シグムント・オルランドは久方ぶりの高揚を味わっていた。
彼は戦場をこよなく愛する生粋の戦争狂だ。そんな彼にとって対等の敵手というのは何にも勝る宝だ。
何故ならば、そも日頃厳しい訓練を積み強くなるのは、戦場で敵を圧倒するためである以上そのような実力伯仲の敵などという存在はそうそう巡り会えるものではないがために。
兄バルデルとその宿敵であった猟兵王ルトガー・クラウゼルのような実力伯仲の好敵手などという存在はまさしく“運命の相手”と称して何ら過言ではない何よりも得難き存在なのだ。
故にこそシグムントは自身の愛娘にそんな相手が出来た事をこの上なく喜んでいた。きっと激突し合う過程でさらなる高みへと至るだろうーーーと。
そうしてシャーリィ・オルランドは父たるシグムントの期待通りに、否、期待以上の速度で以て自身と同じ高みへと至った。それはシグムントをして驚愕せざるを得ない速度だった。そうして娘へと理由を問いかけてみれば、「もうパパったら皆まで言わせないでよ。そんなのリィンに追いつくために決まっているじゃない」等とそんな乙女心に溢れた可愛らしい回答をしてくるのだからーーー少々礼と釘刺しも含めて挨拶をしたくなるというのは男親として当然だと言えよう。
噂でならば散々に聞いている。曰く帝国最強、皇室と帝国に絶対の忠誠を捧げる騎士の鏡、鉄血の後継ーーー等と娘の想い人はもはや大陸でも有数の有名人なのだから。トドメとばかりに股肱の臣たるガレスに問いかければ「アレは紛れもない獅子ですな。シャーリィ様は良き恋はされたかと」等と答えるものだから、シグムントはすっかりとその気になり、こうして今愛娘がご執心の相手と相対しているわけなのだが……
「その若さでこれ程とはな!シャーリィの奴が夢中にもなるはずだ!!!」
喜悦に満ちた笑いを浮かべてシグムントを到底20そこそこの若造とは思えない鬼気とでも称すべき濃密な殺気をその灼眼に宿してこちらを睨みつける
シグムントの一撃が大地を砕く。飛来してくる岩塊、それをリィンはまるで動じる事無く躱すーーーのみならずその飛来した岩塊を蹴り、縦横無尽に駆け抜けて行く。
「しぃっ!」
放たれるは闘気によって鋼鉄を超える強度を持つシグムントの肉体でさえもたやすく両断するであろう光刃。
それがシグムントを襲うーーー無論一撃で終わりなどではない、叩き込まれるは緩急を織り交ぜた技巧の粋を殺した巧緻なる速攻。その一太刀、一太刀が並の精鋭ならばーーー否、達人級の使い手でさえも切り伏せられて終わるであろう威力が込められている。
しかし、言うまでもなくシグムント・オルランドは並の使い手ではない。絶死の威力を持つ閃剣をひるむこと無くその戦斧で迎撃する。鋭い剣閃が疾走る度に、火花が華のように咲いては散り、彼らの死の舞踏を彩っていく。
そして、その度にシグムント・オルランドの心を歓喜が満たしていく。
久しく巡り会う事が出来なかった好敵手の存在を前にシグムントは高揚していく心を抑える事が出来なかった。
シグムントは何も戦いだけが趣味というわけではない。
大陸最強と謳われる猟兵団の副団長を努め、現在は団長代行を務めているシグムントは当然のように莫大な収入を得ているーーーそれこそ単純な一年での収入のみで言えば、公務員であるリィンよりも高いとさえ言えるだろう*1。
そして彼は清貧を旨とする七耀教会の聖職者等ではないので当然のようにその金を使って盛大に人生を謳歌している。多くの美女を抱いたし、多くの美酒に酔って来た。
この世に存在する凡その快楽をシグムントは味わって来た。しかし、その上でシグムントは思うのだ。
「やはり戦場は良い!お前のような者が出てくるから辞められんのだ!戦いはなぁ!!!」
自分の命を賭けた戦いに勝る快楽はこの世には存在しないと。
そしてこの最高の娯楽はシグムント一人では成立しない。シグムントをして勝てるかどうかわからぬ難敵が存在してこそ味わえる、極めて稀で得難いものなのだ。
シグムントが若い頃は良かった。シグムントと同格の者、シグムントの格上の者ーーーそんな存在は兄バルデルを筆頭に世の中に溢れかえっていた。
副団長となったころもまだ良かった。西風の旅団という最高の敵手が赤い星座にはーーーシグムントには存在した。
しかし、兄バルデルと西風の団長たるルトガーが相打ちとなり宿敵だった西風の旅団が解散してしまい、赤い星座が猟兵の中の頂点に君臨してからというものシグムントを熱くさせてくれるような敵とはそうそう巡り会えなくなってしまった。
だからだろうシグムント・オルランドはどこかキナ臭さを覚えながらも、帝国最大の貴族たるカイエン公爵からの鉄血宰相抹殺の依頼を受けた。大陸中のVIPが集まる会談になら、当然各国は相応の精鋭を派遣し、かの名高き風の剣聖ともやりあえると思ったからだ。
結果としてシグムントの感じたキナ臭さは真実であり、国際会談に襲撃をかけた事でしばらくの間色々とやり辛くなったわけなのだがーーーそれでもシグムントはあの依頼を受けたことを全く後悔していなかった。
