獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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リィン将軍凱旋帰国(半年ぶり三度目)
書店には
「リィン・オズボーンに学ぶリーダーシップ!」だとか
「天才リィン・オズボーンの戦術!」
みたいなリィン・オズボーン特集コーナーがあったりします。


獅子の心を受け継ぎし将軍

 七耀暦 1206年7月20日

 

 その日、帝都は熱狂に包まれていた。

 共和国相手に歴史的な大勝を収めた光翼獅子機兵団、その凱旋式が執り行われるのだ。

 無数のオープンカー型の導力車の群れが帝都中心のヴァンクール大通りを歓呼の声と紙吹雪の洗礼を受けながら行進する。数キロ、いや十数キロに渡る長い街道の両脇には民衆が詰めかけ、導力車の道を妨げないように黒スーツにマントを着た憲兵隊や儀礼服を着た帝国軍が警備と民衆の整理に当たる。街では軍楽隊による国歌の演奏が鳴り響き続ける。

 

 その先頭車両にて此度の主役たる灰色の騎士リィン・オズボーン中将は微笑を浮かべながら、歓声を送る民衆へと優美な微笑を浮かべる“盟友”と共に手を振り応える。帝国軍人には軍と政府の名誉を擁護する義務がある以上、こうした民衆相手の人気取りというのも仕事のうちであった。

 

「リィン将軍万歳!ルーファス総督万歳!皇帝陛下万歳!エレボニアに永久の繁栄を!!!」

 

 熱狂する帝都市民の叫び声が響き渡る。

 何時の時代も軍事的勝利を齎した英雄程国民を熱狂させるものは無い。

 ましてその英雄が若く、容姿端麗で、人格に於いても絵に描いたような英雄像をそのまま体現する公明正大で高潔なものであれば、尚更というものである。帝都に於けるリィンの人気は凄まじいものがあった、それこそこと単純な人気という点であれば父たる宰相をしのぎ、皇族にさえ匹敵しかねないほどに。

 

「やれやれ、こうして見ていると本当にあの子の旦那かと疑わしく思えてきちまうよ」

 

 数十万の民衆の歓呼を受けているにもかかわらず全く動じた様子の無い堂々たる、それこそおとぎ話の中からそのまま抜け出したような英雄の姿、それをその目に収めながらマーサ・ハーシェルはどこか遠い目をしながら告げる。

 

「ふん、英雄だかなんだか知らねぇけどよ。仕事ばっかりでトワ姉ちゃんに寂しい思いさせているなんて、旦那失格ってもんじゃ……イッテェ!何すんだよ!母ちゃん!」

 

「あんたは何時まで愚痴愚痴と言ってんだい!少しはあんたの友達見習って素直にお兄ちゃんを応援出来ないのかい!?」

 

 マーサの指さした先、そこには精一杯小さな手を振りながら眼を輝かせながらリィンへと声援を送るカイの友人たちの姿があった。

 

「ふん、アイツらも母ちゃんたちも皆して“英雄”のきょぞうって奴に騙されてんのさ。でも俺はそんなもんでだまされたりしねぇからな。重要なのは姉ちゃんを幸せに出来るかどうかだろ」

 

「この子ときたら全く……」

 

「でも確かに少し心配ではあるね。トワの方はトワの方でオリヴァルト皇子殿下の秘書官を努めていて忙しいみたいだし、ちゃんと二人の時間を取れているのかな?」

 

「アンタまで何言ってんだい。そういうのはトワ本人が私達に相談してきたならともかく、そうでもないのに私達がアレコレ考えたって仕方ないだろう?

