当作シャーリィ「英雄の戦友とその教え子達ならこの程度持ち堪えられるよね!さあ皆、限界を超えて飛翔を果たすときだよ!私の愛しの英雄のように!!!え?限界を超えられなかった奴?そんな奴があの人の教えを受ける価値なんてないでしょ。リィンの貴重な時間を無駄に損なうゴミなんて死んでいいよ」
良く持ち堪えているとそう言うべきだろう。
襲撃をかけてきた結社を相手にトールズ士官学院の面々は勇戦していた。
特に如何にミハイル・アーヴィングが指揮を取っているとは言え、真の意味での実戦に於いては実質的な初陣にも関わらず生徒たちはよく戦っていた。時折危ないところも出るが……
「オルランド!第四班のところが危ない!そちらの援護に向かえ!」
「合点承知だ!」
そうしたところには即座にランドルフ・オルランド教官率いる第一班がすかさずフォローへと入る。
「た、助かりました殿下……」
「気にする事はないさ級友を助けるのは当然の事だろう?」
本来であれば最重要護衛対象である皇太子は安全なところに居て然るべきである。
しかし、自身だけ安全圏にいる事を良しとする皇太子ではなく実際問題現在の均衡は薄氷の上で成立している状態である以上ランドルフ・オルランドという達人級の戦力とG・シュミット博士が開発したオーダーシステムの恩恵により生徒レベルを大きく超えて戦力としてカウントできる第一班を遊ばせておく余裕は存在しなかった。
『皇太子殿下は自らの手で武勲を挙げる事に固執しておられる節がある。留意しておくように』
そう彼の上官から言い含められていたのもあった。下手に皇太子のみを安全な後方に下がらせる等しておけば暴発しかねないと。故にミハイル・アーヴィングは皇太子に級友の救援という役目を充てがった。
そしてそれは正解だったと言えるだろう。この状況下で自分だけ守られながら指を咥えて見ていられるほどにセドリック・ライゼ・アルノールは大人では無かったのだから。級友たちが戦っている中、下手におとなしく守られていろ等という指示を出していれば、それこそ暴発して格上の敵に向かって行きかねない危うさがある以上、遊撃として級友たちの援護を行わせるという彼らの実力を鑑みればそれ程難しくはない難度の仕事を与えるというミハイル・アーヴィングの下した判断は紛れもない正答であった。
・・・
「いっけーガーちゃん!」
「中々のパワーですが……当たらなければ意味はありませんわ!」
アガートラームの渾身の力を込めた攻撃、それをデュバリィは苦もなく躱す。
そしてすぐさまにお返しとばかりに斬りかからんとするが
「ええ、そうですね。なので当てさせて頂きます」
しかし、その回避した先にまるで予知でもしたかのような正確さで銃撃が炸裂する。
「グウッ!?」
まるで自身がどこに避けるのかがわかっていたかのような攻撃を前に流石に防御も回避も間に合わずデュバリィは苦悶の声を漏らし、その神速の動きを一瞬だが止める。
「燃え尽きな、レーヴァテイン!」
そしてその隙を逃さんとばかりに間髪入れずにレクターはアーツによって炎を纏わせたレイピアで以てデュバリィを一気に仕留めんとする。
「見事なコンビネーションだけれど、コンビネーションならばこちらだって負けては居ないのよ」
「ちィッ」
しかし、そうはさせじとエンネアの放った矢の雨がレクターを釘付けにする。
すかさず彼はその第六感を総動員させそれらを打ち払い、躱すもその間にデュバリィもまた体勢を立て直す。
「剛裂斬っ!」
「!?ガーちゃん!」
エンネアの大地を砕くような剛撃、それをミリアムはアガートラームの障壁でなんとか防ぐも後退を余儀なくされる。
「さっきは良くもやってくれましたわね!お返しですわ!」
そして前衛のミリアムが後退した事で生じた空隙をぬってデュバリィは後衛にして司令塔のクレアを仕留めんと斬り込む。クレアも負けじと銃撃を浴びせるがデュバリィはひるむ事無く盾で防ぎ、突っ込んで行く。
「クラウ・ソラス」
「なぁ!?」
しかし、その前進を阻むもう一体の傀儡が出現する。
放たれた傀儡の一撃をデュバリィは盾で防ぐもそのまま仲間であるアイネスとエンネアが居るところまで弾き飛ばされる。
「アーちゃん!」
「その呼び方は辞めてほしいと何度も言ったはずです。ご無事ですか、クレアさん」
「ええ、助かりましたアルティナちゃん。ですがどうしてこちらに?」
「アーヴィング中佐のご指示です。あなた方の力量を疑っているわけではありませんが、相手は結社最強とも謳われる戦闘部隊。普段前衛を努めているリィン教官ご不在の状態では流石に厳しく、そして私ならばあなた方の連携を乱す心配も無いだろうと」
瞬間、アルティナもまたリンクによって結ばれる。
