獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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個人的なイメージとしてユーシスはほとんどのステでルーファスに負けているけど、唯一魅力だけはルーファスに勝っているイメージです。
そしてクロスベル総督に就任して猫かぶる必要のなくなったルーファスはバリバリの合理主義者の辣腕家スタイル。有能な奴はバンバン取り立てる。結果も出ているけど恨みも当然買っている。
ユーシスはゆっくり地道にやっていくスタイルで、兄がポイ捨てした人材をリサイクルしている感じ。
これは兄弟の麗しき絆。

色々と考えた結果ティータはちょっと設定変わってます。
具体的にはトールズに留学ではなく、ラインフォルトと技術提携の為にZCFより派遣された秘蔵っ子という立ち位置になっています。
前にトールズに居た部分の描写は幻だと思って下さい。


幕間の物語~Ⅶ組の軌跡①~

 七曜暦1204年、3月31日。

 トールズ士官学院にて入学式が行われているこの日、クロイツェン州最大の貴族たるアルバレア公爵家の城館。

 その一室にてある会談が行われていた。

 

「久しぶりだなラウラ、良く来てくれた」

 

 久方ぶりに会う友人を相手にクロイツェン州領主代行たるユーシス・アルバレアはその表情を綻ばせる。湛えた微笑には普段取引相手に対して浮かべる愛想笑いではなく、心許せる友との再会の喜びが確かに存在した。

 

「他ならぬそなたの頼みとあらば喜んで」

 

 そしてラウラ・S・アルゼイド、一年に及ぶ修練を終えて正式に皆伝へと至った若きアルゼイドの師範代もまた笑みを浮かべて応じる。

 そして両者は共に手を取り合う。互いの間に存在する利害を超えた確かな絆、忘れ得ぬ青春時代を共に過ごした友としてのそれを確かめ合うように。

 そうして席につくとラウラは用意された紅茶を口へと運ぶ。

 用意された陶器も茶葉も当然ながら全て最高品質の物である。

 

「うん、流石はアルバレア公爵家と言うべきか。実に良い紅茶だ」

 

 当然いくら品が良くてもそれを扱う人間の腕が悪ければ、せっかくの品も台無しにしてしまう。

 鼻孔をくすぐる芳しき香り、口に広まる豊潤な味わい。

 いずれも最高級の品を完全に活かしきる淹れた人間の技量あってのことである。

 貴族の権勢というのは、そうした卓越した技量を持つ使用人を抱えているということも含めてなのだ。

 

「そう言って貰えて何よりだ。

 さて出来る事ならこうして久方ぶりにあった友人と憩いの時間を取りたいのは山々だが、生憎と少々立て込んでいてな。早速で悪いが、本題へと入らせて貰いたい」

 

「なんでも、兵の鍛錬を頼みたいという事だったが……」

 

「ああ、お前も知っているとは思うが、現在我ら貴族は苦境にある」

 

 言葉と共に深々としたため息をユーシスは吐き出す。

 その言葉には疲労の色が色濃く浮かんでおり、彼が背負ってきたものの重さがうかがい知れるものであった。

 

「《十月戦役》における大逆犯クロワール・ド・カイエンと己が領地たるケルディックを焼き討ちにするという我が父ヘルムートの暴挙によって帝国における貴族及び各地に存在する領邦軍の信頼は地に落ちた。そのため我らは帝国政府より要求された領邦軍の大規模な縮小を呑まざるを得なかったーーー領邦軍の双璧たるウォレス将軍とオーレリア将軍の活躍によって完全な解体はどうにか免れたがな」

 

 アルフィン皇女の下で皇帝と皇妃、そして皇太子を救出した正規軍が脚光を浴びるのとは対照的に内戦後の領邦軍は完全な日陰者となった。特に守るべきはずの領地を焼いたクロイツェン領邦軍の人気は地の底とにまで落ちたと言って良い。

 

「それ自体は止む得ぬ事ではある。我ら貴族はーーーアルバレア公爵家はそれだけの事をしでかしたのだからな。

 だが、それでも課せられた義務を果たすためには最低限の“力”は必要となってくる。それはお前もよく分かるだろう?」

 

「ああ、無論だとも」

 

