獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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「止めて!竜気解放をしたシャーリィちゃんの攻撃を受けたらクロウくんが死んじゃう!
 お願い死なないでクロウ君!クロウくんが死んだらリィン君や私達との約束はどうなっちゃうの?覚醒はまだ残っている!此処を耐えれば、リィン君とオーレリアさんが駆けつけてくれるから!次回「クロウ死す」デュエルスタンバイ」(CV野中藍)


蒼き運命

「さあ行くよ!」

 

 嬌笑を浮かべながら、力を解き放った魔竜は突貫を開始する。

 吹き上がる莫大な闘気の出力に自らの身が耐えきれず自壊していくのにもまるで意に介さず。

 此処に事態はこの盤面を用意した英雄の想定を超えて動き出す。

 英雄の用意した手札は高位遊撃士三人という増援の用意まで。

 赤い星座の本隊の掃討を済ませた英雄が駆けつけるにもまだ幾ばくかの時間を要する以上、それまでの間英雄の想定を超える覚醒を果たした魔竜を今居る者達だけで相手取らねばならないのだ。

 

「舐めるんじゃないわよ!」

 

 突貫してくる魔竜をサラ・バレスタインは迎え撃たんとする。

 どれ程速かろうと、小細工など一切無しの力任せの突撃ーーーそんなものにやられる程に紫電の異名を持つ歴戦の女傑は甘くはない。

 何故ならば、力に於いて劣る人という種が怪物を打倒するために磨き上げたものこそが技なのだから。出力がどれ程跳ね上がろうと、それに技量がついてきていないのならばそんなものは恐れるに足らないのだ。

 無論、一対一ならばその力に圧倒されるだろうが、サラには頼もしい味方が二人付いている。なんとか初撃をしのぎさえすれば、その隙を他の二人が突くであろう事は自明の理であった。

 

「な……?」

 

「ヌルいよ、紫電。昔はシャーリィよりも強かったのに随分と弱く(・・)なっちゃったね」

 

 告げられたのはそんなサラ・バレスタインという女の軌跡を嘲笑う魔竜の呪詛。

 不殺を是とする遊撃士などというぬるま湯に浸かっていた貴方は猟兵として常に鉄火場に身を置いていた自分に比べてこの10年まるで成長していなかったと見下す言葉。

 

 構えは見えていた。軌跡も予測していた。

 殺気がむき出しのそれは、余りにもわかりやすいものだった。

 戦闘予測も万全。どれ程その一撃が疾く、激烈であろうと捌いて見せる自信がサラには確かにあった。

 

 だというのに気がつけばサラは斬り捨てられていた。

 疾さでも強さでもなく、獣性を全開にしながらも尚失われていなかった巧妙さによって。

 ガードしたはずのそれはまるですり抜けるようにサラの防御を突破して一撃で以てサラ・バレスタインを戦闘不能に追い込んだ。

 自らの血によって出来た池へとサラは沈み込む。即死こそ避けられたものの、手当をせずにそのまま放置していればそう遠くない内に女神の元へと召される事になるのが疑いない重傷であった。

 

「シャーリィ!てめぇ!!!」

 

 叫びと共にランドルフ・オルランドは目前の従妹へと突貫する。

 今まで存在していた叔父という最後のストッパーが外れてしまい、怪物へと成り果てんとしているこの従妹を止めるのは自分の役目だとそう思って。

 

「だ・か・ら、ヌルい(・・・)んだってばランディ兄!相手を殺そうとしていない攻撃が今の私に届くはずないでしょ!」

 

「がッ……!?」

 

 しかし、そんなランドルフ・オルランドの人としてのーーー家族としての想いはもはやこの魔竜には届かない。

 いつぞや会った頃に比べれば幾分マシにはなったが、それでも話にならないと言わんばかりにランディの攻撃を躱しざまに激烈な蹴りをその腹部へと叩き込むと、骨が数本砕ける音と共にランディはそのままはるか後方へと吹き飛ばされる。

 

「は~やだねやだね。昔憧れた人達が見る影もなく腑抜けちゃった(・・・・・・・)様を見るのはさ」

 

