守護の型
ヴァンダールの剣士が強敵相手のタイマンの時などに「とりあえず生で」位のノリで使うカウンター及びディフェンス特化の型。皆伝に至ったヴァンダールの剣士が使うと人間要塞とも言うべき鉄壁となり、攻略は至難となる。ガイウスが助太刀に入った時のゼクスはこれを使っていた(という想定)。後の先を取る守護の剣の基礎にしてある意味究極の型。ヴァンダール流を習うものはまずはこれを徹底的に仕込まれて、観察眼等を養う。これを習得出来ると初伝扱いとなる。
猛攻の型
いくら何でも守護の型のみはヘタレ過ぎないか?&守っているだけじゃジリ貧な時どうすんねんという考えの下生まれた攻撃用の型。相手の動きを見切る事ができるのならば、その挙動を察知して相手が攻撃へと移るその前にこちら側の攻撃を先に叩き込めるはずというライアン理論によって成り立つ後の先を極めた結果の先の先、という作者も余り良くわかっていない理屈によって先手を取る。獅子戦役は基本ドライケルスの側が常に数的に劣勢であり積極的に敵兵をちぎっては投げしないとジリ貧だった事から、ロラン・ヴァンダールはこの型の方を守護の型よりも好んで用いた。これを習得すると中伝扱いとなる。
守護の型・金剛
理へと至ったリィンが編み出した守護の型の発展形。
ゲームでいうⅡ、改、疾風に対する裏疾風的なアレ。
猛攻の型・烈火
理へと至ったリィンが編み出した猛攻の型の発展形。炎神という異名の由来。
マテウスは猛攻の型・迅雷を用いていたため雷神という異名となった(という独自設定)。
ジュノー海上要塞。
ラマール州最大の軍事拠点にして統合地方軍の総司令部が置かれているこの地の練武場にて2人の男女が向き合っていた。
女の名はオーレリア・ルグィン。黄金の羅刹と謳われし女傑であり、ヴァンダールとアルゼイド双方を修めた帝国最高峰の剣士であり、かつてこの要塞の主でもあった人物だ。
それに対する男の名はリィン・オズボーン。多くの異名で以て称えられるエレボニアの最も新しき伝説たる若き英雄だ。
美男美女と評して何ら差し支えのない2人だが、交わす視線には色っぽい様子は欠片もない。
溢れんばかりの戦意が満ちており、その場に居合わせるだけで猛烈な圧迫感が観戦している兵士達を襲う。
何故この地で剣を交える事となったかは至って簡単で、帝国最高峰の使い手たる両者の激突となればその審判を行えるのも同様に帝国最高峰の実力者で無ければ、いざという時に止める事も出来ないからだ。
突然の先輩からの願いにウォレスはあっさりと快諾した。それは兵士達にとって良い刺激になると考えたからでもあるし、自分自身が灰色の騎士と黄金の羅刹の戦いを是非とも見てみたいと思ったからでもある。
「どっちが勝つかな?」
「そりゃオーレリア将軍に決まっているだろ。灰色の騎士だってそりゃ強いにしたっていくら何でも黄金の羅刹には敵わないさ」
ヒソヒソと交わされる統合地方軍の兵士たちの会話、それを聞きアルティナは若干ムッとするも食って掛かるような事はせずに眼前の2人へと視線をやる。
どうせ此処の兵士たちもすぐに理解する事だ。リィン・オズボーンという存在が如何に常識はずれで凄まじく、素晴らしい人物なのかを。
その時に思う存分に勝ち誇ってやれば良いのだと、そう思って。
「それでは、いざ尋常に勝負!」
そんな自分の信望者達の勝つのは自分たちの将軍の方に決まっているという期待をその身に背負い、両者は激突を開始した。
「征くぞ、《武神功》」
黄金色に輝く闘気の本流がオーレリアから発せられる。
それは黄金の羅刹が紛れもない全力である事をこの上ない形で知らしめる光景であった。
「《覇王剣》」
瞬間、オーレリアの姿が消えたーーーようにしかアルティナには見えなかった。
かと思われると甲高い金属音が鳴り響き、遅れて突風が周囲へと吹き荒れる。
空間毎両断するのではないかと思われた全力の袈裟斬り、それをリィンは横から弾くようにいなしていた。
凡百の使い手であればーーー否、達人でさえもあっさりと両断されかねない自分の全霊の一撃、それを防がれた事を知り、オーレリアはーーー静かに笑った。
久しく巡り会えなかった対等の好敵手、それに出会えた事を心の底より寿ぎ、女神に対する感謝さえ捧げながら。
練武場へと激しい剣戟の音が響き渡り、突風が吹き荒れる。
ウォレス中将は兵への刺激になれば良いと思ったが、残念ながらこの次元の戦いを糧と出来る使い手は今この場に居る者の中でも極一部だろう。
並の使い手では参考にさえなりはしない。それはそうだろう一体誰が、目で追う事さえ出来ていない次元の戦いを参考に出来るのだろうか?