 当然ながらゼムリア大陸に生きているのは人間だけではない。

 様々な動植物が存在し、その中には“魔獣”と呼ばれる人類に仇なす害獣が生息している。

 なればこそ、それらから民を守るための力が統治者にはどうしても必要なのだ。

 そうでなければまたたく間に街道には魔獣が溢れ返り、流通は途絶え、またたくまに都市は衰退してゆくのだから。

 

「そして“正義”無き“力”はただの暴力だ。かつての領邦軍にはそれが無かった。

 失った民からの信頼を取り戻すためには、それを残された者達に齎さなければならない。

 そのためにラウラ、お前の力を俺に貸して欲しい」

 

 そうしてユーシスは学友としての顔からクロイツェン領主代行としての公人の顔へと切り替えて

 

「ヴィクター・S・アルゼイド子爵が令嬢にしてアルゼイド流師範代ラウラ・S・アルゼイド殿にクロイツェン州領主代行たるユーシス・アルバレアが願い出る。

 我がクロイツェン領邦軍の兵士達に貴殿の剣と誇りを授けて頂きたい。そのために統合地方軍クロイツェン地方軍武術師範の地位を貴殿には用意させてもらった。ーーーどうか、引き受けていただけないだろうか」

 

 そうしてユーシスは真摯に頭を下げる。

 その光景にラウラは目を丸くする、そこまで長い付き合いというわけではないがそれでも青春時代を共に過ごした身として眼前の友の誇り高さをラウラは良く知っている。

 

「他ならぬそなたの頼みとあらば、その願い聞き届ける事決して吝かではない。

 だが良いのか?皆伝を授かったとは言え、未だ私は父上には遠く及ばぬ。

 睨みを利かせて、重しとなるには些かに役者不足だと思うのだが……」

 

「謙遜だな。アルゼイド流の皆伝へと至ったお前で駄目だと言うのなら、ふさわしい役者など帝国でも両手の指で足りる数しか居なくなってしまう」

 

 何もユーシスがラウラに今回のような頼みをしたのは、旧友であるからという理由ではないーーー無論、共に過ごしてその人格に信が置けると判断したからというのも要因の一つではあるが。

 ラウラ・S・アルゼイドは若くしてアルゼイド流皆伝へと至った“天才”だ。

 それもその才に奢った傲慢な天才ではなく、柔軟でどこまでもひたむきで努力を惜しまぬ本物の。

 そして彼女の父たるヴィクター・S・アルゼイドもまた娘だからという理由で力量不足にも関わらず皆伝を授けるような男ではない。

 そうユーシスは認識しているし、実際にそれは正しい。

 

「それに役者を問題にするというのならば、それは俺とて同じ事だ。未だ俺は兄上には遠く及ばない」

 

 吐き出した言葉の中には疲労が色濃く出ており、この一年の間に彼が味わった辛酸の程が伺い知れるものであった。

 

「その上で偉そうに言わせてもらうならな、最初から完璧にその役をこなせる“天才”等世にはそう多くは居ない。

 誰もが無様に地を這いつくばって血反吐を吐きながら足掻き、そうしている間に何時しか纏う衣服はその身に合うようになるものだ」

 

 この一年間投獄された父、そして守るべき領地と領民を放り捨てて、選りすぐりの人材を引き連れてクロスベル総督となってしまった兄に代わって、領主の役目を引き受ける事となったユーシスはひたすら足掻き続けた。

 

 内戦の責任を取るとして当主となったルーファスが皇室と国庫にその資産を献上したことで、家の財政状況が苦境となった中でも決して人員の削減という安易な手段によるコストカットには走らなかった。

 「人こそが何者にも代えがたい財産である」そう言って、公爵家に長らく仕えて来た者たちをーーー兄にして現当主ルーファス・アルバレアにクロスベルにわざわざ連れて行く程の人材ではないと見なされた決して有能とは言い難い人物たちでも見捨てる事はしなかったのだ。

 これは単に情に絆された結果ではなく、領主代行としての冷静な計算もその根底には当然存在した。

 世の中に於いて人材の育成こそが最も時間とコストのかかる貴重なものである。

 ならばこそ一時の苦境で人材を手放してしまう事は避けるべきであり、更に言えばそうして代々仕えてきた者を手放してしまえばより一層アルバレア家の凋落が色濃く映ってしまう事だろう。

