獅子心将軍リィン・オズボーン   作:ライアン

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地精の民「我らの遺跡たる幻想機動要塞を手中に収めたギリアス・オズボーンは人間界は愚か空の女神の居座る天界にまで攻め入り総てを手に入れんとした。だが空の女神の意志によりひっそりと消された。そのオズボーンを討った息子のリィン・オズボーンなる将は天の啓示を受けたというが……その啓示の主こそまさに空の女神本人であった事は疑いようがない」


信用と信頼

 襲撃から明けた朝、デアフリンガー号にて教官陣が今後の方針を話すべく集っていた。

 

「改めて昨夜は良くやってくれた。諸君らの活躍もあって無事こちらはシグムント・オルランドを筆頭に赤い星座の中核を担う将帥の多くを討ち取る事に成功。実質的に大陸最強と謳われた猟兵団赤い星座は壊滅し、その脅威は半減したと言って良いだろう」

 

 微笑を浮かべながら司令官たるリィンは部下たちへの労いの言葉をかける。

 正直に言えば、シャーリィ・オルランドの進化は完全に想定を超えていた。

 剣聖級に到達している事までは想定していた、しかしよもやクロウ、ランディ、サラの三人がかりで二人を瞬殺する程の切り札まで持っていたなど流石に想像の埒外であった。それを相手取った親友が一皮むけた事はまさしく怪我の功名という他ない。本当に危ういところだったと正直に言えば報告を聞いた時は肝が冷える思いを味わったものだ。

 

 だが、その上で初戦を勝利したのは間違いなくリィン達の側だ。

 敵はシグムント・オルランドを筆頭に赤い星座の中核を担う大隊長の多くを失い壊滅したのに対して、こちらは光翼獅子機兵団の兵士から犠牲者が出たものの、それでも中核を担う佐官以上の高級士官から死者は出なかったのだから。既に十分過ぎる戦果を挙げたと言っていいだろう。

 

「だが、この地の危機は未だ完全に去ったわけではない。

 襲撃をかけてきた結社身喰らう蛇その拠点がこの地にあることは明白だ。それを取り除かねばいくら赤い星座の本隊を壊滅させたと言っても画竜点睛を欠くというものだろうーーー特にオルランド教官とA級遊撃士でもある紫電のバレスタインを瞬殺した執行者のシャーリィ・オルランドは恐るべき脅威と言わざるを得ないだろう。シグムント・オルランドの娘にしてオルランド家の正当な後継者とも言える奴を此処で逃せば、せっかく壊滅に追いやった赤い星座は再び集結してその勢力を取り戻す事は疑いようがない」

 

 しかし、その戦果で以て終わりとするわけにはいかなかった。

 既に勝利は手にした、ならば次はその勝利をより完全なものにしなければならない。

 特に伝え聞くところによるシャーリィ・オルランドの自身への尋常ならざる執着を聞くにそのまま放置するなどという選択肢はリィンの中には存在し得なかった。

 

「しかし、問題は奴らがどこに拠点を構えているかですが……」

 

「問題ない。それについては凡その見当はついている。 

 領邦軍と正規軍、そのどちらもが手を出しにくい場所がこの地にはあるだろう?」

 

 ミハイルの疑問に対するリィンの返答を聞いた瞬間一同の顔に緊張が走る。

 特にレクターは常になく一際険しい表情を浮かべていた。

 

「我が軍及び我が国にとっては最大の禁忌たる《ハーメル村跡地》、十中八九奴らはそこを根城にしていると見ていいだろう。でなければとっくの昔に領邦軍と正規軍の哨戒の網に引っかかっているはずさ」

 

「なるほど……ですが、そうなりますと部隊を率いて掃討作戦を行うというわけは行きませんな」

 

「ああ、加えて言うのならば部外者(・・・)である遊撃士の力を借りる事も出来んな。

 あの地は我が国に於いても最高機密に指定されている場所だ。

 信頼出来る相応の地位に居るものでなければまず許可は降りんだろうし、私自身彼らに同行を求めるつもりはない」

 