何故ならば、これ程得難き好敵手に自分の娘が出会う事が出来たのだから。
「ああ、全く以て素晴らしい!ランドルフの奴とそのお仲間達も悪くはなかったが、それでもやはり物足りなかった!何故ならば奴らは俺を殺そうとはしていなかったからなぁ!」
甥であるランドルフが見つけた仲間とやらの力ーーーなるほど、それが単なる逃げによるものではない事は見せてもらった。だが、その上でシグムントは思うのだ。やはりどうしようもなく奴らは甘いとーーーその甘さによって自分が命を拾った事を百も承知で。
それは仲間であるランドルフの身内だったからなのか、それとも警察官としての矜持とやら故なのかはわからない。だが現実として重要なのはシグムントはこうして今も生きているという事だ。ーーーそれも今現在彼らにとって最大の敵たるクロスベル総督ルーファス・アルバレアに雇われるという形で以て。
今、シグムントが目前の鉄血の孺子ーーー否、目前の男はもはや鉄血のおまけ等ではないのだからこの呼名は正しくないだろう。獅子心将軍とやりあっているのはつまるところシグムントを雇った雇い主がそれだけ目前の男を警戒しているからに過ぎない。それが依頼主の意向とあれば、シグムントはまたかつてのように何時でもクロスベルを襲うし、見逃して貰った*2特務支援課に対しても平然と牙を向ける。
だから、やはりシグムントにしてみれば彼らはどうしようもなくヌルいのだ。物足りないと言い換えても良いかもしれない。彼らが真実殺す気でシグムントと戦ってくれていれば、きっとそれはシグムントに滅多にない充足を齎していただろう。しかし、そうなるには戦場を彩るために必要不可欠な要素である殺気が彼らにはどうしても欠けていた。
「その点、お前は素晴らしい!お前ほどの相手とやり合う機会を譲ってくれたシャーリィには感謝しなければなるまい!!!」」
向けられる必滅の意志のなんと心地良いことか。
その身をかすめていく光刃はどうしようもない程に恐ろしくーーーそれ故に楽しくてたまらない。
生きるか死ぬかというこの緊張感ーーーやはり、これこそが自分の欲して止まぬ戦いなのだ。
「ペラペラとまあ存外よく喋る男だな、シグムント・オルランド」
「ククク、俺とて誰が相手でも饒舌になるわけではないさ。気に入った相手だけだよ、喋る気になるのはな。
どうだ?
お前にならシャーリィの奴を任せても良い。じゃじゃ馬ではあれど、器量はそう悪くはないはずだ」
「寝言は寝て言うことだ、
我が身命は祖国に。我が愛は最愛の妻に。とうの昔に捧げている。
猟兵などに身をやつす事など天地がひっくり返ろうとありえぬ事だ。
貴様の方こそ、今の雇い主を見捨ててこちら側に就く気はないか?」
「ふ、先程の言葉をそっくりそのまま返すとしよう。
カイエンのやつのように向こうが不義理を働いた場合ならともかく、そうでもないのに不義理を働く程落ちぶれるつもりはない。我らは赤い星座。そこらの三流のゴロツキ共ではなく、プロフェッショナルなのでな」
「そうかーーーならば、死ね。こちらに就く気がないというのならば、この場にて貴様を仕留めるまでのこと」
「出来るものならやってみるが良い!」
わかりきった問答を終えると両者は再び闘気を高めて激突を再開せんとする。
そしてまた先程までをなぞるかのように千日手の如き攻防をーーー否
「鬼気解放」
殺すと告げた以上必ずやそれを成し遂げると言わんばかりにリィン・オズボーンは己が限界を超えて力を引き出す。
その眼は灼眼をも超える鬼眼と化し、その肉体までもが黒く染まっていく。
そしてその焔が双剣へと集束されていく。
リィンが奥義をぶつけて来る事を悟ったシグムントもまた己が奥義をぶつけんとその力を高めていく。
両者が激突せんとしたーーーその刹那だった
「王技――剣乱舞踏!」
「!?」
突如として現れたるは帝国ーーー否、大陸屈指の実力者たる黄金の羅刹。
そして放たれるのはその最大最強の奥義。完全に慮外の事態にシグムントをして完全に反応が遅れる。
「クリムゾンフォール!」
しかし、流石というべきかすぐさま己が最大最強の奥義にて羅刹の奥義を相殺する。
それは彼の戦鬼という異名が決して伊達ではない事を証明するものだったが……
「破邪顕正・焔の型朱雀!」
その隙を英雄が逃すはずもなく、訪れたーーー否、作り出した千載一遇の好機を狙い撃つ炎神の奥義が炸裂する。
「おオ、お゛お゛お゛お゛、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ……ッ!?」」
焔纏いし神鳥が戦鬼を焼き尽くしていく。
並の使い手ならば即死出来ただろうに、哀れ戦鬼の力量が並外れて居たがために絶命するその瞬間まで、生きながらその身を焼かれる苦痛を味合わなければならないのだ。
「ククク、ハーハッハハハハハハハハ!!!