本来であれば起動者と共に騎神の試練を乗り越えていない彼女は灰の眷属足り得なかったはずだった。
しかし、アルティナ・オライオンこそリィン・オズボーンをこの世に於いて誰よりも崇敬している存在であり、内戦時に彼女は常にリィンと戦術リンクを結び戦場を駆け抜けた。「我こそはリィン・オズボーン随一の忠臣である」という彼女の自負、そして他ならぬ起動者たるリィンからも大切な義娘であるという双方向の思いを抱いていたこと、灰の騎神たるヴァリマールが眷属を増やしその思いを紡ぐ事に特化した機体であった事ーーーそれらの要因がアルティナ・オライオンを灰の眷属足らしめた。
無論ミハイルはそうした細かい事情等知る由もない。
しかし、クレア達が劣勢な事は彼にはわかり、クルト・ヴァンダールとアルティナ・オライオンの両名は生徒ながらも既に達人同士の戦いに混ざっても足手まといにはならない力量を有していた。そしてクルトにはクレアらと共闘した経験が無いのに対してアルティナはリィン・オズボーン、クレア・リーヴェルト、レクター・アランドールらと共に十月戦役を駆け回り、ミリアム・オライオンとは実の姉妹のような間柄だという事を知っていた。それ故に彼らのコンビネーションを乱す事無く歩調を合わせて戦えるであろうと判断しアルティナを派遣したのだった。
「助かったぜ。何せ俺らは光る双剣で以て敵をゴミのように蹴散らしていく英雄様と違ってか弱くしがない補佐役だからなぁ。メスゴリラ三体を三人だけで相手にするのはちょいと厳しかったんだ」
ミハイルが遣わしてくれた援軍の存在にレクターは素直に喜びながら一息つく。
レクター・アランドールにしてもクレア・リーヴェルトにしても紛れもない達人の領域にある使い手だ。
ミリアムにしてもそんな2人に匹敵する実力を有している。
そこに全員リンクによるコンビネーションも加わる以上、この三名が遅れを取る事はそう滅多な事は無いと言っていい。
しかし、結社最強の戦闘部隊という異名は伊達ではない。
鉄機隊の三名は真実戦闘のプロフェッショナルなのだ。彼女たちは戦場こそが己が本領を発揮する舞台である本物の戦士だ。
それに対して獅子の騎士たる三名が本領を発揮する場所は違う。
クレア・リーヴェルトは部隊の統率を行う指揮官であり、レクター・アランドールは諜報と交渉に於いて力を発揮する情報局の将校であり、ミリアムもまた情報収集をメインとする諜報員だ。戦士としても一流ではあるもののそれはあくまで戦いも出来るといったものであり、そういう意味で三対三の戦いで優位に立てぬようであれば、鉄機隊の方こそ主の名が泣くというものであっただろう。
しかし、そこにアルティナ・オライオンという加勢が加わったことで再び戦況は均衡にまで持ち直す。
「誰がメスゴリラですかこの無礼者!言っておきますが私裁縫やら料理といった淑女の嗜みについてはお母様に厳しく躾けられてちゃんと心得があるんですからね!」
軽口にムキになって応えてくるデュバリィの様子にレクターは愉快げに目を光らせる。
「へぇそりゃ悪かったな。で、そんなちゃんとした両親に躾けられたご息女様がまた何だって結社なんぞに所属する事になったんだよ」
「……貴方には関係のない事ですわ」
デュバリィを過去を思い出すかのように一瞬だけ目を閉じた後にそれらを振り切るかのように告げる。
そこには先程のどこか親しみやすさを覚える少女ではなく、覚悟を定めた戦士の姿が存在した。
「やれやれムキになって反応してくる辺り、どうにもポンコツっぽいから上手くすればそこから切り崩せるかと思ったけどそう上手くはいかねぇか」
「……相手は結社最強と謳われる戦闘部隊、流石にそう上手くはいかないでしょう」
どれ程ポンコツに見えようとも目前の敵は結社最強と呼ばれる戦闘部隊、その筆頭隊士。
戦場に於いてたやすく平静を乱す程甘い相手ではないだろうとクレアはどこか目前の敵手に似たところのある親友を思い起こしながらレクターへと応じる。
「ま、上手くいきゃ儲けもの程度だったから別に良いけどよ。それじゃあまあなんとか援軍が来るまで持ち堪えるとすっかねぇ」
「フフン、僕たちで足止めするのは構わないけど別に倒したって良いんだよね?」
「それは勿論。相手は国際的な犯罪組織。捕らえた事を讃えられこそすれ、叱責を受ける事はまず有り得ないでしょう」
妹であるアルティナも加わった事でもう何も怖くないとでも言わんばかりに自信に満ちた態度を取るミリアムにアルティナが応じる。そして応じるアルティナの顔も一見すると冷静なように見えるが、彼女をよく知る者を見ればどこか緩んでいる事がわかるだろう。目前の敵手を捕縛して「よくやった。流石は俺の娘だ」と言ってリィンに褒められる事を少しだけ想像したのだ。