 腑抜けたと、そうシャーリィ・オルランドはランディとサラ、かつて猟兵の先輩として憧れた両名の今の有り様を評す。だってそうだろう、自分は彼らよりも年齢が下なのだ。なのにそんな自分にこうもあっさりとやられるなど彼らが腑抜けてしまった証ではないかーーーいや、それだけならばまだ許せた。自分の成長速度は余りに早すぎたが故に彼らを追い越してしまっただけなのだとある種の優越感に浸れる事も出来たかもしれない。

 シャーリィにとって許し難いのは両名の敵である自分への攻撃にまるで殺気を感じ取れなかった事だ。全く以てふざけたことだ、相手を殺さず生かして捕らえる等という贅沢が許されるのは彼我の力量差が大きく離れている時初めて出来る圧倒的強者の特権だ。易易とやらせるかはともかくとして、遊撃士達が最初に増援に現れた時に自分に火力を集中させて仕留めにかかれば、チャンスはあったかもしれなかったというのに。

 全く以て嫌になってしまう。ああ、自分が恋をした愛しの英雄ならば決してそんな腑抜けた事はしなかっただろうに。それこそ全力の奥義を放って自分を屠らんとする位の事をしてくれただろうに。やはり遊撃士(・・・)だのという存在はどうにも自分と反りが合わない。こちらは常に本気(殺す気)でやっているのだから相手にもそれ相応の想いを返して欲しいというのに。

 

「うん、その点クロウは中々良いよ。今だって、ちゃんとシャーリィの事を殺す気で来てくれたもんね。うんうん、戦いってのはこうじゃなくちゃ。流石はリィンの相棒、良くわかっているよ」

 

 自身の首を跳ね飛ばさんと繰り出されたダブルブレードによる斬撃、それを闘気を集中させた左腕(・・)でガキンという甲高い金属音と共に受け止めるとシャーリィは喜悦と共に告げる。

 

「てめぇ……何がどうなってやがる。いくらてめぇの闘気が跳ね上がってそれを集中させたって言っても今の一撃を生身で受け止めれば左腕の一本は吹き飛んで当然だったはずだ。なのに、何でてめぇの腕はそうしてくっついていやがる」

 

「アハハハハ、サイボーグって言うんだってさ。凄いよね、結社の技術っていうのは。

 代わりに寿命が減って、子どもは産めなくなっちゃったみたいなんだけど……でもまあ些細な事だよね!」

 

 そもそも本来であればシャーリィ・オルランドは内戦の際、愛しの英雄に敗れたあそこで死ぬはずだったのだ。

 それを命を拾ったのは偶然の産物による幸運に過ぎない。ならば、寿命が削れる程度一体何を躊躇う必要があるだろうか。

 決して忘れたことはない、愛しの英雄に自分が討つまでもないという歯牙にもかけられぬあの絶望を思えば、寿命が削れる程度、実質代償など無いも同然だ。ーーー少なくともシャーリィの主観に於いては。

 だからそう結社からの誘いに乗って執行者になった後、提案されたそれにシャーリィは一もニもなく喜んで飛びつきより強靭な肉体を手に入れた。*1

 そうして武神と呼ぶにふさわしい第七柱のお婆ちゃん*2とも何度も手合わせを頼み、技を磨いた。

 そして最後に愛しの英雄が自分を決して無視する事が出来なくなる花嫁衣装(・・・・)を手に入れて、その副産物として今使っている化粧品(・・・)も入手した事でシャーリィ・オルランドのお色直しは完了したわけなのだが……

 

「後はリィンの親友である貴方を仕留めればリィンは絶対絶対私の事を見てくれるよね!だって私は親友の仇になるんだもの!!!」

 

 愛に狂った魔竜はそこから先を更に求めだす。どこまでも貪欲に。あの日自分が釘付けにされた瞳を今度は自分が釘付けにするために。

 

「冗談じゃねぇ!何が哀しくて他人の痴話喧嘩に巻き込まれて俺が死ななきゃならねぇんだ!」

 

 無論、クロウ・アームブラストにしてみればそんな事は到底許容できるはずもない。

 先程とは比べ物にならぬ疾さと威力で以て叩きつけられる猛攻を必死に躱し、捌き、しのぎ続ける。

 自分の親友がそうであるように、今の状態はそう永くは保たないはずだというか細い勝機を必死に手繰り寄せるべく。

 それは決して的外れな判断ではなく、むしろそれしか無いという手段であっただろう。

 

 惜しむらくは……

 