良く職人の世界で師や兄弟子の業を学ぶにあたって「目で盗む」という言葉があるが、これは言うまでもないが基礎をもはや教える事がない程に徹底的に叩き込まれて初めて意味を持って来るものだ。
あらゆる応用と創造は総て原点となる基礎をものにしてこそ初めて生まれるものだ。故に基礎が叩き込まれていない段階でこれを求めて、育つのはそれこそ元々教えるまでもなく勝手に育つ天才位だ。
無論総司令部たる此処に駐屯する彼らは統合地方軍でも精鋭に位置する者達ばかり、当然基礎については既に出来上がっている。
だが、しかしそれでも眼前で繰り広げられていると思しき戦いは、大半の者にとっては余りに次元が違いすぎた。
攻めるのは黄金の羅刹。
その名が示す通り、彼女の本領は攻撃にこそある。
故にこそ二大流派を双方修めた彼女だが、先に修めたのは当然のように攻勢に秀でたアルゼイドの剣であった。
対するリィンが先に修めたのは守護の剣たるヴァンダールの剣。
そして今リィンが取って居るのはそんな守護の剣に中でも特に防御へと特化した《守護の型・金剛》。
「最大限の防御で耐え忍び、最小限の攻撃で制する」事を目的としたカウンターへ重きを於いた型だ。
ヴァンダールの剣士がこの型を用いた際、余程彼我に明確な力量差が無い限り、戦いは千日手に陥りやすい。
金剛石のような堅牢さを誇る反面、守勢へと徹するこの型はカウンター以外での攻め手に欠けるためだ。
しかし逆を言えば、それは敵に回せば攻略するには難攻不落の要塞であるという事であり、その防御を突破するのは如何に攻勢に秀でたアルゼイドの使い手と言えどそう容易くはーーー
「《四耀剣》」
そんな定石を打ち砕くかのように放たれた羅刹の一撃、それをリィンは流水の如く受け流す。
それは確かに激烈な一撃、しかしそれでも守護の型を用いたヴァンダールの剣士を攻略するのは至難を極める。
「ッ!?」
しかし、受け流したその剛剣が突き刺さった瞬間依って立つべき大地そのものに亀裂が走る。
ほんのわずかな隙と呼ぶには余りにおこがましい、わずかな乱れがリィンの構えに生じる。
それは例え光の剣匠だとしても付け入るには余りに僅かな乱れだった。
しかし、ヴァンダールの剣を知り尽くしたオーレリア相手に限っては、確かな隙であった。
「《覇王剣》」
そして間髪入れずに放たれた渾身の袈裟斬り、それが堅牢なる要塞の外壁に確かな傷痕を刻んだ。
剣戟そのものは受け止めたものの、それでも足場が不安定となった状態では堪えきれず、そのまま弾き飛ばされる。
当然生じた隙めがけて間髪入れずに羅刹の猛攻がーーー加えられず、黄金の羅刹はその場に仁王立ちし、剣を向けて弟弟子を叱咤する。
「確かに、守護の型を取ったヴァンダールの使い手を攻略するは至難。
だが、それがどうした!我が名はオーレリア・ルグィン。
アルゼイドとヴァンダールの剣双方を修めし、黄金の羅刹である!
《最強》の座を求め、我が師たる《光の剣匠》と《雷神》を超え、伝説の《槍の聖女》をも超えるためにこの剣を磨いてきたのだ!
