意味もないわけですし。

 ……もう少しだけ考えてみる事にします。それでは失礼いたします。皆さんはどうぞお気になさらず」

 

 そうしてアルティナは席を立ち、一行に一礼をしてその場を立ち去って行く。

 

「やれやれ、ありゃあ重症だな」

 

 そんないつもに比べて頼りなさげな背中を見送った後、アッシュはポツリと呟く。

 

「立派すぎる父を持ってしまった事によるある種の弊害というものかもしれませんね。

 自分で自分を律する事は、誰かにああしろと命令されるよりもはるかに大変ですから」

 

「ましてや、パパ大好きっ子のチビにとってみりゃあ尚更だろうな。

 どうよセドリック、同じ英雄様大好き勢のお前だったらなんかいいアドバイスなり思いつくんじゃねぇか?」

 

「そう言われてもね、僕にとってリィン先生は尊敬する師であり、もう一人の義兄のような存在ではあれどそれでも僕の家族というわけではないからね。その辺りが、アルティナ君とは決定的に違うから余り参考にならないと思うよ」

 

 セドリック・ライゼ・アルノールはリィン・オズボーンを師として崇敬しているが、それでも”家族”というわけではない。故に彼の目標はあくまで憧れの背中を追いかける事で自分自身を成長させ、この国の皇太子は兄でも姉でもなく自分なのだと周囲に心の底より認めさせる事だ。「私はあくまで一振りの剣に過ぎません。そして私という剣を振るうお方はこの世に於いてただ一人、神聖にして偉大なるエレボニア帝国皇帝のみです。あくまで自分は殿下がいずれ従えるべき臣下の一人にすぎない事を、どうか心に留め置くようお願い致します」等と彼の崇敬して止まぬ師が嗜めるかのように告げた言葉が示す通り、”灰色の騎士”という”英雄”を御す王の器こそが、セドリックの目指す地平に他ならない。

 

 それに対してアルティナ・オライオンが目指しているのはあくまでリィン・オズボーンの傍で彼を支え続ける事。そうして自慢の部下だと、義妹だと、義娘だと褒めてもらう事こそがアルティナ・オライオンにとっての総てなのだ。リィンを超える等という事は彼女の想像の埒外にある事なのだ。

 

「まあこれもきっと彼女が成長するために必要な”痛み”というものだろう。

 班員として、友人として僕らも出来る限りは支えになるが、それでも彼女自身が乗り越えなければならない事だ」

 

 

・・・

 

 アルティナ・オライオンは悩んでいた。

 悩みと言うのは他でもない、部活動なるものをどうするかである。

 当初アルティナは生徒会へと入る予定だった。

 理由は至って簡単で、彼女が崇敬して止まぬ存在とそのパートナーの在学時代に所属していたのが生徒会だったからだ。

 故に当然のように生徒会に入ろうとした彼女はーーー顧問を務める学院長の「君の尊敬する彼らが所属していたからという理由以外に君自身がそう決めた理由が何かあるかな?」という問いかけに答える事が出来ずにあえなく玉砕した。

 ヴァンダイクとて別に意地悪でそうしたわけではない、別段理由など何でもよかったのだ。

 生徒会活動に興味があるから、自分を高める為、なんなら内申点を上げる為等といった余り賞賛されないような理由だとしても、彼女が自身の意志をそこに示してくれれば。

 だが、彼女の中にあったのはあくまで尊敬する人物達がそうしていたからというもののみ。

 なるほど、これは確かに重症だと合点のいったヴァンダイクに「自分自身の理由」が見つかったら、また来なさいとあえなく却下される事となったのであった。

 

 自分自身の理由、自分自身の意志ーーーそれは一体何なのだろうとアルティナは思い悩む。

 自分はOZシリーズの最終作、どれだけ精巧に作られていようとあくまで道具に過ぎない筈なのだ。

 そんな自分をあの人達は”家族”だと呼んでくれた。だからその”家族”の為に、家族の役に立つために戦おうと思った。

 尊敬する人たちに続こうと思った。だけど、それでは足りないのだと言われた。

 リィン・オズボーンを尊敬して、その背に続こうとしているという点ではセドリック皇太子も自分とさして変わらぬはずだというのに彼は良くて、自分は駄目だった。それは何故なのかとアルティナが考えていると、不意に彼女の持つARCUSⅡがけたたましく鳴りだす。

 

「はい、こちらオライオ「もしもしーアーちゃん?久しぶり―元気してたー?」」

 

 聞こえてくるのは悩みとは無縁のような底抜けの明るい声。

 それに対してアルティナはため息をついて応じる。

 

「誰かと思えばミリアムさんですか、一体何の御用ですか?」

 

「うん、あのさアーちゃん明日って確か自由行動日だったよね?僕の方も非番だから良かったら会えないかなぁって思ってさ。久しぶりにトールズが今どうなったのかも見て見たいし」

 

「構いませんよ。そういう事でしたらトリスタ駅に何時に到着の電車で来るかをまた連絡してください。その時間帯になりましたら自分も駅の方に向かいますので」

 

「本当に?良かった!それじゃあ明日はよろしくね!!!」

 

 通話の切れたARCUSⅡをしまい込み、アルティナは今の自分の行動を疑問に思っていた。

 何故ああもすんなり了承したのかと。アルティナにとって義姉を自称するミリアムは苦手な存在であった。

 「アーちゃん」等という不可解なあだ名で自分の事を呼び、お姉さん風を吹かせてくる彼女と一緒にいるとその間中常にない疲労に襲われる事となる悩みの種だ。

 だというのに、何故自分は今こうもあっさりと応じたのかーーー等と当人としては真面目に考え込んでいるのだが、何の事は無い理由を明かしてしまえば、何だかんだでアルティナはミリアムの事を嫌っておらずむしろ好きだからとなるのだが、当人はその事に気づかない。---あるいは気づいていてもそれを認めるのが気恥ずかしいためにあえて気づかないふりをしているのか。

 

 いずれにせよ決まってしまったものはしょうがないとアルティナは明日の準備をしだす。

 その表情は苦悩によって彩られていた先刻までとは対照的にわずかだが綻んでいた……

 




本校所属に伴い、テニス部所属だった分校生はラクロス部の所属に。
多分OGのエミリー先輩辺りとユウナは相性が良い。

Q生徒会を志望した動機を教えてください

アルティナ「リィンさんとトワさんが在学時代に所属していたからです」
セドリック「生徒間の調停、周辺住民との折衝を行い生徒の纏め役を担う生徒会での活動を通して人の上に立つものにとって必要な力を養う事が出来ると思ったからです」

アルティナちゃんがダメでセドリック殿下がOKだった理由はまあ大体こんな感じの差です。
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