ドライケルスとリアンヌを逃がすために殿引き受けて、死んだかなこれは?と思っていたら割と平気な様子でひょっこりと帰ってくる系で槍の聖女と獅子心皇帝が綺麗で居るための汚れ担当。
主君が綺麗であるために代わりに汚れること、それが守護の剣の在るべき姿やぞとか思っているし教えにも残している系。
死因はドライケルスを暗殺者の魔の手から庇ったことによるものだが、この暗殺者はロランは敵の間者かもしれんから始末しておくべきだと言ったが、ドライケルスはそのお人好しさから信じた相手だったーーーみたいな想定。
世間では獅子心皇帝の親友であったことや槍の聖女の戦友だったことやらその最期から高潔な騎士みたいな風に扱われているが、これは死後美化された事によるもの。
辺り一面に広がるのは無数の死体。
その光景を銀髪の女性と灰色の髪の偉丈夫が並び立ちながら睥睨していた。
「ふむ、どうやら粗方片付いたようだな」
淡々とした様子でオーレリアが口を開く。
「ええ、オルランド家の忠臣たるガレスを取り逃がしたのは痛いですが、シグムントだけではなくガレスとこの場にはいなかったシャーリィ以外の大隊長の2人を討ち取る事に成功しました。紛れもない我々の大勝利です」
そしてそれにリィンは応じる。大勝利等と口にしながらも彼の言葉には欠片の慢心も存在していなかった。
「あくまでアームブラストらが皇太子殿下を見事守り抜いている事が前提の話だがな。
わかっているだろう、皇太子殿下の御身に万一の事があれば如何に貴殿であろうと失脚を免れぬ事位」
「ええ、無論その事は百も承知ですよーーーそれらを理解した上で“勝つ”為にはこれが最善だと思った、それだけの事ですよ」
「だからといって、妾の転移を利用して不意打ちをさせるとかお主容赦ないのう。
こう武人として躊躇いだとか逡巡とだか、そういう後ろめたさの一つや二つ覚えたりはせんかったのか?」
少なくとも不意打ちを実行したオーレリアの方は理解して引受けはしたものの、全くの躊躇いがないというわけではなかった。彼女もまたシグムントと同じく同格の好敵手の存在を歓迎する人種。
本来ならば正々堂々と真っ向勝負でやり合いたいという想い自体は彼女の心の中に確実に存在していた。
「大帝陛下と共に獅子戦役を駆け抜けた方の言葉とは思えませんね、ローゼリア殿。
我々が行っていたのは騎士の誇りを賭けた決闘ではなく命の奪い合いである戦である以上、敵の不意を突く、敵よりも多くの戦力を用意する等というのは基本中の基本でしょう。
軍人がこと戦いに於いて恥に思うべき時というのは無抵抗の捕虜や民間人を虐殺したり、人質に取るような真似をした時位です。事前に用意していた伏兵で以て、敵の不意を突くという当たり前の事をしてどうして後ろめたさ等感じる必要が?」
しかし、そんな姉弟子とは対照的な様子でリィンは返答する。
そこには後ろめたさだとか自身を正当化するような色は欠片たりとも存在しない。
真実、ただ当然の事をしただけだという態度である。
リィン・オズボーンは高潔で正々堂々とした武人にして騎士の鑑だと思われているが、これは誤解とまでは言えないまでも正鵠を射ているとも言い難い。リィンのそうした人物像は帝国政府がプロパガンダの一環として広め、リィン自身もそれに乗ったことによるものであり、どちらかと言えば彼の根っこは冷徹な勝利主義とでも言うべきものだ。必要と非ば、卑怯卑劣と言った罵倒を受ける覚悟とてある。
かつてアリオス・マクレインとやりあった際は一騎打ちで以て応じたが、それも武人の誇りとしてとかそんな綺麗な理由ではなく、クロスベルの統治を見越しての冷徹な計算に基づくものだ。
アリオス・マクレインはクロスベルの守護神として長年クロスベル市民からの信頼を一身に集めていた。それは独立騒ぎからの国防長官就任後も変わらず、クロスベル市民にとってアリオス・マクレインとはある種の偶像であったのだ。
その偶像を帝国の英雄たる自分が卑劣な手を用いて討てば、市民は思うことだろう。「アリオスさんが負けたのは卑怯な手を使われたからだ。正々堂々と戦えば絶対に負けたりなんかしなかった」ーーーと。一時の勝利と引き換えにアリオス・マクレインという存在はクロスベルの象徴で在り続ける事になる。そうした希望を一片の余地なく刈り取り、帝国に対して消えない畏怖を植え付けるためには、言い訳の余地など残らぬよう真っ向勝負で以て叩き潰す必要があったーーーそれがかつてリィン・オズボーンがアリオス・マクレインと一騎打ちめいた事を行った理由だ。