どれほど優れていようと師より受け継いだだけの剣では、この身には届かぬと知れ!!!」
放たれた姉弟子からの激励の言葉にリィン・オズボーンは悟る。
目前の相手こそが紛れもない、当代に於けるエレボニア最強の剣士だと。
マテウス・ヴァンダールとヴィクター・S・アルゼイド、この2人より剣を受け継ぐのみならず、更にその先へとどこまでも征かんとする先駆者なのだと。
単純な力量であれば、リィンとヴィクター今は亡きマテウス、そしてオーレリアとの間にそこまで大きな差は無いだろう。
しかし、ヴィクターはヴァンダールの剣を修めておらず、マテウスはアルゼイドの剣を修めていないのに対して、オーレリアはそのどちらをも修め、その上でルグィン流とも言うべき新流派へと昇華させている。
そしてオーレリアはヴィクターとマテウスを何れ真っ向勝負で打ち破る事を、アルゼイドとヴァンダールの皆伝者を何れ相手取る事を想定して、その剣を磨き続けてきた。
故にこそ認めよう、オーレリア・ルグィンこそが紛れもない現エレボニア最強だと。
そして、考えよう。その上でそんな最強へと勝つにはどうすればいいのかを。
ヴァンダールの剣だけでは、師たるマテウスより受け継いだ剣のみでは目前の“最強”には届かない。
ならばどうすればいいか?ーーー簡単な事だ、目前の姉弟子がそうしたように自分もまた今この場で自分の剣を昇華させれば良いのだ。
「神速の型・疾風」
次の瞬間、リィンの身体がかき消え、嵐のような猛攻がオーレリアを襲う。
繰り出されるは高速機動からの双剣を駆使した連撃。
それは、ヴァンダールにもアルゼイドにも無い剣技。
風の剣聖との戦いで焼き付けた八葉の剣、それを愚直なまでの反復によって習得し、昇華した新たな技であった。
そのアクロバティックな動きはまるで曲芸じみたもので、ともすれば単に隙を晒すだけの愚行にしかならぬはずだというのに、そんな背を晒すような愚行が未来予知じみた先読みによって絶妙な牽制となり、オーレリアを翻弄する。
変幻自在の高速機動から放たれるは双剣を用いた疾風怒濤の攻撃。
それはまさしく息をもつかせぬ神速の剣。
ほんの数瞬の間に数十合にも及ぶ剣戟が両者の間で交差しーーー
ついに、オーレリア・ルグィンへとその剣が叩き込まれる。
手数を重視したその一撃は致命打には到底及ばず、膝をつかせる事も、その絶佳の剣を止めるにも至らない。
しかし、それでも確かにその剣は黄金の羅刹に久しく経験していなかった“痛み”という感覚を呼び起こすに足るものであった。
そんな久しく味わっていなかった感覚を味わいオーレリアはーーー心から楽しそうに笑った。
それは得物を見つけた獰猛な肉食獣の浮かべる笑み。
オーレリア・ルグィンは久しく味わっていなかった、勝つか負けるかわからない戦いを前に歓喜したのだ。
「そうだ!こうでなくてはな!!!」
そうしてオーレリアが選択したのは疾風怒濤の連撃を防ぐ為に守勢へと転じる事ーーーではない。
真っ向から受けて立つぞとばかりに黄金の羅刹は攻勢へと躍り出る。
攻撃こそが最大の防御であるーーーそんな言葉を体現するかのように。
一撃、当たればその時点で戦闘不能に陥る死線をかいくぐりながらリィンは宙を舞い、空を駆け、三次元を縦横無尽に動き続けながら、双剣による連撃を休む事無く叩き込み続ける。
「ぐっ……」
攻撃を受けたオーレリアは苦悶の声をあげるーーーされど決定打には至らない。
神速の型・疾風、八葉一刀流最速の型を取り入れて編み出したこの型は闘気を脚部へと集中させる事で高速機動を実現させている。
だが逆に言えば、それを攻撃と防御へと費やす闘気の量が減るという事でもある。
無論リィンの振るう剣戟にはそれでも十分な破壊力が宿っているが、黄金の闘気を纏ったオーレリアの鎧を粉砕し、肉を斬るところまでは行けども、骨を断つところまでには至らない。
しかし、それでも着実にそれは羅刹の身体を抉ってゆき、ついにその膝が崩れ落ちようとーーー
「まだだぁ!!!」
する寸前、羅刹の歓喜の咆哮が響き渡る。
