獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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     お  ま  た  せ






恋する乙女の歓迎会

 帝国南部に位置するサザーランド州に存在する丘陵地帯、閑散としているその地に於いてその静謐を乱す猛々しい音が響いていた。

「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ」

 

「ハーハッッハッッハッハッッハッッハ!!!!!」

 

 二体の鬼がそこには居た。振るう武技はどちらも磨き抜かれた修練の結晶。

 “練達”と称するのが相応しき洗練された技が互いの間に交わされ合う。

 双剣を振るう鬼はリィン・オズボーン。帝国最強と謳われし英雄である。振るわれる剣戟はどこまでも美しく、清澄にーーーされどその剣には一片の慈悲もなく眼前の鬼を討滅せんとする。 

 二振りの巨大な戦斧を振るうは《赤の戦鬼》シグムント・オルランド。巨大な戦斧を軽々しく振るうその様は彼の持つ尋常ならざる力を証明している。その猛撃はどこまでも荒々しくーーーされど確かな理が存在する。

 

 死闘を繰り広げているのは両者だけではない。

 彼らが互いに率いる大陸最強の猟兵と称される赤い星座の本隊と光翼獅子機兵団第一連隊《朱雀》もまた交戦状態にあった。

 

 これが敵の陽動に過ぎぬと悟りながらもリィン・オズボーンは乗らざるを得なかった。

 赤い星座の本隊の蠢動、それを見過ごす事などできず、大陸最強と謳われる猟兵団を正面切って相手取れる部隊等精鋭を以て成る帝国正規軍にもそう多くは存在しなかったが故に。敵の主力に対しては主力をぶつけざるを得なかったのだ。

 

(頼んだぞ、クロウ)

 

・・・

 

 リベール王国の仲介による和平条約の締結により、帝国と共和国、ゼムリア大陸における二大国の緊張状態は一時的な落ち着きを見せ、大陸では徐々に帝国を中心とした国際秩序が確立されつつある。ならば、大忙しだった宰相直属の機関たる情報局と鉄道憲兵隊も暇になったかと言えば、無論そんな事はない。「平和とは次の戦いまでの準備期間である」ーーーこのような言葉がある通り、表向き平和に見えても国というのは水面下で熾烈な無数の駆け引き、暗闘が行われているもの故に。表ではにこやかに握手を交わしながら、裏では短剣を互いに突きつけ合う、そんな麗しき関係こそが国同士の関係である以上、彼らのような諜報機関が暇になる時というのはあるいはそれこそ一生有り得ないのかもしれなかった。そして東の隣人相手に人手が割かれれば必然、西への警戒が落ちるのはある種の必然というものであり、同時にそれに対する“抑止力”を必要とするのも当然というものである。

 

 かくしてリィン・オズボーンとその旗下の部隊随伴の下、トールズ士官学院222期生の特別実習の行き先は『機械のような外見をした謎の魔獣』の出没情報が入ったサザーランド州へと決定するのであった。

 

 トールズ士官学院の特別実習は一週間の実施となっている。

 最初の3日間で周辺地域の魔獣の掃討を行い、更に3日間でその地の代表者からの依頼をこなしながら周辺地域への理解を深める特務活動を行い、最後の一日は自由行動ーーー実質的な息抜きの時間となっている。流石は帝国の誇る俊英達と言うべきか、首席たるセドリック・ライゼ・アルノールらを中心に222期生は随所で教官陣のサポートを受けながらも、危なげなく3日間で魔獣の掃討を完了。4日目の特務活動を終えたその夜、生徒たちはくたくたになって今すぐにでもベッドに倒れ込みたいところだったが、羅刹の弟の類と推測される主任教官から「女神の下に召されたくなければ警戒は怠るな」という厳命を受けて、装備を手元に置いた警戒態勢を維持していたその夜。事件は起きた。突如として飛来してきた砲撃音、それが演習地を襲ったのだった。

 

「ビビるんじゃねぇ!全員臨戦態勢に移れ!」

 

 予測されていた襲撃を前に即座に教官陣は車両より飛び出し動揺を収めるべく生徒たちをクロウは叱咤する。

 そして襲撃者を睨みつける。

 

「来やがったか……シャーリィ!」

 

「やっほーランディ兄お久ー。それとクレア義姉さんとレクター義兄さんも久しぶりだね♪」

 

「……貴方のような物騒な義妹を持った覚えは私には一切ありません」

 

「なんというかまあ、本当に難儀なやつに惚れられたもんだねぇ、我らが義弟殿は。やっぱ、あっちは陽動だったか」

 

