リィン将軍は無双ゲーをやっています。
ちなみにルーファス総督と灰色の騎士の組み合わせは帝国淑女的に蒼の騎士と灰色の騎士に次ぐ人気がある組み合わせです。
「総員!奮励せよ!!!此処を落とさねば我らに後は無いのだ!!!」
逼迫した声で共和国軍総司令官アルバート・スミス大将の叱咤が共和国軍に響く。
そして総司令官からの号令により一斉砲火が帝国軍を襲う。
「総員、己に課せられた責務を果たしたまえ。己が分を超えた働きを私は諸君に要求しない。
私が諸君に望むのはただ一つ。己の職分をいつも通り果たして欲しいということだ。そうすれば勝利は自ずと我らの側へと傾く。
案ずる事はない、勝敗を決するのは戦略、すなわちこれまでの準備だ。そして勝つための算段は既に整っている。恐れる必要は何一つとして存在しない」
どこでも優美な、動揺等というものが欠片たりとも存在しない落ち着いた声が帝国軍へと響く。
それは前線で戦う将兵へと確かな信頼を齎す。総司令官の威令が隅々まで行き届いた盤石さで帝国軍は悠然と共和国軍を迎え撃つ。
七耀暦 1206年6月10日
第三次クロスベル戦役と謳われる事となる帝国最東端に位置するタングラム要塞を巡った攻防はかくの如く始まった。
何故このような戦いが始まったのか。
それは帝国の最東端、タングラム要塞へと取り付けられた二門の新型列車砲に端を発する。
かつてガレリア要塞へと取り付けられていたそれを上回る射程と威力を持つその二門の大砲は共和国西端に位置する大都市アルタイル市にまで届くものであったのだ。
当然、共和国政府は帝国政府へと厳重な抗議を行った、「帝国の行いは明らかな示威行為であり、国民の恐怖を煽り国際秩序を乱す蛮行である。直ちに取り付けられた二門の列車砲を取り外すべしーーーーと。しかし、これに対して帝国政府は「自衛のための措置」として前年の共和国のノルド高原への侵犯行為を引き合いに一切の妥協を拒絶。
加速度的に緊張が高まる中、ついにマッケンジー政権はタングラム要塞の攻略を軍へと発令。それに対抗するべく戦力をタングラム要塞へと集結させていたルーファス・アルバレア総督率いる、クロスベル総督軍と此処に激突を果たすのであった。
当然帝国側とて手をこまねいて眺めているはずもない。
ガレリア要塞司令官オーラフ・クレイグ大将率いる帝国正規軍東部方面軍への動員命令を下す。
そしてそれに先行する形で帝国政府よりの要請を受けた、リィン・オズボーン少将率いる帝国最強との呼声高き部隊、光翼獅子機兵団が彼の“盟友”たるルーファス総督の危機を救うべく駆けつけるのであった……
・・・
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「どうしたよ、そんな顔して。らしくねぇんじゃねぇの?」
カリキュラムが終わった放課後、アッシュ・カーバイドはそうらしくもなく沈痛な表情を浮かべる班員にして級友たるユウナ・クロフォードへと語りかける。その言葉に我に帰ったように周囲をキョロキョロと見渡すとそこには自分を心配そうに見守る友人たちの姿がある事に気付き、ユウナは罰が悪いような表情を浮かべる。
「ご、ごめん心配かけちゃったかな?」
「別に心配なんぞしてねぇよ、ただらしくねぇって言っただけだ」
「アッシュさん、それを一般的には心配すると言うんだと思いますよ」
クスクスと上品に笑いながらそうミュゼは殊更ぶっきらぼうに振る舞うアッシュを誂うように応じる。
「ああ、全くだ。素直に心配だと言えば良いものを」
「いやいやクルト、これで良いんだよ。そんな素直なアッシュだなんて気持ち悪いじゃないか」
「……それはまあ確かにそうだな。そんならしくない行動をされたら確かに困る」
「だろう?そんな事をされた日には雨降りの心配をしなければならなくなる。今日僕は傘を持ってきていないんだから、そんな事になったら困ってしまうよ」
「てめぇら……」
仲のいい様子で漫才を始めた男子たちにユウナの顔に自然と笑みが浮かぶ。
入学してから既に二つ月が経過、目前の男子三人は同じ部屋なのも合間ってすっかり打ち解けたようだ。
「心配する必要はありませんよ、ユウナさん。
クロスベルには既にリィン将軍が向かわれたのですから。
共和国の勝機はその時点で潰えました。
ユウナさんのご家族やご友人にまで被害が及ぶような事はまずないでしょう」
そう、ユウナ自身もこの2ヶ月の間に打ち解けた同室の少女アルティナは確信と共に宣言する。
「そうだね、迎撃の指揮を取るルーファス総督にしても援軍に向かわれたクレイグ大将にしても帝国の誇る名将だ。遅れを取ることはまず無いだろうさ」
「ああ、だから心配する必要はないさ。今までと同様今回の戦いも
そのアルティナの言葉にセドリックとクルト、英雄からの薫陶を受けた二人の愛弟子も応じていく。
最前線となるクロスベル出身のユウナに対して友人として、
その言葉にユウナは有り難さと共に、どこか割り切れない思いを抱く。
改めて自分はもはやクロスベル自治州の人間ではなく、帝国領クロスベル州出身の
「ま、確かにあの野郎が騎神なんてチートまで使うんだ。共和国の連中にとっちゃ反則も良いところだろうよ」
アッシュの言葉もまたぶっきらぼうながらもその中にはユウナへの気遣いが存在する。
要はまず負ける事はないのだから、ユウナの故郷であるクロスベルにまで被害が及ぶような事はなく、安心だとそう言っているのだ。