 貴族というのは苦境の時こそ見栄をはらねばならぬのだ。困窮する貴族に資本家の類いが媚びる事は決してない。彼らが媚びるのは強き者。

 窮地にあっても尚「アルバレア公爵家は此処にある。決してこのままでは終わらない」と思わせてこそ援助を引き出す事も出来るし、いざという時に頭を下げる(・・・・・)効果が生まれるのだ。

 安い頭を下げられたところで人は価値を見出さない、傲然と高くそびえ立つ頭が下げられた時にこそ、人は大いに心をくすぐられるのだ。

 そうしてユーシスはあちこちを駆けずり回り、自身を平民の妾腹と侮るクロイツェン貴族らを相手取りながらも必死に領主代行の役目を果たしてきた。

 辛酸を舐めた事は数え知れない、頭の固い分からず屋共を屈服させたいと思ったことも一度や二度ではない。

 だが、それでもユーシスは短気を起こすこと無く粘り強く職務に取り組んできた。

 その甲斐あってと言うべきか、ユーシス・アルバレアは大きく成長した。

 それは窮地に立たされた事で傍流とは言えど流れる調停者の血が目覚めたのか、貴族として、領主として、政治家として一人前と足るだけの器量を身につけたのだ。

 

 だが、それでも未だ兄たるルーファス・アルバレアの背中は遠い。

 ユーシス・アルバレアが一人前の政治家にして貴族だというのならば、ルーファス・アルバレアは超一流の政治家なのだから。

 兄ならばもっと上手くやれたのではないか?そんな思いを抱えながら、ユーシス・アルバレアはこの一年間足掻き、もがき続けてきたのだ。

 それでも自分は大きく成長したという自負がユーシスには存在する。そしてそれは背負った責務を果たさんと足掻いた結果だ。

 

「俺だけではない、おそらくこの記事に写っている人物とてそうだろうさ」

 

「これは……」

 

 そうしてユーシスは微笑を浮かべながら帝国時報を差し出して来る。

 差し出された記事にはラウラも良く知る人物が、友達が写っていた。

 変わらないーーー否、在学時代よりも更に美しく成長したその友人の姿にラウラの表情にも自然と笑顔が浮かぶ。

 

「そうか、アリサもどうやら元気にやっているようだな」

 

 写真には2人の共通の友人たる人物、意地っ張りだがそれでも優しさと思いやりに満ちていた少女、アリサ・ラインフォルトの姿が写っていた。

 

「ああ、随分と活躍しているようだ。よもやリベールのZCFとの提携とはな」

 

 記事の内容、それはラインフォルトの新部門を立ち上げたアリサがリベール王国に存在するZCF*1技術の平和利用(・・・・・・・)のみに使用を留めるという条件にて共同開発の約束を取り付けた事が記事で書かれていた。

 「祖国を守護する軍の方々を侮辱する意図は一切ございません。ですが、私は技術というのはあくまでも人を幸せにするためにこそ存在するのだと考えています。皆様の生活に寄与する為の製品を作って行きたいと思っていますのでよろしくお願いいたします」と随分と愛想の良い笑顔を浮かべながらコメントしている旧友の姿がそこには写っていた。

 

「第5開発室室長か……」

 

「あのイリーナ殿がよもや愛娘への情によってという事もあるまい、こうして笑顔で今挨拶出来る様になるまでの間にどれほどあいつが辛酸を味わったか推して知るべし、というものだろう」

 

 冷徹そのものの様子で採算を取れる見込みはあるのか等と一切の容赦なく指摘してくるイリーナ氏とそれに必死に食い下がるアリサの姿、それを思い浮かべてラウラは苦笑いを浮かべる。

 

「わかっただろう、立場に見合うように人は成長していくものだ。

 だからこそ今、もしも自分には務まらない等と思ったとしても臆する事はない。

 きっと一年後のラウラ・S・アルゼイドには務まっている、そう俺は信じている。

 むしろ名高きアルゼイドの伝承者にとっては“役”の方が不足しているのではないかと心配しているところだよ」

 

「ーーーわかった。そこまで言われては断れぬな。

 非才の身ではあるが、期待に応えられるよう精一杯務めさせてもらうとしよう」

 

「感謝する」

 

 そうして2人は笑顔と共に手を握り合う。

 こうしてラウラ・S・アルゼイドのクロイツェン地方軍武術師範への就任が決まったのであった……

 