 まるで年来の友人に再会したかのような気安さで持って話しかけるシャーリィに対してクレアらは苦々しさで満ちた様子で応対する。

 

「アハハハハハ、宮仕えや守る側ってのは大変だよねぇ。どうしたって攻撃する側に対して後手に回っちゃうんだもん」

 

 シャーリィ・オルランドの言葉には猟兵と呼ばれる存在が忌避されながらも無くならない理由が凝縮されていた。組織に属するものというのはその組織からの縛りを受ける。それは“英雄”であっても例外ではない。ある程度までならば名声と実績によって、無理無茶を押し通す事も出来るが、やりすぎてしまえば孤立し破滅する事となる。だが猟兵と呼ばれる存在にはそれがないーーー故にこそ表沙汰に出来ぬような戦いに於いて彼らは重宝されるのだ。

 

「てめぇはあいつにぞっこんだったと思っていたんだがな……」

 

「うん、その辺はパパともすっごく揉めたよ。だけどほらシャーリィってば、内戦の時にパパに色々と不安かけちゃったしさぁ。リィンならパパが相手でもきっと大丈夫だと思ってしょうがないから今回だけはパパに譲って上げたんだ。シャーリィってば孝行娘だからさ♪」

 

「さよけ……」

 

 お前の身内だろ、なんとかしろよといいたげにクロウはランディの方へと視線をやる。

 ランディは気まずそうにかつ申し訳なさそうに黙って視線を逸らした。

 

「改めて名乗らせてもらおうかな。執行者No.ⅩⅦ《紅の戦鬼》シャーリィ・オルランド。よろしくね、私の愛しの英雄の教え子君達♥」

 

 名乗りと共にシャーリィはクロウ達の背後にいるトールズの面々へとウインクを投げかける。

 そこには親愛と濃密なまでに凝縮された殺意、相反するはずのそれが矛盾なく同居していた。 

 

「……正直貴様の妄言は聞いているだけで頭痛を催しているが、貴様らが我々に対して襲撃をかけて来たという事を理解した。そしてそちらの三名は結社での貴様の部下というわけか」

 

 鼻を鳴らしながらミハイルはシャーリィ・オルランドの後ろに控える騎士甲冑を纏った三人の女を見据えながら告げる。

 

「お待ちなさい。今の言葉聞き捨てなりませんわね」

 

「我ら鉄機隊が忠誠を捧げしは偉大なる主、第七柱たるマスターのみ」

 

「私達がこの場に居るのはあくまでマスターの命に依るもの。この娘の部下というわけではないわ」

 

「そうですわ!我らが忠誠を誓いしは偉大にして超絶素晴らしいお方!このような者の部下などと寝言は寝てから言う事です!……いや、本当に勘弁してください。まさか私達そういう風に見えているんですか?」

 

「……すまない。いくら敵とは言え、それの部下扱いというのは余りにも礼を失した行為だったな」

 

 流石にこれと一緒扱いは勘弁してくれと抗議する鉄機隊の面々にミハイルはどこか憐憫を漂わせながら素直に詫びる。

 

「ちょっとちょっと、何なのその扱い。まるで人を変態みたいに扱って傷つくなぁ。私位一途で健気な恋の乙女ってそうそう居ないと思うんだけど」

 

「そう言うんだったら、浮気は良くないんじゃねぇのか?てめぇがご執心のアイツは今この場には居ないんだぜ?」

 

 何が悲しくて親友のストーカーの相手を自分がせにゃならんのか、そんな遣る瀬無さを込めてクロウは言う。

 

「うーん、それも一理あるとは思うんだけど……やっぱり出来る女としては好きな人の周りへの挨拶も大事だと思うんだよね。と・い・う・わ・け・で

 

 瞬間少女の皮を被った魔竜はその本性を顕にし始める。

 

「歓迎パーティの時間だよ。私の愛しの英雄の戦友とその薫陶を受けた教え子たちなんだもん、当然この程度(・・・・)は凌げるよね」

 

 パチンという音と共に結社の人形兵器それが姿を表し始める。

 これまでの訓練とは違う実戦ーーー死の恐怖が生徒たちを襲い出す。

 

「ええい、狼狽えるな!日頃の訓練の成果を発揮すれば良い!この程度のからくり仕掛けに遅れを取る程諸君は柔な鍛えられ方はしていないはずだ!指示は私が出す!重ねていう、いつもどおりにやれば諸君がこの程度の敵に遅れを取ることは有り得ない!私が保障しよう!」

 

「「「「「イエス・サー」」」」」

 

 しかし、リィンの代理を務めるミハイルは動揺を抑え込むべく即座に指示を下す。

 いつもどおりにさえやれば、負けることはないのだとそう生徒たちを叱咤して。

 

「オルランド!君はアームブラストに代わって皇太子殿下の護衛に回りたまえ!