「!?」

 

「それじゃあバイバイ!本命(リィン)の前の前菜としては中々楽しめたよ!!!」

 

 シャーリィ・オルランドの身体が崩壊する速度よりも、その攻撃がクロウ・アームブラストの防御を突破する方が早かったという点である。

 迫りくる一撃、それはクロウの身体を両断して致命傷を負わせるにも余りにも十分過ぎる威力を持つ一撃である。

 迫りくる死の一瞬を前に、クロウの目に倒れ伏し血の海に沈みながらもなんとか起き上がろうとするサラ・バレスタインの姿が映る。ーーー傷は深く手当をしなければこのままそう遠くない内に死ぬ事は明白であった。当然、このままクロウが死ねば、手当をする事は出来ずそのまま死ぬことになるだろう。

 クロウの脳裏にかつてノーザンブリアで語り合った光景が蘇る。

 

 クロウ・アームブラストは内面にずっと罪の意識を抱えていた。

 復讐のために多くの者を犠牲にしてきたこと、他ならぬ親友を欺き、復讐を果たすための必要な犠牲と切り捨てようとしていたことは決して表に出さずともずっとその身を苛んでいた。

 自分を罪人だと断じているが故に、表向きはどうあれどこか心の奥底で自分の生に対する執着が薄いーーーより直截的に言えば死に場所を探しているようなところがあったのだ。

 親友と肩を並べている時は良かった。親友の力になるだという想いと親友との誓いが彼の中に存在する罪悪感を超えて彼を突き動かしていたから。ーーーそれがリィンと肩を並べて戦っている時とそうでない時の差を、ムラっ気を生んでいた。

 

 だが、今此処でクロウ・アームブラストは自分が死ねば死ぬ事となる存在を認識した。

 心の底から死なせたくないと思える大切な存在を、他者を意識した。

 それはかつて自身の中にある激情の為だけに戦っていた修羅が初めて抱いた護りたい(・・・・)という思い。

 それがクロウ・アームブラストの前に立ちはだかっていた最後の壁を乗り越える力となる。

 

「デスティニー・ブルー」

 

 それは復讐に囚われた事で立ち止まり、終わってしまうはずだった男が運命を乗り越えた証。

 大切な存在を守るために、運命を乗り越えた蒼の騎士は己が限界を突破して、愛機(オルディーネ)を通して引きずり出した蒼き闘気を爆発させた。

 

「クリミナルエッジ!」

 

 絶死を齎すはずの一撃、それをクロウは間一髪躱すーーーのみならずすれ違い様に激烈な一撃を叩き込む。

 敵手の覚醒とでもいうべき突然の変貌、それを前に流石の魔竜も防御が間に合わずその身体が吹き飛ぶ。

 それは、並の敵手であれば確実に仕留めたであろう強力無比なカウンターであったが

 

「アハハハハハハハハハハッ!!!!アーーーハッハッッハハハハハハハハハハ!!!!!!!」

 

 言うまでもなくシャーリィ・オルランドは並の敵等ではない。

 額から血を流しながらも愉快で愉快でたまらないと哄笑を挙げながら、瓦礫を吹き飛ばして立ち上がる。

 

「良いよ……良いよ!良いよ!!!最高とは言えないけど、想像していたよりもはるかに良い!

 それでこそリィンの相棒だよ!!クロウ・アームブラスト!!!」

 

 ああ、凄い本当に素晴らしい。前菜等ととんでもない、これはメインディッシュが二つ存在するフルコースだ。

 

「だけど、ごめんね。シャーリィは一途だからさ。どれだけクロウが魅力的でもやっぱりリィンには届かないんだよね。だから、残念だけど此処で貴方とはお別……グウッ」

 

 瞬間シャーリィ・オルランドは突如として苦悶に顔を歪めながら己が胸を抑え出す。

 

「ギ……ガ……グ……アハハハ、流石にちょっと無理しすぎちゃったかな。今日はこの辺が限界か」

 

 その言葉と共にシャーリィ・オルランドの髪と瞳の色が元へと戻っていき、身に纏っていた漆黒の闘気が消えていく。

 