「はい、リィン将軍はエレボニア帝国の誇る至宝です。
勝利を必ず掴む以上、我々がすべき事はその凱旋を讃えながら迎えるだけです。
ですので、心配する必要は何らございません。未熟な我々は遠くの事よりも自分自身の事を考えるべきでしょう。
ーーーユウナさん、ノートが真っ白のようですが今日の講義の内容はちゃんと聞かれていましたか?」
「へ?あああああああああああ」
その言葉にユウナ・クロフォードは愕然とした表情を浮かべながら必死に今日受けた講義の内容を思い出そうとする。しかし、記憶を辿ってみてもどこかボンヤリとしたものとなっている。クロスベルの事が心配で、どこか上の空になっていたことをユウナはそれで悟る。
「ううううう、ミュゼ~~~」
流石に自分よりも年下のアルティナに縋るというのは情けなさ故に躊躇したのか、そうユウナは席次上位に位置する優等生の友人へと縋り付く。
「はいはい、生徒会での活動が終わりましたら今日の夜にでもノートを見せてあげますから」
「ありがとう!!」
女神様聖女様ミュゼ様とでも言わんばかりの勢いで苦笑する友人へとユウナは拝み倒す。
何せ本日ユウナが上の空で聞いていた午後の講義はハインリッヒ教頭による政治と経済。
講義の中で疑問点があったというのならばともかく、講義を聞いてなかった等と言った日にはそれはもう嫌味の限りを尽くされる事は目に見えていた。
そしてトールズ士官学院は帝国最大の名門校。そのカリキュラムは非常に高度かつ濃密で一つ分の講義の記憶が丸々抜け落ちた等という事にでもなれば、席次一桁の秀才や天才達はともかく“凡才”のユウナの試験での結果がどうなるか等というのは推して知るべしというものであった。
「まあ冷たいようだけど、此処で僕たちが心配していたとしてもどうなるわけでもないんだ。だったら僕たちがすべきことは学生の本分を立派に果たして早く一人前になる事じゃないかな」
「セドリックの言う通りだ、今はただ前線で戦っている教官達の事を信じよう」
告げられた友人たちからの気遣いの籠もった言葉、それにユウナ・クロフォードは有り難さと同時に割り切れない感情を抱きながら曖昧に笑うのであった……
・・・
七耀暦 1206年6月20日
タングラム要塞を巡る攻防で共和国側は劣勢へと立たされていた。
共和国の今回の戦いの目的、それは兎にも角にもタングラム要塞に取り付けられた二門の列車砲の破壊にある。
共和国最西端の都市アルタイル市を照準に収めるそれは、共和国人にとっては悪夢というほかない。
当然のように世論は沸騰して、それに突き動かされる形で今回の出兵が決まったわけなのだが、共和国人にとっては不愉快極まる事実としてかつて対等の敵手であったエレボニア帝国は既に共和国一国では抗しきれ得ぬ“超大国”となりつつある。
内乱によって貴族勢力が後退した帝国は稀代の名宰相たるギリアス・オズボーンの下改革が推し進められている。
無論改革を勧めるには権力だけあればいいというものではない、世の中を動かすのは“金”である以上政治を行うには莫大な金が必要となってくるし、金があったとしてもそれで働く“人”が居なければどうにもならない。
しかし、エレボニア帝国はクロスベルという金の卵を産む鶏を手中に収め、更にはノーザンブリアという人手の新たなる供給源双方を手に入れた。これによってまさに帝国は黄金時代というほかない、繁栄の真っ只中にある。
翻ってカルバード共和国はどうか?サミュエル・ロックスミスが大統領から退いた事で首班の座についたジョージ・マッケンジーはあっさりと行き詰まった。政権だけではない軍部もまた融和派の重鎮ローザス元帥が戦死した事で、派閥毎の争いが絶えぬようになった。今の共和国軍は第二次クロスベル戦役の時よりも明らかに弱い。
ルーファス・アルバレアが語ったようにこの戦いはそもそも戦略段階で共和国が遅れを取っているのだ。
だからといって勝ち目がないので撤退しましょう等と簡単には言えぬ事情が共和国にとてある。
なんとしても共和国市民を脅かす悪逆なる悪魔の雷を取り除かんと、要塞に対して苛烈な攻撃を加えた。
しかし、それらは総て迎撃軍の司令官を務めるルーファス・アルバレアの巧緻極まる指揮の前に尽く跳ね返された。
共和国の頭痛の種はそれだけではない、リィン・オズボーンーーー共和国にとってはもはや悪魔と同義語となった人物率いる光翼獅子機兵団は、その新時代の兵種たる機甲兵の機動性と地形の走破性をを十全に活かし、共和国軍が全く予期できなかった地点から奇襲を仕掛けて共和国軍に出血を強いた。
ルーファス・アルバレアとリィン・オズボーン、帝国の若き双璧*1と謳われるこの両名はまさに共和国にとっては二体の悪魔も同然であった。しかし、それでも共和国軍にも意地がある。兎にも角にも、タングラム要塞に存在する列車砲だけはなんとしても破壊しなければならない、それこそが此度の戦いの原因だったのだから。
そしてその攻略は急がなければならない、何せ帝国随一の猛将との呼声高きオーラフ・クレイグ大将が精鋭たる機甲師団を率いてタングラム要塞に向かっているとの情報があるのだから。そうして焦った共和国軍総司令官はアルタイル要塞に駐屯していた予備戦力をも戦線へと投入するのであった。
翡翠の城将と灰色の騎士、帝国の二体の悪魔がその時をこそ待っていたという事を知らぬままに……
アルティナちゃん、クルト、セドリック殿下は心からユウナの事を同じ帝国の同胞であり共に国を守る同志だと思っています。