 心配しなくても大丈夫さ。なんたってあの子の旦那様は皇女殿下の婿にだってなれたのに、あの子を選ぶ位にあの子にベタぼれなんだからさ。

 それに無事こうして戻ってきたし、共和国相手にも和平が結ばれたんだ。これからはもう少しゆっくり出来るだろうさ」

 

 歓声に対して微笑みながら応える姪婿の姿。それをどこか遠く見つめながらも、マーサ・ハーシェルはそう心配性な夫と何時までも未練がましい息子を嗜めるかのように、笑いながら告げるのであった……

 

・・・

 

 四大名門体制は崩壊していない。ただ単にその一角を構成する一門がカイエン公爵家からオズボーン伯爵家へと代わっただけであるーーーそんな風に揶揄する声が存在する。

 実際オズボーン伯爵家は爵位こそ伯爵であったが、その権勢は凄まじく既にアルバレア公爵家、ハイアームズ侯爵家、ログナー侯爵家といったそうそうたる名門を凌駕していた。

 当主たるギリアス・オズボーンは帝国宰相として帝国政界の頂点へと君臨し、皇帝からの信認と民衆から絶大なる支持を集める稀代の名宰相だ。

 次期当主にして嫡男たるリィン・オズボーンは皇帝直属の筆頭騎士にして、帝国最強との呼声も高き国民的英雄で10年もすれば軍の頂点に君臨する事を確実視されている。

 父と息子、両者で挙げた功績は既に数え切れず、本来であればそれこそ侯爵や公爵に列席されて居てもおかしくないにもかかわらずそうなって居ないのは、この両者が“貴族の支配”による時代を終わらせようとしているからに過ぎない。この両者が現皇帝たるユーゲント三世の寵臣中の寵臣である事は帝国のみ成らずゼムリア大陸の常識であった。

 故に、第三次クロスベル戦役の功績でリィン・オズボーンに帝国の最高勲章たる熾煌翼獅子最高綬章が授けられる事になった事、それ自体は当然の事と見られていた。

 だが、それでも尚、その言葉は列席者達の度肝を抜くには十分であった。

 

「まさしく卿こそかの獅子心皇帝の遺志を継ぎし者だろう。その功績を讃え、貴殿には《獅子心将軍》の称号をこの場にて与えるものである」

 

 どよめきが波のようにその場に伝わっていく。

 帝国に於いて獅子心という称号の意味はとてつもなく重い。

 何故ならばそれは帝国中興の祖たるドライケルス大帝を指すものだからだ。

 それに由来する称号を如何に確たる功績を打ち立てたとは言え、一臣下に贈る等余りに前代未聞の行為である。

 

 ーーーよもや、あの噂は真実であったのか?

 

 ギリアス・オズボーンは先帝の所謂ご落胤であり、現皇帝とは腹違いの兄弟である。

 軍部の俊英として名を馳せていたとは言え、政治家としての実績もない平民を突如として宰相へと抜擢した時に流布されたある噂。列席者達の脳裏にその噂が過る。

 何しろそうであれば説明がつくのだ、このオズボーン家に対する破格とも言える皇帝の厚遇に対する理由が。

 その気になれば十二分にアルフィン皇女の婿の座を射止める事が出来たにも関わらず、一平民を妻としたリィンの行動もそれを後押しした。つまり、些か血が濃くなりすぎるからというリスクと皇太子たるセドリックとの間で後継者争いが起こるのを厭うたのではないかという憶測だ。

 何よりも、その噂に信憑性を与えるのは寵臣たる父子の風格と気品だ。

 とても平民出身とは思えない、洗練された所作とその風格にどうしても多くの人間は仰ぐべき王者の気風を感じ取る。それらがその証拠等何一つない噂に信憑性を与えていた。

 そんな周囲とは対照的にリィンはある確信を抱いていた。 

 

(やはりこの御方はご存知なのだな、ヴァリマールがかつて獅子戦役の折ドライケルス大帝が駆った機体だという事を)

 

 そう考えれば自分にわざわざ獅子心将軍等という諢名を与えた事も理解できる。

 

(黒の史書……過去と未来について記述された皇帝家に代々伝わるアーティファクトか)

 

 かつてオリヴァルト皇子が語った目の前の主君の抱く諦観の原因。

 それがなにか関係しているという事だろうか?灰の騎神の起動者として、獅子心皇帝の意志を継ぐ者としてその運命に抗って見せよというある種の激励なのか?

 獅子心皇帝の意志を継ぐ者として自分の諦観を打ち破り、父たる宰相を超えて見せよという事なのか?