「ふん、半人前のちびっ子が1人から2人になってようやく一人前になった程度で調子に乗るんじゃありませんわ。言っておきますが、幼子であろうと戦場に出た以上は一人の戦士。容赦する気は一切ありません。命が惜しければ退く事をオススメ致しますわよ」
「お優しいことですが余計な気遣いです。襲撃をかけてきた賊を相手に敵前逃亡が許される軍組織等どこにいこうと有りはしませんので」
アルティナにとっては自身の死などよりもこの世で最も敬愛する存在に失望される方がよほど恐ろしい。
故に此処で退くなどという選択肢があるはずもなかった。
そうして相手がどう答えるかわかりきった問答を終えると両者は激突を再開する。どちらも互いに譲れない想いと誇りを抱きながら……
・・・
甲高い金属音が鳴り響き続ける。
シャーリィ・オルランドとクロウ・アームブラストは今この場に於いて最もハイレベルな戦いを繰り広げ続けていた。
修羅へと至ったシャーリィの猛攻は凄まじくもしもクロウがただの達人であればとうに殺されていただろう。
しかし、クロウは若干劣勢ながらも確かにシャーリィと渡り合っていた。
「アハハハハハハハ、いいねいいね!それでこそあの人の相棒だよ!最低限その位は出来て貰わなきゃね!」
身の丈程もある巨大な武器をシャーリィは軽々しく振るう。
尋常ならざる速度と威力の斬撃が嵐のようにクロウを襲うが、それをクロウはダブルブレードでいなす。
「これでも大分!力量を!上げたと!思っていたんだけどな!」
クロウが思い出すのは親友、光の剣匠、黄金の羅刹といった人外共相手に散々やりあった日々。
クロウ・アームブラストは決して怠けていたわけではない。放って置くと一人でどこまでも突き進んで行ってしまいそうな親友をいざという時にはぶん殴ってやるためにも、鉄血の打倒に燃えていたかつてのように必死に修練へと打ち込んできた。
そしてその甲斐あってかつては五分であった
しかし
「内戦の頃は俺とどっこいどっこいだったはずなのに一体どんな無茶苦茶をやりやがった!」
そのクロウをして押される程にシャーリィ・オルランドは凄まじい。
未だ成人も迎えていないというのに目前の敵手の技量は常軌を逸している。
それこそ、天才等とそんな生易しい言葉では評せない程に。
「別にそんな大した事なんてやってないよ。好きな人に少しでもキレイなところを見せるためのちょっとしたお色直し程度」
瞬間シャーリィ・オルランドは頬を染めてうっとりとした様子で告げる。それはどこからどう見ても年相応の恋する乙女そのものの姿であった。
「でも良かった、これなら今度はリィンに失望されるって事は避けられそうだからさぁ!」
しかし、そんなしおらしい姿を見せいてたのも一瞬。すぐさまその本性を剥き出しにした獰猛な笑みを見せて再びクロウへと襲いかかる。
苛烈さを増していくシャーリィの猛攻を前に徐々にクロウの顔が苦悶に歪んでいく。
渡り合えてこそ居るもののクロウの側が劣勢である事は見ていて明らかであった。
(オルランドを増援に送るべきか?)
シャーリィ・オルランドとクロウ・アームブラストの戦いに生半可な力量の者はついて行けない。クロウの足手まといにならずに援護するためには最低でも達人級の実力が必要なのは間違いがなかった。生徒としては破格の実力を持つクルト・ヴァンダールもあの領域の戦いとなれば、足手まといにしかなるまい。
そしてクレア達は鉄機隊を相手取り、ミハイル自身は生徒たちの指揮を取らなければいけない以上、現状増援に送る余地があるのはランドルフ・オルランドのみであるが……
(いや、駄目だ。余りにもリスクが大きすぎる!此処はやはりアームブラストに踏ん張って貰うしかない)
皇太子セドリック・ライゼ・アルノールは文字通りのアキレス腱なのだ。
彼になにかあればミハイルは当然の事、ミハイルの上官たる英雄でさえも失脚は免れない。
戦場に於いて完全な安全等有り得ず下手に押さえつける事は暴発する危険性が在るからこそ遊撃部隊として用いる事を許容したが、それもあくまでランドルフ・オルランドというこの場に於ける上位の実力者が護衛に就いていればこそ。ミハイル・アーヴィングは決して小心な男ではないが、それでも流石にその決断を下すには失敗した場合のリスクが高すぎたのだ。
「ランディ教官!こちらは僕たちで何とかします!クロウ教官の援護を!!!」
しかし、そんなミハイルの思いなど知らぬかのように護衛対象自身がそんな事を口にしていた。
「お待ち下さい殿下!?それは余りにも……」
「危険だと!?そんな事は百も承知です!!此処が戦場である以上安全な場所など有り得ない!