武人としての敬意やプライドと言ったものが全く無いと言えばそれは嘘になるだろうが、必要と非ばそれを捨てる事も厭わない、それがリィン・オズボーンという英雄のーーー否、彼が教えを受けた守護の剣の本質なのだ。
「あーうん、まあお主の言う通りではあるんじゃが……ドライケルスに似ておると言ったが前言撤回じゃ。お主のそういうところはドライケルスよりもロランの奴に似ておるわ」
ローゼリアはどこか遠い目を浮かべながら過去に思いを馳せる。「感情を理性によって律する事が出来ない騎士等犬にも劣る」ーーーそれがドライケルス・ライゼ・アルノールの盟友ロラン・ヴァンダールの口癖であった。
ドライケルスとリアンヌがどちらかと言えば
それ故に義侠心に溢れたノルドの勇士達とは異なり、時として冷酷と取られるような容赦のない忠言を主君であるドライケルスに行っていたが、その根底には確かなドライケルスへの忠誠心と友情が存在するーーーそんな人物であった*1。
ローゼリアの目から見て今のリィンはそのロランに瓜二つであった。
「フフフ、我が弟弟子がロラン・ヴァンダールの再来だというのならば、当然槍の聖女の再来はこの私オーレリア・ルグィンであり、大帝陛下の再来はオリヴァルト殿下という事になるであろうな。
さて、皇太子殿下はルキウス皇子となるか、それとも偽帝オルトロスとなるかーーーそれとも暗殺されたマンフレート皇太子となるか、実に興味深い事だな」
オーレリアの発言は公的な場で発すれば処罰されるであろう不敬極まるものであった。
そんな姉弟子をリィンは視線で以て嗜める。肩を竦めた姉弟子にリィンは静かに嘆息しながら告げる。
「いずれも該当しませんよ。セドリック皇太子殿下はこのまま健やかに成長されて、順当に皇帝へと即位することとなるのですからーーーいえ、そうさせて見せますよ。皇太子殿下の教育係を拝命している身としてね」
「囮にしておきながらぬけぬけと良く言うのう。お主、わりかし面の皮が厚いタイプじゃろ」
「それはまあ、この年で将軍閣下だなんて呼ばれ方をしている私が聖人のはずもありませんので」
ローゼリアの呆れたような言葉に対して今度はリィンが肩を竦めて返答する。
自分が築き上げた今の地位が数千数万の敵と味方の屍の上に立つものである事をリィンは忘れた事はない。
世間ではリィン・オズボーンは聖人のように無欲で高潔な人物だと思われているようだが、とんでもない誤解だとリィンは思う。
多くの人間を自分の為に殺し、その上で妻を始めとする自身の周囲の幸福と自分自身の幸福も手に入れたいと思っているーーーそんな極めて面の皮の厚いエゴイストが自分だとリィンは思っていた。
聖者とは凡そ真逆と言えるだろう。
「その上で
・・・
一発の弾丸がシャーリィ・オルランドの下へと飛来する。
そしてそれと共に姿を現したのはクロウのよく知る赤毛の女性。
「サラ!?」
「はーいクロウ、元気してた?
何やらとんでもないじゃじゃ馬娘に悩まされているみたいだからお姉さんが助太刀してあげるわよ」
現れたのはサラ・バレスタインだけではない。
ミリアムの前に見知った銀色の髪をしたシルエットがふわりと浮かぶ。
「やっほーミリアム。久しぶり」
「フィー!?ええ、どういう事?何でフィーが此処に?」
「なるほど……そういう事ですか」
「やれやれ、この周到さ。本格的に誰かさんそっくりになってきたねぇ」
驚愕するミリアムとは対照的にクレアとレクターは瞬時にこの援軍が誰の仕向けた事を理解する。
そして事態はそれだけに留まらない。
発動した高位アーツ、それが結社の人形兵器を薙ぎ払っていく。
列車の上から姿を現したのは金色の髪をした一人の男性。
そして訝しがる面々に対して怪しいものではないと証明するかのように名乗りを挙げる。
「遊撃士協会帝国支部所属トヴァル・ランドナー」
「サラ・バレスタイン」
「フィー・クラウゼル」
「「「これより帝国正規軍中将リィン・オズボーン殿からの要請に基づきトールズ士官学院の援護を行う」」」
颯爽とした様子で現れたのは三人の高位遊撃士。
黄金の羅刹というジョーカーを攻撃の為に用いたリィンが備えとして用意したとっておきであった。
「どどどどどど、どういう事ですか!帝国では遊撃士の活動は政府の意向で制限されていたはずでしょう!?