 民間レベルではともかく政府及び軍関係者の遊撃士に対する信頼というのはクロスベルの独立騒動以降地に堕ちたと言って良い。

 理由は他でもない、クロスベル独立国国防長官に就任した元A級遊撃士アリオス・マクレインに起因する。

 彼は政治に対して中立を謳う遊撃士の身でありながら、その立場を利用してクロスベル独立国成立のために散々に暗躍していた。

 政府と軍に取ってみればまさかアリオス・マクレイン個人の暴走によるものだから仕方がないと思えるはずもない。

 協会の管理能力というものに対して重大な疑義を抱かざるを得ず、帝国に於いては特にそれが顕著だ。

 リィンにしても協力関係を築いたとは言え軍の高官としてその辺りの線引を誤るつもりは毛頭ない。

 ある程度は信用はするが信頼は決してしないーーーそれがリィン・オズボーンの遊撃士へのスタンスである。

 言葉を飾らず直截に表現すればこうなるだろう、便利屋として使わせて貰うと。

 

「アーヴィング中佐。貴官はこのまま生徒と部隊を率いて演習を継続するように。

 可能性としては低いが、万一を考慮してトヴァル・ランドナーとフィー・クラウゼルの両名にはアルノール候補生への護衛を頼んでおく

 それとゼクス大将閣下とハイアームズ候に私が伺うことを連絡しておいてくれ」

 

「は、承知いたしました!」

 

 故に国家機密が関わる今回の案件に遊撃士達を同行させることをリィンは決してしない。

 念の為(・・・)護衛役(・・・)。それが今回遊撃士に求める役回りだ。

 士官学院時代の後輩であろうと恩師であろうと個人としての友誼と公人としてのスタンスは別けて考えるものである以上、そこが揺らぐ事は決してない。

 

「アームブラスト中佐、アランドール中佐、リーヴェルト中佐、オライオン少尉、貴官らは私と共に来て貰う」

 

 故にリィン・オズボーンが信頼(・・)するのは絆で結ばれ、その上でなおかつ帝国正規軍での階級を正式に得ている親友と血の繋がらぬ兄妹達だ。

 

「それとオーレリア客員将軍、是非とも貴方の力もお借りしたいのですが……」

 

「フフフ、皆まで言うな。私としても雛鳥達のお守りよりも貴殿と共に魔竜退治に赴く方がはるかにそそられる(・・・・・)というもの。喜んで協力させて貰おう」

 

「助かります」

 

 不敵な笑みを浮かながら快諾してくれた姉弟子の姿にリィンは微笑を浮かべながら感謝の言葉を述べる。

 そして改めて指揮官としての号令を下す。

 

「ではこれより30分後に出立する。各自、準備を整えて再びこの部屋に集合するように」

 

「「「「イエス・サー」」」」

 

・・・

 

「リィン教官!」

 

「ああ、君達か。昨夜の事は聞いている。良くぞ誰一人として欠ける事なく奴らの襲撃をしのいだな。それでこそ誇り高きトールズ士官学院の生徒であり、私の教え子だ」

 

 列車を降りてこちらへと駆け寄ってくるセドリックを始めとした第一班の面々、それを視界に収めるとリィンは微笑を浮かべながら昨夜の奮闘を讃える。

 

「襲撃の危険は限りなく低いとは思うが、アームブラスト中佐に代わって高位遊撃士二名を護衛として用意した。くれぐれも気をつけて本日もカリキュラムの遂行に当たるように」

 

 それだけ告げるとリィンはそのまま立ち去ろうとする。

 此処で教え子である彼らを戦力として用いるーーー等という考えはリィンには全く無い。

 彼らはオーダーシステムの効果もあって学生レベルを超えた力量を有するが、これからやり合う相手は学生として見れば(・・・・・・・・)規格外などという次元で相手取れる程生易しい相手ではない。

 将来有望な若手に経験を積ませると考えるにしても余りにもリスクが大きすぎる。

 この地に潜んでいた敵を炙り出すための囮役(・・)としての役目は既に十分以上に果たしてくれたのだから、これ以上危険に晒す道理などあるはずもなかった。

 

「教官は一体どちらへ?」

 