そして僕は守られるために此処に居るんじゃない!皆と共に戦って、一緒に生きて帰るために此処に居るんだ!
そのためにはこれこそが間違いなく最善のはずです!クロウ教官が討たれたら、彼女に太刀打ち出来る存在は今この場には居ないのだから!!!」
セドリック・ライゼ・アルノールの咆哮、それにミハイルは反対する事が出来なかった。
もしもミハイルが彼の上官のようにセドリックの事を「アルノール候補生」と呼び、一介の候補生として扱っていれば「一介の候補生の分際で教官にしてこの場の指揮官たる私に反論する等一体何様のつもりだ!」と一喝する事も出来ただろう。
しかし、ミハイルはセドリックを
今更、そうした論法を用いるには余りにも無理があった。
「心配は要りません。自分の身くらいは自分で守れますし。ましてや僕には頼もしい仲間が居るんですから。
そうだろう?クルト、アッシュ、ミュゼ、ユウナ」
「ああ、勿論だセドリック。君の背中は僕が守る!」
「へ、お坊ちゃんコンビだけだったら不安はあるだろうが、この俺もついているんだ。余計な心配なんざする必要はねぇよ」
「私も微力ながらもサポートさせて頂きます」
「だから行って下さいランディさん!此処は私達が引き受けますから!」
トドメとばかりにそんなセドリックの言葉に触発されるかのように生徒たちの士気が爆発的に上がりだす。
「って事みたいだけど。どうするよ、ミハイルの旦那」
こうなってはミハイルにセドリックの言葉を無視する事など出来るはずもなく
「~~~~~~~!?やむえん!オルランドはアームブラストの援護へ向かえ!
ヴァンダール候補生!カーバイド候補生!クロフォード候補生!イーグレット候補生!大言を吐いたからにはその身を以て先の言葉が嘘ではない事を証明せよ!殿下は何においても、とにかくご自分の身を最優先されるように」
「「「「「イエス・サー」」」」」
「つーわけだ覚悟しろシャーリィ!お前のせいで俺の肩身が事ある毎に狭くなる事にいい加減うんざりしてんだよ!」
「アハハハハハハ、そんなの知ったことじゃないよ。私は私の望むがままに生きているだけだもん。
にしても中々やるじゃんあの皇子様。ただの温室育ちのお坊ちゃんだと思っていたけど、流石はリィンの教え子。良い判断だよ。良かったねクロウ、見殺しにされずに済んでさ」
「ああ、全くだ。他人のストーカーの相手をしていて殺されるなんて死に方は流石に勘弁して貰いたいところだったからな。というわけで、後は任せたぜランディ!」
グッとクロウは笑顔を浮かべながらランディの方へと親指を立ててランディに合図を送る。
「悪いが今のこいつはオレ一人じゃ手に負えねぇ。付き合ってもらうぜクロウ」
そしてそんなクロウに対してランディも同じジェスチャーで以て応じる。
「……トリスタ帰ったら一杯奢れよな」
ため息混じりにクロウは告げる。
「ああ、キルシェで一番高い酒頼んでも良いぜ」
本当にごめんマジでごめんといった心境でランディが応じる。
そうしてシャーリィ・オルランドを相手にして急造コンビはなんとか戦術リンクシステムの恩恵もあって足を引っ張らない程度の連携を見せて渡り合う。
かくして戦いは再び均衡状態へと陥り出すのであった……
ヴァリマールが眷属を増やすのが得意な機体というのは当然ですがオリ設定です。
騎神アーツだとかそういうのをやっていたり、生徒の乗る機甲兵と霊的なリンクを結んだことや、本来吸収されるはずのクロウと蒼を眷属にして現世に留めるといった割と相剋の前提を覆すであろう無茶苦茶な事が出来た事からヴァリマールはそういう単騎でよりも、仲間との思いを束ねる事に特化した機体なんじゃないかなと思い、そうしました。
つまり修羅ルートでは灰の一番の強みが発揮できないので順当に黒と銀に負けます。
描いていく程に修羅ルートでの黒と銀に勝てる要素が消えていきますねHAHAHAHAHA。