 どのような思いを込めて皇帝がこの称号を自分に送ったのか、それはリィンには想像する以外にない。だが、言える事はただ一つ。

 

(これで表での立場は整えた)

 

 光翼獅子機兵団という帝国最強の、否、大陸最強の部隊をこの一年半で自分は完全に掌握する事が出来た。

 もはや、将としての自分の力量と才幹を疑う者は誰一人として居ない。

 打ち立てた実績と高まった名声、そして獅子心将軍等という諢名をわざわざ贈られる程の皇帝からの信認。

 軍部に於ける自分の声望はもはや、決して父の七光頼りのものではなくなった。

 

 それだけではない、ノーザンブリアにて自分は軍事の枠に留まらぬ才幹と実績を示した。

 それにより多くの政界、財界の有力者とのコネクションも作り上げた。

 帝国政府からの要請に逆らう事をせずに常に忠実にその要請へと応えてきた。

 もはやリィン・オズボーンが鉄血宰相の忠実な腹心にして後継者である事を疑う者は居ない。

 

 そうようやく、これで自分は表での立場を整えたのだ。

 

(ならば次に知らなければいけないのは裏の情報を知ることだ)

 

 すなわち、情報収集だ。

 正しい判断は正しい情報から生まれるものであり、情報不足の中で我武者羅に動いても有効打は打てない。

 皇帝が何故諦観を抱いたのか、そして何故父は世界大戦等という狂気の沙汰を起こそうとしているのか、それらを探らなければならない。

  皇帝に史書の内容を尋ねるという行為はおそらく無意味だろう。何せ実子たるオリヴァルト皇子に対しても皇位を継承した者のみにしか教えられないと明言したのだから。

 

(ならば探るべきは別の場所だ)

 

 騎神ーーーこれが帝国の開発した最新兵器等では無いことをリィン・オズボーンは知っている。

 緋の騎神を駆って暗黒竜を打倒したヘクトル大帝。

 灰の騎神を駆って獅子戦役を集結させたドライケルス大帝。

 帝国で大きな戦いが起きる時に必ずそれは目覚めてきたーーー古の伝承に謳われる巨イナル騎士。

 それが此度もまた蒼に灰、そして金と次々と目覚めて来ている事は決して父のやろうとしている事と無関係という事はないだろう。

 知らなければならないだろう、これはそもそも何のために作り出されたのかを。

 知らなければならないだろうーーーあの日よりこの胸の内から聞こえる、自分を深淵へと引きずり込もうとしているこの声の正体を。

 

(そのためには彼女たちの協力を得なければならない)

 

 起動者を導く古より使命を受け継ぎし存在、魔女の眷属(ヘクセンブリード)

 かつて獅子心皇帝と槍の聖女を導いた善なる魔女の長、緋のローゼリア。彼女ならば、信頼する事が出来る。

 獅子心皇帝の記憶を受け継いだリィンにはその確信がある。

 

(問題は、どう接触するかか……)

 

 獅子心皇帝の記憶から魔女の里の場所がサザーランド州のイストミア大森林に存在することまでは把握している。

 しかし、それは常人には立ち入ることの出来ない異界に存在している。

 その隠れ里に入るには魔女の導きが必要不可欠なのだ。

 そしてリィンの頭に浮かぶ、こちらから接触が可能な魔女と言えば、それは唯一人。

 

(エマ・ミルスティン……彼女とコンタクトをとってみる事にしよう)

 

 リィン自身には彼女とコンタクトを取る術はない。

 しかし、自分の義兄弟たるエリオットならば別だ。

 彼ら七組は強い絆で結ばれているのだ、よもや互いの連絡先を知らぬという事はあるまい。

 妻と一緒に休暇をとって、表向きは少々遅めの新婚旅行という事にでもすればいい。

 自分の方から妻に事情を説明して、妻の方から上司たるオリヴァルト皇子に説明してもらえば、かの皇子なら快く応じてくれる事だろう。

 そう獅子の心を受け継ぎし将軍は、祝賀会の主役の任を笑顔でこなしながら、静かに決意し動き始めるのであった……

 




今回の行動の要約:オラババア!秘密主義も大概にして知っている情報洗いざらい吐けや!じゃねぇとただでさえ諸々劣勢なのに手遅れになるだろうが!!!
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