・・・

 

「それでは、お世話になりました」

 

 そう礼の言葉と共にペコリと丁重に一礼をしてジョルジュはその工房を跡にする。

 各地の技術工房を巡る事一年、ジョルジュ・ノームは着実にその腕を伸ばしていた。

 帝国と緊張関係にある共和国には流石に行く事は出来なかったが、それ相応の成果は得られたと言っていい。

 

(そろそろ、帝国に戻るべきなのかな)

 

 自分に充てられた在学時代後輩であったアリサ・ラインフォルトからの手紙。

 それを読み終えたジョルジュはふとそんな事を思う。

 手紙の内容、それは要はジョルジュを第5開発部に迎え入れたいという内容であり、契約にあたっての条件も事細かに記されていた。

 正直に言えば、それはジョルジュ・ノームにとっても渡りに船ではあった。

 “国”の別なく、技術を人々を幸せにするために使うこと、それがジョルジュの夢であり、かつて恩師であったシュミット博士に付いて行く事が出来ずに袂を分かった原因だったのだから。

 だが技術の発展が“戦い”と共にあったことも事実、それ故に“力”というものの本質を学ぶためにもジョルジュはトールズ士官学院へと入学したのだから。 

 ノーザンブリアの塩害除去プロジェクト、それはまさしく技術者冥利に尽きるというべき難題であった。

 用意された報酬や待遇も流石はラインフォルトと称すべきもので、文句のつけようはない。

 やりがちという点でも待遇という点でも、これ以上の仕事というのはそうそうめぐりあう事は出来ないだろう。

 

(うん、そうだね。なにせ可愛い後輩の頼みでもあるわけだし」

 

 決して追伸に書かれていた「アンゼリカ先輩はログナー侯爵としてしょっちゅう見合いの話が持ち込まれているようですよ」等という文面が気になったというわけではない。

 自分はただ可愛い後輩からの頼みを聞こうというだけの話だ。

 そんな風にジョルジュが自分を誤魔化しながらもルーレへと向かう身支度をしていると……

 

「ああ、悪いがそれは待ってもらいたい。

 君にやってもらいたい事は別にあるのだよ」

 

 突如として自分以外誰も居なかったはずの宿の一室に知らないはずの、されど既視感(・・・)を覚える一人の人物が立っていた。

 物盗りかなにかかとジョルジュは身構える、しかしそんなジョルジュの様子などその人物はまるで意に介さずに……

 

「技術の平和利用……か。随分と青臭くて夢見がちな事だ。

 技術というものが“争い”と切っても切り離せぬ事、そんな事は我々技術者にとっては周知の事実だろうに」

 

 告げられたのは、そんな自分の夢を心底呆れ果てたように侮蔑する言葉。

 それを聞いて温厚なジョルジュも流石にカチンと来る。

 

「確かに人類の歴史は戦いの歴史だったかも知れない。

 そのために技術が用いられた事は事実だろう。

 だけど、そうした争いの中で手を伸ばし続けていた人が居た事だって事実だ!

 今まではそうだったとしても、これからもそうだとは限らない!

 技術というのは誰かを幸せにするためにこそ存在するんだ!」

 

 素晴らしい夢だと微笑みながら応援してくれた大切なかけがえのない四人の友人、それを思い浮かべながらジョルジュは目前の人物へと食って掛かる。この夢を嗤われるのはすなわち、応援してくれた四人をも侮辱する事も同然なのだと憤りと共に。

 

「そうかね。だが、そのような“夢”は君には不要だ。

 目覚めたまえ(・・・・・・)ゲオルグ(・・・・)

 

 パチンと指を鳴らす音が響く。

 そしてその瞬間、ジョルジュ・ノームの意識は闇へと呑まれたーーー

 

 

*1
導力先進国たるリベール王国でもトップの技術力を誇る導力器メーカー。エプスタインの三高弟の一人たるアルバート・ラッセル博士が所属している




ジョルジュ・ノーム:技術は人を平和にするためにこそ存在すると心の底から信じている優しくて夢見がちな青年。このため技術の使い道なんて使う側が決めることだワシは知らんというスタンスのシュミット博士と相容れずに喧嘩別れした弟子3号。

なおそんな心優しいジョルジュ君は……
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