久しく訪れる事のなかった窮地を前にして、噴出する黄金の闘気の桁が一つ跳ね上がる。
弟弟子が此処まで見事な技を見せてくれたのだ、ならば、此処で奮い立たず何が
初めて芽生えたそんな
そうオーレリアはこんな気持ちになるのは初めてだった。
何故ならば彼女は真の天才であり、時代に冠絶した傑物だったから。
彼女は常に前を走る者に、追いつきそして追い越して行く存在。
未踏の荒野を征く先駆者であり、ついてこれる者といえば学院での後輩であったウォレス位のもの。
そのウォレスにしても自分に追いすがるのがやっとといった感じで、自分を追い越す事はついぞなかった。
そんな彼女の前に、その弟弟子は現れた。ヴァンダールとアルゼイド、最強の座へと至る為にその双方を究めんとする大馬鹿者が。
故にこそ、負けるわけにはいかなかった。何故ならば自分は姉弟子なのだから。
先駆者としての意地というものを見せつけてやらねばならないだろう。
「王技――剣乱舞踏!」
放たれるは黄金の羅刹の最大最強の奥義。
大地より生える剣軍の群れを前にしては、あらゆる回避も防御も不能。
ならば、取れる手段など一つだけだ。
「鬼気解放!」
すなわち、こちらも最大最強の奥義によって
リィン・オズボーンは秘め続けていた鬼気を全力で開放する。
「破邪顕正焔の型・朱雀!」
炎神の焔が黄金の将が率いる剣軍の群れを呑み込まんとする。
羅刹の咆哮が空を飛ぶ不死鳥を落とさんとする。
激しい閃光と轟音がその場を包み込みーーー
立っていたのは羅刹と炎神、その両者であった。
どちらも息を荒げて満身創痍となりながらも、眼の前の相手の前で無様を晒すわけにはいかないと今すぐ地べたに寝転びたい衝動を必死に抑えながら、剣を支えに立ち、目前の相手を見据える。
その瞳に宿るのは飽くなき覇気。気高き武人の誇りと負けてたまるかという子供じみた思い、それらが同居したものだ。
そんな
「勝負あり!この決闘、両者相打ちとする!」
その言葉を聞き届けた瞬間、両者は堪えきれぬとばかりにその場で仰向けとなる。
そしてーーー
「見事だ
喜んで旗下へと加わらせてもらおう」
久しく味わっていなかった全力を出した清々しさ、それを味わいながらオーレリアは告げる。
その心は今その瞳に映る青空のように澄み渡っていた。
間違いない、この男は父親の模倣に終わるような器ではない。
それを超えんと今もなお足掻き続けている紛れもない英傑。
自分が真に忠誠を誓った主君が欲して止まぬ、盤面を打開する切り札となり得る存在だと、そう認めて。
「ありがとうございます、ルグィン伯。百万の味方を得た気分です」
「オーレリアで構わん。
ーーー何ならば義姉上とでも呼んでくれても一向に構わんぞ、我が弟弟子よ」
「では、オーレリア将軍。今後共よろしくお願い致します」
姉弟子からの冗談、それをリィンは軽く受け流して応じる。
「ーーーただし、一つだけ条件がある。
定期的に私と剣を交わしてもらおう。
時間がなくとも作って貰うぞ」
「願ってもないことです。
むしろ、こちらからお願いしたいと思っていた位ですから」
そうして2人は不敵な笑みを浮かべ合う。
かくしてリィンの勧誘は大成功に終わった。
そうして何故かどこか得意気なアルティナと遠い目をしたミハイル、興奮冷めやらぬ様子のアウグストを伴い、畏怖の瞳を向けられながらリィン・オズボーンは海上要塞を跡にするのであった……
ミハイルさんから見たリィン・オズボーン
・若くして准将の地位まで登り詰めた英傑
・軍三長官と敵対する事も意に介さず、むしろ蹴落としてやる宣言
・自分が道を違えたら俺を討てとか平然と言う
・黄金の羅刹と人外頂上決戦を繰り広げる
・上官としては紛れもない傑物で素晴らしい人物
・ぶっちゃけ黄金の羅刹の弟と言われたほうが違和感が無い
ミハイル「何をどうしたら、彼とエミルの面影が重なると言うんだクレアよ……」(ミハイル兄さんと無邪気な笑顔を浮かべて慕ってくれた従弟を思い出しつつ)
ミハイル兄さんはリィン将軍の純真な少年時代を知らないからねしょうがないね。