耐え難い激痛を味わい、死を目前にしてシグムントの口から放たれたのはそんな自身を討った敵手を讃える言葉。
「よもや最初から俺を食い止めるのではなく、仕留める気でいたとはな!そのために、黄金の羅刹というジョーカーを向こうではなくこちらに投入する等流石に慮外であったわ!」
黄金の羅刹オーレリア・ルグィンがリィン・オズボーンと協力関係にある事は当然シグムント達も把握していた。
しかし、投入するならば皇太子を守るためだとシグムントでさえ思っていた。
だってそうだろう?セドリック・ライゼ・アルノールに万が一があれば、その瞬間にリィン・オズボーンは破滅するのだから。
最強のクイーンをキングを守るために用いるのは当然の事だ。
だってシグムントの方が陽動でしかない事にリィン程の将が気づかぬはずはないのだから。
陽動の足止めに最強のジョーカーを投入するはずがない。
そう、だからシグムントは前提を履き違えていたのだ。
陽動に動いた赤い星座をリィンは主力を率いて足止めせざるを得ないとそう思い込んでいた。
しかし、違ったのだ。リィンの今回の戦いに於ける目的は赤い星座の足止め等ではなかった。
大陸最強の猟兵団赤い星座ーーーそれの殲滅こそがこの戦いでのリィンの目的だったのだ。
無論、シグムントとて馬鹿ではない。
リィンとオーレリア、この両名を自分単騎で相手取れる等と思う程に自惚れては居ない。
もしも最初から黄金の羅刹がこちらに居れば、大人しく退却しただろう。
だからこそリィンは戦場となるこの場所の周辺にて転移術の使い手たるローゼリアと共にオーレリアを待機させ、自身の鬼気解放を合図にするように頼んでいたのだ。
総ては赤い星座の長たるシグムント・オルランドをこの場にて討ち取る為に。自身のアキレス腱を危険に晒す事を百も承知で。
「ああ、無意識の内にこちらが狩る側等と思い込むなど……俺も焼きが回ったものだ……」
常人ならば一瞬で悶死するだろう苦痛に見舞われながらも、シグムントは言葉を紡ぎ続ける。これこそが敗れたものの最後の努めだと言わんばかりに。
「見事だ、勝者よ!!!俺の、負けだ!!!!お前たち、全員これより死力を尽くして逃げるが良い!!!容易くそうはさせてくれぬ相手だろうがなぁ!!!!ハーーーハッハッハッハッッハッハ!!!」
不意を突いた形のリィンへの恨み言など一切シグムントは吐かない。
何故ならば、彼にとっての戦場とはそういう物なのだから。卑怯卑劣など戦略に於いて遅れを取った負け犬の戯言に過ぎないのだから。
そんなシグムントに、英雄は近づいていく。
死を前にして尚揺らがぬその様に確かな敬意を抱きながら。
そうして介錯の慈悲を施すべく、その光刃を振るいシグムントの首を跳ね飛ばした。
わずかな間、英雄は散った敵手への哀悼を捧げる。
しかし、それもほんの一瞬の間。すぐさま英雄はその両眼に鋼鉄の意志を宿して
「これより残敵の殲滅を開始する!命惜しき者は速やかに投降せよ!
まだ抵抗するというのならば、一片の慈悲無く刈り取るのみ!」
絶対の信頼をおいていた指揮官の死亡を受けて動揺する敵兵の殲滅を高らかに告げるのであった……
ヘ(^o^)ヘ いいぜ
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(^o^)/ てめえらが自分だけが
/( ) 狩る側だと思いこんでいるなら
(^o^) 三 / / >
\ (\\ 三
(/o^) < \ 三
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/ く まずはてめぇらからぶち殺す
リィン・オズボーンとかいう皇太子を囮に使うやべぇ奴。
なお大体親友と副官が黄金の羅刹さんを皇太子の護衛に回さなかった事によるツケを払っている模様。
英雄「頼りにするって言っただろ?」