獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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アラン君は原作だと第四だったけど、今作では光翼獅子機兵団へ。
所属部隊が名門伯爵家の次男であるアウグスト中佐が隊長やっているところなので
原作よりもブリジットの両親の風当たりは若干弱めになっています。


幕間の物語~ある光翼獅子機兵団隊員の憂鬱~

 光翼獅子機兵団。それはエレボニア帝国に於いて最精鋭が集う最強部隊として諸外国からは畏怖を、そして国内からは畏敬を払われる花形部隊である。

 そこに集うのはまさしくエレボニアの誇る精鋭ばかりである、しかしそんな集団に於いても当然一部の例外というのは存在する。

 

(ああ、なんで俺はこんなところに居るんだろう……)

 

 彼の名はアルフレッド・リンザー中尉。

 栄光ある皇帝直属の特務部隊《光翼獅子機兵団》、その第三連隊白虎に所属する士官である。

 彼の軍歴は一兵卒から始まってかれこれ12年経つ。

 15歳に領邦軍へと志願してから大過なく任をこなし、9年かけてそこそこの功績を立てて軍曹まで昇進、更には内戦の折機甲兵への高い適性を買われて新型機甲兵ゴライアスのパイロットとなると特例措置で准尉まで昇進。

 士官としての即席教育を施され、クロスベル戦役ではかの黄金の羅刹の下でそれなりの武勲を挙げ少尉へと昇進。

 そしてその実力を買われてついには領邦軍と正規軍の別なく、帝国最精鋭を集めたと評判のこの部隊へと配属され、この一年の間に少なくない功績を挙げて中尉となった士官学校を出ていない叩き上げとしてはかなりの出世頭である。

 しかし、そんな彼の表情は覇気に満ちた周囲とは異なり、浮かないものであった。

 

(皇帝直属の特務部隊ってなんだよ!俺は出世なんか出来なくても良いから、程々に暮らせればそれでよかったのによぉ!)

 

 ケチのつき始めたのは機甲兵とかいう新兵器、その新型に対してよりにもよって極めて高い適性とやらを示してしまったからだ。

 それで化物みたいな英雄様にあっさりと端役として一蹴されて、奇特な英雄様の大変有り難い御慈悲によって命を拾ったと喜んだのも束の間。

 内戦終了直後にクロスベルでの戦いへと駆り出されて、死にたくないから必死こいて戦えば(ちなみに件の英雄様は単騎で共和国軍をボコボコにしていた。つくづく化物である)今度はその功績とやらを買われてこの部隊へと配属される有様。

 なんなのだコレは。一体何がどうしてこうなったのだ、自分は今周囲で燃えている同僚達とは違い別に英雄になどなりたくなかった。ただそこそこ幸福な人生を送れればそれで良かったというのに……!

 

 そうアルフレッド・リンザーは現実逃避気味に考える。

 確かに待遇が良いことは認めよう、飯は美味いし、兵舎は清潔で快適だ。酒や賭博と言った夜遊びにしてもそれなりに多目に見てくれる。給料も目に見えて良くなったし、街を制服を来て歩けばそれだけでチヤホヤされる*1、上官だって領邦軍時代のカスみたいな奴とは比べるのもおこがましい位に有能で部下思いだ。「貴様の如き平民風情が~」等と抜かしやがっていたお貴族様とは違い、伯爵家の次男坊だとは思えない豪快な笑いを浮かべながら「困ったことがあれば何でも相談するが良い!」等と気さくに話しかけてくれる。熱苦しくて若干辟易する部分はあるが、それでも今まで接してきた上官の中では間違いなく最上位に位置するだろう。

 しかし、当然世の中というのは何もしない者がそのような待遇を受けられるわけではない*2、良い待遇を得るには当然それに見合った働きというものが求められる。

 まず配属されていきなり西部で複数の猟兵団を相手したこと、これはまあ別に良い。情報戦ですっかり丸裸状態だった敵をあの化物のような英雄様が直々に指揮していたのだ、正直負ける気がしなかった。

 そしてそれからすぐ後に起こった北方戦役ーーーこれもまあ別にいい。戦役だ等と言われてはいるが、正直敵のボロボロ状態を思えば負けるはずもない戦いだったし、ノーザンブリアが寒くて過ごし辛いのを除けば、そう大した事はない任務だった。

 その後に行われたノルド高原での会戦ーーーこれはキツかった。当然のような顔で倍の敵にぶつかってそれの中央突破を敢行する司令官も、それに意気揚々とした顔で付いていく仲間もとんだイカレ野郎にしか善良なる小市民のリンザーには思えなかった。

 必死に付いていかなければ死ぬだけなので、必死に付いていったわけなのだが、もうあんな思い二度と御免だとそう思っていた。

 