「愚問だなアルノール候補生。人に害を為す怪物が現れたというのならそれの駆除(・・)は軍人にとって大きな役目の一つだ。

 皇帝陛下の騎士として、帝国軍人として、祖国に仇なす存在を許す道理など有りはしない」

 

 教え子たる皇太子の問いかけに対して鋼鉄の戦意を以てリィンは応じる。

 皇族とはこの国の象徴、それを害そうとしたという事はすなわちこの国に喧嘩を売ったも同然。

 祖国に絶対の忠誠を誓う英雄が魔竜を処断するべく動くのは自明の理と言えよう。

 

「了解しました。それでは私も」

 

 リィンの補佐へと就く自称姉の姿を確認したアルティナは当然のように自身もリィンへと付いていこうとする。

 彼女にとってはリィン・オズボーンを補佐することそれが総てであるが故に。

 そして同じOZシリーズであるミリアム・オライオンに可能という事はアルティナ・オライオンにも可能という事である。

 故にアルティナがリィンの補佐に就こうとするのは彼女にとっては当然の行動であったが

 

「何を言っている、オライオン候補生。私が何時貴官に同行を求めた」

 

 しかし、彼女が絶対の信仰を抱く父が放った言葉は彼女の望んでいた回答とは真逆のため息混じりの嗜めの言葉。

 

「え……?」

 

「確かに貴官は此処に入学する前に私の副官の任に就いていた。しかし、今は他の生徒と同様に一介の士官候補生でしか無い。そしてこれより我らが赴くは魔竜の巣とも言うべき死地だ。そんなところに生徒を連れていけるわけがないだろう」

 

 そもそも今、この地が危険だと承知の上でこの地を演習先に選んだのが誰か自覚しながらもふてぶてしくリィンは告げる。一体どの口で言えるのかと常人ならば思うような厚顔さは上に立つ者の必要技能だ。今更この程度で後ろめたく思うような繊細さをこの英雄は持ち合わせていなかった。

 だが現実問題として襲撃を凌ぐ事と、準備万端で待ち構えている敵の拠点へとこちらが襲撃をかけるのとでは危険度が全く違う。政治的事情と地理的な事情から部隊を動かす事が叶わなかったが、そうでなくても基よりリィンは拠点の攻略は少数精鋭にて遂行する予定だった。それが最も犠牲を出さずに済むやり方だからだ。

 

「……ですが私の使命は教官をサポートするため」

 

「それに貴官は本演習の参謀長だろう?貴官が欠けたら一体誰がその任を遂行すると言う。

 私は貴官ならばこそこの任に耐えうると判断して、信頼(・・)して任せたのだぞ。その信頼に背く(・・・・・)というのか?」

 

 リィンの告げた信頼という言葉。それを聞いた瞬間に曇りだしていたアルティナの表情が一気に輝き出す。

 

「申し訳ございません。少々思い違いをしていたようです。必ずや教官の信頼に応えてみせます。どうか、ご武運を」

 

「うむ、理解して貰えたようで何よりだ」

 

 その表情と返答に対して満足気にリィンは頷く。

 そして優し気な笑みを浮かべながら、アルティナだけではなく第一班の面々全員へと語りかける。

 

「改めてになるが、昨夜は良くやった

 実質的な初陣にもかかわらず誰一人として恐慌状態に陥る事なく、また欠けることもなく乗り越える事が出来たのは紛れもなく諸君の力に依るところが大きい。

 だが、それでも一夜明けて冷静になった事でまた襲撃を掛けてくるのかと恐怖する者もいるかも知れない。

 本来であれば私自らが声を掛けられれば良いのだが、生憎とそこまで手がまわらない。 

 だからこそ君たち第一班にはその補佐を頼みたい(・・・・・・・・・)

 君たちならば必ずや私の信頼(・・)に応えてくれると信じている。頼んだぞ」

 

「「「「「「イエス・サー」」」」」」」

 

 やる気に満ち溢れた様子でセドリック、クルト、アルティナの三名が、素直な様子でミュゼとユウナが、そして儀礼的な様子でアッシュがリィンの言葉へと応じる。その言葉を聞き届けてリィン達は演習地を出立するのであった。

 

 




新七組は置いていく。修行はしたがはっきり言ってこれからの戦いに付いてはいけない。
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