 アームブラストは血染めを!リーヴェルト中佐にアランドール中佐、そしてオライオン少尉は鉄機隊の足止めを!」

 

「了解だ!ミハイルの旦那!」

 

「おい!そこはランディの奴が身内としての責任を取るところじゃねぇのかよ!」

 

「残念ながらこの場でアレの相手が務まるのは君だけだろうアームブラスト。それは他ならぬ君自身がわかっているはずだ」

 

 シャーリィ・オルランドから立ち上る濃密な殺気。それは紛れもない“修羅”と呼ばれる領域。

 達人と呼ばれる者達の中でも極一部の者のみが到達せし、武の至境ーーーそれにシャーリィ・オルランドは至っている。故にこの場に於いて曲がりなりにも渡り合う事が出来るはその階を掴んでいるクロウだけだと告げるミハイルの言葉にクロウはやけくそ気味に頭をかいて言い放つ。

 

「ちぃわかったよ!やりゃあいいんだろやりゃあ!」

 

「さあそれじゃあ始めよっか!蒼の騎士クロウ・アームブラスト!我が愛しの英雄の戦友!

 リィンの相棒を名乗るんだもの、それなりに楽しませてくれるよねぇ!」

 

 まずは挨拶代わりとばかりにシャーリィが銃撃をクロウへと叩き込む。

 

「ええいくそったれ!あの野郎、こんな厄介なストーカーの相手を押し付けやがって!」

 

 放たれた銃撃、それを躱しクロウも二丁拳銃を以て敵へと銃撃を叩き込む。

 

「ストーカーじゃないよ!一途な恋に生きる純真な愛の乙女だよ!」

 

 しかし、当然の如くそれを躱して、自称愛の乙女は凄まじい速度で以てクロウの下へと切り込み強烈な一撃を叩き込む。

 

「相手の同意を得られていない場合はそれをストーカーって言うんだよ!」

 

 しかし、そんな一撃をクロウは横からいなすように弾き防ぐ。

 互いの間にいくつもの技が交錯しあい、低レベルな言い争いとは真逆の凄まじく高レベルな戦いが両者の間で繰り広げられ始める。

 

「鉄血の子どもたち……我々の相手を務めるのはあなた方ですか。どうやらちびっ子がひとり混ざっているようですが、手加減は出来ませんわよ」

 

「ふーんだ!そんなの必要ないもんね!吠え面をかく事になるのはそっちだもんね!いっくよーレクター!クレア!きょうだいの絆の力って奴を見せてやろうよ!」

 

「ええ、今こそ私達の力を一つに」

 

「いっちょ、やってやるとすっか」

 

 瞬間三人全員の間にリンクが繋がれる。

 それは彼らが彼らの義弟と共に騎神の試練を乗り越えた証。

 これまでの彼らは父たるギリアスに就くか、それともその義息子たるリィンに就くかを迷っていた。

 故に、共に試練を乗り越えた灰の眷属でありながらも黒の眷属でも在るという不安定な在り方となっていた。

 だが、彼らの中に迷いはもはやない。灰の起動者たるリィン・オズボーンと心中すると彼らは決めたのだ。

 故にこそ、此処に彼らは覚醒を果たす。黒の王の眷属たる鉄血の騎士としてではなく、灰の眷属たる獅子の騎士として。

 

「これは……」

 

「我らがマスターより授かりし星洸陣と同じ力……」

 

「……なるほど、ただの大言壮語ではなさそうですね。良いでしょう、それでこそです!アイネス、エンネア、我々も星洸陣を使いますわよ!」

 

 デュバリィの言葉と共に鉄機隊の三人もまた同種の闘気を纏い、全員のリンクが結ばれる。

 そして鉄血の子どもーーー否、灰の眷属たる獅子の騎士と銀の眷属たる鉄機隊も激突を開始した。

 

 交わす剣戟と連なる砲火はどこまでも激しく苛烈に。仮初の平和に終わりを告げるかのように木霊するのであった……

 

 

 




リィン・オズボーンVSシグムント・オルランド
光翼獅子機兵団VS赤い星座
クロウ・アームブラストVSシャーリィ・オルランド
鉄血の子ども改獅子の騎士VS鉄機隊

最初の実習からこれとはなんというか……大変だね!頑張れ生徒の皆!
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