 そう、思っていたのだ。だというのにーーー

 

「新型ブースター使って敵の要塞攻略してこいってなんなんだよ……」

 

 告げられた作戦それは総司令官閣下率いる紅き翼と直轄部隊、それがこれみよがしに囮となって敵の注意を引きつけている間に、副司令官率いる第ニ、自分の所属する第三、遊撃部隊である特別顧問たる黄金の羅刹が、シュミット博士らが開発した新装備のブースターを使って、一挙に敵の戦線を突破。手薄となった敵の要塞を占拠するというものであった。

 栄誉と誇りに満ちて沸き立つ周囲とは裏腹にリンザーに去来したのは、イカン今度こそ死んでしまう。そんな思いだ。だが、そんな風にビビっているのは自分位で周囲はと言えば……

 

「流石は将軍閣下だ。共和国の奴らの慌てふためく顔が目に浮かぶようだぜ」

「ああ、しかも一番危険な囮役を引き受けて、ガラガラになった要塞の攻略なんて楽な方をこっちに回して下さるなんて本当に気前の良い方だぜ」

 

 等と乗り気な意見ばかり。

 いや、待てお前らなんでそんなにやる気満々なんだとリンザーとしては言いたくてしょうがなかった。

 

(やっぱ向いてねぇのかもなぁ……俺)

 

 どうにもこの部隊に居ると自分が浮いているというのを実感せざるを得ない。

 

(でもなぁ……給料もいいし、制服来てるとちやほやされて気分いいし、別の部隊に行ったところで今よりも良いところに巡り会えるとは限らねぇし……)

 

 そんな風に俗人らしい欲がいっそ別の部隊へ行くという決断に踏み切らせない。

 結局いつものように心の中でボヤきながらも、準備を進めていると如何にも緊張していますと言った感じのこの春入隊したばかりの新兵が目に映って……

 

「よう、アラン(・・・)。あんまり気負いすぎんじゃねぇぞ」

 

 ひとまず上官として初陣の部下の緊張をリンザーはほぐしにかかるのであった。

 

「リンザー小隊長……でも、俺はなんとしてもこの戦いで武勲を挙げないとならないんです」

 

 そんなリンザーに対してこの春入隊したばかりの新米士官であるアラン准尉は如何にも気合入ってますと言わんばかりの緊張した面持ちで答える。

 

「あー前に言っていた、恋人の実家関連の話か?」

 

「そうです、なんとか婚約は認めてもらえましたけど、どうにも彼女の両親は俺が平民だからって事でどうにも反応が芳しく無くて……」

 

 彼らにとっては娘である婚約者の熱意に負けて、渋々といった様子でため息混じりに認めてくれた恋人の両親の姿をアランは思い起こす。

 「気にしないで。きっと父様も母様もわかってくれるわ」そう、恋人(ブリジット)は言ってくれたが、気にしない方がアランにとっては無理というものだった。

 

「だから、俺にとってはこれはチャンス(・・・・)なんです」

 

 だからついに巡ってきた初陣に於いて、アランはこの上なく張り切っていた。此処で武勲の一つや二つ挙げて、勲章を手に入れて、所属する部隊の隊長にしてラマール貴族の名門フェルデンツ伯爵家の人間であるフェルデンツ中佐の口添えでも貰えれば、きっと貴族である恋人の両親も渋々ではなく快く認めてくれるはずだと。

 無謀と紙一重の若さ故の情熱をその身に燃やして。

 

「意気込みは買うけどな。そんな風に欲かいているとーーーお前、死ぬぞ」

 

「ーーーーーーーーーーーー」

 

 それまでの気怠げな様子とは裏腹のどこか冷たく、されど真剣な上官からの言葉。

 それを聞いてアランは冷水をかけられたかのように黙る。

 

「俺はな、これでも一応いくつか戦場を潜り抜けてきた。

 当然死んだ奴らも何人も見てきたわけなんだが……どういうわけか、お前みたいに血気盛んな英雄志願者ってのは大体の場合で死んじまうんだわ」

 

 祖国の為。皇帝陛下の御為。そんな事を意気揚々と叫んでいた麗しき英雄志願者たち。

 そういう人間があっさりと散っていく様をリンザーは何度もこの目で見た。

 戦いの基本は相手より多くの数を揃える事にある。

 しかし、そうした英雄志願者というのは往々にしてその数の優位を捨てて個人プレイに走りがちだ。

 彼らは勇敢だから(・・・・・)、それゆえに前に出すぎてしまう。

 そして突出したところをあっさりと討ち取られる、それが定めだ。

 そのまま先頭を突っ走り、味方を鼓舞しながら敵陣を突破する。

 そんな真似が出来るのは極一部(・・・)の本物の怪物*3のみだ。

 