いえ、そうでなくてもプライドの高い軍の重鎮が遊撃士に自国の皇太子の護衛を頼むだ等とそんな事をするはずが」
遊撃士協会は結社身喰らう蛇にとってリベールの異変以来、ある種の宿敵と言っていい存在である。
何しろ、リベールで行った福音計画はまずはリベール王国のS級遊撃士カシウス・ブライトを如何に王国から遠ざけるかというところから始まったのだから。
しかし、今回帝国で幻焔計画の奪還を行うにあたって遊撃士協会の介入はまずないと見られていた。
何故ならば帝国では帝国支部の爆破事件以来、帝国政府によって協会の活動が大幅に制限されており、トドメとばかりに最大の障害と目されている獅子心将軍は帝国正規軍に於いて中将の地位を持つ重鎮だ。
そして基本的に軍関係者というのは遊撃士協会に隔意を抱いているケースが多くリィン・オズボーンは高い才幹に裏打ちされたプライドの高さを持つ典型的な軍人だ。
ノーザンブリアでは人気取りの為に協会と協調をする姿勢を見せたが、自国内で皇太子の護衛という自らの沽券に関わるような事で遊撃士に協力を要請する等、まずそのプライドが許さないだろうと見られていたのだ。
故に援軍に来るとすればこの地に存在する地方軍か正規軍、そのいずれかでありその到着にはまだしばらく時間がかかるーーーそういう計算であったというのに。
「自分のプライドと勝利ーーーその二者択一を迫られたら迷うこと無く後者を選択するのがリィン閣下です」
「ぐぬっ!?」
動揺を顕にするデュバリィの隙を突くかのようにアルティナは追撃を仕掛ける。
クラス・ソラスの重い一撃を喰らったデュバリィはそのまま後方へと弾き飛ばされる。
更にそれに対して間髪入れずにフィー、ミリアム、レクター、クレアが追撃を行う。
膠着状態の中訪れた援軍により、戦況は一気に傾き始めた。
「なるほど、つくづく抜け目のないお方だ。ノーザンブリアの時に作った
ため息混じりにミハイルは己が上官の周到さを評す。
これが例えば赤い星座と正規軍の激突に対しての援護の要請であれば遊撃士協会は頷かなかっただろう。
協会が掲げるのはあくまで民間人保護なのだから。
しかし、軍属ではあるものの正式な軍人ではない士官候補生をテロリストの襲撃から守ってほしいという依頼ならば別だ。民間人と言い切る事は出来ないため、協会の理念からするとグレーゾーンではあるだろうが、グレーゾーンならば実利をちらつかせる事によって転ばせる事が出来る。
そして帝国政府に圧力をかけられて帝国での活動が制限されている協会にとっては帝国の英雄にして軍の頂点に立つことを確実視されている獅子心将軍とのパイプは多少の無理を押し通しても維持する価値のある代物だ。
かくして契約は成立。リィン・オズボーンは見事高位遊撃士三人という強力な援軍を取り付けたというわけだ。
「何にせよ上官が用意してくれた援軍だというのならば、素直に当てにさせて貰うとしよう。
諸君もう一踏ん張りだ!後は凌ぐだけでランドナーが粗方敵を片付けてくれる!」
「「「「「イエス・サー!」」」」」
「いや~そこまで期待されてもお兄さんとしてはちょっと困るというか……もしもーし聞いてますか?」
爆発的に高まる士気、そしてそれに呼応するかのように寄せられる期待。
それを重く感じたトヴァルはツッコミを入れるが歓喜の雄叫びによってにそれはかき消され、生徒たちには届かない。
「アッハッハ、クロウにランディ兄だけじゃなくて紫電まで援軍に駆けつけるだなんて
そして戦況が不利へと傾いていく中でもシャーリィ・オルランドは動じない。
むしろ更に歯ごたえがました事に笑みさえ浮かべる。
しかし、そうして飛びかからんとした瞬間彼女の持つ通信機がけたたましく鳴り響きーーー
「シャーリィ様!シグムント様が獅子心将軍によって討たれました!
我々は現在敵の追撃をなんとか振り切りながら撤退しております。シャーリィ様も至急撤退を!!!」
シャーリィ・オルランドが最上の敬意を抱き続けた父が最愛の想い人によって討たれた事を告げるのだった……
Qラウラは?
Aユーシス直属のクロイツェン領邦軍の武術指南役になっているので原作ほど自由に動けず今回は不参加。
Qエリオットは?
A当作では達人級の壁が分厚く自分の身を護れる程度には強いが、本職の軍人とかには及ばない位なので人外超決戦!ゼムリアで一番強いヤツ!!が始まりだした本作で下手に首をツッコむとフィオナ姉さんとオーラフ父さんが号泣することになります。
当人もその辺は自覚しているので直接戦ったりはしません。マキアス、アリサ、ユーシスといった戦闘を専門にしていない職業の方々は皆同様です。
次回は恋する乙女の狂乱を目の当たりにした生徒たちのSAN値チェックを予定