「ま、紫電とランディ兄は死んじゃ居ないまでもしばらくは動けないだろうし、それを考えれば最低限の面目は立ったかな。本当ならクロウを殺してリィンと両思いになりたいところだったけど、まあ此処は素直にクロウを褒めておく事にするよ。リィン程じゃないにしても想像以上に楽しめたよ、クロウ。流石はリィンの相棒だよ♥」

 

「……そりゃどうも」

 

 心からの敬意の籠もった称賛の言葉にクロウはぶっきらぼうに応じる。

 クロウにしてみれば後少しで殺されるところだったのだ。素直に喜べるはずもなく当然の態度と言えただろう。

 

「ああ、教え子君達もこれが初陣だって考えれば中々見どころあるね。うちの本隊が相手だったら5分保ったかってところだろうけどーーーま、肝心の本隊の方をリィンに壊滅させられた以上これは負け惜しみにしかならないか。

 ああ、特にそこの皇子様はランディ兄をクロウの方に送ったのは良い判断だったよ。ま、肝心のランディ兄がそんな様だから大して意味がなかったかもしれないけどね」

 

 打って変わった冷ややかさで自身がかつて憧れた従兄をシャーリィは見つめる。

 そしてそれを最後に完全にかつての憧れを過去の思い出へと変える。

 アレ(・・)はもう駄目だ。完全に腑抜けてしまい闘神の座を継ぐ事は出来はしないだろうと断じて。

 

「パパも死んじゃったみたいだし、これは私が継ぐしか無いかな」

 

 ポツリと誰に聞かせるわけでもない小さな声でシャーリィは呟く。

 それは親離れを果たし、さらなる高みへと至らんとする宣誓であった。

 

「うん、満足。満足。愛しの英雄(リィン)の教えを無駄にしていない歓迎のしがいのある子達で良かったよ。

 今後も愛しの英雄(リィン)の名を汚さないように頑張ってねーーーもしも彼の手を煩わせたりしたら、その時は殺しちゃうから♥」

 

 告げられた言葉と叩きつけられた殺気を前にとてつもない悪寒が生徒たちに走る。悲鳴を漏らす生徒が居なかったのは偏に英雄の薫陶の賜物であっただろう。

 そんな様子にシャーリィ・オルランドは満足気に満面の笑みを浮かべて

 

「それじゃあ、今日は此処まで。バイバイ、愛しの英雄(リィン)によろしくね!」

 

 そうしてシャーリィ・オルランドの身を転移陣が包んでゆき、その姿が消える。

 

「あ、あの娘……こっちの意見など全部無視して思うがままに暴れたと思ったら、今度はこちら側に一言もなく消えやがりましたわ……」

 

「致し方あるまい。執行者は皆盟主様よりあらゆる行動の自由が保証されている。

 我らは愚か、偉大なる我らがマスターでさえもその行動を掣肘する権利はないのだ」

 

「私達もそろそろ退くとしましょうか」

 

 その言葉を最後に鉄機隊の面々もまた一足先に離脱したシャーリィへと続く。

 後に残された者達はすぐさま負傷した者の手当へと当たり、一番重傷であったサラ・バレスタインもギリギリのところで一命をとりとめたのであった。

 

*1
 改造手術を実行したノバルティス博士は『素晴らしい!君のような子を私は求めていたんだ!!』と大層喜び、シャーリィは良いことをしたものだと自負していた。

*2
こう呼ぶとデュバリィ達が顔を真赤にして怒ってくるのだが、250年前から生きている存在などどう考えてもお婆ちゃんじゃないかとシャーリィは思っている




ストーカーの相手を親友に任せた英雄「正直いくらなんでも此処までやばくなっているとは思わなかった。とんでもないやつの相手をさせてしまったと大変申し訳なく思っている」

英雄が覚醒して、英雄のライバルが覚醒して、英雄のストーカーが覚醒するんだから、英雄の相棒も覚醒の一つや二つしてもらわないとね!!!

ラニキのフォローをしておくとラニキがあっさりやられちゃったのはなんだかんだでシグムントさんが死んだという報告とそれを聞いても笑い飛ばしてしまう従妹の変貌ぶりに動揺していて冷静じゃなかったというのが一つ。
もう一つは特務支援課の仲間と離れた状態だからです。ロイド、エリィ、ティオと行った支援課の仲間と一緒の場合だと仲間の為にも俺がやられるわけにはいかねぇ!とブーストかかって此処まであっさりとはやられませんでした。

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