「まあ、もちろん中には司令官閣下のような極一部の例外も居るわけなんだが……お前、虚勢じゃなくて本気であんな風に自分がなれると思うか?」

 

「それは……」

 

 そう言われれば、アランとしては押し黙るしか無い。

 彼とて名門トールズ士官学院を卒業して、この部隊に入隊した者としてそれなりのプライドというものはある。

 だが、司令官たるリィン将軍のようになれるか?と問われてなれると頷ける程さすがに面の皮は厚くない。アレは文字通りの“別格”と言う他ないだろう。

 

「そんなわけでだ、あんまり気張りすぎるんじゃねぇよルーキー。

 初陣なんてのはまずは生き残る事だけ考えておけ、そうすりゃなんだかんだでお前さんなら俺みたいな小物をあっという間に追い越して出世していくさ、なんたってお前さんは名門トールズ出身のエリート様なんだからよ」

 

 ポンと気さくに肩を叩きながら、そうリンザーはアランを励ます。

 柄にも無いことをしているという自覚が彼にはあったが、機甲兵というのは四機毎に小隊を組んで連携し合うのがこの部隊で確立された基本戦術だ。そして目前の部下は自分の小隊の隊員。

 勝手な行動をされて死なれでもすれば、それだけリンザーの生存する可能性も低くなってしまうし、そうでなくても仮にも部下に死なれると寝覚めが悪いというものである。

 

「隊長……」

 

「つーわけでだ、戦場で武勲を立てなくても相手方の両親に認められるとっておきの方法を教えてやるよ。

 ズバリ、とっととガキをこさえちまうんだよ。そうすりゃ、向こうの両親だってもう認めるしかねぇさ!

 何せもう傷物にされちまったんだからな!別のところに嫁がせようもねぇってわけだ!」

 

 ニヤついた笑みを浮かべながらとんでもない提案をしてきた隊長、それにアランはあからさまに動揺の色を見せる。

 

「そ、そんな事したら俺が彼女の父親に殺されてしまいますよ!!!」

 

 エレボニア帝国というのは周辺に比べてどこか古風なところがある国だ。

 当然、嫁入り前の娘が傷物にでもされれば、新類縁者一同は怒り狂い傷物にしてくれた野郎を袋にかかる。

 ましてそれが名誉を重んじる帝国貴族を相手にやったらどうなるかと言えばーーーそれは、推して知るべしであろう。

 

「殺されちまえば良いんだよ、てめぇみたいな奴は。なんだぁ?トールズ出たエリートの上に婚約者は幼馴染の貴族の令嬢だぁ?ふざけてんのも大概にしろこのやろう!!!」

 

 以前照れくさそうに、されど何処か自慢気に見せられたまさに深窓の令嬢と言わんばかりの目前の部下の婚約者、それを思い起こして僻み根性全開でリンザーは告げる。

 そこには先程までの気さくで頼りになる小隊長の様子は欠片も無かった。

 

「さ、さっきと言っている事が真逆じゃないですか!?」

 

「お、そうだったな。じゃあ訂正するわ。

 お前みたいな奴はとっとと死に急いで女神の下に召されちまえ」

 

「なんですかそれは!?隊長がその年で独身なのは別に俺のせいじゃなくて、隊長自身のせいですよ!!!」

 

「てめぇ!自分が勝ち組だからって言っちゃならねぇ事を言いやがったな!!!」

 

 そのまま2人は苦笑しながら見ている他の隊員そっちのけで、出撃前だというのに罵り合う。

 そうして自分の愛機へと乗り込む頃、不思議とアランの中からは気負いも緊張も消えていたのであった……

 

おまけ

 

ノルド高原での戦いのある一幕

 

リンザー少尉「やべぇえええええ死ぬうううううううマジで今度こそ死ぬううううううううううううちくしょおおおおおおお死んでたまるかあああああああああああっておいそこおおおお、左から敵が来てんぞおおおおお。お前がやられたら今度は俺がヤバくなるだろうがあああああああ」

 

アウグスト中佐「ほう!中々いい動きをしている奴が居るではないか!よく、周囲も見えている。この戦いが終わった暁には小隊長を任せて見るのも良いかもしれんな」

*1
無論、それに驕ったような事をしたらどうなるかは司令官の性格から推して知るべしである

*2
中には生まれつきの勝ち組のボンボン等というのも居るが、そういう奴らは本当に死ねばいいのにとリンザーは常々思っている

*3
どういうわけだか、この部隊は麗しき司令官閣下様を筆頭にそんな極めて稀な怪物がひしめいているが、味方にする分には頼もしいので気にしないほうが吉である




アラン准尉「リィン将軍だって、戦場の戦いで勝って、出世したんだ!」
リンザー中尉「夢見てんなルーキー。アレは例外中の例外だ」

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